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海洋性超好熱菌とウイルスのゲノムレース左 子 芳 彦

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京都大学大学院農学研究科応用生物科学専攻,海洋分子微生物学分野

第 35 回石橋雅義先生記念講演会(平成 27 年 4 月 25 日)講演

総合論文

海洋性超好熱菌とウイルスのゲノムレース

左 子 芳 彦

1.はじめに

海洋は地球表面積の約 70% を占め,陸上と は異なる環境(特に温度,圧力,塩分,光等)

が存在することから多様で特異な微生物が生息 している.海洋微生物は生態・環境・進化・生 物資源の面からも興味深い対象であるが,培養 や試料採取の困難さのため土壌微生物に比べて 研究の進展が遅れ、ウイルスでは研究者も限ら れていた.

ところが近年,海洋の主要な一次生産者であ るラン藻の生態が地球規模で調査され,メタゲ ノム解析の進歩により培養を経ずに遺伝子解析 が可能になったため,海洋微生物の地球環境に 果たす役割がにわかに注目を集めるようになっ てきた

1,2)

.また最近のゲノム解析から,これ ら海洋性ラン藻 Synechococcus 属に感染するウ イルス(シアノファージ)の動態が徐々に明ら かになり,海洋生態系における微生物とその感 染ウイルスの重要な役割とともに微生物とウイ ルスがおりなす共進化やゲノムレースの一端が 解明され始めている.このように最新のゲノム 解析技術により,海洋における微生物とウイル スの研究に熱いスポットが当たり始めている.

水圏環境に極めて多量のウイルスが存在して いるとの Bergh ら(1989)の報告

3)

以来,そ れらの生態学的意義がにわかに注目を集め,最 近の環境ウイルス研究の発展の端緒となった.

海洋をはじめとする環境で見出されたウイルス の大部分に尾部が存在することから,これらは 細菌感染性ウイルスである

3)

.海洋に存在する

ウイルス数は細菌数の約 15 倍に達し,総数は およそ 10

30

粒子と見積もられ

4,5)

,海洋では 1 日に細菌の 20-40% がウイルスによって溶菌し ていると推測されている

4)

.従ってウイルスは 水圏生態系の微生物ループにおいて、宿主細菌 へ感染し溶菌によって溶存有機物への分岐路を 作る viralshunt として機能し、物質循環に多 大な影響を及ぼしていることが知られるように なってきた

4,5)

さらにメタゲノム解析により,微生物と感染 ウイルスの詳細なゲノム科学的情報や生態学的 知見が飛躍的に増大することによって,ウイル スは宿主微生物が有する遺伝子の運搬や伝播に 重要な役割を有し

6)

,微生物の遺伝的多様性に 顕著な役割を担うことが明らかになってきた

(図 1). また細菌は多くのウイルス防御関連 遺伝子を有しており,多様なウイスルとの相互 作用が認められ始めている.メタゲノム解析に より海洋において多様で未知の海洋微生物とウ イルスの存在が推測されているが,熱水環境に

子ウイルスの放出 DNAの複製

吸着 DNA 注入

宿主ゲノム

溶菌ウイルスの感染様式

遺伝子伝播

形質導入

図 1 微生物とウイルスのゲノム進化

ウイルスは遺伝子ベクターとして宿主細菌

の遺伝的多様性に寄与する

6)

.

(2)

おける研究は始まったばかりである.本稿では,

海 洋 熱 水 環 境 に 生 息 す る 超 好 熱 性 の Aeropyrum 属古細菌と近年発見された多様な ウイルスを例にして,超好熱菌ゲノム進化とウ イルスの相互作用の一端について考察する.

