タンパク質‒タンパク質間相互作用(Protein‒Protein Inter-
actions: PPI)の制御が興味を集めている.特にマルチクラ
イアント型(複数のPPIの相手をもつ)タンパク質が関与す るPPIの選択的な制御には小分子による制御が有効である.
遺伝子knockout/knockdown手法は,関与するすべてのPPI を消失させ,有効な知見の取得にはつながらない.マルチク ライアントタンパク質には,マルチドメイン型(複数のPPI サイトをもつ)とシングルドメイン型(単独のPPIサイトし かもたない)があるが,後者の代表例として,細胞内シグナ ル伝達経路を制御している14-3-3タンパク質が知られる.本 稿では,主に天然のフシコッカン型ジテルペン配糖体とその 半合成誘導体による14-3-3タンパク質の機能制御について概 説する.
14-3-3タンパク質
14-3-3タ ン パ ク 質(以 下,14-3-3と 表 記 す る) は,
1967年にウシの脳タンパク質として同定されたが,機 能未知であったため,精製過程における分画番号を名称 とされた(1).その後,ヒトの脳タンパク質としての同定
報告などが散見されるものの,このタンパク質ファミ リーが真に注目されるまでには,その後20年の歳月を 要した.1987年,市川,磯辺らが,モノアミン生合成 調節因子としての機能を明らかにした(2, 3)ことに端を発 し,1990年代初頭から,14-3-3に関する研究が急速に進 展した.その理由は,このタンパク質ファミリーが実は 酵母からヒトに至るすべての真核細胞生物に,そして,
脳だけでなく広範な組織・細胞に普遍的に発現してお り,酵素の活性調節のみならず,多様な細胞内信号伝達 経路にかかわり,発生,増殖,分化,細胞死誘導等々,
生命維持に重要な事象のあらゆる局面に関与しているこ とが明らかになったからである.多くのアイソフォーム
(構造は異なるが同じ機能をもつタンパク質.14-3-3の 場合は三次構造の相同性は極めて高いので,アミノ酸配 列が完全には同一ではないもの)が真核細胞生物から同 定されており,ヒトでは
β
,γ
,ε
,ζ
,η
,τ
,σ
の7種が知られ ている.アイソフォーム間の一〜三次構造の相同性は高 く,いずれも9本のα
ヘリックスからなり二量体を形 成・機能している.図1にヒトζ
-体の二量体構造上に,ヒトの7種のみならずタバコおよびアフリカツメガエル の14-3-3に種を超えて構成アミノ酸が保存されている領
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【解説】
Selective Modulation of 14-3-3 Protein Functions: Small-Molecule Stabilization of Protein‒Protein Interactions
Yusuke HIGUCHI, Nobuo KATO, 大阪大学産業科学研究所
14-3-3タンパク質の選択的機能制御
小分子によるタンパク質‒タンパク質間相互作用の安定化
樋口雄介,加藤修雄
域を表示した.二量体全体として
ω
型の形状をなし,特 に標的ペプチドを捕捉する内溝領域の保存性が高い.多様な細胞機能の制御にかかわっているが,14-3-3の 分子レベルでの挙動そのものは単純である.機能性タン パク質のon/offや細胞内信号伝達の多くがリン酸化‒脱 リン酸化によって制御されているが,14-3-3はクライア ントタンパク質の特定の配列内にあるSer/Thr残基を リン酸化依存的に認識捕捉し,クライアントのリン酸化 状態の生理的機能を発現させる役割を担っている(ただ し,リン酸化非依存的に14-3-3と相互作用するクライア ントも知られている).こうした14-3-3のPPI(以下,
14-3-3 PPI)が多様な事象に関与しうるのは,リン酸化 部位周辺配列のみを標的とし,クライアント全体を認識 しているわけではないからで,結果としてヒト細胞中に 限っても約200種の14-3-3のクライアントが同定される に至っている(4).リン酸化ペプチド配列を認識する一つ のドメインで多くのクライアントを相手にしているとい う意味において,シングルドメイン‒マルチクライアン ト型タンパク質の典型例と言える.クライアントの多様 性が14-3-3の見掛けの機能多様性をもたらしており,本
誌においても,植物の硝酸還元酵素(5)あるいは細胞膜 H+-ATPaseの活性制御(6),セロトニン -アセチルトラ ンスフェラーゼの活性制御を通した概日リズム制御(7), フロリゲン複合体中での役割(8)などが紹介されている.
