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-ミリストイル化タンパク質が担う多彩な生命現象 - J-Stage

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タンパク質 -ミリストイル化は,タンパク質脂質修飾の一 種であり,タンパク質を細胞膜へつなぎ止める膜アンカーと して働き,主として細胞情報伝達に機能することが知られて きた.最近,ケミカルバイオロジーの手法(クリックケミス トリー)を用いた -ミリストイル化タンパク質の高感度の 検出法が確立され,この手法と最新の質量分析法を組み合わ せることでヒト細胞内に存在する -ミリストイル化タンパ ク 質 の 網 羅 的 解 析 が 進 ん で い る.そ の 結 果,こ の 脂 質 修 飾 が,細胞情報伝達以外に細胞内のタンパク質輸送やオルガネ ラ形成,アポトーシス,オートファジーの機構にも深く関与 すること,さらにそれらの異常により,がんをはじめ神経変 成疾患や感染症といったさまざまな疾患が誘導されることが 明 ら か に な っ て き た.本 総 説 で は,タ ン パ ク 質 -ミ リ ス ト イル化に関する最近の知見をまとめて紹介する.

はじめに

タンパク質の脂質修飾は,脂肪酸,イソプレノイド,

リン脂質といった脂質がタンパク質に共有結合するタン

パク質翻訳後修飾であり,脂質修飾タンパク質の多くは 細胞情報伝達をはじめとするさまざまな細胞の機能発現 過程において重要な役割を担っている(1,2).このうちタ ンパク質 -ミリストイル化は1980年代初頭に日本人研 究者により見いだされた反応である.この脂質修飾が特 に注目を集めるようになったのは発がん遺伝子産物であ るSrcタンパク質(p60src)に -ミリストイル化が生じ,

このタンパク質の発がん活性にこの脂質修飾が必須であ ることが明らかになってからである.その後の研究か ら,この脂質修飾は,正常細胞においても多くの細胞情 報伝達に関与する生理活性タンパク質に生じ,単にタン パク質を細胞膜へつなぎ止める膜アンカーとして機能す るだけでなく,タンパク質‒膜間,あるいはタンパク質‒

タンパク質間の特異的相互作用を介して,タンパク質の 細胞内局在や活性の制御を行うことにより細胞情報伝達 に深く関与していることが明らかにされてきた(1〜4)

タンパク質 -ミリストイル化をはじめとするタンパ ク質の脂質修飾の解析については,これまで一般化され た簡便な解析手法が確立されておらず,リン酸化やグリ コシル化,ユビキチン化といった主要な翻訳後修飾の解 析と比較し遅れていた.しかし最近,ケミカルバイオロ

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● 化学 と 生物 

【解説】

The  Role  of  Protein  -Myristoylation  on  a  Wide  Variety  of  Biological Processes

Toshihiko UTSUMI, Koko MORIYA, 山口大学大学院創成科学研 究科

-ミリストイル化タンパク質が担う多彩な生命現象

細胞情報伝達から疾患誘導まで

内海俊彦,守屋康子

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ジーの手法(クリックケミストリー)による脂質修飾の 検出法が開発され,この手法とSILAC法をはじめとす る高感度の質量分析法とを組み合わせた脂質修飾の解析 法が確立され,ヒト細胞内に存在する -ミリストイル 化タンパク質の網羅的解析が急速に進行している(5, 6). その結果,この脂質修飾が,細胞情報伝達以外に細胞内 のタンパク質輸送やオルガネラ形成,アポトーシス,

オートファジーの機構にも深く関与すること,さらにそ れらの異常により,がんをはじめ神経変成疾患や感染症 といった疾患が誘導されることが次々と明らかになって きた.本稿では,まずタンパク質 -ミリストイル化に 関する従来の知見をまとめ,新しい解析手法について解 説する.つづいて網羅的解析の結果得られた最近の知見 についてわれわれのデータを含め紹介する.