2.異なった海洋熱水環境に生息する超好熱菌 地球内部マントルの物質やエネルギーが地表 にもたらされる海洋底プレートの形成域である リフト系では,内部熱の 60% 以上が放出され る.このようなプレート境界や海嶺より,東太 平 洋 海 膨(2,500m), 沖 縄 ト ラ フ(1,200m),

小笠原水曜海山(1,300m),大西洋中央海嶺

(TAG マウント,3,640m)等多様な海底熱水 孔が近年発見され,地球化学や微生物学の分野 から研究が進んでいる.その結果深海熱水噴出 孔周辺には,高温かつ還元的で高濃度の H

2

S,

CH

4

,H

2

や重金属を含有し周辺海水との混合に より極めて多様な微環境が形成され,高密度で 特異な生物群集から構成される生態系の存在が 明らかになってきた.このような深海熱水孔に は,独立栄養性の好熱性水素細菌が広く分布し て深海熱水環境の一次生産を担っていることが 明らかになり

7)

, 各々の熱水環境により特徴的 な嫌気性超好熱菌が主に生息していることが見 出されている

8)

.

超好熱菌とは,至適増殖温度が 80℃以上ま たは 90℃以上で増殖可能な微生物群と定義さ れており,これまで超好熱性古細菌としてメタ ン菌、硫酸還元菌、硫黄代謝菌と,真正細菌の Thermotogales 目,Aquifex 属が知られ,系統 的にも生理的にも多様な微生物群である.超好 熱菌の大部分が嫌気性であるが,一般にこれら の嫌気性菌は,独立栄養的または従属栄養的に 増殖するかの違いはあっても,分子状 H

2

を電 子供与体とした硫黄呼吸によりエネルギーを獲

得する代謝様式を有するものが多い.

好気性超好熱古細菌として最も高温で増殖が 可能な Aeropyrum pernix は,これまで好気性 では不可能と考えられていた 90℃以上で良好 な増殖が可能な現在唯一の絶対好気性の特異な 超好熱古細菌である

9)

.本種はトカラ列島子宝 島の浅海熱水孔から分離され,その後も九州の 長崎や鹿児島県沿岸熱水環境から分離されてい る.近年小笠原トラフ水曜海山の深海熱水孔の チムニー外壁から分離された A. camini は,同 様な生理特性を有する好気性超好熱古細菌であ る

10)

. これらの種は現在日本近海の熱水孔以外 では報告が無い特徴的な超好熱古細菌である

(図 2).

3.超好熱菌 Aeropyrum 属 2 種のゲノム比較 Aeropyrum 属は分子系統学的に極めて近縁 な A. camini と A. pernix の 2 種からなる(表 1 左).両種は,16SrDNA の配列では 99% の 相 動 性 を 示 す が,DNA-DNA ハ イ ブ リ ダ イ ゼーションでは低い値を示し別種とされてい る

10)

.A. camini は深海熱水孔から,A. pernix は浅海熱水孔から分離され両種の生息環境は異 なるが,その表現形質は相似している

9,10)

A. pernix の全ゲノムは 1999 年に解読されて いるので

11)

,深海熱水孔から分離された A.

小宝島の浅海熱水孔

水曜海山の深海熱水孔

A. camini A. pernix

分離源

水曜海山 深度 1385m

子宝島 深度 2m 深海熱水孔 浅海熱水孔 高圧・暗黒で還元的 太陽光が届き酸化的 至適増殖

温度・pH 85℃・pH 8 90℃・pH 7 ゲノム配列 Daifuku et al., Appl.

Environ. Microbiol.

2013 (12) Kawarabayasiet al., DNA Res. 1999 (11) ゲノムサイズ 1.6 Mb 1.67 Mb

電子顕微鏡像

Sako Y. et al., Int.

J.Syst.Bacteriol.

1996. (9) Nakagawa S. et al.,

Int. J. Syst. Evol.

Microbiol. 2004.(10)

0.2 m 1 m

図 2 Aeropyrum 属超好熱古細菌 2 種の分離地点

と特性

(3)

camini の全ゲノムを解析して,両種のゲノム 比較を行ってその特性を調べた.

A. camini ゲノムの 8kb ペアエンドライブ ラリーを作成し,次世代シーケンサー Genome SequencerFLX を用いてシーケンスを行った.

GSDe Novo アセンブラーで、10 個のコンティ グからなる総塩基数約 1.6Mbp の単一スキャ フォールドを構築した.コンティグ間をプライ マーウォーキングによってシーケンスし,最終 的 に 1 つ の 環 状 ゲ ノ ム の 解 読 に 成 功 し,

Microbialgenomeannotationpipeline を 用 い てゲノムの注釈づけを行った.A. camini のゲ ノムサイズは A. pernix と同様に小さく(1.60 Mbp),GC 含 量 は 56.7% と 高 い 値 を 示 し た.

