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密教研究 Vol. 1928 No. 28 002加地 哲定「文鏡秘府論概説 (二) P23-62」

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(二

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三 四 聲 論 文 鏡 秘 府 論 の 内 容 を 、 四 聲 及 び そ の 文 學 上 の 運 用 と 、 封 屬 及 び 駐 四 儷 六 の 文 體 と 、 詩 文 の 格 式 文 筆 體 裁 等 と に 別 つ て 論 究 し て 見 や う と 思 ふ 。 先 づ 四 聲 及 び そ の 文 學 上 の運 用 か ら 初 め る 、 而 し て そ の 四 聲 を 叙 す る に 先 だ ち 聲 韻 の 説 の 概 况 か ら 述 べ ね ば な らめ 。 支 那 の 文 字 を 研 究 す る も の 、 文 字 を 大 要 三 類 に 別 つ て ゐ る 、 一 つ は 文 字 の 形 で あ り 、 二 つ は 文 字 の 聲 で あ り 、 三 つ は 文 字 の 義 で あ る 、 文 字 の 形 は 説 文 解 字 を 主 と な し 漢 魏 の 碑 、 金 石 の 文 、 近 く は 殷 墟 出 土 の 竈 甲 文 を 参 考 し て 研 究 し て ゐ る 、 文 字 の 義 は 爾 雅 、 説 文 解 字 を 主 と な し 廣 雅 、 釋 名 、 方 言 、 並 に 三 代 秦 漢 の 諸 書 を 輔 け と し て 研 究 し て ゐ る 、 文 字 の 聲 に 至 つ て は 古 來 、 形 と 義 と の や う に 注 意 せ ら れ す 、 或 は 説 文 の 諧 聲 、 漢 魏 有 韻 の 文 に 就 い て 古 音 を 研 究 す る も の あ り 、 或 は 廣 韻 、 集 韻 等 に 就 い て 韻 書 を 研 究 す る も の あ り と す る も 、 共 に 比 較 的 後 代 に 屬 す る も の で あ る 。 文 鏡 秘 府 論 概 設 二 三

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文 鏡 秘 府 論 概 説 二 四 抑 字 音 の 研 究 せ ら るゝ に 至 つ た の は 漢 儒 訓 話 の 研 究 に 籾 ま る の で あ る 、 然 も 其 當 時 未 だ 反 切 の 發 明 あ ら す 、 譬 况 假 借 の 方 法 に 依 て 字 昔 を 寫 し た も の で あ る 、 顔 之 推 ﹁ 家 訓 ﹂ 音 辭 篇 に 、 逮 鄭 玄 註 六 経 、 高 誘 解 呂 覧 、 淮 南 許 愼 造 説 文 、 劉 喜 製 釋 名 、 始 有 譬 况 假 借 、 以 證 音 字 。 と 日 へ る も の 是 れ で あ る 、 而 し て 唐 の 張 守 節 ﹁ 史 記 正 義 論 音 例 ﹂ に 、 先 儒 音 字 、 比 方 爲 音 。 と 日 へ る 比 方 は 猶 譬 况 と 同 一 で あ る 。 假 借 と は ﹁ 讀 與 某 同 ﹂ ﹁ 某 字 音 某 字 ﹂ と 日 へ る 如 く 今 解 せ ん と す る 字 と 同 音 の 他 の 字 を 假 り て そ の 音 を 表 は す 方 法 で あ り 、 譬 况 と は ﹁ 讀 若 某 ﹂ ﹁ 某 字 若 某 字 ﹂ と 日 へ る 如 く 類 似 の 音 を 以 て 表 は す も の で あ る 。 ﹁ 若 ﹂ は 猶 相 似 だ り と 日 ふ が 如 く で あ る 。 漢 儒 專 ら 此 の 方 法 に 依 て 字 音 を 表 し た の で あ る が 、 然 も 或 は 同 音 の 字 な け れ ば 此 の 法 窮 し 、 同 音 の 字 あ り と す る も 、 應 僻 難 識 な れ ば 又 窮 す 、 何 等 か の 方 法 に 依 つ て 、 之 れ を 償 は ね ば な ら な か つ た 、 反 切 は 實 に 此 の缺 陥 を 補 ふ 爲 に 起 つ た の で あ る 。 ( イ ) 反 切 顔 之 推 ﹁ 家 訓 ﹂ 、 音 僻 篇 、 陸 徳 明 ﹁ 維 典 釋 文 叙 録 ﹂ 、 張 守 節 ﹁ 史 記 正 義 論 音 例 し 、 並 に 皆 反 語 を 魏 の 孫 炎 の 始 む る 所 と 日 つ て ゐ る 、 孫 炎 字 は 叔 然 、 學 を 鄭 玄 の 門 に 受 け 、 東 州 の 大 儒 と 稱 せ ら れ た 、炎 嘗 て ﹁ 爾

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雅 音 義 ﹂ を 創 め 、 文 字 に 音 を 附 す る に 此 の 法 を 採 つ た 、 反 切 は 此 れ に 始 ま る と 稱 せ ら れ て ゐ る 。 `然 る に 反 切 の 起 原 に 就 て は 古 來 異 説 が あ る 、 そ れ は 反 切 が 梵 語 の 學 の 影 響 に 依 つ て 起 つ た と 見 る 説 と 、 全 然 支 那 獨 特 の 發 明 に 依 る と 見 る 説 と で あ る 、 宋 の 鄭 樵 の ﹁ 通 志 ﹂ 藝 文 略 に 曰 く 、 切 韻 學 起 自 西 域 舊 所 傳 十 四 字 貫 一 切 音 謂 之 婆 羅 門 書 。 と 、 即 ち 反 切 は 西 域 字 母 の 説 に 基 づ く も の だ と 日 つ て ゐ る 、 こ の 鄭 樵 の 説 は 盖 し 所 據 が あ つ た 、 宋 の 沈 括 の ﹁ 夢 漢 筆 談 ﹂ 藝 文 の 條 下 に 、 音 韻 之 學 、 自 沈 約 爲 四 聲 及 天 竺 梵 學 入 中 國 、 其 術 漸 密 。 と あ る 、 鄭 樵 は 實 に 此 の 沈 括 の 説 を 所 擦 こ し た の で あ る 、 鄭 樵 よ り 後 、 反 切 梵 語 の 影 響 に 依 る と す る 説 を な す も の 陳 直 齋 の ﹁ 書 録 解 題 ﹂ 及 び 紀 文 達 公 が あ る 。 (紀 胸 與 余 存 吾 太 史 書 ) 然 る に 清 の 陳 濃 の ﹁ 切 韻 考 ﹂ 通 論 の 中 に は 反 切 佛 書 の 學 の 影 響 に 依 る に 非 す と し 、 ﹁ 夢 漢 筆 談 ﹂ ﹁ 通 志 ﹂ 等 の 説 を 破 し 、 反 切 と 等 韻 (切 韻 ) と を 分 別 し 、 反 切 前 に 在 り 、 等 韻 後 に 在 り 、 等 韻 の 源 梵 書 に 出 で 、 反 切 は 支 那 固 有 の も の だ と 日 つ て ゐ る 、 清 の 碩 儒 顧 炎 武 も 亦 ﹁ 音 學 五 書 ﹂ を 著 し 、 そ の 音 論 に 於 て 漢 よ り 以 前 既 に 反 切 の 語 の あ つ た 事 を 述 べ て ゐ る 、 炎 武 乃 ち 沈 括 の ﹁ 夢 漢 筆 談 ﹂ が 、 古 ﹁ 何 不 ﹂ を ﹁ 盍 ﹂ と な し ﹁ 不 可 ﹂ を ﹁ 回 ﹂ と な し 、﹁ 如 是 ﹂ を ﹁ 爾 ﹂ と な し 、 ﹁ 而 己 ﹂ を ﹁ 耳 ﹂ と な し 、 ﹁ 之 乎 ﹂ を ﹁ 諸 ﹂ と な す が 如 く 、 古 語 既 に 二 聲 を 合 し て 一 字 と な す の 例 あ り と 認 む る 説 を 引 證 し 、 又 鄭 樵 が 慢 聲 と 急 聲 と を 以 て 古 語 の 二 字 合 文 鏡 秘 府 論 概 説 二 五

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文 鏡 秘 府 論 概 説 二 六 し て 一 字 と な す の 例 あ り ご す る 説 を 引 き 來 り 、 彼 自 身 も 亦 経 傳 を 考 し , 周 秦 の 頃 既 に 二 字 合 し て 一 字 と な す の 例 あ り と て ﹁疾 黎 ﹂ を ﹁ 茨 ﹂ と 爲 し ﹁ 不 律 ﹂ を ﹁ 筆 ﹂ と 爲 す 等 數 十 條 の 例 を 擧 げ て 、 佛教 渡 來 巳 前 既 に 反 切 の 中 國 に 在 つ た 事 を 述 ベ て ゐ る 、 近 時 餘 杭 の 章 炳 麟 も 亦 反 切 東 漢 の 代 に 既 に 大 に 行 は れ 、 孫 叔 然 始 め て 之 れ を 爾 雅 音 義 に 應 用 し た と 日 つ て ゐ る 。 反 切 の 法 、 果 し て 佛 書 の 學 の 影 響 に 依 る や 否 や 、 之 れ 元 よ り 大 疑 問 で あ る 、 陳 直 齋 書 録 解 題 に 云 へ る 如 く 、 反 切 の 學 西 域 よ り 中 國 に 入 る と 日 ふ も 、 元 よ り 何 等 證 據 と な る 文 献 が な い 、 又 鄭 樵 の 通 志 の 如 く 、 反 切 が 字 母 の 學 の 影 響 に 依 る と す る も 孫 炎 字 母 に 依 つ て 反 切 を 發 明 せ り と 日 ふ 何 等 の 證 據 も な い 、 假 令 竺 法 護 が 光 讃 般 若經 を 譯 し 始 め て 四 十 一 字 母 を 傳 へ た と は 日 へ 、 又 涅 槃 経 の 十 四 字 本 既 に 傳 は つ た と す る も 、 こ れ 晋 已 後 の 事 で あ つ て 、 魏 の 孫 炎 の 反 切 と 如 何 な る 關 係 が あ る か 疑 問 で あ る 。 字 母 是 の 如 く 反 切 に は 直 接 影 響 あ り し と は 断 定 出 來 ず 、 又 影 響 あ り と す る も 何 等 の 積 極 的 證 據 は な い 、 然 ら ば 反 切 は 梵 書 の 學 と 全 く 關 係 が な い で あ ら う か 、 そ う も 日 へ な い 、 何 故 な れ ば そ の 二 字 合 し て 一 字 と な す 事 、 梵 語 の 所 謂 二 合 に 似 て ゐ る か ら で あ る 、 又 當 時 梵 本 陀 羅 尼 の 音 譯 に は 支 那 在 來 の 文 字 の 昔 の み を 以 て 表 は す 事 を 得 す 、 種 々 の 工 夫 を 回 ら し た や う で 、 或 は 文 字 の 片 勇 を 切 り て 接 合 し 或 は 二 字 合 せ て 發 音 し た や う で あ る 、 明 の 趙 宦 光 も 、 釋 典 譯 法 眞 言 中 此 方 無 字 可 當 梵 音 者 、 即 用 二 字 聚 作一 體 、 謂 之 切 身 、 乃 古 人 自 反 之 字 則 巳 先 有 之 矣 。

