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無脊椎動物由来溶血性レクチンの細胞膜孔形成機構
CEL- Ⅲによる膜孔形成メカニズム
地球上において生物はその生存のために常に周囲の生 物との戦いを強いられており,それは微生物などの侵入 生物とそれに対する動物の免疫系との戦いや捕食者と被 食者の関係など,細胞・個体レベルの両面において,ま たさまざまな生物種固有の生活環境において,極めて複 雑多岐にわたる関係性の中での多様な戦いであることは 想像に難くない.そのような多様かつ複雑な関係性の中 で,個々の生物種は固有の毒を有することで敵との戦い の武器としており,その武器は進化の過程で多種多様に 獲得されかつ最適化されていることは,これまでに報告 されている生物毒の種類の豊富さや,現在でも日々報告 されている新規生物毒から伺い知ることができる.生物 が有するタンパク質毒としてこれまでに報告されている ものは300種類を超え,その報告数のうち3分の1以上 を占める最も主要なものは,膜孔形成毒素(Pore-Form- ing Toxin; PFT)と呼ばれる毒素タンパク質である(1). PFTはターゲットとする細胞の細胞膜に穴(膜孔)を 開ける機能を有しており,いったんPFTにより低分子 が通過可能な膜孔が空けられると,細胞膜内外の浸透圧 差により細胞が膨張・破裂することで,その細胞は物理 的かつ完全に破壊されることとなる.このように,
PFTによる細胞破壊作用は極めて強力なものであり,
各種生物における生存もしくは攻撃のための武器として 多様なPFTが機能し,また病原性微生物のPFTがヒト に対する毒性発現に深くかかわっている事例も多数報告 されている(2).
PFTの一種であるCEL-Ⅲは,九州は玄界灘周辺の海 底に生息するグミ( )と呼ばれる小 型のナマコの体内から発見され,その発見と同時に CEL-Ⅲの溶血性レクチンとしての活性が確認された(3). CEL-Ⅲの溶血性レクチン活性とは,CEL-ⅢがPFTの機 能である溶血活性と,レクチンの機能である糖結合活性 を併せ持つことを意味している.細胞膜の表面は,その 生物種に固有の糖鎖構造を有していることから,CEL-
Ⅲはターゲットとする細胞膜上での膜孔形成の際に特異 的糖鎖認識と糖鎖への結合がかかわり,その結合が引き 金となって膜孔が形成されることが示唆された(4).PFT による膜孔形成メカニズムに関しては,その膜孔形成複
合体結晶構造解析の報告例は2つのタイプのPFTの報 告があるのみ(5, 6)であり,メカニズムに関する知見は限 定的なものであった.一方,CEL-ⅢはほかのどのPFT とも配列に相同性を示さないことから,メカニズムに関 してもユニークなものであることが推定された.そこ で,CEL-Ⅲによる膜孔形成メカニズムの解明を目的と して,筆者らによりCEL-Ⅲ膜孔形成複合体の結晶構造 解析が行われた(7).
明らかになったCEL-Ⅲの膜孔形成複合体結晶構造は,
直径115 Å×高さ135 Åの巨大な「画鋲型」構造を有し ており,既知のPFT複合体構造とは共通性を有しない 極めてユニークな7量体構造であった(図1D).画鋲の 針に相当する部分は
β
バレル構造を形成し,この部分が 細胞膜を貫通していることが推測された.また,画鋲を 指で押す面とは反対側の面に糖結合部位(合計35サイ ト)が集中していることから,この面でターゲットとす る細胞膜表面上の糖鎖と結合し,それにより膜孔形成複 合体が細胞膜上で強力に固定されていることが推測され た.CEL-Ⅲは通常水溶性モノマーとして存在し,ター ゲットとする細胞膜表面上にさらされた場合のみ,その 膜上で膜孔複合体化を行う.以前明らかにされている水 溶性モノマーの結晶構造(4, 8)と,今回明らかにされた膜 孔形成複合体の結晶構造の比較から,CEL-Ⅲによる膜 孔形成のメカニズムが明らかとなった(図1).CEL-Ⅲ は,ターゲットとする細胞膜上の特異的糖鎖との結合を 行うことで,それが引き金となりドメイン3の相対的な 配置の移動が生じる.次に,その移動により生じた新た な表面同士が会合し,7量体のプレポア構造が形成され る.プレポア構造においてドメイン3に含まれる2本の ヘリックスを含む領域が,長い2本のβ
シートへと二次 構造変換を行い,そのβ
シートにより膜貫通β
バレル構 造が形成される.この二次構造変換と膜貫通へと至る自 発的な構造変化には何らかのエネルギーが必要であると 思われるが,上記領域の水素結合数は構造変化に伴いモ ノマーあたり24個増加することになるため,この水素 結合数の増加がドライビングフォースとして構造変化が 進行することが推測された.驚くべきことに,CEL-Ⅲの膜孔形成反応に伴うこの
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α
へリックスからβ
