ア プ リ ロ ニ ンA(ApA) は 強 力 な 抗 腫 瘍 活 性 を 示 す 海 洋 産 マ ク ロ リ ド で あ る.ApAは モ ノ マ ー のG-ア ク チ ン と1 : 1の 複 合 体 を 形 成 し,重 合 し たF-ア ク チ ン を 脱 重 合 さ せ る.し かしApAは細胞内のアクチン骨格に作用するよりも1,000倍 以上低い濃度で細胞毒性を示すことから,アクチン以外の第 二の標的分子の存在が予想されていた.われわれはApAの 分 子 プ ロ ー ブ を 合 成 し,標 的 分 子 の 同 定 と 相 互 作 用 解 析 を 行った.その結果,本化合物が2つの細胞骨格タンパク質,
アクチンとチューブリン間の相互作用を誘導することで微小 管ダイナミクスを阻害するという,ユニークな作用を示すこ とを見いだした.
はじめに
生体内においてタンパク質の多くは,自己会合やほか のタンパク質と相互作用することで機能を示す.このよ うなタンパク質間相互作用(protein‒protein interac- tion, PPI)を理解することは,タンパク質の動態や生体 内の情報伝達などの機能を解明するうえで重要である.
また特定のPPIを制御することで,その相互作用がかか
わる疾患を標的とする医薬品が開発できる.そのため PPIを制御する有機小分子化合物は,天然物および合成 化合物ライブラリから多数見いだされているが(1),その 大 半 はPPIを 阻 害 す る 化 合 物 で あ る.し か し 近 年,
FK506などのPPIを安定化する化合物も注目され,新た な作用機序を有する医薬品開発など,幅広い分野で研究 が進められている(2).自然界からは,多様な構造や,特 異な作用機序で働く天然物が多く発見されているが,そ の標的分子を探索することで,意外なPPI安定化作用が 見つかることがある.今回,われわれは作用機序が不明 であった抗腫瘍性物質アプリロニンAについて,分子 プローブへ誘導し,標的タンパク質の同定と相互作用解 析を行った.その結果,本化合物がアクチンとチューブ リンという2つの細胞骨格タンパク質のユニークなPPI を誘導することを見いだしたので,本稿にて紹介した い.
アプリロニンAとアクチン
アプリロニンA(Aplyronine A; ApA)は海洋軟体動 物アメフラシ から単離されたマクロリ
【解説】
The Mode of Action of Antitumor Marine Macrolide Aplyronine A Yuichiro HIRAYAMA, Masaki KITA, Hideo KIGOSHI, 筑波大学
海洋産抗腫瘍性物質
アプリロニンAの作用機序
平山裕一郎,北 将樹,木越英夫
ドであり,ヒト子宮頸がん細胞(HeLa S3)に対する強 力な細胞毒性(50%増殖阻害濃度IC50 0.01 nM)と顕著 な 抗 腫 瘍 活 性(P388白 血 病 モ デ ル マ ウ ス の 延 命 率 545%, 0.08 mg/kg/dayなど)を示す(3)(図1).ApAは アッセイにおいてDNAや微小管,細胞周期調節 酵素群などの既存の抗がん剤の標的には作用しないが,
細胞骨格タンパク質アクチンに作用する.アクチンは重 合して繊維状のF-アクチンとなり,アクチン骨格を構 成するが,ApAはその重合を阻害し,脱重合させる(4). 2006年にアクチンとApAの1 : 1複合体のX線結晶構造 が報告され,ApAはC24‒34位の側鎖部分でアクチンと 結合することが明らかとなった(5)(図2).また構造活性 相関研究と光親和性プローブを用いた実験より,ApA は側鎖部分(C24‒34)のみでアクチンと結合し,脱重 合させることがわかった(6).一方でApAの強い細胞毒 性には,アクチンとの相互作用に影響しないマクロラク トン環上の官能基が重要である.たとえば,7位トリメ チルセリン基をもたないアプリロニンC(ApC)は,ア クチン脱重合活性はApAとほぼ同等だが,細胞毒性は
ApAよりも1,000倍以上弱い.一般に,ApCを含めたア クチンに作用する化合物は,アクチン骨格の崩壊を引き 起こす濃度で,腫瘍細胞に対して増殖阻害を引き起こ す.しかしApAは,それよりも1,000倍以上低い濃度で 腫瘍細胞の増殖を抑制する(7).これらの知見より,ApA の強力な細胞毒性の発現は,アクチンに対する相互作用 のみでは説明できないと考えられた.さらに複合体の結 晶構造を見ると,ApAのトリメチルセリン基はアクチ ンとの結合には関与せず,溶媒領域に突き出すように位 置している.以上から,われわれはApAにはトリメチ ルセリン基と相互作用するアクチン以外の第二の標的分 子が存在すると推測した.