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と 日 つ て ゐ る 、 且 つ 此 れ を 文 字 の 音 の 上 よ り 考 ふ る も 、 文 字 を 子 音 と 母 音 と に 區 別 し て 考 ふ る 如 き 事 は 、 支 那 に は 本 よ り 無 か つ た 事 で 、 六 書 の 中 に も こ ん な 事 は な い 、 こ れ 明 か に 昔 表 文 字 た る 梵 語 の 影 響 と 見 る 事 が 出 來 る 、 私 か に 思 ふ 、 孫 炎 の 反 切 亦 此 の 二 合 の 法 に 暗 示 を 得 、 切 身 の 法 を 採 用 し て 反 切 の 法 を 考 へ 得 た る に 非 ざ る か 、 且 つ 反 切 の 法 に 紐 聲 の 反 昔 、 雙 聲 の 反 昔 の 二 種 が あ る 、 安 然 の 悉 曇 藏 第 四 に 曰 く 、 儒 家 反 音 略 有 二 種 、 一 紐 聲 反 、 二 雙 聲 反 、 今 悉 曇 反 音 亦 有 二 種 、 用 本 字 音 、 是 紐 聲 反 、 用 麼 多 音 , 是 雙 聲 反 。 と 、 即 ち そ の 法 も 亦 類 似 す る 所 が あ つ た や う で あ る 、 二 字 合 し て 一 字 と し て 發 音 す る 例 、 本 よ り 周 秦 の 時 よ り あ つ た と す る も 、 孫 炎 に 至 つ て 更 ら に 此 れ に 梵 語 の 學 を 参 照 し 、 一 層 組 織 的 の も の と せ る に 非ど る か 、 こ れ 本 よ り 想 像 で は あ る が 、 或 は か く 考 へ ら れ な い 事 も な い 。 さ て 然 ら ば そ の 反 切 と は 如 何 な る 方 法 で あ る か 、 日 ふ ま で も な く そ れ は 既 知 の 音 二 字 を 以 て 未 知 の 一 字 音 を 求 む る の 法 で あ る 、 孫 炎 の 書 今 佚 し て そ の 原 形 を 見 る 事 は 出 來 な い が 、 彼 れ の 反 語 の 例 ﹁ 経 典 釋 文 ﹂ ﹂ に 見 ゆ る も の尚 數 十 條 あ る 、 今 経 典 釋 文 の 例 を 取 れ ば 、 潭 、 徒 南 反 。 即 ち 既 知 の 音 、 徒 と 南 と の 二 字 を 合 し て 未 知 の 潭 の 一 字 音 を 知 ら ん と す る 法 で あ る 、 而 し て そ の 徒 は 文 鏡 秘 府 論 概 説 二 七

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文 鏡 秘 府 論 概 説 二 八 ﹁ 子 音 ﹂ を 代 表 し 、 南 は ﹁ 韻 尾 ﹂ を 代 表 す 、 子 音 と は そ の 音 字 の 後 部 母 音 を 除 き た る 音 で あ り 、 韻 尾 と は 、 そ の 字 音 の 前 部 子 音 を 除 き た る 一音 で あ る 、 即 ち 徒 は ト の オ を 去 り た る 音 を 代 表 し 、 南 ナ ン の ナ を 去 り た る ア ン を 代 表 す 、 此 く し て そ の ト と ア ン (き ) と を 結 合 し て タ ン の 音 を 得 、 而 し て そ の 塲 合 反 切 の 下 部 の 一 字 と 兩 字 結 合 し て 出 來 だ 新 字 と は 常 に 韻 種 を 同 ふ す る も の で あ る 。 孫 炎 に 依 つ て 唱 へ ら れ た 此 の 反 語 は 後 世 盛 ん に 用 ひ ら れ 、 南 北 朝 の 頃 に は 宮 殿 の 名 、 佛 閣 の 門 名 、 民 謡 に ま で 反 語 を 用 ひ ら れ 、 初 學 先 づ 反 語 を 學 ぶ 事 を 必 須 の 要 件 と さ れ た 、 而 し て 反 切 の 名 、 孫 叔 然 が 法 を 立 て た る 時 は こ れ を 唯 ﹁ 反 ﹂ と 日 ひ 、﹁ 切 ﹂ と は 日 は な か つ た が 、 東 晋 及 び 北 朝 の 時 ﹁ 切 ﹂ の 字 が 用 ひ ら れ 、 孫 価 の ﹁ 唐 韻 ﹂ に も 切 と 日 ひ 、 後 に 又 此 れ を 合 し て 反 切 と 云 つ て ゐ る 、 其 他 ﹁ 翻 ﹂ と 日 ひ ﹁ 紐 ﹂ と 日 ふ 、 そ の 實 皆 一 で あ る 。 已 上 反 切 の 大 略 で あ る が 、 反 切 に は 一 つ の 條 件 が あ る 、 そ れ は 前 述 の 如 く 、 反 切 の 下 部 の 一 字 と 新 字 と は 常 に 韻 種 を 同 ふ す る と 日 ふ 事 で あ る 、 さ れ ば 反 切 と 韻 と に は 重 大 な 關 係 が な く て は な ら の 、 抑 ﹁ 韻 ﹂ と は 如 何 な る 事 で あ る か 。 ( 口 ) 音 韻 古 は 韻 と 日 ふ 事 は 日 は な か つ た 、 詩 の 序 に 、

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情 發 於 聲 聲 、 成 文 謂 之 音 。 と あ り 箋 に 此 れ を 解 し て 、 聲 謂 宮 商 角 徴 羽 也 、 聲 成 文 者 、 宮 商 上 下 相 應 。 と 日 つ て あ る が 、 此 の ﹁ 音 ﹂ と は 今 の 所 謂 ﹁ 韻 ﹂ の 事 で あ る 、 そ の 韻 の 名 の 初 め て 用 ひ ら れ た る は 晋 の 張 華 や 陸 機 巳 後 の 事 で あ る 。 (丈 心 雕 龍 聲 律 篇 及 顧 炎 武 音 論 参 照 ) 、 韻 は 實 に 反 切 の 發 明 に 伴 ふ て 當 然 起 る べ き 思 想 で あ つ た 。 周 秦 の 頃 未 だ 韻 書 な く 從 つ て そ の 時 代 の 音 韻 の 眞 相 は 詳 に す る 事 は 出 來 な い 、 近 く 三 百 年 來 、 此 の 古 音 を 治 む る も の 輩 出 し 、 詩 経 楚 辭 諸 子 秦 碑 等 用 韻 の 文 、 並 に 説 文 解 字 に 依 て 参 校 考 訂 し 、 此 の 時 期 の 昔 が 漸 く 明 に な つ た 。 降 っ て 兩 漢 の 頃 は 籀 篆 の 字 省 い て 隷 草 と な り 、 字 諧 清 亂 し 、 諧 聲 の 字 の 聲 も 亦 審 に す る を 得 す 、 而 も 韻 書 未 だ 起 ら す 、 從 つ て 字 音 に 標 準 な く 唯 性 情 に 任 せ て 變 易 作 文 し た の で あ る 。 魏 晋 南 北 朝 の 頃 に 至 つ て 始 め て そ の 弊 を 知 う 、 且 つ 反 切 の 發 明 に 件 ふ て 韻 書 と 日 ふ も の が 起 つ た 、 韻 書 を 作 る に は 逐 字 音 を 定 め 、 記 す る に 反 切 を 以 て し た も の で あ ら う が 、 此 の 時 代 の 韻 書 は 既 に 湮 滅 し て 今 存 す る も の が な い の で そ の 集 韻 の 法 を 知 る 事 が 出 來 な い 、 現 在 見 得 る も の 、 中 最 も 古 き も の は 宋 の 陳 彰 年 等 重 修 す る 所 の 廣 韻 で あ る が 、 之 れ と 古 の 韻 書 と 同 異 如 何 は 今 知 る 事 が 出 來 な い 。 文 鏡 秘 府 論 概 説 二 九

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文 鏡 秘 府 論 概 説 三 〇 學 者 皆 韻 書 の 沈 約 に 本 つ く 事 を 日 ひ 、 ﹁ 隋 書 ﹂ 経 藉 志 亦 沈 約 ﹁ 四 聲 ﹂ 一 巻 を 載 せ て ゐ る が 、 こ れ よ り 前 魏 に 李 登 あ り 、 ﹁ 聲 類 ﹂ 十 巻 を 著 し て ゐ る 、 隋 書 経 籍 志 に 、 聲 類 十 巻 、 魏 左 校 令 李 登 撰 。 と あ り 、 唐 の 封 演 著 す 所 の ﹁ 封 演 聞 見 記 ﹂ に も 、 魏 時 有 李 登 者 、 讓 聲 類 十 巻 、 凡 一 萬 一 千 五 百 二 十 字 、 以 五 聲 命 字 、 不 立 諸 部 。 と あ れ ば 李 登 の 聲 類 は 文 字 を 音 別 に 區 分 し た や う で あ る 、 降 つ て 晋 に 呂 静 あ り ﹁ 韻 集 ﹂ 六 巻 (隋 志 ) を 讓 し て ゐ る 、 魏 書 江 式 傳 に 曰 く 、 式 上 表 云 、 呂 忱 弟 静 、 別 放 故 左 校 令 李 登 聲 類 之 法 、 作 韻 集 五 巻 、 宮 商 角 徴 羽 各 爲 一 篇 。 と 、 即 ち 呂 静 の 韻 集 は か の 聲 類 に 倣 つ て 宮 商 角 徴 羽 に 別 ち た り と 日 へ ば 此 の 二 書 は 共 に 字 音 の 上 に 樂 調 を 参 考 し て 區 別 し た も の で あ ら う 。 そ の 後 齊 に 周 願 あ り 、 初 め て 四 聲 を 定 め ﹁ 四 聲 切 韻 ﹂ を 著 し 、 梁 の 沈 約 こ れ に 續 い て ﹁、 四 聲 ﹂ 一 巻 を 著 し た 、 此 れ よ り 後 四 聲 盆 盛 ん に 、 隋 の 陸 法 言 の ﹁ 切 韻 ﹂ あ り 、 唐 の 孫 価 の ﹁ 唐 韻 ﹂ あ り 、 宋 の 陳 彰 年 等 重 修 す る 所 の ﹁ 廣 韻 ﹂ あ り 、 昔 韻 の 學 は 此 れ よ り 盆 盛 に な つ た 。 前 記 の 如 く 韻 書 は 初 め 五 聲 を 以 て 分 類 し 、 周 瀬 沈 約 出 つ る に 及 ん で 、 四 聲 を 以 て 區 別 す る に 至 つ た 四 聲 と は 日 ふ ま で も な く 字 音 の 調 子 を 平 上 去 入 の 四 種 類 に 別 つ た も の で あ る 。

