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環境応答とバイオミネラリゼーション - J-Stage

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Academic year: 2023

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(1)

シリカは地球上で最も多く存在する元素でありながら,最も 多く存在する微生物の大部分にとっては無用の長物であると 思われてきた.ところが,地熱地帯で散見されるシンターと 呼ばれるシリカ沈殿物や産業用施設の配管や設備に沈殿する シリカスケールなどのバイオミネラリゼーションを通じて見 ると,好熱菌がシリカを巧みに利用して自身の生存を担保し ている様子が伺える.ここでは,好熱菌にとって無用の用を なすシリカのバイオミネラリゼーションについて紹介する.

バイオミネラリゼーション(biomineralization ; 生物 鉱化現象)とは,生物が自身の内外で無機鉱物を形成す る過程のことであり,本過程によって形成された物質は バイオミネラル(biomineral ; 生体鉱物)と呼ばれてい る.生体鉱物としては,骨や歯,貝殻,甲殻類の外骨格 などが挙げられるが,これらの生体鉱物は純粋な無機鉱 物とは異なり,その形態形成・維持の過程において多種 多様な生体高分子が関与する有機高分子/無機ハイブ リッドである.生体鉱物の種類は多岐にわたるが,

Lowenstamはその形成過程の違いからバイオミネラリ ゼーションを次の2つのタイプに分類している(1)

一つは,生物が骨格形成など,ある特定の目的のため に,望ましい場所に,目的とする鉱物を構成するイオン のみを濃縮し,ある決まった形で鉱物相を形成する過程 で,“biologically-controlled mineralization”( 生 物 制 御 型鉱物化現象)と称される.我々がよく見聞きする生体 鉱物は,このタイプの鉱化現象によって形成される.た とえば,シリカ (SiO2)*を主成分とする被殻をもつ単細 胞性の藻類であるケイソウは,環境水中からSIT (sili- con transporter) と呼ばれるトランスポーターを用い,

シリカの構成要素である単量体ケイ酸 (Si(OH)4)*を選 択的に細胞内に取り込み,濃縮する(2).次いで,これら

Response to Environmental Signals in Biomineralization Yasuhiro FUJINO, Takushi YOKOYAMA, Katsumi DOI, *1九州 大学基幹教育院,*2九州大学大学院理学研究院,*3九州大学大学 院農学研究院

【解説】

環境応答とバイオミネラリゼーション

極限環境下における細菌の生存戦略

藤野泰寛 * 1 ,横山拓史 * 2 ,土居克実 * 3

*シリカとは二酸化ケイ素によって構成される物質のことを言い,

厳密には (SiO2)であるが,通常は組成式SiO2で表わされる.シ リカはSiの溶存状態であるケイ酸 (Si(OH)4) の重合体として形成 されるため,溶存している場合にはケイ酸,固体として沈殿した 場合にはシリカという用語を用いることとする.したがって,単 量体ケイ酸はSi(OH)4,重合体ケイ酸は溶存状態にある (SiO2

(=コロイドシリカ),シリカとは沈殿した固体状シリカを指すも のとする.また,ケイ酸の濃度はSiO2に換算した濃度をppm単位 で表わすこととする.

(2)

の単量体ケイ酸は,細胞小器官の一種であるSDV (sili- ca deposition vesicle,珪酸沈着小胞)に輸送され,si- laffin(シラフィン)と呼ばれるペプチドの作用を受けて シリカとして沈着し,特定の紋様をもった被殻が形成さ れる(3).この被殻形成はケイソウの生育に必須であり,

ケイ酸の供給なしにはケイソウは生育できない.

