もが 認め る﹁ 視覚 美の 世界
﹂に つい て︑ それ は﹁ 絢爛 たる 卑近 美﹂ であ り︑
﹁隈 取り の美 学﹂
﹁見 得と 見 立て と立 回り
﹂で ある
︒
①ま ず︑
﹁色 が絢 爛華 麗で 多彩 なこ と﹂︵ 一〇 九頁
︒︶ 舞台 装置
・衣 裳・ 化粧
・諸 道具 の多 彩で 配合 のい いこ と︑ その 美意 識は 浮世 絵に 通じ
︑
蕭条 たる 幽玄 美 の能 に対 する﹁芸 術的 に高 級な る卑 近美
﹂︵ 岸田 劉生
︶で ある
︒非 常に 多い 赤は 官能 的刺 激を よび おこ す美 とい うこ と で卑 近と いっ たと 思わ れる
︒ 視覚 美で 最も 際立 つも のは
﹁隈 取﹂
︒﹁ 隈と は一 般に 陰影 のこ と︒ 白く 塗っ た顔 に骨 格に 沿っ て色 の線 をえ がき
︑ 片ぼ かし にし て筋 肉と 影を つけ る︒ その 色や 線の 数や 太さ
︑形 など によ って 役柄 の性 格を 表現 する
﹂︵ 一一 二頁
︶ ので ある
︒赤
・藍 また は黒
・黛たい
︵代
︶赭しや の三 系統 あり
︑そ れら の組 合せ は一
〇〇 種に のぼ る︒ 役柄 には
︑超 人的 豪 傑︑ 超能 力の 敵役
︑超 自然 の存 在と いっ たロ マン の世 界の 役が ある
︒ その さい
︑赤 は正 義の 豪傑 で︑ 荒々 しい
﹁暫
﹂は
﹁筋 隈﹂
︑﹁ 国性 爺合 戦﹂ の和 藤内
・﹁ 菅原 伝授 手習 鑑﹂ の梅 王 丸は 目の 縁だ けの
﹁む きみ
﹂で あり
︑同 一役 柄で も登 場す る場 によ り︑ 隈取 の有 無が あり
︑種 類が あっ て一 様で は ない 藍 ︒ 系は 超能 力を もつ 悪人
・悪 霊の たぐ いで
︑﹁ 般若 隈﹂
︵﹁ 道成 寺﹂ の蛇 体︶
︑﹁ 鬼女 隈﹂
︵﹁ 紅葉 狩﹂
﹁戻 橋﹂ の鬼 女︶
︑
﹁亡 霊隈
﹂︵
﹁船 弁慶
﹂の 知盛 が︶
︒ 黛赭 系は
﹁土 蜘﹂ の蜘 蛛の 精︒
歌舞 伎の 登場 人物 は人 間だ から
︑超 次元 の存 在を 主人 公と する 能が 仮面 をつ ける のと 異な り︑ 超人 的キ ャラ クタ ーを 表す 場合 には
︑仮 面の 代わ りに 隈取 とい う方 法を 考え たの だと 思う
︵一 一三 頁︶ が︑ あく まで 人間 の性 格を リ アル に強 調す るた めの もの にす ぎな い︑ と著 者は いう
︒ 次に
︑隈 取に
﹁ぼ かし
﹂を 使う のは 日本 画を 想像 すれ ばい い︒ そこ には
﹁余 白﹂ を重 視し
﹁気 韻生 動﹂ を生 命と する 日本 画の 心に 通ず るも のが あり
︑隈 取は 人間 描写 のリ アリ ティ ーの うえ に日 本画 の美 意識 が加 わっ た独 自の 化 粧法 であ る︒
②﹁ 見得
﹂も 隈取 と同 じ元 禄・ 享保 のこ ろに 始ま った
︑﹁ 要所 要所 でポ ーズ をと り︑ 数秒 間静 止す ると いう 演技 方法
﹂で ある
︒こ れに は︑
﹁不 動見 得﹂
・﹁ 石投 げ見 得﹂
︵﹁ 勧進 帳﹂ 弁慶
︶︑
﹁柱 巻き の見 得﹂
︵﹁ 鳴神
﹂︶
︑﹁ 元禄 見得
﹂
︵﹁ 暫﹂ な︶ どあ るが
︑幕 切れ につ いて は﹁ 引張 りの 見得
﹂﹁ 絵面 の見 得﹂ と呼 ぶ︒
﹁絵 面の 見得
﹂が
﹁見 立て
﹂︵ みた てた 絵︶ にな って いる のは 極め て日 本的 だと 讃美 する
︒
﹁立 回り
﹂に 大事 なの は﹁ とん ぼ﹂
︒夜 の暗 闇の なか の立 回り は﹁ だん まり
﹂︵ 舞台 は明 るく 手さ ぐり の動 作︶ とい う︒
