1)放射線治療
(1) ホジキン病で治療を受けた若年者
Boivin らが1984 年に公表した研究では 1940~1975 年に診断されたホジキン病患者2,591 人を診断後1年から 1978年まで追跡し、74 例の二次がん(21 例の白血病を含む)を同定し た (Boivin JF et al., 1984, PMID:6420598)。Boivinらの1995年の論文では、米国とカナダ の14のがんセンターで1940~1987 年に診断されたホジキン病患者10,472人における二次が ん発生状況を追跡した結果が報告された (Boivin JF et al., 1995, PMID:7563150)。放射線治 療後 10 年以上を経た患者で呼吸器と胸郭内のがんが有意に増加していた (相対リスク= 2.7;
95%信頼区間:1.1, 6.8)。
米国がん研究所のKaldorらは1990年の論文で、ホジキン病治療後に白血病を発症した163 例と、各症例に3例の対照(白血病のないホジキン病患者)を用いて症例-対照研究を行った (Kaldor JM et al., 1990, PMID:2403650)。放射線治療だけを受けた患者では線量と白血病リ スクに関連が観察された。
Metayerらが報告した米国がん研究所のグループが行った調査では20 歳以前に診断された
ホジキン病患者 5,925 人を追跡して二次がんの発生を検討した (Metayer C et al. 2000, PMID:10856104)。この調査では北米と英国の16のがん登録に1935~1994年に登録されたホ ジキン病患者を対象とした。10年以上の生存者が2,646人、20年以上の生存者755人であっ た。二次がんとして157例の固形がんと26例の白血病が同定された。リスクが線量に依存し ないとして計算された期待値と比べ、固形がんは7倍 (95%信頼区間:5.9, 8.2)、白血病は27.4 倍 (95%信頼区間:17.9, 40.2) 増加していた。固形がんの過剰は20年以上の生存者でも持続 していた。部位別の解析で過剰リスクが観察されたのは、甲状腺、女性乳がん、骨・結合織、
胃、食道のがんであった。10歳以前に治療を受けた子供では甲状腺と呼吸器のがんのリスクが 期待値の50倍以上に増加していた。
Doresらは、ホジキン病患者32,591人を追跡して二次がんの発生を検討した(Dores GM et al., 2002, PMID :12177110)。この調査では北米と英国の16のがん登録に1935~1994年に登 録されたホジキン病患者を対象とした。10年以上の生存者が2,646人、20年以上の生存者755 人であった。2,153 例の二次がんが同定された。固形がんは 1,726 例であった。肺がん(377 例)、消化管のがん(376例)、女性乳がん(234例)が主な二次がんであった。
米国がん研究所のTravisらは2003年のJAMA論文で、米国、カナダ、デンマーク、フィ ンランド、スウェーデン、オランダなどの患者-対照研究データをプールし、ホジキン病治療 後に乳がんを発症した105例と、乳がんのないホジキン病患者266例を対照に用いて乳房線量、
卵巣線量、アルキル化剤、治療による閉経などの影響を検討した (Travis LB et al., 2003, PMID:12876089)。乳房への4 Gyの放射線被ばくは乳がんリスクを3.2倍増加させた。40 Gy 以上の被ばくではリスクは 8倍 (95%信頼区間:2.6, 26.4) に増加した。乳房の臓器線量と乳 がんリスクの関連は統計学的に有意でなかったが(傾向性の P 値=0.09)、直線的な線量-反 応関係のもとで得られる過剰相対リスク(ERR) は0.049 (95%信頼区間:0.004, 0.34) であった。
放射線被ばくによる過剰リスクは治療後 25 年以上を経ても観察され、被ばく時年齢、産科・
婦人科歴で影響されているようには見えなかった。アルキル化剤による治療は放射線被ばくに よる乳がんの相対リスクを減少させた。すなわち、放射線と同時にアルキル化剤を使用すると、
放射線治療による乳がんリスクの増加は1.4倍に過ぎなかった。また、乳がんリスクは、卵巣 線量が高いと減少していた。これはホルモン刺激が放射線による乳がん誘発に重要な役割を果 たしていることを示唆している。
