• 検索結果がありません。

(ケース4)

ドキュメント内 日本ベンチャー学会制度委員会報告書 (ページ 61-76)

「スマポ」事業概要と起業家から見た日本への提言 ( 株 ) スポットライト

ケース作成協力

ケースは、2012年度第5回制度委員会(7月20日、秦信行委員長)において、学会理事 安達俊久の紹介で講演をしていただいた(株)スポットライト代表取締役柴田陽氏のプレゼ ン資料及び委員会での質疑応答に基づき作成したものである。なお、当該委員会での情報 収集だけでは不足していた内容及び専門用語については、安達・柴田の 2 者間で情報交換 しながら作成した。ご協力いただいた柴田氏及び会社の方々に感謝いたします。なお、ケ ースは、(株)スポットライトの事業の軌道を整理したものであり、その良否を論じたもので はない。

1.始めに

ベンチャー企業の隆盛・盛衰と言えば、絶えず比較対象となるのは米国シリコンバレー である。そのあまりにも大きな彼我の差ばかりが喧伝され、ややもするとシリコンバレー はアントレプレナーにとって特別な聖地であり、日本の事情は別物だからと言って、日本 からメガベンチャーが生まれないことの言い訳にしていないだろうか。

2000 年春に日米両市場でITバブルの崩壊が始まってから既に12年有余。その間、住宅

ローンのサブプライム問題に端を発したリーマンショックなどの厳しいマクロ環境の荒波 に晒されてきたにも関わらず、グーグル、セールスフォースドットコム、フェイスブック など超弩弓のブランドを輩出したシリコンバレー。一方、ガラパゴスなる自虐的な言葉で 象徴される環境で純粋培養され、内弁慶でしかも、モバイル分野に偏重したベンチャーし か育たなかった日本市場。この落差を冷静に検証しつつ、今後日本の国がベンチャー政策 として何をすべきか検討するための材料を提供したい。

その格好の題材として、(株)スポットライトのビジネスモデルとその原動力である柴田陽 社長の起業家精神に文字通りスポットライトを当ててみたい。

2.(株)スポットライトの概要

(株)スポットライトは、超音波による来店検出の仕組みを用いた共通来店ポイントサービ スを、国内で初めてローンチした。現在、日本で唯一の共通来店検出プラットフォームで あると同時に、今後拡大が見込まれる O2O(オンライン・ツー・オフライン)市場の専業 企業としてはトップクラスの実績を有している。

来店検出の仕組みを通じた共通来店ポイントサービスの提供により、集客を図ると同時 に、スマートフォンアプリを活用した具体的なマーケティング企画の立案・提案を行って いる。現在、主に大手小売り企業・大手メーカー等を対象に、店舗集客及びスマートフォ ン活用によるマーケティング企業の新潮流として注目を集めている。

60

図表1 (株)スポットライト(Spotlight Inc.)の概要(2012年12月現在)

設立年月日 2011年5月

社長及び従業員 柴田陽、1984年生(28歳)、従業員数12名、顧問2名 所在地 東京都港区南青山1-4-2 (本店所在地:東京都渋谷区)

事業内容 スマートフォンを用いた次世代ポイントサービスの開発と運営 経営業績(24年3月) 資本金:1億5,500万円(資本準備金含む)、

売上:約3,000万円

顧客 主に大手小売り企業・大手広告代理店・大手メーカー

3.柴田陽氏の起業歴

創業者である柴田陽氏は、東京大学在学中の 2005 年にSEO(検索エンジン最適化)事 業を創業。2007年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社 し、ハイテク、通信、小売、航空等の業界で戦略立案やマーケティングのプロジェクトに 従事。2010 年に同社を休職し国内ナンバーワン(会員数 80 万人)のバーコードを使った 価格比較アプリ『ショッピッ』を立上げ、翌年(株)IMJに売却。2011年5月、来店促進プ ラットフォーム『スマポ』を立ち上げるため、(株)スポットライトを創業、マッキンゼーを 退社、2011年9月にサービスを開始した。

4.O2Oビジネスとは?

IT 業界では、絶えず流行のバズワードを意図的に伝播させて来た歴史がある。それはド ッグイヤー(この言葉自体が既に旧聞に属するが)と言われる変化の激しい業界の中にあ って、時代の先取りであり、世間の耳目を集めて市場を上手く誘導する目的があるのかも しれない。ASP、Web2.0、SaaS、クラウド、等々数え上げたら枚挙に暇がないが、果たし て実ビジネスにどれだけ貢献してきただろうか。バズワードはそれ自体が持つ実体は別と して、実経済の針路を示す一つの灯台のような役割を果たして来たことは間違いない。2012

年のTop of Buzz Wordとして、「ビッグデータ」と共に必ず挙げられる言葉がO2Oであ

る。O2O(オンライン・ツー・オフライン)の説明として、最も標準的な表現は「オンラ インとオフラインが融合し相互に影響を及ぼす購買活動」となる。つまり、オンラインと オフラインの購買活動が連携し合う、オンラインでの活動が実店舗などでの購買に影響を 及ぼすことを意味する。典型的な事例として、オンラインで価格を調べてから店舗で購入 するといった行動が挙げられる。

「O2O」は今突然出てきた現象ではない。インターネットが一気に普及した90年代後半 には、「クリック&モルタル」というコンセプトがあった。これは、昔ながらの堅牢な銀行

