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イメージ的認識と社会認識形成

前章では,社会科におけるイメージの典型的な例を挙げ,その問題点を明 らかにした。さらに,その問題がイメージを知覚的像に限定する固定的な イメージ観に端を発していることを指摘して,それに代わる新しいイメー ジの視点を認知心理学に求めた。

本章では,この視点をもとに,社会科授業においてイメージをどのように 具現化していけばよいのか,また,そのことが社会認識形成にとってどれ ほど有効であるのかということを探究する。

第1節 イメージ的認識の構造とその認識的特徴

認知心理学の研究成果は,イメージの実体論に新たな指針を与えてくれた。

しかしながら,社会科にイメージを取り入れて議論する際には,実体論と してのイメージを問題にするだけでなく,方法論的なレベルでの吟味が必 要となる。

本節では, 「イメージ的認識」というものを取り上げて,この点について 考察していく。

1.イメージ的認識と認識の二重構造

(1)イメージ的認識の概念

宮崎清孝氏は,イメージを用いた認識過程について,次のような言及をし

ている。

 「人間がある対象についてのイメージをもつということを,その対象につ いてなんらかの形で把握されたく見え〉と,そのく見え〉を通して把握さ れ,〈見え〉の背後に存在するその対象についての認識からなる,二重構 造の形で存在する認識をもつことであると考える。後者の,〈見え〉を通

して把握される認識を,ここではかりに〈観念〉と呼んでおく。イメージ 的過程とは,この〈見え〉とく観念〉の二重構造をつくっていく,また,

そこからさらに認識を展開していく過程のことである。」

 (O,p.47)

ここで述べられているく見え〉とく観念〉とは,コスリンが主張した心の 中の表層と深層という二層からなる認知システムと対応すると考えられる。

すなわち,〈見え〉とは,感性的な,目に見える(聞こえる,感じる)か たちをとって存在している表層であり,〈観念〉とは,直接的には目に見 えない超感性的なかたちで存在している深層である。この意味において,

人がイメージをもっとは,〈見え〉を通してく観念〉を見る,という二重 構造をもっことであると言える。

このように〈見え〉が感性的なものであり,直接把握できるものであると いっても,そのことによってく見え〉が 絵のような 像だけに限定され るわけではない。〈見え〉の対象は, 絵のような 像(メンタルイメー ジ)だけでなく,概念もく見え〉となりうるのである。たとえば, 「動物」

という概念を対象にした場合, 「犬」という概念はその一つのあらわれ,

つまりく見え〉であると考えられる。したがって,それ自体は非感性的な 概念であっても,それがある概念の〈見え〉として把握され,二重構造を

とる場合には,イメージ的認識であるとみなすことにする。

また,この〈見え〉とく観念〉から なる二重構造は,視点とも深く関わっ ている。〈見え〉とは対象をどこか一 つの視点から見たときに見える像であ る。 (図2−1参照)それは,メンタル イメージの場合だけでなく,概念の場 合であっても同様である。ある概念の 個別例をく見え〉として一つ選択する ということは,概念に対しある視点を とってみるということである。

視点

「二重構造一1

「見え1    「観念j

図2−1認識の二重構造

だが,〈見え〉をもつだけでは,対象をイメージ的に把握していることに はならない。イメージがあくまで対象のイメージであるためには,<見え

〉をもつ他に対象自体を同時に把握していなければならない。

 「つまり,私たちはここで,直接的には一側面としての個別例を見ている のだが,同時に,それをとおして,その個別例を一側面として持つ概念自 体についても,間接的に見ていこうとしているのである。そこには,直接 的に個別例を見ることと,間接的に概念を見ることの,認識の二重性が存

在している。」(③,p.55)

ここに示されていることは,認識の二重構造における視点の二重性である。

つまり,直接的な視点はく見え〉を見ており,間接的な視点は〈見え〉を 通してその背後に間接的に〈観念〉を見ている。宮崎氏は,この視点の二 重性を図2−2のように示している。

直接的視点一一『→見え(パターンその他)

/     ×

間接的視点 ホ象(概念・知識としての)

図2−2認識の二重構造における視点(②,p.387)

以上のことから,宮崎氏の主張するイメージ的認識の特徴を整理する。

・イメージを直接把握することができるく見え〉としてとらえるだけで なく,その背後にあるく観念〉と二重構造をなすものとして考える。

・したがって,イメージを単なる 絵のような 視覚的弓に限定すること なく,認識の二重構造によって把握されるという認識構造をとっている ものをイメージ的認識ととらえることにする。

上野直樹氏は,「見え」(appearance)と「実在」(reality)という語を用 いて宮崎氏と同様な論を展開している。本研究では,宮崎氏の論を踏襲し ながらも,用語的には上野氏に習うことにする。したがって,本研究にお けるイメージ的認識の概念を次のように規定する。

