患者さんと家族のための
本書は、現時点の医学知識に基づいて複数の専門医が協
力して作成したものです。しかし本書は、実際の医師の診
断、治療、助言の代わりとして作られたものではありませ
ん。人間の身体、病気の状態は個人差がありますので、疑
問点は主治医に相談されることが第一であり、その際の助
けとして本書を参考にして下さい。
日本消化器病学会ガイドライン作成・評価委員会は、
個々の患者さんに、本書で述べられた期待の効果が得られ
なかったり、本書の利用によって何らかの不利益が生じて
も、それに対して責任を負うものではありません。また本
書は医療者向けの診療ガイドラインと同様に、医療訴訟等
の資料となるものではありません。以上ご了解いただき、
本書をご活用下さい。
日本消化器病学会 2010 年 9 月 30 日慢性膵炎
ガイドブック
患者さんと家族のための
日本消化器病学会
日本消化器病学会では、日常臨床の場でよく遭遇する消化器 6 疾患(胃食道逆流症、消 化性潰瘍、クローン病、肝硬変、胆石症、慢性膵炎)について、最新の科学的根拠に基づ いた医師向けの診療ガイドラインを作成しました。しかし、これらの病気で悩んでおられ る患者さんやその家族、また広く一般の市民の方々が、これらの病気がどのような原因で おこるのか、病気を防いだり、悪化させたりしないためにはどうしたらよいのか、また根 拠に基づいた最適な治療にはどのようなものがあるのか、などについてよく理解すること がきわめて重要であるというのが、現在の医療の基本的な考え方のひとつとなっています。 つまり、病気は医療者だけで治すものではなく、患者さんや社会全体が一体となって防ぎ、 治療していくことが重要なのです。日本消化器病学会が、医師向けの診療ガイドラインだ けではなく、市民向けのガイドブックを発刊するのはこのような意図からです。 本書は、それぞれの疾患に関連した質問に対して専門家が科学的な根拠に基づいて回答 をおこなうという形式で記載されていますが、患者さんやその家族ならびに市民の方々の すこしでも参考になることを願って簡潔に、またたくさんの図表を用いて読みやすくなる よう心がけました。このため、日本消化器病学会の 6 疾患の診療ガイドラインとは内容も 体裁も異なります。病気のことをさらに詳しく知りたいとお考えの方は、医師向けの学会 の診療ガイドラインもご参考になさっていただければ幸いです。 本書の記事は、執筆時点での最新の科学的根拠に基づいて書かれていますが、推奨して いる診断や治療法は、すべての人に一律に適用できるとはかぎりません。患者さんの病状 をよく把握しておられる主治医が標準的医療とは異なる治療を、病状に応じておこなって いる場合もあると思います。また、その後の医学の進歩で、本書に記載されている根拠や 考え方が変わっている場合もありうると思います。自分の受けている診療上の疑問点につ いては、よく主治医から説明を受け、自分の病気や治療内容をよく理解し、納得のうえで 主治医と一緒に病気に立ち向かっていくことが重要です。 日本消化器病学会では、このガイドブックを日本消化器病学会一般市民向けホームペー ジでも公開し、市民の方々からのご意見やご質問にお答えできるよう設計する予定にして います。寄せられたご意見やご質問は、新しい医学的根拠とともに次回の改訂に生かして いきたいと考えています。ぜひ多くの方々がご利用いただきますようお願い申し上げます。 2010 年 9 月 日本消化器病学会ガイドライン委員会委員長 日本消化器病学会理事長 菅野 健太郎
委員長 菅野健太郎 自治医科大学消化器内科 委 員 井廻 道夫 昭和大学消化器内科学 上野 文昭 大船中央病院 大槻 眞 産業医科大学名誉教授 木下 芳一 島根大学第二内科 税所 宏光 化学療法研究所附属病院 坂本 長逸 日本医科大学消化器内科 下瀬川 徹 東北大学消化器病態学 白鳥 敬子 東京女子医科大学消化器内科 田妻 進 広島大学病院総合内科・総合診療科 千葉 勉 京都大学消化器内科 坪内 博仁 鹿児島大学消化器疾患・生活習慣病学 中山 健夫 京都大学健康情報学 二村 雄次 愛知県がんセンター 日比 紀文 慶應義塾大学内科 福井 博 奈良県立医科大学消化器・内分泌代謝内科 本郷 道夫 東北大学病院総合診療部 松井 敏幸 福岡大学筑紫病院消化器科 森實 敏夫 国際医療福祉大学塩谷病院消化器内科 山口直比古 東邦大学医学メディアセンター 吉田 雅博 化学療法研究所附属病院人工透析・一般外科 芳野 純治 藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院内科
統括委員会
責任者 大槻 眞 産業医科大学名誉教授 作成委員長 下瀬川 徹 東北大学消化器病態学 副委員長 片岡 慶正 大津市民病院,京都府立医科大学消化器内科 委 員 伊藤 鉄英 九州大学病態制御内科 大原 弘隆 名古屋市立大学大学院地域医療教育学 神澤 輝実 東京都立駒込病院内科 佐田 尚宏 自治医科大学消化器・一般外科,鏡視下手術部 砂村 真琴 東北大学消化器外科 竹山 宜典 近畿大学外科学肝胆膵部門 成瀬 達 みよし市民病院消化器科 宮川 宏之 札幌厚生病院第 2 消化器科 オブザーバー 早川 哲夫 名城病院,名古屋大学名誉教授 文献検索 山口直比古 東邦大学医学メディアセンター 評価委員長 白鳥 敬子 東京女子医科大学消化器内科 副委員長 杉山 政則 杏林大学消化器・一般外科 委 員 岡崎 和一 関西医科大学内科学第三講座 小泉 勝 栗原市立栗原中央病院 諸星 利男 昭和大学第一病理学
1
膵臓について ………1
1
膵臓はどこにありますか? どのような臓器ですか? ………22
膵臓はどのような働きをしますか? ………43
膵臓の病気にはどのようなものがありますか? ………62
慢性膵炎について ………9
4
慢性膵炎とはどのような病気ですか? ………105
膵石とはなんですか? なぜできるのですか? ………126
慢性膵炎の患者さんはどのくらいいますか? どのような人に多いのです か? ………147
慢性膵炎の原因はわかっているのですか? 遺伝しますか? ………168
慢性膵炎ではどのような症状がおこりますか? ………189
慢性膵炎を治療しなければどうなりますか? ………2010
慢性膵炎の糖尿病は普通の糖尿病と違いますか? ………223
慢性膵炎の診断について ………25
11
慢性膵炎はどのように診断するのですか? 人間ドックで見つかります か? ………2612
慢性膵炎とまぎらわしい病気にどのようなものがありますか? ………2813
膵臓の働きを調べるのにどのような検査がありますか? ………304
慢性膵炎の治療について ………33
14
慢性膵炎の治療は時期によって違いますか? ………34目 次
摂ってはいけませんか? 酒を飲んではいけませんか? ………36
16
慢性膵炎の腹痛に対する治療法にはどのようなものがありますか? どの ような薬が効きますか? 薬はいつまで飲むのですか? ………3817
慢性膵炎の内視鏡治療とはどのような治療ですか? どのような症状に効 きますか? ………4018
慢性膵炎の手術はどのような場合に必要ですか? どのような手術がおこ なわれますか? ………4219
内視鏡治療と外科治療のどちらが有効ですか? 膵石はかならず取らなけ ればいけませんか? ………4420
慢性膵炎によっておきる病気(合併症)にはどのようなものがあります か? どのように治療するのですか? ………4621
慢性膵炎の栄養不良(消化吸収障害)はどのように治療するのですか? …4822
慢性膵炎の糖尿病はどのように治療するのですか? ………505
慢性膵炎の予後について ………53
23
慢性膵炎はどのような経過をたどるのですか? 症状がなくても、定期的 受診が必要ですか? 経過観察にはどのような検査を受けるのがよいで すか? ………5424
慢性膵炎の死亡原因としてはなにが多いですか? ………5625
慢性膵炎を治療すると病気の進行を止められますか? ………581
1
膵臓の位置とかたち
膵臓は重さ 100 g ほどの比較的柔らかい臓器でみぞおちの奥、背中側にありま す。“おたまじゃくし”のようなかたちをしており、おたまじゃくしの頭に相当する ふくらんだ部分を膵頭部、尾の付け根の部分が膵体部すいたいぶ、しっぽの先にあたる部分を 膵尾部 すいびぶ とよびます。膵臓の前面には胃がおおいかぶさるように存在し、十二指腸が 膵頭部をふちどるように囲んでいます(図参照)。膵臓はおなかの中の血管や神経、 リンパ管が集まる場所にのっかるように位置しています。膵臓の構造
膵臓は、消化酵素(膵酵素すいこうそ)を大量に含む無色透明な消化液(膵液)を十二指腸に 分泌する消化器臓器です。膵臓でつくられた膵液は、膵臓を貫くように走る太さ 2 ∼ 3 mm の主膵管しゅすいかんとよばれる管を流れます。主膵管が十二指腸に口を開くところに は、十二指腸内容物が膵管に逆流しないように圧を調節する筋組織が発達しており (オッジー括約かつやく筋といいます)、十二指腸の出口の部分はファーター乳頭とよばれる 小さな突起を形成します。総胆管下部は膵頭部の中を貫いて十二指腸に達し、主膵 管とともにファーター乳頭部に開口します。2
1
よくある質問
1
1
お答えします
膵臓はどこにありますか? どのような臓器で
すか?
