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(ケース2)

ドキュメント内 日本ベンチャー学会制度委員会報告書 (ページ 30-45)

リチウムイオン二次電池開発を支える東洋システム ( 株)

~エネルギー産業の技術開発で世界に貢献するイノベーションの軌道~

ケース作成協力

ケースは、2012年度第3回制度委員会(5月18日、秦信行委員長)において、学会理事 松田修一の紹介で講演をしていただいた東洋システム(株)社長庄司秀樹氏のプレゼン資料 及び委員会での質疑応答、WEOY提出資料等に基づき作成したものである。庄司氏は、日 本ベンチャー学会理事及び制度委員会委員である。なお、当該委員会での情報収集だけで は不足していた内容及び専門用語については、庄司氏からの情報提供により作成した。ご 協力いただいた庄司秀樹氏及び会社の方々に感謝いたします。なお、ケースは、東洋シス テム及び庄司氏の事業の軌道を整理したものであり、その良否を論じたものではない。

検査装置事業のケース概要

いわき市に生まれ育った通信無線好きの庄司秀樹少年が、社会的経験で挫折を感じなが らも、挫折をバネに起業能力を高め、新たなリチウムイオン二次電池(以下LIB という)

開発になくてはならない試験装置のトップメーカーになるまでのケースである。東洋シス テム(株)(以下TSという)のLIB試験事業の概要、起業家庄司氏の起業までのキャリアと 起業動機、時代を牽引するベンチャー企業がやはり遭遇するリスク(危機)と対応、「モノ づくりは、ヒトづくり」というモットーの実践について整理している。なお、ケースを討 議するのに必要な最低の用語と環境データについては、参考資料として記載した。

1.東洋システム(株)の概要

炭鉱の町からフラダンスによる癒しの里である福島県いわき市は、2011 年3月11日の 東日本大震災と津波による大被害を受けた。福島県第一原発事故により放射能の影響はそ れほど受けなかったが、東洋システムの元本社兼工場の一階は水没した。ただし、優秀な 新卒人材を確保したい一心で、高校生が朝夕通う常磐線の車窓から会社がすぐ見える場所 に、本社屋を移したのが、2010年5月であった。通常3月は、お客様への納期が集中し、

最終製品の在庫を多く持っていたが、本社移転の後であったので、被害を最小に防ぐこと ができた。

図表1 東洋システム(株)の概要(2012年7月現在)

設立年月 1989年11月1日(27歳 の起業)

社長及び従業員 庄司秀樹 1961年生まれ(50歳)、従業員数92名(うち50名開発)

本社所在地 福島県いわき市常盤西郷町銭田106-1

事業内容 携帯電話用からハイブリッド用までの総合的なリチウムイオン二次電 池(LIB)の安全性評価装置の開発・販売、電池評価の受託評価試験サ

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ービス、OEM電池パックの設計・生産 経営業績

(2011年10月)

売上高44億円、資本金1億円(非上場)

顧客 二次電池開発製造利用メーカー(携帯、パソコン、デジカメ、ハイブリ ッド電気自動車、ロボット、工具機器等)

モットー モノづくりは、ヒトづくり

乾電池(一次電池)のように、使い捨てではなく、使い切っても、充電して繰り返し何 度でも使用できる電池を二次電池という。1964年三洋電気(現パナソニック)が淡路島に 工場をつくり、Nicd電池を製造し、シエーバーに使用したのが、日本の始まりである。

TSは、安全で高性能なLIBを開発するために、図表の通り、いろいろな製品や便利なサ ービスを、お客様である二次電池関連メーカーに提供している。

図表2 東洋システム(株)の製品とサービス

お客様

トータルソリューションの提供 東洋システム(株)の製品とサービス

充放電評価装置 電池試作装置 電池パック 受託評価

(TOSCAT) (TOSMAC)

TSは、充放電評価装置、電池用R&D装置・安全性評価装置から電池パックに至るまでの LIBエネルギーを専業とするメーカーであり、顧客に提供する製品とサービス内容には、次 の通り4種類がある。

① 充放電評価装置(TOSCAT-1000~5200まで10種類の装置シリーズ)

試作した電池の“性能を確認するための計測器”で、二次電池、キャパシタの研究・開 発用途に使用される装置である。

② 電池試作装置(TOSMAC)