このように明確な意図をもち鉱物化の過程を厳密に制 御する生物制御型の鉱物化とは異なり,生物の制御を経 ずに起こるバイオミネラリゼーションも存在する.これ は,前 者 と 比 較 し て“biologically-induced mineraliza- tion”(生物誘導型鉱物化現象)と呼ばれる.この過程 においては,生体鉱物は単に代謝活動の副産物として形 成されたり,細胞表面と環境水との相互作用の結果とし て形成されたりする.すなわち,代謝の老廃物(O2,  OH, HCO3, Fe2+, NH4, H2Sなど),酵素による酸化

還元状態の変化(Fe(II), Mn(II) の酸化など),もしく は細胞表面の電荷状態や化学組成などに応じて,これら が鉱物を構成するイオンと相互作用し,明確な形や結晶 構造をもたない鉱物相が形成される過程である.細菌の 表面には水酸化鉄 (III),マグネタイト,炭酸カルシウ ム,シリカなどの鉱物相が形成されることが知られてい るが,これらのほとんどは生物誘導型の鉱物化現象に相 当する(4).最古の例では,約19億年前の岩石層中にシ リカに包埋された生体鉱物の痕跡が確認されており,生 物誘導型の鉱物化現象は原始生命が誕生した瞬間から起 こっていたことを示唆している.生物誘導型の鉱物化現 象の過程については様々な要因が考えられているが,形 成される無機鉱物が決まった形を有しておらず,その形 成時期も特定の時期ではないことなどから,細菌がその 過程全体を制御する術をもたないのは事実のようであ る.

細菌によって形成される生体鉱物は,ケイソウなどに 見られるような特定の形態・結晶構造をもった骨格をつ くらず,これらの鉱物は細菌の生育に必須でないといっ たことから,細菌は明確な意図をもって鉱物を沈殿させ ているのではないように思われる.しかし,38億年前 とも言われる生命の誕生期において,その環境には多種 多様な鉱物を構成するイオンが豊富に溶解していたはず であり,生命の誕生と生体鉱物の形成は同時に起こって いたとしても不思議ではない.生命は周りの環境に適応 するように進化し,時にはその環境そのものを変えるこ とで生存してきた.これほど十分な進化の期間があった にもかかわらず,細菌は自身にとって意味を成さない鉱 物化を行なうのであろうか? この一見無駄にも思える 鉱物化現象の裏に隠された,細菌の生体鉱物を利用した 巧みな生存戦略について探ってみたい.

地熱環境におけるシリカの化学

上記のように,バイオミネラリゼーションは多種多様 な生物種において見られ,またそれらの細胞で形成され る鉱物も様々である.ここでは細菌を対象とし,対象鉱 物をシリカに限定して述べる.シリカは地殻の約60%

を占める地球上で最も多い化合物であり,シリカの沈殿 は多くの地熱環境下において重要な地質学的過程であ る.特に,熱水湧出域などの地熱環境ではシンターと呼 ばれるシリカ沈殿物が広範に見られる.また,地熱発電 所のような地熱熱水を利用する施設の輸水設備などで も,シリカスケールと呼ばれるシリカ沈殿物が広汎に認 められる.それらの中には非晶質シリカ(明確な結晶構 図1シリカ沈殿物と細菌

(a) 地熱発電所のシリカスケールのEPMA (electron probe micro- analysis)写真.球状のシリカ粒子の周りに桿菌が付着している.

(b) 非晶質シリカに完全に包埋されたシアノバクテリアの透過型 電子顕微鏡像.中央の灰色の部分が菌体であり,その周りに数μm に及ぶシリカの層が確認できる.Barは (a), (b) ともに2 μm.(文 献5), 17) より著者の許諾を得て改変)

(3)

造をもたないSiO2鉱物)に付着した細菌様構造が多数 見られる(図1-a)(5).このことからも,細菌とシリカは 何らかの相互作用をしていることが推測される.そこで まず,地熱環境におけるシリカの化学的性質について概 説する.