細胞内で生ずる2種類の -ミリストイル化反応 タンパク質 -ミリストイル化は,タンパク質に脂肪 酸が付加するタンパク質アシル化の一種で,真核生物お よびウイルス由来のタンパク質に見られる脂質修飾であ り,真核生物では全タンパク質の1%程度がこの修飾を 受けていると推定されている.真核細胞内では主として -ミリストイル化と -パルミトイル化という2つのタイ プのタンパク質アシル化が生じている. -パルミトイル 化が分子内Cys残基に翻訳後に起きるチオエステル結合 を介した可逆的な修飾であるのに対し, -ミリストイル 化は通常,タンパク質N-末端Gly残基に起きるタンパク 質合成(翻訳)と同時に起きるアミド結合を介した不可 逆的な修飾である. -ミリストイル化されるタンパク質 のN-末端にはMet-Gly-で始まる8〜9アミノ酸からなる -ミリストイル化シグナルと呼ばれるコンセンサス配列 が存在する(7, 8).リボソーム上でのタンパク質の翻訳途

中にメチオニンアミノペプチダーゼ(MAP)により開 始Metが切断除去された後,露出したN-末端Gly残基の

α

-アミノ基に -ミリストイル転移酵素(NMT)がミリ ストイル-CoAのミリストイル基を転移する(図1A)

ヒ ト のNMTに は2つ の ア イ ソ フ ォ ー ムNMT1と NMT2が存在しこのうちNMT1が主要な機能を担って いることが知られているがNMT1とNMT2の機能的な 違いは明らかではない. -ミリストイル化されるタン パク質は,三量体型Gタンパク質

α

サブユニット,低分 子量Gタンパク質,リン酸化酵素とその基質,脱リン酸 化酵素,E3ユビキチンリガーゼとその関連タンパク質,

Ca2+結合タンパク質,といった細胞情報伝達とその制 御にかかわるタンパク質であり,これらはいずれも細胞 の機能発現において極めて重要な役割を果たしている.

翻訳と同時に起きる -ミリストイル化に加え,この 修飾がアポトーシスの過程でカスパーゼにより切断され たタンパク質断片に翻訳後に起きることが知られている

(図1B).翻訳後 -ミリストイル化と呼ばれるこの修飾 反応は,アポトーシス誘導因子として知られるBidに生 ずることが見いだされた.Bidはアポトーシスの過程に おいて重要な役割を果たす細胞質タンパク質であり,ア ポトーシス刺激に伴いカスパーゼ-8により切断されミト コンドリアへ移行し,ミトコンドリアからのシトクロム cの遊離を誘導することによりアポトーシスを進行させ る.このカスパーゼ-8による切断に伴い生じたBidのC- 末端側フラグメント(truncated Bid; tBid)が,翻訳後 に -ミリストイル化を受けること,さらにこの -ミリ ストイル化がtBidのミトコンドリアへの移行およびシ トクロム の遊離に必須であることが明らかにされた(9). その後,われわれをはじめ複数のグループが,このBid に加えて,アクチン,ゲルゾリン,PAK2, PKC

ε

, Hun- tingtinといったカスパーゼ基質においても翻訳後 -ミ 図1細胞内で生ずる2種類の -ミリスト イル化反応

A.  細胞質の遊離リボソーム上でタンパク質 合成と同時に起きる -ミリストイル化.B. 

アポトーシス過程でカスパーゼ切断断片に起 きる翻訳後 -ミリストイル化.MAP,メチ オニンアミノペプチダーゼ;NMT,  -ミリス トイル転移酵素;Myr-CoA,ミリストイル CoA.