タンパク質をコードする遺伝子は 1645 個であ り,これら基本性状は A. pernix と類似してい た(表 1).また,両者は共通祖先に由来し同 じ機能を持つ遺伝子(オルソログ遺伝子)を多 く(88%)共有していた

12)

.

生息環境が異なる両種において,オルソログ 遺伝子の配置順(シンテニー)はよく保存され ており,大規模なゲノム再編は認められなかっ た(図 3).この原因として,本属ゲノム上に ゲノム再編の起点となる可動性遺伝因子(挿入 配 列 と M i n i a t u r e I n v e r t e d R e p e a t TransposableElement)が少ないためと推測 さ れ る. 一 方 嫌 気 性 超 好 熱 古 細 菌 で あ る

Pyrococcus 属間ではゲノムシンテニーが低く,

ゲノム進化や特性において対照的であった

13)

. さらに,Aeropyrum 属に必要な遺伝子を残 してゲノムを縮小させていたことから ,本属祖 先は酸化的な熱水環境に局所適応し,ゲノム再 編に伴う転写制御の変化が許容されないと推察 された.このように,好気性の Aeropyrum 属 古細菌は熱水環境に適応したスペシャリストで あると推察された.その一方で,シンテニー崩 壊箇所が少数認められ、その主要な要因の一つ は,古細菌で初めて発見された A. pernix の 2 つの溶原化ウイルス(APOV1 と APSV1)に 由来した

14)

.また,ウイルスに対する獲得免 疫 機 構 CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)/

Cas

15)

システム(図 4)において顕著なシンテ ニー崩壊が認められた.A. camini と A. pernix の 両 種 は 3 つ の CRISPR/Cas を 共 有 し,A.

camini はそれに加えて 1 つの独自の CRISPR/

Cas を有していた.さらに,CRISPR に含まれ るスペーサー配列(ウイルス感染履歴)の組成 はまったく異なっていた.2 つの溶原化ウイル スを欠如した A. camini の CRISPR に由来す る 59 個のスペーサー配列の内,3 つのスペー サー配列が APOV1 あるいは APSV1 のゲノム

A. camini A. pernix ゲノムサイズ(Mb) 1.60 1.67

G+C含量(%) 56.7 56.3

全遺伝子数 1,695 1,750

RNA遺伝子数 50 50

タンパク質コード

遺伝子数 1,645 1,700

COG*に割り当て

られた遺伝子数 1,162 1,205 参考文献

Daifuku te al.

Appl.Environ.

Microbiol.

2013. (12)

Kawarabayasi et al., DNA Res.1999 (11)

*COG: Cluster of orthologous groups of protein

Methanopyrus kandleri Ignicoccus hospitalis Pyrolobus fumarii Hyperthermus butylicus

Aeropyrum pernix Aeropyrum camini

Caldisphaera lagunensis Acidilobus saccharovorans

Thermosphaera aggregans Thermogladiussp. 1633

Fervidicoccus fontis Ignisphaera aggregans 97

100

88 71

99 9198 67 78 66

70

100 0.02

16S rRNA遺伝子による 超好熱古細菌の最尤法分子系統樹

クレンアーキオータ

Thermoproteales Desulfurococcus Staphylothermus

Sulfolobales

表 1  Aeropyrum 属のゲノムの性状

A. pernix

A. camini

(深海由来)

0.4 0.8 1.2

0 (Mb)

A. pernix

(浅海由来)

0 0.4 0.8 1.2 1.6

(Mb) APOV1

(14)

APSV1

(14)

溶原化ウイルス CRISPR/Cas

ウイルスに対する 獲得免疫機構

図 3 A. pernix と A. camini の全ゲノム配列の比

較.両種のゲノムは相同遺伝子の配置順が

保存され高度なシンテニーを示した

12)

(4)

配列と相同性を示した.これは A. camini と A.

