はじめに
ストリゴラクトンは植物の根から分泌され寄生植物ス トライガの種子発芽を誘引する物質として1960年代に 同定されたが,その後数十年間,植物がなぜ自分に不利 益をもたらす物質を合成するのかは不明であった(1). 2005年にストリゴラクトンがアーバスキュラー菌根菌 と植物との共生を促進することが明らかになり,さら に,2008年には植物体内で植物ホルモンとして働くこ とが示された(2〜4).これらの発見を契機にストリゴラク トンの生合成,信号伝達,進化などの研究が急速に進展 した.また,最初に報告された腋芽伸長の抑制以外にも 植物ホルモンとしてのさまざまな機能をもつことが明ら かになってきており,ストリゴラクトンは環境に応答し た形態形成を制御することにより植物の成長を最適化す るという役割を果たしていると考えられるようになって きた.本稿では,ストリゴラクトンに関する最新の知見 を概説する.
生合成
ストリゴラクトンが植物ホルモンとして働くことが発 見される以前から,シロイヌナズナ,イネ,エンドウ,
ペチュニアなどで地上部の枝分かれが増加する一連の変 異 体 が 解 析 さ れ,そ れ ぞ れ
( ), ( ), ( ),
( )と命名されていた(5).そのため,ス トリゴラクトン関連の遺伝子には現在でも生物種ごとに 異なる名称が用いられている.
変異体の解析から単離された遺伝子のうち, , CAROTENOID CLEAVAGE DIOXIGENASE 7
(CCD7)をコードする / / / , CA- ROTENOID CLEAVAGE DIOXIGENASE 8(CCD8)
をコードする / / / , P450ファミ リータンパク質をコードする については,機能 欠損変異体で見られる枝分かれの増加などの成長異常が ストリゴラクトン処理により正常に回復することから,
これら4遺伝子はストリゴラクトン合成系で働くと考え られる(5).ストリゴラクトン合成系では,
β
-カロテノイ ドがD27, CCD7, CCD8によって順に触媒されカーラク トンが合成されることが の実験で示された(6). カーラクトンは植物体からも検出されること,また,イ ネに投与した同位体ラベルカーラクトンがストリゴラク トンに変換されたことから,カーラクトンがストリゴラ クトンの前駆体であることが明らかになった(7)(図1). カーラクトンからストリゴラクトンに至る生合成経路 は完全には解明されていない.また,ストリゴラクトン には多種類の天然アナログが存在するが,これらがどの ように合成されるかも明らかになっていない.最近,が多様な天然ストリゴラクトンの合成にかかわ
セミナー室
植物の生存・成長戦略から見た環境突破力-5ストリゴラクトン研究の進展と環境応答における役割
亀岡 啓 *1,経塚淳子 *
2
*1基礎生物学研究所共生システム研究部門,*2東北大学大学院生命科学研究科
る こ と が 報 告 さ れ た(8, 9).シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ のCCD7, CCD8を欠損する 変異体, 変異体にカーラク トンを与えると枝分かれなどの異常が正常に戻る.それ に対して, 変異体ではカーラクトンを投与しても 表現型が相補されないことから,カーラクトンからスト リゴラクトンが合成されるにはMAX1が必要であるこ とがわかる(10).シロイヌナズナではMAX1によって カーラクトンがカーラクトン酸に変換される(8).植物個 体からカーラクトンのメチルエステルであるカーラクト ン酸メチルが検出されており,カーラクトン酸メチルは ストリゴラクトン信号伝達経路で働くAtD14タンパク 質と相互作用することから,植物体ではカーラクトン酸 メチルがストリゴラクトンとして働いている可能性が示 唆されている(8).イネは4つのMAX1ホモログ遺伝子を もつが,その一つである(Os900)がカーラクトンから 最も単純な構造のストリゴラクトンの一種である -
2′- -5DSへの変換を触媒し,さらに別のMAX1ホモロ グ(Os1400)が -2′- -5DSを酸化することにより別 の種類のストリゴラクトンであるオロバンコールが合成 される(9).このように,MAX1の複数のホモログがそれ ぞれ異なる反応を触媒し多様な天然ストリゴラクトンを 合成していると考えられる(図1).しかし,シロイヌ ナズナでカーラクトン酸メチルを合成する酵素は見つ かっておらず,また,イネからは上記ストリゴラクトン
( -2′- -5DS,オロバンコール)以外の複数の内生ス トリゴラクトンが検出されている.したがって,MAX1 ホモログだけで多様なストリゴラクトン合成を説明する ことはできない.遺伝学と有機化学を組み合わせた解析 により,ストリゴラクトン生合成経路の解明は急速に進 展しており,ストリゴラクトン合成経路の完全な解明に 向けたさらなる研究の発展が期待される.
