第 5 章 オーバーレイ誤差の評価と解析
5.7 アライメント動作のシミュレーション
5.7.1 計算方法
F-1 機のアライメントの目的は,ドナー基板座標系におけるセル座標 (x, y) すなわち設 計位置を,ステージ座標系におけるスタンプ位置座標(X, Y)すなわち加工位置に変換するこ とである.アライメント動作はドナー基板が接合室に搬入された直後に行われ,第3章Fig.
3-3に示した3個のアライメントマーク(A2~A4の十字マーク)を接合チャンバー内に取 り付けられたアライメント顕微鏡で観察し,その中心座標をアライメントマーク座標と認 識する.座標変換は第3章で示した式3-1を用いて行われる.
( ) ( )
( ) ( )
+ +
+
− + +
=
y x Y
X Y X
y x
y x
θ β θ
α
θ β θ
α
cos 1
sin 1
sin 1
cos 1
0
0 (5-1)
ここで (X0, Y0) はステージ座標系におけるドナー基板の原点位置座標, αおよびβは,ス テージ座標系およびドナー基板座標系間のそれぞれX軸およびY軸のスケーリング誤差,
θxおよびθyはそれぞれ回転誤差と直交誤差であり,これら6個のアライメント係数は3個 のアライメントマークのX,Y座標,合計6個の値から第3章式3-5を用いて一義的に求め られる.
本シミュレーションでは,Fig. 5-12に示すように,3つのアライメントマークの設計座 標値に振動によるランダム誤差として正規分布誤差(σ= 100~1000 nm)を加えてアライ メントマーク読取座標とし,これらからアライメント係数を求め,これに 1 mm角のセル 10層分の設計座標(構造体1セット分)を与えて式(5-1)に基づきセル10層分のスタン プ位置座標を算出した.これと設計上のセル座標との変位をオーバーレイ誤差として見積 もった.以上の計算を10回繰り返した.
この計算には行列計算ソフトウェアScilab [3]を用いた.プログラムリストを追補 2に示 した.
- 123 -
計測値
座標変換係数
A2±σ A4±σ A3±σ
設計値
セル座標(x, y)
(ウェハ座標系)
スタンプ位置座標 (X, Y)
(ステージ座標系)
+
=
y x a a
a a Y X Y X
o o
4 2
3 1
(計測誤差の影響を含む)
Fig. 5-12 Flow of alignment simulation
5.7.2 計算結果
Fig. 5-13は,3つのアライメントマーク座標に加えられたランダム誤差の大きさ(正規
分布誤差の標準偏差)と,アライメント係数のうち 10 回の計算におけるX0,Y0の標準偏 差(1σ)の関係を示す計算結果である.ランダム誤差の増加に伴い, X0,Y0のばらつきは ほぼリニアに増加する様子が分かる.図中の緑線は,X0,Y0の実験値(標準偏差)であり,
同一のドナー基板を用いて複数回アライメント動作を行い,その際に残る装置のログを読 みとって算出した.F-1 機では,アライメントマーク認識後の読取座標そのものではなく アライメント係数X0,Y0をログに記録するため,比較の対象をログに残るX0,Y0とした.
実験とシミュレーションとの比較の結果,アライメントマーク座標読取の誤差の標準偏
差は400 nmが妥当である.これは5.5節で述べたステージの振動(標準偏差73.6 nmの
静止安定性)よりも大きいが,その原因として考えられるのは,アライメント顕微鏡の鏡 筒や撮像ユニット部の振動である.これらはステージの振動とは独立であり,両者が加算 されアライメントマーク読取座標のばらつきがステージ振動よりも大きくなったと思われ る.
次にアライメントマーク読取誤差として400 nmを導入して1 mm角セルのスタンプ位 置を求め,これから系統誤差を算出した結果をFig. 5-14に示す.図中の10本の線は10回 の計算結果(10バッチに相当)であり,各線上のプロット点はセル番号(10層積層時の各 レイヤに相当)である.これは実験結果を示した Fig. 5-2 の各ベクトルの推移に対応する ものであるが,セル間ランダム誤差を考慮していないので,セル番号の移動は直線的であ
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り,セル間系統誤差だけを分離して見ることができる.このグラフから,系統誤差は1セ ル当り平均で9 nm/mm(10層目までの距離をステップ回数9で割る),標準偏差6.6 nm/min, 最大時には20 nm/mmとなり,距離だけでなくその方向も大きくばらつくことが確認でき る.この結果は Fig. 5-3の黒矢印に対応するもので,バッチごとに距離と方向が大きくば らつくことと一致している.
セル間系統誤差は,毎回同様に発生する繰返し成分(熱変位に起因)と加工バッチ毎に ばらつく成分からなると述べたが,以上のことから,この系統誤差のばらつき成分がアラ イメントマークの読取座標のばらつきにより生じていると考えるのが妥当である.
Fig. 5-15は,3つのアライメントマーク座標に加えられたランダム誤差の大きさと,Fig.
5-14 のように算出した系統誤差の関係(平均と標準偏差)を示す計算結果である.ランダ ム誤差の増加に伴い,系統誤差が線形的に増加していることが分かる.
本シミュレーションにより,アライメントマーク読取座標のランダム誤差が,オーバー レイ誤差の系統誤差に伝搬していることが明らかとなった.すなわち,ステージの振動に 起因するアライメントマーク読取座標のランダム誤差がアライメント補正係数に伝搬し,
その結果XYステージのスタンプ位置座標の指令値に系統誤差をもたらす.Fig. 5-15は,
目標とする系統誤差を達成するために,アライメントマーク読取座標の繰返し性の指標と なる.例えば,アライメントに伴う系統誤差を2 nm/mm以下にしたければ,アライメント マーク読取座標のランダム誤差をσ<100 nmとする必要がある.
以上の結果,3種類のオーバーレイ誤差とその主要因をまとめるとFig. 5-16のようにな る.
Fig. 5-13 Relation between conversion factors and random error 0
200 400 600 800
0 200 400 600 800 1000 1200
Standard Deviation of X0, Y0nm
Introduced random error on Alignment marks nm X0
Y0
Experiment
- 125 -
-200 -150 -100 -50 0 50 100
-200 -150 -100 -50 0 50 100
21 43 65 87 109
12345678910 12345678910 21 43 65 87 109
21 43 65 87 109
1 2
3 4
5 6
7 8
9 10 12345106789
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
1 3 2 5 4 7 6 9 8 10
1 2 34 5 6 78 910
Y S hi ft n m
X Shift nm
1 1st
1 2nd
1 3rd
1 4th
1 5th
1 6th
1 7th
1 8th
1 9th
1 10th Ave. = 9.2 /cell
σ = 6.6
Fig. 5-14 Simulated overlay errors with random error of 400 nm
Fig. 5-15 Simulated systematic errors with random errors 0
10 20 30 40
0 200 400 600 800 1000 1200
Systematic Error nm/mm
Introduced random error on Alignment marks nm n=10
- 126 -
Fig. 5-16 Summary of overlay errors