分子プローブの合成と生物活性
ApAの34位エナミド基は酸加水分解により,反応性 の高いアルデヒド基へと変換できる.このアルデヒド基 を利用して,ApAにビオチン基を導入したビオチンプ ロ ー ブ(ApA-bio) を 合 成 し た(8)(図3).ApA-bioは HeLa S3細胞に対する強い細胞毒性(IC50 0.098 nM), およびアクチン(3
μ
M)に対する脱重合活性(EC50 1.6μ
M)を示し,ApAの活性を良好に保持していた.また光反応基としてジアジリン基をもち,標的分子と共 有結合を形成できるApAの光親和性ビオチンプローブ
(ApA-PB)と,そのネガティブコントロールとして,
ApCをリガンドとするプローブ(ApC-PB)をそれぞれ 合成した(9).HeLa S3細胞に対する細胞毒性は,IC50値 で そ れ ぞ れApA-PB: 1.2 nM, ApC-PB: 310 nMで あ り,
多少の活性の低下は見られるものの,元の天然物の活性 の差を十分に反映していた.
図1■アプリロニン類の構造と生物活性
図2■ ア ク チ ン‒ApA複 合 体 のX線 結 晶 構 造(PDB code:
1WUA)
左:ApAはアクチンのSD1, 3間のクレフトに結合する.右:SD3, SD4側から見た側面図.点線丸で囲った部分はApAの細胞毒性に
重要なトリメチルセリン基. 図3■合成したアプリロニン類の分子プローブ
細胞抽出液からの標的タンパク質の精製と同定(8, 9) まず,ApA-bioをNeutrAvidin樹脂に固定し,HeLa S3細胞の抽出液と混合して,標的分子のプルダウン精 製を行った.樹脂に残ったタンパク質を煮沸により溶出 させ,電気泳動後に銀染色で検出した.その結果,
ApA-bioによりアクチン(43 kDa),および40, 47 kDa の2つの新たなタンパク質が精製された(図4(a)).40, 47 kDaのバンドをゲル内消化し,得られたペプチド断 片のMALDI-TOF-MS解析を行うことで,それぞれアク チン関連タンパク質Arp2, Arp3(actin related proteins 2, 3)と同定した.Arp2とArp3はともに内在性アクチ ン結合タンパク質の一つであるArp2/3複合体を構成す る.この複合体はF-アクチンに結合して伸長や架橋形 成を促進し,細胞骨格の維持や安定化に寄与する(10). したがってApAがArp2/3複合体の形成や機能を阻害 することで,より低濃度でアクチン骨格の破綻を促進し ていると考えられた.
次にArp2およびArp3に対し,ApAがどのように相 互作用しているかを,光親和性プローブを用いて解析し た.ApA-PBをHeLa S3細胞の抽出液に加えて光反応を 行った後,NeutrAvidin樹脂と混合し,プルダウン精製 を行った.樹脂上に残ったタンパク質を煮沸により溶出 し,電気泳動後に銀染色で検出した(図4(b)).その結
果,ApA-bioと 同 様 に ア ク チ ン(43 kDa) に 加 え て Arp2(40 kDa)とArp3(47 kDa)が検出された.つづ いてHRP標識streptavidinを用いたwestern blottingに より,プローブが共有結合したタンパク質を調べたとこ ろ,アクチンは検出されたが,Arp2とArp3は検出さ れなかった(図4(c)).さらにネガティブコントロール であるApC-PBを用いても,Arp2とArp3がプルダウン 精製された(図4(d)).以上の知見からArp2とArp3は ApA-PBと直接相互作用しておらず,ApAの強力な細 胞毒性に重要な,第二標的分子ではないと考えられた.