電池を試作するための“研究開発用試作装置”や性能が確認できた電池の安全性を確認 する“安全性試験装置”の製造販売である。

③ プロ向けの電池パック

リチウムイオン電池パック、ニッケル水素電池パックを、例えばドクターヘリコプター

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搭載の医療用機器のようなプロ向けに設計・製造する。

④ 受託評価

TOSCAT/TOSMACを使用し、性能と安全性が確認できた電池の“受託評価サービス”

事業で、自社製品を使う事で、信頼性向上とコストを下げ、開発データや評価データの 作成等を行う。

なお、2011 年 10月期の顧客別売上高割合は、二次電池を研究開発している電池メーカ ー及び携帯機器を開発・販売している電機メーカー48%、ハイブリッドカーや電気自動車 を研究開発・製造している自動車メーカー28%、電池を研究している学術機関や海外のお 客様等24%である。

2.経営環境の変化と会社の経営業績

リチウム電池の検査評価に関する装置の開発販売とサービスで、世界で有数の会社とな り、2012年度決算で50億円の売上に達しようとしているTSであるが、これまでの道のり は平坦ではなかった。1990年の第一期目の決算から、22年間の売上実績、開発製品の発売、

顧客への貢献、世の中の動きを示すと、図表3の通りである。

図表3 世の中の動きと会社業績(売上高推移)

出典:東洋システム作成資料(2012年5月:イノベーションの軌跡)より

新たな技術が世の中に生まれ、これを活用した事業が育ち、産業化するまで、その産業 の裾野を構成する企業は多い。TSは、あらゆる電子機器に利用されるLIBの開発支援、特

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に電池評価装置の開発・製造・販売の会社である。また、化合物で構成されるLIB は、生 き物であるといわれている。熱を持ち、爆発する危険性がある。また、経年変化による化 合物の劣化による性能の低下もある。多くの企業が、蓄電池の性能を競い開発競争をして いる。図表3の「世の中の動きと会社業績」にみる通り、TSの製品やサービスの開発に対 する基本的な考え方は、次の3つに集約される。

① 携帯電話からハイブリッド車に対応するLIBに至るまで現場重視で情報収集

1985年のショルダーバック型の携帯電話に使用されたNicd電池の小型化へ対応した検 査装置からスタートし、ハイブリッド車の LIB まで対応できる世界唯一の総合評価装 置会社である。総合会社であり続けるには、常に最終製品(携帯端末や自動車)の動向 を先読みし、業界動向を把握し、LIB開発現場になくてはならない問題解決会社を指向 する。

② 勝ち残るための装置の開発スピードと発売のタイミング

LIB開発に先行して、各種評価装置は開発する必要がある。ブランドと信用のない中小 ベンチャー企業にとって性能、コストの面で、競合企業に対して常に優位に立ち続け、

かつ顧客から信頼を得るためには、開発スピードと発売のタイミングが命である。大手 が資本力で装置開発をしてくる時には、大手の発売直後に再挑戦困難なコストと性能で、

対抗装置の発売を打ち出す必要がある。これによって大手の再挑戦を打破してきた。

③ 各顧客に最適な製品・サービスを提供するための徹底した機密保持

LIBは、熱を持ち、爆発するリスクを負う。図表3にみる通り、大手LIBメーカーは、

爆発による火災事故を起こしている。加えて LIB は、最終製品生産メーカーにとって 重要な電子部品である。特定企業向けの LIB の開発は最高の企業秘密となる。LIB の 評価装置は、LIB メーカーと最終製品メーカーの両社から発注される。TSは、相互に 競合する企業から発注を受け、同時並行して生産することになるので、いかに発注から 納品までの機密を守るかが重要になる。相互競合メーカーの開発品の機密を保持するた めに、工場内に特定発注先毎の作業室を創り、顧客毎に納入する評価装置を製造する。

万が一火災が発生しても、火災場所の作業室内だけは、短期完全消火し他に延焼しない ように、さらに他に延焼した場合には、工場全体の内部が完全消火し、特定企業向けの 開発装置の機密が、消防当局にも把握されないような設計になっている。

こうした考え方によって、LIB は総合評価会社として、多様な顧客から高い評価を受け ている。

3.庄司秀樹氏の起業動機

庄司氏は、小学校時代からラジオ(無線機)を組み立て、ロシア等からの日本語放送を 聞くような少年であった。当時最年少(13 歳)でアマチュア無線の資格を取った。電気関 係を勉強したかったので、福島県立勿来(なこそ)工業高等学校(いわき市)に入学し、

応援団に入部した。応援団は、他の運動部などの応援であり、人を支えることの役割を学

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