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食環境が骨髄由来体性幹細胞の分化能に影響を及ぼす - J-Stage

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380 化学と生物 Vol. 55, No. 6, 2017

食環境が骨髄由来体性幹細胞の分化能に影響を及ぼす

機能性食品は体性幹細胞を標的としたアンチエイジングや疾患予防の素材となりうるか?

ヒトの若年者の骨髄は赤色であるが,加齢に伴い骨髄 が黄色変性することが臨床現場においてよく知られてい る.この骨髄の黄色化は骨髄中に占める脂肪組織の増加 が原因であると考えられている.骨粗鬆症患者の骨髄は 黄色化が進行し,骨形成能力が低下している可能性が報 告されている(1).このような骨髄の変性はなぜ,どのよ うにして起こるのか? この現象には骨髄中に存在する 体性幹細胞の加齢変化が関与し,それを食習慣が調節す る可能性が明らかになりつつあるので紹介する.

幹細胞とは「自己複製能力」と「多分化能」を併せ持 つ未分化細胞である.幹細胞は分化全能性をもつ胚性幹 細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)と,限 定的な分化能を有する体性幹細胞に分類される.体性幹 細胞は生体内でさまざまな組織に存在することが報告さ れており,骨髄中には造血幹細胞(hematopoietic stem  cell; HSC) や 間 葉 系 幹 細 胞(mesenchymal stem cell; 

MSC),腸には腸管幹細胞,脳には神経幹細胞などが存 在し,各組織に必要な細胞の供給源となっている.従 来,体性幹細胞は組織中のニッチに守られ存在し,多分 化能を維持し続けると考えられていた.しかし,加齢や 疾患に伴い,体性幹細胞の性質が変化することが明らか になってきた.

体性幹細胞の性質変化に組織の微細環境が関与する可 能性がマウスで報告された(2).骨髄中に存在するMSC は,骨芽細胞,脂肪細胞,軟骨細胞などへの分化能を有 しており,骨髄を採取後に細胞培養ディッシュ上で培養 することで,浮遊するHSCとディッシュ面に接着する MSCに分離することができる.報告によると,分離し た若齢マウス由来のMSCを老齢マウスに移植した場合 は,老齢マウス由来同士でMSCを移植した場合と比較 して高い生着率を示した.しかし,移植後のMSC由来 細胞の分化能を評価した結果,若齢マウス同士の移植で は骨髄由来細胞がほとんど脂肪組織に分化しなかったの に対し,若齢マウスのMSCを高齢マウスに移植すると,

脂肪組織に分化する割合が顕著に高値を示した.これ は,加齢に伴う骨髄中の微細環境変化がMSCの分化応 答性を修飾した可能性を示している.

骨髄中の微細環境は,加齢だけではなく食事内容の影

響も受け,MSCやHSCの分化能に影響を与えることが 実験で複数報告されている.高脂肪食の摂取は 骨密度低下を誘導することは広く知られているが,若齢 マウスに高脂肪食を12週間摂取させた後に骨髄を採取 し,HSCおよびMSCを分離培養した結果,HSCからの 破骨細胞への分化が促進された.MSCでは,骨芽細胞 への誘導刺激あるいは脂肪細胞への誘導刺激で,いずれ の細胞への分化も促進された(3).すなわち,高脂肪食の 摂取はHSCおよびMSC双方の分化能を高める可能性が 示された.また,高フルクトース食を摂取させ,メタボ リックシンドローム状態にしたラットのMSCを分離培 養した研究では,通常ラットと比較して,骨芽細胞への 分化が抑制され,脂肪細胞の分化が促進されている(4). これら肥満誘導動物のMSCの分化能に関する結果には 若干の違いがあるものの,食習慣の乱れが骨髄中の微細 環境を変化させ,骨粗鬆症や生活習慣病のリスクを増加 させる可能性を示している.一方,サプリメントや食品 成分の摂取が骨髄中の微細環境に影響を与えて体性幹細 胞の分化応答を変化させることも少しずつ報告されてい る.高脂肪食を摂取させたマウスに -アセチルシステ インを摂取させると,高脂肪食摂取によって誘導される HSCから破骨細胞への分化が抑制され,その結果,骨 密度の低下を予防できる可能性が示された(5)

