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これまでの重要な研究

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(1) 米国

1963年にLewisらは、1948~1961年までに死亡した米国の男性放射線科医425人の死因を 調査し、特に造血器・リンパ系疾患に着目して解析したところ、米国人男性全体と比べて白血 病 (標準化死亡比;SMR=3.0、95%信頼区間:1.5, 5.2、n=12)、多発性骨髄腫 (標準化死亡比;

SMR=5.0、95%信頼区間:1.6, 11.6)、再生不良性貧血 (標準化死亡比;SMR=17.0、95%信頼 区 間 :4.7, 44.5) が 有 意 に 増 加 し て い る こ と を 報 告 し た (Lewis EB et al., 1963, PMID:14077037)。Matanoski らは調査対象者を拡大し、北米放射線医学会に登録された約

6,500 人の放射線科医からなるコホートにおける死亡率を、放射線医学に関連しない学会に登

録された約24,000人の医師からなるコホートの死亡率と比較した。1920年から1969年まで の死亡を追跡した調査では、登録された年代別に放射線科医とその他の医師の死亡率が比較さ れ、1950年以前に登録された放射線科医の集団で、全がん、白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫 の 死 亡 率 の 増 加 が 見 ら れ た (Matanoski GM et al., 1975a, PMID:1115058 ; 1975b, PMID :1115059)。その後Matanoskiらは、追跡期間を1974年まで延長した調査結果を1984 年に公表した (Matanoski GM et al., 1984, REAID:2184011)。この調査によると、1920~1939

年に登録された放射線科医の全がん死亡は、全米の白人男性の死亡率から期待される死亡数(期 待死亡数)より38%多かった。この初期の放射線科医の集団では他の専門医と比べた場合、白 血病死亡も有意に増加しており、これは、主に急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病と慢性 骨髄性白血病によるものであった。一方、多発性骨髄腫による死亡は増加しておらず、観察死 亡数と期待死亡数の比 (SMR) は0.89であった。しかし、1940~1969 年に登録された放射線 科医では、白血病の有意な増加がみられなかった一方で、多発性骨髄腫については標準化死亡 比(SMR)が2.05 で、この増加は統計学的に有意であった。このように、白血病と多発性骨 髄腫の死亡率については、調査対象者の登録年との関連から見た場合、対照的な結果が得られ ている。

米国の放射線技師を対象とした疫学調査は、米国国立がん研究所とミネソタ大学らの研究グ ループによって1980年代に開始された。Mohanらは、米国で1926~1982 年に登録された約 14万人の放射線技師のうち、1983~1989年に実施した質問票調査に回答した90,305人を追跡 して、1983~1997年における死亡者を同定した (Mohan AK et al., 2003, PMID:1245504)。こ の研究では全がん、乳がん、肺がん、白血病について、内部比較により作業歴と死亡率の関連 が検討された。全がん及び乳がんの死亡率の作業開始年との間に有意な傾向性があること、

1950 年以前に作業を開始した集団ではその作業年数に応じて乳がん及び白血病の死亡率が有 意に増加することなどが報告された。またHauptmannらは、同じ死亡率データを用いて循環 器系疾患について作業歴との関連を解析した。この研究では、循環器系疾患全体、虚血性心疾 患、脳血管疾患について、死亡率と作業開始年との間に有意な傾向性があることが報告された (Hauptmann M et al., 2003, PMID:12543624)。

米国放射線技師の疫学調査ではがん及びその他の疾患の死亡率についてだけでなく、がん罹 患率についても検討がなされている。このうち最も重要なものはSigurdsonらのもので、この 調 査 で は 90,305 人 の 米 国 放 射 線 技 師 を 追 跡 し 、1983~1998 年 の が ん 罹 患 を 検 討 し た (Sigurdson AJ et al., 2003, PMID:12784345)。全がんの罹患数は男女合わせて3,292例で、期 待値に比べた標準化罹患比 (SIR) は1.04 (95%信頼区間:1.00, 1.07) であった。期待罹患数は 米国の地域がん登録からなるSurveillance, Epidemiology, and End Results Programのがん 罹患率のデータから求められた。女性の放射線技師では、固形がん全体 (標準化罹患比;SIR = 1.06; 95%信頼区間:1.02, 1.10; n = 2168)、乳がん(標準化罹患比;SIR = 1.16; 95 %信頼区間:

