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余談 : 等周問題

ドキュメント内 多変数の微分積分学1 講義ノート (ページ 184-187)

カルタゴを建国したという伝説の女王ディド(Dido — 迷える人という意味とか、もともと はエリッサ Elissa という名であった)の物語の中に、次のようなくだり件 がある。

フェニキアの都市国家テュロスの王ベロスの娘エリッサは、王の死後、兄であるピグマリ オンに国を追われて、財宝を持って航海に出、チュニス湾 (現在のチュニジア)にたどり着い た。その地の王であったイアルパスに土地の分与を申し入れたが、牡牛1頭分の皮で覆えるだ けの土地であれば良いという返事をもらう。そこで彼女は牡牛1頭分の皮を細く引き裂いて1 本の長い紐を作り、それで円形の土地を囲んで砦を築いた。それがカルタゴ(フェニキア語で カルト・ハダシュト (新しい土地) という意味だとか) 発祥の地であるビュルサの丘であると

いう (ビュルサとは牛皮のこと)。BC814年の出来事と伝えられる — があくまで伝説で、実

際にフェニキア人がこの地に居着いたのは1世紀くらい後だとか。

ディドの立場になって考えてみると、紐を作ってから後、なるべくお得な曲線を選びたい。

平面上の閉曲線の長さが与えられているとき、最大の面積を囲むのはいかなる場合か?という のが等周問題 (the isoperimetric problem)である。この問題の解が円であろうことは直観的に 分かるだろうが、その厳密な証明は難しい。最大値が存在することを認めれば、それを与える 閉曲線が円であることを証明するのはあまり難しくない。

どうして難しい? 変数に相当するのが曲線の形であり、曲線の形を表現するには関数を使う しかないであろう。ところで関数の集合は、普通無限次元空間になってしまい、そこで「有界 閉集合はコンパクト」という定理が絶対に成り立たない(ある程度の仮定+「有界閉集合は必 ずコンパクト」から次元の有限性が導かれる)。それゆえ、この節で使っている論法をそのま ま使って最大値の存在を示すことはできない。

I.2 おまけ : 2 変数関数の極値

(2変数の場合は、その気になれば線形代数を使わず、高校数学だけで極値の判定定理が理解可能で ある。こことは独立に一般の n変数の場合の説明ができるので、論理的にはこの小節は蛇足となって しまうが…)

一般の場合に考える前に2 変数でやってみよう。h= ( h1

h2 )

とすると、Taylor の定理か

∃θ (0,1) s.t.

f(a+h) =f(a) +f(a)h+1

2(d2f)a+θh(h)

=f(a) + (fx(a)h1+fy(a)h2) + 1 2

(fxx(a+θh)h21+ 2fxy(a+θh)h1h2+fyy(a+θh)h22) となる。f(a) = (fx(a), fy(a)) = (0,0)であれば

f(a+h) =f(a) + 1 2

(fxx(a+θh)h21+ 2fxy(a+θh)h1h2+fyy(a+θh)h22)

;f(a) + 1 2

(fxx(a)h21+ 2fxy(a)h1h2+fyy(a)h22) . これから

Q(h) =Q(h1, h2) = ph21+ 2qh1h2+rh22, (p=fxx(a),q =fxy(a),r =fyy(a))

という 2次形式 (2次同次多項式)の性質を調べることが鍵であることは想像がつくであろう。

例えば

(1) p= 1, q = 0, r= 1 ならば∀h̸= 0 に対してQ(h) = h21+h22 >0. よってf(a) は極小値。

(2) p=1, q= 0, r =1 ならば ∀h̸= 0 に対してQ(h) =−h21 −h22 <0. よって f(a) は極 大値。

(3) p= 1, q = 0, r =1 ならば Q(h) =h21−h22h によって正にも負にもなりうる。よっ て f(a) は極値ではない。

q = 0 でない場合はどうなるか?実は pr−q2 ̸= 0 ならば、本質的には上の 3つの場合のいず れかと同じであり、そのいずれであるかの判定には、「判別式を使えばよい」ことが分かる。

