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食物アレルギーの新展開 - J-Stage

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化学と生物 Vol. 54, No. 6, 2016

食物アレルギーの新展開

コンポーネント解析から二重暴露仮説へ

食物アレルギーの診断は,特定の食物摂取時に症状が 誘発されることと,それが特異的IgEなどの免疫学的機 序を介する可能性の確認によってなされている(1)

.特異

的IgEが結合する食物中のそれぞれのタンパク質をアレ ルゲンコンポーネントといい,同定されたアレルゲンコ ンポーネントは国際分類に基づいて命名されている(2)

同じ鶏卵アレルギーであっても,ゆで卵ならば食べられ る人とどのような調理方法でも食べられない人がいる が,その理由をアレルゲンコンポーネントで考えると明 快である.前者は卵白タンパク質の中でも加熱変性しや すいオボアルブミンが,後者は加熱変性しにくいオボム コイドがアレルゲンとなっていることが多いのだ.この ように,アレルゲンを原因タンパク質レベルで解析,診 断するComponent-resolved diagnostics(CRD)が重要 視されるようになってきた(3)

.CRDの概念が浸透する

までは,「患者は成分ごとに食べるわけではなく卵を食 べて発症するのだから,成分ごとに解析する必要はな い」というのが臨床の立場であったが,現在ではコン ポーネントに応じた「必要最小限の除去」が可能にな り,患者の生活の質の向上に貢献している.

もとよりアレルゲンとなるタンパク質はその生物が生 きていくために重要な働きをしており,特に植物では種 を超えて高い相同性で保存されているためにIgE抗体が 交差反応しやすい.そのため一度アレルギーを発症する と,多くの食べ物で症状が誘発されるという特徴をも つ.特に感染特異的タンパク質(pathogenesis-related  protein)にはPR-5: thaumatin-like protein, PR-10: Bet v  1類似タンパク質,PR-14: lipid transfer protein(LTP)

などの代表的なアレルゲンがある.

近年増加傾向にある果物アレルギーも,コンポーネン ト解析から病態・対応の違いを説明することができる.

特定の果物を食べたとき,口腔粘膜に局限して症状が現 れる口腔アレルギー症候群は,花粉により経粘膜・経気 道的に感作されていることが多い.変性しやすいタンパ ク質が原因であることが多く,果物の生食で症状が誘発 されても,加熱すれば食べられることがほとんどであ る.一方,果物摂取により全身症状を引き起こす場合も あり,この場合のアレルゲンとしてLTPがよく知られ

ている.LTPは9 kDaと低分子サイズながら4対のS‒S 結合をもち,pHや熱の変化に強いため消化されにくく,

発酵食品においても残存している(4)

.さまざまな植物性

食品で重篤な全身症状を引き起こすため,LTP症候群 といわれるほど注目されてきた.われわれはLTPに対 するモノクローナル抗体を確立する過程で,偶然不純物 であるGibberellin Regulated Protein(GRP)に対する 抗体を取得し,実はこれまでLTPと考えられてきた日 本人の重症桃アレルギーの主要アレルゲンがGRPであ ることを明らかにした(5)

.GRPはLTPと同様に低分子サ

イズ(約7 kDa)の塩基性タンパク質であるため,通常 の精製方法では両者を完全分離することは極めて難しい が,われわれは抗GRPモノクローナル抗体カラムを用い ることにより,迅速・簡便に純化することを可能にし た.さらに,LTP, GRPそれぞれに対するモノクローナ ル抗体で特異的定量系を構築したところ,LTPは皮に,

GRPは果肉に局在していた.LTPは桃を皮ごと食べる 地中海地方の重篤な桃アレルギーの原因であるが,皮を 除くと食べられることが多い.一方,日本人の多くは桃 を食べるときには皮をむくためLTPによる感作はほとん どなく,GRPが重要なアレルゲンになると考えられる.

アレルゲンタンパク質の一次構造や高次構造のみなら ず,量・局在・ほかの成分との反応性・調理法・食習慣 などとの関連を広範に明らかにしていくことが,有効な CRDにつながっていき,患者や家族の安全・安心で豊 かな食生活に貢献できるものと思われる.また,コン ポーネント解析は,基礎(アレルギー発症のメカニズム の解明)から応用(リコンビナント抗原の調製や花粉症 緩和米のような遺伝子導入作物の開発)にもつながり,

農芸化学分野の研究者の活躍が広く大きく期待される発 展的領域である.