生命の恒常性維持に重要であることは,逆に多くの疾病 ともかかわりうることを意味する.実際,がん,神経疾 患,心疾患などと14-3-3のかかわりが報告されている が,このような14-3-3の役割の詳細はほかの総説に委ね る(4, 9〜13).
14-3-3 PPI阻害剤
小分子による14-3-3 PPIの変調には,阻害的と増強的 の2つの方向性が考えられるが,14-3-3
ζ
のがんの発生 や進行への関与などから,阻害剤に抗がん剤としての可 能性があると提唱されている(12, 13)ことを受け,阻害的 変調剤の開発がなされてきた.先駆的かつ代表的研究と して,Fuらによるペプチド系阻害剤の開発が挙げられ る.彼らは,ファージディスプレイスクリーニングによ り,20もしくは21残基からなるペプチドライブラリー から,14-3-3 と c-Raf(Raf-1: proto-oncogene serine/threonine kinase,MAPキナーゼ(分裂促進因子活性化 タンパク質キナーゼ)増殖シグナル経路に関与してい る) と のPPIを 阻 害 す るR18(PHCVPRDLSWLD- LEANMCLP)を見いだした(14).図1に示したように,
ヒト細胞中の7種の14-3-3アイソフォームに限らず,ペ プチド結合溝周辺のアミノ酸配列は生物種を超えて高く 保存されている.そのことから容易に推察できるよう に,R18はすべての14-3-3 PPIに対して阻害的に働く.
彼らはさらに,14-3-3が生理的にはホモあるいはヘテロ 二量体として存在していることに着目し,2分子のR18 を短いペプチド鎖で連結したdifopein(dimeric four- teen-three-three peptide inhibitor)を創製し,強力な 14-3-3 PPI阻害能をもつことを示した(15).
ただ,ペプチド系阻害剤は細胞膜透過性に問題があ り,実際,difopeinは細胞中で発現させる必要がある.
そこで,細胞膜透過性を有する阻害剤を小分子ライブラ リーからスクリーニングによって見いだすことも検討さ れており,これまでにいくつかの阻害剤が見いだされて
いる(16, 17).最近では,大神田らが14-3-3 PPI阻害剤を細
胞内での化学反応によって創製する手法を報告してい る(18).これらの阻害剤は,14-3-3 PPIの細胞内信号伝達 経路への関与の検証など,化学生物学分野でのツールと して高い価値があることは疑いない.しかし,多くの 14-3-3 PPI阻害剤が腫瘍増殖抑制効果を示すことが報告
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図1■14-3-3二量体の構造と生物種を超えた保存領域
ヒト14-3-3 ζの二量体結晶構造(PDB ID: 4FJ3).濃色部分がヒト 14-3-3の7種のアイソフォームおよびタバコ,アフリカツメガエル の14-3-3に完全に保存されている領域.[Web版における配色]
14-3-3単量体:黄色および淡青色,完全保存領域:赤色,標的リ ン 酸 基 を 捕 捉 す るArg‒Lysク ラ ス タ ー:濃 青 色.PyMOL
(Schrödinger, LLC)で描画(図4, 5, 7, 8, 9aも同様).
されているものの,それらが直ちに抗がん剤として医薬 応用できるとするのは早計であろう.少なくとも,14- 3-3のリン酸化ペプチド捕捉溝にはまることで阻害能を 発揮する化合物は,正常細胞の恒常性維持に必須なもの を含め,すべての14-3-3 PPIを阻害することを意味する からである.
14-3-3 PPI増強/安定化剤:スクリーニングヒット 化合物
14-3-3がシングルドメイン‒マルチクライアント型タ ンパク質であるので,14-3-3 PPIドメイン阻害剤にクラ イアント選択性をもたせることは困難である.一方,
14-3-3と特定のクライアントが形成する会合構造は唯一 無二であり,したがって,小分子によって特定の14-3-3 PPIを選択的に増強/安定化することは,少なくとも論 理的には可能なはずである.そうした背景から,近年,
14-3-3 PPIに対する安定化剤の探索が行われるように なった.しかし,こうした探索研究は緒に就いたところ であり,安定化効果の程度や表現型解析に関する研究進 展は次項の天然物由来の安定化剤の域に達していない.