イメージ的認識とは,対象を「見え」 (appearance)と「実在」 (reality)

という認識の二重構造によって把握する認識過程を言う。

(2)イメージと「わかる」こと

認識方法としてのイメージを,認識の二重構造で表そうとする方法につい ては,宮崎氏以外の認知心理学者も論じている。佐伯腓氏も,その中の一 人である。佐伯氏は,イメージを通すことによって「わかる」こととはど

ういうことか,このことについて次のように述べている。

 「わかるべきこととは何らかの概念であり,抽象化された知識と考えられ る。それらが『イメージを通す』ことによって明らかにされるのである。

それでは,そこで通されるべきイメージというものは,どういうものかと いうと,きわめて具体的(個別的)であり,特定の『視点』 (カメラ・ア ングル)からの見えであり,さらに,特定の文脈,あるいは状況の中で位 置づけられたものである。…略…それに対し,それらのイメージを通すこ とによって『わかる』ことというのは,一般的であり抽象的な概念なので ある。それは多視的であり,また,多状況的である。すなわち,さまざま な視点からの吟味が可能であり,また,多くの異なった状況や文脈の下で の意義がふくまれているべきものである。」 (④,pp.108−109)

ここで示されているイメージと,イメージを通すことによって「わかる」

こととは,次のように対比して表されている。

  表2−1 「通される」イメージと通して「わかる」こと

「通される」イメージ 通して「わかる」こと

個別的 一般的

単・視点的 多・視点的

単・状況的 多・状況的

      (@,p.109)

この表の「通される」イメージを「見え」,通して「わかる」ことを「実 在」と置き換えてみる。すると,認識の二重構造において〈見え〉によっ て直接把握できるものは, 「実在」のある一面,一つの可能性の中の一例 にしかすぎないということになる。佐伯氏の論に基づけば,イメージはそ れ自体ではく個別的〉,〈単・視点的〉,〈単・状況的〉なものである。

暫定的な認識, 「〜のようなもの」的な認識と言えよう。したがって,認 識方法としてイメージを活用しようとするならば,それらを〈一般的概念

〉,〈多・視点的な実体認識〉,〈多・状況的な世界の一断面〉へと位置 づけていく必要がある。そのために,視点の移動が重要な意味をもっこと になる。言い換えれば,イメージ的認識は視点の移動を前提とした認識方 法なのである。このことは,次の記述にも表れている。

 「つまり,わたしたちは,個別的で具体的なイメージをえがこうとすると 同時に,そのイメージの中の個別性が単なる一つの可能性の中の一例にす ぎないことを意識するのである。たとえば,『二等辺三角形』というもの を一つのイメージで認識するとき,辺の長さはいろいろ変りうるが二つの 辺が等しいという条件をみたす多くの三角形のうちの一例としての図形  をえがいてみるのである。描き出されるイメージは必ずある視点,ある観

点からの描写であるが,その視点や観点を明確に意識した瞬間,わたした ちはそれが『別の視点からだとどうなる』という認識も同時に得ているの

である。」 (④,P.109)

次項では,この視点の移動にはどのような方法があるのかをみる。

2.イメージ的認識と視点

(1)典型による理解

概念理解の視点的な方法の中で,しばしば使われるのが,典型による概念 理解である。すなわち,概念の内容をもっともよく示しているような個別 例(典型)を通して,概念をその典型のようなものだとして理解しようと するものである。これは,概念に対し一つの視点を据えて,そこに現れて くる概念の側面を見ることによって,概念自体を理解しようとするもので

ある。

たとえば,歯の概念を理解しようとする場合,まずヒトという状況を背景 とするように歯という概念に対して視点を据える。そして,そこに現れて くるヒトの歯の概念の一側面を見ていく。そこで,固くて小さいものだと か,ものをかむためのものなのだな,とっかんでいく。そして,歯という 概念は一般的にこのようなものなのだと理解していくのである。

(2)概念の一面的理解と多面的理解

典型による概念理解は,概念に視点を据えて対象を理解していく方法であ る。それはさまざまにとりうる視点の中の一例にしかすぎない。だが,そ れにもかかわらず,典型はしばしば絶対化され,他の視点から見るとどう なるかという吟味が無視される。このような傾向は,実験によっても客観 的に実証されている。たとえば,ある個別例が与えられると,この個別例 と他の個別例との間の類似点が強調され,その結果,先に与えられた個別 例が自動的に典型とされる。そして,概念は常にその典型を通して理解さ れるというものである。

この欠点を克服する方法の一つは,概念を多面的に理解することである。

つまり,概念に対し一つの視点を設定するだけでなく,同時に多くの視点 を設定して対象を理解しようとする方法である。

先ほどの歯の例を用いる。ヒトの歯という一側面を見るだけでなく,たと えばネコという状況を背景とするように視点をとってみる。そして,そこ