pernix が,近縁であるが遺伝的に差異を有する ウイルスとそれぞれの生息環境で相互作用した ことを示している.さらに,両種はオルソログ 遺伝子を多く共有していたが,各々の種はオル ソログでない遺伝子も保有していたことから,

その由来を解析した.その結果,オルソログで ない遺伝子の内,ウイルスに由来する遺伝子が 最も多かった.実際 A. pernix の生息環境や本 種の培養株から新規ウイルスが分離されてお

16,17)

,本属が多様なウイルスと相互関係を有

していると思われる.従って,好気性である Aeropyrum 属古細菌は熱水環境のスペシャリ ストとしてゲノムの大きな改編が許容されない が,ウイルスによりゲノム可塑性を示すことが 示唆された.

4.超好熱菌とウイルスのゲノム共進化 微生物はウイルスとの相互関係を通じて「共 進化」すると考えられている

18)

.微生物はウ イルスに対抗するために,CRISPR などのウイ ルス防御システムを発達させスペーサーを獲得 する.他方ウイルスは宿主が有する防御システ ムを克服するためにゲノムの塩基置換を引き起 こし,ウイルス自身の遺伝子を変異させてきた

と推測される.最近の詳細なゲノム比較により,

熱水環境に生息する Aeropyrum 属古細菌の祖 先はゲノムを縮小化させ,変化しにくいゲノム を保有しているが,各々の生息環境に応じて隔 離された宿主古細菌とウイルスの感染系が形成 され,それらのゲノム進化が促される可能性が 大きいと推測された.実際各地の海洋熱水環境 から分離された本属種のゲノム解析の結果,地 理的に隔離された個体群間で遺伝的な差異が生 じていることが明らかになってきた(未発表).

一般に微生物は,地球上に広く分散可能で共通 の遺伝子プールを共有すると考えられてきた.

しかし高温環境に生息する超好熱菌では,地理 的に隔離された個体群で遺伝的な差異が生じる ことが報告されている

19)

さらに、Aeropyrum 属古細菌のゲノム上に はウイルスに由来する遺伝子が見出された(図 5).従って宿主の新たな表現形質の獲得にウイ ルスが寄与している可能性が示唆される.これ までの研究は新規古細菌とウイルスの分離が中 心であり,古細菌とウイルスの相互作用に関す る詳細な生理学的実験やウイルスの増殖に関す る分子メカニズムに関する知見は乏しい.今後 はこれらの残された課題を明らかにすることに より,生命の有力な起源と考えられる熱水環境

環境適応して祖先型は縮小化し、変化しにくいゲノムを有する

ウイルス群A

生息地1 生息地2

共進化 共進化

拡散

ウイルス由来遺伝子や ウイルス防御系遺伝子

ウイルス群B

ウイルス群C

ウイルス群D ゲノム

祖先型 古細菌

図 5 スペシャリストである Aeropyrum 属超好 熱古細菌とウイルスの共進化のモデル図.

スペシャリストであってもウイルスと相同 作用することでゲノムを多様化させている.

L cas

遺伝子リーダー リピート

L

外来DNAから新たな スペーサーを獲得

ウイルス感染

スペーサー

L Casタンパク質

複合体

標的配列を切断し、

感染を阻害 同一の配列を持つ ウイルスの感染

スペーサー由来RNA CRISPRは、

宿主ゲノムに刻まれた

「ウイルス感染履歴」

ウイルス

宿主細胞

CRISPRは、古細菌と真正細菌 のゲノムに存在する繰り返し 領域で、スペーサーがリピー トを介して並ぶ(15)

図 4 獲得免疫機構CRISPR/Cas

15)

CRISPR:ClusteredRegularlyInterspaced

ShortPalindromicRepeat

(5)

に生息する古細菌とそのウイルスの共進化過程 を解き明かすことが期待される.

参考文献

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Provirusinductioninhyperthermophilic

Archaea:characterizationofAeropyrum

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図 2 Aeropyrum 属超好熱古細菌 2 種の分離地点 と特性
図 3 A. pernix と A. camini の全ゲノム配列の比 較.両種のゲノムは相同遺伝子の配置順が 保存され高度なシンテニーを示した 12) .

参照

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