●
膵臓
すいぞうはみぞおちの奥、背中側にある重さ 100g ほどの細長い臓器で
す。
●
膵頭部
すいとうぶは十二指腸に囲まれ、総胆管が膵頭部を貫きます。
●
おなかの中のさまざまな臓器を養う血管やリンパ管、神経が集中す
るところに膵臓はあります。
解 説
膵臓は複数の動脈で血液があたえられ、血流が豊富な臓器です。膵臓には副交感 神経(迷走神経めいそうしんけい)と交感神経からなる自律神経が分布していて、膵臓の働きを調整し ます。痛みを伝える知覚神経も分布します。 1:膵臓について 胆嚢 肝臓 胃 膵頭部 膵頭部 主膵管 副膵管 膵尾部 十二指腸 ファーター乳頭 総胆管 膵体部
膵臓の役割
膵臓は食物を消化する消化酵素(膵酵素すいこうそ)を十二指腸に分泌する外分泌腺がいぶんぴせんと、血糖 を調節するインスリンなどのホルモンを血中に分泌する内分泌腺 ないぶんぴせん からできています。 膵臓の約 80 %が腺房細胞せんぼうさいぼうとよばれる消化酵素をつくる外分泌腺で、約 10 %が消化 液(膵液)を流す導管とよばれる管です。腺房細胞でつくられた消化酵素は、まず顕 微鏡レベルの細い導管に分泌され、導管から水分や重炭酸イオンが分泌されてアル カリ性の膵液がつくられます。導管は合流を重ねて次第に太くなり、最終的には膵 臓を貫く 1 本の主膵管となって膵液を十二指腸に分泌します(「よくある質問 1」参 照)。膵液は無色透明の液体で 1 日の分泌量は約 1.5 リットルです。外分泌の仕組み
腺房細胞は血液からアミノ酸を取り込み、それらを材料としてさまざまな消化酵 素を合成します。消化酵素には、炭水化物を分解するアミラーゼ、蛋白質を分解す るトリプシンやキモトリプシン、脂質を分解するリパーゼなどがあります。蛋白分2
1
よくある質問
2
2
お答えします
膵臓はどのような働きをしますか?
●
膵臓は消化酵素(膵酵素)を分泌する部分(=外分泌腺)と血糖を調
節するホルモンを分泌する部分(=内分泌腺)があります。
●
消化酵素には、炭水化物
たんすいかぶつを分解するアミラーゼ、蛋白質
たんぱくしつを分解する
トリプシン、脂質
し し つを分解するリパーゼなどがあります。
●
内分泌腺からは血糖を下げる働きをするインスリンと、血糖を上昇
させる働きをするグルカゴンが分泌されます。インスリンとグルカ
ゴンの働きで血糖はほぼ一定の値に保たれます。
解 説
解酵素は活性を持たない不活性型(トリプシノーゲンやキモトリプシノーゲン)でつ くられ、腺房細胞内の顆粒に蓄えられます。また、胃液が混じった食物半消化体が 十二指腸に流れ込むと、セクレチンとコレシストキニン(cholecystokinin:CCK) とよばれるホルモンが血中に分泌されます。CCK やセクレチンは迷走神経を介し て、高濃度の場合は直接膵腺房細胞を刺激し、膵液を分泌します。膵液は導管の中 を流れ、最終的には主膵管を通じて十二指腸に分泌され、膵液中の消化酵素の働き によって食物が消化されます。消化酵素の働きは中性から弱アルカリ環境でもっと も発揮されます。膵液がアルカリ性なのは、十二指腸に流れ込んだ胃酸を中和して、 消化酵素を働きやすくするためです。
内分泌の仕組み
膵臓の外分泌腺の中に直径 100 μm 前後の小さな球状の内分泌腺の塊が散らばっ て存在します。この内分泌腺は外分泌腺の中で島のように孤立して散在するため、 発見者の名前をつけてランゲルハンス島(膵島すいとう)とよばれます。ヒトの膵臓には 100 万∼ 200 万個の膵島が存在するといわれていますが、ひとつひとつは大変小さいた め、全部あわせても容積は膵臓全体の 2 ∼ 3 %ほどにしかなりません。膵島を構成 する細胞の 60 ∼ 75 %が β べーた 細胞とよばれるインスリンを分泌する細胞です。約 20 %がグルカゴンを分泌する α あるふぁ 細胞です。血糖が高くなるとβ細胞からインスリ ンが血中に分泌され、肝臓や筋肉、脂肪組織に働いて血糖を強力に下げます。グル カゴンはインスリンと逆の作用を有するホルモンです。主に肝臓に作用して血糖を 上げる働きがあります。3
1:膵臓について アミラーゼ トリプシン キモトリプシン リパーゼ など β細胞 インスリンを 産生する α細胞 グルカゴンを 産生する 腺房細胞 腺房 (外分泌) ランゲルハンス島 (内分泌) 膵ホルモン 消化酵素(膵酵素) 総胆管 主膵管 膵頭部 膵体部 膵尾部膵臓は外分泌腺と内分泌腺で構成されています(「よくある質問 2」参照)。それ ぞれに炎症と腫瘍があります。
外分泌腺の病気
外分泌腺の炎症には膵炎があります。急性で激しい膵臓の炎症を急性膵炎、慢性 の炎症で進行性の慢性膵炎、免疫異常によっておこると考えられる自己免疫性膵炎 に主に分類されます。急性膵炎も慢性膵炎も多くは大量飲酒が原因でおこる病気で す。膵臓内に蓄えられた蛋白分解酵素たんぱくぶんかいこうそが膵臓内で活性化されて膵臓と周囲の臓器を 消化してしまう(自己消化といいます)のが急性膵炎、蛋白分解酵素が持続的に活性 化されてゆっくり膵組織を消化・破壊し、厚い線維組織に置き換わっていくのが慢 性膵炎です(「よくある質問 4」参照)。自己免疫性膵炎は高齢者に多い病気で、免疫 異常が原因と考えられています。 外分泌腺の腫瘍には、腫瘍細胞が硬い塊をつくる充実性腫瘍と、嚢胞 のうほう とよばれる 液体をためた袋様の構造を持つ嚢胞性腫瘍があります。 充実性腫瘍の代表が膵癌です。膵癌は全身のすべての腫瘍の中でもっとも悪性度 が高い腫瘍のひとつです。外科手術が治癒をのぞめる唯一の治療法です。さまざま1
よくある質問
3
3
お答えします
膵臓の病気にはどのようなものがありますか?
