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(ケース6)

ドキュメント内 日本ベンチャー学会制度委員会報告書 (ページ 89-103)

ペプチドリーム(株)

バイオベンチャー天国と地獄 ~バイオベンチャーへの期待と誤解~

ケース作成協力

ケースは、2012年度第8回制度委員会(2013年3月8日、秦信行委員長)において、

学会理事山本守の紹介で講演をしていただいたペプチドリーム(株)代表取締役社長窪田規 一氏のプレゼン資料及び委員会での質疑応答に基づき作成したものである。なお、当該委 員会での情報収集だけでは不足していた内容及び専門用語については、山本・窪田の2者間 で情報交換しながら作成した。ご協力いただいた窪田氏及び会社の方々に感謝いたします。

なお、ケースは、ペプチドリーム(株)および窪田氏の事業の軌道を整理したものであり、そ の良否を論じたものではない。

1.ペプチドリーム(株)の概要

ペプチドリーム(株)は、自社独自の創薬開発プラットフォームシステムである PDPS

(Peptide Discovery Platform System)を活用して、国内外の製薬企業との共同研究開発 のもと、新しい医薬品候補物質の研究開発を行っている。

特殊ペプチド医薬に特化した事業を展開している。「特殊ペプチド」とは、生体内タンパ ク質を構成する20種類のL体のアミノ酸だけではなく、特殊アミノ酸と呼ばれるD体のア ミノ酸やNメチルアミノ酸等を含んだ特殊なペプチド。この特殊ペプチドから医薬品候補 物質を創製することを主たる事業としている。

図表1 ペプチドリーム(株)の概要

設立年月日 2006 年7月(2013年6月11日:東京証券取引所マザーズ市場 へ上場予定)

社長及び従業員 窪田規一、1953年生(60歳)、従業員数25名 所在地 東京都目黒区駒場4-6-1

東京大学駒場リサーチキャンパスKOL4階

事業内容 独自の創薬開発プラットフォームシステム「PDPS」を用いた「特 殊ペプチド」による創薬研究開発

経営業績(2013年3月末) 資本金:407,750 千円、売上:484 百万円、経常利益:169 百 万円(第3四半期累計期間:9か月)

顧客 米国ファイザー社、スイスノバルティス社、英国グラクソ・ス ミスクライン社、英国アストラゼネカ社、米国ブリストル・マ イヤーズスクイブ社、米国アムジェン社、第一三共(株)、田辺三 菱製薬(株)

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2.ペプチドリーム(株)における創薬プラットフォーム事業の概要

(1)ビジネスモデル(創薬プラットフォームシステム+創薬)

ペプチドリーム社は、ニューヨーク州立大学、東京大学の特許を元に創薬プラットフォ ームシステムを開発した。現在、国内外 8 社の製薬企業との間で創薬を前提とした共同研 究開発を進めている。

図表 2 ペプチドリーム社の事業構成図 (ペプチドリーム社作成)

ペプチドリーム社の共同研究開発先は、Pfizer Inc.(米国ファイザー社)、Novartis

Pharma AG(スイスノバルティス社)、GlaxoSmithKline Plc.(英国グラクソ・スミスクラ

イン社)、AstraZeneca Plc.(英国アストラゼネカ社)、Bristol-Myers Squibb Company(米 国ブリストル・マイヤーズスクイブ社)、Amgen Inc.(米国アムジェン社)、第一三共(株)、

田辺三菱製薬(株)である。当該企業との研究開発は、「受託」という形態によらず、共同研 究開発の形態で協調して事業を行っている。その他、将来の自社パイプラインを推進する ための取り組みとして、IPSEN,S.A.S(仏国イプセン社)との間で共同研究契約を締結し、

自社パイプラインに係る共同研究を推進している。

ペプチドリーム社の基本的な事業は、クライアントから標的タンパク(ターゲットタン パク)を受領し、その標的タンパクごとにプロジェクトを設定し、順調に研究開発が進め ば一連の複数カテゴリーの売上が立つように設計されている。

次の図(<ペプチドリーム社における一般的な共同開研究開発契約の内容と流れ>)は、

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ペプチドリーム社がクライアント企業と共同研究開発契約を締結する場合の一般的なペプ チドリーム社の売上カテゴリーの流れを示したものである。

図表 3 ペプチドリーム社における一般的な共同開研究開発契約の内容と流れ

(ペプチドリーム社作成)

ペプチドリーム社では、創薬開発プラットフォームシステム:PDPSを使うことに対する 対価(テクノロジカルアクセスフィー)としてまず「契約一時金(A)」を受領する。さら にその後の研究開発にかかる対価として標的分子ごとに「研究開発支援金(B)」を原則と して前受にて受領している。また、追加業務が発生する場合の対価として「追加研究開発 支援金(C)」を標的分子ごとに設定しており、プロジェクトによっては(C)の売上が計上 される。ペプチドリーム社は、これらの金額を初期のディスカバリーステップ時に受領し ているため、事業展開の早期から売上を計上することができるビジネスモデルとなってい る。

その後、クライアントでの評価により医薬品候補物質が特定され、クライアントが前臨 床試験、臨床試験の段階に進む場合には、当該特殊ペプチドをペプチドリーム社がクライ アントにライセンスアウトすることの対価として「創薬開発権利金(D)」が発生する。そ の後の医薬品候補物質に係る開発の進捗はクライアントに委ねられるが、引き続き開発が 進みクライアントでの評価ステップを経て、臨床試験等の段階に移行すれば、その段階に 応じて、各「目標達成報奨金(E)」「売上ロイヤリティ(E)」をペプチドリーム社は受領す

