第 9 章 学習者のテイナイ形に関する意識
9.3 アンケート調査の分析
まず、設問 7「『動詞+ていない』はどこで習いましたか」に対して、「習った記憶 がない」と答えた人数は JFL 学習者で 19 名、JSL 学習者で 12 名であり、JFL 学習者の ほうは全体の半数も超えている。学習者にとって、テイナイ形に関する指導が十分に 行われているとは言えない。
次に、設問 8「普段よく使った『動詞+ていない』」の答えとして、挙げられた例は 用法別に以下のようにまとめる。回答数の延べ数は JFL90、JSL81 であるが、異なり数 を見たところ、JFL21、JSL24 となっており、「食べる」、「決める」、「持つ」、「行く」、
「帰る」などのような動詞の使用頻度が極めて高かった。この結果は、これらの表現 が文法項目より、定形表現として学習者に覚えられていることを示唆している。この
表 1 設問 8 の回答
延べ数 異な り数
状態
(割合)
未完了
(割合)
進行
(割合)
その他
(割合)
意味 不明 JFL 90 21 23(26%) 9(10%) 12(13%) 6(7%) 40(44%)
JSL 81 24 30(37%) 34(38%) 4(5%) 10(12%) 3(4%)
用法別に関して、JFL 学習者の回答に挙げられた用例は、延べ数 90 文のうち 23 文
(26%)が「状態」、続いて 12 文(13%)が「進行」である。JSL 学習者の回答に挙げ られた用例は、延べ数 81 文のうち、34 文(38%)が「未完了」、30 文(37%)が「状 態」である。どちらのグループの学習者にとっても定着している用法は「状態」であ ることが分かった。また、JSL 学習者より、JFL 学習者のほうは「進行」をよく覚えて いることが分かった。以下は学習者の回答例の一部である。
それ以外、JFL 学習者の回答においては、「学校へ行っていない」、「ご飯を食べてい ない」、「日本語を勉強していない」などのような、文脈を提示せずに、単純に「動詞」
とテイナイ形を組み合わせた回答が突出していることも興味深い。ここから、母語話 者からのインプットが限られ、単純に教室指導を受けている学習者は、テイナイ形の 多義性および、それが使われる文脈について、十分には認識できていない傾向がある と分かる。
続いて、設問 9「あまり使わないテイナイ形に気づいたことがありますか」に対し て、35 名の JFL 学習者のうち、19 名が「ありません」と答えた。それに対して、JSL 学習者の中で「ありません」と答えたのは 35 名中、8 名しかいない。
さらに設問 10「使わない表現に気づいた場合」については、「シタ?」に対する答 えとして、テイナイ形が使われた場合を挙げた学習者が圧倒的に多かった。
① 先生はまだ、朝ご飯を食べていない。
② 私はお金を持っていません。
③ 私は寮に住んでいません。
④ 大学はまだ決めていない。
以下は学習者の回答の一部である。
① アルバイトの時、店長に「新しい制服をもらった?」と聞かれて、私は「もらわ なかった」と答えましたが、隣の日本人は「もらっていない」と答えました。そ のときに気づきました。
② 日本人は普通「~していない」を多く使いますが、私は使えません。特に「~し ましたか」と質問されたときです。
設問 11「テイナイ形について、『難しいと思ったところ』」に関しては、JFL 学習者 が 35 名のうち 17 名が「難しいと思わなかった」と答えた。
その理由として、以下のようなことが挙げられる。
③ 中国語に訳すことはできるからそんなに難しいとは思わない。
④ 今日のアンケートをする前に、難しいと思ったことはなかった。
⑤ 中国語に対応できる表現があります。
⑥ 「動詞+ている」を否定する場合に使いますから、テイル形の意味を理解できれ ば問題はないと思います。
それに対して、JSL 学習者 35 名のうち、21 名が「難しい」と答えた。以下にいく つかの回答を示す。
⑦ 肯定形は使えますが、否定形は難しいです。
⑧ 中国語には対応するものがありませんから、難しいと思います。
③「~しなかった」との区別がわからないから難しいです。
⑨ 本を読むときは分かりますが、日本人と会話するときに、正しく使用できま せん。
⑩ テイル形の否定だと思いましたが、だんだん他の用法もあるような気がして きます。
以上のことからは、JFL 学習者より、JSL 学習者のほうが日本語母語話者との会話 を通して、テイナイ形が単純にテイル形の否定ではないということに気づいていはい るものの、その使い方は身につけられていないことが窺える。