●
膵外分泌腺の炎症は膵炎とよばれ、急性膵炎、慢性膵炎、自己免疫
性膵炎などがあります。
●
膵外分泌腺の腫瘍に膵癌
すいがんと嚢胞性膵腫瘍
のうほうせいすいしゅようがあります。膵癌はもっと
も悪性な腫瘍のひとつです。
●
膵内分泌腺の病気に糖尿病や、インスリノーマなどの内分泌腫瘍が
あります。
解 説
な抗癌薬が現在開発されており、治療効果に期待が寄せられています。 嚢胞性腫瘍の代表に、膵管内乳頭粘液性腫瘍 すいかんないにゅうとうねんえきせいしゅよう (intraductal papillary-mucinous neoplasm:IPMN)があります。この腫瘍では腫瘍細胞が大量の粘液を分泌するた め、膵管が袋様に拡張しています。多くは良性ですが、悪性の場合でも比較的ゆっ くりと大きくなるため、外科切除が可能となる場合が多い腫瘍です。ほかに、中年 女性で膵体部あるいは膵尾部に大きな嚢胞を形成する粘液性嚢胞腫瘍(mucinous cystic neoplasm:MCN)があります。長期的には悪性化することが多く外科手術 の対象となります。
内分泌腺の病気
内分泌腺の炎症に膵島炎があります。自己免疫、ウイルス感染、薬物などがきっ かけとなり、膵β細胞が選択的に破壊されてインスリンが不足し、急激かつ重篤な 糖尿病を発症します(1 型糖尿病)。一方、日本人成人にもっとも多い糖尿病は、体 質や肥満などによって肝臓や筋肉、脂肪組織におけるインスリンの効きが悪くなる ため(インスリン抵抗性といいます)、インスリン分泌が過剰となり、次第に膵β細 胞が疲弊・破綻しておこります(2 型糖尿病)。膵癌や慢性膵炎に合併する糖尿病は とくに膵性糖尿病 すいせいとうにょうびょう とよばれます(「よくある質問 10」参照)。 膵内分泌腺の腫瘍に神経内分泌腫瘍があります。まれな腫瘍ですがさまざまなホ ルモンを大量に分泌するためホルモン特有の症状があらわれることが特徴です。代 表的なものにインスリンの過剰分泌によって低血糖を頻発するインスリノーマとよ ばれる腫瘍があります。2
1:膵臓について ■外分泌腺の病気 炎症:膵炎(急性膵炎、慢性膵炎、自己免疫性膵炎) 腫瘍:充実性腫瘍(膵癌)、 嚢胞性腫瘍(膵管内乳頭粘液性腫瘍、粘液性嚢胞腫瘍) ■内分泌腺の病気 糖尿病(1型糖尿病、2型糖尿病、膵性糖尿病) 腫瘍:神経内分泌腫瘍(インスリノーマなど)2
2
慢性膵炎の原因
膵臓でつくられた消化酵素(膵酵素)は食べ物を消化します。通常は消化酵素が自 分の膵臓を消化しないように、活性を持たない不活性型としてつくられます。しか し、大量飲酒などで膵臓の中で消化酵素の安全装置がはずれると消化作用を持つ活 性型になり、自分の膵臓を消化してしまいます(自己消化)。消化酵素が急激に活性 化されて、膵臓を溶かしてしまうのが急性膵炎、徐々に活性化されて、ゆっくりと 膵臓に炎症をおこすのが慢性膵炎です(「よくある質問 3」参照)。 正常な膵液はサラサラですが、大量飲酒などで膵液中の蛋白質の内容が変化する と、膵液がねばっこくなります。その結果、膵液の流れが悪くなり、膵管内の圧が 上昇し、自分の膵臓を溶かしだすのです。この病気になると、膵臓の正常な細胞が 壊れて減り、代わりに線維が異常に多くなります。膵臓の中に石灰化(膵石)が生じ たり、膵臓の管(膵管)が不整に広がって、最終的には膵臓が小さくなり、表面が凸 凹してきます。1
よくある質問
4
4
お答えします
慢性膵炎とはどのような病気ですか?
●
慢性膵炎とは、膵臓でつくられる消化酵素(膵酵素)が活性化されて、
自分の膵臓をゆっくりと溶かす膵臓の慢性炎症です。
●
もっとも多い原因は長期間の大量飲酒ですが、原因がわからない慢
性膵炎もあります。
●
比較的初期には強い腹痛発作を繰り返します。進行すると消化吸収
不良や糖尿病があらわれます。
解 説
慢性膵炎の経過
慢性膵炎は徐々に進行する病気で、いったん病気になると治癒することがなく、 病気と一生つきあわなくてはならなくなります。病気は 40 歳代から 50 歳代に始 まることが多く、多くの場合、腹痛が最初の症状です(「よくある質問 8」参照)。腹 痛は飲酒や過食、脂肪の摂り過ぎ、ストレスなどで引きおこされ、急性膵炎と同様、 強い腹痛や背中の痛みを生じます。また、血液中や尿中でアミラーゼなどの消化酵 素の値が上昇します。慢性膵炎はいったん始まるとこのような腹痛発作を繰り返す 時期が 5 年前後つづきます。この間にも膵臓の組織が次第に壊されて線維に置き換 わり、膵管の不整な拡張、膵石形成などの変化がおこります(図参照)。このような 変化がおこると、病気は改善することなく進行し、膵臓の外分泌腺やインスリンを 分泌するランゲルハンス島の破壊が進み、線維成分が増えて膵臓全体が硬くなりま す。このような時期になると一般的に腹痛は弱まりますが、消化酵素やインスリン の分泌が悪くなり、食物の消化吸収不良や糖尿病が合併して血糖値が高くなります。 典型的にはこのような経過をとりますが、なかにはまったく痛みがなく、気づかな いうちに病気が進行して、消化不良や糖尿病ではじめて慢性膵炎とわかる患者さん もいます。2
図 正常な膵臓と慢性膵炎の膵臓の組織 ランゲルハンス島 膵管 ランゲルハンス島 線維化 膵管 腺房 腺房 健常な膵臓 慢性膵炎の膵臓 正常な膵臓を顕微鏡でみますと、膵酵素を産生する膵腺房細胞が密集していますが、慢 性膵炎になると膵臓に著しい線維化がおこり、膵腺房細胞は脱落して減少し、膵管は不 整に拡張して、結石をともないます。ランゲルハンス島は線維化の中に孤立します。 膵石膵石の種類
膵石とは、膵臓の石灰化のうち、膵管内に結石として存在するものです。ほとん どの膵石の主な成分はカルシウム(とくに炭酸カルシウム)で、レントゲンに映りま す。まれに、成分の大部分が蛋白質 たんぱくしつ でカルシウムをほとんど含まずレントゲンで映 らない結石があり、蛋白栓たんぱくせんとか非陽性結石とよんでいます。膵石のサイズで大型の 結石と小型の結石に分けると、大型の結石は原因がわからない慢性膵炎(このよう な慢性膵炎を特発性とくはつせい慢性膵炎といいます)に多く、小型の結石はアルコール性慢性 膵炎(大量飲酒が原因の慢性膵炎です)に多くみられます。小型の結石は膵全体に広 く分布する場合が多いのですが、膵頭部や膵尾部に限局してみられる場合もありま す(図参照)。 膵石のある慢性膵炎を、膵石症とか慢性石灰化膵炎とよびます。慢性膵炎の約半 数に膵石を合併します。アルコール性慢性膵炎のほうが、ほかの原因の慢性膵炎よ り膵石を合併しやすく、膵石ができるのも速いといわれています。膵石は一般に慢 性膵炎の経過とともに増加しますが、慢性膵炎発症初期から膵石がみられる場合も あります。1
よくある質問
5
5
お答えします
膵石とはなんですか? なぜできるのですか?