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さ て 茲 に 起 る 問 題 は 前 に 五 聲 の 分 類 法 あ り 、 後 に 四 聲 の 分 類 法 あ り 、 前 に 五 聲 を 以 て 文 字 を 分 類 す る 法 あ り し に 、 何 の 必 要 あ つ て 四 聲 の 分 類 法 を 發 明 す る に 至 つ た か 、 即 ち 四 聲 と 五 聲 と の 關 係 如 何 と 日 ふ 事 で あ る 、 此 の 問 題 の 解 決 に 先 つ て 四 聲 の 起 原 か ら 述 べ る 事 に す る 。 ( 八 ) 四 聲 反 切 と は 前 に 述 べ た や う に 前 の 一 字 は 子 音 を 取 り 、 後 の 一 字 は 韻 尾 を 取 つ て 新 た な る 一 音 を 得 る の 法 で あ る が 、 そこ に は 本 よ り 子 音 と 韻 尾 と の 二 つ の 概 念 が 含 ま れ て ゐ る 、 而 し て 此 の 子 音 と 韻 尾 と 日 ふ 二 っ の 概 念 か ら 、 そ の 甲 乙 二 字 の 前 部 の 子 音 の 相 等 し き 塲 合 と 、 甲 乙二 字 韻 尾 の 相 等 し き 塲 合 と が 考 へ ら れ る 、 そ の 二 字 子 音 の 相 等 し き も の を 雙 聲 と 日 ひ 、 二 字 韻 尾 の 相 同 し き も の を 疊 韻 と 日 ふ 、 さ れ ば 此 の 雙 聲 疊 韻 な る 思 想 も 反 切 の 發 明 に 伴 ふ て 當 然 起 る べ き も の で あ つ た 。 宋 ( 南 朝 ) の 謝 荘 は こ の 雙 聲 疊 韻 の 専 門 語 を 説 明 し た 人 と し て 有 名 で あ る 、 彼 れ の 説 明 に よ れ ば 、 王 玄 謨 問 荘 、 何 者 爲 雙 聲 、 何 者 爲 疊 韻 、 答 日 、 玄 護 爲 雙 聲 、 激 稿 爲 疊 韻 (南 史 ) と 、 盖 し 玄 護 は 共 に グ な る 子 音 等 し く 、 激稿 は 共 に ア ウ な る 韻 尾 が 相 同 じ 、 そ の 子 音 の 等 し き も の を 雙 聲 と 日 ひ 、 韻 尾 の 相 同 じ き も の を 疊 韻 と 日 ふ と 日 ふ 意 味 で あ る 、 此 の 雙 聲 疊 韻 の 思 想 が 後 に 聲 韻 の 學 に 大 影 響 を 及 ぼ し た の で あ る 。 ﹁ 南 齊 書 ﹂ 陸 厥 傳 、 ﹁ 南 史 ﹂ 陸 厥 傳 等 に は 汝 南 の 周 顯 善 く 聲 韻 を 識 る と あ り 、 ﹁ 南 史 ﹂ の 周 顯 傳 に も 顯 始 め 文 鏡 秘 府 論 概 説 三 一

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文 鏡 秘 府 論 概 説 三 二 て 四 聲 切 韻 を 著 し て 世 に 行 は る と 日 つ て あ る 。 梁 の 沈 約 、 周 額 に 倣 つ て 又 四 聲 譜 一 巻 を 著 す 梁 書 沈 約 傳 に 曰 く 、 約 又 讓 四 聲 譜 、 以 爲 在 音 詞 人 、 累 千 載 而 不 寤 、 而 獨 得 胸 衿 、 窮 其 妙 旨 、 自 謂 入 神 。 と 、 沈 約 の 讓 し た 四 聲 譜 も 、 周 顕 の 四 聲 切 韻 も 既 に 佚 し て 見 る 事 は 出 來 な い が 、 唯 僅 か に 我 が 大 師 の ﹁ 文 鏡 秘 府 論 ﹂﹁ 文 筆 眼 心 抄 ﹂ 並 に 安 然 の ﹁ 悉 曇 藏 ﹂ 等 に 依 て 四 聲 譜 の 面 影 を 見 る 事 が 出 來 る 。 今 文 鏡 秘 府 論 に 載 せ ら れ た る 此 の 四 聲 譜 を 見 れ ば 反 切 雙 聲 疊 韻 等 が 四 聲 と 如 何 な る 關 係 に 在 る か を 知 る 事 が 出 來 る 、 即 ち 圖 を 以 て 四 聲 の 紐 を 擧 げ 、 又 此 れ に 依 て 雙 聲 疊 韻 及 び 反 切 の 法 を 示 し て ゐ る 。 四 聲 譜 は 實 に 反 切 と 雙 聲 疊 韻 の 原 理 を 應 用 し 、 且 つ 字 音 の 調 子 を 四 種 類 に 區 別 し て 配 列 し た る も の に 過 ぎ な い 、 既 に 反 切 と 雙 聲 疊 韻 の 思 想 め り 、 四 聲 は 又 必 然 起 り 得 る も の で あ る が 、 然 し 必 然 起 り 得 る も の と 日 ひ なが ら 、 唯 此 れ を 四 種 と し 總 て の 字 音 を 之 れ に 依 て 包 括 せ し 事 は 、 發 明 後 こ れ を 見 る が 如 く 容 易 な る も の で は な か つ た で あ ら う 、 彼 れ 自 ら 入 神 と 謂 へ る も 過 言 で な い 。 所 謂 字 音 の 調 子 と は 、 唐 の 沙 門 神 拱 (唐 元 和 巳 後 の 人 ) が 元 和 韻 譜 を 引 き て 日 へ る 如 く 、 平 聲 な る 者 は 哀 に し て 安 な る 聲 、 上 聲 と は 属 に し て 擧 る 聲 、 去 聲 と は 清 に し て 遠 き 聲 、 入 聲 と は 直 に し て 促 な る 聲 で あ る 。 (四 聲 五 音 九 弄 反 紐 圖 序 ) 此 の 平 上 去 入 の 四 聲 を 以 て 一 切 の 昔 を 包 括 し た も の が 四 聲 譜 で あ る 。

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今 試 み に 文 鏡 秘 府 論 巻 一 に 記 さ れ た る 四 聲 譜 を 見 る に 、 初 め に 四 聲 を 東 南 西 北 の 四 方 に 配 し 、 の 圖 を 擧 げ 、 此 れ に 依 て 又 平 上 去 入 の 名 の 出 つ る 所 以 を 示 し て ゐ る 、 盖 し 平 上 去 入 は 四 聲 の 總 名 で あ つ て 、 平 伴 病 別 が 四 聲 の 實 稱 で あ る 、 之 れ を 四 方 に 配 し 春 夏 秋 冬 に 配 す る (秘 府 論 巻 一 、 四聲 論 参 照 ) が 如 き は 、 五 行 配 當 の 如 く 唯 任 意 の 配 當 で あ つ て 、 別 に 何 等 深 意 あ り と は 思 は れ な い o 次 に 秘 府 論 に 四 聲 の 紐 の 譜 を 引 き て 、 凡 四 字 一 紐 或 六 字 捻 歸 一 紐 、 紐 女 九 切 結 也 束 也 皇 晃 横 鑁戈 果 過 、 滂 旁 傍 薄 婆 撥 被 。 光 廣光 郭 禾禍 和 、 荒恍侊 霍咊 火 貨 。 上 三 宇 下 三 字 紐 屬 中 央 一 字 是 故 名 爲 捻 歸 一 入 。 と あ り 、 此 れ を 維 賓 師 の 箋 註 に 解 し て 曰 く 、 四 聲 字 者 光 廣光 郭 也 、 此 字 爲 一 紐 、 紐 女 九 切 結 也 束 也 、 言 四 聲 之 字 、 音 韻 同 者 結 束 爲 一 紐 也 、 或 六 文 鏡 秘 府 論 概 説 三 三

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文 鏡 秘 府 論 概 説 三 四 字 者 、 禾 禍 和 下 、 實 可 有 一 入 聲 字 、 而 歸 上 郭 字 、 故 云 總 歸 一 入 也 。 と 、 其 意 光 廣 光 郭 は 四 聲 字 一 紐 、 光 廣 光 、 禾 禍 和 の 六 字 も 亦 入 聲 郭 の 一 字 に 歸 し 、 以 て 一 紐 と な す と 日 ふ 事 で あ る 。 紐 と は夾 註 に あ る や う に 結 束 の 義 で 、 音 韻 の 同 じ き も の を 一 束 し た も の で あ る 。 更 に 秘 府 論 に は 入 聲 を 一 紐 毎 に 別 々 に 置 く 所 の 格 を 擧 げ て あ る 、 此 の 格 に 依 て 又 雙 聲 疊 韻 と 四 聲 と の 關 係 を 示 す も の で あ る 。 即 ち 曰 く 、 四 聲 紐 字 配 .爲 雙 聲 疊 韻 如 後 郎 朗 浪 落 、 黎 禮 麗 捩 、 剛器 鋼 各 、 笄 併 計 結 。 羊 養恙 藥 、 夷 以 異 逸 、 郷 響 向 詭 、 莫 笑 脛 纈 。 良 兩 亮 略 、 離 麗罸 栗 、 張 長悵 着 、 知 椥 智 窒 。 凡 四 聲 竪 讀 爲 紐 、 横 讀 爲 韻 、 亦 當 行 下 四 字 配 上 四 字 即 爲 雙 聲 、 若 解 此 法 、 即 解 反 音 法 、 反 音 法 有 二 種 、 一 紐 聲 反 音 、 二 雙 聲 反 音 、 一 切 反 音 有 此 法 也 。 と 、 そ の 意 、 郎 朗 浪 落 、 黎 禮 麗 捩 の 如 く 四 字 を 竪 に 讀 め ば 四 聲 の 紐 と な り 、 郎 羊 、 黎 夷 の 如 く 横 に 讀 め ば 韻 こ な り 、 郎 離 、 朗 禮 の 如 く 上 の 四 字 を 當 行 下 の 四 字 に 配 當 し て 讀 め ば 雙 聲 と な る と 日 ふ 意 味 で あ る 、 而 し て 此 等 の 譜 に 依 て 又 反 切 の 二 法 を も 示 し て ゐ る 、 そ の 例 を 前 の 譜 に 取 れ ば 、 晃 皇 反 光 、 横 皇 反 光 、 鑁 皇 反 光 の 如 き は 之 れ を 紐 聲 の 反 と 日 ふ 、 皇 晃黄 鑁 は 一 紐 の 字 で あ る か ら で あ る 、 又戈 皇 反

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光 、 果 皇 反 光 、 過 皇 反 光 の 如 き は 雙 聲 の 反 と 日 ふ 、 同 一 四 聲 の 紐 で は な い が 聲 普 相 通 す る 故 に 雙 聲 の 反 音 と 日 ふ 、 郎 朗 浪 落 、 黎 禮 麗 捩 に つ い て 日 ふ も 同 様 で あ る 。 巳 上 引 く 所 の 諸 例 は 沈 約 の 四 聲 譜 と 思 は れ る も の で あ る が 、 こ れ に 依 て 見 れ ば 四 聲 譜 な る も の が 反 切 及 び 雙 聲 疊 韻 と 如 何 な る 關 係 に あ る か を 知 る に 足 り 、 四 聲 發 明 に 至 る 順 序 も 知 る 事 が 出 來 る 。 沈 約 四 聲 譜 と は 前 記 の 如 く 簡 單 な る 譜 で 、 此 れ に 依 て 昔 韻 を 見 出 す ベ き 大 綱 を 示 せ る も の で あ つ た と 思 は れ る が 、 此 の 如 き 譜 は 又 後 世 に も 傳 は り 、 唐 の 崔 融 の 譜 に も 此 れ に 類 し た 圖 が あ つた や う で 、 秘 府 論 に も 此 れ を 載 せ ら れ て あ る 。 上 來 四 聲 の 發 明 並 び に 四 聲 の 内 容 に つ い て 述 ベ て 來 だ が 、 次 に は 四 聲 と 五 聲 と の 關 係 に つ い て 考 へ て 見 ね ば な ら の 。 (ニ ) 四 聲 と 五 聲 前 に 五 聲 あ り 後 に 四 聲 あ り 、 即 ち 五 聲 の 韻 前 に 在 つ て 總 て の 文 字 を 此 の 五 つ に 包 括 し て ゐ た の に 、 何 故 に 重 ね て 四 聲 發 明 の 要 が あ つ た か 、 五 聲 と 四 聲 と の 關 係 は 如 何 。 此 れ は 甚 だ 明 瞭 で な い 、 古 來 諸 説 紛 々 歸 す る 所 を 知 ら す 、 抑 々 李 登 、 呂 静 の 讓 し た 五 聲 と は 如 何 な る も の で あ つ た か 、 そ れ が 第 一 疑 問 で あ る 、 李 登 の 聲 類 も 、 呂 静 の 韻 集 も 既 に 今日 で は 見 る 事 が 出 來 な い が 、 唯 前 述 の 如 く ﹁ 魏 書 ﹂ の 江 式 傳 に 、 呂 静 、 李 登 の 聲 類 の 法 に 倣 つ て 韻 集 五 巻 を 作 り 、 宮 商 角 徴 文 鏡 秘 府 論 概 説 三 五