図1■ストリゴラクトン生合成経路
β-カロテンはD27, CCD7, CCD8に触媒されカーラ クトンに変換される.カーラクトンからストリゴ ラクトンへの変換やその後の修飾の経路は完全に は解明されていないが,MAX1ホモログが働くこ とが明らかになっている.MAX1の働きはホモロ グ間でも異なると考えられている.シロイヌナズ ナ遺伝子は緑,イネは赤,エンドウは青,ペチュ ニアは紫で示した.
輸送
ストリゴラクトンは主に根で合成され,それが地上部 に輸送されると考えられている.ストリゴラクトンの輸 送にかかわる遺伝子としては,ペチュニアの
( )が報告さ れている(11).PDR1はストリゴラクトンの排出トランス ポーターとして働き,ストリゴラクトンの根から土壌へ の分泌と,根から地上部への輸送の両方に関与してい る.そのため 変異体ではアーバスキュラー菌根菌 の感染率が低下し,さらに,地上部の枝分かれが増加す る(11).PDR1は極性をもって細胞内に局在しており,皮 層細胞では細胞の上部の細胞膜に局在し,アーバスキュ ラー菌根菌の侵入経路となる根の細胞(Hypodermal passage cell)では外側面の細胞膜に局在する.この PDR1の細胞内局在がストリゴラクトンの極性輸送に関 与していると考えられている(12).
信号伝達
F-boxタ ン パ ク 質 を コ ー ド す る / や,
α
/β
-hydrolase様タンパク質をコードする / / の機能欠損変異体はストリゴラクトン非感受性の 表現型を示す(5).D14/RMS3/DAD2はストリゴラクト ンと結合し,結合によりタンパク質の立体構造が変化す る(13).D14/RMS3/DAD2がストリゴラクトンと結合す ると,D14/RMS3/DAD2, MAX2/D3,シャペロン様タ ン パ ク 質 で あ るD53の3者 の 複 合 体 が 形 成 さ れ る.MAX2/D3とD53はストリゴラクトンの有無にかかわら ず相互作用するが,この複合体がさらにストリゴラクト ンと結合したD14/RMS3/DAD2と相互作用することが 引き金となり,D53がMAX2/D3によってポリユビキチ ン化され,26Sプロテアソーム経路によって分解され る. 変異体はほかの 変異体と同様に過剰に枝分か れするが,ストリゴラクトン非感受性であり,また優性 の変異体である.優性 変異体アリルがコードする変 異型タンパク質はストリゴラクトンに依存した分解が起 こらない.さらに,D53は転写抑制因子との結合モチー フをもつ.これらを総合して,ストリゴラクトンがない 場合はD53が下流遺伝子の発現を抑制することにより ストリゴラクトン応答反応を抑えており,細胞内でスト リゴラクトンが受容されるとD53が分解されることに より下流遺伝子の発現抑制が解除され,その結果,さま ざまな下流のカスケードが働き出し,ストリゴラクトン の作用が起こると考えられている(14, 15)(図2).
D14/RMS3/DAD2はストリゴラクトンを加水分解す ることが示されているが,ストリゴラクトン信号伝達に おけるこの反応の意味は明らかになっていない(13). D14/RMS3/DAD2とストリゴラクトンとの結合が引き 金 と な っ て 下 流 の 応 答 を 誘 導 す る こ と か ら,D14/
RMS3/DAD2が ス ト リ ゴ ラ ク ト ン の 受 容 体 で あ り,
D14/RMS3/DAD2によるストリゴラクトンの加水分解 は信号伝達後のフィードバック制御であるという仮説が 考えられる.その一方で,D14/RMS3/DAD2によって 生じたストリゴラクトン分解産物が下流の応答を誘導す る真の活性型ホルモンであるという可能性も否定できな い.したがって,現状ではD14/RMS3/DAD2がストリ ゴラクトン受容体であるとは断定できていない.
図2■ストリゴラクトン信号伝達経路
(A)ストリゴラクトン非存在下ではD53が下流の応答を抑制して いる.(B)ストリゴラクトンがD14と結合すると,D14, MAX2/
D3, D53が複合体を形成し,D3の働きによりD53が分解され,下 流の応答が誘導される.ストリゴラクトンはD14によって加水分 解される.
図3■ストリゴラクトンの進化
ストリゴラクトンは植物ホルモンとして誕生し,植物の陸上進出 後にAM菌誘引活性を獲得した.その後,ストリゴラクトンに応 答して種子発芽を促進させるストライガなどの寄生植物が現れた.