●
膵石とは、カルシウムを主成分とした膵管内の硬い石です。
●
慢性膵炎の患者さんの約半数に膵石が合併します。
●
膵液のうっ滞
たいによって膵液中の蛋白が塊をつくり、カルシウムが加
わってできると考えられています。
解 説
膵石はどのようにつくられるか?
膵石がどのようにしてできるかは、完全にはわかっていません。現在のところは、 飲酒などにより膵液の分泌が多くなり、膵液中の成分が変化しねばっこくなり、膵 管内に膵液がうっ滞 たい し、膵液中の蛋白質がかたまりだすと考えられています。これ が徐々に大きくなり、細い膵管をふさぎ、蛋白栓ができます。それにカルシウムが ついて、炭酸カルシウムが主成分の結石ができます。細い膵管内にできた結石は、 その後太い膵管へ移動し、さらに大きくなり主膵管を塞ふさいでしまうことがあります。 また、特定の遺伝子に異常があると、大量飲酒などの原因がなくても、膵石ができ やすくなります。喫煙は膵石形成を促進するといわれています。また、高齢者では、 加齢にともなう変化で膵管が部分的に細くなり、そのため膵液のうっ滞がおきて、 膵石ができることがありますが、多くは症状が出ません。 膵石が膵管にはまり込むと膵液のうっ滞が増悪して、腹痛が強くなり、また膵の 線維化が進行する要因になります。このような場合は、膵石を取り除く治療法が有 効です(「よくある質問 17」参照)。2
図 膵管の構造と膵石 慢性膵炎では、主に不規則に拡張した主膵管や分枝膵管の中 に膵石が詰まるようにみとめられます。 健常な膵臓 慢性膵炎の膵臓 膵石 主膵管 分岐膵管厚生労働省の難治性膵疾患研究班による最近の全国調査(2007 年)によれば、慢 性膵炎で全国の医療機関を受診している患者さんは 1 年間でおよそ 47,100 人と推 定されています(図参照)。通常、患者さんの数は人口 10 万人あたりであらわしま すので、この年のわが国の人口で除すると年間推計受療数は人口 10 万人あたり 36.9 人です。また、新たに慢性膵炎と診断された患者さんの割合、すなわち新規発 病率は人口 10 万人あたり 2002 年の調査では 14.4 人、2007 年の調査では 11.9 人と報告されています。1992 年から 1999 年までの調査では発病率は人口 10 万 人あたり 5.4 ∼ 5.9 人でしたから、慢性膵炎の患者さんの数は増えつつあるといえ ます。 慢性膵炎は男性に多い病気です。2007 年の全国調査では、男性の有病率は人口 10 万人あたり 53.2 人と、女性(21.2 人)の約 2.5 倍と報告されています。これ は男性が女性にくらべお酒をたくさん飲むことと関係があると考えられています。 しかし、これは病院や診療所で治療をうけている慢性膵炎の患者さんの数ですので、 実際の患者さんの数は 5 ∼ 10 倍ではないかと考えられています。
よくある質問
6
6
お答えします
慢性膵炎の患者さんはどのくらいいますか?
どのような人に多いのですか?
●
慢性膵炎の患者さんの数は全国で約 47,000 人、人口 10 万人あ
たり約 37 人です。
●
慢性膵炎は男性に多い病気で、女性の約 2.5 倍の頻度です。
●
慢性膵炎はお酒をたくさん飲む人に多い病気です。
解 説
図 慢性膵炎の推定年間受療患者数の推移 50,000 40,000 30,000 20,000 10,000 0 1994年 1999年 2002年 2007年 受療患者数 ︵ ︶ 人 / 年 50 40 30 20 10 0 有病率 ︵ ︶ と 発病率 ︵ ︶ 人 / 10万人 32,000 42,000 45,200 47,100 25.6 33.2 35.5 36.9 4.2 5.8 14.4 11.9 受療患者数 有病率 発病率 (下瀬川 徹ほか:慢性膵炎の実態に関する全国調査.厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究. 平成 21 年度総括・分担研究報告書、p135-138、2010 より)
慢性膵炎の原因としては、飲酒が関連するアルコール性慢性膵炎がもっとも多く、 2007 年の全国調査では全体の 56 %を占めています。次に原因がよくわからない ため特発性とよばれている慢性膵炎が 18 %ほどあります。このほかに、胆石、膵 管の奇形、脂質異常症 ししついじょうしょう (高脂血症 こうしけっしょう )などまれな成因があわせて 7 %程度あります。慢 性膵炎の原因は男女の違いがあることが特徴です。男性患者さんの原因の約 70 % はアルコール性ですが、女性では 24 %程度です(図参照)。女性では慢性膵炎の約 45 %が特発性慢性膵炎です。
アルコール性慢性膵炎
アルコール性慢性膵炎は、男性が女性の約 3 倍多い病気です。しかし、1 日の飲 酒量が純エタノール換算で 80 g 以上(日本酒ですと 4 合弱、ビールですと中瓶で 4 本)の多飲者にかぎると、膵炎の発症頻度は男女間に差がありません。また、飲 酒量が多いほど慢性膵炎を発症する危険性が高くなります。アルコールが原因の急 性膵炎になった人は、禁酒することが慢性膵炎にならないためには大事です。 アルコールが膵臓にどのように作用して、慢性膵炎を発症させるのか詳しいこと はわかっていません。大量飲酒者の一部(2 ∼ 3 %程度)しか膵炎を発症しないので、1
よくある質問
7
7
お答えします
慢性膵炎の原因はわかっているのですか?
遺伝しますか?
