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ペプチドアレイを用いたECMタンパク質由来 機能性 ... - J-Stage

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【解説】

生物,特にヒトのような高等動物は体の仕組みが巧妙に整理 されている.体は,構成する単位の小さいものから細胞,組 織,臓器,器官と構成され,臓器一つをとってみても複雑で はあるが,組織という構成単位で美しく整列している.最近 話題となっている再生医療は最小単位である細胞を用い,組 織や臓器を作製することが最終目的であり,構成単位が乱れ ると患者に重篤な副作用を及ぼす.再生医療の考えの一つに 組 織 工 学 が あ り,失 っ た 組 織 を 細 胞 を 用 い る こ と で 構 成 さ せ,欠 損 組 織 を 代 替・再 生 さ せ る.こ の 考 え の も と 人 工 血 管・人工心臓・人工骨・人工歯などの体内留置型医療機器が 幅広く開発されてきている.しかし,これらの医療機器は再 生というよりは代替の意味合いが強く,完全再生に至ってい ないため副作用を及ぼす.筆者らは,再生の答えが生体内に 隠されており,生体を学ぶことにより解決策を生み出すので はないかと考えた.生体内には細胞の挙動を制御する分子と して細胞外マトリックス ECM : Extracellular  matrix が存 在している.その中でもECMタンパク質をターゲットとし,

ECMタ ン パ ク 質 を 構 成 す る 小 成 分 と し て ペ プ チ ド に 着 目 し た.本 稿 で は,ペ プ チ ド ア レ イ と い う 機 能 性 ペ プ チ ド 探 索 ツールを用い,ある細胞には接着するが,ある細胞には接着 しない細胞選択的に接着するペプチドを探索するいくつかの

手法を紹介する.そして,ペプチドアレイを使用した探索手 法 を 通 し,ECM中 に 存 在 す る ペ プ チ ド と 細 胞 選 択 性 に 関 し て考察し,ペプチドアレイ探索による生命現象の解釈と再生 促進型医療機器開発の可能性に関して述べる.

再生医療応用のための組織工学・バイオマテリアル 近年,再生医療が世界で最も注目されている科学研究 の一つとなっている.2006年に山中伸弥らが,マウス の胚性線維芽細胞に4つの因子を導入することでES細 胞のように分化多能性をもつマウス人工多能性幹細胞

(iPS細胞:induced pluripotent stem cell)を世界で初 めて樹立し(1)

,2007年にはヒト線維芽細胞からヒトiPS

細胞を樹立した(2)

.さらに,2010年には出澤真理らが

新たな多能性幹細胞である MUSE (Multilineage-differ- entiating Stress Enduring) 細胞(3) を発見し,多能性幹 細胞を基盤とした再生医療の研究がここ数年で急速に発 展している(4)

再生医療の応用として,細胞移植と生体材料(バイオ マテリアル)を用いた組織工学の2つのアプローチがあ る.細胞移植では,体内に細胞を注入し治療するが,細

ペプチドアレイを用いたECMタンパク質由来 機能性ペプチドの探索ストラテジーとその可能性

蟹江 慧,加藤竜司

The Screening Strategy of Functional Peptides Derived from  Scaffold Protein by Peptide Array and Its Possibility

Kei KANIE, Ryuji KATO, 名古屋大学大学院創薬科学研究科

(2)

胞の排せつ物や細胞死により移植部位に細胞が保持でき ず,移植率が低い.この問題点を解決するには,細胞が 生着し生存する環境を提供することが大切となる.組織 工学は,周囲組織として必要不可欠な細胞の足場復元の 考えに基づいている(図

1

.つまり,幹細胞の研究が

進んでも,最適な足場がなくては組織の再構築はありえ ない.