米国がん研究所の Gilbert らは2003 年の論文で、米国、カナダ、デンマーク、フィンラン ド、スウェーデン、オランダなどの患者・対照研究データをプールし、ホジキン病治療後に肺 がんを発症した227例と、肺がんのないホジキン病患者455例を対照に用いて放射線被ばく、
喫煙、アルキル化剤治療などの影響を検討した (Gilbert ES, 2003, PMID:12537521)。肺の臓 器線量と肺がんリスクは有意に関連しており、直線的な線量-反応関係のもとで得られる過剰
相対リスク(ERR)は0.15/Gy (95% 信頼区間:0.06, 0.39) であった。肺の臓器線量が30 Gyを 超えているものが大半であるにも拘わらず、線量-反応関係が直線性から乖離している証拠は 得られなかった点は特に興味深い。放射線被ばくとアルキル化剤による肺がんリスクは、双方 が重なった場合、相加的な効果を示し、相乗的なモデルは棄却された (P = 0.017)。逆に喫煙と 放射線被ばくの肺がんリスクは両者が重なったとき相乗的な効果を示し、相加的なモデルは棄 却された (P< 0.001)。過剰相対リスク(ERR) は男性の方で大きかったが、男女差は有意でな かった。過剰相対リスク(ERR)は放射線治療からの期間、治療時年齢、到達年齢より有意に修 飾されてはいなかった。
Hodgson らが報告した米国がん研究所のグループが行った調査では北米・ヨーロッパの 13
のがん登録に登録されたホジキン病患者 18,862 人を追跡して二次がんの発生を検討した (Hodgson DC et al., 2007, PMID:17372278 )。固形がんは1,490例が同定された。固形がんの 過剰相対リスク(ERR)、過剰絶対リスク(EAR)は診断時年齢が高いと低くなり、到達年齢に依 存していた。
Travisらは、1973~1987年に米国の全米がん登録(SEER;Surveilance Epidemiology and End Results) プログラムで同定された非ホジキンリンパ腫患者29,153人を追跡し、二次がん の発生状況を追跡した (Travis LB et al., 1991, PMID:2004317)。急性の非リンパ性白血病、
膀胱がん、肺がんで有意な過剰が観察された。
van den Belt-Duseboutらは、1965~1995年にオランダで精巣がん(睾丸がん)、あるいはホジ
キンリンパ腫で治療された5,142人の生存者の追跡を行い、治療、喫煙、胃腸疾患、家族歴に 関する詳細な情報が42例の胃がん症例と性、年齢、がんの診断年をマッチングした126例の 対照例でコホート内、症例-対照研究を行った(van den Belt-Dusebout AW, et al., 2009, PMID:
19931732)。胃がんリスクは平均胃線量が高くなるにつれて増加し(傾向性の P値 <0.001)、
1Gyあたりの過剰相対リスク(ERR)は0.84、(95%信頼区間:0.12, 15.6)であった。胃がんリ スクは、精巣がんあるいはホジキンリンパ腫の診断後 10 年より増加し、診断時年齢が高くな るにつれて減少した。11 Gy未満を基準とすると、20 Gyを越える平均胃線量の相対リスク(95%
信頼区間)は9.9 (3.2, 31.2)であった。胃がんの絶対リスクは比較的低いものの、そのリスクは 胃線量に強く依存していた。
(2) 胃潰瘍の放射線治療
Griemらは1937~1965年に胃潰瘍で放射線治療を受けた1,831人(平均線量は14.8 Gy)
と1,778人の非放射線治療群を平均21.5年間(最大51年)に亘って追跡した (Griem ML et al., 1994, PMID:8182765)。対象者の70%近くが死亡していた。一般集団と比べ患者のがん死亡率、
他疾患死亡率は高かった。わずかではあるが心疾患死亡の過剰が観察された。放射線治療群で、
全がん、胃がん、膵がん、肺がん、白血病の統計学的に有意な増加が認められた。放射線治療 群と非放射線治療群の死亡率の比をとった相対リスクは全がんで1.53 (95%信頼区間:1.3, 1.8)、