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文 鏡 秘 府 論 概 説 三 六 羽 各 一 篇 と な す と あ る の で 、 恐 ら く そ れ は 宮 商 角 徴 羽 の 樂 調 を 参 考 と し て 韻 を 此 の 五 つ に 纒 め た も の と 思 は れ る 、 然 る に 宮 商 等 は 謂 ふ ま で も な く 音 樂 の 音 階 で あ つ て 文 字 そ の も の 、 音 調 で は な い 、 清 の 戴 東 原 の ﹁ 聲 韻 考 ﹂ に 、 古 之 所 爲 五 聲 宮 商 角 徴 羽 者 、 非 以 定 文 字 音 讀 也 、 字 字 可 宮 可 商 、 以 爲 高 下 之 叙 、 後 人 膠 於 一 字 、 繆 配 宮 商 、 此 古 義 所 以 流 失 其 本 歟 。 一 と 日 つ て ゐ る や う に 宮 商 等 は 樂 調 で あ つ て 此 れ を 文 字 に 施 せ ば 何 れ の 字 も 皆 宮 た り 商 た り 得 る も の で あ る 、 宮 商 を 是 の 如 く 音 樂 の 調 子 と 解 す れ ば 戴 東 原 の 日 つ た や う に 之 れ を 以 て 丈 字 を 繆 配 す る は 不 當 で あ る 事 は 明 で あ る 、 然 ら ば 五 聲 と は 如 何 な る 事 で あ つ た か 、 今 此 の 問 題 を 解 決 す る に 先 つ て 暫 く 古 今 の 異 説 を 擧 げ る 事 に す る 。 文 鏡 秘 府 論 巻 一 、 調 聲 の 下 、 元 氏 (元 競 ) の 言 を 引 き て 曰 く 、 聲 有 五 聲 角 徴 宮 商 羽 也 、 分 於 文 字 四 聲 平 上 去 入 也 、 宮 商 爲 平 聲 、 徴 爲 上 聲 、 羽 爲 去 聲 、 角 爲 入 聲 。 此 の 説 は 古 よ り 五 聲 四 聲 の 配 當 に 用 ひ ら れ た る 説 で あ る が 、 其 の 意 は 明 瞭 で な い 、 何 と な れ ば 宮 商 が 平 聲 で あ り 、 徴 が 上 聲 で あ り 、 羽 が 去 聲 で あ り 、 角 が 入 聲 で あ る な ら ば 、 既 に 此 の 五 聲 あ り 、 何 の 必 要 あ つ て か 四 聲 の 發 明 に 及 ベ る か 、 且 つ 四 聲 の 發 明 に 當 つ て 何 故 に 前 人 未 發 の 發 明 で あ る と 日 つ て ゐ

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る の か 、 若 し 又 宮 商 の 字 を 字 音 の 上 よ り 平 聲 と 日 つ た の で あ る な ら ば 羽 (上 聲 ) を 何 故 に 去 聲 に 配 し た か 。 惜 い 哉 維 寳 師 の 箋 註 も 一 言 も 此 の 所 註 解 を 用 ひ す 、 そ の 意 何 れ に あ る か を 見 る に 難 し 。 文 鏡 秘 府 論 巻 一 、 四 聲 論 の 中 に 齊 太 乎 含 人 李 季 節 の ﹁ 音 韻 決 疑 ﹂ (韻 之 字 秘 府 論 作 譜 、 今 據 隋 志 及 顔 氏 家 訓 改 元 ) の 序 を 引 き て 曰 く 、 其 序 云 、 案 周 禮 、 凡 樂 岡 鐘 (周 禮 作 園 鍾 ) 爲 宮 、 黄 鍾 爲 角 、 大 蔟 爲 徴 、 沽 ( 周 禮 作 姑 ) 洗 爲 羽 、 商 不 合 律 、 蓋 與 宮 同 聲 也 、 五 行 則 火 土 同 位 、 五 音 則 宮 商 同 律 、 闇 與 理 合 、 不 其 然 乎 、 呂 静 之 撰 需 集 、 分 取 無 方 、 王 微 之 製 鴻 寳 、 詠 歌 少 驗 、 平 上 去 入 、 出 行 閭 里 、 沈 約 取 以 和 聲 之 律 呂 相 合 、 竊 謂 (秘 府 論 作 諧 、 正 智 院 古 寫 本 作 謂 )宮 商 徴 羽 角 即 四 聲 也 ⋮ ⋮ 経 (秘 府 論 作 往 正 智 院 本 作 経 ) 毎 見 當 此 文 人 論 四 聲 者 衆 矣 、 然 其 以 五 音 配 偶 、 多 不 能 譜 、 李 氏 忽 以 周 禮 證 明 、 商 不 合 律 、 與 四 聲 相 配 合 恰 然 懸 同 。 此 の 文 、 維 寳 師 の 箋 註 に は 唯 文 句 の 註 解 を 施 せ る の み に て 文 意 明 か な ら す 、 私 に 思 ふ に 李 節 が ﹁ 音 韻 決 疑 ﹂ の 序 に 周 磯 大 司 樂 の 文 の 樂 調 が 圜 鍾 を 宮 と な し 黄 鍾 を 角 と な し 大 簇 を 徴 と な し 姑 洗 を 羽 と な し 商 は 律 に 合 し な い 、 そ れ は 宮 と 商 と は 同 聲 な る 故 で あ る と 日 ふ 周 禮 の 文 を 證 據 と し て 五 音 の 宮 商 は 一 律 で あ る 若 し 宮 商 一 と せ ば 五 聲 宮 商 徴 羽 角 は 四 聲 と 配 偶 す る 事 が 出 來 る 。 と 日 つ て あ る 此 れ を こ の 四 聲 論 の 中 に 引 用 し 、 此 の 季 節 の 見 解 を 是 と な し 、 宮 商 を 一 と し て 五 聲 四 聲 を 配 當 せ ん と す る 意 味 で あ 文 鏡 秘 府 論 概 説 三 七

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文 鏡 秘 府 論 概 説 三 八 る 。 此 の 意 亦 前 の 説 と 同 じ く 宮 商 を 平 と し 、 徴 を 上 と し 、 羽 を 去 と し 、 角 を 入 と す る 説 で あ る 、 而 し て 五 聲 を 樂 調 と し て 見 た る 説 で あ る 。 猶 、 宮 商 角 徴 羽 を 平 上 去 入 に 配 す る 説 に 唐 の 段 安 節 の 琵 琶 録 が あ る 、 平 聲 を 以 て 羽 と な し 、 上 聲 を 角 と な し 、 去 聲 を 宮 と な し 、 入 聲 を 商 と な し 、 上 平 聲 を 徴 と な す 、 玉 海 に 徐 景 安 樂 書 を 載 す 、 そ の 配 當 は 上 平 聲 を 宮 と な し 、 下 平 聲 を 商 と な し 、 上 聲 を 徴 と な し 、 去 聲 を 羽 と な し 、 入 聲 を 角 と な す 。 然 も 此 等 の 配 當 は 任 意 の 分 配 で あ つ て 何 等 の 典 據 が な い 、 殊 に 平 聲 に 上 下 を 分 つ は 唯 平 聲 の 字 數 多 く 巻 帙 繁 重 な る 故 で あ つ て 別 に 他 義 な き も の で あ る 、 唐 の 時 韻 書 猶 上 下 平 を 分 た ざ る も の が あ る 故 に か く 上 下 平 を 宮 商 に 配 す る の 當 ら ざ る や 明 で あ る 。 宮 商 角 徴 羽 を 脣 舌 牙 齒 喉 の 五 音 に 配 す る 説 あ り 其 配 當 の 次 第 衆 説 同 じ か ら す 、 沙 門 文 雄 の ﹁ 韻 鏡 索 穏 ﹂ に は ﹁ 玉 篇 指 南 ﹂ 、﹁ 韻 學 集 成 ﹂ な ど の 二 三 配 當 の 異 説 を 載 せ て ゐ る 、 然 し 宮 商 角 徴 羽 の 五 音 は 支 那 固 有 の も の で あ り 、 脣 舌 牙 齒 喉 の 五 音 は 本 梵 語 の 用 語 で あ る 、 李 登 、 呂 静 の 用 ひ た る 宮 商 等 の 五 昔 が 、 此 の 脣 舌 等 の 五 音 に 等 し か つ た も の と は 思 は れ な い 、 此 れ は 恐 ら く 唐 の 信 徒 三 十 六 字 母 を 定 め し 巳 後

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の 説 で あ ら う と 思 ふ 、 唐 の 代 に 至 つ て 初 め て 唇 舌 齒 牙 喉 に 更 に 半 舌 齒 、 半 齒 舌 を 加 へ て 七 音 と な し そ の 七 音 に 各 清 濁 を 分 ち 、 横 に 七 音 を 列 し 、 竪 に 四 聲 を 連 ね て 等 韻 の 圖 を 製 し て ゐ る 、 (韻 鏡 参 照 ) 從 つ て 文 献 通 考 樂 之 部 ) の 宮 爲 最 下 最 濁 、 商 次 下 次 濁 、 角 在 清 濁 高 下 之 間 、 徴 次 高 次 清 、 羽 最 高 最 清 、 と あ る も 唐 巳 後 の 事 で あ る 。 五 音 を 五 行 に 配 當 す る 説 、 此 の 説 も 可 成 り 古 く か ら あ つ た や う で あ る 、 安 然 ﹁ 悉 曇 藏 ﹂ 第 二 に 、 天 地 交 合 各 有 五 行 、 由 五 行 故 乃 有 五 昔 、 五 音 之 氣 、 内 發 四 聲 四 音 之 響 、 外 生 六 律 六 呂 之 曲 。 と 日 ひ 、 更 に 五 藏 、 五 根 、 五 觸 、 五 所 、 五 氣 、 五 聲 、 五 色 、 五 時 、 等 の 關 係 を 示 し 、 又 白 虎 通 を 引 き て は 東 南 西 北 中 の 五 方 に 配 し て ゐ る 、 此 の 説 も 唯 配 當 で あ つ て 何 等 性 質 上 の 關 係 を 有 し な い 、 由 來 五 行 配 當 は 漢 已 來 盛 に し て 、 五 聲 の み な ら す 人 倫 萬 物 悉 く 五 行 に 配 當 す る 説 が あ る が 、 そ れ 等 は 唯 配 當 す る だ け の も の で あ る 。 五 聲 を 以 て 陽 類 一 、 陰 類 の 平 上 去 入 四 と の 五 聲 で あ る と す る 説 で あ る 、 そ れ は 昨 年 物 故 し た 憂 國 の 志 士 王 國 維 先 生 の 説 で あ る 、 王 氏 は 一 代 の 碩 學 で あ つ た 、 ﹁ 觀 堂 集 林 ﹂ を 著 し 、 そ の 巻 第 八 に 五 聲 説 を 出 す 、 今 そ の 要 領 を 記 す れ ば 、 文 鏡 秘 府 論 概 説 三 九