地熱環境において,熱水は地下深くにある熱水貯留層 に由来する.貯留層を構成する岩石には結晶性シリカで ある石英が含まれ,地熱熱水は石英と溶解平衡になり,

シリカに関して飽和状態となる.地熱貯留層内の熱水は マグマからの熱で200 〜300℃となるため,熱水内のシ リカ濃度は必然的に100℃における非晶質シリカの溶解 度(約400 ppm)よりも高くなる.このような流体が地 表に向かって上昇すると,圧力低下のために沸騰を起こ し,酸性ガスの脱ガス,pH上昇と水の蒸発,地表での さらなる蒸発と温度低下などを経て,急激にシリカに関 して過飽和となる.通常の無機物質であれば,過飽和に なれば溶解度を超えた分の溶質が沈殿し,その温度での 飽和濃度を維持するが,シリカの場合は単量体ケイ酸の 重合による重合体ケイ酸(p. 175の脚註参照)の生成を 含む複雑なプロセスを経る.

環境でのSiの溶存状態は,低濃度かつpH 8以下では 単量体ケイ酸Si(OH)4である.非晶質シリカの溶解度と は,ある温度,圧力,pH条件下において,水と非晶質 シリカを十分接触させた後に溶存している単量体ケイ酸 の濃度*を意味する.したがって「過飽和状態のケイ酸 溶液」とは,水溶液に含まれる全ケイ酸濃度が非晶質シ リカの溶解度以上に達していることを意味している.こ のような過飽和状態においては,まずケイ酸数分子が互 いの水酸基(シラノール基:Si-OH)を脱水縮合し,シ ロキサン結合 (Si-O-Si) を形成することでオリゴマーと なる.次いで,これらオリゴマーや溶存するケイ酸が重 合を繰り返し,1 〜 5 nmの粒径をもつ球状シリカが形 成される.さらに,球状シリカからオストワルト熟成

(小粒子が消滅して,大粒子が次第に大きくなっていく 現象)を経て5 nm以上の粒径をもつ重合体ケイ酸(=

コロイドシリカ)が形成される.コロイド次元をもつ重 合体ケイ酸は,その表面のシラノール基やシロキサン結 合に由来する電荷の偏りをもつため,表面は電気的に負 に帯電する.そのため,互いのコロイドが静電的に反発 し,溶存状態を維持して沈殿しない(図2.以上が過 飽和ケイ酸溶液が存在しうる理由である.したがって,

過飽和ケイ酸溶液中には非晶質シリカの溶解度分の単量 体ケイ酸と過飽和分に相当する重合体ケイ酸が存在する ことになる(6)

筆者らが高度好熱菌 を用いて

行なった実験では,培養温度75℃におけるケイ酸の飽 和濃度 (300 ppm) を超える過飽和ケイ酸を加えた培養 において,バイオシリカ(バイオミネラリゼーションに よって形成されたシリカ沈殿物)の形成が認められ た(7) (図3.本条件下では,培養開始時のケイ酸濃度 と培養後の溶存ケイ酸濃度との差分から,過飽和分に相 当するケイ酸のみがバイオシリカとして沈澱しており,

図2シリカの溶解(左)およびケ イ酸の重合(右)

図3  TMYの増殖曲線と溶存シリカ濃度の 経時変化

●:増殖曲線,■(菌あり),□(菌なし):溶存シリカ濃度.対 数増殖期中期〜後期にかけて,TMY株存在下においてのみ溶存 シリカ濃度が急激に減少しており,本系におけるシリカ沈殿(バ イオシリカ)の形成を示している.

(4)

重合体ケイ酸のみがバイオシリカ形成に関与することが 推定された.他の研究でも,細菌と単量体ケイ酸との間 にはほとんど相互作用がないことが報告されている(8). これらの結果から,細菌によるバイオシリカ形成には過 飽和のケイ酸が必須であり,重合体ケイ酸がバイオシリ カ形成の前駆体となっているものと推察される.

