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(ケース3)

ドキュメント内 日本ベンチャー学会制度委員会報告書 (ページ 48-61)

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特に、浮川夫妻の持つ特許技術は、過去においては製品やサービスとして形にすること 困難な革新的な技術であったが、現在におけるコンピューティング環境の劇的な向上と共 に、アップル社のiPadやiPhoneを代表格とするスマートデバイスの台頭、同時に情報シ ステムや通信システムなど短期間での劇的な発展、高度化により、現実的にも製品やサー ビスに活用できる範囲が広がり、特許が以前よりも実践的な価値を持つようになった。そ れらの特許技術と社会のニーズを結びつけた成果が(株)MetaMoJiの最初の製品サービスと

いえる「mazec(マゼック)」という手書き文字認識変換システムを搭載したアプリケーシ

ョンである。同アプリケーションは、手書き文字をそのまま書き流し入力するほか、手書 き文字をフォントに変換することができ、更には、手書きの漢字と平仮名の混ぜ書き変換

(例:会ぎ→<変換>→会議)ができる点などに特徴がある。

1.(株)MetaMoJiの概要

(株)MetaMoJi(以下、MMJ 社)は、ソフトウェアの開発・販売を手掛ける会社として

2009年に創業された。事業内容としては、言葉と文書と図形を中心としたソフトウェア技 術をベースに革新的な表現手段やコミュニケーション手段をグローバルに提案することを 目標に、様々な製品サービスを提供していくことにある。現状その目標に向かってアプリ ケーション技術の向上を図りながら日々開発を進めている。

現在の主な事業展開は、個人向けでは、手書き入力した文字などをデジタル変換するた めのアプリケーションの開発・販売。販売形態としては普及促進を優先し、基本機能は無 料ダウンロード可能とし、その上で有償でのオプション機能追加のアドオン機能販売など も実施している。また法人向けでは、年額利用料によるライセンス収入、国内外の各種端 末メーカーへの直接営業拡販による端末標準搭載、OEM 提供などを実施している。また、

創業当初より国内のみならず海外展開も視野に入れた開発環境を整備してきている。

利用できる端末は現在主流になっているアップル社製の iPhoneや iPad、グーグル社が 無償提供するアンドロイドOSに対応したスマホ、タブレットなどであるが、今後はマイク ロソフト社が提供するWindow8にも対応した製品サービスも視野に入れており、グローバ ルに多くの利用者が見込めるスマートデバイスにはほぼ対応する方向で開発を急ピッチで 進めている。

図表1 (株)MetaMoJiの概要(2012年6月現在)

設立 2009年創業

本店所在地 東京都港区六本木1-7-27 全特六本木ビル East 4F

資本金 1,000万円

事業内容 ソフトウェアの開発・販売(言葉と文書が中心のソフトウ ェア技術をベースにグローバルに革新的な表現手段やコミ ュニケーションを提案)

代表者 代表取締役社長 浮川和宣 代表取締役専務 浮川初子

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起業経緯 代表2名は、上場会社㈱ジャストシステム社を1979年創業、

2009年にキーエンス社の傘下となり、MetaMoJiを第2創 業

業績 非公開

従業員数 48 名(うち38名が技術部門)

開発拠点 東京、徳島、福岡、富士

ビジネスモデル (個人向け) 有償アプリ、無料ダウンロード+有償アドオ ン

(法人向け) 年額利用料ライセンス、国内外端末メーカー へ営業拡販、OEM提供

知的財産 高 性 能 な 手 書 き デ ジ タ ル ノ ー ト ア プ リ 「7notes with mazec」「Notes Anytime」

プロセス 社内において、通常のソフトウェア開発プロセスを実施 ネットワーク 日本のほか、ほぼ同時に言語対応(英語、中国語ほか)に

より、パートナー網を活用して、順次海外展開

ブランド 様々なスマートフォン、PAD、PCなどの端末に搭載可能 顧客 個人ユースへの提供、端末メーカーへのライセンス販売、

多店舗展開する小売・サービス業者への端末組込み販売

2.会社の経営方針

MMJ社は、独自の経営目標、開発方針を打ち立て、斬新かつ革新的なアプリケーション 技術を世に送り出すことを目指している。「経営目標」としては以下を掲げている。

 人間社会の物、事象などをよりよく「知り」「伝え」「理解」することが できるためのIT技術の研究開発とそれに基づくサービスを提供し人が 様々な場面でより賢明な判断が行えるよう支援する。その結果、より豊 かで平和な社会となることに貢献する。

 人間が知識や経験を蓄積・交換する際にもITが利用され始めているが、

今までは主として、「文書」に頼っている。今後IT利用のさらなる拡大 に向けてより多くの人が自ら容易に「ITプロセス(アプリケーション)」 を構築できる革新的技術を研究開発し、それを相互に利用できる知的サ ービスモデルの構築を進め、文明の進化に貢献する。

 人が集い、連帯し、共感し、楽しむことをより促進できる新しいIT 技 術の開発

とサービスを提供することによって、より楽しく、生き甲斐のある生活 が築ける

ことに貢献する。

このように、徹底的に利用者の使い勝手を向上させることを目指しており、経営者の強 い「想い」が先行したベンチャーといえる。そして、ユーザーフレンドリーを志向するが 故に革新的な数々の技術が不可欠であり、寝ても覚めてもテクノロジー・オリエンティッ ド・カンパニーであることを自らに課すことになる。その結果、当社は激烈な開発環境に