﹁役 者・ 役柄
・女 形﹂ は省 略︒
③﹁ 芸・ 型・ 伝承
﹂に つい て︒ 歌舞 伎の 芸は
︑役 柄の 多様 さに 対応 して 多様 をき わめ てい るが
︑共 通し てみ られ る特 徴に つい てあ げて みよ う と︒ まず
︑古 典演 目に 関す るか ぎり
︑役 者の 型・ 様式 はき まっ てい て演 出と いう こと はな い︒ 正に 役者 の肉 体的 伝 統に よる とい う特 徴が ある
︒そ こに
︑視 聴覚 を大 事に する 芝居 であ るこ との 証し があ る︒ 従っ て︑ 身体 の大 きさ
・ 芸の 上手 下手
︵器 用か どう か︶ より
︑容 姿・ 芸風 の﹁ 大き さ﹂ が役 者に は欠 かせ ない こと が最 重要 とな る︒ つま り︑ そこ には
﹁型
﹂が あっ て︑
﹁成 田屋 の型
﹂と か﹁ 音羽 屋の 型﹂ とか いわ れる こと にな る︒ ただ し︑ 自由 度が あっ て︑ 一つ の役 にも いろ いろ な型 が生 まれ るこ とは いう まで もな い︒ とく に義 太夫 狂言 の時 代物 には 型が 多く
﹁型 物﹂ と
いわ れる くら いで
︑同 じ狂 言で もそ こに 役者 の違 いを みる 楽し みが ある とも いえ る︒ 心か ら入 るか
︑形 から 入る か︑ 型の 創り 方は 各人 各様 とも
︒
④荒 事・ 和事 につ いて
︒ 荒事 の特 徴は
︑誇 張さ れた 化粧
︑扮 装︑ 演技
︑雄 弁術
︑正 義の 英雄 のロ マン であ る︒ 初代 団十 郎が
﹁金こん 平ぴら 浄瑠 璃 から ヒン トを 得て
︑全 身を 紅で 塗り つぶ し︑ 紅と 墨で 隈取 りを して 荒業 をみ せた のが 最初
﹂︵ 一六 七三 年︶ だっ た︒
﹃暫
﹄﹃ 鳴神
﹄な どの 荒事 を創 作し
︑江 戸中 の人 気を よん だ彼 は︑ 成田 不動 を信 心し て屋 号を
﹁成 田屋
﹂と した
︒
﹁ニ ラム
﹂演 技は
︑悪 霊病 魔退 散を 願う 江戸 観客 にと って 神仏 の超 能力 をそ こに 信じ たか った から だろ う︵ 一四 八 頁︶
︒七 代目 は﹃ 勧進 帳﹄ 初演
︵一 八四
〇年
︶を 機に
︑お 家芸 とし て﹁ 歌舞 伎十 八番
﹂を 制定
︑江 戸歌 舞伎 の表 芸と なっ た︒
﹁中 世の 能で は︑ 怨霊 や悪 鬼は 人間 より 強く
︑仏 教の 力に よっ てや っと 鎮圧 され まし た︒ しか し近 世に なる と︑ 神仏 の力 より
︑人 間の ほう が強 くな
︵り
⁝︶
⁝こ こに 中世 と近 世︑ 能と 歌舞 伎の 本質 的な 違い
﹂︵ 一五
〇頁 が︶ みら れる 和 ︒ 事は 京都 生ま れの 和ヽ らヽ かヽ なヽ 芸ヽ 風ヽ をさ すも ので
︑﹃ 廓文 章﹄ がそ れを 最も よく 伝え てい る︒ 豪商 の若 旦那 が遊 女 との 浮名 がす ぎて 勘当 され るが
︑思 い切 れず 忍び くる とい う︑
﹁色 男︑ 金と 力は なか りけ り﹂ とい う芝 居が 和事 の 基本 パタ ーン
︒廓 の男 女の 纏綿 たる 情景
︑官 能の 世界
︑こ れが 和事 の芸 であ る︒ その 源流 は︑ お国 歌舞 伎に おけ る遊 客の 茶屋 遊び の局 面で
︑野 郎歌 舞伎 時代 の﹁ 島原 狂言
﹂に ひき つが れ︑ 一六 六四 年に 本格 的な 傾城 買狂 言が 成立 する
︒若 殿や 忠臣 が騒 動解 決の ため 庶民 に身 を﹁ やつ し﹂ て遊 廓と 馴染 むと い う筋
︒こ の﹁ やつ し事