上記のようにコロイドシリカは負の表面電荷をもって いるが,細菌表面もまた極く低いpH域を除いては負に 帯電している.そうすると,細胞表面とコロイドシリカ との相互作用を実現するには,この静電反発を超えるド ライビングフォースが必要である.これらの可能性とし て,(1) 菌体表面(菌体外多糖)の水酸基とコロイド表 面のシラノール基との水素結合,(2) 金属陽イオンなど による菌体表面とコロイドシリカ表面間の架橋結合,

(3) 表面に分泌されたタンパク質に富むバイオフィルム のプロトン化されたアミノ基とコロイドシリカ表面の負 電荷との直接的静電相互作用などが推定されている

(9〜11),いずれも解明には至っていない.また,単量

体ケイ酸がバイオシリカ形成に関与する場合,細菌表面 に結合したFeやAlなどの金属イオンが重要な役割を果 たすというモデルも提案されている(12〜13).これらのよ うな物理化学的相互作用の他にも,生物制御型の鉱物化 で見られるようなシリカ特異的に相互作用するタンパク 質などが存在している可能性もある.しかし,細菌のシ リカ沈澱に関わるタンパク質の報告は皆無に等しい.

シリカ刺激に対する細菌の応答

筆者らは, 属細菌によるバイオシリカ形成 にその菌体表層が深く関与し,また外的因子としてケイ 酸濃度がバイオシリカ形成に重要な役割を果たしている と推測した.そこで, 属細菌を様々な濃度 (0

〜600 ppm) のケイ酸を含む培地中で培養し,その菌体 表層タンパク質を抽出したところ,分子量約35 kDaの タ ン パ ク 質 が 過 飽 和 ケ イ 酸 存 在 下(75℃に お い て 300 ppm以上)でのみ特異的に生産されることを見いだ した(14).本タンパク質はシリカ誘導性タンパク質 (Sili- ca-induced protein) と命名され,過飽和ケイ酸添加後1 時間以内に誘導発現が開始されることも明らかとなっ た.

シリカ誘導性タンパク質はその内部アミノ酸配列か ら,Fe3+ binding ABC transporterであると推測され た.Fe3+ binding ABC transporterは,主に病原性細菌 で研究されており,これら病原菌が感染時や病原性発露 の際に環境中に微量存在する鉄イオンの取り込みに機能

することが知られているが,シリカとの相互作用は知ら れていない.そこで, を過飽和シリカ 添加培地中および鉄欠乏培地中で培養し,マイクロアレ イ 解 析 を 行 な っ た.両 条 件 と もFe3+ binding ABC  transporterをはじめとする鉄輸送に関わるタンパク質 をコードする遺伝子転写量が増大しており,ケイ酸添加 時に鉄欠乏が起こっていることが示唆された.これは,

重合体ケイ酸の表面負電荷に鉄イオンが結合し,細菌細 胞にとって利用可能な鉄イオンが減少した鉄飢餓状態に なったためであると考えられる.これは裏を返せば,細 胞は重合体ケイ酸が存在するというシグナルを,利用可 能な鉄イオン濃度の減少という形で受信していることを 意味している.生育に必須な鉄が減少すれば菌の増殖は 阻害されると考えられるが,600 ppmのケイ酸添加条件 下での増殖曲線はケイ酸無添加である通常培養時と変わ りなかった.このことから,重合体ケイ酸による鉄の欠 乏は生育を阻害するほど厳しいものではないことがわか る.

興味深いことに,重合体ケイ酸存在下では重金属排出 トランスポーター遺伝子の転写量も有意に増大してい た.筆者らが培養に使用したケイ酸のソースはほぼ純粋 なメタケイ酸ナトリウムであったことから,細胞に有害 な重金属が含まれている可能性はきわめて低い.それに もかかわらず重金属排出トランスポーターが発現してい るということは,細胞が重合体ケイ酸の存在を感知し,

意図的に細胞表面に金属イオンを集積し,金属イオンに よる架橋構造によってケイ酸を重合させ,バイオシリカ として沈殿させているとも考えられる.

ケイ酸刺激による特異的タンパク質の発現誘導は,近 年シアノバクテリアの一種  sp. PCC 7120でも 報告されている(15).この場合も,300 ppmの過飽和ケ イ酸の存在条件下でのみ,116 kDaのタンパク質の発現 が検出されている.本タンパク質もやはりmembrane  transporter(膜輸送体)と相同性があることが報告さ れているが,詳細は不明である.また,独立栄養細菌 Aquificale の一種である

では,過飽和ケイ酸存在下で菌体外高分子 (extracellu- lar polymeric substances, EPS) が多量に分泌され,そ のEPS周縁にバイオシリカが沈着するという現象が見 られる(11).このように,バイオシリカ形成に特定のタ ンパク質や生体高分子が関与している可能性が指摘され 始めており,細菌は意図的にシリカを沈殿させているこ とも考えられる.