胃がんで2.77 (95%信頼区間:1.6, 4.8)、膵がんで1.87 (95%信頼区間:1.0, 3.4)、肺がんで1.7 (95%信頼区間:1.0, 2.4)、白血病で3.28 (95%信頼区間:1.0, 10.6) であった。
上記の米国の集団についてさらに追跡調査が続けられた (Carr ZA et al., 2002, PMID:
12005546)。この論文では1936~1965年までに3,719人(1,859人が放射線治療を、1,860人
が放射線治療を受けていない)のコホートについて 1997 年末まで調査が行われた。平均追跡 期間は25年で、胃の平均被ばく線量は14.8 Gy (1.0~42.0 Gy) であった。全がんは被ばく線量 と有意に関連していた。線量-反応関係が直線的と仮定して、全がん死亡率の過剰相対リスク (ERR)を推定ると、被ばく線量が10 Gy以下では0.20/Gyで、原爆被爆者の推定値 (=0.24;
95%信頼区間:0.10, 0.40) と大きくは違わない値だった。
(3) 子宮頸部がんの放射線治療
Boiceらの1988年に報告した研究では、14 カ国、19 のがん登録に報告された、または20 の腫瘍クリニックで治療を受けた15万人のがん症例から、4,188例の二次がん患者と6,880例 の対照(二次がんを持たないがん患者)を選んで詳細な調査が行われた (Boice JD et al., 1988, PMID:3186929 )。放射線治療記録から患者ごとに臓器線量が推定された。0.11 Gy程度の被ば くでも、甲状腺がんが2倍増加していたが、統計学的に有意ではなかった。乳がんは増加して いなかった(相対リスク=0.9)。なお、乳がん患者の平均被ばく線量は 0.31 Gy で、症例数は 953 例であった。乳がんは女性ホルモン関連がんであり、自然閉経や卵巣切除で放射線リスク が低下する。バックグランドリスクが低い集団では相対リスクが高めに出る可能性があるが、
この研究でも、卵巣を切除された女性では、線量-反応関係が弱くなることが示唆された。ま た、卵巣への6 Gy以上の放射線照射は乳がんリスクを44%減少させた。数Gyの被ばくは胃 がん(相対リスク=2.1)、白血病(相対リスク=2.0)を増加させた。
数百Gyに達する高い線量の被ばくは膀胱がん(相対リスク=4)、直腸(相対リスク=1.8)、腟
(相対リスク=2.7)のがんを増加させた。また、骨(相対リスク=1.3)、子宮体部(相対リスク
=1.3)、盲腸(相対リスク=1.5)のがん、非ホジキンリンパ腫(相対リスク=2.5)を増加させた 可能性がある。女性性器のがんをまとめて解析すると、強い線量-反応関係があり、150 Gy で5倍程度のリスク増加が認められる。数Gyの被ばくは胃がん(相対リスク=2.1)、膵がんを 増加させたが、膵がんでは線量-反応関係は見られなかった。腎がんは 15 年以上の生存者で 増加していた。放射線と関連するがんは、ほとんどの場合長期生存者で最もリスクが高く、比 較的若い時期に被ばくした女性に集中していた。放射線は、小腸、結腸、卵巣、女性性器(外 陰)、結合組織、乳房のがん、ホジキン病、慢性リンパ性白血病、多発性骨髄腫を増加させてい なかった。放射線治療後5年間は、卵巣がんリスクの減少が観察された。一方、10年間以上の 生存者では線量-反応関係が認められた。
この研究の最新の報告は2007年のChaturvediらの論文である。デンマーク、フィンランド、
ノルウェー、スウェーデン、米国で診断から一年以上生存した子宮頸がん患者104,760人を13 の地域がん登録を用いて追跡した (Chaturvedi AK et al., 2007, PMID:17768327)。二次がん が12,496例同定された。この集団のがん罹患率は一般集団に比べて1.30倍 (95%信頼区間:
1.28~1.33) 高く、これは有意な増加であった。過剰リスクは放射線治療を受けた群に限られて
いた。高い線量に被ばくした結腸、直腸・肛門、膀胱、卵巣、性器におけるがんの増加は、被 ばく後40年以上を経た後でも観察された。なお、2008年のChaturvediらの論文では、子宮 頸がんを扁平上皮がん 85,109 例と腺がん 10,280 例に分けて解析した例(二次がんは全体で
