1 2017
年2
月27
日発行 第659
号CONTENTS
経済史シンポジウムのお知らせ ... 2
中国ニュース
2.20-2.26 ... 4
中国郵政貯蓄銀行とゆうちょ銀行の民営化 宇野 輝 ... 9
【中国経済最新統計】 ... 15
2
経済史シンポジウムのお知らせ
東アジア工業化に関する歴史的研究
―中国と日本を中心に――
主催:科研費 東アジア資本主義史研究プロジェクト 共催:京都大学東アジア経済研究センター
京都大学人文科学研究所付属現代中国研究センター 後援:京都大学東アジア経済研究センター支援会
■日時 2017 年 3 月 6 日(月)13:00~17:00
■会場 京都大学経済学部第三番教室(法経東館2階)
■参加費 無料
13:00-13:10 開会の挨拶 問題提起 13:10-13:50
久保 亨(信州大学教授) 東アジア工業化の捉え方 中国 堀 和生(京都大学教授) 東アジア工業化の捉え方 日本 13:50-14:10
木越義則(名古屋大学准教授) 中国の貿易 14:10-14:30
富澤芳亜(島根大学教授) 中国の繊維産業 14:30-15:00
加島 潤(横浜国立大学准教授)中国の鉄鋼業
峰 毅(社会人中国経済研究者 東京大学経済学博士)中国の化学工業
――――――――――――― 休憩 ―――――――――――――――――――――
15:15-16:00
朱蔭貴(復旦大学教授) 中国経済史からのコメント 丸川知雄(東京大学教授) 現代中国経済論からのコメント 厳善平(同志社大学教授) 中国農業論からのコメント 16:00-17:00
自由討論
17:10-18:40 懇親会
京都大学経済学部みずほホール(法経東館地下1階) 参加費 2,000 円(支援会会員は無料)
*準備の都合上、シンポと懇親会の参加については事前にご連絡ください。
連絡先 京都大学経済学部 堀和生 [email protected]
3
20 世紀 100 年間の世界経済の諸々の趨勢のなかで、最も大きな変化の一つは東アジアの経済的な台頭 であろう。19 世紀後半に世界経済は一つに統合されたとされているが、その時点の世界経済のなかで東 アジア経済全体の規模、およびその工業部門の比重からみて、その比率は比較的小さなものに過ぎなか った。ところがその後の 1 世紀、とりわけその後半期において工業化が急進展した結果、現在東アジア は従来世界経済を主導してきた西欧、北米と並んで世界経済全体の、そして工業のコア地域の一つに変 貌している。これらの巨大な変動は、日本、中国、韓国、台湾等、一つの国や地域だけで起こったので はなかったので、それらに対する探究は、当然に国民経済だけにとらわれない広い視野が必要である。このシンポジウムは、このような関心のもと、中国と日本を中心とした東アジア的なスケールで、20 世 紀におけるこの地域の経済発展、工業化の進展の特質を探究して、その世界史的な意義について考える 試みである。具体的には、次のようなことを意図している。
第1は、近代中国における工業の分析を軸にして、通時的な発展過程を解明することである。中国経 済史では研究の進展にともない、清代、民国期、計画経済期、改革開放期それぞれの分析は深まってき たにもかかわらず、各時代を通した歴史像の構築や発展の理解についてはいまだ十分な関心が払われて いないように思われる。ここでは中国経済史の幾つかの分野を取り上げ、とりわけ民国期と計画経済期 の関連に注意を払って検討し、改革開放後について展望したい。
第 2 は、このような中国の個性的な発展を、東アジア内で隣接している日本を中心とした地域の発展 と比較してみることである。計画経済期に両地域の交流が極端に制限された時代があったとはいえ、そ の前後のほとんどの時代、両地域の社会経済の結びつきはきわめて強く相互に規定し合う関係にあった。
さらにさかのぼれば、近代に至るまでの長い時代、この地域は多くの共通する歴史的条件を抱えていた。
戦後のある時期に資本主義世界と社会主義世界という対比が強調されたために、これまで比較史的な認 識が弱かったことをふまえ、本シンポジウムでは日本経済史の経済発展、工業化の過程を、意識的に中 国の過程と比較して論じたい。
