注意 2. 6.9 ( 教師のつぶやき ) この手の極値問題は「話が分かりやすい」ので、期末試験でも 定番の問題なのだが、微分法自体の理解よりも、(停留点を求めるための) 連立方程式を解く
2.7 陰関数定理と逆関数定理
陰関数定理と逆関数定理は兄弟のような定理である。定理の主張を見るだけでは分かりづら いので、少し長めのイントロを用意した。
2.7.1 逆関数に関するイントロ
要点は少なくて以下のように簡単にまとめられる(特に最後の一つだけが本質的に新しい)。
• 写像 f:A→B が全単射であるとき、逆写像(逆関数) f−1:B→A が存在する。
• 逆関数の存在、非存在を考えるときは、定義域、終域が大事である。両方とも適当に狭める ことで逆関数が存在するようになることが多い。
• 線形写像 f:Rn∋x7→ Ax∈Rn については、f の逆写像 f−1 が存在するための必要十分 条件はdetA̸= 0.
• 逆関数の導関数については、簡単な公式がある: 対応する点における元の関数の微分係数の 逆行列である。つまり(f−1)′(y) = (f′(x))−1 (ただし y=f(x)).
• より一般の C1級関数f:Rn⊃Ω→ Rn についても、detf′(a)̸= 0ならば、a の近傍でf の逆関数が存在する。— これがこの節で学ぶ重要な「逆関数定理」である。
1変数関数の逆関数については既に実例を多く知っている。まずその復習から始めよう。
指数関数 exp と対数関数 log 指数関数
f˜: R∋x7−→expx=ex ∈R は単射(1対1の写像)である。すなわち
x1 ̸=x2 =⇒f(x1)̸=f(x2).
(このことは f が狭義の単調増加関数であることから明らか。)f の値域 f(R) は正の実数全 体の集合 (0,∞)であるから、終域を R から (0,∞) に入れ替えた関数
f:R∋x7−→expx=ex ∈(0,∞) は単射であるのみならず全射 (上への写像)である。すなわち
∀y∈(0,∞) ∃x∈R s.t. f(x) =y が成り立つ。よって f は逆関数 g を持つ。つまり
g: (0,∞)−→R で
f ◦g =id(0,∞), g◦f =idR
を満たす27。g(y) のことを logy と記すのであった。逆関数の微分法より d
dylogy= dx dy = 1
dy dx
= 1 ex = 1
y.
27集合 A に対して、idA は idA(x) = x (∀x ∈ A) で定められる写像 idA:A → A で、 A 上の恒等写像 (identity mapping)と呼ばれる。
ルート √ 関数
f˜: R∋x7−→x2 ∈R
は単射でも全射でもない。しかし定義域を [0,∞) に制限して、終域も[0,∞) と替えた f: [0,∞)∋x7−→x2 ∈[0,∞)
は全単射である。よって f は逆関数 g を持つ。つまり g: [0,∞)−→[0,∞) で
f◦g =id[0,∞), g◦f =id[0,∞) を満たす。g(y)のことを √
y と記すのであった。
d dy
√y = dx dy = 1
dy dx
= 1
2x = 1 2√
y (ただし y̸= 0).
逆三角関数
f1: [−π
2,π 2
]∋x7−→sinx∈[−1,1], f2: [0, π]∋x7−→cosx∈[−1,1], f3:
(−π 2,π
2
)∋x7−→tanx∈R
はいずれも全単射であるから、逆関数が存在する。それぞれ g1,g2, g3 とすると g1: [−1,1]−→[
−π 2,π
2 ]
, g2: [−1,1]−→[0, π], g3: R−→(
−π 2,π
2 )
となる。g1(y). g2(y),g3(y) は、それぞれSin−1y, Cos−1y, Tan−1y と書かれる28。 d
dy Sin−1y= dx dy = 1
dy dx
= 1
cosx = 1
√1−sin2x
= 1
√1−y2 (ただし y̸= 1), d
dy Cos−1y= dx dy = 1
dy dx
= 1
−sinx =− 1
√1−cos2x =− 1
√1−y2 (ただしy ̸= 1), d
dyTan−1y= dx dy = 1
dy dx
= 1
1 cos2x
= 1
1 + tan2x = 1 1 +y2.