●
男性では飲酒(アルコール性)がもっとも多く、女性では原因不明の
特発性が多くみられます。
●
非常にまれですが、遺伝する膵炎(遺伝性膵炎)があります。
●
慢性膵炎に関連する遺伝子はわかってきていますが、慢性膵炎が発
症するしくみはよくわかっていません。
解 説
炎の原因遺伝子など、膵炎になりやすい遺伝的素因がすこしずつわかってきていま す。
遺伝性膵炎
遺伝性膵炎は常染色体優性遺伝する非常にまれな病気です。この病気は多くの場 合、膵臓が分泌するトリプシンという消化酵素(膵酵素)の遺伝子(トリプシノーゲ ン 1 遺伝子)の異常によりおこります。この遺伝子に異常があると、幼少期から膵 臓の自己消化による急性膵炎を繰り返し、約 50 %の患者さんが慢性膵炎になりま す。また、膵臓はトリプシンによる自己消化を防ぐため、トリプシンの作用を抑え る蛋白(トリプシンインヒビター)をつくっています。遺伝子変異による膵のトリプ シンインヒビターの異常でも膵炎をおこしやすくなることがわかっています。この ような膵炎はきわめてまれですから、家系内で慢性膵炎の人が多い場合を除けば、 慢性膵炎が遺伝することを心配する必要はありません。2
図 慢性膵炎の原因 アルコール性 71.7% 特発性 13.2% その他 12.6% 胆石性 2.5% アルコール性 23.9% 特発性 45.1% その他 27.0% 胆石性 4.5% 男性 1,082名 女性 268名 「男性はアルコール性が多いです」 (厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究班:2007 年全国調査二次調査の中間解析による)慢性膵炎の症状と病期進行
慢性膵炎の典型的な症状は、消化不良や糖尿病などの症状があらわれる前では主 に上腹部痛や腰背部痛です(図 1 参照)。そのほか、吐き気や嘔吐おうと、腹部膨満感ふくぶぼうまんかん、腹部 重圧感、全身倦怠感 けんたいかん などがあります。まれに痛みのない患者さんもいますが、約 80 % の患者さんが腹痛を訴えます。痛みの特徴として、食事の直後ではなく、数時間後(時 には 12 ∼ 24 時間後)にあらわれることで、暴飲暴食、とくに脂っこい料理やケーキ などの脂肪やアルコール摂取が引き金になります。表 1 に特徴的な痛みを記載します。 慢性膵炎の初期の段階では膵臓の働きは保たれており(代償期)、腹痛が主な症状 です。慢性膵炎が進むと、次第に膵臓の働きが落ち(移行期)、さらに進行すると膵 外分泌腺や内分泌腺が減少して線維に置き換わり、膵臓の機能が著しく低下します (非代償期)(「よくある質問 14」図参照)。進行した慢性膵炎では、腹痛などの症状 は一般に軽くなり、なくなってしまうこともあります。また、膵臓の働きが低下す るため、消化不良にともなう下痢、脂肪便、体重減少などの症状や、糖尿病にともな う口渇・多尿などの症状が出現します。ストレスの関与
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よくある質問
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お答えします
慢性膵炎ではどのような症状がおこりますか?
●
初期の典型的な症状は上腹部痛や腰背部痛です。
●
腹痛は食後数時間してからあらわれ、前屈みになると軽くなる特徴
があります。
●
進行すると、消化不良による下痢、体重減少や糖尿病が出現します。
解 説
膵炎の患者さんは、上腹部痛や背部痛といった膵炎に特徴的な症状を示す場合が多 いのですが、アルコールを飲まない慢性膵炎の患者さんは、下痢や便秘などの腹部 不定愁訴しゅうそ、不眠、頭痛、肩こり、筋肉痛などを訴えることが多く、さらに家庭や職 場での問題を持っていることが多いといわれています。つまり、ストレスを発散で きないために、自律神経系が不安定になり多彩な症状が出現するのだと考えられま す(図 2 参照)。一方、アルコールを飲む患者さんでは、飲酒によってストレスは発 散できるのですが、飲酒が生活習慣の中で固定化し、慢性膵炎が進行しやすいと考 えられます。 図 1 慢性膵炎の典型的な症状 上腹部痛 お腹のはり 腰痛 背部痛 図 2 ストレスと膵炎の関与 疲労や慢性の緊張状態 (社会心理学ストレス) 非アルコール慢性膵炎 の一部の患者さん ストレスの持続 不安定な自律神経系 腹部不定愁訴・多彩な症状 徐々に進行 アルコール性慢性膵炎 の患者さん 飲酒による発散 生活習慣の歪み アルコール嗜癖 進行 (伊藤鉄英編:生活習慣とすい臓病、海鳥社、福岡、2007 より) 表 1 慢性膵炎に特徴的な痛み(膵臓痛) ①上腹部に限局する ②背部に放散しやすい ③持続性である ④鎮痛薬が効きにくい ⑤アルコールや脂肪摂取によって増悪しやすい ⑥上を向いて寝ると痛みが強くなり、座ると軽減する
慢性膵炎は膵臓の炎症を繰り返しおこす病気ですから、一生つきあっていかなけ ればなりません。厚生労働省で慢性膵炎の患者さんを 1994 年から 2002 年まで の 8 年間追跡調査したところ、治療を受けている患者さんでは明らかに病気の進行 が抑制されたとの報告があります。ただし、飲酒が原因の慢性膵炎患者さんの場合 は、いくら治療を受けていても飲酒を継続すれば病気は進行します。すなわち、ア ルコール性慢性膵炎では、一般的な治療に加えて、禁酒を守ることが大変重要です。 慢性膵炎を治療しなければ、病気が進行して消化不良となり、下痢、脂肪便がみら れるようになります。栄養状態が悪化し、さらには糖尿病も発症・増悪して、その 結果、免疫能が低下してきます。 厚生労働省の研究で興味深い報告があります。慢性膵炎の患者さんと一般の人と の死亡の比率(標準化死亡比)をくらべると、慢性膵炎の患者さんでは 1.55 と高く、 死因別では、悪性新生物(癌がん)による標準化死亡比は 2.02、つまり約 2 倍と高率で、 とくに膵癌は 7.84 と著しく高くなっています(図参照)。ですから、慢性膵炎を治 療していくことは、膵癌を防ぐことにもつながります。 これまでは慢性膵炎を治療して病気の進行を止めることができても、正常には戻 らないと考えられていました。しかし、最近、ラットの慢性膵炎動物モデルを用い た実験において、慢性膵炎の初期に治療を開始すれば正常に戻ることが報告されて います。ヒトでは同様のことは証明されていませんが、ヒトにおいても慢性膵炎を 早期に発見し、早期に治療を始めれば正常に戻る可能性が考えられます。
よくある質問
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お答えします
慢性膵炎を治療しなければどうなりますか?
●
慢性膵炎を治療しなければ、消化不良によって栄養状態が悪化し、
糖尿病も合併するようになって免疫能が低下します。
解 説
図 慢性膵炎の標準化死亡比 8.29 6.00 7.84 3.12 4.27 3.44 2.10 1.58 2.02 1.68 1.011.55 0 4 8 12 16 膵癌 胆嚢・ 胆管癌 悪性 新生物 全死亡 :男性 :女性 :総数 SMR (95 % CI) 慢性膵炎患者さんの追跡期間中の死亡について死因別の標準化死亡比を、1998年全 国人口動態統計を基準に算出したものです。男性では、全死亡、悪性新生物、胆嚢・胆管 癌、膵癌の死亡が一般人口より多く、女性では、胆嚢・胆管癌、膵癌の死亡が一般人口よ り多くなっています。 (大槻眞ほか:慢性膵炎患者の予後および死因に関する検討.厚生労働省科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 難治性膵疾患に関する調査研究、平成 19 年度 総括分担研究 報告書、p98-102、2008 年)
慢性膵炎は進行すると消化酵素(膵酵素)の分泌が低下して消化吸収障害が出現し ます。また、インスリンの分泌が低下すると糖尿病になります(「よくある質問 4」参 照)。とくに、膵臓の病気の進行とともに出現する糖尿病を膵性糖尿病といいます。膵 性糖尿病には慢性膵炎や膵癌だけではなく、膵臓を手術により切除したために発症 した糖尿病なども含まれます。膵臓にはランゲルハンス島(図 1 参照)という内分泌 細胞の集団が散在し(「よくある質問 2」参照)、膵臓全体の約 1 ∼ 5 %を占めてい ます。内分泌細胞は主に、血糖を低下させるインスリンと、血糖を上昇させるグル カゴンを分泌して、血糖の調節をしています。通常の糖尿病(2 型糖尿病)ではイン スリンの分泌が低下し、グルカゴン分泌は増加しますが、慢性膵炎による糖尿病は インスリンの分泌低下に加え、グルカゴンの分泌も低下していることが異なってい ます(「よくある質問 4」参照)。たとえば、慢性膵炎に糖尿病を合併している患者さ んでは、1 日の血糖値の変動が大きく、低血糖をおこしやすいといわれています。さ らに、見かけ上は血糖コントロールが良好な場合でも、十分な消化酵素薬の投与によ り消化吸収を改善させると糖尿病のコントロールが悪化することがあります。栄養 状態改善のためには十分な消化酵素を内服したうえでの血糖コントロールが大変重 要です(図 2 参照)。また、最近の報告では、慢性膵炎にともなう糖尿病では通常の糖
よくある質問
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お答えします
慢性膵炎の糖尿病は普通の糖尿病と違いますか?