1993年にLangerとVacantiにより確立された組織工 学の基本概念は,失った組織中に細胞が接着・増殖・分 化・組織化をするような足場を提供することである(5)

バイオマテリアルは,細胞の足場として機能し,細胞を 最適に制御し,最終的に正常な3次元組織を構築するこ とが目標である(図1)

.バイオマテリアルは,用途に

応じて金属,セラミック,ポリマーの3種類に分類され る.なかでも,ポリマーは伸張性・軽量・加工のしやす さなどの観点から,数多くの医療機器に使用されてい る.合 成 に よ る 生 分 解 性 ポ リ マ ー(ポ リ(L-乳 酸)

(PLLA)

,ポリ(グリコール酸)(PGA) ,ポリ( ε

-カプロ ラクトン)(PCL)

,ポリ(エチレングリコール)(PEG))

や天然素材(コラーゲン,ゼラチン,フィブリン,ヒア ルロン酸,アルギニン,キチン,キトサン)は,多くの 場合スポンジ状,ファイバー状やハイドロゲル状に形成 され,細胞の接着・増殖・分化・組織化をサポートする 足場となっている(6, 7)

細胞外マトリックス ECM の重要性

生体組織は細胞とその環境からなっており,後者が ECM(細胞外マトリックス) である.ECMの役割は,

構造を保つだけでなく細胞の接着・増殖・分化の制御の 役割を担っており,コラーゲンファミリー,エラスチン ファイバー,グリコサミノグリカン,糖タンパク質など から成り立っている(8) (図

2

.各組織では,ECMが独

自の組成とトポロジーで構成されており,ECMは組織 図1再生医療応用のための組織工 学・バイオマテリアル

再生医療応用として,細胞移植と生 体材料を用いた組織工学の2つのア プローチがある.バイオマテリアル は,細胞の足場として機能し,正常 な3次元組織を再構築することが目 標である.

細胞移植

組織工学 (Tissue Engineering)

生体材料の移植 細胞接着・増殖・分化 組織再構築 生体材料

(増殖因子)(足場)

欠損部

図2ECM(細胞外マトリックス)

ECMは細胞を取り巻く周囲の環境を 構築し,細胞の接着・増殖・遊走・

分化を制御する.例として,コラー ゲン,ラミニンなどが存在する.ま た,ECMは組織特異的に局在し,軟 骨組織にはコラーゲンII,基底膜組 織にはコラーゲンIVが局在してい る.

ECM

細胞

基底膜

(3)

構成の際に多種多様な細胞と未発達の周囲環境との,動 的・相互作用的・生化学的・生物物理学的な関係を経て 生産されている.たとえば,軟骨組織にはECMとして プロテオグリカンやコラーゲンIIが多く含まれており,

圧力に対して抵抗性をもつ機能を発揮している.また,

基底膜組織にはECMとして,糖タンパク質やラミニ ン,コラーゲンIVが多く含まれており,細胞の方向性 の制御や,異種組織の分割,腎臓においては分子フィル ターとしての特別な役割を果たしている(9) (図2)

細胞とECMの相互作用は,まずはじめに接着が関与 しており,ECMの機能を理解するうえで非常に重要と 考えられる.細胞膜中のインテグリンレセプターが,コ ラーゲン,ラミニン,フィブロネクチンやヴィトロネク チンといったタンパク質の特異的なモチーフと結合する ことにより細胞は接着する(10)

.細胞接着は,細胞内の

細胞骨格(アクチン)や150以上の関連タンパク質と結 合し,組織構成,遊走,分化を含む機能を刺激するよう な 機 械 力 や 生 化 学 的 シ グ ナ ル の 中 心 分 子 を 構 成 す

(11, 12)

.コラーゲン,フィブロネクチン,ラミニン中

には細胞接着に特異的なモチーフがいくつか報告されて お り,RGD, RGDS, REDV, YIGSRな ど が 挙 げ ら れ

(13, 14)

バイオマテリアルとしてのECM模倣ペプチド ECMの重要な機能を応用し,現在までにECMを利用 した動物を用いた前臨床試験や,ヒトを用いた臨床応用 がなされている(15)

.これらのマテリアルに使用されて

いる多くのECMは心臓弁,血管,皮膚,神経,骨格 筋,腱,靭帯,小腸粘膜下組織,膀胱,肝臓などさまざ まな組織由来である.現在,市販されているECM商品 を表

1

に示す.