生細胞中での光標識化実験と第二標的分子の同定(7) 細胞抽出液からのApAの標的分子の精製をさらに試 みたが,アクチンやArp2, 3以外に新たな標的分子は得 られなかった.この原因として,目的の標的分子が不安 定であり,細胞からの抽出過程で失活していることが考 えられた.そこでApA-PBをHeLa S3細胞に投与して 光反応を行い,その後,標識化されたタンパク質を抽出 してプルダウン精製を行った.NeutrAvidin樹脂に残っ たタンパク質を煮沸により溶出し,HRP標識streptavi- dinを 用 い たWestern blottingで 検 出 し た(図5(a)). その結果,ApA-PBとApC-PBを用いた場合に共通して アクチン(43 kDa)の濃いバンドが検出され,さらに ApA-PBの場合のみ55および58 kDaにも薄いバンドが 検出された.さらに過剰のApAを加えると,ApA-PB によるアクチンと55, 58 kDaのタンパク質の光標識化は いずれも阻害された.これらの結果より55, 58 kDaのタ ンパク質はApAに特異的に結合すると考えられた.こ の2つのバンドをゲル内消化し,得られたペプチド断片 をMALDI-TOF-MSで解析した結果,55 kDaには
α
-およ図4■細胞抽出液からプルダウン精製したタンパク質の解析
(a)ApA-bioを用いて細胞抽出液から精製した標的分子を銀染色 で検出.200 kDaのmyosin IIはリガンドにApAをもたないモデ ルプローブを用いた場合にも検出されたことから,非特異的にプ ローブと相互作用したと考えられた.(b)ApA-PBを用いて細胞 抽出液から精製した標的分子を銀染色で検出.それぞれのバンド は(c)アクチン抗体もしくは(d)Arp2抗体およびArp3抗体を 用いたWestern blottingにより検出した.文献8, 9より許可を得 て転載.
図5■生細胞中で光標識化し,プルダウン精製したタンパク質 の解析
(a) HRP標識Streptavidin. (b)β-チューブリン抗体でそれぞれ検 出.
び
β
-チューブリンが,58 kDaにはβ
-チューブリンが主に 含まれていた.そこでβ
-チューブリン抗体を用いた Western blottingを行った(図5(b)).チューブリンは 細胞内で含量が多く,非特異的に樹脂に結合しやすいタ ンパク質であるため,すべてのレーンでβ
-チューブリン(55 kDa)が検出された.しかしApA-PBを用いたとき に55 kDaの
β
-チューブリンの量は最も多く,さらに 58 kDaに もApA-PBと 共 有 結 合 し た と 考 え ら れ るβ
- チューブリンが検出された.ApA-PBは光反応基を一つ しかもたないため,アクチンか標的分子のどちらか一方 しか標識化できない.しかし,共有結合していない標的 分子であっても安定な複合体を形成していればプルダウ ン精製される.よって,標識化されていないβ
-チューブ リンがアクチン‒ApA-PB複合体とともに精製された結 果,55 kDaのバンドが増加したと考えられた.これら の 知 見 よ り,ApAは 細 胞 内 で ア ク チ ン だ け で な く チューブリンとも結合していると示唆された.チューブリンとアクチン,ApAの相互作用
ApAがどのようにチューブリンと相互作用している か解析するために, での光標識実験を行った.
精製したチューブリンやアクチンにApA-PBを混合し て光反応を行った後,電気泳動で分離し,HRP標識 streptavidinを用いたWestern blottingを行った(図6
(a)).それぞれのタンパク質をApA-PBと反応させる と,アクチンは標識化されるが,チューブリンは検出さ れなかった.しかしアクチンとチューブリンが共存する と,両方のタンパク質が標識化され,チューブリンは細 胞内での反応と同様に2本のバンド(55, 58 kDa)とし て検出された.一方,ApC-PBではアクチンとチューブ リンの共存下でも,アクチンのみが標識化され,チュー ブリンは全く検出されなかった(図6(b)).この結果よ り,ApAはアクチンとの複合体としてチューブリンと
結合し,その相互作用にはApAのトリメチルセリン基 が重要な役割を果たしていると考えられた.