実は近年,一見無関係なアレルゲンをコンポーネント 解析することで真のアレルゲンを突き止めた結果,経皮 的に感作されて食物アレルギーになったと思われる症例 が相次いで報告されている.以下にその奇妙なアレル ギーとコンポーネントを紹介する(6, 7)

①小麦加水分解物を保湿成分として含んだ洗顔石鹸(旧 茶のしずく)の使用により感作され,小麦アレル

日本農芸化学会

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ギーを発症.

②カイガラムシから調製した赤色色素であるコチニール を含む口紅などからその不純物であるホスホリパー ゼ(ハチ毒)に感作され,着色料としてコチニール を添加された食品の摂取によりアレルギーを発症.

③クラゲに刺されたサーファーが納豆アレルギーを発 症.共通抗原はクラゲ触手の分泌液と納豆のねばね ばに含まれるポリガンマグルタミン酸.

④マダニ咬傷により牛肉,セツキシマブ(抗がん剤とし て用いられるヒト/マウスキメラ型モノクローナル 抗 体) に 対 し て ア レ ル ギ ー を 発 症.共 通 抗 原 は

α

-galactose糖鎖.ちなみに

α

-galactoseは血液型B型 の決定抗原であるため,AB/B型には患者が少ない.

これまで花粉症が関連する果物アレルギーを除いて,

食物アレルギーは経腸管的に感作されると考えられてき たが,こうしてみるとアトピー性皮膚炎も含めて皮膚感 作関連抗原が多い.この点に関しては,従来食物アレル ギーがアレルギーマーチの初発段階と考えられてきた が,近年「バリアが破壊された皮膚を通してアレルゲン への感作が起こり,食物アレルギーが進行する.一方,

経口摂取された食物抗原は免疫寛容・耐性を誘導する」

という『二重アレルゲン暴露仮説』が受け入れられるよ うになってきている(8)(図

1

.すなわち「食物抗原は正

常な腸管免疫系を経た場合には,IgA産生による排除や 寛容誘導により,アレルギー抑制的に働くが,この系が 破綻していたり未熟であったり,あるいは皮膚などの不 正な経路から抗原が進入してくるとアレルギー感作に至

る」という考え方である.実際に最近では,アトピー性 皮膚炎に対しては不必要な食物除去の指導を避け,まず ステロイドにより皮疹を改善して皮膚バリア機能を良好 に保つような指導がなされるようになってきている.こ の仮説はいかに食べるか(寛容)食べないか(除去)と 合わせて,今後のアレルギー治療・予防の方向を大きく 変えるものとして注目されている.

  1)  日本小児アレルギー学会:食物アレルギー診療ガイドラ イン2012.

  2)  WHO/IUIS Allergen Nomenclature Sub-committee: AL- LERGEN  NOMENCLATURE,  http://www.allergen.org/

index.php

  3)  宇理須厚雄:臨床免疫・アレルギー,62, 390 (2014).

  4)  村上(山口)友貴絵,成田宏史:食品工業,53, 14 (2010).

  5)  N. Inomata, F. Okazaki, T. Moriyama, Y. Nomura, Y. Ya- maguchi, T. Honjoh, Y. Kawamura, H. Narita & M. Aiha-

ra:  , 112, 175 (2014).

  6)  森田栄伸:医学のあゆみ,252, 951 (2015).

  7)  松永佳世子,矢上晶子:臨床免疫・アレルギー科,64,  45  (2015).

  8)  G. Lack:  , 121, 1331 (2008).

(岡﨑史子

*

1

,成田宏史 *

2

, *

1 龍谷大学農学部食品栄養 学科,

*

2 京都女子大学家政学部食物栄養学科)

プロフィール

岡﨑 史子(Fumiko OKAZAKI)

<略歴>2009年京都女子大学家政学部食 物栄養学科卒業/2014年同大学大学院家 政学研究科生活環境学専攻博士後期課程修 了/2015年龍谷大学農学部食品栄養学科 講師,現在に至る<研究テーマと抱負>食 物アレルギーの基礎的な研究を,安全・安 心で豊かな食卓につなげられるような研究 がしたい<趣味>寝ること,食べること

(運動も…)

成田 宏史(Hiroshi NARITA)

<略歴>1980年京都大学大学院農学研究 科博士課程単位取得退学(農博)/1982年 京都大学食糧科学研究所助手(1986年米 国スタンフォード大学生物科学部に留 学)/1987年京都女子大学家政学部助教 授/1997同教授,現在に至る<研究テー マと抱負>食物アレルギーの軽減,教科書 に残る研究をしたい<趣味>無為徒食

Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.377 図1二重アレルゲン暴露仮説

文献8を改変.

日本農芸化学会

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