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重要な生態学的機能をもつ海洋のメタン酸化菌 - J-Stage

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310 化学と生物 Vol. 54, No. 5, 2016

重要な生態学的機能をもつ海洋のメタン酸化菌

メタン濃度の薄い海水中にも遍在しメタンの大気への放出を防ぐ

海洋では水深の分だけ垂直方向に広大な微生物圏が広 がっているため,海洋での微生物活動は地球規模での物 質循環に大きく影響していると考えられている.高い温 室効果で知られるメタンについて,近年その動態が注目 されている.世界中で一年間に大気中に放出される全メ タンのうち,海洋起源のメタンの割合は2%程度だが,

大気中に放出される前にメタン酸化菌によって消費(す なわち二酸化炭素および有機物へと変換)されるメタン は,少なくともその十から数十倍にのぼると見積もられ ている(1)(図1.つまり海洋メタン酸化菌は重要な生態 学的機能を果たしているのだが,培養株は少なく,その 特徴に関する知見は限られている.

海洋では嫌気環境でアーキアが,好気環境でバクテリ アがそれぞれメタン酸化を行っている.本稿では後者の 好気性メタン酸化細菌について紹介するが,この細菌は メタンをエネルギー源および炭素源として生育する.海

洋で検出される種はすべて 綱に分

類され,現在までに7属( ,  , 

, ,

, ,および 属)8種

が単離株として報告されている.このうち6属7種は浅 海由来の株である.筆者らが沖縄県の竹富海底温泉(水 深23 m,熱水温度52 C)より単離した

と は,海洋では初

めての熱水活動域からの単離株であり,新属・新種とし て記載された(2).深海にはメタン噴出を伴う熱水域が多 数存在するが,竹富海底温泉のような浅海のメタン噴出 を伴う熱水域は世界的にも少なく,新規微生物の宝庫で もある.一方,深海からは今のところ単離株は1属1種 しか記載されていない.しかしメタンの噴出や湧出を伴 う深海の熱水域や冷湧水帯の試料からは,メタン酸化細 菌の指標遺伝子である,膜結合型メタンモノオキシゲ ナーゼの

α

サブユニットをコードする が容易に検 出される.また の系統解析から,深海には属レベ ルで多様かつ新規性の高いメタン酸化細菌が多数生息し ていると推察される.

また深海には,無脊椎動物に共生するメタン酸化細菌 が存在することが知られている.その代表例が,熱水活 動域や冷湧水帯に生息するイガイ科の二枚貝シンカイヒ バリガイ類の共生菌である.共生菌は貝のえら細胞内 に,えら組織1 gに1010細胞程度と非常に高密度で存在 するので,えら組織切片の電子顕微鏡観察で容易にその 存在を確認できる(図2.筆者らが採集直後のシンカ イヒバリガイを用いて共生菌のメタン酸化活性を測定し たところ高い活性を示したが,共生菌の単離・培養は成 功しておらず,えら細胞の外で単独で生育できるかどう かも不明である.世界各地のシンカイヒバリガイ類の共 生メタン酸化細菌は互いに非常に近縁であるが,それぞ れの宿主とは1対1の特異的な関係を築いていると推察 される.

海洋のメタン酸化細菌の研究の多くは,熱水域やメタ ン冷湧水帯などの,µMレベルの高濃度メタンが存在す る海底の試料を対象としている.一方,そこから離れる につれ海水中メタン濃度はnMレベルへと低下するため,

メタン濃度の低い海水を対象とした研究は最近まであま り行われてこなかった.海水中メタンの生物による酸化 を最初に明らかにしたのは,海洋化学分野の研究であっ た.14C標識や3H標識したメタンを用いた海水インキュ ベーション実験や,海水中メタンの炭素同位体比の時空 間的変化から,メタン酸化細菌そのものを見つけるのが 難しいようなメタン濃度の低い海水中においても,生物 図1海洋におけるメタン動態の簡略図

主に海底下で生成するメタンの一部が海水中へ移行し,さらにそ の一部が大気圏へ移行する.

日本農芸化学会

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化学と生物 Vol. 54, No. 5, 2016

学的メタン酸化が起きていることが証明されている(1). 近年,微生物分野でもメタン濃度の低い海水の解析が 行われており,新しい発見が続いている.メタンプルー ム海水や,中層域の酸素極小層の海水から,指標遺伝子 が検出されている(3).またメタトランスクリプ トーム解析によって,メタン濃度の低い海水からもメタ ン酸化細菌由来と考えられるリボゾームRNAやメタン モノオキシゲナーゼ遺伝子のcDNAが検出され,海水 中でメタン酸化細菌が活動的であることが示唆されてい る(4).このような研究を通して,海域を問わず,海水か ら頻繁に検出される未培養のメタン酸化細菌系統群の存

在が明らかになりつつある.それらはOPU1, OPU3と 呼ばれる系統群で,100 m以深の中層から深海まで広く 分布し,その分布様式から至適酸素濃度に違いがあるこ とが示唆されているが(5),まだ知見は限られている.こ のほかにも深海から頻繁に検出される未培養の系統群が 複数あり,さらなる生態学的知見の蓄積が必要である.

それが今後,単離株の取得へとつながることが期待され る.

  1)  W. S. Reeburgh:  , 107, 486 (2007).

  2)  H. Hirayama, M. Abe, M. Miyazaki, T. Nunoura, Y. Furu- shima,  H.  Yamamoto  &  K.  Takai: 

64, 989 (2014).

  3)  T. Hayashi, H. Obata, T. Gamo, Y. Sano & T. Naganuma: 

1, 275 (2007).

  4)  R. A. Lesniewski, S. Jain, K. Anantharaman, P. D. Schloss 

& G. J. Dick:  , 6, 2257 (2012).

  5)  P. L. Tavormina, W. Ussler 3rd, J. A. Steele, S. A. Con- non,  M.  G.  Klotz  &  V.  J.  Orphan: 

5, 414 (2013).

( 平山仙子,海洋研究開発機構深海・地殻内生物圏  研究分野)

プロフィール

平山 仙子(Hisako HIRAYAMA)

<略歴>2001年お茶の水女子大学大学院 人間文化研究科博士後期課程修了/同年海 洋科学技術センター(現:海洋研究開発機 構),極限環境生物フロンティア研究シス テム研究員/2004年同開発機構,極限環 境生物圏研究センター研究員/2011年同 開発機構,深海・地殻内生物圏研究分野主 任研究員,現在に至る<研究テーマと抱 負>深海の未知メタン酸化細菌の単離,生 理,代謝<趣味>工場夜景

Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.310 図2シンカイヒバリガイのえら組織切片の電子顕微鏡写真

沖縄トラフの熱水活動域(水深約1,000 m)に生息するヘイトウシ ンカイヒバリガイのえら組織切片.球形や楕円形に見える細胞が 共生するメタン酸化細菌.Bar=2 µm

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