(物理店舗)を意味する「ブリック&モルタル」と、オンライン上での行動を意味する「ク リック」の両者を合成した造語である。スマートフォンの急激な普及が「O2O]の発展に

61 大きな影響を与えたことは間違いない。どこからで もアクセスできるスマートフォンの特徴を最大限活 かしたEコマースでの購買行動が「O2O」の本質を 語っている。

「O2O」という言葉を意識するか否かは別として、

既に多くの企業が実ビジネスを展開している。ソフ トバンク孫社長は、2012年5月米国PayPal社との 提携を発表し、オンライン

決済のナンバーワンだけ でなく、リアル店舗でのオ フライン決済でもナンバ ーワンを狙うと表明した。

リアル店舗での決済市場 に進出することで、ソフト バ ン ク グ ル ー プ が 描 く O2O プラットフォームを 強固なものにする狙いが そこにある。消費者にオン ライン上で店舗や商品を

「認知・発見」してもらい、

オフラインの店舗へ「来店」、店舗で商品やサービスを「購入・決済」してもらう、という O2Oの一連の消費行動を全てに関与するための仕組みが整備されるのだ。今やソーシャルメ ディア推進の主役となったスマートフォンが、ここO2Oでもその役を担う。

O2Oが果たす消費革命を起こしつつあるプレイヤーは、もちろんソフトバンクに限られな い。ローソン、良品計画、セブン&アイ・ホールディングス、阪急阪神グループといったリ アル企業、Google、Yahoo などのネット企業、そして、ドコモ、KDDI、ソフトバンクなど の通信キャリア、消費者向けサービスにかかわるあらゆる企業、産業が関係する。現在、国 内市場における「インターネットによって喚起される消費」すなわちO2Oの消費規模は、約

21兆8,000億円と言われる。この数字は、年間の家計支出のうち、リアル店舗などで消費さ

れたものの約2割を占める。これに対して、E コマースの市場規模は、2ケタ成長を続けて いるとはいえ、7兆8,000億円に留まる(「インターネット経済調査報告書」野村総合研究所、

2011年)。

こうした環境下、注目されるスタートアップ企業がO2Oサービス分野で続々起業している。

今回、以下に紹介するスタートアップ企業、(株)スポットライトはその代表的ベンチャーであ る。

62 5.「温故知新」こそがイノベーションの原動力

スポットライト社の紹介の前にイノベーションの本質について、一言触れておきたい。

温故知新は、「子曰く、故きを温ねて、新しきを知れば、以って師と為るべし」と訓読 される。その意味するところは、歴史・思想・古典など昔のことをよく調べ研究し、そこ から新しい知識や見解を得ることである。この論語の教えにこそ、イノベーションの原点 があると考える。イノベーションは、何も革新的な技術やノウハウだけが成しうるもので はない。日常生活の中から思いがけず産み出されるものにこそイノベーションの糧となり 得る真価が存在するのではないか。

昨今シリコンバレーでは、日本の古き良き美意識である「侘び・寂び」から物事の本質 を学んでいると聞く。昨年の東日本大震災で一気に使用頻度が高まったツイッターや、GPS 機能をWebの世界に取り込んだフォースクウェアなどは、この「侘び・寂び」の思想を取 り入れて基本設計したと言われている。

日本が持つ深みのある伝統・文化と先進的な考え方が融合する場所で触媒機能を果たし、

イノベーションとして昇華が始まるではないかと考える。日本人は欧米と比較し、相対的 に起業家精神に乏しいという議論をよく耳にするが、筆者はその議論には全く与しない。

1960-80年代の高度成長期をリードした、日本が世界に誇る「ものつくり」技術は、2000 年に亘る日本人の持つ伝統・文化が基盤にあったとする考え方の方がしっくりとくる。

そんな日本の文化やライフスタイルの魅力を付加価値に変え、

新たな成長産業群として、欧米市場はおろか新興国市場の旺盛な 需要も獲得し得る産業の代表として、いわゆるクール・ジャパン が存在する。日本人の持つ固有の「衣食住」に根差した発想を新 たなイノベーションとして具現化し、世界に広めていくことが、

国の成長戦略にとって一つの解を与えていると確信する。

「温故知新」と言う論語の教えにイノベーションの原点があり、

日本の国のかたちを創る礎となるのではないか。

孔子像 6.運営サービス「スマポ」の仕組み

既に説明した通り、スマートフォンの急速な普及が、企業に新たな競争軸をもたらして いる。スマートフォンを活用することで、実店舗にネットの顧客を誘導することが容易に なり、マーケティング手法も進化している。この新たなビジネスチャンスをフロンティア となって開拓する先進企業が、(株)スポットライトである。スマートフォンを持って店を訪 れるだけで、例えば30円相当のポイントがもらえる。こんなサービスを、ビッグカメラや 丸井、大丸百貨店など大手小売事業者が相次いで導入している。この仕組みを提供するの がスポットライトであり、その運営サービスが「スマポ」である。

スマポの特徴は、店舗内の特定場所に、顧客を誘導できることである。チラシやテレビ CMを使う集客手法では、顧客を店舗の入り口までしか誘導できない。しかしスマポを使え

ドキュメント内 日本ベンチャー学会制度委員会報告書 (ページ 61-76)