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リストイル化が生じ,この修飾に伴いアポトーシスが正 あるいは負に制御されることを報告している(10〜12)

-ミリストイル化タンパク質の機能発現機構 -ミリストイル化タンパク質の多くは,膜結合を介 して機能を発現するが, -ミリストイル化タンパク質に 結合したミリストイル基の疎水性は低く, -ミリストイ ル化のみではタンパク質は必ずしも膜に結合するとは限 らず,安定に膜結合するためには,正荷電アミノ酸のク ラスターやパルミトイル化修飾といった膜結合性を増大 させる第2のシグナルが必要である(1〜4).これらの第2 のシグナルを介した膜結合は,正荷電領域中のアミノ酸 のリン酸化‒脱リン酸化反応や,パルミトイル化‒脱パル ミ ト イ ル 化 反 応 に よ り 可 逆 的 に 制 御 さ れ る こ と が MARCKSタンパク質やG

α

iタンパク質などで示されて いる.また,Ca2+やグアニンヌクレオチド(GDP, GTP)

といったリガンドとの結合,あるいは多量体化によるタン パク質構造の変化に伴いミリストイル基の露出度が大きく 変化し,膜結合が制御される場合があることも,リカバリ ン,Arf-1, HIV-1 Gagなどで明らかにされている(図2

これらの多様な機構を介した膜との結合‒解離は,い ずれも -ミリストイル化タンパク質の機能発現におけ る「分子スイッチ」として働くことから,「ミリストイ ルスイッチ」と総称されている(13, 14).これらのメカニ ズムはいずれもタンパク質と膜との相互作用を介してタ ンパク質の機能発現に関与するが,タンパク質とタンパ ク質との相互作用にミリストイル基が直接関与する例が 脳に局在するカルモジュリン結合タンパク質である CAP-23/NAP-22について報告されている(15).CAP-23/

NAP-22で見られる -ミリストイル化を介したタンパク

質‒タンパク質相互作用はそのほかの -ミリストイル化 タンパク質の機能発現過程においても機能しているもの と推察される.

タンパク質 -ミリストイル化と疾患

タンパク質 -ミリストイル化は,発がんウイルスの がん遺伝子産物であるSrcタンパク質に生ずる修飾反応 であり,その発がん活性に必須であることから,がんと -ミリストイル化との関連が知られていた(16).また,

-ミリストイル化反応を触媒するNMTの発現が大腸が んや腺がんで上昇しており,NMT基質であるSrcの活 性が大腸がんや肺がんなどで上昇していることが見いだ されている.また -ミリストイル化タンパク質である FMNL2, FMNL3, BTBD7の発現が大腸がんや肺がんで 上昇していることも報告されている(17, 18).このように -ミリストイル化タンパク質の発現上昇ががん化につ ながる例が多数報告されていることに加えて,最近, - ミリストイル化ががん以外の疾患に直接関与している例 が次々と見いだされている(図3

ヒト遺伝性疾患であるヌーナン症候群と類似の疾患で あるNoonan-like syndromeにおいて,Ras-MAPK経路 の制御タンパク質であるSHOC2の2位Ser残基が,遺伝 子変異に伴いGlyへと変化し,本来生じない -ミリスト イル化が生じる.このため,SHOC2の細胞内局在が変 化し,成長因子刺激に伴う情報伝達に異常をきたし疾患 が生じることが報告されている(19)(図3B).また,赤痢 菌の一種であるフレクスナー赤痢菌( ) が産生するシステインプロテアーゼ活性を有する毒素タ ンパク質IpaJが,感染したヒト細胞内の小胞輸送を制御 する低分子量Gタンパク質であるArfのN末端の -ミリ

図2 -ミリストイル化タンパク質の機能発

現機構

-ミリストイル化タンパク質の膜結合および タ ン パ ク 質 と の 結 合 は,a),e) リ ガ ン ド

(Ca2+,グアニンヌクレオチドなど)との結合 によるタンパク質構造の変化,b)特異的タン パク質との結合による正荷電アミノ酸のブ ロック,c)タンパク質リン酸化による正荷電 の減少,d)可逆的なパルミトイル化,e)ミ リスチン酸結合領域をもったタンパク質との 特異的結合,といった多様なメカニズムを介 して巧妙に制御されている.

