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タンパク質を鋳型にして薬剤を創る - J-Stage

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724 化学と生物 Vol. 55, No. 11, 2017

タンパク質を鋳型にして薬剤を創る

低分子の標的誘導型自己組織化によるタンパク質間相互作用の調節

ポストゲノム創薬において,細胞内タンパク質間相互 作用(protein‒protein interactions; PPIs)を制御する 合成分子の創出が重要な課題となっている(1).低分子標 的の枯渇が指摘されている中,未開拓の創薬標的として 期待されているPPIsだが,その作用面が広く浅いだけ でなく動的でもあり,低分子阻害剤の開発が難しい.こ うした状況から,従来の創薬では排除されてきた分子量 600〜10,000程度の中分子が期待されているが,煩雑な 有機合成プロセスと細胞デリバリの問題が常に存在す る.一方,人工低分子の自己組織化により生じる集積体 には生体高分子の特異的分子認識能と生物活性を示すも のが知られており,医薬・化学生物学研究への応用の観 点から興味がもたれている.本稿では,筆者らが行った 標的タンパク質を鋳型とする速度論支配的人工リガンド 合 成(kinetically controlled target-guided synthesis; 

KTGS)による細胞内中分子合成とPPI制御に関する研 究について,背景とともに紹介したい.

標的タンパク質を鋳型として低分子を化学反応で連結 する研究については,平衡反応を用いる熱力学的支配的 な系と不可逆反応を用いる速度論的支配的な系が知られ ており,後者(KTGS)は2003年にSharplessとFinnら によって提唱された.彼らはアセチルコリンエステラー ゼ(AChE)存在下,種々のアルキンとアジド誘導体の ライブラリ間でクリック反応を行うことによりAChE の活性サイトに最も高い親和性をもつ付加体を探索し,

フェムトモルレベルのAChE阻害剤を見いだすことに 成功した(図1左上)(2).この概念はその後,構造が既知

の酵素を対象としたライブラリ基盤の酵素阻害剤の探索 法として,HIVプロテアーゼ,キチナーゼ,HDAC8な どの酵素阻害剤開発に応用されてきた(3).2009年には Heathらが,構造情報がないAkt2のC末端オリゴペプ チド配列に対してペプチドプールを用いたKTGSを適 用し,新規阻害剤を得ることに成功している(4).KTGS で用いられる反応としてはクリック反応が一般的だが,

Manetschらはチオ酸誘導体とスルホニルアジド誘導体 間のスルホニルアミド生成反応を用い,Bcl-XL阻害剤の 合成を達成している(図1右上)(5).このように,化合物 ライブラリを基盤とする  KTGSは,タンパク質 を多点認識する人工リガンドの探索に有用であり,多く の新規酵素阻害剤の発見に寄与してきた.筆者らは,細 胞内標的タンパク質が誘導するKTGSが可能になれば,

中分子薬の細胞透過性の課題を解決する糸口となり得る と考え,細胞内リン酸化信号系の制御タンパク質を標的 とするin-cell KTGSならびに で発生させた人工 リガンドによるPPIsの制御を計画した(図1下).

14-3-3は真核細胞に普遍的に発現する制御タンパク質 で,作用タンパク質のリン酸化セリン・トレオニンを含 む共通配列を認識して結合し,リン酸化信号伝達系の PPIsを制御する.一方,ジテルペン配糖体フシコクシ ン-A(FC)は,植物14-3-3とH-ATPaseのC末端14-3-3 結合モチーフQSYpTVペプチド(pT:リン酸化トレオ ニン)と安定な3者会合体を形成することが知られてい る.われわれは,適切な反応点を導入したFCとQSY  pTVフラグメントを用いれば,細胞内でのライゲーショ

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化学と生物 Vol. 55, No. 11, 2017

ン反応を経て,14-3-3の結合溝を1分子で完全に覆う中 分子阻害剤を発生させ,リン酸化信号系を制御できるだ ろうと考えた.試行錯誤の結果,FCの12位水酸基に - ホルミルベンジル基を,QSYpTVペプチドのC末端カル ボキシル基とpT残基をそれぞれアミノオキシ基とD残 基に変換した化合物によるオキシムライゲーションの設 計にたどり着いた.ドッキング計算から,3者会合体形 成時にFCのアルデヒド酸素とペプチドのアミノオキシ 基の間に水素結合(2.03 Å)の形成が示唆され,2つの反 応点の間の近接効果が期待された.

