2.4 考察
2.4.4 エコリージョンの特徴
(1)各エコリージョンの魚類相
エコリージョンA,B1,B2 およびCに属する各河川で出現する全種数,コイ科の種数,ハゼ 科の種数,コイ科・ハゼ科以外の種数,タナゴ亜科の種数を平均したものを表2-8に示す.また,
各エコリージョンにおける種の構成を示したものが図2-13である.
表2-5より全種数とコイ科の種数はエコリージョンA,B1,B2,Cの順に多く,ハゼ科魚類は B1,B2が多く次いでA,Cの順である.タナゴ亜科では特にその差が顕著であり,Aでは多く見 られたがB1,B2ではわずかの種しか生息が確認されなかった.
また,図2-13よりエコリージョン B1とB2は科レベルでは種の構成が類似していることがわ かる.しかし,表2-7に示す各エコリージョン間に出現する種を対象に計算したJaccardの類似度 指数の値はB1 とB2間では0.72と決して高くはなく魚類相は異なっていると考えられる.B1, B2のうち,一方でしか生息が確認されなかった種についてまとめたものが表2-9であり,この表 からB1,B2間では科レベルでは構成が類似しているものの,種レベルでは異なることがわかる.
以上より各エコリージョンの魚類相の特徴として以下のことがいえる.
A :コイ科の種数が多く,特にタナゴ亜科が多く生息している
B1:ハゼ科が多く生息し,B2では見られないイトモロコ,アブラボテ,ムギツクなどのコイ科 魚類が見られる.
B2:ハゼ科が多く生息し,B1では見られないクロヨシノボリ,ルリヨシノボリなどが多く生息 する.
C :コイ科の魚種が生息せず,オオウナギ,リュウキュウアユなど九州本島に生息しない種が 多く生息する.
表2-8 各エコリージョンに属する河川で出現する魚種数
エコリージョン A B1 B2 C
全魚種数 34.9±8.3 29.0±1.7 27.2±2.5 12.0±0.0
コイ科種数 16.5±4.4 10.0±1.9 8.8±1.2 0.0±0.0 ハゼ科種数 8.1±2.0 12.0±1.9 12.0±1.1 8.0±0.0 タナゴ亜科種数 3.8±1.9 0.8±0.8 0.2±0.4 0.0±0.0 コイ科,ハゼ科以外の種数 10.3±3.1 7.0±1.4 6.4±1.0 4.0±0.0
0%
20%
40%
60%
80%
100%
コイ科 ハゼ科
コイ科,ハゼ科以外
表2-9 エコリージョンB1およびB2の一方にのみ出現した魚種 B1に生息する種 B2に生息する種
イトモロコ ニゴイ アブラボテ カワヒガイ ムギツク
クロヨシノボリ ルリヨシノボリ スナヤツメ アユカケ
ギギ ユゴイ
オヤニラミ コイ科
ハゼ科
コイ科、ハゼ科以外
(2)流域面積と種数
本節では,各エコリージョンに分類された20河川の河川規模と各河川に出現した魚種数の関係 について調べた.既往の研究では,河川に生息する魚種数に関係する河川規模として流路延長(玉 井ほか 1993, 水野,御勢 1993, 中島 2006)や支川数,流域面積がある.ここでは河川 規模として流域面積を用いた.また,種数と面積の関係を説明するモデルとして対数モデル:y=a log x + b(x:流域面積, y:種数, a,b:定数)を採用した(木元,1976).
図 2-14 は各河川の流域面積(km2)と出現した総魚種数をエコリージョン毎に関係を示したもの である.図中の対数曲線は流域面積と総魚種数の関係を説明するものである.エコリージョン A では,流域面積が大きくなるほど魚種数は増え,その関係は対数曲線(y=7.54ln(x)+13.1, r2=0.64, y: 種数,x:流域面積)で説明できる.一方でエコリージョンB1,B2では,流域面積と魚種数の関 係を説明する対数曲線の決定係数はエコリージョンAの数値より低い値となった.
ここで,エコリージョンAに着目して,コイ科,ハゼ科,その他の魚種数に関して同様の検討 を行ったものが図2-15である.この図よりコイ科,ハゼ科,その他の魚種ともに流域面積が増加 するにつれて魚種数が増加する傾向にあるが,増加の傾きはコイ科,その他の魚種,ハゼ科の順 となっている.コイ科の魚種は氾濫原に依存する魚種が多い.各河川で流域面積の増加に対応し て氾濫原面積が増加する傾向にあり,その結果氾濫原に多様な環境が生まれる可能性が高まり,
魚種数が増加するものと考えられる.一方,ハゼ科魚類の種数も流域面積の増加に対し魚種数が 増加している.ハゼ科魚類の多くは河口域などの汽水域を利用している.流域面積が増えるほど 汽水域の規模が大きくなり,多様な環境が生じる可能性が高まるためこのような結果となったと 考える.しかし,対数曲線の決定係数はコイ科魚種と比して低い値であった.
ここで興味深いのは,六角川と嘉瀬川のハゼ科の確認魚種数が極めて少なくなっていることで ある.両河川とも有明海の大きな干満の差により塩水が上流まで遡上する河川であり,そのため 河口堰が設けられ,支川も含めて汽水域が全くなく,ハゼ科魚類の魚種数が少なくなっていると 考えられる.
図 2-16は,エコリージョン A に属する河川のうち,特異な過程を経て氾濫原が形成されたと 考えられる白川と本明川を除き,想定氾濫面積(国土交通省資料)とコイ科魚類の種数の関係を 示したものである.この図より,流域面積を用いた場合よりも相関は強くなり,コイ科魚類の種 数と氾濫原面積との関係が見られる.
以上より,コイ科魚類は氾濫原の面積が増加するにしたがって種数が増加すること,ハゼ科魚 類は流域面積が増加しても種数は大きく増加しないことがわかる.その結果,コイ科魚類が多い エコリージョンAでは流域面積と総魚種数は強い正の相関を持つが,ハゼ科魚類が多いエコリー ジョンB1,B2では相関関係が強くないことが理解できる.
y = 7.3278Ln(x) - 13.017 R2 = 0.6107
y = -1.4418Ln(x) + 37.64 R2 = 0.5858
y = 2.6932Ln(x) + 8.5799 R2 = 0.3645
0 10 20 30 40 50 60
0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500
流域面積(km2)
総魚種数
A B1 B2
図2-14 各エコリージョンにおける流域面積と出現魚種数の関係
y = 1.3672Ln(x) - 0.916 R2 = 0.2932 y = 2.3893Ln(x) - 4.6325
R2 = 0.6309 y = 3.7716Ln(x) - 7.5449
R2 = 0.5308
0 5 10 15 20 25 30
0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500
種数
流域面積(km2)
コイ科 ハゼ科 コイ科,ハゼ科以外
図2-15 エコリージョンAにおける流域面積と魚種数の関係
図2-15 エコリージョンA(白川,本明川を除く)における想定氾濫面積とコイ科種数の関係
y = 2.8028Ln(x) + 4.4201 R
2= 0.6319
0 5 10 15 20 25 30
0 100 200 300 400 500 600 700
コイ科種数
想定氾濫面積(km2)