つづいてゲルろ過HPLC分析により,ApAとアクチ ンおよびチューブリンの複合体の解析を行った.アクチ ンとチューブリンはどちらも自己会合するため,それぞ れのモノマーを安定に取り扱うための条件設定が必要で ある.アクチンに用いられるGバッファーは,一般的な バッファー組成よりかなり塩濃度が低く,チューブリン を取り扱うには適さない.一方でチューブリンに用いら れるBRBバッファーは塩濃度が高く,またマグネシウ ムイオンを含むため,アクチンを重合させてしまう.し かし,アクチンはApAとの複合体の状態であれば,
BRBバッファー中でも重合せず,安定に取り扱うこと ができることがわかった.そこでチューブリンのゲルろ 過HPLC分析の報告(11) などを参考にして,条件を種々 検 討 し た.そ の 結 果,50 mM PIPES・K (pH 6.8), 100 mM KCl, 10 mM MgCl2というバッファーを用いるこ とで,チューブリン(溶出時間:16.3 min)とアクチン‒
ApA複合体(18.3 min)をそれぞれ明確なピークとして 検出することができた(図7(a)).溶出時間から見積 もった分子量は,それぞれ
α
,β
-チューブリンのヘテロダ イマー(100 kDa),アクチン‒ApA複合体(44 kDa)に ほぼ一致した.次いでApA, アクチン,チューブリンを 混合して分析を行った.その結果,アクチン‒ApA複合 体やチューブリンヘテロダイマーよりも早い溶出時間の ピーク(15.5 min)が検出された.電気泳動で解析した ところ,このピークにはアクチンとチューブリンの両方 が含まれており,分子量はおよそ150 kDaと見積もられ たため,アクチン(43 kDa)とApA(1 kDa),チュー図6■(a)ApA-PBによる精製アクチンとチューブリンの標識 化,(b)各プローブによる精製アクチンとチューブリンの標識 化
HRP標識Streptavidinを用いたWestern blottingにより,プロー ブと結合したタンパク質を検出した.文献7より許可を得て転載.
図7■ゲルろ過HPLC分析
条 件:TSKgel superSW3000 (ϕ4.6×300 mm), Flow rate, 0.2 mL/
min, Temp. 8 C. 文献7より許可を得て転載.
ブリンヘテロダイマー(100 kDa)が1 : 1 : 1で結合した 三元複合体と考えられた.さらにスキャッチャードプ ロットの解析より,アクチン‒ApA複合体とチューブリ ンヘテロダイマーの結合比は1 : 1で,結合定数 aは3.0
×106 M−1と算出された.なお,ApCを用いた場合,ア クチン‒ApC複合体とチューブリンヘテロダイマーは 別々のピークとして検出され,三元複合体のピークは全 く検出されなかった(図7(b)).
チューブリン重合に対するアクチン‒ApA複合体の 影響
チューブリンは
α
-チューブリンとβ
-チューブリンから なるヘテロダイマーが重合し,細胞骨格の一つである微 小管を形成する.多くのチューブリン作用薬は微小管を 安定化もしくはチューブリンの重合を阻害することで微 小管ダイナミクスに影響する.そこで次に での チューブリンの重合に対するApAとアクチンの影響を 調べた(図8).チューブリンは37 C, 20%グリセロール の添加により速やかに重合する.そこにApA, アクチン をそれぞれ単独で加えても重合にほとんど影響しなかっ たが,両者を1 : 1で加えると濃度依存的にチューブリン の重合を阻害した.またタキソールによりあらかじめ重 合安定化させた微小管に対しても,ApAとアクチンは 相乗的に脱重合を引き起こした.なおApCはアクチン 存在下であってもチューブリンの重合に影響しなかっ た.これらの結果は での標識化実験やゲルろ過 HPLC分析の結果とよく一致しており,ApAとApCの 活性の差は,三元複合体形成による微小管への作用の違 いによることが示唆された.細胞内でのApAの作用
微小管は紡錘体を形成し,真核細胞の有糸分裂におい て重要な働きをする.チューブリン作用薬は微小管ダイ ナミクスに作用することで,分裂期における正常な紡錘 体形成を阻害する.その結果,細胞周期はG2/M期で停 止し,最終的にアポトーシスが誘導される.そこで免疫 蛍光染色によりApAで処理したHeLa S3細胞の間期と 分 裂 期 に お け る 細 胞 骨 格 の 観 察 を 行 っ た.ApAは 0.1 nMでは間期のアクチン骨格や微小管構造に影響しな いが,分裂期において紡錘体の多極化を引き起こした.