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ストイル化された2位Gly残基と3位Asn残基の間のペ プチド結合を切断し, -ミリストイル化されていない Arfを生じることが示された(20).この切断により,宿主 であるヒト細胞のArfを介した小胞輸送が阻害されるこ とでフレクスナー赤痢菌がその病原性を発現しているこ とが明らかにされた(図3C).これは病原性細菌の毒性 発現が宿主細胞の -ミリストイル化の阻害により生じる という驚くべき発見であった.さらに,神経変成疾患で あるハンチントン病の発症に,その原因遺伝子産物であ るhuntingtin(HTT)の翻訳後 -ミリストイル化が関 与している可能性が示された.正常なHTTはカスパー ゼによる切断を受け翻訳後 -ミリストイル化され,オー トファジーを誘導するのに対し,ハンチントン病患者の 変異HTTではカスパーゼ切断とそれに続く翻訳後 -ミ リストイル化が阻害されオートファジーが阻害される

(図3D).このことがハンチントン病発症の原因の一つ であると提唱されている(21).これらの, -ミリストイル 化が疾患の発症や進行に直接関与する例に加え, -ミリ ストイル化を阻害することにより疾患の治療をめざす試 みが進んでいる.すなわちウイルスや原虫といった病原 性微生物の感染,生存,増殖に -ミリストイル化タンパ ク質が重要な役割を果たしていることから,これらの病 原性微生物により起きる疾患の治療にNMT阻害剤を使 用する試みが,マラリア,リーシュマニア症,トリパノ ソーマ症など,多くの疾患において進行している(22〜24)

ケミカルバイオロジーの手法による -ミリストイ ル化タンパク質の検出法と網羅的解析

従来,タンパク質 -ミリストイル化は,精製された タンパク質を使用し,MALDI-TOF MS  などの質量分

析により検出されてきた.また質量分析を用いることな く特定の遺伝子産物に生ずる -ミリストイル化を検出 する場合,遺伝子導入した培養細胞を用いたRI-標識ミ リスチン酸による代謝標識が用いられた.これらの方法 では,質量分析装置あるいはRI-実験施設の使用が必要 であり,このことが -ミリストイル化をはじめとする 脂質修飾の検出がごく一部の研究者のみにより行われて きた理由であった.最近のケミカルバイオロジーの手 法,特にアジドとアルキンの間の付加環化反応を利用し たクリックケミストリーと呼ばれる反応の開発に伴い,

この状況が大きく改善された(図4

クリックケミストリーを用いた -ミリストイル化の 検出においては,アルキン化(あるいはアジド化)した ミリスチン酸を細胞に取り込ませタンパク質を標識し,

細胞を溶解後,アジド化(あるいはアルキン化)した tagとクリックケミストリーにより反応させ検出す

(5, 25).この際,ビオチンをtagに使用することでスト

レプトアビジンビーズを用いた -ミリストイル化タン パク質の濃縮・精製が可能であり,蛍光色素をtagとし て使用することでSDS-PAGEゲル上での -ミリストイ ル化タンパク質の蛍光検出が可能である.また最近では ビオチンと蛍光色素を含み,さらに切断可能な種々の tagが開発され, -ミリストイル化タンパク質を濃縮・

精製後tagを切断し -ミリストイル化されたN末端ペプ チドを質量分析により直接同定する手法も確立されてい る(26).これらのクリックケミストリーによる手法と SILAC法と呼ばれる同位体標識を用いた高感度の質量 分析の手法を組み合わせ,特定の細胞内で発現している -ミリストイル化タンパク質の網羅的解析が行われて いる.最近,この手法を用いたHeLa細胞における定常

図3タンパク質 -ミリストイル化と疾患 A.  -ミリストイル化タンパク質の過剰発現

(大腸がん,肺がんなど),B.  遺伝子変異に伴 う -ミリストイル化(Noonan-like syndrome), C. N末端の -ミリストイル化Glyの切断(フ レクスナー型赤痢),D.  翻訳後 -ミリストイ ル化反応の異常(ハンチントン病),が疾患の 原因となる.