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文 鏡 秘 府 論 概 説 四 〇 五 聲 と は 陽 類 の 平 聲 と 、 陰 類 の 平 上 去 入 で あ る 、 平 聲 に 陰 陽 二 類 を 立 つ る 事 は 隋 唐 巳 來 の 今 韻 家 も 近 世 の 古 韻 家 も 同 じ く 認 む る 所 で あ る 、 而 し て 陰 陽 の 名 は 、 も と 戴 東 原 の 初 む る 所 、 曲 阜 の 孔 氏 、 (廣 森 ) 戴 氏 の 説 に 基 い て 廣 韻 の ﹁ 有 入 の 平 ﹂ を 陽 聲 と し ﹁ 無 入 の 平 ﹂ を 陰 聲 と 名 づ け た 、 凡 そ 秦 漢 の 五 聲 は 之 れ を 音 理 に 基 づ き 、 之 れ を 周 奏 漢 初 人 用 韻 の 文 に 徴 し 、 更 に 之 れ を 文 字 の 形 聲 に 求 む る に 、 皆 此 の 陽 類 の 平 、 陰 類 の 平 上 去 入 に 外 な ら な い 、 李 呂 二 氏 の 五 聲 と 日 へ る も 恐 ら く 此 れ に 外 な ら ざ る ベ く 、 而 し て 二 氏 は 當 時 の 音 を 用 ひ す し て 、 此 の 古 音 を 用 ひ た る は 古 に 從 ふ も の で あ る 、 宋 齊 已 後 四 聲 説 行 は れ て 五 聲 説 微 へ た り 、 然 も 周 顕 沈 約 等 も 五 聲 あ る 事 を 知 ら ざ る に 非 す 、 沈 約 特 に 四 聲 譜 を 始 め し は 文 を 屬 る 爲 に 作 れ る も の で 、 も と 韻 書 で は な い 、 即 ち 五 聲 は 專 ら 聲 を 日 ひ 、 四 聲 は 聲 音 を 詩 文 に 運 用 す る 爲 で あ る 、 而 し て 沈 約 、 譜 を 作 っ て よ り は 陰 陽 合 し て 一 類 と な し 、 一 平 聲 の 中 に 牧 め 以 て 今 日 の 今 韻 と な つ た 。 と 、 已 上 は 王 氏 五 聲 説 の 大 要 で あ る 、 王 氏 の 説 に 從 へ ば 李 、 呂 の 五 聲 と は 又 古 音 の 五 聲 即 ち 陽 一 、 陰 四 に 外 な ら な い と 日 ふ 説 で あ る 、 此 の 説 は 近 く 三 百 年 來 古 韻 の 學 の 賜 物 で 今 を 以 て 古 を 推 し 、 之 れ に 古 書 用 韻 の 文 を 参 照 し て 得 た 結 果 で あ る 。 思 ふ に 古 韻 の 研 究 は 清 初 顧 炎 武 其 の 始 を 開 く 、 炎 武 、 経 子 有 韻 の 文 に 基 づ い て 韻 を 十 部 に 別 ち 、 宮 商 角 徴 羽 の 説 を 取 ら す 、 之 れ よ り 古 韻 の 研 究 漸 く 盛 に し て 、 江 永 ﹁ 古 韻 標 準 ﹂ を 作 っ て 十 三 部 韻 を 別 ち

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段 玉 裁 、 江 氏 に 次 い で 十 七 部 を 立 て 、 ゐ る 、 戴 東 原 も 音 學 に 精 し く ﹁ 聲 韻 考 ﹂ を 著 し て 古 今 韻 書 の 源 を 説 き 、 曲 阜 孔 氏 (廣 森 ) 亦 陽 聲 九 、 陰 聲 九 の 十 入 部 韻 を 別 つ て ゐ る 。 凡 そ こ れ 等 皆 宮 商 角 徴 羽 の 五 音 説 を 斥 け て 別 に 古 韻 の 部 を 定 め る 説 で あ る 、 獨 り 蕭 山 の 毛 奇 齢 ﹁ 古 今 通 韻 ﹂ 十 二 巻 を 著 し て 顧 氏 の つ 音 學 五 書 し を 排 斥 し 五 音 の 部 を 立 て 、 ゐ る 、 此 の 五 音 を 以 て 古 韻 を 區 別 す る も の 、 毛 氏 の 後 無 錫 安 吉 の ﹁ 六 書 韻 徴 ﹂ 、 そ の 子 念 祖 の ﹁ 古 韻 溯 原 ﹂ 、 傅 氏 壽 彫 の ﹁ 古 昔 類 表 ﹂ 呂 氏 呉 の ﹁ 六 書 十 二 傳 聲 ﹂ 十 二 巻 等 あり 、 共 に 宮 商 角 徴 羽 に 基 づ い て 韻 を 立 て 、 ゐ る 。 古 今 五 聲 四 聲 を 論 す る も の 如 是 諸 説 紛 々 と し て 歸 す る 所 を 知 ら す 、 焉 れ を か 取 り 焉 れ を か 捨 ん や 、 吾 人 亦 先 賢 に 倣 つ て 卑 見 を 加 へ ん と す る も 、 そ は 唯 想像 に 過 ぎ ざ る 事 を 遺 憾 と す る 、 然 も そ の 想 像 を 許 さ る 、 な ら ば 巳 下 一 言 を 加 へ て 見 や う 。 李 呂 二 氏 の 所 謂 五 聲 と は 恐 ら く 宮 商 角 徴 羽 の 五 聲 の 分 類 で あ つ た で あ ら う 、 元 來 宮 商 角 徴 羽 の 名 は 支 那 古 來 音 樂 上 の 用 語 で あ る 、 而 し て 此 の 音 樂 上 の 用 語 を 人 の 音 聲 の 上 に 用 ひ た る は 、 人 の 言 葉 の 昔 調 (音 調 と は 韻 即 ち ひい き を 意 味 す ) を 此 の 用 語 を 借 り て 表 し た も の で あ る 、 此 の 宮 商 角 徴 羽 の 五 聲 は 特 り 李 呂 二 氏 の 發 明 に 非 ず 、 古 來 の 経 典 史 藉 亦 五 聲 の 用 韻 が め つ た (秘 府 論 巻 一 四 聲 論 ) 而 し て 此 の 五 聲 即 ち 五 韻 を し て 文 中 に 在 つ て 上 下 相 應 せ し む れ ば 樂 聲 と 相 和 す 事 が 出 來 た や う で あ る 、 そ の 事 は 文 鏡 秘 府 論 巻 一 、 四 聲 論 の 中 に 沈 氏 の 論 を 引 き て 、 文 鏡 秘 府 論 概 説 四 一

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文 鏡 秘 府 論 概 説 四 二 経 典 史 籍 、 唯 有 五 聲 而 無 四 聲 、 然 則 四 聲 之 用 、 何 傷 五 聲 也 、 五 聲 者 宮 商 角 徴 羽 、 上 下 相 應 則 樂 聲 和 矣 と あ る を 見 て も 知 る 事 が 出 來 る 、 然 も 此 れ が 毛 奇 齢 や 安 吉 傅 壽 形 の 如 き 分 類 法 で あ つ た か ど う か も 判 ら な い が 兎 も 角 近 世 古 韻 研 究 家 が 論 す る 通 り 四 聲 の 韻 の 區 分 法 に 異 な つ た 、 五 聲 の 分 類 法 が あ つ た に 相 異 な い 、 而 し て 四 聲 と は 性 質 を 異 に し な が ら 作 文 の 上 に 四 聲 と 併 用 し て 矛 盾 す る 事 な か り し は 明 で あ る 、 ﹁ 南 史 ﹂ 陸 厥 傳 に 、 約 等 文 皆 用 宮 商 、 將 平 上 去 入 四 聲 、 以 此 制 韻 。 と あ り ﹁ 宋 書 ﹂ 謝 靈 運 傳 に 、 夫 五 色 相 宣 、 八 書 協 暢 、 由 乎 玄 黄 律 呂 、 各 適 物 宜 、 欲 使 宮 朋 相 變 、 低 昂 互 節 。 と あ る を 以 て 見 て も 五 聲 と 四 聲 と は 抵 觸 す る も の で な い 事 は 明 で あ る 、 而 し て 此 の 五 聲 が 直 ち に 陽 一 陰 四 の 五 聲 に 相 當 し 、 此 の 五 聲 陰 陽 が 沈 約 に 至 つ て 陰 陽 平 聲 を 合 し て 一 平 聲 と な り 今 韻 の 四 聲 に な つ た と は 速 断 す る 事 は 出 來 な い 、 そ の 五 聲 と 四 聲 と は 性 質 を 異 に し た も の で あ つ た ら う 、 そ の 事 は 、﹁ 約 答 陸 厥 書 ﹂ に 曰 く 、 宮 商 之 聲 有 五 、 文 字 之 別 累 萬 、 以 累 萬 之 繁 、 配 五 聲 之 約 、 高 下 低 昂 、 非 思 力 所 擧 、 又 非 止 若 斯 而 巳 也 、 十 字 之 文 、 顛 倒 相 配 、 字 不 過 十 、 巧 歴 已 不 能 盡 、 何 况 復 過 於 此 者 乎 。 と あ る を 以 て も 知 る 事 が 出 來 る 、 盖 し 此 の 意 、 宮 商 等 の 聲 五 あ り 文 字 の 別 は 累 萬 , 累 萬 の 繁 を 以 て 五

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聲 の 約 に 配 す れ ば 高 下 低 昂 す る も 及 ば ざ る 所 で あ る と 日 ふ 、 然 ら ば 五 聲 の 狼 に し て 曲 折 す る も 聲 韻 の 巧 を 盡 す 能 は す 、 故 に 四 聲 の 發 明 あ り し が 如 し 、 又 文 鏡 秘 府 論 巻 一 、 四 聲 論 中 に 曰 く 、 魏 定 州 刺 史 甄 思 伯 一 代 偉 人 、 以 爲 沈 氏 四 聲 譜 不 依 古 典 、 妄 自 穿 盤 。 と あ り 、 甄 思 伯 の 意 、 沈 約 の 四 聲 譜 を 以 て 古 典 に 依 ら す 、 妄 り に 自 ら 穿 盤 す る の 説 な り と 考 へ た 。 此 れ 等 の 文 に 依 て 見 て も 五 聲 と 四 聲 と は 性 質 を 異 に せ る も の 、 如 く で あ る 。 故 に 知 る 五 聲 は 韻 に 五 つ の 制 限 あ り て 此 れ を 以 て 總 て の 文 字 を 區 分 せ し に 封 し 、 四 聲 は 字 音 の 調 子 に 依 て 聲 を 別 ち 、 聲 に 依 て 紐 ( 即 ち 昔 の 類 似 せ る も の を 結 束 す る 事 ) を 定 め 、 紐 の 中 各 韻 を 立 つ る も の で あ る 、 例 へ ば 平 上 去 入 の 紐 あ り と せ ば 平 聲 の 中 に も 幾 種 か の 韻 を 見 , 上 聲 の 中 に も 幾 種 か の 韻 を 見 る 、 韻 は 唯 五 つ に 止 ま ら な い 。 故 に 一 つ は 音 樂 の 音 即 ち 韻 ( ひい き ) に 從 つ て 區 分 し た 分 類 で あ り 、 一 つ は 字 音 の 調 子 に 從 つ た 聲 の 上 の 分 類 で あ る 、 各 そ の 分 類 の 立 塲 を 異 に し た も の と 考 へ る 、 音 樂 は 六 律 六 呂 を 定 め 、 之 れ を 文 な す に 五 聲 を 以 て し 、 之 れ を 播 く に 八 音 を 以 て す る 、 文 字 の 五 聲 も そ の 韻 ( ひゞ き ) 入 音 に 應 す る や う に 區 分 し た も の で あ る 、 然 る に 唯 文 字 發 音 の 長 短 高 下 の 標 準 に 依 て 區 別 し た の が 四 聲 で あ る と 思 は れ る 。 古 に 古 詩 雅 頌 あ り 樂 に 合 し て 歌 ふ に 適 し 、 後 世 律 詩 詩 餘 あり ロ 吟 す る に 可 な り 、 五 聲 用 韻 と 四 聲 用 韻 と の 別 茲 に 何 等 か の 關 係 が あ る や う で あ る 。 文 鏡 秘 府 論 概 説 四 三