●
インスリン分泌だけでなく、グルカゴン分泌も低下する特徴があり
ます。
●
治療中の血糖値が安定しにくく、低血糖をおこしやすい糖尿病です。
●
糖尿病合併症では網膜症の発症頻度が通常の糖尿病にくらべ低いと
いわれています。
解 説
図 2 慢性膵炎では消化吸収力が低下する 正常の人 膵臓の力(膵酵素分泌能) 慢性膵炎の 患者さん 消化酵素薬なし 十分な 消化酵素薬 正常 低下 慢性膵炎で膵臓の消化酵素分泌の力が低下すると、食事をしても十分には消化吸収されず、厳しいダイ エットをしているのと同じ状態になるため、血糖コントロールは一見よくみえます。しかし、これでは栄養状態 が悪く、免疫能も落ちてしまいます。そこで、膵消化酵素薬を内服すると、十分に消化吸収できるようになり ますが、血糖コントロールは悪化します。しかし、この状態で糖尿病を治療することが重要なことなのです。 糖尿病治療 が重要 図 1 顕微鏡による膵臓の組織像 矢印がランゲルハンス島。ランゲルハンス島から血糖を調節する インスリンおよびグルカゴンが分泌される。
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慢性膵炎の診断方法
臨床症状が慢性膵炎診断の手がかりになります(「よくある質問 8」参照)。痛み が主な症状の場合、差し込む痛みか、鈍い痛みか、食事との関係、さらに痛みの部 位、程度、期間、回数なども重要な情報となります。慢性膵炎が疑われる症状を持 つ人には、一般検査として採血・採尿、腹部 X 線検査をおこないます。血液検査で はアミラーゼやリパーゼなど消化酵素(膵酵素)の値を調べます。膵臓に炎症がおこ ると、一般にこれらの値が上がりますが、進行した慢性膵炎では値が上昇するとは かぎらないので、この検査だけでは慢性膵炎の診断は確定できません。尿検査でも、 血液と同じく尿中消化酵素が上昇します。 膵臓の機能を調べるためには、膵液中の消化酵素の働きで分解される検査薬(BT-PABA)を飲んで、尿中に排泄される分解物の量を測定する PFD 検査をおこないま す。この検査によっておおよその消化機能の低下がわかります(「よくある質問 13」 参照)。 画像検査としては、腹部超音波検査(US)、コンピューター断層撮影(CT)検査、 磁気共鳴映像法(MRI)などがあり、膵臓のかたちや膵管の状態を調べます。精密検 査として内視鏡超音波(EUS)があります。EUS は内視鏡の先端に超音波装置を組1
よくある質問
11
11
お答えします
慢性膵炎はどのように診断するのですか?
人間ドックで見つかりますか?
●
臨床症状をよく聞き、一般検査、膵機能検査や画像検査によって総
合的に診断します。
●
血液や尿検査ではアミラーゼなど消化酵素(膵酵素)値の異常が診断
の手がかりになります。
●
画像検査の精密検査には CT、MRI、EUS や ERCP が用いられます。
解 説
み込んだもので、胃や十二指腸内から膵臓を観察する検査法です。EUS で膵臓を検 査すると、US では腸管内のガスなどでみえにくい膵頭部や尾部も、比較的明瞭に みえるため、膵の小さい変化が観察できます。内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP) は膵管に造影剤を注入して、膵管のかたちをレントゲンに映し、狭くなっているか、 拡張しているか、不規則かどうかなど、膵管の変化を調べることができます。どち らも高度な技術を要し、熟練した専門家がおこないます。ERCP の代わりに、MRI 装置を用いた MR 胆管膵管撮影(MRCP)も用いられています。 「慢性膵炎臨床診断基準 2009」(表参照)によると慢性膵炎は、確診例、準確診 例、早期慢性膵炎例に分類されます。この臨床診断基準では、症状やアミラーゼの 異常、飲酒の要素を考慮して診断する早期慢性膵炎の基準がしめされていますので、 早期の慢性膵炎が診断され、治療できることが期待されています。
人間ドックで見つかるか?
詳しい人間ドックでは採血・採尿検査以外に US もおこなわれます。採血・採尿 検査では、血中・尿中アミラーゼの異常高値やまれに異常低値でチェックされるこ とがあります。異常値が直ちに慢性膵炎というわけではなく、US、CT やさらに精 密な検査をおこなうための手がかりになります。ドックの US で膵石が確認されれ ば慢性膵炎と診断されますが、早期の診断はかなり困難です。2
3:慢性膵炎の診断について 慢性膵炎確診:a、b のいずれかが認められる a.①または②の確診所見 b.①または②の準確診所見と、③④⑤のうち 2 項目以上 慢性膵炎準確診: ①または②の準確診所見が認められる 早期慢性膵炎: ③∼⑥のいずれか 2 項目以上と早期慢性膵炎の画像所見が認められる 慢性膵炎の診断項目 ①特徴的な画像所見 ②特徴的な組織所見 ③反復する上腹部痛発作 ④血中または尿中膵酵素値の異常 ⑤膵外分泌障害 ⑥1日80g以上(純エタノール換算)の持続する飲酒歴 注 ①②のいずれも認めず、③∼⑥のいずれかのみ 2 項目以上有する症例のうち、他の疾患が否定されるものを慢 性膵炎疑診例とする。疑診例には 3 ヵ月以内に EUS を含む画像診断を行うことが望ましい。 注 ③または④の 1 項目のみ有し早期慢性膵炎の画像所見を示す症例のうち、他の疾患が否定されるものは早期慢 性膵炎の疑いがあり、注意深い経過観察が必要である。 付記.早期慢性膵炎の実態については、長期予後を追跡する必要がある。 (厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究班、日本膵臓学会、日本消化器病学会:膵臓 24:645-646、2009)膵臓の病気
慢性膵炎とまぎらわしい症状をあらわす病気(図参照)には、膵臓におこる病気と 膵臓以外の病気があります。膵臓の病気では、膵癌はもっとも注意しなければなら ないものです(「よくある質問 3」参照)。膵癌は早期発見がむずかしく予後不良の 病気です。腹部や背中の痛み、食欲不振、体重減少が主症状です。CA19-9 や CEA などの腫瘍マーカーとよばれる血液検査が参考になることがありますが、採血検査 だけで慢性膵炎と見分けるのは困難で、腹部超音波検査(US)やコンピューター断 層造影(CT)検査が必要です。場合によっては、さらに詳しい検査として MR 胆管 膵管撮影(MRCP)、内視鏡超音波(EUS)、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)、 ポジトロン断層法(PET)などをおこないますが、これらの検査を用いても診断が確 定しにくい、区別がつきにくいこともあります(「よくある質問 11」参照)。慢性膵 炎と症状が似るほかの膵臓の病気に、急性膵炎があります。急性膵炎の多くは急激 に激しい腹痛、腹部膨満感や背部痛が出現し、病院を受診します。重症例では生命 の危険をともなうような場合があります。急性膵炎の中には、すでに存在する慢性 膵炎の急性増悪の場合もあります。1
よくある質問
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お答えします
慢性膵炎とまぎらわしい病気にどのようなもの
がありますか?