10,559例、腺がん患者920例)では、一般集団のがん罹患リスクと比較して得た標準化罹患比
(SIR) は子宮頸がん全体で 1.0で扁平上皮がんと腺がんで二次がんの過剰リスクにほとんど差
は認められなかった (Chaturvedi AK et al. 2009, PMID:9114696)。
(4) 骨髄移植
Curtis らは、白血病、リンパ腫をはじめとする疾患の治療で1964~1992 年に骨髄移植を受
けた患者約19,229人を追跡し、移植後の固形がんリスク因子を検討した (Curtis et al., 1997, N Engl J Med)。同種(allogeneic)移植が97.2%、同系(syngeneic)移植が2.8 %であった。
移植後の追跡調査で同定された固形がんは80例で、移植患者では固形がんリスクが2.7倍増加 した。悪性黒色腫、口腔(buccal cavity)、肝臓、脳・中枢神経、甲状腺、骨、結合織のがんが 増加していた。多変量解析では放射線全身照射が固形がんリスクと関連していた。単発の放射 線全身照射では10 Gy以上の被ばくで固形がんリスクが2.7倍増加していた (P = 0.006)。10 Gy 未満の被ばくでは固形がんリスクの増加は観察されなかった。分割照射を受けた患者では 被ばく線量と固形がんリスクに有意な関連が観察された(傾向性のP 値 = 0.001)。部分照射 では固形がんの相対リスクは16.1/Gyであった (95%信頼区間:3.2, 80.7)。
(5) 医療被ばくによる甲状腺がん
医療被ばくによる甲状腺がんの疫学調査として重要なものに、頭頸部の良性疾患(がん以外 の疾患)で放射線治療を受けた子供たちを追跡して甲状腺がんリスクを検討した研究がある。
イスラエルで頭皮白癬症治療のため、平均で90 mGy(範囲は40~500 mGy)の線量に被ばく した子供10,834人と対照群16,226人を比較した調査では甲状腺がんが被ばく群で44 例、対 照群で 16 例同定され、過剰相対リスク(ERR) は 32.5/Gy (95%信頼区間:14, 57) であった (Ron E et al., 1995, PMID:7871153)。一方、米国で行われた同種の調査では被ばく群2,224人
(平均線量60 mGy)、対照群1,380人が追跡されたが、被ばく群で有意な甲状腺がんの増加は 観察されなかった (Shore RE et al., 2003, PMID:13678280 )。この食い違いは、米国での調査 の規模と線量が低かったためと解釈されており、二つの研究の結果の違いは統計誤差で説明で きると考えられている。
米国国立がん研究所放射線疫学部の Ron らは放射線被ばくを受けた子供を追跡したコホー ト調査(イスラエルの頭部白癬症で放射線治療を受けた子供の調査、原爆に被ばくした子供の コホート、扁桃腺肥大、胸腺肥大などで放射線治療を受けた子供を追跡した三つのコホート)
で得られたデータをプールして解析(プール解析と呼ばれる)した。その結果によると (Ron et al., 1995, PMID:7871153) 、過剰相対リスク(ERR)は7.7/Gy (95%信頼区間:2.1, 28.7) であ った。外部被ばくによる甲状腺がんリスクは20歳未満で被ばくすると特に高かった。
スウェーデンのLundellらの調査では、1920~1959年に皮膚の血管腫の治療でベータ粒子、
ガンマ線、X線による治療を受けた幼児たち143,517人を追跡した。甲状腺線量は0.26 Gy(範 囲 < 0.01~28.5 Gy)と推定され、スウェーデンがん登録を利用して甲状腺がんを同定した (Lundell M et al., 1994, PMID:7972685)。1958~1986年の期間に17例の甲状腺がんが同定さ れたが、これは一般人の甲状腺罹患率をもとに計算された期待値より2.28倍 (95%信頼区間:
1.33, 3.65) 高かった。なお、甲状腺がん症例の平均甲状腺線量は1.07 Gy( < 0.01~4.34 Gy)
であった。甲状腺がんの過剰リスクは被ばく後19年以降に始まり、少なくとも40年以上は続 いていた。甲状腺がんリスクは線量とともに増加しており過剰相対リスク(ERR) は 4.92/Gy