進化
ストリゴラクトンは植物ホルモンとして機能するだけ ではなく,根から分泌され共生菌であるアーバスキュ ラー菌根菌の菌糸分岐を誘導し,植物との共生を促進す る機能ももつ(2).植物はどちらの機能を先に獲得したの だろうか.この疑問に答えるために陸上植物の基部にあ たる苔類,蘚類などのコケ植物と,陸上植物の起源であ ると考えられる緑藻類でのストリゴラクトンの合成や生 理活性が調べられた.その結果,苔類や蘚類だけでな く,陸上植物に最も近縁であると考えられている車軸藻 類の一部でも生理活性をもつストリゴラクトンが合成さ れていることが示された(16).植物とアーバスキュラー 菌根菌との共生は陸上植物にのみ見られる現象であるこ とから,植物ホルモンとしての機能が先に生じたと考え られる(図3).
ファミリー遺伝子の機能と進化
/ は,発芽時や幼苗期の光応答において,ほ かのストリゴラクトン合成・信号伝達経路で働く遺伝子 とは異なる働きをする.シロイヌナズナの 変異体 では,発芽の遅れや明所での胚軸の伸長促進など典型的 な光応答性の低下が見られる(17).また,イネのストリ ゴラクトン変異体では,暗所でメソコチルの伸長が促進 されるが,なかでも 変異体は著しく強い表現型を示 す(18).最近の研究から,これらの表現型はカリキンと 呼ばれる物質への応答と関連があることが明らかになっ てきた.
カリキンは植物が燃えた灰に含まれる物質であり,山 火事後に種子発芽が促進される現象の原因物質として単 離された(19).野生型シロイヌナズナにカリキンを処理
すると発芽が促進され胚軸伸長が抑制されるなど,光形 態形成の促進が起こる.一方,このようなカリキンに対 す る 応 答 は 変 異 体 で は 見 ら れ な い(17).ま た,
のパラログがカリキン非感受性変異体
( )変異体の原因遺伝子として同定さ れた(20).さらに, と同じファミリーの遺伝子が
のカリキン応答復帰変異体
( )として同定されている(21).これらの知見から,
ストリゴラクトン信号伝達経路では / が / / , とともに働くのに対し,カリキン信 号伝達経路では / は , とともに 働くと考えられる(図4).また,カリキンは植物体か らは検出されていないことや, 変異体や 変異 体ではカリキン投与の有無にかかわらず光応答などに異 常が見られることから, / , , 経 路はカリキンだけではなく未知の植物ホルモンを受容 し,その信号を伝達している可能性が考えられる.
D14は遺伝子ファミリーを作っており,それらは大き くD14サブファミリーとKAI2サブファミリーに分けら れ る.シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ で はD14サ ブ フ ァ ミ リ ー の がストリゴラクトンを,KAI2サブファミリーの がカリキンを受容する.また, はカリキン を受容できず, はストリゴラクトンを受容できな い.このように,リガンドと受容体(候補)の間には明 瞭な組み合わせの特異性がある.ところが,D14サブ ファミリーが存在するのは種子植物のみである(16).し たがって種子植物以外の植物は ファミリーの遺伝 子しかもたないにもかかわらずストリゴラクトンを受容 してということになる.これらの植物がどのようにスト リゴラクトンを受容しているかは不明である.
最近,根寄生植物ストライガが ファミリー遺伝 子を特殊に進化させることにより宿主から分泌されたス
図4■D14ファミリータンパク質の機能
一般的な種子植物ではD14はMAX2/D3, D53 とともに働き,枝分かれ抑制などのストリゴ ラクトン応答に寄与している.一方,KAI2は MAX2/D3, SMAX1とともに働き,種子発芽 促進などのカリキン応答に寄与している.ま た,KAI2はカリキン以外にも未知の植物ホル モンの信号伝達を行っている可能性がある.
ストライガなどのストリゴラクトンに応答し て 種 子 発 芽 を 促 進 で き る 根 寄 生 植 物 で は,
KAI2のオーソログが遺伝子重複により多様化 している.その中の一つのグループ(KAI2d)
は,ストリゴラクトンを受容して一般的な KAI2下流遺伝子を制御できるように進化して いると考えられている.
トリゴラクトンに応答して種子を発芽させる能力を獲得 したことが報告された(22).種子植物であるストライガ は と それぞれのファミリーの遺伝子をもつ が,遺伝子重複によって ファミリー遺伝子を大幅 に増やし機能を多様化させた.そのうち,寄生性をもた ない植物の とは配列が大きく異なるグループの遺 伝子( )がストリゴラクトンに応答して発芽を 誘導させる機能をもつことが報告された. グ ループではリガンド認識部位の構造が変化しており,
D14のリガンド認識部位に類似している.そのため,
KAI2dがストリゴラクトンを認識してほかの植物の KAI2と同じ下流を制御することで,ストライガは宿主 から分泌されるストリゴラクトンを感受して発芽するこ とができるようになったと考えられる(22)(図4).