1.09, 1.23; n = 970)、黒色腫 (標準化罹患比;SIR= 1.66; 95%信頼区間:1.43, 1.89; n = 181)、

甲状腺がん(標準化罹患比;SIR = 1.54; 95%信頼区間:1.24, 1.83; n = 107) で統計学的に有 意な過剰が観察された。男性の放射線技師では、固形がん全体の罹患数が期待値より少なかっ たが(標準化罹患比;SIR= 0.92; 95%信頼区間:0.85, 0.98; n = 755)、黒色腫 (標準化罹患比;

SIR = 1.39; 95%信頼区間:1.00, 1.79; n = 56) と甲状腺がんの標準化罹患比(SIR = 2.23; 95%

信頼区間:1.29, 3.59; n = 17)では有意な過剰が観察された。男女合わせた解析では、口腔・

咽頭がん (標準罹患比;SIR = 0.73; 95%信頼区間:0.55, 0.90; n = 54)、直腸がん (標準化罹患 比;SIR= 0.62; 95%信頼区間:0.48, 0.76; n = 53)、肺がん (標準化罹患比;SIR= 0.77, 95%信 頼区間:0.70, 0.85; n = 307) の罹患数が期待値より有意に少なかった。この集団については特 定のがんに着目した研究も実施され、乳がん、甲状腺がん、肺がん、黒色腫、非黒色腫、皮膚 がん、白血病について詳細な解析結果が公表されている。最近、Simonら (Simon SL et al.,

2006, PMID:16808606) は米国放射線技師について職業歴等の情報からフィルムバッジ線量 および主要な臓器の吸収線量を再構築した。しかしながら、米国放射線技師におけるがんリス クを線量との関連から包括的に解析した結果はまだ報告されていない。

米国放射線技師のコホート研究においては、最近、がんリスクに与える放射線と遺伝的要因 の相互作用についても検討がなされている。Bhattiらは、乳がん症例859人とその対照1083 人を対象に、コホート内症例-対照研究を実施し、乳がんリスクに関わる一塩基多型(SNP)が 電 離 放 射 線 と 相 互 作 用 を 及 ぼ す か ど う か に つ い て 評 価 し た(Bhatti P et al., 2008, PMID:18708391.)。この研究では、乳がんに関連があるとされる11のSNPのうち、H19遺伝

子のrs2107425において、ゲノタイプに関連した乳がんリスクが放射線の線量によって有意に

異なっていること(相互作用のP値 = 0.001)が示された。また、Rajaramanらは、同じコホー ト内症例-対照研究において、職業被ばくあるいは医療被ばくの放射線による乳がんリスクが ヌ ク レ オ チ ド 除 去 修 復 遺 伝 子 に 関 わ る 多 型 に よ っ て 修 飾 さ れ る か ど う か を 検 討 し た (Rajaraman P et al., 2008, PMID:18767034)。調べた6つのERCC遺伝子変異のうち、ERCC5 rs17655だけが乳がんリスクとの関連が有意水準の境界域上にあり(オッズ比はGCで1.1、CC で1.3、傾向性のP値は0.08)、Cアレル変異を持っている人は職業被ばくの影響をより受けや すいことが示され (1 グレイあたりの過剰オッズ比は GG で 1.0(95%信頼区間:<0, 6.0)、

GCとCCで5.9(95%信頼区間:0.9, 14.4)、異質性のP値:0.10、ヌクレオチド除去修復に 関わるよくある変異が職業被ばくと乳がんリスクの関連を修飾しうる可能性を報告した。これ らの研究で用いられた線量推定値にはバイアスや不確実性の問題があるが、放射線リスクを遺 伝的要因に関わる個人の感受性との関連から評価した研究として有用である。

米国放射線技師のコホート研究においては、質問票を用いた調査によって生活習慣や既往歴 等について情報が収集され、解析に取り入れられている。Meinholdらは、90,713人(女性が

69,506人、男性が21,207人)の米国放射線技師における甲状腺がんリスクを放射線以外の因

子との関連から解析した(Meinhold et al., 2010, PMID:19951937)。甲状腺がんの罹患症例は 1983~2006年までの間に262例(女性242例、男性40例)確認された。女性の甲状腺がんリ スクは、良性甲状腺異常(ハザード比;HR=2.35、95%信頼区間:1.73, 3.20)、良性乳房疾患

(ハザード比;HR=1.56、95 %信頼区間:1.08, 2.26)、喘息(ハザード比;HR=1.68、95 % 信頼区間:1.00, 2.83)、BMI(18.5-24.9と比べた場合の35以上、ハザード比;HR=1.74、