●
慢性膵炎とまぎらわしい症状をあらわすもっとも注意しなければな
らない病気として、膵癌があります。
●
膵臓以外の胃や胆嚢の病気でも、慢性膵炎とまぎらわしい症状があ
らわれることがあります。
●
明らかな病気が見つからないのに腹部症状をあらわす機能性胃腸症
の患者さんの中に、慢性膵炎が見つかることがあります。
解 説
膵臓以外の病気
膵臓以外の病気で上腹部痛をおこすものとして、上部消化管の病気では胃炎、胃 潰瘍、胃癌や十二指腸潰瘍など、胆嚢たんのうの病気では胆石症や胆嚢炎があります。これ らは内視鏡検査や画像検査をおこなうことで慢性膵炎との区別が可能となります。 慢性膵炎とまぎらわしい症状があらわれるほかの病気に、機能性胃腸症や過敏性腸 症候群などがあります。機能性胃腸症では、一般検査や上部消化管内視鏡などの検 査で明らかな異常がないにもかかわらず、上腹部の痛み、もたれ感、胸やけや食後 の不快感などの症状が出ます。一方、過敏性腸症候群では、大腸の内視鏡検査など で炎症やポリープ、癌といった病気が見つからないにもかかわらず、下腹部痛や頻 回の下痢、便秘などの症状がみられます。このような機能性疾患の患者さんの中に は、十分な膵臓の検査をおこなうと、これまで診断されなかった慢性膵炎が見つか ることがあります。機能性胃腸症や過敏性腸症候群とされた患者さんでも、症状が 長引く場合は膵臓の検査をしてもらう必要があります。2
3:慢性膵炎の診断について ・胃炎 ・胃潰瘍 ・胃癌 ・十二指腸潰瘍 ・胆石症 ・胆嚢炎 ・過敏性腸症候群 ・膵癌 ・急性膵炎 ・機能性胃腸症膵臓には、消化酵素(膵酵素)(表 1 参照)を消化管に分泌して食べ物を消化する 働き(外分泌)と、消化管から吸収されたブドウ糖をうまく利用するため、インスリ ンというホルモンを分泌する働き(内分泌)がありますので、外分泌機能と内分泌機 能を調べる必要があります。
膵外分泌機能の検査
膵臓は、消化酵素とともに胃酸を中和するために、重炭酸イオンを含んだアルカ リ性の膵液を十二指腸の中に分泌します(「よくある質問 2」参照)。膵液中の消化 酵素の量と重炭酸イオン濃度を測定すると、膵外分泌機能を正確に診断することが できます。しかし、この検査はほとんどおこなわれていません。慢性膵炎のために 消化酵素の分泌が低下すると、まず脂肪の消化と吸収が悪くなります。その結果、 脂肪分の多い食事をしたあとに脂肪便が出現します。便の中の脂肪や消化酵素を測1
よくある質問
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お答えします
膵臓の働きを調べるのにどのような検査があり
ますか?
●
膵外分泌機能は、脂肪便の有無と BT-PABA 試験で判定します。
●
膵内分泌機能は、血糖、HbA1c とブドウ糖負荷試験で判定します。
解 説
表 1 おもな消化酵素(膵酵素)と分解される栄養素 消化酵素(膵酵素) 分解される栄養素 アミラーゼ 炭水化物 トリプシン 蛋白質・ペプチド(塩基性アミノ酸) キモトリプシン 蛋白質・ペプチド(芳香族アミノ酸) エラスターゼ 蛋白質・ペプチド(エラスチン) リパーゼ 脂質(トリグリセリド)定すると膵外分泌機能の低下の程度を判断できます。もうひとつの検査法(BT-PABA 試験)では、キモトリプシンという蛋白質を消化する消化酵素によって分解 される薬(BT-PABA)を飲んでもらい判定します(図 1 参照)。正常な人ではこの薬 は消化酵素によりほぼ完全に分解され、PABA が吸収され、6 時間のあいだに 90 % 以上が尿へ排泄されます。しかし、膵臓の働きが悪くなると、この薬を分解する力 が落ちるため、尿の中に一部しかでてきません。このような簡便検査では膵臓の外 分泌機能がかなり悪くならないとわかりません。また、膵臓の機能がよいにもかか わらず悪いと判定されてしまうこともあります。一度の検査で膵外分泌機能が悪い と判定されても、慎重に再度、確認する必要があります。
膵内分泌機能の検査
慢性膵炎が進行すると内分泌腺(ランゲルハンス島)の働きも悪くなり糖尿病を合 併します(「よくある質問 2」参照)。慢性膵炎に合併した糖尿病は膵性糖尿病とい われ、通常の糖尿病と異なり、インスリンの分泌だけでなく、グルカゴンの分泌も 悪くなっています(「よくある質問 10」参照)。通常の糖尿病と同じように、膵性糖 尿病でも血糖(ブドウ糖)の測定と、長期間の血糖値の指標である HbA1c(グリコ ヘモグロビン)などを測定することにより診断します(図 2 参照)。血糖や HbA1c の値が境界領域の場合には、ブドウ糖の入った液を飲んだあと、30 分ごとに採血2
3:慢性膵炎の診断について PABA PABA PABA 尿量 6h PABA BT−PABA 0.5g 200mL PABA PABA PABA BT BT−PABAPABA BT−PABA キモトリプシン キモトリプシン キモトリプシン 慢性膵炎では消化酵素(キモトリプシン)の分泌が低下しているので、検査薬(BT-PABA)の分解が低下 し、尿へのPABAの排泄が低くなります。 (成瀬達:慢性膵炎診断.図説消化器病シリーズ14 膵炎、膵癌、早川哲夫編、メジカルビュー社、p101-120、2001より)図 2 糖尿病の臨床診断基準(日本糖尿病学会 2010 年) 血糖値のみ 糖尿病型 血糖値とHbA1c ともに糖尿病型 HbA1cのみ 糖尿病型 再検査 (血糖検査は必須)再検査 糖尿病 糖尿病の典型的症状 確実な糖尿病網膜症 のいずれか なし あり 血糖値と HbA1c ともに糖尿病型 血糖値 のみ 糖尿病型 HbA1c のみ 糖尿病型 いずれも 糖尿病型 でない 血糖値と HbA1c ともに糖尿病型 血糖値 のみ 糖尿病型 HbA1c のみ 糖尿病型 いずれも 糖尿病型 でない 糖尿病 糖尿病 糖尿病疑い 糖尿病疑い 3∼6 ヵ月以内に血糖値・HbA1cを再検査 なるべく 1 ヵ月以内に 糖尿病型:血糖値(空腹時≧126mg/dL、OGTT 2時間値≧200mg/dL、随時≧200mg/dLのいずれか) HbA1c(JDS値)≧6.1%[HbA1c(国際標準値)≧6.5%] HbA1c(国際標準値)(%)は現行のJDS値で表記されたHbA1c(JDS値)(%)に0.4%を加えた値で表記する。 (糖尿病 53(6):450-467、2010より改変) 図 3 経口ブドウ糖負荷試験 100 200 300 120 分 90 60 30 0 血糖 mg/dL 膵性糖尿病 健常人 10 0 30 50 40 20 120 分 90 60 30 0 イン ス リ ン mU/mL 膵性糖尿病 健常人 慢性膵炎ではブドウ糖刺激に対するインスリンの分泌が低下しているので、高血糖になります。 75gブドウ糖負荷試験の判定区分 糖尿病型 空腹時血糖値≧126mg/dL または 2時間血糖値≧200mg/dL 境界型 糖尿病型でも正常型でもないもの 正常型 空腹時血糖値<110mg/dL かつ 2時間血糖値<140mg/dL
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慢性膵炎は経過の長い病気です。その症状は、病気の進み具合やさまざまな合併 症で変化しますので治療法も異なってきます。慢性膵炎の治療法は、生活指導とと もに食事治療、薬物治療が基本で、外来通院治療が主体ですが、場合により内視鏡 治療や外科的手術も必要となります。したがって、入院治療の繰り返しが必要とな る場合もあります。
慢性膵炎が軽度な時期(代償期)の治療
膵臓の組織変化が軽度で膵外内分泌機能が比較的保たれている時期(代償期といっ ています)では主たる症状は腹痛です(「よくある質問 8」参照)(図参照)。腹痛の程 度は、数日間の食事制限だけで改善する程度のものから、入院治療を必要とする急 性膵炎と同様の発作までさまざまです。この時期は腹痛などの症状緩和対策として 薬による治療(「よくある質問 16」参照)はもちろん必要ですが、食事を含めた生活 習慣上の改善策として禁酒と脂肪摂取制限が基本治療として重要で、膵炎発作の防 止にも役立ちます。進行した慢性膵炎の治療
慢性膵炎が進行すると、膵外分泌腺(腺房細胞)の減少と線維化の進行により膵臓2
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よくある質問
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お答えします
慢性膵炎の治療は時期によって違いますか?