これはチューブリン作用薬として知られるビンブラスチ ンと同等の活性であった.つづいて,細胞周期への影響 を調べたところ,ApAは0.1 nMから濃度依存的に細胞 周期をG2/M期で停止させた.さらに1 nMのApAの処 理でアポトーシス関連酵素であるカスパーゼ3の活性化 と,DNAのラダー化が見られた(12).以上より,ApAは アクチン骨格に影響しない低濃度で微小管ダイナミクス に作用し,有糸分裂を阻害することで,がん細胞のアポ トーシスを誘導し,強力な細胞増殖阻害活性を示すと考 えられた.
対してApCは,100 nMまで濃度を上げると間期のア クチン骨格が崩壊し,細胞周期がG2/M期で停止した が,紡錘体形成に影響は見られなかった.すなわち ApCはアクチン骨格への影響から細胞毒性を示してお り,トリメチルセリン基の有無によってアプリロニン類 の作用は明確に異なることがわかった.このように本研 究では,ApCという,アクチンには作用するがチュー ブリンには作用しないネガティブコントロールが存在し たことで,標的分子の同定や相互作用解析を効率良く行 うことができた.
推測されるApAの作用機序
これまでの知見を基にApAの作用機序について考察 する.ApAの細胞増殖阻害濃度は非常に低い(IC50 0.01 nM: HeLa S3).この濃度では,ApAは細胞内に取 り込まれた後,細胞質に高濃度(モノマー濃度で約 100
μ
M)に存在するアクチンと1 : 1で複合体を形成する が,アクチン骨格には影響しない.次いでアクチン‒ApA複合体はApAのトリメチルセリン基を介して,微 小管から遊離しているチューブリンヘテロダイマーと 1 : 1で結合し,アクチン‒ApA‒チューブリンの三元複合 体を形成すると考えられる.この三元複合体形成によ り,ApAは微小管ダイナミクスに作用し,紡錘体の形 図8■チューブリン重合活性試験
チューブリンヘテロダイマー(20 μM), Temp. 37 C, 20% glycerol 添加,蛍光法にて重合度を検出.文献7より許可を得て転載.
成異常から腫瘍細胞をアポトーシスへと誘導していると 考えられる.しかし細胞内においてチューブリンもアク チン同様に高濃度(モノマー濃度で約20
μ
M)に存在し ており,細胞内に取り込まれたApAが形成する三元複 合体は,微小管に含まれるタンパク質の量に対してごく わずかでしかない.そのため微小管ダイナミクスを ApAの三元複合体が阻害するためには,チューブリン の重合に対して能動的に作用するメカニズムが存在する と考えられる.たとえば微小管作用薬であるコルヒチン は,チューブリンのヘテロダイマーと結合しその構造を 歪ませるが,この歪んだヘテロダイマーが微小管に取り 込まれ,(+)端構造を不安定化することで重合ダイナ ミクスを阻害する(13).よって同様にApAも三元複合体 を形成後に微小管に取り込まれ,(+)端のキャッピン グや構造変化に伴う不安定化などを誘導することで,微 小管ダイナミクスを阻害すると推測される(図9).今 後,ApAの三元複合体の構造や結合様式,微小管にお ける局在や機能を明らかにすることで,ApAの抗腫瘍 活性メカニズムの全容解明を目指したい.おわりに
本研究でわれわれは,強力な抗腫瘍活性を有する ApAがアクチンとチューブリン間のPPIを誘導するこ とを明らかにした.細胞骨格タンパク質であるアクチン やチューブリンに作用する化合物は数多く報告されてい るが,2つの細胞骨格タンパク質に同時に結合する化合 物はApAが初めての例である.ApAのように2つのタ ンパク質間のPPIを誘導する化合物としては,FK506や ラ パ マ イ シ ン が 知 ら れ て い る.FK506はFKBP12