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る。「売上ロイヤリティ」では、最終的に上市された医薬品としての売上金額に対して、一 定の料率を乗じて得られる額を「売上ロイヤリティ」としてペプチドリーム社が受領する。

加えて、上市された医薬品の売上高が所定の金額に達した場合には「売上達成報奨金」も 受領する。

これまでのバイオベンチャーにおけるビジネスモデルでは、初期のディスカバリーステ ップは「フィージビリティースタディ」と評価され、売上が発生しないケースが多かった が、ペプチドリーム社のビジネスモデルでは、早期に売上を生み出すことができる。

(2)技術特徴(抗体医薬の次世代の医薬、特殊ペプチド医薬)

現在、抗体医薬の分野でブロックバスターと呼ばれる売上が 1,000 億円にも上るような 薬品が製品化されている。しかし、抗体医薬では、その大きな分子量が故、対応できると 考えられる標的分子は、現在では 34 個~40 個に限定されている。その標的分子に対し、

174個の抗体が開発中(2012年7月調査)であり、抗体医薬の次世代医薬が求められてい る。

そこで抗体より分子量の小さなペプチドに期待がかかっている。ただし、日本の製薬メ ーカーでも開発がおこなわれていたが、ペプチドは体の中ですぐ壊れてしまうという限界 があり、その限界を超えることができなかった。

それに対して、ペプチドリーム社では、東京大学大学院理学系研究科・菅裕明教授が開 発した人工リボザイム(フレキシザイム)によりアミノ酸(非天然型アミノ酸を含む)と tRNAを自由に組合せ結合させることができるようになり、①体の中でも壊れにくい構造の

「特殊ペプチド」を作成することに成功した。「特殊ペプチド」は下記のように従来の低分 子医薬の分子量と抗体医薬の分子量のちょうど中間の分子量である。その結果、特殊ペプ チド医薬では抗体医薬では実現できない、細胞膜の透過性や低分子医薬では実現できない 標的分子に対する強い結合力やある標的分子にのみ結合する特異性などの特徴を獲得して いる。また、菅教授の開発したフレキシザイムにより、「特殊ペプチド」には、天然型アミ ノ酸と呼ばれる20種類にとどまらない種類のアミノ酸を組込むことができるため、10^12

~ 10^14の組み合わせの「特殊ペプチド」を作成することができ、②低分子医薬品のおよ そ1億倍、抗体医薬と比較しても1万倍の種類の(候補薬の)ライブラリーを作ることがで きる。また、③その多くの候補薬の中から標的分子に特異的に働くペプチドを高速に検索 する技術も持ち合わせている。

これらの特徴をもつ特殊ペプチドに次世代医薬の可能性を感じたことにより、国内外の 大手製薬メーカーがペプチドリームとの共同研究契約を締結している。

91 図表 4 医薬品ごとの分子量(ペプチドリーム社作成)

低分子医薬 抗体医薬 特殊ペプチド医薬 分子量(Da) 50 ~ 1,000 50,000 ~ 150,000 500 ~ 2,000

細胞膜の透過性 ○ × △~○

ライブラリーの組合せの数 10^4 ~ 10^5 10^8 ~ 10^10 10^12 ~ 10^14 ライブラリーの組合せの数

の比較(低分子を1とした とき)

1 10,000 100,000,000

図表 5 特殊ペプチド医薬の特徴 低分子医薬・抗体医薬・特殊ペプチド医薬の特性能力比較

※ペプチドリーム社見解に基づく/ペプチドリーム社作成

相対的な特徴 低分子医薬 抗体医薬 特殊ペプチド医薬

迅速な研究開発が可能 × ○ ○

ターゲットに対する強い結合力 × ○ ○

ターゲットに対する強い特異性 × ○ ○

生体内毒性が低い × ○ ○

タンパク・タンパク阻害反応 × ○ ○

高い生体内安定性 × ○ ○

ターゲットの多様性の多さ ○ × ○

細胞内のターゲットに対応 ○ × ○

経口投与が可能 ○ × ?

大量製造の容易さ ○ × △

迅速な商品(製剤)化 ○ × △

低い生体内免疫反応性 ○ × ○

(注) 「○」は備える又は優れると思われる能力/ 「△」は備えると期待される能力

「×」は備えていない又は劣ると思われる能力/ 「?」は不明な能力

3.ペプチドリーム(株)の事業の推移

(1)ペプチドリーム社の立ち上げの経緯

平成17年9月に、(株)東京大学エッジキャピタル(UTEC)及び(株)東京大学TLO(CASTI)

の紹介にて、菅裕明氏(ペプチドリーム社のコア技術・フレキシザイムの開発者であり、

現ペプチドリーム社社外取締役)と窪田規一氏(現ペプチドリーム社代表取締役)、受託臨 床試験の(株)スペシアルレファレンスラバトリー(現(株)エスアールエル)、研究受託の(株) ジェー・ジー・エスを歴任)が会うこととなった。その折に窪田氏より、現在進められて いる創薬プラットフォームとしてのビジネスモデルの提案があったという。話し合いの中 で、両氏は、「日本発・世界初の新薬を創出し社会に貢献したい」という共通の目標を持つ

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