本章では,前章での研究成果をもとに,まず研究仮説を提示する。次に研 究仮説に基づいて分析フレームワークを作成し,イメージ的認識の視点か
ら授業実践の分析を行う。
最後に,分析結果の考察を通して,授業実践例における認識的問題を明ら かにする。
第1節 研究仮説と分析の視点
本節では,前節で明らかになった,イメージ的認識を社会科授業に組み込 む必要性をもとに,研究仮説を提示する。そして,この研究仮説の有効性 を検証するための分析視点,並びに方法を提示する。
1.研究仮説
これまでの研究成果に基づき,研究仮説を次のように提示する。
研究仮説
イメージ的認識を論理的認識に組み込んで学習過程を構成するならば,子 どもの認識をより発展的に形成することができる。
さらに,この具体的なかたちを次のような作業仮説として提示する。
作業仮説
学習過程において中核的な問いを二重に設定し,第1の問いの過程ではイ メージ形成による知識の量的拡大,第2の問いの過程ではWhyの問いによ る知識の体系化を図るようにするならば,子どもの社会認識をより発展的 に形成することができる。
2.分析の視点と分析の方法
前項で提示した研究仮説を検証するために,まず,分析の視点を明らかに する。続いて,分析フレームワークに基づいて分析の具体的な方法を示す。
(1)分析視点
授業分析に用いる分析の視点は, 次の4点である。
視点!:中核的な問いの構造は,どのようになっているか。
視点2:中核的な問いの解釈は,どのようなコードに基づいて行われて いるか。
視点3:イメージ形成は,どのような方法で行われているか。
視点4:社会認識の形成は,十分に行われているか。
(知識は,量的拡大と体系化の両面から拡大されているか。)
以上の分析視点を用いて,授業実践例を分析していくためには,この視点 を組み込んだ分析フレームワークを作成する必要がある。次に分析フレー ムワークを示す。
(2)分析フレームワークと分析方法
本節末に示した授業分析フレームワーク て,授業分析を行った。
(図3−1)に記入することによっ
(3)分析の視点及び分析フレームワークの補説
分析の結果とその考察に入る前に,分析の視点,並びにそれに基づいたフ レームワークに関する補足説明を行う。
【視点1】
①問いの構造
これは,単元及び!単位時間における中核的な問いがどのような構造に なっているかをみるものである。授業実践の分析では,基本的に問いが二 重構造で設定されているものを対象とした。しかし,形式的には単構造で あっても,学習の目標や文脈の関連から二重構造とみなすことができるも のも対象とした。
②問いの分類
中核的な問いの分類には,岩田 一彦氏の問いの分類に従った。こ の問いの分類の中で,Howの問 いは,WhatやWhere型にも,ま たWhy型にも分類できるので注 意が必要である。岩田氏も,この ことに関しては,次のように述べ
ている。
「Howは,事象の構造,過程,
手段・方法,目的,関連を求め る問いである。
問いの中間に位置している。
問いの種類
①情報を求める問い〔W)
When, Vhere, Who, What
①②の中間に位置する問い(H)
How
②情報間の関係を求める問い(D)
Why
③価値判断を求める問い(V)
Which
習得される知識 記述的知識
分析的知識
説明的知識
(概念的知識)
規範的知識
図3−2問いと習得される知識との関係(①,p.44)
この問いは,情報を求める問いと情報間の関係を求める したがって,そのときの状況によって,情
報を求める問いに位置ついたり,情報間の関係を求める問いに位置つい たりする性格をもっている。」 (①,p.38)
したがって,How型の問いに関しては,用いられている状況や背景など を考慮して判断しなければならないということになる。
【視点2】
問いが提示されると,学習者は問いの意味を解釈して,その意味にふさわ しい答えを提示する。簡明に言えば,この問いと答えを結びつけるものが コードである。筆者は,これをまず対応関係と対応方法とに分ける。さら にそれらを二つに分類し,合計4つのコードを設定した。
〈問いと答えの対応関係〉
・固定的コード:問いと答えを一対一の対応関係で結ぶもの。
・開放的コード:一つの問いに対し,複数の答えを対応させるもの。
〈問いと答えの対応方法〉
・論理的コード:科学の法則や論理的な筋道に沿って答えが導き出され るもの。
・直感的コード:直感や感覚的な思考によって答えが導き出されるもの。