今後の展開に期待し,ここでは,見いだされた安定化剤 の代表的構造(図2)とそれらを記述した総説を紹介す るにとどめる(16, 17).
14-3-3 PPI増強/安定化剤:フシコッカン型ジテル ペン配糖体
ジテルペン配糖体・フシコクシン(FC)やコチレニ ン(CN)(図3)が高等植物の植物細胞膜H+-ATPase を活性化し,気孔開孔,発芽誘起,子葉拡大など,植物 ホルモン様活性を示すことが知られていた(19).2003年,
X線結晶構造解析によって,FC/CNによるH+-ATPase の活性化機構が分子レベルで解明された(20).すなわち,
H+-ATPaseはそのC端から2番目のThrへのリン酸化 と引き続く14-3-3との2者会合体形成によって活性化さ れるが,FC-Aはさらに3者会合体を形成することで,
H+-ATPaseの永続的活性化をもたらしている.つまり,
FC/CNは14-3-3 PPIの増強/安定化剤として機能して
おり,小分子が14-3-3 PPIの安定化剤になりうることが 示され,前項のスクーリングによる安定化剤探索の契機 になった(図4).
FC/CNの抗腫瘍活性
14-3-3が真核細胞生物に普遍的に発現していることか ら,FC/CNが植物のみならず,動物細胞に対しても何 らかの活性をもつことが期待された.実際,CN-Aが前 骨髄性白血病細胞(HL-60)に対して分化誘導活性を有 する(21)ことや,CN-A(22)およびFC-A(23)がインターフェ ロン
α
(IFNα
:サイトカインの一種でウイルス干渉因 子として同定された.ウイルス性肝炎に対する抗ウイル ス薬,腎がん・多発性骨髄腫などに対する抗がん剤とし日本農芸化学会
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図2■14-3-3とH+-ATPaseのPPIを標的としたスクリーニング によって得られた14-3-3 PPI安定化剤
図3■天然FC/CNおよび半合成誘導体
図4■14-3-3, H+-ATPase, FC-A 3者会合体のX線結晶構造解 析
PDB ID: 1O9F.単量体ユニットの構造.[Web版における配色]
14-3-3:藤色,H+-ATPase(QSY-pT-V-COOH):青色,FC-A:橙 色.
て臨床応用されている)と併用することにより,種々の 固形がん細胞に対してアポトーシスを誘起し,腫瘍増殖 抑制効果を示すことが報告された.FC-AとCN-Aがと もにIFN
α
との併用によりアポトーシスを誘起するのに 対して,HL-60に対する分化誘導活性はCN-Aにしか見 られない.この相違を考察するためには,14-3-3が捕捉 するリン酸化ペプチドのアミノ酸配列を理解しておく必 要がある.Yaffeらは,それまでに知られていた14-3-3の標的ペ プチド配列から見いだした[…R−3−2−1SX-pS/T-X0 +1+2P…]配列 と,独自のリン酸化ペプチドライブラリーを用いて得ら れた[…R−4−3X-Y−2/F-X−1-pS/T-X0 +1+2P…]配列の2つが14-3-3の 標的配列であると提唱し,それぞれをmode Iおよび mode IIと呼称した(9).現在もこの名称は常用され,14- 3-3 PPIに対するconsensus配列として広く受け入れら れている.しかし筆者らは,いずれもリン酸化Ser/Thr の+2位がProであり,さらにその先にペプチド鎖が伸 長している内部認識配列(internal motif)であるとい う共通点を有することから,両者を区別する必要性は乏 しいと考えている.実際,その後のMacKintoshらの植 物あるいは動物細胞中に見いだされる14-3-3標的配列の より網羅的な解析(4)によれば,mode I配列は確かに確 率高く存在しているものの,mode II型,すなわち,
−2位にTyr/Pheをもつ配列はほとんど見いだされてい な い.さ ら に,+2位 にProを も つconsensus配 列 は 50%に満たず,+2 Proをもたない配列(non-consensus 配列)も多数見いだされている.ちなみに,標的配列の 中で最も出現頻度が高いのは,−3 Argである.一方,
前出の植物H+-ATPaseの標的配列は,リン酸化部位が C端近傍に存在している点においてmode Iとは異なっ ており,こうしたC端認識配列(terminal motif)[…
pS/T-X1〜2-COOH]はmode IIIと呼ばれる(24, 25).