第 3 に、東アジアにおいて、急速に発展する工業部門と膨大な人口を擁する農業部門とが並存したこ とに注目し、両部門の関連性、規定関係に関心を払う。研究史的に見れば、世界経済と結んで近代化を 主導し、また資料が残存しやすい工業や金融等の近代的部門の研究が先行している。しかし、近年研究 が進んでくると、アジアの工業化は世界経済との結合関係のみならず、国内の非近代とされる伝統的農 業部門のあり方に大きく規定されていたことが次第に明らかになってきた。このシンポジウムでは、東 アジアの工業発展を、農業を含めた広い社会経済基盤のなかで捉え直してみることを提起したい。
本シンポジウムがめざすものは、精緻な研究成果の発表ではなく、東アジアの経済発展、工業化をい かに理解すべきなのかという試論の模索である。このような挑戦的な試みは、通常の学会では扱うこと が難しいテーマである。関心をおもちの方は、このシンポジウムにぜひ積極的にご参加いただきたい。
4
中国ニュース 2.20-2.26
HEADLINES
中国人の韓国不動産・土地購入面積、5年間で4
倍に
中国の保険料収入は日本を抜き世界2
位になる見込み
中国タイヤ企業が米調査で初勝利
中国7
省・市の年金委託投資が開始
「貿易円滑化協定」が発効、中国の貿易と経済発展に好影響期待 Nielsen:中国消費者信頼感指数が好調を維持
中国のe
スポーツ、2016年の売上高は500
億元を突破
中国の農村電子商取引物流、2016年の業務量は2015
年の約2
倍に
アリババの顔認証決済、世界10
大画期的技術にノミネート 1
月、一線・二線都市の不動産価格は安定を保持中国人の韓国不動産・土地購入面積、5年間で
4
倍に【国際在線
2
月21
日】韓国KB
金融経営研究所の最新の報告「外国人の対韓 国不動産投資の動向」によると、中国人が韓国で購入した不動産・土地の面積 が過去5
年間で4
倍になったという。同報告によると、2016
年の1
年間で、中 国人は韓国で262
万平方メートルの不動産・土地を購入し、他国の投資家を大 きく上回ったという。現在、韓国の外国人が保有する土地面積は約2
億3200
万平方メートルで、このうち、中国人は7%を占めるに過ぎないが、増加のス
ピードが驚くほど速い。2011
年に中国人が韓国で購入した土地面積は370
万平 方メートルであったが、2016年には1690
万平方メートルとなった。中国の保険料収入は日本を抜き世界
2
位になる見込み【国新網
2
月22
日】22 日に国務院新聞弁公室により行われた記者会見で中 国保険業監督管理委員会(保監会)の項俊波代表は、「2016年、保監会は保険 産業の監督管理と改革発展の推進で積極的な成果を勝ち取った」という見方を 示した。具体的には、第1
に全面的で厳格な法律に基づく監督管理を行い、第2
にリスクの最低ラインを断固として守り抜き、第3
に国の大きな局面に役立 った。2016
年通年の保険料収入は3
兆1
千億元に上り、前年比で27.5%増加し、
日本を抜いて米国に次ぐ世界
2
位になることが予想される。保険産業は全社会5
に2373
兆元のリスク保障を提供し、1.05兆元を賠償し、実体経済の発展、貧 困からの脱却戦略、国民生活の改善の保障などの面で積極的な役割を果たした。中国タイヤ企業が米調査で初勝利
【新華社
2
月23
日】中国のバス 用タイヤのメーカーにダンピング を行っている疑いと違法な補助金 を受けている疑いがあるとして米 国で行われていたダブル調査に関 して、米国の関連当局は22
日に損 害についての最終決定を発表し、中 国側が勝利を収めた。商務部(商務省)関連当局の責任者は、「この決定は客 観的事実に合致している」とコメントした。2016年2
月19
日、米商務省は公 告を発表し、中国から輸入されるバス用タイヤを対象としたダブル調査の発動 を決定したことを明らかにした。同省は2017
年1
月24
日に最終決定を下し、関税率を最高
80%以上に引き上げた。 2
月22
日には米国国際貿易委員会(ITC)が損害についての最終決定を下し、中国から米国に輸入されるバス用タイヤは 米国国内の産業に実質的な損害や損害の脅威を与えてはいないと判断した。こ れはつまり中国がこれから米国に輸出するバス用タイヤには、ダンピング税や 相殺関税がかけられないということを意味する。