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文 鏡 秘 府 論 概 説 四 四 既 に 隔 分 の 標 準 を 異 に す と せ ば 、 五 聲 必 す し も 四 聲 と 一 致 せ す 、 故 に 宮 の 聲 に 依 て 集 め ら れ た る 部 の 文 字 必 す し も 平 聲 な り と は 限 ら な い 、 上 聲 た り 得 べ く 去 聲 た り 得 る 筈 で あ る 、 五 聲 を 以 て 集 め ら れ た る 文 字 の 上 に 四 聲 の 立 塲 か ら 見 る 時 は 各 又 四 聲 と し て そ の 文 字 を 區 別 す る 事 が 出 來 る 、 故 に 必 す し も 王 氏 の 如 く 五 聲 と 四 聲 と は 調 和 し な い と 思 ふ 。 私 の 此 の 想 像より す れ ば 五 音 宮 商 角 徴 羽 を 平 上 去 入 に 配 當 す る が 如 き は 故 意 の 繆 着 で あ る と 思 ふ 、 脣 舌 牙 齒 喉 を 五 音 に 配 す る も 當 ら す 、 五 行 五 方 に 配 す る も 無 意 味 で あ る 、 増 し て 毛 奇 齢 一 派 の 如 く 李 呂 と は 立 塲 を 異 に し た 分 類 法 に 依 て 宮 商 角 徴 羽 の 韻 を 分 類 す る が 如 き は 好 奇 で あ る 。 若 し 宮 商 角 徴 羽 が 論 者 の 如 く 完 全 に 平 上 去 入 に 配 當 し 得 る も の な ら ば 、 何 故 に 沈 約 改 め て 四 聲 を 發 明 す る 必 要 が あ つ た で あ ら う か 、 或 は 沈 約 四 聲 譜 は 本 、 韻 書 に 非 す 、 文 を 屬 せ ん が 爲 に し て 作 る と す る も 、 沈 約 の 言 を 以 て 見 る 時 、 五 聲 の 他 に 四 聲 を 區 別 し 五 聲 四 聲 を 併 用 し だ 事 は 明 で あ る 。 然 ら ば そ の 所 謂 五 聲 と は 果 し て 如 何 な る も の が あ つ た か 、 古 來 有 韻 の 文 に つ い て 見 て 如 何 な る 字 を 區 別 し た で あ つ た ら う か 、 そ れ は 今 日 李 呂 の 韻 書 を 見 る こ と を 得 す 、 如 何 な る も の で あ つ た か 知 る 事 は 出 來 な い 、 或 は 今 日 古 韻 研 究 家 が 別 つ が 如 き も の で あ つ た か も 知 れ な い が 兎 も 角 今 日 所 謂 今 韻 と は 異 な つ た も の で あ つ た で あ ら う 。 已 上 私 は 四 聲 の 起 原 、 及 び 四 聲 と 五 聲 と の 關 係 に 就 い て 述 べ た が 周 顕 沈 約 已 後 四 聲 説 行 は れ て 五 聲

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説 微 へ 、 當 時 文 學 の 士 は 靡 然 と し て 此 の 説 に 從 ひ 、 又 此れ を 詩 文 に 應 用 し て 文 章 に 一 新 生 面 を 開 く に 至 つ た 。 南 史 陸 厥 傳 に 、 約 等 文 、 皆 用 宮 商 、 將 平 上 去 入 四 聲 、 以 此 制 韻 、 有 平 頭 ・ 上 尾 ・ 蜂 腰 ・鶴 膝 、 五 字 之 中 、 昔 韻 悉 異 、 兩 句 之 内 、 角 徴 不 同 、 不 可 増 減 、 世 呼 爲 永 明 體 。 と あ り 、 文 鏡 秘 府 論 巻 一 、 四 聲 論 所 引 沈 約 答甄 思 伯 書 に 曰 く 、 作 五 言 詩 者 、 善 用 四 聲 、 則 諷 詠 而 流 靡 、 能 達 入 體 、 則 陸 離 而 華 潔 。 と 、 即 ち 沈 約 等 に 至 つ て 四 聲 を 文 學 上 に 運 用 し 殊 に 五 言 詩 に 用 ひ て 平 頭 ・ 上 尾 ・ 蜂 腰 ・鶴 膝 ・ 大 韻 ・ 小 韻 ・ 正 紐 ・ 勇 紐 の 入 體 ( 入 體 後 に 入 病 と 日 ふ か ) を 説 き 近 體 詩 の 魁 を な し た 、 世 呼 ん で 此 の 體 を 永 明 體 の 詩 と 日 ふ 、 永 明 は 齊 の 年 號 で あ る 。 此 く て 四 聲 の 説 は 後 の 文 學 に も 大 影 響 を 及 ぼ し 筍 く も 詩 文 を 學 ぶ も の 、 先 づ 四 聲 を 知 る を 必 要 と せ ら る 、 に 至 つ た 。 私 は 上 來 四 聲 論 の 大 體 を 述 べ た が 、 次 に は そ の運 用 に つ い て 述 ペ る 事 に す る 。 四 文 學 上 四 聲 の 運 用 に 就 い て 齊 梁 の 間 周 顕 沈 約 等 に 依 て 四 聲 が 發 明 さ れ た が 、 沈 約 の 四 聲 譜 な る も の は 元 韻 書 で あ つ た か 、 又 は 唯 丈 を 屬 る 爲 に し て 作 つた か 、 そ れ は 異 議 の あ る 處 で あ る 。 普 通 韻 書 は 沈 約 に 本 つ く と 日 は れ 、 四 聲 譜 を 以 て 韻 書 と な し 、 今 行 は る 所 の 平 水 劉 淵 が 制 す る 所 謂 文 鏡 秘 府 論 概 説 四 五

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文 鏡 秘 府 論 概 説 四 六 ﹁ 平 水 韻 ﹂ を 以 て 沈 約 韻 と 稱 し て ゐ る が 、 此 れ は 韻 書 の 變 遷 を 知 ら ざ る 者 の 盲 断 で あ る 。 此 の 事 清 の 陳澄 の ﹁ 切 韻 考 ﹂ 巻 六 、 題 論 、 沙 門 文 雄 の ﹁ 韻 鏡 索 隠 ﹂ 王 國 維 著 ﹁ 觀 堂 集 林 ﹂ 第 入 五 聲 説 な ど に 委 し く 論 す る 通 り 四 聲 譜 は 韻 書 で は な い 。 南 齊 書 陸 厥 傳 に 曰 く 、 永 明 末 、 盛 爲 文 章 、 呉 興 沈 約 、 陳 郡 謝 眺 、 琅 邪 王 融 、 以 氣 類 相 推 穀 、 汝 南 周 顕 、 善 識 聲 韻 、 約 等 文 皆 用 宮 商 、 以 平 上 去 入 、 爲 四 聲 、 以 此 制 韻 不 可増 減 、 世 呼 永 明 體 。 南 史 陸 厥 傳 に も 、 約 等 文 皆 用 宮 商 、 將 平 上 去 入 四 聲 、 以 此 制 韻 、 有 平 頭 上 尾 蜂 腰 鶴 膝 、 五 字 之 中 、 昔 韻 悉 異 、 兩 句 之 内 、 角 徴 不 同 、 不 可増 減 、 世 呼 爲 永 明 體 。 と あ り 、 其 他 沈 約 撰 ﹁ 宋 書 ﹂ 謝 靈 運 傳 論 、 ﹁ 梁 書 ﹂ 沈 約 傳 等 を 見 る も 沈 約 の 四 聲 説 は 韻 書 を 作 る 爲 で は な か つた や う で あ る 、 四 聲 譜 は 韻 書 で あ つ た か 否 か は 別 と し て 、 此 の 沈 約 の 主 張 せ る 四 聲 説 は 確 か に 文 學 上 に 蓮 用 す る 上 の 論 で あ る 、 勿 論 四 聲 譜 は 韻 書 で は な い が 、 そ れ 故 に 四 聲 は 韻 書 に 關 係 が な か つ た と は 日 へ な い 、 何 故 な れ ば 前 に 周 額 あ り 、 既 に ﹁ 四 聲 切 韻 ﹂ な る も の を 出 し て ゐ る 、 此 れ は 文 字 を 四 聲 に 別 ち 反 切 を 以 て 昔 を 示 し た も の で あ ら う と 思 は れ る か ら で あ る 、 然 し 兎 も 角 も 沈 約 の 稱 へ た 四 聲 の 論 は 文 學 史 上 の 運 用 の 爲 だ と 見 て よ い 。 四 聲 の 文 學 に 應 用 せ ら れ た 最 初 は 日 ふ ま で も な く 齊 梁 の 頃 で あ つ て 、 沈 約 を 初 と し , 陳 郡 の 謝 眺 、

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琅 邪 の 王 融 な ど が 初 む る 處 で あ る 、 然 ら ば 沈 約 は 四 聲 を 如 何 に 應 用 し た の で あ ら う か 、 そ れ は 前 に 引 け る ﹁ 沈 約 答 北 魏甄 思 伯 書 ﹂ に 示 さ れ た る 文 の 如 き も の で あ つ た 。 曰 く 、 作 五 言 詩 者 、 善 用 四 聲 、 則 諷 詠 而 流 靡 、 能 達 入 體 、 則 陸 離 而 華 潔 。 と 、 然 ら ば そ の 入 體 と は 何 で あ る か 、 維 寳 師 箋 註 に 入 體 を 解 し て 、 入 體 、 下 有 十 體 八 階 、 八 階 下 却 註 日 、 文 筆 式 又 詩 格 輔 變 爲 入 體 、 其 名 具 列 焉 。 と 日 つ て あ る 、 維 寳 師 は 文 鏡 秘 府 論 巻 二 、 論 體 勢 の 條 下 入 階 を 以 て 沈 約 の 入 體 と 解 し た や う で あ る 。 然 し 入 階 は 詩 の 格 式 を 論 じ た も の で 、 聲 韻 と は 關 係 が な い 、 之 れ を 沈 約 の 所 謂 入 體 と 同 一 だ と 見 る の は 誤 り で あ る 。 同 じ く 秘 府 論 巻 一 、 四 聲 論 中 に 魏 秘 書 常 景 の 四 聲 讃 を 引 き て 、 四 聲 發 彩 、 八 髄 含 章 、 浮 景 玉 充 、 妙 響 金 鏘 。 と あ り 、 維 寳 師 は 此 の 八 體 の 註 に も 、 入 體 如 上 亦 可 、 大 篆 、 小 篆 、 刻 符 、 蟲 書 、 墓 印 、 暑 書 、 殳 書 、 隸 書 云 之 八 體 也 。 と 日 つ て 入 體 書 を 以 て 解 釋 し て ゐ る が 、 四 聲 讃 は 書 體 を 述 べ た 文 で は な い 、 然 ら ば 入 體 と は 何 で あ る か 、 釋皎 然 の ﹁ 詩 式 ﹂ ﹁ 明 四 聲 ﹂ の 條 下 、 沈 休 文 、 酷 裁 入 病 、 碎 同 四 聲 。 文 鏡 秘 府 論 概 説 四 七