筆者らはOttmannらとの共同研究において,CN-Aが FC-Aと 同 じ 様 式 でmode III型H+-ATPaseと14-3-3の PPIを安定化することをX線構造解析によって明らかに した(26).そして,その構造に14-3-3/mode Iの結晶構 造(27)を重ね合わせると,CN-Aはこの2者会合体を安定 化しうるのに対して,図4の構造中のFC-Aを重ね合わ せると,その12位ヒドロキシ基とmode Iペプチドの
+2 Proとの間に立体反発を生じることが想定された
(図5).すなわち,CN-Aに特徴的なHL-60に対する分 化誘導活性は,14-3-3とmode I配列をもつクライアン トタンパク質との2者会合体を標的としている可能性が 示唆される.そこで,天然FC類からの半合成によっ て,アグリコン部のヒドロキシ基の置換様式に関する構 造活性相関研究を遂行し,たとえば,CN同様12位無置 換のISIR-042(図3)がHL-60に対する分化誘導活性を 示すことを確認した.ISIR-042はCNとは異なり3位も 無置換である.そして,MCF-7(乳がん細胞)やMIA- PaCa-2(膵臓がん細胞)に対して,天然のFC/CNには 見られない,ハイポキシア(低酸素濃度)環境選択的細 胞毒性を示すことも明らかにした(28).一般的に,腫瘍 内部がハイポキシアであるのに対して,正常組織はノル モキシア(正常酸素濃度)環境にあることから,ハイポ キシア選択的細胞毒性はがん組織選択的化学療法として 注目されている.また,ハイポキシア環境は,がんの悪 性化やがん幹細胞の維持にかかわっているとされる.細 胞表面に発現する表面抗原(分化抗原群(CD):Cluster of Differentiation)のうち,CD44は多くのがん幹細胞 に発現している.一方,CD24はがん種によって異なる が,膵臓がん幹細胞には発現していることが知られてい るので,両者の発現を膵臓がん幹細胞性の指標とするこ とができる.膵臓がんに対する化学療法剤gemcitabine をMIAPaCa-2に作用させると,CD24+/CD44+の細胞
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図5■Mode I配列とFC/CNの仮想的会合構造の相違
14-3-3/H+-ATPase/CN-A(PDB ID: 3E6Y) お よ び14-3-3/H+-ATPase/FC-A(PDB ID: 1O9F) と14-3-3/mode Iペ プ チ ド(PDB ID:
1YWT)を重ね合わせた後,仮想的会合状態を作成.a) CN-Aとmode Iの仮想的会合状態.b) FC-Aとmode Iの仮想的会合状態.FC-A アグリコン12位ヒドロキシ基と+2 Pro間の立体反発のため,FC-Aはmode I型クライアントとの14-3-3 PPIを安定化できないと考えられ る.この場合,mode I配列中の+1 Tyrをそのまま描画しているが,FC/CNとの間に大きな立体反発が生じるのは明白で,+1位がかさ 高い場合には,FC/CNは14-3-3 PPIを安定化できないことも示唆される.
比率がむしろ増加するのに対して,ISIR-042は,その比 率を減少させることも明らかになった.このような特徴 ある活性や,担がんマウスモデルにおいて重篤な副作用 を示すことなく腫瘍増殖を抑制することから,ISIR-042 は新規作用機序によるがん化学療法剤として期待でき る.
FC/CN類のがん細胞に対する活性が14-3-3 PPIの安 定化に帰結できると仮定すると,アグリコン部の置換様 式によって表現型が変化することも理解しやすい.図5 の仮想的会合モデルでも示したが,アグリコン部が標的 ペプチドの+1および+2位のアミノ酸残基と接してい るので,ヒドロキシ基の置換様式によってそれらアミノ 酸残基に対する許容性が異なると考えられるからであ る.