中国
7
省・市の年金委託投資が開始【新華網
2
月21
日】中国で地方基本養老保険(年金)基金の委託投資が実施 段階に入った。『経済参考報』の記者によると、北京市や上海市など7
つの省・直轄市は、国務院の「基本養老保険投資管理弁法」発表後、全国基本養老保険 基金の委託投資契約を最初に締結した地方政府となり、現時点で合計
3600
億 元の基本養老基金の委託投資・運用が開始された。2016
年の中国の社会保険基 金5
件は総収入が5
兆2800
億元、総支出が4
兆6500
億元と、全体の収支バラ ンスを保った。昨年末時点で、基本養老保険のカバー人数は8
億8000
万人、累計残高は
4
兆元を超え、アナリストの推計によると、そのうち社会保険基金 に委託投資・運用可能な資金は約2
兆元に上る見込みだ。「基本養老保険投資6
管理弁法」の規定によると、省レベルの地方政府は、投資可能な養老基金を社 会保障専用口座に集約し、資格のある養老基金管理機関に投資・運用を一括で 委託する。「貿易円滑化協定」が発効、中国の貿易と経済発展に好影響期待
【新華網
2
月25
日】ルワンダ、オマーン、チャド、ヨルダンの4
カ国がこの ほど、世界貿易機関(WTO)に加盟する国・地域の間での関税手続きの簡素 化などを盛り込んだ「貿易円滑化協定」を受諾し、受諾国数が112
カ国という 発効に必要な加盟国・地域の数の3
分の2
に達した。そして、同協定は正式に 発効し、受諾国の間で実施が始まった。貿易円滑化をめぐる議題は、1996
年に シンガポール部長級会議でWTO
の業務日程に盛り込まれた。協定に中国が受 諾したのは2015
年9
月である。専門家は、「世界経済が疲弊し、保護貿易主義 が台頭しているのを背景に、同協定が発効し、貿易の手続きが簡素化し、各国 の経済貿易が促進され、世界経済の成長促進にもつながる」と期待を寄せてい る。世界最大の物品貿易国である中国にとって、貿易手続きの簡素化は安定し た貿易と経済の一層の発展を実現する点で、非常に有利な事実となることに疑 問の余地はない。Nielsen:中国消費者信頼感指数が好調を維持
【中国新聞網
2
月21
日】米国のマーケティングリサーチ会社ニールセン(Nielsen)が
21
日発表した調査結果によると、中国の消費者信頼感指数は、2016
年の1
月から9
月まで安定を保ち続け、2016年第4
四半期には明らかな 上昇傾向をみせ、第3
四半期の106
ポイントから108
ポイントに上がり、安定 を保ちながら好調をみせており、2016 年の各四半期に消費者信頼感指数が105-108
ポイントの間にあることから、中国の消費者は過去一年間に市場を楽観視していることが分かった。ニールセン社の消費者信頼感指数は、雇用の見 通し、個人財務、消費意欲に対する信頼感を示すもので、100ポイント以上は 積極的、以下は消極的だとされる。中国の消費者が雇用の見通しを楽観視して いることが、昨年第
4
四半期の消費者信頼感指数の向上を導いたとみられる。データによると、雇用の見通しは、第
3
四半期の60
ポイントから第4
四半期 の64
ポイントに、個人の消費意欲も53
ポイントから54
ポイントに小幅なが7
らも上昇を見せ、個人の経済状況の見通しは、第3
四半期と同様の62
ポイン トとなっている。中国の
e
スポーツ、2016年の売上高は500
億元を突破【北京商報
2
月23
日】先ごろ発表された「2016中国ゲーム産業リポート」によると、中国における
e
スポーツ市場の売上高は504.6
億元と、ゲーム市場 売上全体の30.5%を占め、e
スポーツはユーザー数がすでに1.24
億人、総生産額が
269.1
億元に達し、国内ゲーム産業で大きな存在となっている。テンセントのモバイルゲーム「王者栄耀」が開催した初のプロリーグ戦は、わずか
3
カ 月で閲覧数がのべ3.5
億人を突破した。今後はe
スポーツの認知度が高まるに つれ、業界への資本流入が拡大するとみられる。国家の政策支援も加わり、e スポーツは新たな成長期を迎える見通しだ。2016
年に、中国政府はe