シートへの大規模な二次構造変換 は,PFTとしては最も報告例が多いコレステロール依 存性サイトリシン(CDC)ファミリー,および哺乳類 の自然免疫機構にかかわり侵入微生物の細胞膜に膜孔を 形成するMACPFファミリーにおいて,電顕解析から 推定されているメカニズム(9, 10)と共通していた.CEL-Ⅲは,それらファミリーとは配列に相同性を有せず,ま たそれらとは立体構造,膜孔複合体を構成するオリゴ マー数,および由来する生物種についても大きく異な る.それにもかかわらず,それらと
β
バレル形成におけ る二次構造変換メカニズムが共通することを示唆する知 見は,タンパク質構造多様性の極限におけるメカニズム の共通性という点で非常に興味深い.日本近海は,極めて多様な生物が棲息する生物多様性 のホットスポットと呼ばれている(11).その敵だらけの環 境において,グミのCEL-Ⅲは高等生物の細胞に対し PFTとして機能することで,魚類などの捕食者に対する 忌避物質の役割を担っていると考えられる.PFTを筆頭 にタンパク質機能を極限まで発達させ,それらを武器に 日本近海でほかの生物と日々戦う様を空想しながら酒の 肴に食べるナマコの味は,ひと味違いはしないだろうか.
1) J. E. Alouf: “Pore-Forming Toxins,” ed. by F. G. van der Goot, Heidelberg, Springer Verlag, 2001, pp. 1‒14.
2) F. C. O. Los, T. M. Randis, R. V. Aroian & A. J. Ratner:
, 77, 173 (2013).
3) T. Hatakeyama, H. Kohzaki, H. Nagatomo & N. Yama- saki: , 116, 209 (1994).
4) T. Uchida, T. Yamasaki, S. Eto, H. Sugawara, G. Kurisu, A. Nakagawa, M. Kusunoki & T. Hatakeyama:
, 279, 37133 (2004).
5) L. Song, M. R. Hobaugh, C. Shustak, S. Cheley, H. Bayley
& J. E. Gouaux: , 274, 1859 (1996).
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N. Ban: , 459, 726 (2009).
7) H. Unno, S. Goda & T. Hatakeyama: , 289, 12805 (2014).
8) T. Hatakeyama, H. Unno, Y. Kouzuma, T. Uchida, S. Eto, H. Hidemura, N. Kato, M. Yonekura & M. Kusunoki:
, 282, 37826 (2007).
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H. R. Saibil: , 121, 247 (2005).
10) R. H. P. Law, N. Lukoyanova, I. Voskoboinik, T. T. Caradoc- Davies, K. Baran, M. A. Dunstone, M. E. DʼAngelo, E. V. Or- lova, F. Coulibaly, S. Verschoor : , 468, 447 (2010).
11) K. Fujikura, D. Lindsay, H. Kitazato, S. Nishida & Y.
Shira yama: , 5, e11836 (2010).
(海野英昭,長崎大学大学院工学研究科)
プロフィル
海野 英昭(Hideaki UNNO )
<略歴>2006年大阪大学大学院理学研究科 高分子科学専攻博士後期課程単位取得退 学/同年同大学蛋白質研究所特任研究員/
同年博士(理学)同大学/同年長崎大学工 学部助手/2007年同大学助教,現在に至 る.2009〜2010年英国インペリアルカレッ ジロンドン客員研究員<研究テーマと抱 負>タンパク質の結晶構造解析をベースと した構造生物学<趣味>ドライブ Copyright © 2015 公益社団法人日本農芸化学会
図1■CEL-Ⅲ膜孔形成複合体の立体構造,
およびその推定膜孔形成メカニズム
(A)CEL-Ⅲの水溶性モノマー構造(左)お よびその細胞膜表面糖鎖への結合(右).
(B)ドメイン1および2への糖鎖の結合が引 き金となり,ドメイン3の移動が生じる.
(C)ドメイン3の移動により現れた表面を介 して互いに会合し,ドーナツ型の中間体7量 体 構 造(プ レ ポ ア 構 造) が 形 成 さ れ る.
(D)プレポア構造からαヘリックス→βシー トへの二次構造変換を伴うβバレルの形成に より,膜孔形成複合体構造が完成する.