しかし,バイオマテリアルを用いる状況において,必 ずしもECMをそのまま利用することが良いとは限らな い.なぜなら,生体内のECMは組織を維持するために 利用されている場合もあり,組織の再構築だけに最適化 されたわけではなく,迅速な修復作用に向いているとは 限らないからである.このことから,ECMのすべてを 利用するのではなく,必要な機能をもった部位だけを人 工的に取捨選択し,組み合わせて利用することが,組織 再構築のためのバイオマテリアルとして重要視されてい る.これに基づき,ECMをマテリアルに直接表面修飾

表1市販されているECM商品

製品 会社 原料 加工 形状

AlloDerm Lifecell ヒト由来皮膚 Natural Dry sheet

AlloPatch Musculoskeletal Transplant Foundation ヒト由来大腿筋膜 Natural Dry sheet AxisTM dermis Mentor ヒト由来真皮 Natural Dry sheet Bard Dermal Allograft Bard 死体由来真皮 Natural Dry sheet CuffPatchTM Arthrotek ブタ由来小腸粘膜下組織 Cross-linked Hydrated sheet DurADAPTTM Pegasus Biologicals ウマ由来心膜 Cross-linked Dry sheet Dura-Guard Synovis Surgical ウシ由来心膜 Cross-linked Hydrated sheet Durasis Cook SIS ブタ由来小腸粘膜下組織 Natural Dry sheet Durepair TEI Biosciences ウシ胎児由来皮膚 Natural Dry sheet

FasLata Bard 死体由来大腿筋膜 Natural Dry sheet

Graft Jacket Wright Medical Tech ヒト由来皮膚 Natural Dry sheet Oasis Healthpoint ブタ由来小腸粘膜下組織 Natural Dry sheet OrthADAPTTM Pegasus Biologicals ウマ由来心膜 Cross-linked Dry sheet Pelvicol Bard ブタ由来真皮 Cross-linked Hydrated sheet Peri-Guard Synovis Surgical ウシ由来心膜 Cross-linked Dry sheet PermacolTM Tissue Science Laboratories ブタ由来皮膚 Cross-linked Hydrated sheet PriMatrixTM TEI Biosciences ウシ胎児由来皮膚 Natural Dry sheet

RestoreTM DePuy ブタ由来小腸粘膜下組織 Natural Dry sheet

Stratasis Cook SIS ブタ由来小腸粘膜下組織 Natural Dry sheet SurgiMendTM TEI Biosciences ウシ胎児由来皮膚 Natural Dry sheet Surgisis Cook SIS ブタ由来小腸粘膜下組織 Natural Dry sheet

SuspendTM Mentor ヒト由来大腿筋膜 Natural Dry sheet

TissueMend TEI Biosciences ウシ胎児由来皮膚 Natural Dry sheet Vascu-Guard Synovis Surgical ウシ由来心膜 Cross-linked Dry sheet Veritas Synovis Surgical ウシ由来心膜 Cross-linked Hydrated sheet gel

XelmaTM Molnlycke ECMタンパク質,PGA,水

XenformTM TEI Biosciences ウシ胎児由来皮膚 Natural Dry sheet Zimmer Collagen Patch Tissue Science Laboratories ブタ由来真皮 Cross-linked Hydrated sheet

(4)

する代わりに,その作用部位である細胞接着ペプチドを マテリアルとして材料表面に修飾し,細胞・組織との親 和性を上げている例が数多く報告されている(16)

.表 2

は,組織工学応用に用いられたペプチド配列をまとめた ものである.