スポーツ 産業の発展に向け、複数の支援策を打ち出した。中国教育部が発表した「普通 高等学校高等職業教育(専科)専攻リスト」の増補リストには、「eスポーツと 管理」が追加されている。資本市場では、e スポーツの膨大なユーザーと資金 調達力がe
スポーツの商業的価値を高めている。中国の農村電子商取引物流、2016年の業務量は
2015
年の約2
倍に【経済参考報
2
月21
日】中国 物流・購買連合会が先ごろ発表 した「2016年電子商取引物流運 行報告」によると、中国の電子 商取引物流業は2016
年も引き 続き高い伸びを示した。特に、農村電子商取引業務量の増加率 がトップを保ち、コールドチェーン物流も業界発展のポイントになった。「報 告」よると、
2016
年の農村業務量指数は平均191.5
ポイントとなった。このこ とは物流業務量が約2
倍に達したことを意味している。また、2016
年の農村業 務量指数は総業務量指数を35.4
ポイント上回り、このことは農村業務量の増加 率が総業務量のそれよりも30%ポイント以上高かったことを表している。地域
別の農村業務量指数は、東部地域が180.1
ポイント、中部が209.7
ポイント、8
西部が
202.3
ポイント、東北が212
ポイントだった。中国物流・購買連合会の責任者は、インターネットの普及と農村物流ネットワークの整備で、農村物流 を制約していた情報の不足や脆弱な物流インフラなどがある程度解消され、中 西部の中でも特に遠隔地の消費需要を効果的にとらえたと説明した。
アリババの顔認証決済、世界
10
大画期的技術にノミネート【網易新聞
2
月23
日】米国の 権威ある科学誌「MIT テクノロ ジーレビュー」は21
日、2017 年の世界10
大画期的技術を発表 した。グーグル、マイクロソフ ト、IBM
などのIT
大手がひしめ く中、アリババ・グループの「顔認証決済」がノミネートされた。同誌は、顔 認証技術を世界で初めて実用化した中国の精度は、すでに金融取引で利用され るレベルに達しており、成熟期に入っていると評価した。「顔認証決済」の他 に、アリババの「強化学習」も入選した。このランキングは世界的な影響力を 持つ権威あるもので、初めて発表されてから16
年が経過している。1
月、一線・二線都市の不動産価格は安定を保持【光明日報
2
月23
日】国家統計局が発表したデータによると、1
月には一線 都市と人気の高い二線都市の計15
都市で、現状に即した措置や都市の状況を 踏まえた施策による不動産業の調整・抑制政策が実施された後、それぞれの市 場にはっきりとした変化が現れ、不動産価格は持続的に安定しつつ低下した。前月との比較では、一線・二線都市の不動産価格は基本的に上昇傾向が止まっ た。1 月の一線都市の新築分譲住宅価格は前月の水準を保ち、二線都市では
0.1%上昇とわずかに上昇し、上昇幅は前月より 0.1
ポイント低下した。前年同月との比較では、一線・二線都市の不動産価格の上昇幅は大きく縮小した。こ のうち一線都市の新築分譲住宅価格の前年同月比の上昇幅は4ヶ月連続で低下 し、前月との比較では
2.6
ポイント低下した。また、二線都市の新築分譲住宅 価格の前年同月比の上昇幅は2
ヶ月連続で低下し、前月との比較では0.4
ポイ ント低下した。9
中国郵政貯蓄銀行とゆうちょ銀行の民営化
―中国郵政貯金銀行に後れをとった信用創造機能を持たないゆうちょ銀行ー
京都大学経済学研究科・経済学部特任教授 経済学部同窓会副会長・東京支部長
宇 野 輝
はじめに
中国郵政貯蓄銀行とゆうちょ銀行は
2007
年(平成19
年)同時期に官有民営 の経営形態により民営化された。ゆうちょ銀行は2015
年11
月に東京証券取引 所第1
部に上場し、約1
年遅れで2016
年9
月に中国郵政貯蓄銀行は香港証券 取引所に上場した。上場時期はゆうちょ銀行が一歩先んじたが、市場に売り出 した株式数はゆうちょ銀行11%、中国郵政貯蓄銀行 17%となり、中国郵政貯
蓄銀行が完全民営化へ先んじた。加えて、2009
年に中国郵政貯蓄銀行は中小企 業や個人向けに融資業務を開始し、運用の多様化についてもゆうちょ銀行より 先んじた。ゆうちょ銀行は民営化後、一歩も融資業務に踏み出せない状態であ り運用の多様化についても遅れをとっている。筆者は
2015
年3