さらに,これらをマトリックスに関連させて,次表のような分類を行った。
表3−1問いと答えの解釈コード
固定的コード 開放的コード
論理的コード
A型 C型
直感的コード
B型 D型
これらの4つのコードは,次のような場合に機能する。
A型(固定・論理的コード)
主として,論理的認識における問いと答えの対応は,このコードに基づ いて行われる。また,イメージ的認識においても,事象の因果関係を明
らかにするような場合にも,このコードが用いられる。
B型(固定・直感的コード)
思いつきや簡単な記憶の想起に用いられる。このコードに基づいた問い と答えの対応は,学習において最も避けなければならないものである。
C型(開放・論理的コード)
問いのかたちとしては開かれているが,答えの導き方は論理的に行われ ているもの。複線型授業や,事象の因果関係が複数の原因によって成り 立っている場合には,このコードをもとに答えが考えられる。
D型(開放・直感的コード)
直感に基づいた多様な考えを引き出す場合にはたらく。イメージ的認識 の問い1の過程には,このコードが用いられる。このコードを単独に用 いるのではなく,A型やC型と併用されることが望ましい。
【視点3】
①イメージ形成の有無
筆者は,先にイメージ形成を次のように概念規定した。
イメージを形成するとは,ある事象を自己の先行認識と関連づけて,思 考の枠組みの中で再構成してとらえることである。
したがって,このような意味において事象がとらえられている場合に,
イメージ形成がなされているものとみなすことにする。
②イメージ形成の方法
アブダクションは,イメージ形成の一つの方法である。しかし,この他 にも体験や作業をさせる方法や,比較による方法などもイメージを形成さ せる有効な手段である。ここでは,授業記録を参考に,事象をどのような 方法によって, 「先行認識と関連づけて」, 「再構成」してとらえている かを判断した。
③イメージ形成の場とイメージ形成の具体
中核的な問いが二重に設定されている場合,子どもの思考がはたらく場 は下図のように3つ考えられる。
o
問い1@ 問い2 @
図3−3 イメージ形成の場
イメージを,認識方法の一つとしてとらえようとするならば,イメージ 形成の位置はどこでもかまわないことになる。しかしながら,イメージ形 成が学習過程のどの位置で行われるかは,子どもの認知内容に密接に関わ ってくる。問いの二重構造において,各段階でのイメージ形成と関わる認 知内容は,次のようになる。
①の場:社会事象に対して,探究意欲を喚起する際に関わるイメージ。
②の場=問い1に示された事象を,先行認識立ち返って把握する際に 用いられるイメージ。知識の量的拡大と関連したイメージは,
この場において形成される。
③の場:知識の体系化を図り,科学的な因果関係を明らかにするため に,問題を焦点化する際に用いられるイメージ。
イメージ的認識においては,イメージ形成によって知識の量的拡大を図 ることにねらいを置いている。それは,論理的認識における知識の量的拡 大の不十分さをイメー一一・一ジを用いることによって,改善しようとする試みで ある。したがって,イメージ形成の場としては,②がその趣旨からみてふ
さわしいということができる。一方,③の場でのイメージ形成は,知識の 体系化と密接に関わっていると判断することができる。
加えて分析視点3では,イメージ形成の具体例を,子どもの言明を中心 に抽出した。
【視点4】
分析視点4では,分析対象となる授業実践において,問い1の過程で知識 の量的拡大が図られているか,また,問い2の過程でその体系化が図られ
場合に,社会認識が形成されていると判断することにする。具体的には,
まずイメージが②の場において形成されている場合には,知識の量的拡大 がなされていると解釈する。一方,量的拡大は,問い2にWhyやHow(Why)
の問いが用いられ,子どもの言明から判断してより上位の知識の:習得が図 られている場合には,知識の体系化が図られていると解釈することにする。
(4)分析対象
社会科の授業において,問いが二重構造となっているもの50事例を分析 の対象とした。分析対象一覧は表3−2「分析対象リスト」に示したとおりで
ある。 (98−99貢参照)
次節では,分析結果の結果を明らかにして,その考察を行う。
〈引用・参考文献〉
①岩田一彦 編著 『小学校 社会科の授業設計』 東京書籍 1991