ペプチドは効果的な生体分子であり,医療や細胞生物 学の分野において,理想的な合成生体材料として注目さ れ,細胞の刺激因子,細胞培養の足場,目的場所への輸 送の標的タグ分子などに応用されている.なかでも,短 鎖ペプチドを使用する利点としては,(1) 長鎖で3次元 構造をとるネイティブなECMタンパク質中のペプチド に比べて,作用させたい部位を自在に表面提示できるこ と,(2) タンパク質に比べ,酵素分解に対して安定であ ること,(3) 高純度で大量に生産可能であること,が挙

げられる.特に3つ目の利点は,工業的,経済的である だけでなく,医療機器をコーティングするマテリアルと して高品質なものを提供できると言える.さらに,現在 医療機器コーティングなどに用いられるECM分子の多 くが動物由来であり,免疫拒絶や感染のリスクが問題視 されているため,ECMの一部だけを利用することはこ のようなリスク回避ができる可能性もある.

細胞ベースの機能性ペプチドスクリーニング 機能的なペプチドの探索法はいくつか報告されてお り,(1) ペプチドビーズライブラリー法(17)

(2) ファー ジディスプレイ法(18)

(3) リボソームディスプレイ 法(19)

(4) ペプチドアレイ法(20) などがその代表例であ 表2組織工学応用に用いられているペプチド配列

合成配列 由来 機能

RGD フィブロネクチン,ビトロネクチン 細胞接着

KQAGDV   平滑筋細胞接着

YIGSR ラミニンB1 細胞接着

REDV フィブロネクチン,ビトロネクチン 内皮細胞接着

IKVAV ラミニン 神経突起伸張

RNIAEIIKDI ラミニンB2 神経突起伸張

KHIFSDDSSE 神経系細胞接着分子 星状細胞接着

VPGIG エラスチン 人工ECMの弾性率の増強

FHRRIKA ヘパリン結合ドメイン 骨芽細胞の石化の向上

KRSR ヘパリン結合ドメイン 骨芽細胞の接着

NSPVNSKIPKACCVPTELSAI BMP-2 骨誘導

APGL   コラゲナーゼを仲介した分解

VRN   プラスミンを仲介した分解

AAAAAAAAA   エラスターゼを仲介した分解

図3ペプチドアレイと,細胞接着 ペプチドスクリーニング方法 ペプチドアレイは,セルロースメン ブ レ ン 上 に ア ミ ノ 酸 を1残 基 ず つ Fmoc固相合性により合成する.ペプ チドアレイを用いた細胞アッセイ方 法.96-wellサイズにスポットしたペ プチドアレイをくり抜き,96-wellに 沈める.蛍光染色した各種細胞を wellに播種し1時間静置後,PBSによ り3回洗浄し,残存細胞(接着細胞)

を定量的に測定する.

(5)

る.なかでもペプチドアレイは,ペプチドの長さや配列 置換などを自由にデザインでき,効果のなかった配列・

効果を減少させた配列(ネガティブデータ)も探索の過 程で得られるため,多様性に富んだ情報を得ることがで きる(図

3

.このため,ペプチドアレイはタンパク質

などの生物分子をターゲットとした探索に広く用いられ

てきた(21, 22)

.しかし,接着細胞との相互作用を見てい

る報告は少なく,Otvosらによる浮遊系細胞の報告くら いであった(23)

.筆者らは,独自の技術として接着細胞

を用いた細胞接着性ペプチド探索をペプチドアレイを用 いることで開発した (PIASPAC : Peptide array-based  Interaction Assay of Solid-bound Peptide and Anchor- age-dependent Cells)(24) (図3)

.そして,これまでにさ

まざまな細胞接着ペプチド(25, 26)

,細胞死誘導ペプチ

(27, 28) などを発見してきている.

医療機器応用に必要な細胞選択的接着ペプチド そこで筆者らは,ペプチドアレイを用いて細胞選択性 をもつペプチド配列を探索・解析することで,新規細胞 選択的ペプチドの発見と,細胞選択性を有したバイオマ テリアルの開発を試みた.特に,細胞選択的ペプチドを どのように探索するかという目的に対して,ECMがも つ細胞選択性に学び,応用しようと発想した.生体内に 移植するようなバイオマテリアルは,移植される組織に 適合しない(つまり,本来なくてはならない細胞が増え

なかったり,本来不必要な細胞が異常に増えたりする)

ことにより,炎症などの副作用が生じてしまう(図

4

つまり,バイオマテリアル表面に組織が適合するような 細胞選択的な表面修飾を施す必要性がある.