月ゆうちょ銀行の完全民営化後のあるべき姿を論ずるため、金融財政事情研究会から「官製金融改革と地銀再編」と言う書籍を出版した。
この書籍は
2015
年秋に、日本郵政グループ3
社が同時に上場することが決ま ったので、それに先んじてゆうちょ銀行の完全民営化への道筋をつけるために 出版したものである。ゆうちょ銀行のわが国の資本市場における歴史的課題を 整理し、その課題を解決する制度設計を行い、ゆうちょ銀行のあるべき姿を論 じたものである。そして、同時にわが国の金融機関のあり方についても言及し たものである。本著は
2016
年に入り中国国家図書館や米国議会図書館、スタンフォード大 学、ハーバード大学、コロンビア大学、コーネル大学、ダートマスカレッジ等々、世界の名だたる図書館に選書され所蔵された。就中、秋に上場を控えていた中 国の国務院学位委員会によって中国国家図書館に選書されたことは光栄なこ とであった。東アジアセンター副センター長の劉徳強教授にご報告したところ、
「中国国家図書館に収蔵されることは中国の最高の図書館がこの本を大変価 値あるものと認めていることだと思います。非常に素晴らしい!中国では日本 語の文献を読める人は限られていますが、日本の金融問題を調べようとする専 門家は何らかの形でこの本の内容を参考にすると思います。」というメッセー
10
ジをいただいた。2016
年8
月筆者は北京で開催された第10
回中日自動車産業学会に出席した機 会に、中国国家図書館を訪れた。(写真1)因みに、中国国家図書館は1909
年 清の時代に建設され、1998年に「国家図書館」と改称された。蔵書数は31百 万冊で米国議会図書館に次ぐ、世界第二位の規模である。中国郵政貯蓄銀行の上場に当たって、本著が示す日本の官製金融のあるべき 姿が中国民営化に引用され、ガイドラインになる機会を得たことは有難いこと であった。
なお、本論文では第1にゆうちょ銀行と中国郵政貯蓄銀行との、上場への道 のりを歴史的な観点から比較し、その特色を述べる。第2にゆうちょ銀行と中 国郵政貯蓄銀行の上場について比較し、その特色を述べる。第3にゆうちょ銀 行と中国郵政貯蓄銀行とが似て非なる金融財政政策に果たしている役割を開 示し、その特色を述べる。おわりに、拙著が示す日本の官製金融改革と地銀再 編によるわが国金融機関のあるべき姿を、ゆうちょ銀行及び中国郵政貯蓄銀行 の現状と対峙させ所見を述べる。
1.ゆうちょ銀行と中国郵政貯蓄銀行の上場への道のり
日本の郵便貯金制度は前島密が明治のはじめ欧米の郵便制度を視察し、帰国 後郵便制度を導入するとともに,1875年(明治
8
年)5
月に郵便貯金業務を開始 した。そして、1885年(明治18
年)大蔵省は郵便貯金の預託金制度を法制化11
し、いわゆる現在の財政投融資制度に組み込んだ。この仕組みは2000
年(平 成12
年)財政投融資改革法が成立し、預託金制度の廃止に伴う全額自主運用 に至るまで、115年間続いた。一方、中国の郵便貯金制度は、
1919
年に中華民国政府により郵政貯金局の設 立によって始まった。そして、30年後1949
年中華人民共和国は、郵政貯金局 の業務を中国郵電部に引き継ぎ,中国人民銀行の管轄下に入れた。1953 年9
月 郵便貯金業務は廃止された。33年後、1986年4
月郵電部により、郵便貯金業 務の再開が決定され、人民銀行は郵便貯金業務を復活させた。1995
年5
月の金 融改革によって「商業銀行法」が郵便貯金業務にも適用された。1983
年中国財政部の一部であった人民銀行は中央銀行機能と商業銀行機能 を分離した。商業銀行として中国商工銀行、中国農業銀行、中国銀行、中国建 設銀行等4
行の国有商業銀行が設立された。これらの国有商業銀行は1995
年 の「商業銀行法」を根拠法として現在に至っている。1994年(平成6
年)3月 筆者は中国政府(江沢民・朱鎔基)の要請によって、住友銀行から中国に派遣 され、北京で開催された「商業銀行改革検討会」に主任講師として参加した(写 真2)
。この検討会では人民銀行と国有商業銀行4
行、国家外貨管理局、中国投 資諮問詢公司約70
名が研修を受け、半年後に来日し日本の銀行業務を実際に 経験した。1990