FC/CNの動物細胞中での標的探索
当 然,仮 想 ど お りFC/CNが 動 物 細 胞 中 で も14-3-3 PPIを標的にしているかの検証が必要である.大神田ら は,浜地らの手法(29)を適用し,ISIR-042の側鎖末端ア ミノ基を利用して蛍光標識剤ISIR-042-BODIPY(図6) を創製し,それがH+-ATPaseのC端リン酸化ペプチド 存在下に14-3-3を効率よく蛍光標識化することを
で確認した(30).さらに,U937細胞(ヒト単球系細 胞)中でもISIR-042-BODIPYにより14-3-3が選択的に蛍 光標識化されることも明らかにした.Forskolin(ラブ ダン型ジテルペノイド:細胞内のサイクリックAMP濃 度を上昇させる)の添加によってリン酸化シグナルを亢 進すると,14-3-3の蛍光標識化がより顕著であった.以 上の結果は,FC/CNが動物細胞中においてもリン酸化 依存的14-3-3 PPIを標的としていることを強く示唆して いる.
本手法によってISIR-042の標的ペプチド配列に対す る選択性の評価も可能であった.3者会合体が安定であ るほどISIR-042-BODIPYによる14-3-3の蛍光標識効率が 増大するからである.20種の+1位(X)をもつmode I 型 ペ プ チ ド(RSH-pS-XP) を 用 い て 評 価 し た 結 果,
ISIR-042のアグリコン構造は,Ile, Val, Leu, Cys, Met,
次いでThr, Lys, Argという中程度のかさ高さをもつ
+1位(X)アミノ酸に選択性を有することを,14-3-3 の蛍光標識効率から明らかにした(30)(図7).もちろん 十分な選択性とは言えないが,14-3-3 PPI安定化剤に は,阻害剤では困難な標的配列選択性の付与が可能であ ることを示している.
CN-AはIFN
α
との併用による各種固形がんに対する増殖抑制効果以外に,rapamycin(放線菌から単離され たマクロリド:免疫抑制剤としての用途だけでなく哺乳 類ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)を阻害する ことで抗がん作用を含むさまざまな薬効をもつ)との併 用においてもMCF-7に対して相乗的な増殖抑制効果を 示す(31).さらには,上皮成長因子受容体(EGFR)を分 子標的とする抗体抗がん剤cetuximabとは興味ある併用 効果を示した.ヒト大腸がん細胞(Difi)のH-Ras変異株
(H-RasG12V)はcetuximabに抵抗性を示すが,CN-A の併用は抵抗性を打破し,相乗的に増殖抑制効果を示し た.また,H-RasG12V型ヒト扁平上皮がん細胞(A431)
を移植した担がんマウスモデルにおいても,cetuximab
(0.5 mg/3.5 days)とCN-A(100 µg/2 days)の併用は,
ほぼ完全に腫瘍の増殖を抑制し,cetuximab耐性腫瘍に
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図6■4-3-3 PPIを標的とする蛍光標識剤:ISIR-042-BODIPY ISIR-042-BODIPYは,14-3-3がリン酸化クライアントを捕捉して いるときにだけ安定な3者会合体を形成し,求核性残基に蛍光性 クロモフォア・BODIPYをもつ側鎖を受け渡すことで14-3-3を標 識化する.点変異14-3-3を用いた結果から,14-3-3 ζの場合には His164が求核攻撃していることも判明している.このHisは,ヒ ト7種のアイソフォームのうちσ(Asn166)を除く6種に保存され ている.実際,σ isoformへの標識化はほとんど進行しない.
図7■ISIR-042-BODIPYの標的リン酸化ペプチドの+1位アミ ノ酸選択性
Mode Iペプチド(RSH-pS-XP-COOH)存在下のISIR-042-BODI- PYによる14-3-3 ζの蛍光標識化効率.PMA2=H+-ATPaseのC端 ペプチド.FL: 14-3-3の蛍光検出.CBB: 14-3-3のCoomassie Bril- liant Blue染色検出.
