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第4章 文法化の度合いとプロセス

4.5 否定形式

4.5.2 文法化の度合い

4.5.2.6 まとめ

以上、否定形式における文法化の度合いを考察した。その結果は以下の表にまとめることが できる。

意味の希薄化 ×

脱範疇化 ×

文脈の制限あり ×

現在形のみ ×

常体のみ ×

表12 否定形式の文法化の度合い

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以上の分析から見て、否定形式による禁止表現の文法化の度合いは、全体的に低いというこ とがわかる。否定形式による禁止も不可能形式による禁止と同様、語用論的推論によって、禁 止の機能が生じている。つまり語用論的推論であり、文法化に関しては進んでいないというこ とが言える。否定は、いろんな意味分野と関わるため、禁止への関わりに関しても、その用法 の拡大のうちの一つで、語用論的な用法である。

否定形式による禁止には、もうひとつ「するんじゃない」という複合形式がある。この形式 の文法化の度合いについては次節で詳しく検討する。

4.5.3 「するんじゃない」の文法化の度合い

「するんじゃない」は、「動詞の連体形」+「の」+「で」「は」「ない」からなる複合形式 である。この複合形式が文法化されて、統合的に順応(adaptation)が起こり、音韻的に「の」

「で」「は」が「んじゃ」に変化している。

「のではない」や「んじゃない」の形式は、もともと、強調的な否定として用いられる。こ こではまず、その例を挙げる。

(131) a. 「事実を隠してるんじゃない。あんたの見こみ捜査がおかしな方向にすっ飛んで

いってるから、ついていけないだけだよ」

「止せ、二人とも」 久保田が割って入った。

(現代日本語書き言葉均衡コーパス『水辺の通り魔』) b. そんなことをいってるんじゃない。早い話、おれは魔法使いではない、他人の心 をのぞき読むなんてできっこないんだ。おれにできるのは聞かされた話の裏付け を取り、矛盾点やあいまいな箇所、ありそうもない話がないか耳をすましている ことだけだ。

(現代日本語書き言葉均衡コーパス『わが故郷に殺人鬼』)

以上の例文はいずれも、「んじゃない」が強調的な否定として用いられている。しかし、こ の強調の否定に、動詞の連用形を付けて、二人称の行為者あてに発話することが定型化した「す るんじゃない」という形は、禁止の意味を含む。その例に以下のようなものがある。

(132) 「そんなこというんじゃない。」

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この複合形式は、「言う」という行為を否定しながら、禁止の意味をも含んでいる。これと 同じように、下記の例文においても、例えば、(133c)では、「口にする」ということを強く否 定しながら、禁止をしているのである。これらの文法化している例文では、強調的な否定の意 味が希薄化して、禁止の意味のみを表す。

(133) a. 廊下を走るんじゃない。

b. 何もなかったと強調する必要は無い。これからはホテルのことで勝手に行動す るんじゃない。お疲れ様。

(現代日本語書き言葉均衡コーパス『シナリオ・フォトbook』) c. 「そういう言いかたはよせ、マディ。責任うんぬんを口にするんじゃない。まさ

かそんなことを向こうに言ったわけじゃないだろうな?」ダグは厳しい口調で問 いた。

(現代日本語書き言葉均衡コーパス『ベビーシッター殺人事件』)

これらの例は、いずれも強調の否定の意味が希薄して、行為の実現に対して、話し手が行為 の実現を止めるように禁止をもちかけているものである。つまり、「するんじゃない」という 形式が禁止として頻繁に使われる中で文法化を起こしていると考えられる。この文法化の度合 いについては、以下ではさらに、この複合形式の統合的性質、つまり、一語としての一体化の 度合いを、前の節でも用いた花園(1999)の用言認定テスト等を用いて、検証していく。

花園(1999)の条件形複合用言形式の認定については「してはいけない」の文法化の分析の 節においてすでに紹介した。ここでは、「否定形式+のだ」との組成について先行研究に基づ いて述べる。

「のだ」形式は、節を受けて名詞化する助詞「の」と、判定詞の「だ」という組み合わせに よって生じている。これを単なる「の」+「だ」としては扱えないことについては多くの先行 研究で述べられている(三上 1953、野田 1997 など)。そのため、この「のだ」がついた否定 形式の「するんじゃない」を一つの形式として認めるためには、その意味の変化と共に、形式 的な一体性についても考えなければならない。

本研究では花園が用いたテストなどを用いて、「するんじゃない」形式の統語的、意味的特 徴を考察して、その禁止用法における文法化の度合いを考察する。具体的には、以下のテスト を通して、「してはいけない」形式がひとつの語として一体化しているかどうかを見ていく。

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(134) 「のだ」形の複数回使用

a. 倒置の可能性 b. 程度副詞の挿入 c. 形式の取り替え d. 時制の取り替え e. 丁寧体の取り替え

4.5.3.1 「の」形の複数回使用

「するんじゃない」の「ん」は、助詞の「の」であり、判定詞の「だ」および否定辞の「な い」と組み合わさり、そこからさらに「じゃない」と音声変化しつつ、もとの意味が薄れ、複 合した形式の「んじゃない」になった。そのもとの意味の希薄化については、文末の「の」と 共起することからわかるので、以下の例文において示す。

(135) 「こわがるんじゃないの。もどればいいんだから」おタエがそういって、三人でも

どろうとすると、それでもやっぱりもりからでられなかった。

(現代日本語書き言葉均衡コーパス『山道あるき歌いだし』)

これに対して、肯定形式の「のだ」は文末の「の」とは共起できない。その例文は以下のよ うになる。

(136) a. * 座るんだの。

b. * 座るんの。

「するんじゃない」の「の」と文末の「の」が共起できるという結果から、「するんじゃな い」は語として一体化していると言える。