人工的なマテリアルに比べ,生体組織は細胞選択性を もって細胞を制御し組織を構築しており,その重要な役 割を果たしているのがECMである.すなわち,ECMの 機能を特徴づけているようなペプチド,もしくはペプチ ドモチーフを解析することができれば,細胞選択的ペプ チドを発見することができるだけではなく,ECMの細 胞選択性の機能解明につながるのではないかと考えた.

また,ECMがどのように細胞選択性を有しているのか について,ペプチドレベルでの理解が深まることは,人 工的に安全かつ効果的なECM模倣バイオマテリアルを デザインできる可能性が高まり,新しい医療材料の創成 につながる可能性がある.

物理化学的性質が関与した細胞選択的接着ペプチド 探索への着想

筆者らは,本研究室における細胞接着ペプチド探索の 数々の結果を考慮し,細胞選択的接着ペプチドを探索す るうえである考えにたどり着いた.一つ目に,細胞接着 にかかわる分子であるフィブロネクチンを例に取ると,

細胞接着配列であるRGDは全体の配列の割合から考え ても0.1%程度である(図

5

.RGD配列が,細胞接着に

重要であると思われるが,0.1%だけをめがけて接着し

図4医療機器に対する,細胞選択 性の必要性

ステントや人工血管などの医療機器 を移植すると,重篤な副作用が生じ ることがある.その原因は,不要な 細胞が存在し,必要な細胞が接着し ないことが原因の一つと考えている.

つまり,すべての細胞が接着すれば よいというわけではなく,細胞選択 性 が 必 要 で あ る.筆 者 ら は,そ の ターゲット分子として,ECMタンパ ク質の成分でもあるペプチドを選び,

細胞選択的ペプチドの探索を試みて いる.

(6)

ているとは考えにくい.2つ目に,細胞培養で使用され る培養ディッシュのコーティングに関してである.細胞 培養ディッシュには表面をコラーゲンでコートしたもの や,電荷の高いポリリジンでコートしたものが一般的に 使用されている.このコラーゲンはヒト由来ものもでは なく,異種間でも細胞は接着する.また,表面電荷を上 げるだけでも,細胞は物理的に接着する(図5)

.さら

に,一般的にタンパク質の配列変異による進化と機能性 保持の関係を考えると,タンパク質配列はその厳密さと ともに,配列の寛容性による機能性を保持する機構を もっていることが推察される.実際に,タンパク質の相 同性検索をヒト,マウス,ラット,ニワトリで行ってみ ると,決して100%ではないが,同じような機能を有し ている(図5)

.つまり,筆者らの仮説は,ECMタンパ

ク質もしくはその構成単位であるペプチドと細胞接着と の関係は,RGDのようなリガンドと特異的に結合する ものだけではなく,曖昧で寛容な物理化学的性質によっ て細胞は制御されているのではないかということであ る.実際に過去の研究からも,細胞接着はRGDのよう なリガントとレセプターによる特定の配列を認識してい るだけでなく,電荷や疎水度のような物理化学的性質が 似通っている数多くのほかのペプチド配列にも接着し,

あるルールによって説明できることも明らかにしてい る(25, 26)

物理化学的性質が関与した細胞選択的接着ペプチド 探索の仮説と結論

上述の着想を踏まえ,筆者らは,ECMタンパク質の 機能の一つである細胞選択性とは,配列で制御される面 のほかに,物理化学的性質が制御している面があるので はないか,という仮説を立てた(図

6

.そこで,ECM

の機能性を評価するにあたり,血管構造の再構築を達成 目標に設定し,血管組織にかかわる内皮細胞 (EC)

,平

滑筋細胞 (SMC)

,線維芽細胞 (FB) ,の3つの細胞にか

かわる細胞選択性を検証することとした.血管構造は,

内側からEC, SMC, FBと構成されており,生体内にお いて秩序だって層をなし血管構造を形成している(図 6)

.組織再構築において,3種類の細胞がどのような物

理化学的性質に対して選択性を示しているのかを検証し た.