95 %信頼区間:1.03, 2.94、傾向性のP値=0.04)と関連して増加した。肥満と良性甲状腺異 常が甲状腺がんリスクを増加させるという知見はその他の研究と同様であった。本研究のよう に放射線以外の因子とがんリスクとの関連を定量的に評価することは、放射線リスクを理解す る上で有用である。

(2) 英国

放射線科医を対象とした先駆的な疫学調査として、Court Brown と Doll は、英国で

1897~1954 年の間に放射線医学会に登録された放射線科医 1,338 人の死亡追跡調査結果を

1958年に発表した (Court Brown WM and Doll R, 1958, PMID:13560819)。その後、追跡期 間を1977年まで拡大した調査結果がSmithとDollによって発表された (Smith PG and Doll R, 1981, PMID:7470779)。2001 年のBerrington らの論文では1955~1979 年に登録された

1,352 人を追加し、追跡期間がさらに 1997 年まで延長された (Berrington A et al., 2001, PMID:11459730 )。この英国の研究は、医療従事者を対象とした疫学調査のなかでは追跡期間 が最大の研究である。

Berringtonらの報告では、1897~1979年までに登録された男性放射線科医2,698人の1997 年までの全がん死亡数と英国とウェールズの男性開業医の死亡統計を基に計算された期待死亡 数との比(標準化死亡比;SMR=1.16(P<0.05)であった。しかし、これは主に 1920年以前 に登録された集団での過剰死亡によるもので、この初期の集団ではSMRは1.75で、統計学的 に有意な増加であった。一方、1920年以降に登録された集団では過剰な全がん死亡は観察され ず、標準化死亡比(SMR)は 1.04(95 %信頼区間:0.89, 1.21)であった。しかし、最初に 放射線学会に登録されてからの年数が長いほど全がんの死亡率は高かった (P=0.002)。また、

1955年以降に登録された集団の全がん死亡数は期待値より、有意ではないものの少なかった。

非がん疾患についても死亡率が解析されたが、放射線科医における過剰は観察されなかった。

この研究では、登録されてから 20 年以上の放射線科医に限定して、期待死亡数の計算に社会 階層Iの男性の死亡率を用いて部位別がんの解析が行われた。1920年以前に登録された集団で は膵がんの有意な増加が観察された (標準化死亡比;SMR=3.88、n=5)。また、1920年以降に 登録された集団では全がん (標準化死亡比;SMR=1.17、95%信頼区間:1.01, 1.34、n=140) に 加え、白血病 (標準化死亡比;SMR=2.40、95 %信頼区間:1.04, 4.73、n=8)、非ホジキンリ ンパ腫 (標準化死亡比;SMR=3.08、n=9)、前立腺がん (標準化死亡比;SMR=1.61、95%信 頼区間:1.00, 2.44、n=22) による死亡が有意に増加していた。

(3) デンマーク

デンマークにおける二か所の病院で、1954~1982 年の間放射線治療に従事していた人達

4,151人について、1968~1985年のがん罹患が国のがん登録との照合により確認され、全国民

のがん罹患率を基準とした標準化罹患比 (SIR) を指標として、がんリスクが評価された (Andersson M et al., 1991, PMID:2036572)。研究対象者の職種は看護婦、医師、技師などで、

全ての研究対象者について個人線量の測定値が得られ、平均蓄積被ばく線量は18.4 mSvであ った。全がん、白血病では標準化罹患比(SIR)がそれぞれ1.07 (95%信頼区間:0.91, 1.25、

n=163)、0.70 (95%信頼区間:0.08, 2.54、n=2) で、有意な過剰は観察されなかった。蓄積線 量や従事年数とがん罹患率の関係も調べられたが、両者の間に明瞭な関係は見られなかった。

しかし、前立腺がんの罹患が5例観察され、標準化罹患比(SIR)は6.02 (95%信頼区間:1.94,

14.06) と有意に高かった。このように前立腺がんのみが有意に高いリスクを示したが、著者ら

は偶然による結果であるだろうと結論づけた。この研究では、医療従事者におけるがん罹患率 を一般集団のそれと比較しているが、前立腺がんが社会階級の高いクラスで多く発生すること で標準化罹患比(SIR)の増加を説明できるかもしれない。

(4) 中国

中国の調査では、診断用X線を用いる27,011 人の放射線科医・技師のがん罹患率が、放射 線を扱わない25,782人の医師等のがん罹患率と比較された。1950~1980年までのがん罹患率 を解析したWangらの最初の論文では、放射線科医・技師のがん罹患率は対照群より50%高く

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