対する治療戦略として期待できる(32).この結果を踏ま え,RasからMAPキナーゼ増殖シグナル経路に介在す るc-Rafに着目した.c-Rafには,14-3-3との会合によっ て増殖シグナルを不活性化するリン酸化サイト(Ser233 とSer259)(33)と活性化するリン酸化サイト(Ser621)(34) が存在する.両者のモデルペプチドを用い,14-3-3との 会合状態に対するCN-Aの安定化効果を蛍光偏光法によ り評価したところ,前者の会合体のみを安定化すること が明らかになった.結晶構造解析(図8)の結果から も,CN-AはSer233およびSer259のいずれの結合サイ トにおいても会合体の安定化に寄与していることが見て 取れる.Ser233およびSer259では,いずれも,+1位 がThrで あ る の に 対 し て,Ser621の+1位 はGluで あ り,ここでもCN-Aの標的配列選択性が発現している.
図7のISIR-042と同様の+1位アミノ酸残基選択性があ ると考えて矛盾のない結果である.変異Rasは,EGFR からのシグナルの有無にかかわらずc-Rafとの会合を介 して増殖シグナルを流すことでcetuximabを無効にして いるが,CN-Aはc-Rafの不活性化サイトへの14-3-3の会 合を安定化することで増殖シグナルを遮断していると考 えられる.しかし,細胞内には多くの14-3-3 PPIが存在 するので,14-3-3とc-Raf不活性化サイトでのCN-Aによ る会合安定化とcetuximabとの併用効果に因果関係ある とするにはさらなる検討が必要である.
MAPキナーゼ経路の活性化には,膜受容体の細胞質 側で複数のシグナル伝達分子の会合を仲介するアダプ タータンパク質Gab2(Growth factor receptor bound protein 2(Grb2)-associated binder 2)がかかわること も知られている(35).Gab2にはmode I型配列(pT391:
[R−3−2−1RN-p0T-L+1+2P]) と,+2位 にProを も た な いnon-con- sensus配 列(pS210: [P−3−2−1SA-p0S-F+1+2S]) の2つ の14-3-3会 合配列が存在するが,ISIR-042と同一のアグリコン構造 をもつISIR-005(図3)は前者と14-3-3の会合体のみを 安定化できることを明らかにした.さらに,細胞レベル での共免疫沈降実験により,ISIR-005は全長Gab2と14- 3-3の会合体を安定化していることも確認した(36).Gab2 と14-3-3の会合体形成はGab2のGrb2への会合を阻害 し,増殖シグナルを負に制御することから,FC類の抗 がん活性との関連に興味がもたれる.
Mode III選択的な14-3-3 PPI安定化剤の創製:FC- THF
FC-Aの12位ヒドロキシ基がmode I配列の+2 Proと 立体反発を招く可能性を述べたが,+2 位にProをもた ないnon-consensus配列の中には,Proより小さなGly
やAlaを+2位にもつものも知られている(4).そこで,
いかなる+2位とも立体反発を生じるよう,フシコッカ ン骨格にさらにTHF環を縮環したFC-THF(図3)を 設計・合成した(37).つまり,FC-THFがmode III配列 選択性をもつことを期待した.加えて,既知のヒト細胞 中のmode III配列をもつ14-3-3のクライアントタンパク 質の数は極めて限られている.したがって,FC-THFの mode III選択性がもたらす表現型解析も可能と考え,植 物H+-ATPase(QSY-pT-V-COOH)と同様に+1 Valを C端とし,膜電位形成に重要な役割を担う漏洩K+チャ ンネル・TASK3(RRK-pS-V-COOH)を評価対象に選 択した.FC-THFは期待どおり,mode III型のTASK3 と14-3-3の会合を選択的に安定化した.一方,前述した CN-Aによって安定化されるmode I型の254SQRQRST- pS-TPNVH264配 列(c-Raf) や+2 Proを も た な いnon- consensus型の15PRKSA-pS-LSNLH25配列(Chibby:増 殖や分化に重要なWnt/
β
-cateninシグナルに阻害的に働 く核内タンパク質)と14-3-3の会合に対しては全く安定 化効果を示さなかった.X線結晶構造解析結果(図9a)からも分子設計が適切であったことが示された.THF 環が+2位アミノ酸残基が占有すべき空間を完全に遮蔽 しており,+2位が存在する配列とは相容れないことは 明らかである.