今回は,EC, SMC, FBの3種類の細胞と,物理的性質 の異なった20種類の単一アミノ酸からなるペプチドと の細胞接着・増殖を比較した(図6)

.その結果,アミ

ノ酸の物理化学的物性に細胞選択性が存在することが明 らかとなった.特に,疎水度の高い7残基のイソロイシ ン (IIIIIII) はECを選択的に接着・増殖させ,さらに,

疎水性アミノ酸(イソロイシン (I)

,ロイシン (L) ,バ

リン (V))を使用しランダムに作製した7残基疎水性ペ プチド配列もECへの選択性を示した(29)

図5物理化学的性質が関与した細 胞選択的接着ペプチド探索への着想 フィブロネクチン配列上のRGD配列 は0.1%程度(左上).異種のコラー ゲンや,物性だけのポリリジン表面 でも細胞は接着する(右上).コラー ゲンIには相同性の低い部分が存在す るが,機能は同じ.

異種間

表面電荷 RGD

RGD

0.1%程度

(7)

ECMに学んだ細胞選択的接着ペプチド探索への着 想

細胞選択性が,ECM中の特定の配列だけに存在する のではなく,物理的性質にも存在していることが上述の 研究により明らかになった.そこで筆者らはさらに,細 胞選択性の制御にかかわっている物理化学的性質がある とすれば,これはECMの種類によって特徴が違うので はないかと考えた.

ECMの中でコラーゲンIIやコラーゲンIVは,組織中 で特定の場所にだけ局在し,特定の細胞に機能を付与す

る細胞選択性を有している.このようなECMの機能の 違いは,ECM中の配列に違いがあると考えた.実際に,

コラーゲンIIとコラーゲンIVの配列の相同検索を行う といくつか配列に違いがある部分が見えてきた(図

7

そこで筆者らは,ECM同士を比較することで「特定の ECM中に存在するペプチド」に着目することで細胞選 択性が説明できないかと考えた.このようなECM同士 の比較とECM中の機能的ペプチドの解析は,ECMの機 能解明の理解にも重要と考えられる.

図7ECMに学んだ細胞選択的接 着ペプチド探索への着想

軟骨組織と血管の基底膜組織では,

全く異なるタイプのコラーゲンが局 在し,機能している.この2つのコ ラーゲンを配列的に比較し,異なる 部分にその選択性が隠されている可 能性がある.

基底膜

図6物理化学的性質が関与した細 胞選択的接着ペプチド探索の仮説と ストラテジー

血管構造を例に取り,血管を構成す る3種類の細胞と20種類の単一アミ ノ酸で構成されたペプチド(物理化 学的性質を表現)との細胞選択的接 着を確認.

20 種類アミノ酸

検証項目 : 単一種類のアミノ酸からなるペプチドの細胞選択性

3 種類の細胞

(8)

ECMに学んだ細胞選択的接着ペプチド探索の仮説 と結論

上述の着想を踏まえ,筆者らは,特定のECMが有す る細胞選択性は,そのECMにだけに特徴的に存在する 物理化学的性質がかかわっているのではないかという仮 説を立てた(図

8

.そこで,人工血管開発に必要なEC, 

SMCの2種類の細胞の制御を達成目標とし,生体内に おいてこれらの細胞を選択的に分離する機能をもってい る「基底膜」に着目し,基底膜の主要構成成分であるコ ラーゲンIVについて解析した.