以上は既に知っているはずのことである。以下二つ新しいことを紹介する。
28逆三角関数の主値を表すために、先頭の文字を大文字にする、という流儀がある。アークサインの場合、Sin−1
一般の 1 変数実数値関数 一般の f˜: R ⊃Ω →R, a ∈ Ω についてf˜′(a)̸= 0 ならば a の十 分近くでは逆関数が存在する。実際 f˜′(a)>0またはf˜′(a)<0であり、f˜′ は連続であるから
∃ε >0 s.t. ˜f′ >0 in [a−ε, a+ε] またはf˜′ <0 in [a−ε, a+ε]. 例えばf˜′ >0としよう。す ると f˜は [a−ε, a+ε] で狭義の単調増加関数だから、明らかに単射であり、f˜による開区間 (a−ε, a+ε) の像は ( ˜f(a−ε),f˜(a+ε)) で、制限写像
f: (a−ε, a+ε)∋x7−→f˜(x)∈( ˜f(a−ε),f(a˜ +ε)) は全射である (中間値の定理による)。ゆえに逆関数
g: ( ˜f(a−ε),f(a˜ +ε))→(a−ε, a+ε) が存在する (逆関数の連続性など、詳しくは H.2節)。
一般の n 変数 n 次元ベクトル値関数 一般のf˜: Rn⊃Ω→Rn, a∈Ω についても同様であ る。すなわち、
f˜′(a)の逆行列 f˜′(a)−1 が存在(⇔ det ˜f′(a)̸= 0) ならば、a を含む十分小さな開集合 U が存在して、
f: U ∋x7→f(x)˜ ∈f˜(U)
は全単射になり、その逆関数が存在する。これが後で詳述する逆関数定理である(証明は少し 難しい)。
2.7.2 陰関数についてのイントロ
まずは1 次元の例から始めよう。F:R2 →R を F(x, y) :=x2+y2−1 で定義する。(a, b)∈R2 を
F(a, b) = 0, (a, b)̸= (±1,0)
を満たす点とする。F の零点集合NF :={(x, y);F(x, y) = 0} は、もちろん原点を中心とする 半径 1の円周であり、(a, b) はこの円周上の点である。このときa を含む開区間 U と b を含 む開区間 V とで
(2.20) ∀x∈U ∃!y∈V s.t. F(x, y) = 0
を満たすものが存在する29。x∈U に対応する y を φ(x) と書くと、φ: U →V であって、
∀x∈U F(x, φ(x)) = 0
が成り立つ。こういうφ を方程式 F = 0 から定まる陰関数 (implicit function)と呼ぶ。(陰 (implicit) ↔よう陽 (explicit),y がy=φ(x) とあらわ陽 になっていなくて、隠されていた、という意味 で陰関数).
いくつか注意しておこう。
29∃! は一意的に存在することを表す記号である。
(1) 最初からy=φ(x)と普通の関数(陽関数)となっているものは、取り扱いに便利なことが 多いが、中には
F(x, y) = 0
の形にしておいた方が望ましく、好まれることもある。そういう場合に、いざというとき はy =φ(x)と y について解けることが保証されると、とても助かる。そのための定理が 陰関数定理である。
(2) この例ではもちろん {
b >0 =⇒ φ(x) =φ1(x) :=√ 1−x2 b <0 =⇒ φ(x) =φ2(x) :=−√
1−x2 である。F(x, φ(x)) = 0 を満たす φ としては他に
φ3(x) :=
{ √
1−x2 (x∈Q∩(−1,1))
−√
1−x2 (x∈(−1,1)\Q)
なんてのもあるが、これは微分可能でも連続でもないし、面白くもない (役に立たない)。 連続性を仮定すると実質的に φ1, φ2 の二つに限られる。
(3) a= ±1 のときは、このような性質を満たす φ はない。例えば a = 1 の場合、b = 0 で、
1を含む開区間 U と 0 を含む開区間 V をどのようにとっても、(2.20) は成り立たない。
これは少し分かりにくいが、よく考えて納得するように30。陰関数定理では、こういう点 を除外するための条件がつくわけだが、それは
det∂F
∂y(a, b)̸= 0 (解こうとしている変数 y に関する微分が0 でない) というものである。確かに ∂F
∂y(1,0) = 2·0 = 0 となっている。
(4) F(x, y) = 0 が簡単な式変形では解けないような場合も多い。例えば
F(x, y) :=y+ siny+x2−ex+ 1 = 0.