(12 kDa FK506 binding protein)に結合し,さらにカル シニューリンに結合することで三元複合体を形成し,強 い免疫抑制活性を示す(14).またラパマイシンはFK506 とよく似た部分構造をもち,FK506と同様にFKBP12
に結合する.しかしラパマイシン‒FKBP12複合体はカ ルシニューリンではなくmTOR(mammalian target of rapamycin)に結合して抗腫瘍活性などを発現する(15). すなわちFK506とラパマイシンは,細胞内に普遍的に 存在するFKBP12を足場として,それぞれ異なるPPIを 誘導している.FKBP12同様に,アクチンも真核細胞内 で特に含量の多いタンパク質である.またApAと類似 の側鎖構造をもち,同様の結合様式でアクチンに結合す る天然物が数多く報告されている.したがって,これら のアクチン作用化合物が,アクチンを足がかりに,
チューブリン以外の標的タンパク質とのPPIを制御して いるかもしれない(図10).
細胞骨格を標的とする分子に限らず,強力で切れ味の 鋭い生物活性を示す天然物や合成リガンドは,興味深い PPIを誘導もしくは阻害している可能性がある.そのよ うなPPI制御化合物は,単一のタンパク質に対するアッ セイや相互作用解析では活性が見いだされなかったり,
活性の本質が理解できない場合がある.したがって本研 究のように,化合物をリガンドとして標的分子を同定 し,相互作用を分子レベルで解析することが作用機序の 理解には有効な手段と考えられる.天然物など生物活性 物質を主体とする研究をさらに進めることで,新規な PPI制御メカニズムの発見や機能性リガンドの創出につ ながることを期待したい.
謝辞:本研究の一部は,日本学術振興会科学研究費補助金,および文部 科学省新学術領域研究 天然物ケミカルバイオロジー:分子標的と活性 制御 の援助を受けて実施しました.また,本研究は上杉志成教授(京 都大学iCeMS),臼井健郎准教授(筑波大学生命環境系),末永聖武准教 授・大野修助教(慶應義塾大学理工学部)をはじめとする多くの方々と の共同研究による成果であり,これらの方々に感謝いたします.
図9■微小管ダイナミクスに対するApAの予想される作用機序
図10■アクチンを足がかりとするPPI作用メカニズム
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プロフィル
平山 裕一郎(Yuichiro HIRAYAMA)
<略歴>2014年筑波大学大学院数理物質 科学研究科博士後期課程修了/同年JSPS 特別研究員(PD)/2015年静岡県立大学大 学院薬学研究科博士研究員,現在に至る
<研究テーマと抱負>生物活性天然物の生 合成・構造解析・ケミカルバイオロジー<
趣味>スキンダイビング
北 将 樹(Masaki KITA)
<略歴>1998年名古屋大学理学部化学科 中退/2001年同大学大学院理学研究科博 士課程中退/同年同大学大学院理学研究科 助手/2007年筑波大学大学院数理物質科 学研究科講師/2011年同大学数理物質系 准教授,現在に至る<研究テーマと抱負>
生物活性鍵物質の構造と機能解明・ケミカ ルバイオロジー<趣味>山登り
木越 英夫(Hideo KIGOSHI)
<略歴>1981年名古屋大学理学部化学科 卒業/1984年同大学大学院理学研究科中 退/同年同大学理学部助手/1994年同助 教授/1996年同大学大学院理学研究科助 教授/2000年筑波大学化学系教授/2011 年同大学数理物質系教授,現在に至る.こ の間,1990〜91年米国ハーバード大学博 士研究員(E. J. Corey研究室)<研究テー マと抱負>生物活性天然有機化合物の単 離,構造,合成と活性発現の分子機構<趣 味>プロ野球観戦
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