306 化学と生物 Vol. 55, No. 5, 2017
ジアゾ基を含む天然物の生合成に関与する新規亜硝酸生合成経路の発見
二次代謝産物生合成に特異的な亜硝酸生合成経路
放線菌の生産する天然物(二次代謝産物)は1944年 にWaksmanがストレプトマイシンを発見して以来,重 要な医薬品資源と位置づけられてきた.抗菌活性,抗が ん活性,免疫抑制活性などさまざまな生理活性をもつも のが存在し,それは放線菌が多様な構造をもつ化合物を 生産できることに由来する.興味深いことに,一部の放 線菌はジアゾ基をもつ天然物を生産することができる(1)
.
ジアゾ基のように反応性の高い置換基をもつ化合物を生 物が生産することは驚きに値する.これらの化合物の多 くは抗菌活性をもち,その活性にはジアゾ基の脱離によ り生じる活性分子種が重要であると提唱されている.ジ アゾ基の生合成機構や役割は未知の部分が多い.ジアゾ基の生合成研究において,安定同位体取込み実 験が2つ報告されていた.Gouldらはkinamycinの生合 成中間体と推定されるstealthin Cを合成し,これが kinamycinへと変換されることを示した(2)(図
1
).一
方,Winterら はazameroneが ジ ア ゾ 基 を も つ 化 合 物 A80915Dに由来すること,そのジアゾ基の遠位の窒素 原子(炭素と直接結合していない窒素原子)が硝酸また は亜硝酸由来である可能性を示唆した(3)(図1).
ジアゾ基の遠位の窒素原子の由来は,最近行われた菅
井らの研究により明白になった.菅井らはジアゾ基をも つ天然物の中でも特に構造が単純なcremeomycin(4)に着 目し,その生合成研究に取り組んだ(5)
.まず,cremeo-
mycin生合成遺伝子クラスター( クラスター)が生産菌である よりクローニングされ
た.さらに を利用した異種発現系を
用いて,クラスター中に存在する遺伝子の機能解析が行 われた.これにより3-amino-2-hydroxy-4-methoxyben- zoic acid(3,2,4-AHMBA)がcremeomycin生合成の主 要な中間体であること,2つの酵素(CreE, CreD)が cremeomycinのジアゾ基の生合成に必須であることが 明らかとなった(図1)
.次にCreE, CreDの詳細な機能
解析が行われた.大腸菌を用いて生産された組換え酵素 の 解析により,CreEはNADPHを補酵素とし,アスパラギン酸のアミノ基を酸化することでニトロコハ ク酸を合成することが示された(5)
.また,CreDはニト
ロコハク酸から亜硝酸の脱離を触媒し,フマル酸と亜硝 酸を生産する酵素であることが示された.この亜硝酸が cremeomycinのジアゾ基形成に必須であったわけであ る.以上の結果から,CreDとCreEによりアスパラギン 酸の窒素から生産される亜硝酸がジアゾ基の遠位の窒素図1■菅井らにより発見された亜硝酸生合成経路とそれを利用したcremeomycin, kinamycin, azameroneの生合成経路
日本農芸化学会
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原子の源であることが明らかとなった.3,2,4-AHMBAと 亜硝酸からcremeomycinを合成する反応を触媒する酵 素は,その存在も含めてまだ明らかになっていないが,
今後の研究により明らかにされるものと期待される.
CreDとCreEのホモログは 属のみなら
ず , , , な
どのさまざまな属の放線菌のゲノム中に並んでコードさ れている(5)
.このことから,CreE, CreDによる亜硝酸
生合成経路はさまざまな放線菌において二次代謝産物の 生産に用いられていると考えられる(5).なお,kinamy-
cin生合成遺伝子クラスター(6)やazamerone類縁体の生 合成遺伝子クラスターもCreE, CreDホモログ遺伝子を 含んでおり,ジアゾ基の生合成にこの亜硝酸生合成経路 が幅広く用いられていることが示唆される.一方,Huangらが近年行った研究により,この亜硝酸生合成 経路はジアゾ基以外の窒素‒窒素結合をもつ化合物の生 合成にも関与することが示唆された.Huangらはfos- fazinomycinの生合成遺伝子クラスターにコードされ る,CreE, CreDホモログ(FzmM, FzmL)の機能解析 を行い,これらが亜硝酸の生合成を担うことを示した(6)
(図
2
).さらにこの亜硝酸がfosfazinomycinのもつ窒素‒
窒素結合の生合成に重要であると推測している.
CreD, CreEによる亜硝酸生合成経路は,硝化や脱窒 など窒素循環の微生物の一次代謝の亜硝酸生成経路とは 根本的に異なっており,放線菌が二次代謝産物の生産を 行うために独自に進化させた経路であると考えられる.
亜硝酸は有機合成化学では頻繁に用いられるが,微生物 が二次代謝産物の生合成にために亜硝酸を生成してこれ を利用しているという知見は皆無であった.今後,この
経路を利用する二次代謝産物の生合成経路を解析するこ とで,亜硝酸を利用した微生物の物質生産の新たなメカ ニズムが明らかになるだろう.
1) C. C. Nawrat & C. J. Moody: , 28, 1426 (2011).
2) S. J. Gould, C. R. Meville & M. C. Cone: , 51, 50 (1998).
3) J. M. Winter, A. L. Jansma, T. M. Handel & B. S. Moore:
, 48, 767 (2009).
4) J. N. McGuire, S. R. Wilson & K. L. Rinehart: , 48, 516 (1995).
5) Y. Sugai, Y. Katsuyama & Y. Ohnishi: , 12, 73 (2016).
6) Z. Huang, K.-K. A. Wang, J. Lee & W. A. van der Donk:
(Camb.), 7, 5219 (2016).
(勝山陽平,大西康夫,東京大学大学院農学生命科学研 究科)
プロフィール
勝山 陽平(Yohei KATSUYAMA)
<略歴>2005年東京大学農学部応用生命 科学課程生命工学専修卒業/2010年同大 学大学院農学生命科学研究科応用生命工学 専 攻 博 士 課 程 修 了/ 同 年Humboldt Re- search Fellow, Institute for Pharmaceuti- cal Biotechnology, Saarland University/
2012年4月同大学大学院農学生命科学研究 科講師/2017年4月同大学大学院農学生命 科学研究科准教授,現在に至る<研究テー マと抱負>放線菌の二次代謝産物生合成機 構の解明<趣味>音楽,ギター,スキー 大西 康夫(Yasuo OHNISHI)
<略歴>1991年東京大学農学部農芸化学 科卒業/1996年同大学大学院農学生命科 学研究科応用生命工学専攻博士課程修了/
日本学術振興会特別研究員/1997年同大 学大学院農学生命科学研究科助手/2002 年同助教授/2007年同准教授/2010年同 教授,現在に至る<研究テーマと抱負>放 線菌の二次代謝・形態分化の制御機構,二 次代謝産物の生合成機構<趣味>スポーツ 観戦
Copyright © 2017 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.306 図2■予想されるfosfazinomycinの生合成経路
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