陰関数定理はこういう場合にも適用できる。それは陰関数 φ についての、抽象的な存在 定理であって31、φ の具体的な表現などは与えていないが、その代わり広い範囲の F に 適用が出来る。
(5) ところでφ は C1級である(実は陰関数定理が成り立つときはφ は常にC1級である)。す ると
F(x, φ(x)) = 0
30x >1ならばF(x, y) = 0を満たすyは存在しない。x <1であっても、xが十分1に近いとき、F(x, y) = 0 を満たすy は2個存在する。
31大学2年生の段階で、他に抽象的な存在定理というと、中間値の定理、平均値の定理(剰余項バージョンの
Taylorの定理)、コンパクト集合上の実数値連続関数の最大値・最小値の存在、などがある。この機会に復習し
が成り立つことから、
∂F
∂x(x, φ(x)) + ∂F
∂y(x, φ(x))φ′(x) = 0, よって
φ′(x) =−
∂F
∂x(x, φ(x))
∂F
∂y(x, φ(x)) .
つまり陰関数定理は φ の表現については何も言及しないけれども、その導関数について は合成関数の微分法から導かれる簡単な公式がある。上の例では
x2+y2−1 = 0 の両辺をx で微分して
2x+ 2ydy dx = 0, これから
dy
dx =−x y
というもので、これは高校数学で習った人もいるであろう。
多次元の場合の例 上の例では x, yが 1 次元の量であったが、多次元の場合はどうであろう か。簡単な(線形の)例で考えてみよう。例えば
A ∈M(n, m;R), B ∈M(n;R), ⃗c∈Rn とするとき
F⃗(⃗x, ⃗y) :=A⃗x+B⃗y+⃗c で定められる
F⃗: Rm×Rn∋(⃗x, ⃗y)7−→F⃗(⃗x, ⃗y)∈Rn を取り上げる。
F⃗(⃗x, ⃗y) =⃗0
は ⃗y について解けるか?この答は簡単で、detB ̸= 0 ならば、
F⃗(⃗x, ⃗y)≡A⃗x+B⃗y+⃗c=⃗0 を移項して出来る
B⃗y=−(A⃗x+⃗c) の両辺から B−1 をかけて
⃗
y =−B−1(A⃗x+⃗c)
となる。detB = 0 であるときは case by case (A, B について詳しい情報がないと分からな い).
2.7.3 陰関数についてのイントロ (2 変数関数版 )
直観的には、方程式F(x, y) = 0 は、(例外的な状況を除けば) 平面曲線を定め、適当に範囲 を限定すると、変数 xの関数 yを定めることがある(このとき、その関数 yを陰関数と呼ぶ)。
いくつか実例を並べてみよう。
(1) F(x, y) = y−φ(x) のとき、y =φ(x). F(x, y) = 0 の定める曲線は、関数 φ のグラフで ある。
(2) F(x, y) =ax+by+c (a, b, c ∈R, (a, b) ̸= (0,0)) のとき、F(x, y) = 0 の定める曲線は直 線である。b̸= 0 であれば、y=−a
bx− c
b と解ける。
(3) F(x, y) = x2 +y2 −1 のとき、y = ±√
1−x2. F(x, y) = 0 の定める曲線は、原点を中 心とする半径 1 の円周である。(一般に、F(x, y) が x と y の 2次多項式であるならば、
F(x, y) = 0 の定める曲線は、いわゆる2次曲線で、具体的には、空集合、1点、2直線、
楕円、放物線、双曲線である —線形代数のテキストを見よ)。
(4) F(x, y) = y2−x2(x−a) (a は実定数)のとき、F(x, y) = 0 は、y = 0 (x= 0 のとき),ま たはy=±x√
x−a (x≥a のとき) と解ける32。F(x, y) = 0 の定める曲線は、
(a) a <0のときは原点で自己交差する曲線(原点を結節点と呼ぶ)
(b) a= 0 のときは原点で尖っている曲線(原点を尖点と呼ぶ)
(c) a >0のときは原点と、x≥a の範囲にある曲線(原点を孤立点と呼ぶ)
(5) (ヤコブ・ベルヌーイのレムニスケート, 1694年) F(x, y) = (x2 +y2)2−2(x2 −y2) のと き、いわゆるヤコブ・ベルヌーイのレムニスケート(連珠形, p.118)F(x, y) = 0 は yにつ いての4 次方程式であるが、2次方程式を解くことを2回行って、y について解ける。
(6) (デカルトの葉線, folium cartesii, 1638年)F(x, y) =x3+y3−3xyのとき、F(x, y) = 0の 定める曲線は、いわゆるデカルトの葉線で、原点において自分自身と交差する曲線である (例 2.7.7, p.117)。F(x, y) = 0 は y についての 3 次方程式である。これは y について簡 単に解くことは…?出来ないと思ったら、Mathematica は答を返して来た。あ、そうか。
でも使いにくそう。