人工血管やステントで問題点となる副作用は,再狭窄 である.これは,血管の内側に必要な内皮細胞が接着し なかったり,血管の内側に不必要な平滑筋細胞が過増殖 してしまったりすることにより引き起こされる(図8)

つまり,医療機器に求められていることは,すべての細 胞が接着・増殖することではなく,細胞が適材適所で働 くような細胞選択性が必要とされている.現状,組織を 自主的に再生促進するような,医療機器が存在せず,細 胞選択的に再生促進する人工血管が必要とされている.

今回は,特定のECMとしてコラーゲンIVに絞り,コ ラーゲンIV特徴的ペプチドの細胞選択性について検証 した.結果,コラーゲンIVに「特徴的に限定して存在 するペプチド」または「特徴的に多く存在するペプチ ド」の両方から,ECまたはSMC選択的接着ペプチドを 数種類発見した.また,EC選択的ペプチドの中には,

CXG (X=A, N, S, D) のようなモチーフを形成するも のが存在し,寛容さをもつ物理化学的モチーフが細胞選 択性に関与していることが示唆された.さらに,取得し た細胞選択的ペプチドの「応用性」を検証するため,人 工血管におけるECの早期接着を想定して,EC選択的 ペプチド (CAG) の有効性を検証した.具体的には,小

口径人工血管に利用されるポリ (

ε

-カプロラクトン 

(PCL)) にペプチドを含有させ, での細胞接着 評価を行った.結果,CAG含有PCLシート表面はEC 選択性を獲得した.このことから,ペプチドアレイ法と いう探索プラットフォームで取得したペプチドは,バイ オマテリアルとして機能を発揮することができることが 示唆された(30)

医療機器としての細胞選択的ペプチドの可能性 さらに筆者らは,CAG含有PCLの人工血管としての 有用性をさらに深く検証するため,CAG含有PCLを小 口径人工血管型に成形し,ラットの頸動脈へ移植するこ とで での効果を検証した.免疫染色,電子顕微 鏡写真 (SEM)

,ウエスタンブロッティングなどの生物

学的な評価の結果,移植後1週間においてCAG含有人 工血管表面では,ペプチド含有なしの状態に比べてEC が早期に接着し,SMCの蓄積が減少しており,取得し た細胞選択的ペプチド含有マテリアルの での効 果が示された(31)

おわりに

筆者らは,2つの仮説に基づき,細胞選択的ペプチド の探索を行い,細胞の選択性を検証した.一つは,単一 アミノ酸分子を用いることにより,物理化学的性質にお ける細胞選択性の制御を発見した.もう一つは,ECM 配列を横断的に解析し,あるECMに特徴的な配列に細 胞選択性が存在することも発見した.そして,得られた 細胞選択的接着ペプチドにより,バイオマテリアル設計 とその有効性と妥当性も確認され,ECMの細胞選択性 図8ECMに学んだ細胞選択的接 着ペプチド探索の仮説とストラテ ジー

例として,コラーゲンIVに着目し,

ほかのコラーゲンと比較しコラーゲ ンIVにだけ特徴的に存在するペプチ ド配列と,2種類の細胞との細胞選択 的接着を確認.

検証項目 : ECM 特徴的ペプチド配列の細胞選択性

(9)

の制御機構には,ペプチドレベルでの物理化学的モチー フが機能している可能性が示唆された.

ペプチドアレイを用いた細胞選択的ペプチドの探索 は,基礎・応用両方の面において意義のあるものと考え ている.細胞選択的ペプチドがいくつか発見されれば,

配列情報を用いたECMの機能解明が進み,タンパク質 の機能解析分野にアプローチできる.また,得られた細 胞選択的ペプチドを使用し,医療材料に修飾すれば,新 たな生体材料・医療機器が開発され,分子の表面修飾分 野にアプローチできる.つまり,細胞選択的ペプチドは ECMタンパク質機能解析分野と,生体材料表面修飾分 野をつなぐ架け橋としての役割を果たすと考えている

(図

9

今後はスクリーニングの幅を広げ,網羅的に細胞接着 ペプチドを探索していきたい.たとえば,3残基ペプチ ド全8,000種類を網羅的に探索し,ペプチドのアミノ酸 指標情報を用いることで,統計解析により細胞接着ペプ チド探索の効率化・ルール化を行う.また,医療材料設 計を体系的に行うため,修飾する先の生体材料とペプチ ド分子の最適な組み合わせを探索したい.生体材料表面 の物理化学的性質を変化させたときの,ペプチドの効果 の検証を行い,最適な生体材料・医療機器表面の製作を 行う.