きちんと述べると

命題 I.2.1 (2変数関数の極大極小の判定) C2 級の関数 f: R2 R が内点 a Ω において fx(a) = fy(a) = 0 を満たすとする。 p = fxx(a), q = fxy(a), r = fyy(a), Q(h) = ph21+ 2qh1h2+rh22 (ただしh= (h1, h2)) とおく。

(i) pr−q2 >0 ならばh についての 2次形式 Q(h)は ∀h̸= 0 に対していつ も同じ符号を取り、したがって fa で極値を取る。より詳しくは

(a) p >0 ならば Q(h) は常に正となるので f(a) は極小値。

(b) p <0 ならば Q(h) は常に負となるので f(a) は極大値。

(ii) pr−q2 <0ならば2 次形式Q(h) は正にも負にもなりうるので、f(a) は 極値ではない。

(iii) pr−q2 = 0 ならば、もっと詳しく調べないと分からない。

このことを証明するのは難しくはない1が、一般の場合への拡張を考えて、Hesse 行列の性 質で分類した形で書いておこう (detH =pr−q2 は固有値の積になることに注意しよう)。

1証明の出出の部分を書いておこう。でだし h2̸= 0ならばQ(h) =h22

(2+ 2+r),ξ=h1/h2と変形できる。括 弧内を f(ξ)とおくと、f 1変数の 2 次関数であり、変数ξ R全体を動くことになる。判別式を D とす

命題 I.2.2 (2 変数関数の極大極小の判定 — Hesse 行列版) C2級の関数 f: R2 R が内点 a Ω において fx(a) = fy(a) = 0 を満たすとする。 p = fxx(a), q = fxy(a), r=fyy(a), H =

( p q q r

)

とおくとき

(i-a) H が正定値(固有値が両方とも正)ならば ∀h ̸= 0 に対してQ(h) >0. fa で極小である。

(i-b) H が負定値(固有値が両方とも負)ならば ∀h ̸= 0 に対してQ(h) <0. fa で極大である。

(ii) H が不定符号(固有値に正のものと負のものが存在する)ならば、hによっ て Q(h) は正にも負にもなりうる。従ってf(a) は極値ではない。

(iii) H が特異(H の固有値に 0 が存在する)ならば、より詳しく調べないと

分からない。

さて、証明(もどき)をやってみよう。Q(h) = (Hh, h)と書けることがミソである。実際 Hh=

(ph1+qh2 qh1+rh2

)

, h= (h1

h2 )

であるから

(Hh, h) = (ph1+qh2)h1+ (qh1+rh2)h2 =ph21+ 2qh1h2 +rh22 =Q(h).

H は対称行列であるから、適当な直交行列 T によって

tT HT = (

λ1 0 0 λ2

)

と対角化できる。ここで λ1,λ2H の固有値である(対称行列の固有値だから実数である!)。 k =tT h とおくと h=T k であるから

Q(h) = (Hh, h) = (HT k, T k) = (tT HT k, k) =λ1k12+λ2k22.

ここで h7→k という対応が 1対1対応で、「h= 0⇔k = 0」であることに注意すると (i-a) λ1, λ2 >0ならば ∀h̸= 0 に対して Q(h)>0となる。

(i-b) λ1, λ2 <0ならば ∀h̸= 0 に対して Q(h)<0となる。

(ii) λ1λ2 が異符号ならば Q(h)は正にも負にもなる。

(iii) λ1, λ2 の少なくとも一方が 0 ならばQ(h) = 0 となる = 0 が存在する。

ということが分かる。以上大ざっぱではあるが、2変数関数の場合には一通りの様子が分かった。

ドキュメント内 多変数の微分積分学1 講義ノート (ページ 184-187)