両者のオキシム生成反応に与える14-3-3の効果を評価 したところ,14-3-3がない場合には緩やかに進行した が,等量の14-3-3の添加で反応が顕著に加速し,24時間 後の縮合体の収率は90%に達した.またHEK293細胞 を用いた実験から本反応は細胞内でも進行し,縮合体が およそ45%程度の収率で生成することが明らかになっ た.なお等温滴定カロリメトリーによる滴定実験によ り,縮合体は14-3-3と1 : 1複合体を形成することを確認 した.

FCとペプチド誘導体が膜を透過し,14-3-3に解離定 数0.37

μ

Mの親和性をもつ人工リガンドが生じることが わかったので,続いて細胞増殖阻害活性を検証した.

FCとペプチド誘導体を単剤で用いた場合,顕著な細胞 毒性は見られなかった.化学合成した縮合体は高濃度に おいても不活性であり,細胞透過性の欠如が示唆され た.一方,細胞をFCおよびペプチド誘導体の等量混合 物で処理した場合には顕著な阻害活性が観察され,FC のアルデヒドを除去した対照化合物を用いると活性が キャンセルされたことから,細胞増殖阻害活性が細胞内 で発生した縮合体に起因することが明らかになった.さ らに,FLAG-14-3-3安定発現株を用いた共免疫沈降実験 を実施し,縮合体が14-3-3のPPIsを顕著に抑制するこ と,同様の条件下でFCあるいはペプチド誘導体は全く 影響を及ぼさないことを明らかにした.以上の結果か ら,FCおよびペプチド誘導体は,細胞内に取り込まれ てオキシム誘導体を与え,生じた誘導体が14-3-3PPIs阻 害剤として作用し,顕著な細胞増殖阻害を誘導したと結 論した(6)

図1  KTGSに よ る 阻 害 剤 探 索 とin- cell KTGSによるPPI阻害剤合成

(上)遺伝子組換え標的タンパク質を鋳型に用い相 補的な反応基をもつ低分子ライブラリ間のクリッ ク反応(左)とスルホクリック反応(右)による 阻害剤探索(下)14-3-3タンパク質と安定な3者会 合体を形成する天然物フシコクシン(FC)とペプ チドリガンドを基盤としてアルデヒド含有FC誘導 体とアミノオキシ含有ペプチド誘導体を合理設計 した.両者は膜を透過し細胞内で対応する連結体 に変換され,14-3-3PPIを阻害した.

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726 化学と生物 Vol. 55, No. 11, 2017

低分子の自己組織化を医薬品開発へ活用するには選択 性やデリバリの問題などいくつものハードルを乗り越え る必要があり,決して易しい道ではないが,新しい薬剤 設計の考え方やPPIプロドラッグ法の提案につながる可 能性を秘めていると考えている.ほかの細胞内標的への 適用を含め,方法論としての妥当性を検証していきたい.

  1)  D.  E.  Scott,  A.  R.  Bayly,  C.  Abell  &  J.  Skidmore: 

15, 533 (2016).

  2)  W.  G.  Lewis,  L.  G.  Green,  F.  Grynszpan,  Z.  Radic,  P.  R. 

Carlier, P. Taylor, M. G. Finn & K. B. Sharpless: 

41, 1053 (2003).

  3)  E.  Queis,  C.  Sabot  &  P.-Y.  Renard:   

(Camb.), 51, 12158 (2015).

  4)  A. Nag, S. Das, M. B. Yu, K. M. Deyle, S. W. Millward & 

J. R. Heath:  , 48, 13975 (2013).

  5)  X.  Hu,  J.  Sun,  H.-G.  Wang  &  H.  R.  Manetsch: 

130, 13820 (2008).

  6)  P. Parvatkar, N. Kato, M. Uesugi, S. Sato & J. Ohkanda: 

137, 15624 (2015).

(大神田淳子,信州大学学術研究院農学系)

プロフィール

大神田 淳子(Junko OHKANDA)

<略歴>1990年お茶の水女子大学大学院 理学研究科化学専攻博士前期課程修了/同 年リコー(株)中央研究所/1991年成蹊大 学 工 学 部 助 手/1996年 博 士(工 学) 取 得

(東京大学)/1998年エール大学化学科博 士研究員/2013年アキリオン製薬創薬部 門 研 究 員(New Haven, Connecticut)/

2004年東京学芸大学講師/2005年大阪大 学産業科学研究所助教授/2007年同准教 授/2013年京都大学化学研究所准教授/

2016年10月 よ り 現 職<研 究 テ ー マ と 抱 負>細胞内タンパク質の相互作用を調節す る合成分子を創出して創薬に生かしたい

Copyright © 2017 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.724

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