●
腹痛を主な症状とする時期の治療は、禁酒と脂肪摂取制限が基本です。
●
消化吸収不良に対しては膵消化酵素薬の内服、糖尿病に対してはイ
ンスリン治療をおこないます。
●
慢性膵炎の進展阻止のためには断酒を基本とし、内視鏡治療や外科
的手術などをおこないます。
解 説
自体の萎縮や膵石が生じてきます。この時期には膵外分泌とともに膵内分泌機能が 徐々に低下し、機能不全に陥り、脂肪便が顕性化するとともに糖尿病になります。 体型的には“るいそう(病的なやせ)”で、インスリン治療でなければコントロール できない膵性糖尿病となります(このような状態を非代償期といいます)(「よくある 質問 8」参照)。消化酵素分泌不全の結果、各種栄養素を摂取しても吸収されずに便に 出てしまうので、大量の膵消化酵素薬を食事毎に内服する必要があります。このよう な状態に陥らないようにするための進展阻止対策の基本は、断酒(禁酒をつづける こと)です。頻回の腹痛発作の繰り返しは明らかに慢性膵炎の進行を早めますので、 早期から原因除去が必要です。膵液の流れを妨げる膵管狭窄 きょうさく 、膵管内蛋白栓、膵石 などがあれば内視鏡治療をおこないます。膵石に対しては体外衝撃波結石破砕療法 (extracorporeal shock-wave lithotripsy:ESWL)(「よくある質問 17」参照)
を併用する場合もあります。膵嚢胞のうほう、胆道狭窄などの合併症に対してはドレナージ (嚢胞にたまった液体や胆汁などを身体の外あるいは腸管内に流してやること)や内 視鏡治療、場合によっては外科的手術が必要となります(「よくある質問 20」参照)。 進行の仕方は生活様式、飲酒歴を含めた生活習慣、遺伝的素因などを反映して個 人差が大きく、治療に対する反応性も一定ではありません。治療の目的は、単に腹痛 を軽減する、できるかぎり入院を回避するなどの短期的な患者さんの生活の質(qual-ity of life:QOL)を考慮するだけではなく、非代償期への進展阻止、さらには生 命予後にかかわる糖尿病への移行をいかに阻止するかという長期展望も大切です。 4:慢性膵炎の治療について ①急性再燃時における対策 内科的 急性膵炎に準じた保存療法 外科的 合併症などに対する手術 ②間欠的における対策 臨床症状に対する対策 急性再燃の予防 内科的 日常生活の管理 外科的 合併症および膵炎進展因子除去のための処置 臨床経過 治療方針 発症 腹痛(−) 発作の繰り返し 膵機能不全 糖代謝障害 消化吸収障害(やせ、下痢) (慢性膵炎の治療指針改訂について、厚生省特定疾患難治性膵疾患調査研究班) 代償期 ②③ 移行期 慢性膵炎の臨床病期と治療方針 ③膵機能荒廃に対する対策 糖尿病のコントロール 消化吸収機能の補助 欠乏栄養素の補充 非代償期 禁酒と脂肪制限食 腹痛(+) 大量飲酒の継続(10年以上)
飲酒、喫煙、脂肪過剰摂取は厳禁
飲酒と喫煙は慢性膵炎の発症率を高めるだけでなく、慢性膵炎を加速度的に進行 させる危険因子です。大量飲酒の継続は慢性膵炎のもっとも多い原因のひとつです (「よくある質問 7」参照)。1 日の飲酒量が純エタノール換算にして 80 g 以上(日 本酒で 4 合弱、ビールで中瓶 4 本)の連日飲酒は明らかな発症因子です(図 1 参 照)。典型例では、20 歳代から大量飲酒を継続すると 40 歳代で腹痛などの症状が 出現し、非常に早い経過で非代償期の慢性膵炎(「よくある質問 8」参照)に進展し ます(図 2 参照)。日常生活における飲酒、暴飲暴食、脂肪の摂り過ぎは慢性膵炎の 腹痛発作の誘因となります。この膵炎発作は短期間の食事制限だけで回復するもの から、入院治療を要するものまでその程度はさまざまです。発作を繰り返すと膵の 線維化が確実に進行します(「よくある質問 4」参照)ので、飲酒、喫煙、暴飲暴食、 脂肪の摂り過ぎには注意しなければなりません。非アルコール性の特発性慢性膵炎 では喫煙が重要な増悪因子のひとつです。したがって、慢性膵炎と診断された場合、 これら増悪因子を日常生活からできるかぎり排除する努力が必要です。血中あるい は尿中消化酵素(膵酵素)が上昇し、腹痛などの症状が出現する時期こそ、飲酒、喫 煙、脂肪摂取過剰を避けることが大切です。腹痛の繰り返しがなくなれば少量の食 物油や脂身の少ない魚類から脂肪を最低限摂取することも必要です。膵画像検査で1
よくある質問
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お答えします
慢性膵炎にはどのような食事や生活習慣が勧め
られますか? 肉など脂肪を摂ってはいけませ
んか? 酒を飲んではいけませんか?
●
飲酒と喫煙は慢性膵炎の進行を早める危険因子です。
●
暴飲暴食、脂肪の摂り過ぎは慢性膵炎の腹痛発作の誘因となります。
●
非代償期には栄養状態を維持するために適当量の膵消化酵素薬を内
服しながら、脂肪も摂取します。
解 説
軽度でも膵管拡張所見が出現すれば断酒し、増悪因子を除去しなければなりません。