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文 鏡 秘 府 論 概 説 四 八 と あ り 、﹁ 唐 音 癸 籤 ﹂ ﹁ 小 學 紺 珠 ﹂ ﹁ 詩 苑 類 格 ﹂ な ど に も 沈 約 詩 の 入 病 を 説 け る 事 を 記 し て ゐ る 、 然 ら ば 沈 約 の 八 體 と は 恐 ら く は 八 病 の 事 で あ つ た で あ ら う 、 體 と は 必 す し も 詩 の 體 格 を 意 味 す る も の で は な い 文 鏡 秘 府 論 岩 五 、 論 病 の 序 に 、 泊 八 體 、 十 病 、 六 犯 、 三 疾 、 或 文 異 義 同 、 或 名 通 理 隔 。 と あ る 、 さ れ ば 入 體 と 日 ひ 、 十 病 と 日 ひ 、 同 じ く 詩 文 の 病 累 を 指 し た も の で あ る 、 維 賓 師 は 此 の 條 で 亦 八 體 を 入 階 と 解 し て ゐ る が 、 其 の 解 釋 は 誤 つ て ゐ る 、 故 に 沈 約 の 八 體 と は 入 病 と 異 名 同 義 で あ ら う 然 ら ば そ の 入 病 と は 如 何 な る も の で あ る か 、 沈 約 の ﹁ 宋 書 ﹂ 謝 靈 運 傳 の 後 に 、 夫 五 色 相 宣 、 入 音 協 暢 、 由 乎 玄 黄 律 呂 、 各 適 物 宜 、 欲 使 宮 羽 相 變 、 低 昂 互 節 、 若 前 有 浮 聲 、 則 後 須 切 響 、 一 簡 之 内 、 音 韻 盡 殊 、 兩 句 之 中 、 輕 重 悉 異 。 と あ る 、 即 ち 此 の 原 理 を 五 言 詩 に 應 用 し 、 そ の 結 果 、 平 頭 、 上 尾 、 蜂 腰 、 鶴 膝 、 大 韻 、 小 韻 、 正 紐 、 傍 紐 の 八 病 累 を 生 す 、 此 れ を 詩 の 入 病 と 日 ふ の で あ る 、 然 る に 此 の 八 病 は 沈 約 の 稱 ふ る 所 と 日 は れ て ゐ る が 、 此 等 各 の 性 質 に 至 つ て は 唐 巳 前 の 書 、 又 は 唐 代 の 詩 格 詩 式 の 中 、 之 れ を 説 明 せ る も の 、 今 日 一 も 存 し な い 、 尤 も 平 頭 、 上 尾 、 蜂 腰 、 鶴 膝 の 名 は 前 記 の 南 史 陸 厥 傅 に 見 へ 、 蜂 腰 の 病 は ﹁ 本 朝 文 粹 ﹂ 巻 七 に 元 競 ﹁ 詩髓 腦 ﹂ 及 び 著 名 不 明 の ﹁ 文 章 儀 式 ﹂ 等 を 引 き て 説 明 し て ゐ る が 、 八 病 各 の 内 容 に 至 つ て は 何 れ に も 説 明 が な い 、 唯 特 り ﹁ 文 鏡 秘 府 論 ﹂ 並 に ﹁ 文 筆 眼 心 抄 ﹂ に 此 の 八 病 の 内 容 を 委 し く 説 明 し て ゐ る

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後 世 、 宋 の 魏 慶 之 撰 ﹁ 詩 人 玉 屑 ﹂ 明 の 胡 震 亨 の ﹁ 唐 音 癸 籤 ﹂ な ど に も 詩 の 八 病 の 目 を 擧 げ 、 そ の 規 則 を 略 示 し て ゐ る が 、 秘 府 論 の 詳 な る に 若 か な い 、 文 鏡 秘 府 論 巻 五 、 詩 の 病 累 を 擧 げ の 二 十 八 種 ( 實 は 木 枯 、 金缺 を も 數 へ て 三 十 種 の 病 累 と な す ) を 數 へ て ゐ る が そ の 中 一 よ り 八 に 至 る ま で は 沈 約 の 所 謂 詩 の 入 病 で あ る 、 秘 府 論 に は 沈 氏 ( 約 ) 劉 滔 、 元 競 、 王 斌 な ど の 説 を 引 い て 入 病 を 説 明 し て ゐ る が 、 そ れ は 論 病 の 序 に 、 頻 約 已 降 、 競 融 以 往 、 聲 譜 之 論 欝 起 、 病 犯 之 名 爭 興 、 家 製 格 式 、 入 談 病 累 、 徒 競 文 華 、 空 事 拘 檢 、 靈 感 沈 秘 、 彫 弊寔 繁 ⋮ ⋮ 予 今 載 刀 之 繁 、 載 筆 之 簡 、 捻 有 二 十 八 種 病 。 と あ る や う に 諸 家 の 説 を 綜 合 し て 二 十 八 種 を 定 め ら れ た の で 今 の 八 病 の 説 に つ い て も 沈 約 巳 外 猶 幾 多 文 鏡 秘 府 論 概 説 四 九

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文 鏡 秘 府 論 概 説 五 〇 の 人 の 説 が あ つ た も の と 見 へ る 。 八 病 の 一 々 の 内 容 に つ い て 茲 に 詳 細 に 論 す る は 餘 り に 繁 雜 で あ る か ら 、 今 秘 府 論 に つ い て 大 體 の 規 則 を 記 し て 置 く 。 一 、 平 頭 平 頭 と は 五 言 詩 第 一 句 第 二 句 の 十 字 中 、 第 一 字 と 第 六 字 、 第 二 字 と 第 七 字 と が 同 聲 ( 平 上 去 入 の 何 れ に て も ) の 字 を 用 ふ る 事 を 得 す 、 此 れ を 用 ふ る を 平 頭 の 病 と す る と 日 ふ 規 則 で あ る 、 但 し 第 一 字 と 第 六 字 が 共 に 平 聲 な る 時 は 甚 し き 病 と は な ら ざ る も 、 第 二 字 と 第 七 字 と 同 聲 な る 時 は 平 上 去 入 を 問 は す 皆 是 れ 巨 病 で あ る 。 例 へ ば 、 芳 時 淑 氣 清 提 壼 臺 上 傾 の 詩 に 於 て 芳 と 提 、 時 と 壺 が 共 に 平 聲 で あ る 、 故 に 此 れ は 病 で あ る 。 秘 府 論 に 沈 氏 の 説 を 引 き て 、 第 一 第 二 字 、 不 宜 與 第 六 第 七 同 聲 、 若 能 参 差 用 之 則 可 矣 。 と あ り 、 第 一 字 と 第 七 字 、 第 二 字 と 第 六 字 も 亦 同 聲 な る を 得 す と の 義 に 取 れ な い で も な い が 此 れ は 大 師 も 註 せ ら れ た る が 如 く 理 に 於 て は 嫌 な き も の で あ る 。 二 、 上 尾 上 尾 と は 五 言 詩 第 一 句 第 二 句 十 字 中 、 第 五 字 と 第 十 字 と が 同 聲 な る 事 を 得 ず 、 此 れ を 犯 せ ば 病 累 と

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な る と 日 ふ 規 則 で あ る 、 然 し 連 韻 の 目 的 を 以 て せ る 塲 合 は 病 と は な ら な い 。 例 へ ば 、 西 北 有 高 樓 上 與 浮 雲 齊 の 詩 の 樓 と 齊 と は 共 に 平 聲 で あ る か ら 病 で あ る。 然 し 、 青 々 河 畔 草 綿 々 思 遠 道 の 如 く連 韻 の 目 的 を 以 て 用 ひ た る も の は 病 と は な ら な い 、 連 韻 な ら す し て 上 尾 を 犯 せ る は 巨 病 で あ る 八 病 中 に て も 此 の 上 尾 と 下 に 擧 ぐ る 鶴 膝 と は 最 も 忌 む べ き 病 で め つ て 、 秘 府 論 引 く 所 の 沈 氏 の 言 に も 沈 氏 亦 云 上 尾 者 文 章 之 尤 病 。 と 日 ひ 大 師 も 、 此 上 尾 、 齊 梁 巳 前 、 時 有 犯 者 、 齊 梁 巳 來 、 無 有 犯 者 、 若 犯 者 文 人 以 爲 未 渉 文 途 者 也 。 と 日 は れ て ゐ る 、 此 の 規 則 は 又 賦 頌 に も 應 用 せ ら れ た 。 三 、 蜂 腰 五 言 詩 一 句 五 字 中 第 二 字 と 第 五 字 と 同 聲 な る を 得 す 、 此 れ を 犯 せ ば 蜂 腰 の 病 と な る 、 即 ち 五 言 一 句 中 上 二 下 三 と 二 分 し 、 而 し て そ の 分 句 の 末 字 同 聲 な れ ば 蜂 腰 の 病 で あ る 、 そ の 五 字 を 二 分 し 各 句 末 に 關 す る 病 な れ ば 兩 頭 粗 に し て 中 央 細 、 蜂 の 腰 に 似 て ゐ る が 爲 蜂 腰 と 名 づ け た と 日 ふ 。 所 が 此 の 蜂 腰 と 次 の 鶴 膝 と は 、 そ の 名 往 々 混 同 せ し が 如 く 、 鶴 膝 の 條 下 王 斌 の 説 に 、 文 鏡 秘 府 論 概 説 五 一

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文 鏡 秘 府 論 概 説 五 二 五 字 制 鶴 膝 、 十 五 字 制 蜂 腰 。 と 日 ひ 又 沈 氏 の 説 に 、 人 或 謂 鶴 膝 爲 蜂 腰 、 蜂 腰 爲 鶴 膝 、 疑 未 辨 。 と 日 つ て ゐ る 、 盖 し 五 字 に つ い て 論 す る と 、 十 五 字 に つ い て 論 す る と の 差 は あ る が 、 そ の 字 の 位 置 相 似た る 爲 め か く 混 同 を 生 じた も の で あ ら う 、 今 五 字 に つ い て 蜂 腰 を 見 る 説 に 從 ふ 、 蜂 腰 を 犯 せ る 例 、 聞 君 o 愛 我 甘o 竊 獨 o 自 彫 飾 o の 詩 の 君 と 甘 と は 共 に 平 聲 、 獨 と 飾 と は 共 に 入 聲 で あ る 故 に 此 れ は 蜂 腰 の 病 を 犯 し て ゐ る 。 處 が 此 の 規 則 に は 古 來 議 論 が あ る 、 此 れ を 若 し 一 般 的 の 規 則 と せ ば 第 二 字 第 五 字 共 に 平 聲 の 時 と 雖 も 病 と 日 は ね ば な ら の 、 然 る に 此 れ を 唐 律 に 照 す に 平 韻 仄 起 の 塲 合 は 第 二 句 の 如 き 、 仄 韻 平 起 の 塲 合 は 第 一 句 の 如 き 、 共 に 第 二 第 五 字 は 平 聲 で あ る 、 然 も 此 れ を 病 と す る こ と は 出 來 な い 、 故 に 此 の 規 則 は 大 體 仄 聲 の 時 に 論 す る も の で あ る 、 さ れ ば 秘 府 論 に も 或 説 を 引 き て 、 或 日 君 與 甘 非 爲 病 、 獨 興 飾 是 病 、 所 以 然 者 、 如 第 二 字 與 第 五 字 同 去 上 入 、 皆 是 病 、 平 聲 非 病 也 、 ( 此 説 元 競 ﹁ 詩 髄 腦 ﹂ の 説 )。 と 日 つ て あ る、 盖 し 二 字 共 に 平 聲 な る 時 は 避 く ベ か ら ざ る も 、 若 し 二 字 仄 聲 な ら ば 上 去 入 何 れ か を 以 て 之 れ に 代 ふ 事 を 得 る か ら 、 宜 し く 此 れ を 避 く べ き で あ る 、 若 し 此 れ を 避 け ざ れ ば 病 と な る と 日 ふ 意