﹂が 和事 の元 祖と いう わけ
︒そ の完 成者 が坂 田藤 十郎
︒彼 のた めに 心中 物を かい たの が近 松 門左 衛門 であ る︒
この 和事 と荒 事が 止揚 され て一 つの 舞台 とな った 例は 少な くな い︵ 代表 例は
﹃助 六﹄
︒︶ いう まで もな く︑ 荒事
・ 和事 は人 間の 本性 の両 面を 表現 した もの で︑ そこ に歌 舞伎 の豊 かさ があ ると 思う
︵一 五九 頁︶ とい う︒
⑤女 方の 魅力 は女 の単 なる 模倣 では なく
︑写 実を こえ た表 現に よっ て芸 術に まで 高め られ た創 られ た女 性像 であ る︒ お国 によ って 女性 の魅 力を 知っ た観 客は
︑女 歌舞 伎禁 止後 の女 方役 者に 女性 を上 まわ る美 の創 造を 期待 した
︒ そこ に女 方の 芸の 追求 が始 まる こと にな る︒ その 先達
︑芳 沢あ やめ は藤 十郎 の相 手役 をつ とめ
︑芸 談を 残し てい る が︑
﹁そ の創 造の 心は
﹃平 生を 女子 にて 暮せ
﹄と いう こと
﹂︵ 一六 一頁 だ︶ った
︒あ やめ の芸 は﹁ 芸の 体︑ 全く 女な り﹂
︵﹃ 翁草
﹄︶
︑﹁ 真実 底か らの 女﹂
︵﹃ 役者 舞扇 子﹄
︶と 評さ れた 名優 だっ た︒ しか し︑ 女方 も時 代が 下る につ れて
︑技 術論 とな り型 がつ くら れて ゆく
︒つ まり
︑女 性的 男性 でな くて も女 性を 表現 する こと がで きる よう にな り︑ その 集大 成は 六代 目尾 上梅 幸の 芸談 に明 確に 示さ れて いる
︵﹃ 梅の 下風
﹄︶
︒そ れ をみ ると
︑日 本の 歌舞 伎は
︑﹁ 役者 の肉 体の 動き を中 心と する 上演 芸術
⁝⁝ とし ての 全体 が︑ 古典 ある いは 伝統 を なし てい る﹂︵ 一六 八頁 と︶ いう こと がわ かる
︒そ の顕 著な 例が
︑﹁ 歌舞 伎十 八番
﹂で あり
︑﹁ 新古 典劇 十種
﹂︵ 五代 目尾 上菊 五郎 制定
︶で ある
︒
﹁歌 舞伎 はす べて の点 で能 より は自 由で 柔軟 です が︑ 原則 とし て芸 の伝 承は 秘伝 の性 格を もち
︑家 系の 継承 を旨 とし てき た﹂︵ 一七
〇頁
︶の であ る︒ これ は日 本の 芸道 に共 通で
︑家 系で いえ ば︑ 雅楽 の家 は五 十余 代︑ 能は 観世 家な ら二 六代
︑歌 舞伎 は︑ 最も 古い 中村 勘三 郎・ 市村 羽左 衛門 が一 七代 であ る︒ 世襲 制が 原則 だが
︑実 力で 名門 を 継ぎ
︑時 に名 門を 興す とい うこ とも ある
︒ 型が ある 歌舞 伎の 特徴 は︑ 型を 踏襲 すれ ば素 人で も
形が つく と いう 点に あり︑地 方の 農村 歌舞 伎は
︑そ の例 であ る︒ 素人 の歌 舞伎 に比 して プロ の場 合の 特徴 は﹁ 型に 入っ て型 に出 る﹂ とい う︑ 独自 の魅 力で 既成 の型 を新 生 する こと であ り︑ 代々 の名 優は 先人 の型 を創 造的 に継 承改 良し なが ら伝 えて きた とい う点 にあ る︒
・自 我意 識に おけ る男 観念
・女 観念 を考 えた とき
︑女 形の 存在 は自 我意 識が 融通 しな けれ ばな りた たな いと 考え られ るの では ない か︒
⑥﹁ 否定 美の 創造
﹂に 入ろ う︒ これ まで の話 は美 学で いう
﹁肯 定美
﹂の 世界 であ る︒ これ に対 し否 定美 とは
︑人 生に おい て残 酷と 感ず るも の