(5)

バイオシリカ形成がもたらすメリット

これまで細菌によるシリカ鉱物形成は,高濃度シリカ が無機的に沈殿する鋳型としての反応場に過ぎないと考 えられてきた.しかし,細菌は確実に環境中のケイ酸に 応答し,それを積極的に沈殿させようとしているように 思われる.一方で,表面に鉱物シリカが沈着した状況下 で細菌ははたして生存できるのかといった疑問がある.

属細菌を用いたバイオシリカ形成実験では,

該菌は過飽和ケイ酸添加時にも無添加時とほぼ変わらな い増殖能を示し,過飽和シリカは 属細菌の生 育に影響を与えないことがわかった.またPhoenixら は,  sp.  をケイ酸濃度600 ppmの培地中で12 日間培養するとケイ化が見られ,細胞の周縁に数

μ

mに 及ぶシリカの層が形成されることを報告している(図 1-b).それによると,このようにケイ化された細胞でも ケイ化されていない細胞と同程度の光合成能を有してお り,ケイ化が細胞死を導くものではないと結論付けられ ている(16).したがって,シリカによって包埋されると いうよりも,むしろシリカによってできた鎧を身にま とっていると表現したほうがよいのかもしれない.

Phoenixらは,この シリカの鎧 によって細菌が獲得 しうる利点について,下記のように提唱している(図 4(17)

1.  有害な紫外線からの遮蔽

バイオシリカ形成によって得られる利点の一つとし

て,有害な紫外線からの保護が挙げられる.紫外線は生 命にとって有害であり,特に240 nmと270 nmの波長の 紫外線はDNAに吸収されるため,きわめて有害であ る.シリカは光合成に必要な波長の光 (400 〜 700 nm) 

は吸収しないが,紫外線を吸収し,その強度を1/10程 度にまで減衰させる.Phoenixらの実験でも,ケイ化細 胞は非ケイ化細胞に比べてかなりの紫外線耐性を示すこ とが報告されている(18).また,地上レベルよりも紫外 線の強い高高度・低緯度地域の熱水湧出域では,光合成 細菌がシンター表面から1 〜 10 mmの深さに生育して おり,このことはシンター表面から1 mm以内にUV-B 

(280 〜315 nm) の強度が減衰させられるという物理化 学的予測とよく一致している.また,光合成に必要な光 は5 〜 10 mmの深さまで届くと予測されており,これ も上記の生育範囲と一致している(16)

2.  他の生物による攻撃に対する防護柵

次に提唱されているバイオシリカの機能は,アメーバ などの原生生物からの捕食を防ぐ役割である.このよう な食作用によって敵に取り込まれた場合,シリカの鎧ご と食されてしまうようにも思える.しかし,多くの細菌 がシリカによって集合し,ある程度の大きさをもつよう になると,このような食作用は受けなくなるであろうと 彼らは指摘している.このような実例はいまだ報告され ておらず,これを証明する実験も行なわれていないが,

シリカの鎧が他者の攻撃からの防護柵になっている可能 性は十分にある.

図4バイオフィルムおよびバイオ ミネラリゼーションによる生育上の メリット

文献15) より著者の許諾を得て改変.