年代に高度経済成長期を迎えていた中国は金融システムが近代 化されず、決済・融資業務が遅れていた。日本は丁度バブル崩壊後の不良債権 処理の真最中にあったが、中国政府も日本の金融制度は良い意味でのお手本に 成ると考えていたのであろう。12 1998
年国有商業銀行の経営健全化のため、政策政金融業務を国有商業銀行か ら分離し、政策銀行3
行を設立した。中国国家開発銀行と中国輸出入銀行、中 国農業発展銀行である。中国輸出入銀行は日本の国際協力銀行や国際協力機構の役割と同じ役割を 担っている。中国農業発展銀行は農村のインフラ整備や農業の事業開発など、
農業支援を担っている。これに比べ、日本の農林中央金庫は農協貯金の運用機 関化し、ほとんど農業支援を担っていない。
2000
年代になって中国の金融改革 はグローバルな金融市場への参画、企業情報の透明性の強化や自己資本比率の 強化のため、上場政策を推し進めてきた。2005
年以降国有商業銀行の新規株式 公開が相次ぎ、2005
年に中国建設銀行が上場し1,326
億元、2006
年に中国銀行が上場し
1,100
億元、中国工商銀行が上場し1,732
億元、2010年に中国農業銀行が上場し
1,487
億元の資金を調達した。1990
年代の高度経済成長と共に、中国郵政貯蓄銀行の郵便貯金残高は急増し、2004
年には1
兆元を超え、大型商業銀行4
行に次ぐ第5
位の貯金残高となった。この時の郵便貯金の取扱局数は
3.2万 32
千局で、うち都市部で1.1
万11千局、農村部で
2.1
万21
千局であった。郵便貯金残高の年増率が銀行貯金残高の年増 率よりも常に高かった。理由は日本と同じであったが、第一に郵便貯金利率が 銀行預金利率より高く設定されていたこと。第二に店舗ネットワークに強みが あったこと。第三に郵便振替が農村の出稼ぎ労働者の送金サービスという利便 性を提供したことであった。日本も中国も政府は地方の預貯金を郵便局という巨大な店舗ネットワーク を利用し、預託金制度によって民間より高利の金利を付利する仕組みを作り、
幅広く中央集権的に集めた。こうした政府の資金調達手段は肥大化することに なり、金融自由化の流れの中で制度疲労を起こした。日本は
2000
年に預託金 制度を廃止し、郵便貯金の運用を全額自主運用とした。中国も2003
年9
月以 降新規の調達資金は預託せず自主運用とした。これまでは郵便貯金が人民銀行 に全額預託されたことにより、郵便貯金は人民銀行から大型商業銀行や企業へ の資金運用となり、高度経済成長を支えた。世界的な金利の自由化時代に、日本がもたもたして後ろ向きの処理をしてい るうちに、中国は金利自由化に対応するべく預託金制度廃止し、時を同じくし
2007
年3
月郵政改革の一環として、中国郵政集団を設立した。そして、中国郵 政集団の全額出資により「中国郵政貯蓄銀行(有限会社)」が設立され、民営 化された。(表1)
13
一方、日本は2007
年9
月に日本郵政公社が日本郵政株式会社に民営化され、同時にその傘下のグループ会社として株式会社ゆうちょ銀行(郵便貯金銀行)
が設立された。民営化実施計画では日本郵政グループ
3
社は、直ちに上場準備 に入り、金融2
社(ゆうちょ銀行、かんぽ生命)は2017
年秋までに全株を処 分し完全民営化する計画であった。しかし、政権交代や東日本大震災も有り、3
社は政治的な紆余曲折を経て、2015
年11
月にようやく東証一部に上場した。残された課題は、郵政民営化改正法では全株処分が明確にされているものの、
その時期が明示されていないことである。
中国郵政貯蓄銀行は
2009
年に運用の多様化のため融資業務を開始し、2012 年1
月に有限会社から株式会社に組織変更し、上場を目指した。そして、2016
年9
月香港証券取引所に上場した。2.ゆうちょ銀行と中国郵政貯蓄銀行の上場比較
(1)ゆうちょ銀行の上場
2015
年11
月4
日ゆうちょ銀行の売り出し価格は1株1,450
円と決定し、発 行済み株数45
億株のうち4
億1
千万株を市場に放出した。売却額は5,980
億円 となり東日本大震災の復興債の償還原資に充当された。株式を購入した人は個 人株主であり、売却後の日本郵政(株)の持ち株比率は89%となった。復興財
源確保法、附則第14
条に従って、財務省は2022
年(平成34
年)までに3
回 にわたって4