我々も機能性食品の継続摂取が,造血幹細胞の分化応 答性に影響を与えることを見いだした(6).閉経後骨粗鬆 症モデル(OVX)マウスにグルコサミンを12週間摂取 させると,大腿骨海綿骨密度を有意に増加させた.この マウスの骨髄を採取し,HSCの分化応答性を確認した 結果,通常食を摂取させたOVXマウスではHSCから破 骨細胞への分化が促進されるのに対し,グルコサミンを 継続摂取させたOVXマウスから分離したHSCは破骨細 胞への分化が抑制された.この結果は,ある種の食品成 分の継続摂取が骨髄中の微細環境を調節し,体性幹細胞 の応答性変化を通じて加齢変性や疾患を予防できる可能 性を示している.

以上の報告から,加齢や食習慣は骨髄中の微細環境の 変化を通じて,体性幹細胞の分化応答性を制御し,さま ざまな加齢変性およびそれに伴う疾患の一因になること

日本農芸化学会

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が明らかになった(図1.つまり,これらの体性幹細 胞の応答性は,食事内容で善くも悪くも制御できる可能 性があることを示している.ヒトにおいても,もし,長 期にわたる食事内容が組織中の微細環境を変化させ,体 性幹細胞の分化応答性を制御できるのだとしたら,生活 習慣病のなりやすさといった「体質を科学する」足掛か りとなる可能性があると考えている.また,従来の食品 成分の研究では,培養細胞株や初代培養細胞に成分を添 加して評価する手法が多く見られる.しかし,成分の吸 収・分布・代謝・排泄を考慮すると,実際の生体でのイ ベントとはかけ離れたものになってしまう.今回紹介し た研究手法のように,食品成分を継続摂取させたときの 体性幹細胞の応答性および分化能を評価することは,よ り生体に近く,食品機能研究の新しい手法になると考え ている.

  1)  J.  Justesen,  K.  Stenderup,  E.  N.  Ebbesen,  L.  Mosekilde,  T. Steiniche & M. Kassem:  , 2, 165 (2001).

  2)  L. Singh, T. A. Brennan, E. Russell, J. H. Kim, Q. Chen, F. 

B. Johnson & R. J. Pignolo:  , 85, 29 (2016).

  3)  L. Shu, E. Beier, T. Sheu, H. Zhang, M. J. Zuscik, E. J. Pu- zas, B. F. Boyce, R. A. Mooney & L. Xing: 

96, 313 (2015).

  4)  J. I. Felice, M. V. Gangoiti, M. S. Molinuevo, A. D. McCar- thy & A. M. Cortizo:  , 63, 296 (2014).

  5)  J. J. Cao & M. J. Picklo:  , 144, 289 (2014).

  6)  H.  Asai,  S.  Nakatani,  T.  Kato,  T.  Shimizu,  H.  Mano,  K. 

Kobata & M. Wada:  , 39, 1035 (2016).

(中谷祥恵,古旗賢二,城西大学薬学部薬科学科)

プロフィール

中谷 祥恵(Sachie NAKATANI)

<略歴>2002年東京農業大学応用生物科 学部バイオサイエンス学科卒業/2007年 城西大学大学院薬学研究科博士課程修了

(博士(薬学))/同年城西大学薬学部薬科学 科助手/2015年同助教,現在に至る<研 究テーマと抱負>食品成分が骨髄由来間葉 系幹細胞および造血幹細胞の分化能に与え る影響に関する研究を通じて,『体質』を 科学できるようになればうれしいです<趣 味>温泉めぐり,自然探勝,スキー,読書

<所属研究室ホームページ>http://www.

josai.ac.jp/education/pharmacy/medicine- science̲dep/laboratory/kinouseisyokuhin.

html

古旗 賢二(Kenji KOBATA)

<略歴>1990年信州大学農学部農芸化学 科卒業/1995年岐阜大学大学院連合農学 研究科修了(博士(農学))/同年静岡県立 大学食品栄養科学部助手/2007年城西大 学薬学部薬科学科准教授/2015年同教授,

現在に至る<研究テーマと抱負>食品成分 が体質を変えるメカニズムの解明,機能性 成分を豊富に含む植物(特にトウガラシ)

の創出<趣味>フットサル,詰碁

Copyright © 2017 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.380 図1骨髄由来体性幹細胞の分化応答性変 化とその要因

日本農芸化学会

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