環境応答
植物はリンが欠乏すると根でのストリゴラクトン合成 や輸送にかかわる遺伝子の発現を上昇させ,ストリゴラ クトンの内生量や根からの分泌量を増加させる(5).これ は,根からのストリゴラクトン分泌を増加させてアーバ スキュラー菌根菌との共生を促進するためであると解釈 されている(23).アーバスキュラー菌根菌は植物のリン 吸収を助けるため,植物はアーバスキュラー菌根菌との 共生を促進することによりリン吸収を増やすことができ る.また,ストリゴラクトン内生量の増加はさまざまな リン欠乏応答を誘導する.シロイヌナズナでは,リン欠 乏への応答としてリン酸トランスポーターなどのいくつ かの遺伝子の発現量が著しく増加するが,ストリゴラク トン関連遺伝子の変異体ではこれら遺伝子の発現が誘導 されない(24).また,多くの植物ではリン欠乏条件下で 地上部の枝分かれが減少するが,ストリゴラクトン関連 遺伝子の変異体では枝分かれが減少しない(25, 26).その ほかにも,典型的なリン欠乏応答として側根の増加,主 根の伸長抑制,根毛の伸長促進,地上部に対する根の乾 物重の割合の増加,アントシアニン合成の促進などが知 られているが,ストリゴラクトン関連遺伝子の変異体で はこれらの応答が起こらない(27).したがって,これら のリン欠乏に対する応答はストリゴラクトンを介してい ることがわかる.車軸藻類や苔類,蘚類では,ストリゴ ラクトンを処理すると根毛の相同器官である仮根の伸長 が促進され,ヒメツリガネゴケ 変異体では逆に仮 根が短くなる(16).仮根の伸長促進はリン欠乏時に見ら れる現象であることから,これらの植物においてもスト リゴラクトンはリン応答に寄与している可能性が考えら
れる.
窒素に対する応答は植物種によって異なる.イネでは 窒素欠乏に応答してストリゴラクトン合成量が増加し,
ストリゴラクトン関連変異体では根の形態形成における 窒素応答が抑制される(28).しかし,窒素欠乏条件でもス トリゴラクトン合成量に差が見られない種も多数ある(29).
ストリゴラクトンの合成や輸送にかかわる遺伝子が根 で無機栄養欠乏に応答して発現誘導されるのに対して,
ストリゴラクトンの信号伝達にかかわる遺伝子は光や糖 によって発現が制御される.一般に,赤色光は枝分かれ を促進し,赤外光は枝分かれを抑制する,ペチュニアで は の発現が赤色光によって抑制され,赤外光に よって促進される(30).また,光合成や糖も枝分かれを 促進するが,シロイヌナズナのトランスクリプトーム解 析により強光や糖処理によって や の発現 が抑制された(31).これらの遺伝子の発現変動と枝分か れ制御との因果関係は十分に検証されてはいないが,光 や糖がストリゴラクトン信号伝達経路の遺伝子発現制御 を介して枝分かれを制御している可能性が考えられる.
おわりに
ストリゴラクトンの研究は数年で急速に進展したが,
本文中にも書いてきたように残されている謎も多い.特 に,ストリゴラクトンが植物ホルモンとしての機能と種 間の情報伝達因子としての機能を併せ持つことや,スト リゴラクトン信号伝達経路で働く遺伝子が未知のホルモ ンの信号伝達も担っている可能性があることから,スト リゴラクトンやその信号伝達経路の進化は非常に興味深 い問題である.また,ストリゴラクトンと環境応答に関 して多数の論文が報告されているが,情報は断片的であ り,本稿では取り上げなかったものもある.今後,これ らの知見が整理されていくことで,植物の環境応答にお けるストリゴラクトンの役割に関する理解がさらに深ま るものと期待される.
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プロフィル
亀 岡 啓(Hiromu KAMEOKA)
<略歴>2015年東京大学農学生命科学研 究科博士課程修了/同年より基礎生物学研 究所共生システム研究部門研究員<研究 テーマと抱負>細胞間情報伝達・アーバス キュラー菌根菌<趣味>ビールと日本酒
経塚 淳子(Junko KYOZUKA)
<略歴>東京大学農学研究科修士課程修 了/(株)三菱化成植物工学研究所研究員/
オーストラリアCSIROポスドク/奈良先 端科学技術大学院大学助教授/東京大学農 学生命科学研究科准教授/2015年から現 職<研究テーマと抱負>環境情報と発生・
分化メカニズムとのリンク<趣味>動植物 の飼育
Copyright © 2015 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.53.860