(6)

筆者らは,上記のような原生生物の脅威への防護以外 のシリカの鎧の役割として,抗生物質の脅威に対する防 御を推察した.環境中には様々な細菌や真菌が生産する 抗生物質が混在していると考えられる.高温環境中に生 育する において,シリカがこれらに対 する耐性に関与をするのではないかと考え,種々の抗生 物質に対する感受性について検討を行なった.その結 果,アンピシリン,クロラムフェニコール,カナマイシ ン,テトラサイクリンに関しては,ケイ酸添加の有無に かかわらず薬剤耐性獲得は認められなかったが,バシト ラシン,コリスチン,ポリミキシンBでは,ケイ酸添加 時にのみ耐性獲得が示唆された.  HB8 ゲノム上にはmultidrug-efflux transporter(多剤排出ト ランスポーター)など7つの薬剤耐性獲得に関わると推 定される遺伝子が座乗しており,これら遺伝子の転写量 をreal-time PCRで追跡したが,すべての遺伝子転写量 は有意な増大が認められなかった.すなわち,これらの 薬剤耐性獲得は薬剤排出ではなく,バイオシリカ形成に 起因するものと推察された.本実験で耐性を示したバシ トラシン,コリスチン,ポリミキシンBはいずれも細胞 膜に作用する薬剤であり,地熱環境下にも生育する

属細菌およびその類縁菌が産生する.

は環境に多量溶存するケイ酸を利用し,自身 の表面へ沈着させたシリカの鎧をまとい細胞膜の堅牢性 を高めて抗生物質による攻撃から身を守っていると推察

される(19)

3. 「生育の場」としてのバイオシリカ形成

細菌によって沈澱させられるシリカは,石英のような 結晶性SiO2ではなく,非晶質含水シリカ (SiO2・ H2O) 

である.長い時間をかけて脱水していけば,これらの鉱 物はより結晶性の高いものへと移行していくのではある が,最初に形成されるバイオシリカは水和したゲルのよ うなものである.これは,非晶質シリカが多孔質の構造 をしており,その間隙に水分が保持されるためであると 考えられる.これらバイオシリカはいわばスポンジのよ うなものであり,一時的に水分を貯留しておくには好都 合である.この利点として,以下のような例が考えられ る.

地熱環境には間欠泉が多く存在するため,常に一定量 の熱水が流出しているとは限らない.つまり,細菌は水 分の供給がいつ途絶えるかもしれない危険と隣り合わせ の環境で生育しなければならない.しかし,バイオシリ カが付着した細胞は,一時的に水分の供給が停止された としても,バイオシリカのスポンジ中に蓄えられた水分 を利用することで,その環境中で生き抜ける可能性があ る.

また,バイオシリカ形成によって細菌が得る他のメ リットは,バイオフィルムの堅牢性が高まることであろ う.地熱環境中で形成される構造物を電子顕微鏡で観察

図5地熱環境で見られるシリカ沈 殿(シリカシンター)と

によるバイオシリカ

(A) シンター頂上の熱水湧出孔.沸 騰した地熱熱水が噴出する孔の周縁 部は超好熱菌が生息している.(B) 

周縁部から流出した地熱熱水の流路

(水温約80℃)にはシリカ沈殿ととも に,オレンジ色や黄色を呈する高度 好熱菌のコロニーが見られる.(C) 

熱水流路の下流域(水温約40℃)に はシアノバクテリア類が生息してい る.(D-1) TM培地,(D-2) TM培地 中 で 培 養 し た .(E- 1) 600 ppmのシリカを含有したTM 培地,(E-2) 600 ppmのシリカを含有 したTM培地中で培養した

.培地はすべて36時間振盪 

(75℃, 150 rpm) した.

(7)

すると,生体鉱物をまとった単体の細胞が多数見られる のではなく,多数の細胞がまとまって生体鉱物のマト リックスに包埋された状態で存在している.このような 状態の細胞は単独で鉱物化した細胞よりも構造的に強固 なものであることが予想される(20).また,複雑な構造 をもったバイオフィルムを形成することで,環境水と接 触するバイオフィルムの表面積が広がり,栄養分の輸送 や貯留に有利に働くといった側面も考えられる.このよ うなバイオフィルムの形態形成と構造維持に生体鉱物が 関与しているものと推測される.完全に生体鉱物に包埋 された状態では物質輸送が不可能に思われるが,上記の シアノバクテリアを用いた実験で,鉱物化された細菌は そうでないものと同程度の光合成能を有しており,生体 鉱物を介した二酸化炭素の輸送は十分に行なわれている ことが明らかとなっている.これはおそらく,シリカが 非晶質含水シリカゲルとして沈着しているため,その細 孔を通して物質輸送が行なわれているのであろう.他の 鉱物ではこのようなことは起こり得ず,細菌がシリカを 生体鉱物の材料として選んだ理由の一つになっているの かもしれない.