14-3-3の会合がTASK3の膜移行を制御していること が知られている(38).そこで,このK+-チャンネルをアフ リカツメガエルの卵母細胞に強制発現させたところ,
FC-THFはTASK3の膜表面発現量を有意に増加させた
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図8■14-3-3 ζ二量体/cRafペプチド/CN-A2分子の結晶構造 PDB ID: 4IHL. 14-3-3: cartoon表示.[Web版における配色]c-Raf ペプチド:青色,CN-A:橙色.c-Rafペプチド配列中の白抜き表 示の残基はX線解析では見えていない.下線のSerがリン酸化サ イト.
(図9b).特定の14-3-3 PPIを小分子によって意図的に安 定化し,期待する表現型を得たと言う意味では初例であ る.
おわりに
バイオ医薬,核酸医薬の将来や再生医療への期待が盛 んに語られる時代にあって,低分子医薬は旧来型の一言 で切り捨てられつつある.しかし少なくとも近未来的に は,低分子創薬が果たすべき役割は十分に残されてお り,多機能タンパク質がかかわる多くのPPIの中の特定 のPPIを小分子によって選択的に制御することに基づく 医薬開発もその一つであろう.創薬領域のみならず,
PPIを選択的に変調できる小分子は,化学生物学分野の ツールとしても極めて有用である.マルチドメインを有 する多機能タンパク質の場合は,特定のドメインを阻害 することで選択的変調が可能である.一方,本稿で取り 上げた14-3-3のように,シングルドメイン‒マルチクラ イアント型の場合には,ドメインの阻害はすべてのPPI を阻害することを意味し選択性は期待できない.図1に 示すように,14-3-3の外側リムの保存性は低いので,外 部領域を利用してアイソフォーム選択性やクライアント 選択性を付与した阻害剤開発が提唱されている(12, 13)が,
極めて困難な手法に思える.スクリーニングの結果とし て偶発的に得られることはありえようが,合理的な分子 設計指針が存在しうるとは思えない.一方,記述してき たように,14-3-3 PPI安定化への選択性の付与は,より 合理的に達成できよう.多くの14-3-3 PPIの結晶構造が 解析されているからである.しかし,構造解析のほとん どは,標的モデルペプチドとの会合体解析にとどまって いる.今後,全長クライアントとの構造解析が進み,会
合構造の全容を理解したうえでの分子設計が可能になる ことを期待したい.
文献
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図9■14-3-3σ/TASK3ペプチド/FC-THFの結晶構造とTASK3の膜表面発現量に対するFC-THFの効果
a) PDB ID: 3SPR.[Web版における配色]14-3-3 σ:藤色,TASK3ペプチド:青色,FC-THF:橙色.TASK3の+1 Valの末端カーボキシ レート上に,FC-THFのTHF環が覆い被さっている.b)アフリカツメガエルの卵母細胞中で強制発現させたヒトTASK3の膜表面発現 量.蛍光免疫染色により評価.FC-THFが存在すると膜表面発現量が1.5倍程度増加した.
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プロフィール
樋口 雄介(Yusuke HIGUCHI)
<略歴>2011年大阪大学理学研究科博士 課 程 修 了,博 士(理 学)/2011年 南 カ リ フォルニア大学医学科(Keck School of Medicine)Research Associate/2013年大 阪大学産業科学研究所助教,現在に至る
<研究テーマと抱負>タンパク質間相互作 用の制御,低分子化合物の分子認識と 疎 水効果 ,創薬,ケミカルバイオロジー,
バイオテクノロジー,計算化学など<趣 味>ダイビング,ドライブ
加藤 修雄(Nobuo KATO)
<略歴>1979年東北大学理学研究科博士 課程修了,博士(理学)/1980年Yale大学 博士研究員/1981年九州大学生産科学研 究所助手/1997年同大学機能物質化学研 究所助教授/2003年大阪大学産業科学研 究所教授,現在に至る<研究テーマと抱 負>医薬品化学,化学生物学,天然物化 学,有機合成化学<趣味>今,気になって いること:WaterMap,無患子の実,ダン ゴウオ,喜多善久<所属研究室ホームペー ジ>http://www.sanken.osaka-u.ac.jp/
labs/ofc/
Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.732
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