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上記のような経営目標の行きつく先としては、ゲーム以外の IT ソフトウェア業界で世 界一を目指すことにある。MMJ 社の所属する業界は競合が激しい状況といえるが、MMJ 社は第 2 創業であり、代表である浮川夫妻は過去に上場会社を運営していた経営のプロで ある。浮川夫妻の大手メーカーや有識者との人脈が活かされる局面が多いため、設立間も ないベンチャーではあるが、創業 2 期目で大手メーカーとの取引実績が生じている。つま り当社は、ベンチャーが主力製品を開発・販売するまでに通常は遭遇する事業展開がうま くいかなくなるデスバレー(死の谷)といわれる時期を比較的早い段階で切り抜けたと言 えよう。今後の事業展開でも成功者としてのさまざまな経験値が企画、開発、営業、管理 などに活かされる局面が多いと予想できる。

3.MMJ社の起業動機

共同創業者である浮川夫妻が、2010 年に発売された iPad 構想を耳にし、実際に手にし た時に、手書き入力の可能性が大きく広がると直感し、マーケットの拡がりを革新したこ とがジャストシステムに続いて当社を創業した最初のきっかけと言える。

その際、一から始めるというよりは、以前から開発してきた技術の多くが、スマートデ バイスのタッチパネルへの入力機能に役立つこととなり、その技術の蓄積を多いに利用し た結果、他社が開発するよりも、かなり短期間かつ卓越した開発を達成出来たことは確実 である。一貫してユーザーフレンドリーに開発を進めてきた結果、老若男女の誰でもペン タッチによって自由に書きさえすれば手書き文字が認識され、フォントに変換できる画期 的な技術となった。

つまり、当該製品は、指定した枠の中で一文字ずつ入力する従来の他社の手書き変換ア プリケーションとは異なり、文字を連続して文章入力ができる、漢字と平仮名の交ぜ書き 変換ができる、かなりの悪字や癖がある人の文字でも正確に認識・変換できるなど、利用 者の使い勝手に優位性があり、利用者にやさしいさまざまな機能を搭載することで差別化 を実現している。

このような特徴を持った起業後の最初の製品として「7notes with mazec」が発売され、

iPad や iPhone のアップルストアにおいて販売実績で上位ランキングを達成すると共に、

iPad や iPhone のカリスマユーザーのブログ等でも絶賛されるなど、知名度は浸透しつつ

あるが、共通して強調される他社製品と圧倒的に異なる製品特徴をあげるとすれば次の 3 つがある。

 驚異の変換スピードと変換精度

 漢字、平仮名の交ざり文字変換における正確性

 入力の手間を大幅に省力化する推測変換機能

なお、今後も主要なデバイスに対する意欲的な製品を投入していくことは浮川夫妻の言

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動から確実であるが、浮川夫妻はMMJ社の製品サービスの基本コンセプトを以下のように 説明している。そのため、そのコンセプトの枠組みに合致した開発構想に基づく製品が次々 と開発、販売されていくことになると思われる。その結果、以下のように今後の製品イメ ージが共有できるのではないかと考える。

 紙と鉛筆に代わる新世代デジタルノート

 最初から世界のトップクラスの仕様を持ち、世界で販売

 様々なオプション機能を追加できる構造で、発展性を有する製品

 基本部分は無料(またはデバイスメーカーとのプレインストール契約)

 機能追加・拡充サービスは有料アドオン販売

 iOS、Android、Windowsなど全ての主要OSと、それらが動作するタ ブレットとスマートフォンに対応

4.MMJ社の沿革

MMJ社は、設立してからまだ4年を経ていない。しかし、事業を世に送り出すために創 業時から明確な開発コンセプトを打ち出し、全員で努力してきた。ちょうどほぼ時を同じ くしてアップル社のiPadがスマートデバイスの先駆けとして2010年に発売が始まり、そ れ以降スマートデバイス全盛時代に突入している。MMJ社の製品群はスマートデバイスに ぴったりの機能であると共に、スマートデバイスがなければ製品機能を十分有効に活用す ることができなかったはずである。

まさに、MMJ社の事業構想に時代が追いついてきたともいえ、実に幸運な船出となった。

日本のみならず世界的に今後もスマートデバイスのユーザーが確実に増加する方向にある 現状を考えると事業展開が非常に楽しみな会社といえる。

図表2 創業者である浮川夫妻の沿革

1979年 7月 7日 (株)ジャストシステム創業 2009年 12月 1日 (株)MetaMoJi 創業

2010 年にアップル社のiPadが発売され、本格的なスマ ートデバイスの時代となる

2011年 2月 3日 7notes for iPad 発売 6月 10日 7notes for iPhone 発売

7月 27日 Mazec Web Client 発売(法人向け) 8月 1日 Mazec for Android β版開始

8月 4日 7notes(iPhone向け) 発売 (海外) 8月 23日 7notesHD(iPad向け) 発売 (海外) 10月 27日 スタイラスペン「Su-Pen」販売開始 11月 9日 Evernote 連携製品発表

12月 30日 7notes Kindle Fire版を US市場に投入 2012年 3月 29日 Samsung Galaxy Notes とのバンドリング

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