さらに,バイオシリカは細菌が好適の環境における生 存を担保している可能性も考えられる.地熱地帯では熱 水が地下から地表に湧出し,外気による冷却や微生物の 作用によってマウンド状のシンターテラスが形成され る.シンター頂上部より湧出した熱水は斜面に沿って流 出し,徐々に水温が下がっていく.熱水流路には熱水の 温度に対応した微生物マットが観察される.これらの微 生物マットは温度域に従って異なる色を呈しており,そ れぞれ上流から超好熱菌,高度好熱菌,中度好熱菌が住 み分けされているのが確認できる(図5(12).特に生育 温度域の限定される好熱性細菌は,このように流れのあ る環境の中で自身の至適生育温度範囲に留まり続けない 限り生存できない.このため,これらの細菌は地熱環境 に豊富に含まれるシリカを利用し,バイオシリカを含む バイオフィルムを産生して「生育の場」を確保している と推察される.実際にシリカを培地中に添加した

属細菌の液体培養では,培養液の上縁部にシンター テラスで見られたようなバイオシリカの付着が顕著に認 められる(図5).このことも,高度好熱菌が環境中に 豊富に存在するシリカを敢えて沈殿させることで自身の 生存に活用している一例であろう.

以上のように,細菌,特に好熱性細菌は,自身の増殖 には不要なシリカを巧みに利用して生存を担保している と考えられる.しかし,地球上に豊富に存在するもの の,細菌の生育に必須ではない無機鉱物であるシリカと 細菌との関連に関する研究は,未だ緒に着いたばかりで ある.両者の相互作用を追究することで,原始地球にお ける生命の営みとその進化が理解できるとともに,シリ コンやセラミックなど,我々の生活に欠かせないシリカ 資源の利用開発にも貢献できると考えられる.

文献

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参照

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はじめに 約4億2000万年前のシルル紀後期からデボン紀前期に かけて植物が陸上に進出した際,それまでの水中での温 和な環境と異なり,過酷な乾燥環境から植物体を守るた めに,植物は防水性のクチクラ層で体表面を覆い乾燥を 防ぎ,同時にガス交換を行うために一対の孔辺細胞から なる気孔を表皮に発達させた.最も古い陸上植物の系譜

はじめに 地球上の環境は絶えず変化する.生存を光エネルギー に依存する光合成生物にとって昼夜の環境変動を予測し て応答を準備することは生存に有利に働くと考えられ る.地球の生物進化の初期に誕生したシアノバクテリア に概日時計が存在することからも,光合成生物の環境適 応として概日リズムへの応答が重要であることがうかが える1.植物の祖先である単細胞藻類は,シアノバクテ

存することはもちろんであるが,2つのデータベースに おける個別の食品中の含有量を比較した場合,数値に乖 離が見られる食品も存在することから,データベースの さらなる整備が必要であると考えられる2. ポリフェノールの機能性 植物性食品に含まれるポリフェノールの機能性につい ては からコホートや介入試験に至るまで多種多

11, 2015 アミガサハゴロモの近縁種であるビワハゴロモには, 幼虫・成虫ともに腹から太いロウ物質を分泌するものが 多い.ビワハゴロモはロウ物質の苦味を防衛に利用して いるものと考えられる.一方,アミガサハゴロモの幼虫 では,ロウ物質が擬態と逃走に寄与していると考えられ る.近縁種が同じ物質を異なる目的で利用し,それぞれ

 生物による気候の緩和については聞いた ことがあるかと思います。日中、太陽から

ガラス固化体の溶解 :核種の溶出、沈殿 ベントナイト中の拡散 :吸着、沈殿.

denticola TDE_1382は低栄養状態ストレス 下での本菌の増殖と dentilisin