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これまでの重要な研究

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(1) 中国陽江地域の高自然放射線地域における研究

中国広東省陽江の高自然放射線地域の自然放射線レベルは通常の 3 倍以上のレベル (2~5

mSv/y) であり、この地域には約7万人が住んでいるが、その半数が10世代以上にわたって住

み続けている。中国衛生部工業衛生実験所(現National Institute for Radiological Protection)

のWei Luxin博士を中心とした中国の研究グループは1972年以降、放射線レベルの測定のみ

ならず、住民への健康影響も調査し、その結果をまとめ1980年にScience誌に報告した (High Background Radiation Research Group, 1980, Science)。彼等の調査によると、がん死亡は増 加しておらず、むしろ対照地域に比べ少し低かった。遺伝病の増加は見られなかったがダウン 症は例外で、高自然放射線地域に高かった。しかし、高自然放射線地域と対照地域で母親の出 産時年齢に違いがあるなどの方法論的な問題点が指摘され、その後の調査ではこれらの問題点 を考慮した検討が行われたがダウン症の増加は確認されなかった。1980年代には米国がん研究 所との中・米共同研究が行われ、女性の甲状腺結節の有病率などが検討されたが、増加は認め

られなかった(Wang JX et al., 1990, PMID:2335392)。1990年代からはWei Luxin博士と菅 原努京大名誉教授の指導の下で日中共同研究が行われてきた。これまでに公表された研究結果 で重要なものは、早田勇博士(放医研、当時)の指導の下に中国の研究者らが行った染色体の 研究結果で、不安定型染色体異常である環状染色体と二動原体では放射線の影響が見られるが、

安定型染色体異常である転座では放射線の影響が検出できないこと、中国の高自然放射線地域 の放射線レベルでは喫煙の方が放射線より染色体異常を多く誘発することなどの結果を得てい る(Zhang W et al., 2004, PMID:15613790)。なお、死亡率調査では、がん、非がんともに放 射線被ばくによるリスクの増加は見られない。最近、高自然放射線地域の結核死亡率が対照地 域より低いとも報告されているが、結論を得るには、さらに詳細な検討が必要である。

(2) インドケララ州カルナガパリの高自然放射線地域における研究

インド南西端、ケララ州のアラビア海に面した海岸地帯に放射線レベルと人口密度から見て 世界的にも有数の高自然放射線地帯が存在している。この地域にはモナザイトを含む黒い砂が 堆積しており、これに含まれるトリウム、ウランが高自然放射線の原因となっている。

なお、モナザイトにはチタニウムなどの希元素も含まれ、この地方の貴重な鉱物資源となっ ている。主な高自然放射線地域はケララ州KarunagapallyとTamil州Manavalakurichiにあ るが、後者に関する調査はほとんど行われていない。Karunagapallyの高自然放射線地域が注 目されだしたのはWHOの専門家委員会が1959年にChavaraとNeendakara地域の放射線レ ベルが高い可能性を指摘してからのことである。この地域の人口は 1991 年の調査によると 385,103人、世帯数約7万を数える。1990年代に入ってから、Trivandrumにある地域がんセ ンター(ケララ大学の付属施設でもある)がKarunagapally住民全員の生活習慣調査を行うと ともに、がん登録を設立して、当地方のがん罹患率などを調査している。がん登録のデータは 世界がん研究機関から出版されている「五大陸のがん」にも掲載されており、比較的信頼に足 るものと考えられる。最近、まとめられたKarunagapally地域住民約半数を対象としたコホー ト調査結果によると、住民の自然放射線による生涯累積線量が、がん罹患率と関連することを 示す証拠は得られなかった (Nair RR et al., 2009, PMID:19066487)。直線しきい値なし仮説の もとで単位累積線量当たりの過剰相対リスク(ERR)を計算すると-0.13/Gy (95%信頼区間:

-0.58, 0.46) であった。なお、2009年末までには、Karunagapally地域住民全体を対象とした コホート調査から得られたデータの解析が可能になり、95%信頼区間はかなり狭まると予想さ れている。このインドでの調査は、①コホート研究であること(中国での研究もコホート研究)、

②がん罹患例を用いてリスクを検討していること、③喫煙習慣、社会経済状態などのポテンシ ャルな交絡因子の情報が得られ、リスク解析で考慮されていること、④集団の規模が 10 万人 を超えていて、観察人年も150万人年を超え、単位線量当たりの固形がんリスクを原爆被爆者 コホートと比較するのに十分な統計学的検出力を持つこと、⑤原子力作業者では職場で放射線 以外の発がん要因への曝露を否定できないが、この集団では職場での発がん物質への曝露の可 能性は低いことなど、重要な特長を持っており、その研究結果に注目が集まっている。

(3) テチャ(Techa) 川周辺住民

1948年に建設されたSouthern Urals のMayak プルトニウム複合施設から1949~1956年

に大量の放射線廃棄物がテチャ川に直接放出された。1950~1951年ころが排出のピークであっ たとされている。その結果として、テチャ川流域の住民が 1950 年代に慢性の被ばく(外部被 ばく+内部被ばく)を受けたと推定されている。内部被ばくの主なソースはストロンチウムと Csであった。1950~1952年にはテチャ川流域で放出点から75 km以内に7,500人ほどが居住 していた (Ostroumova E et al., 2006, PMID:16522942)。住民の健康影響を調査するために確 立されたテチャコホートは1950~1952年にテチャ川流域のChelyabinsk Oblastの25の村(放 出点から7~148 km)に住んでいた18,389 人とKurgan Oblast (放出点から155~237 km) の 住民11,411 人を含む約29,800人からなる (Krestinina LY et al., 2007, PMID:17768163 )。

このコホートには、その後(1953~1960年)に流域に移住してきた約5,000人が追加され、拡 大Techaコホートと呼ばれている (Ostroumova E et al., 2006, PMID:16522942)。コホー トの追跡結果は定期的に報告されており、1950~1982年の死亡が1994年に (Kossenko et al., 1994, PMID:8178140)、1989 年までの死亡が 1997 年に (Kossenko MM et al., 1997, PMID:9216619)、1999年までの死亡が2005年 (Kossenko MM et al., 2005, PMID:16238436) に公表された。1999年までの報告では、白血病で4.2 (95%信頼区間:1.2, 13)/Gy、慢性リン パ性白血病を除く白血病で6.5 (95%信頼区間:1.8, 24)/Gyで、固形がんの過剰相対リスク(ERR) は0.92 (95%信頼区間:0.2, 1.7)/Gyであった。

Ostroumovaらは拡大 テチャコホートから同定された87例の白血病罹患症例と、同じコホ

ートから性、被ばく時年齢、診断時年齢(5歳幅)、流域に住みはじめた年齢をマッチさせて選 ばれた対照415例を用いて、研究を行った (Ostroumova E et al., 2006, PMID:16522942)。推 定線量はTecha River Dosimetry System 1996 (TRDS96) を用い、条件付きロジスティック解 析でオッズ比を推定した。慢性リンパ性白血病を除く白血病の線量当たりのオッズ比は外部被 ばくで4.6 (95%信頼区間:1.7, 12.3)、内部被ばくで 7.2 (95%信頼区間:1.7, 30.0)、外部被ば くと内部被ばく合計で 5.4 (95%信頼区間:1.1, 27.2) であった。固形腫瘍(良性腫瘍とがん)

の履歴は白血病リスクを2.5倍増加させていた。腫瘍の既往がある患者が12例あったが、それ を除いてもオッズ比は4.3 (95%信頼区間:1.6,11.3, P= 0.004) であった。