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状態とアポトーシス誘導時における -ミリストイル化 タンパク質の網羅的解析が報告された(6).その結果,定 常状態においてHeLa細胞中には約100個の -ミリスト イル化タンパク質が発現していることが示された.また スタウロスポリンによるアポトーシス誘導に伴い,翻訳 と共役した -ミリストイル化タンパク質の合成が阻害 され,代わりに約40個もの翻訳後 -ミリストイル化タ ンパク質が生ずることが明らかにされた.これらの定常 状態およびアポトーシス誘導時に発現する -ミリスト イル化タンパク質の一部は,この解析によりはじめて同 定された新規 -ミリストイル化タンパク質であり,核 タンパク質や膜貫通タンパク質といった,これまでほと んど -ミリストイル化が生ずることが報告されていな い種類のタンパク質が含まれていた.この例以外に,同 様の手法を用いてヒト免疫不全ウイルス(HIV-1),ヘ ルペスウイルス(HSV),マラリア,リーシュマニアと いった病原性ウイルスや原虫に感染した感染細胞の - ミリストイル化タンパク質の網羅的解析が報告されてい

(23, 24, 27, 28).その結果,病原性微生物の感染に伴い宿

主細胞中に存在する -ミリストイル化タンパク質の量 および種類が大きく変化していることが明らかになって きた.これらのタンパク質の解析は,病原性微生物の感 染,増殖の分子機構の解明,またそれらを抑制する薬剤 の開発に大きく貢献するものと期待される.

無細胞タンパク質合成系を用いた新規 -ミリスト イル化タンパク質の同定

上述のように,近年,ケミカルバイオロジーの手法を 用いた -ミリストイル化タンパク質の同定法の確立に 伴い,特定の細胞が特定の条件下で発現する -ミリス トイル化タンパク質の網羅的同定が可能となっている.

しかし,特定の細胞で発現するタンパク質はヒトゲノム

にコードされた全タンパク質の一部のみであり,細胞を 材料として解析を行う限り,ヒト個体全体で発現しうる すべての -ミリストイル化タンパク質を網羅的に同定 することは理論上不可能である.

われわれは,細胞を用いずヒト細胞内に存在している 全 -ミリストイル化タンパク質を同定する手法として,

ヒトタンパク質の配列情報をもとに,無細胞タンパク質 合成系を用いた代謝標識により試験管内で -ミリスト イル化を検出する手法を確立した(29〜32)(図5

ここで使用した昆虫細胞由来無細胞タンパク質合成系 は,ヒトNMTの基質特異性と極めて類似した基質特異 性を有するNMTを有し,試験管内で効率良く -ミリス トイル化タンパク質を合成する.また,細胞では発現し 難い,高分子量タンパク質や多重回膜貫通タンパク質,

毒性を有するタンパク質も効率良く合成する活性を有し ている(31).この手法では,N末端に -ミリストイル化 に必須なMet-Gly配列をもつタンパク質を解析対象と し, -ミリストイル化予測プログラムによる予測,タン パク質修飾のデータベース検索による既知 -ミリスト イル化タンパク質の除去により,新規 -ミリストイル 化タンパク質候補を選択する.これらのタンパク質のN 末端10アミノ酸をモデルタンパク質(tGelsolin)のN 末端10アミノ酸と置換した融合タンパク質cDNAの セットを構築し,それらの -ミリストイル化を,昆虫 細胞由来無細胞タンパク質合成系における[3H]ミリス チン酸標識,あるいはクリックケミストリーによる手法 により検討する.効率良く -ミリストイル化が生じる ことが示されたサンプルについて全長cDNAを入手し,

ヒト由来の培養細胞に遺伝子導入し,[3H]ミリスチン 酸標識あるいはクリックケミストリーの手法により細胞 での -ミリストイル化を確認する.この手法の有効性 を,かずさDNA研究所から提供されている約6,300個の 図4ケミカルバイオロジーの手法による - ミリストイル化タンパク質の検出

A. アジドとアルキンの銅触媒による付加環化 反応.B.  細胞で発現した -ミリストイル化タ ンパク質のアルキン化ミリスチン酸とアジド 化された蛍光色素/ビオチン-tagを用いた検 出.

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ヒトcDNA(Flexi ORF clones)のアミノ酸配列を用い て検討した結果,35個もの新規 -ミリストイル化タン パク質が同定され,この手法が,タンパク質のN末端配 列情報のみから新規 -ミリストイル化タンパク質を同 定 す る 手 法 と し て 優 れ て い る こ と が 明 ら か に な っ

