661
化学と生物 Vol. 55, No. 10, 2017
フラボノイドによるビフィズス菌の機能向上
フラボノイドが引き出すビフィズス菌の潜在能力
ビフィズス菌は腸内フローラの主要な構成菌種であ り,有機酸やビタミン,タンパク質の合成などわれわれ 宿主の健康維持に重要な働きをしていることから,プロ バイオティクスとしても利用されている(1)
.腸内環境を
整えるとされる食物繊維やオリゴ糖などのプレバイオ ティクスは主にビフィズス菌の増殖を促進する.これら を資化したビフィズス菌は,酢酸と乳酸を産生して大腸 内pHを低下させることで有害菌の増殖を抑制するとと もに,周囲のほかの細菌による代謝を介して短鎖脂肪酸(プロピオン酸と酪酸)を増やし,腸管の機能を高める と考えられている(2)
.また,新生児における腸内フロー
ラでは,母乳に含まれるオリゴ糖によりビフィズス菌が 最優勢となり新生児の生育を助けることから(3),ヒトと
ビフィズス菌の共生関係の強さがうかがえる.食物繊維が豊富な野菜や果物を摂取すると,同時にフ ラボノイドも摂取することになる.植物体内のフラボノ イドはグルコースなどの糖が結合した配糖体として存在 しており,小腸上皮細胞が発現している糖輸送担体や代 謝酵素の作用により体内に吸収されて全身を巡る.そし て,脳や血管,筋肉など臓器に到達して各種フラボノイ ドに特徴的な生体調節機能を発揮すると考えられてい る(4)
.一方,約90%のフラボノイド配糖体はそのまま大
腸へ移行すると言われており(5),大腸に到達した配糖体
は腸内フローラの代謝酵素により糖とアグリコンに変換 される.フラボノイドの抗菌作用による病原性細菌の除 去が期待される一方で,大半のフラボノイドアグリコン は腸内フローラによって低分子のフェノール化合物へと 分解される(5).プロアントシアニジンなどの高分子化合
物は単量体に切断されたのち分解を受けると考えられて いる.主な分解様式はC環での開裂であり,A環とB環 由来の低分子化合物が生成される.そのため,親化合物 のフラボノイドに見られた機能性は失っているが,腸管 内や体内での抗酸化活性は十分に期待できるであろ う(5).一方,イソフラボンのダイゼインは,フラボノイ
ドの基本骨格を維持したまま,より高活性なエクオール に変換される.このような代謝変換は何千種類とあるフ ラボノイドの中でいまだダイゼインでしか見いだされて いない.クルクミンやレスベラトロールにおいても,構造が一部修飾された代謝変換体は報告されていることか ら,フラボノイドにもまだ「お宝」が眠っている可能性 は十分に考えられる.フラボノイドの代謝には,腸内フ ローラの最優勢菌種である 属や
属細菌が多く報告されているが,同じく最優勢のビ フィズス菌についてはほとんど知見がない.一方,腸内 フローラにおいてビフィズス菌の1/1,000ほどしかいな い乳酸菌にはエクオール産生菌として働くものが知られ ている.これは,偏成嫌気性であるビフィズス菌の生育 環境が動物の腸管に限定的であるのに対し,通性嫌気性 の乳酸菌は自然界に広く生育でき,フラボノイドに接触 する機会が比較的多いことに関係しているのかもしれな い.
腸内フローラによるフラボノイドの代謝に関する研究 は広く進められているが,機能的な変化については十分 に解明されていない.そこでわれわれは,腸内有用細菌 に注目してフラボノイドとの機能的相互作用を解析する ため,試験管内でビフィズス菌もしくは乳酸菌をフラボ ノイドとともに嫌気条件下で培養し,その培養上清の抗 炎症活性を細胞実験で検討した.その結果,ビフィズス
菌の一種である とケルセチ
ンを組み合わせることで,それぞれ単独の場合よりも顕 著に抗炎症活性が上昇することを見いだした(6)
.これ
は,「お宝」(ケルセチン由来の高機能な新規代謝物)の 発見が期待されたが,解析を進めた結果,ケルセチンが の抗炎症活性を増強していることが明ら かとなった(図1
).同様の効果を示すポリフェノール
として,ガランギンやフィセチン,エピガロカテキンガ レート(EGCG),フロレチン,タキシフォリンを見い
だしている(7).また,EGCG,フロレチンおよびタキシ
フォリンに関しては, による酢酸と乳酸 の産生を有意に促進することも明らかにしている(7).な
お,これまでにもビフィズス菌の抗炎症活性についてい くつか報告されているが,活性成分はいまだ十分に解明 されていない.われわれも活性成分の同定を進めてお り,酢酸と乳酸は上述の培養上清における抗炎症活性成 分ではないことを確認している.これまでにこのようなフラボノイド応答性が確認でき
日本農芸化学会
● 化学 と 生物
今日の話題
662 化学と生物 Vol. 55, No. 10, 2017
たビフィズス菌は のみであるが,
は健康成人によく見られる菌種であり,日常的 にこのような現象が腸管内で生じている可能性が期待で きる.また,フラボノイドの健康効果として捉えられて いた生体調節機能の一部が共生細菌を介したものである 可能性を示唆していることも非常に興味深く,フラボノ イドの生理機能発現における新しいメカニズムとしてさ らなる究明に努めている.フラボノイドとビフィズス菌 の組み合わせは膨大であり,抗炎症活性以外にもビフィ ズス菌を高機能化できる可能性が十分に考えられる.今 後は腸内フローラやヒトを対象とした検証が必要である が,こうした知見が基礎研究のみならず,食育や機能性 食品の開発など将来的にさまざまな分野で活用されるこ
とを期待している.
1) 大野博司,服部正平:実験医学増刊,32, 14 (2014).
2) P. Louis, G. L. Hold & H. J. Flint: , 12, 661 (2014).
3) 片山高嶺:化学と生物,50, 2 (2012).
4) K. Kawabata, R. Mukai & A. Ishisaka: , 6, 1399 (2015).
5) A. M. Aura: , 7, 407 (2008).
6) K. Kawabata, Y. Sugiyama, T. Sakano & H. Ohigashi:
, 39, 422 (2013).
7) K. Kawabata, Y. Kato, T. Sakano, N. Baba, K. Hagiwara, A. Tamura, S. Baba, M. Natsume & H. Ohigashi:
, 79, 799 (2015).
(川畑球一,神戸学院大学栄養学部)
プロフィール
川畑 球一(Kyuichi KAWABATA)
<略歴>1996年近畿大学生物理工学部生 物工学科卒業/2002年京都大学大学院農 学研究科応用生命科学専攻修士課程修了/
2005年同大学大学院農学研究科食品生物 科学専攻博士後期課程退学/2006年博士
(農学)(京都大学)/同年徳島大学大学院 ヘルスバイオサイエンス研究部COE研究 員/2008年神戸大学自然科学系先端融合 研究環重点研究部科学技術研究院/2009 年同大学特命助教/2010年福井県立大学 生物資源学部助教/2013年同大学講師/
2016年現職<研究テーマと抱負>フラボ ノイドの生体調節機能について腸内フロー ラへの影響から分子基盤の解明を目指して いる.腸内細菌がフラボノイドに応答する 意義も知りたい<研究室ホームページ>
http://www.nutr.kobegakuin.ac.jp/~
foodsci/index.html
Copyright © 2017 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.661 図1■腸内フローラとフラボノイドの機能的相互作用
日本農芸化学会