Krestininaらは拡大 テチャコホートの中で、がん罹患を同定できる17,433人の住民を1956 年から 2002年まで 47年間追跡して2,059 例の固形がん罹患例を同定した。移住してきた住 民での症例を除くと 1,846 例であった。LNT モデルによる解析で固形がんの過剰相対リスク (ERR)は1.0/ Gyで95%信頼区間は0.3, 1.9 (P = 0.004) と推定された (Krestinina LY et al., 2007, PMID:17768163)。

Ostroumovaらはさらに9,908人の女性を対象に乳がん罹患リスクを解析した。線量ととも

に有意な乳がんリスクの増加があり、過剰相対リスク(ERR)の推定値として5.00 (95% 信頼区 間: 0.80, 12.76) と、非常に高い値が得られた (Ostroumova E et al., 2008, PMID:19002173)。

Techa川流域住民の研究は、近年注目されているが、2005年のがん死亡率を解析した論文では、

流域に住むスラブ人とタタール人で固形がんの線量当たりリスクが大きく異なり、スラブ人で 過剰相対リスク=0.6/Sv、タタール人で過剰相対リスク=2.9/Sv であった (Krestinina LY, 2005, PMID:15703527)。また、対照地域でのスラブ人とタタール人のがん死亡率が大きく異なり、

人口10万人当たりのがん死亡率がスラブ人では153~187、タタール人では103~126であった。

2007 年のがん罹患率論文ではスラブ人とタタール人+バシキール人(Bashikir) が比較されて

いるが、固形がんの線量当たりリスクの人種による差はほとんどなくなった (Krestinina LY et al., 2007, PMID:17768163) 。この結果は、がん死亡率とがん罹患率に無視できない人種差が あることを示唆しているが、この点について十分な検討が必要であろう。また、Ostroumova らが報告した乳がんの線量当たりリスクは原爆被爆者などから報告されている値と比べ一桁高 い (Ostroumova E et al., 2008, 19002173)。この結果は放射線被ばくと関連する乳がんリスク 要因による交絡の可能性を示唆する。テチャ川流域住民での調査では、産科婦人科歴、生活習 慣等の乳がんリスク関連因子の情報がコホート全体から系統的に収集されていないと指摘され ており、この点に関しても今後の検討が必要である。

(4) 台湾のコバルト-60を含む鋼材を用いた建築物住民

台湾で1982年にコバルト-60を含む鋼材が補強材として加工され、1983年と1984年にか けて学校を含む200以上の建築物で用いられ、このため1万人以上の市民や学童が長期にわた り0.5~270 μGy/時の放射線被ばくを受けた。Wushou Peter Chang の研究グループは被ばく 線量の分かった対象6,242人(男性:2,967人、女性:3,275人)を対象に行った1983~2005 年の追跡調査結果を最近公表した (Hwang SL, 2008, PMID:18666807)。平均推定累積被ばく 線量は約48 mGy(中央値は6.3 mGy;<1~2,363 mGy)で、最初の被ばく時と追跡期間の 終了時における平均年齢はそれぞれ17±17歳と36±18歳であった。追跡期間は平均19年でそ の間に128人ががんと診断された。がん症例の同定は台湾がん登録とのコンピュータによる記 録照合で行われた。潜伏期間を白血病2年、その他のがん10 年としてリスク解析を行った。

性と出生年を調整し、到達年齢をタイムスケールとしたコックス比例ハザードモデルから得ら れた過剰相対リスク(ERR)は慢性リンパ性白血病を除く白血病で1.9/Gy (両側検定 P=0.08)、

白血病を除くがんでは0.4/Gy (両側検定 P=0.32) であった。部位別の検討では乳がんが放射線 被ばく線量と最も強い関連を示し、過剰相対リスク(ERR)は1.2/Gy (two-sided P=0.13) であっ た。それ以外で比較的大きな過剰相対リスク(ERR) を示したのは肺がんと胃がんで、それぞれ の過剰相対リスク(ERR)は0.9/Gy (両側検定P =0.21) と1.0/Gy (両側検定 P=0.41) であった。

放射線被ばくと関連した甲状腺がんの増加は見られなかった。

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