兆円の株式売却収入を予定している。その先の株式処分方法や期 限等は定まっていないが、政府は2017
年秋に持ち株会社の日本郵政(株)の 株式を追加売却することを検討している。その際にゆうちょ銀行の追加株式売 却は予定にないが、日本郵政株式の売却により、政府保有株式のシェアが低下 し、間接的に政府によるゆうちょ銀行の支配は低下することになる。しかし、14
ゆうちょ銀行の完全民営化への道のりは遠い。(2)中国郵政貯蓄銀行の上場
2016
年9
月28
日中国郵政貯蓄銀行は香港証券取引所に上場した。政府の狙 いは上場を通じて民営化や金融システムの健全性を、アピールすることにあっ た。上場時の公開価格は1
株4.76
香港ドル(1 香港ドル:約61
円)とし139
億株を売却した。売却額は566
香港ドル(約7300
億円となった。中国郵政貯 蓄銀行は新規株式公開を目指していたため、2015年12
月、事前に戦略的な投 資家を対象に私募形式での新株発行による451
億元を調達した。この私募発行 は全株式の17%に相当する新株を 10
社に割り当てたものであった。主たる企 業への割り当て株式シェアは、外国企業のUBSやJPモルガンに各々4.99%、中国人寿保険(かんぽ生命に当たる)に
4.87%、中国電信に 1.6%となった。
この結果、持ち株会社の中国郵政集団の保有株式シェアは
83%となった。現在
の政府の国家郵政局が実質支配する株式シェアは83%であり、完全民営化の道
のりは遠いが、日本よりは近い。上記のように、ゆうちょ銀行と中国郵政貯蓄銀行の上場を比較すると、株式 売却額や政府が支配する株式シェアは似た規模であり、大差なく民営化への試 行錯誤を繰り返す状態にある。この両銀行の民営化について、次のスッテプに 格差がつくかどうか、見守りたい。
<なお、「第3のゆうちょ銀行と中国郵政貯蓄銀行の、似て非なる役割」と
「おわりに」については、次回以降のニュースレターに掲載します。参考文献 も次回に掲載します>
以上
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【中国経済最新統計】
① 実 質 GDP 増加率 (%)
② 工 業 付 加 価 値 増 加 率 (%)
③ 消費財 小売総 額 増 加 率(%)
④ 消費者 物価指 数 上 昇 率(%)
⑤ 都 市 固 定 資 産 投 資 増 加 率 (%)
⑥ 貿 易 収 支 (億㌦)
⑦ 輸 出 増 加 率 (%)
⑧ 輸 入 増 加 率 (%)
⑨ 外国直 接投資 件 数 の 増加率 (%)
⑩ 外 国 直 接 投 資 金 額 増 加率 (%)
⑪ 貨 幣 供 給 量 増 加 率 M2(%)
⑫ 人 民 元 貸 出 残 高 増 加 率(%)
2005年 10.4 12.9 1.8 27.2 1020 28.4 17.6 0.8 ▲0.5 17.6 9.3
2006年 11.6 13.7 1.5 24.3 1775 27.2 19.9 ▲5.7 4.5 15.7 15.7
2007年 13.0 18.5 16.8 4.8 25.8 2618 25.7 20.8 ▲8.7 18.7 16.7 16.1
2008年 9.0 12.9 21.6 5.9 26.1 2955 17.2 18.5 ▲27.4 23.6 17.8 15.9
2009年 9.1 11.0 15.5 ▲0.7 31.0 1961 ▲15.9 ▲11.3 ▲14.9 ▲16.9 27.6 31.7
2010年 10.3 15.7 18.4 3.3 24.5 1831 31.3 38.7 16.9 17.4 19.7 19.8
2011年 9.2 13.9 17.1 5.4 24.0 1549 20.3 24.9 1.1 9.7 13.6 14.3
2012年 7.7 10.0 14.3 2.7 20.7 2303 7.9 4.3 ▲10.1 ▲3.7 13.8 15.0
2013年 7.7 9.7 11.4 2.6 19.4 2590 7.8 7.2 ▲8.6 5.3 13.6 14.1
2014年 7.4 8.3 12.0 2.0 15.2 3824 6.1 0.4 4.41 14.2 12.2 13.6