(32〜34).これら35個の新規 -ミリストイル化タンパク

質の中には,リン酸化酵素,脱リン酸化酵素といった細 胞情報伝達関連タンパク質以外に,膜貫通タンパク質,

ユビキチン化関連タンパク質,アクチン結合タンパク 質,アポトーシス関連タンパク質といったこれまでに -ミリストイル化が生ずることがほとんど報告されて いない種類のタンパク質が多数含まれていた.また,が ん,神経変成疾患といった疾患に直接関与することが報 告されているタンパク質が多数存在した(32〜35)

-ミリストイル化された膜貫通タンパク質の発見 とその機能解析

無細胞タンパク質合成系を利用した解析系を用いたわ

れわれの研究から, -ミリストイル化が生じなくても膜 に局在しうると考えられる膜貫通タンパク質に -ミリ ストイル化が生じる場合があることが明らかになった.

そこでこれらの膜タンパク質に生ずる -ミリストイル 化の機能に興味をもち解析を行った.ここではそれぞれ 小胞体,ミトコンドリアに特異的に局在する膜タンパク 質であるProtein LunaparkとSAMM50について解析し た結果を紹介する(図6

Protein Lunaparkは小胞体に局在する膜タンパク質 であり,ごく最近になって,小胞体の網目状構造の形成 に か か わ る こ と が 明 ら か に さ れ た タ ン パ ク 質 で あ

(36, 37).各種変異体を用いた膜上トポロジーの解析か

ら,このタンパク質は,N末端およびC末端をいずれも 細胞質に向けた2回膜貫通型のタンパク質であることが 明らかになった(38).また -ミリストイル化はこのタン パク質の小胞体膜通過・局在化および膜上トポロジー形 成に影響を与えないことも示された.このタンパク質を ヒト細胞で過剰発現すると,顕著な小胞体の編目状構造 図5無細胞タンパク質合成系を用いた新規 -ミリストイル化タンパク質の同定

ヒトタンパク質アミノ酸配列から新規 -ミリストイル化タンパク質候補を選出し,N末端10アミノ酸融合タンパク質を作製する.無細胞 タンパク質合成系における代謝標識により -ミリストイル化を検討し,つづいて全長cDNAを用いて無細胞系および細胞における代謝標 識により -ミリストイル化の有無を検討する.

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の形成が誘導されたが,2位GlyをAlaに置換し -ミリ ストイル化を阻害したG2A変異体では網目状構造の形 成は見られなかった.このことから,Protein Lunapark による小胞体の形態形成にタンパク質 -ミリストイル 化が重要な役割を果たしていることが明らかになっ た(38)(図6A).SAMM50はミトコンドリア外膜に存在 する

β

バレル型膜タンパク質をミトコンドリア外膜に組 み込むタンパク質複合体であるSAM複合体の主要構成 成分であり,自身も

β

バレル型膜タンパク質である(39). G2A変異体を作製し,ヒト細胞への遺伝子導入に伴う 細胞内局在を検討したところ,野生型SAMM50では効 率良くミトコンドリアへの局在が生じたのに対し,G2A 変異体ではその多くが細胞質に局在した.このことか ら,SAMM50のミトコンドリア局在に, -ミリストイ ル化が必用であることが明らかになった(34)(図6B). SAMM50はミトコンドリア外膜タンパク質でありなが らミトコンドリアのクリステ構造の形成に関与し,また ミトコンドリアと小胞体との相互作用にも関与すること が知られており(40),これらの機能にSAMM50に生ずる

-ミリストイル化がどのような役割を果たしているの かについても興味がもたれる.以上のように,小胞体膜 上で合成され,タンパク質合成と共役して膜に挿入され る膜貫通領域をもつProtein Lunaparkと,細胞質で合 成されミトコンドリアへと移行する

β

バレル型膜タンパ ク質であるSAMM50に生ずる -ミリストイル化は,そ れぞれオルガネラの形成,オルガネラへの特異的局在と いった異なる現象に重要な役割を果たしていることが明 らかになった.今後,そのほかの -ミリストイル化さ れた膜タンパク質の解析が進行することにより,膜タン パク質に生ずる -ミリストイル化の多彩な役割が明ら かになるものと期待される.