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19) Y. Shimizu, A. Inoue, Y. Tomari, T. Suzuki, T. Yokoga- wa,  K.  Nishikawa  &  T.  Ueda : , 19,  751 

(2001).

20) R. Frank : , 48, 9217 (1992).

21) R. Frank : , 267, 13 (2002).

22) R. Volkmer : , 10, 1431 (2009).

23) L. Otvos, A. M. Pease, K. Bokonyi, W. Giles-Davis, M. E. 

Rogers, P. A. Hintz, R. Hoffmann & H. C. J. Ertl : , 233, 95 (2000).

24) R. Kato, C. Kaga, K. Kanie, M. Kunimatsu, M. Okochi & 

H. Honda : , 8, 171 (2011).

25) R.  Kato,  C.  Kaga,  M.  Kunimatsu,  T.  Kobayashi  &  H. 

Honda : , 101, 485 (2006).

26) C.  Kaga,  M.  Okochi,  Y.  Tomita,  R.  Kato  &  H. 

Honda : , 44, 393 (2008).

27) R. Kato, Y. Okuno, C. Kaga, M. Kunimatsu, T. Kobayashi 

& H. Honda : , 66, 146 (2005).

28) C. Kaga, M. Okochi, M. Nakanishi, H. Hayashi, R. Kato & 

H.  Honda : , 362,  1063 

(2007).

29) K. Kanie, R. Kato, Y. Z. Zhao, Y. Narita, M. Okochi & H. 

Honda : , 17, 479 (2011).

30) K. Kanie, Y. Narita, Y. Z. Zhao, F. Kuwabara, M. Satake,  S. Honda, H. Kaneko, T. Yoshioka, M. Okochi, H. Honda 

& R. Kato : , 109, 1808 (2012).

31) F.  Kuwabara,  Y.  Narita,  A.  Yamawaki-Ogata,  K.  Kanie,  R. Kato, M. Satake, H. Kaneko, H. Oshima, A. Usui & Y. 

Ueda : , 93, 156 (2012).

機能を学ぶ 機能を付加

・物理化学的性質

・複数種類(選択可)

図9細胞選択的ペプチドの可能性と展開

(10)

プロフィル

蟹 江  慧(Kei KANIE)   

<略歴>2006年名古屋大学工学部化学 生物工学科卒業/2008年同大学大学院工 学研究科化学・生物工学専攻(修士(工 学))/2009年日本学術振興会特別研究員 

(DC2)/2011年名古屋大学大学院工学研 究科化学・生物工学専攻(博士(工学))/

同年大阪大学大学院工学研究科生命先端工 学専攻博士研究員/2012年名古屋大学大 学院創薬科学研究科基盤創薬学専攻助教

<研究テーマと抱負>小口径人工血管の開 発<趣味>音楽鑑賞(いきものがかり), 写真,スポーツ(観戦も含む)

加藤 竜司(Ryuji KATO)  

<略歴>1999年東北大学工学部化学・バ イオ工学科卒業/2001年奈良先端科学技 術大学院大学修了(バイオサイエンス修 士)/2004年名古屋大学大学院工学研究科 生物機能工学専攻修了(博士(工学))/同 年同大学大学院工学研究科生物機能工学専 攻,GCOEポスドク研究員/同年同大学医 学部細胞治療学寄附講座助手/2006年同 大学大学院工学研究科生物機能工学専攻助 教/2012年同大学大学院創薬科学研究科 基盤創薬学専攻准教授<研究テーマと抱 負>細胞・分子から得られるデータの解析 とシステム化

参照

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