11月 7.2 11.7 1.4 13.4 545 4.7 -6.7 -8.6 22.2 12.0 13.4
12月 7.3 7.9 11.9 1.5 12.6 496 9.5 -2.3 6.1 10.3 11.0 13.6
2015年 6.9 5.9 10.7 1.4 9.7 6024 -9.8 -14.4 11.0 0.8 11.9 15.0
1月 0.8 600 -3.3 -20.0 2.2 -1.1 10.6 14.3
2月 1.4 606 48.3 -20.8 49.8 0.1 11.1 14.7
3月 7.0 5.6 10.2 1.4 13.1 31 -15.0 -12.9 0.3 1.3 9.9 14.7
4月 5.9 10.0 1.5 9.6 341 -6.5 -16.4 2.9 10.2 9.6 14.4
5月 6.1 10.1 1.2 9.9 595 -2.4 -17.7 -14.0 8.1 10.6 14.3
6月 7.0 6.8 10.6 1.4 11.6 465 2.8 -6.3 4.6 1.1 10.2 14.4
7月 6.0 10.5 1.6 9.9 430 -8.4 -8.2 9.6 5.2 13.3 15.7
8月 6.1 10.8 2.0 9.1 602 -5.6 -13.9 23.9 20.9 13.3 15.7
9月 6.9 5.7 10.9 1.6 6.8 603 -3.8 -20.5 5.2 6.1 13.1 15.8
10月 5.6 11.0 1.3 9.3 616 -7.0 -19.0 2.5 2.9 13.5 15.6
11月 6.2 11.2 1.5 10.8 541 -7.2 -9.2 27.7 0.0 13.7 15.3
12月 6.8 5.9 11.1 1.6 6.8 594 -1.7 -7.6 17.2 -45.1 13.3 15.0
2016年
1月 10.3 1.8 18.0 633 -11.5 -18.8 14.1 -2.1 14.0 15.2
2月 10.2 2.3 326 -25.4 -13.8 -11.3 -1.3 13.3 14.7
3月 6.7 6.8 10.5 2.3 11.2 299 11.2 -7.4 26.1 4.0 13.4 14.7
4月 6.0 10.1 2.3 10.1 456 -2.0 -10.5 21.4 2.9 12.8 14.4
5月 6.0 10.0 2.0 7.4 500 -4.7 -0.1 43.6 -4.8 11.8 14.4
6月 6.7 6.2 10.6 1.9 7.3 479 -6.1 -9.0 8.5 4.4 11.8 14.3
7月 6.0 10.2 1.8 3.9 502 -6.4 -12.9 -3.8 -6.2 10.2 12.9
8月 6.3 10.6 1.3 8.2 520 -3.2 1.4 13.2 0.5 11.4 13.0
9月 6.7 6.1 10.7 1.9 9.0 420 -10.2 -1.9 27.9 -3.6 11.5 13.0
10月 6.1 10.0 2.1 8.8 488 -7.4 -1.3 -36.9 0.4 11.6 13.1
11月 6.2 10.8 2.3 8.8 442 -1.5 4.6 -32.4 -4.6 11.4 13.1
12月 6.8 6.0 10.9 2.1 6.5 407 -6.4 2.6 21.1 -627.7 11.3 13.5
1月 2.5 16.1 513 3.1 15.4 5.4 -6.2 11.3 12.6
注:1.①「実質 GDP 増加率」は前年同期(四半期)比、その他の増加率はいずれも前年同月比である。
2.中国では、旧正月休みは年によって月が変わるため、1 月と 2 月の前年同月比は比較できない場合があるので注意 されたい。また、( )内の数字は 1 月から当該月までの合計の前年同期に対する増加率を示している。
3. ③「消費財小売総額」は中国における「社会消費財小売総額」、④「消費者物価指数」は「住民消費価格指数」に 対応している。⑤「都市固定資産投資」は全国総投資額の 86%(2007 年)を占めている。⑥―⑧はいずれもモノの 貿易である。⑨と⑩は実施ベースである。
出所:①―⑤は国家統計局統計、⑥⑦⑧は海関統計、⑨⑩は商務部統計、⑪⑫は中国人民銀行統計による。