おわりに

タンパク質 -ミリストイル化は,1980年初頭に日本 人研究者により見いだされ,がん遺伝子産物p60srcに生 ずる脂質修飾として注目を集め,その後30年以上にわ たる研究の歴史をもつタンパク質翻訳後修飾である.こ 図6膜タンパク質に生ずる -ミリストイル化の機能

A.  -ミリストイル化されたProtein LunaparkのCOS-1細胞での過剰発現は小胞体の顕著な編目状構造を形成させるが, -ミリストイル化 を阻害したG2A変異体ではこの変化は生じない.B. COS-1細胞で発現させた -ミリストイル化されたSAMM50はミトコンドリアに特異的 に局在するが,G2A変異体ではその多くが細胞質に局在する(文献34, 38の図を改変,Web版のカラー図を参照のこと).

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の間,リン酸化酵素,GTP結合タンパク質,Ca2+結合 タンパク質といった細胞情報伝達タンパク質に生ずる -ミリストイル化の詳細な機能解析から「ミリストイル スイッチ」と総称される巧妙な機能制御機構が次々と発 見され多くのTop journalに掲載され,注目を集めてき た.このため, -ミリストイル化は細胞質タンパク質に 生じ,細胞質と細胞膜間の情報交換に特異的に機能する 翻訳後修飾であるという先入観が多くの研究者に植え付 けられたようである.しかし,本稿で紹介した,近年の ケミカルバイオロジーの手法による細胞レベルでの網羅 的解析や,われわれが行っている無細胞タンパク質合成 系を用いたタンパク質N末端配列に基づく網羅的解析 から,ヒト細胞中には極めて多様な種類の -ミリスト イル化タンパク質が存在し,多彩な機能を発現している ことが明らかになってきた.また,主にがんと関連する と考えられてきた -ミリストイル化が,多くの感染症 や神経変成疾患に直接関与することも明らかになってき た.今後,これらの網羅的解析が進行し,ヒト細胞内に 存在するすべての -ミリストイル化タンパク質が同定 され,機能解析が進むことにより,その多彩な機能の全 貌が明らかになるものと期待される.

謝辞:本稿において紹介した筆者らの研究のうち,昆虫細胞由来無細胞 タンパク質合成系を用いた研究成果は(株)島津製作所との共同研究によ り得られたものである.ご協力いただいた皆様に感謝いたします.

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日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

(9)

プロフィール

内海 俊彦(Toshihiko UTSUMI)

<略歴>1980年九州大学農学部農芸化学 科卒業/1984年同大学大学院農学研究科 博士課程中退/1984年山口大学農学部助 手/1989年 米 国 テ キ サ ス 大 学MDア ン ダーソンがんセンター博士研究員/1990 年同客員助教授/1991年山口大学農学部 助教授/2001年同大学農学部教授/2006 年同大学大学院医学系研究科教授/2016 年同大学大学院創成科学研究科教授,現在 に至る<研究テーマと抱負>脂質修飾タン パク質の網羅的同定とその機能解析を行っ ている.脂質修飾タンパク質が発現する多 様な生理的機能の全容を明らかにしたいと 考えている<趣味>バイオリン演奏

守屋 康子(Koko MORIYA)

<略歴>1976年明治大学農学部農芸化学 科卒業/2005年山口大学農学部生物機能 科学科卒業/2010年同大学大学院医学系 研究科博士後期課程修了/同年同大学大学 院医学系研究科学術研究員/2016年同大 学大学院創成科学研究科学術研究員,現在 に至る<研究テーマと抱負>タンパク質脂 質修飾の生理的機能の解明と,その異常が 引き起こす疾病に関する研究<趣味>グル メ旅行,ダイエット

Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.484

日本農芸化学会

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参照

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