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味 で あ る 、 是 れ に 依 て 見 れ ば 、 蜂 腰 は 平 韻 の 詩 な れ ば 上 句 (即 不 押 韻 ) に つ い て 論 す べ く 、 仄 韻 の 詩 な れ ば 下 句 ( 即 ち 押 韻 ) に つ い て 論 す べ き で あ る 。 四 、 鶴 膝 鶴 膝 と は 五 言 詩 三 句 中 第 五 字 と 第 十 五 字 と 同 聲 な る を 得 ず 、 此 れ を 犯 せ ば 病 と な る と 日 ふ 規 則 で あ る 、 其 の 詩 中 央 粗 に し て 兩 頭 細 、 鶴 膝 に 似 た る 故 、 か く 名 づ け た の だ と 日 ふ 。 例 へ ば 、 撥 棹 金 陵 o 渚 遵 流 背 城闕 浪 戚 飛 船 o 影 山 掛 垂 輪 月 の 詩 中 第 五 字 渚 、 第 十 五 字 影 が 共 に 上 聲 で あ る か ら 此 れ は 鶴 膝 の 病 で あ る 。 而 し て 此 の 鶴 膝 は 唯 第 一 句 と 第 三 句 に 限 ら ず 、 第 三 句 と 第 五 句 、 第 五 句 と 第 七 句 に も 及 ぼ し 、 相 犯 す 事 を 得 ざ る 事 、 前 例 に 準 す る の で あ る 。 五 、 大 韻 大 韻 と は 五 言 詩 兩 句 の 中 、 第 十 字 の 韻 脚 を 除 く 餘 の 九 字 の 中 に 於 て 、 韻 脚 と 同 韻 の 字 を 用 ふ る を 得 ず 、 若 し 之 れ を 用 ふ れ ば 大 韻 の 病 を 犯 す 。 例 へ ば 、 紫 翩拂 花 樹 黄 鸛 開 緑 枝 の 詩 の 韻 脚 は 枝 の 字 な る に 、 枝 と 同 韻 な る 鸛 の 字 を 用 ふ れ ば 、 此 の 詩 は 大 韻 の 病 を 犯 し て ゐ る 、 即 ち 枝 は 五 支 の 韻 、 鵬 も 亦 五 支 の 韻 で あ る 、 こ れ 疊 韻 と な る を 避 け る 爲 で あ る 、 然 し 若 し 作 者 が 故 意 に 疊 文 鏡 秘 府 論 概 説 五 三

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文 鏡 秘 府 論 概 説 五 四 韻 を 用 ひ ん と す る 場 合 は 病 と は な ら な い 。 而 し て こ の 規 則 は 又 だじ 十 字 の み に 限 ら ず 、 二 十 字 に 於 て も 同 様 で あ る 。 六 、 小 韻 小 韻 と は 五 言 詩 二 句 中 、 韻 脚 を 除 く 九 字 中 に て 他 の 同 韻 の 字 二 字 を 用 ふ る 事 を 得 ず 、 之 れ を 用 ふ れ ば 小 韻 の 病 と な る 。 例 へ ば 、 夜 中 無 與 語 獨 寤 撫 躬 歎 の 詩 の 中 、 中 の 字 、 躬 の 字 共 に 同 韻 で あ る か ら 此 れ は 小 韻 の 病 を 犯 し て ゐ る 、 而 し て 若 し 作 者 故 意 に 疊 韻 を 用 ふ る 塲 合 は 病 と は な ら な い 〇 七 、 傍 紐 前 の 大 韻 と 小 韻 と は 共 に 疊 韻 に 關 し た 規 則 で あ る が 、 此 の 傍 紐 と 次 の 正 紐 と は 、 共 に 雙 聲 に 關 す る 規 則 で あ る 。 先 づ 傍 紐 と 正 紐 と 日 ふ 事 か ら 述 ベ ね ば な ら の 、 傍 紐 と 正 紐 と に 就 て は 異 義 匠 々 で あ る 、 秘 府 論 に も 王 斌 、 元 競 、 劉 滔 、 沈 氏 、 或 人 云 な ど の 説 を 引 い て あ る が 要 す る に 明 瞭 で な い 、 試 み に 秘 府 論 引 く 所 の 異 義 を 擧 ぐ れ ば 、 ( a ) 傍 紐

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( イ ) 傍 紐 の 下 に 曰 く 、 傍 紐 詩 者 、 五 言 詩 一 句 中 、 有 月 字 、 更 不 得 安 魚 元 阮 願 等 之 字 、 此 即 雙 聲 、 雙 聲 即 犯 傍 紐 。 と 、 此 れ は 五 言 詩 一 句 中 月 の 字 が あ ら ば 、 他 の 四 字 中 に 於 て 魚 元 阮 願 等 の 字 を 用 ふ ベ か ら す と 日 ふ 規 則 で あ る 、 此 の 月 魚 元 阮 願 等 は 一 紐 に 非 ざ れ ざ 皆 雙 聲 で あ る 、 而 し て 大 師 の 御 釋 に 曰 く 、 魚 月 是 雙 聲 、 此 即 犯 大 紐 、 所 以 即 是 元 阮 願 月 爲 一 紐 、 今 就 十 字 中 論 小 紐 、 五 字 中 論 大 紐 、 所 以 即 是 元 阮 願 月 爲 一 紐 。 と 、 此 の 意 元 阮 願 月 は 一 紐 、 魚 は 元 阮 願 月 と は 一 紐 た ら ざ れ ざ 、 魚 元 阮 願 月 共 に 皆 雙 聲 の 字 で あ る 、 故 に 此 の 傍 系 の 雙 聲 を 用 ふ る 故 傍 紐 と 日 ふ 意 味 ら し い が 文 意 明 瞭 で な い 、 そ の 大 紐 小 紐 は 五 言 の 中 に 於 て 論 す る と 十 字 の 中 に 於 て 論 す る と の 差 で あ る 、 或 は 又 元 阮 願 月 の 如 き 一 紐 の 字 を 用 ふ る も 、 魚 月 等 の 傍 系 の 雙 聲 を 用 ふ る も 共 に 此 の 病 で あ る と 日 ふ 意 味 か も 知 れ の 、 そ の 證 據 は 傍 紐 の 下 の 例 詩 に 、 元 生 愛 皓 月 阮 氏 願 清 風 。 の 詩 を 擧 げ て あ る が 此 の 元 月 、 阮 願 は 皆 一 紐 の 字 で あ つ て 然 も 傍 紐 の 病 を 犯 し て ゐ る 、 一 紐 の 双 聲 を 用 ふ る も 傍 紐 の 病 な れ ば 、 下 の 正 紐 と 同 一 で あ る が 、 傍 紐 は 一 般 の 雙 聲 に 關 し 、 正 紐 は 特 殊 の 雙 聲 に 限 る と 見 れ ば 理 は 通 す る 。 ( ロ ) 傍 紐 の 條 下 劉 氏 を 引 き て 曰 く 、 文 鏡 秘 府 論 概 説 五 五

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文 鏡 秘 府 論 概 説 五 六 劉 氏 日 、 傍 紐 者 即 雙 聲 是 也 、 譬 如 一 韻 中 己 有 任 字 、 即 不 得 復 用 忍 辱 柔 蠕 仁 讓 爾 日 之 類 。 ( 八 ) 沈 氏 の 言 を 引 き て 曰 く 、 沈 氏 云 所 謂 風 表 月 外 奇 琴 精 酒 是 也 。 此 の ( ロ ) と ( ハ ) は 皆 傍 系 の 雙 聲 を 用 ふ る を 傍 紐 と 日 ふ 意 味 で あ る 。 ( ニ ) 劉 滔 の 言 を 引 き て 曰 く 、 劉 滔 以 雙 聲 亦 爲 正 紐 、 其 傍 紐 者 、 若 五 字 中 巳 有 任 字 、 其 四 字 不 得 復 用 錦 禁 急 飲 蔭 邑 等 字 、 以 其 一 紐 之 中 有 金 音 等 字 與 任 同 韻 故 也 。 此 れ は 金 と 任 と の 如 き は 同 韻 な る が 故 用 ふ べ か ら す と 日 ふ 意 味 で あ る が 、 然 ら ば 此 の 規 則 は 雙 聲 に 非 す し て 疊 韻 の 犯 で あ る 。 傍 紐 に つ い て は 巳 上 の 異 説 が あ る 。 (b ) 正 紐 ( イ ) 正 紐 の 條 下 に 曰 く 、 正 紐 者 五 言 詩 壬 衽 任 入 四 字 爲 一 紐 、 一 句 之 中 、 以 有 壬 字 、 更 不 得 安 衽 任 入 等 字 、 如 此 之 類 名 爲 犯 正 紐 之 病 也 。 此 れ は 明 か に 一 紐 の 字 を 一 字 用 ふ れ ば 他 の 三 字 は 用 ふ べ か ら す と 日 ふ 規 則 で あ る 。

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( ロ ) 或 日 の 説 を 引 き て 曰 く 、 正 紐 者 謂 正 雙 聲 相 犯 、 其 雙 聲 雖 一 、 傍 正 有 殊 、 從一 字 之 紐 、 得 四 聲 是 正 也 、 若 元 阮 願 月

聲 是 傍 也 、 若 元 阮 願 月 是 正 、 而 有 牛 魚 奸 硯 等 字 来 會 元 月 等 字 成 雙 聲 是 也 此 れ は 傍 紐 と 正 紐 と を 説 明 す る も の と し て 甚 だ 明 瞭 の 説 明 で あ る 。 ( 八 ) 元 氏 の 説 を 引 き て 曰 く 、 正 紐 者 一 韻 之 内 有 一 字 四 聲 分 爲 兩 處 是 也 。 此 れ も 一 紐 に つ い て 論 す る も の で あ る 。 そ の 他 秘 府 論 に は 劉 氏 の 説 を 引 い て あ る が 、 共 に 一 紐 の 字 を 兩 處 に 用 ふ る を 得 す と 日 ふ 點 に 於 て 一 致 し て ゐ る 。 巳 上 諸 説 あ る が 要 す る に 正 紐 と は 一 紐 の 雙 聲 を 日 ひ 、 傍 紐 と は 傍 系 の 雙 聲 を 日 ふ 。 一 紐 の 雙 聲 ご 傍 紐 の 雙 聲 と は 、 秘 府 論 巻 一 に 委 し く 記 さ れ て ゐ る 即 ち 曰 く 、 崔 氏 日 傍 紐 者 風 小 月 膾 奇 今 精 酉 表 豊 外 厥 琴 覇 酒 盈 紐 聲 雙 聲 者 文 鏡 秘 府 諭 概 説 五 七

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交 鏡 秘 府 論 概 説 五 八

右 巳 前 四 字 、 縦 讀 爲 反 語 、 横 讀 是 雙 聲 、 錯 讀 爲 疊 韻 。 と 、 即 ち 縦 に 讀 ん で 土 煙 の 反 は 天 、 天 嶋 の 反 は 土 で あ る 、 横 に 讀 ん で 天 土 、 煙嶋 は 雙 聲 で あ る 、 錯 讀 し て 天 煙 、 土 嶋 は 疊 韻 で あ る 。 然 ら ば 傍 紐 と は 二 字 雙 聲 に し て 韻 の 必 す し も 同じ か ら ざ る も の で あ る 、 委 し く 日 へ ば 子 音 が 同 一 行 ( 例 へ ば タ チ ッ テ ト の 如 し ) に あ つ て 韻 の 必 す し も 同 じ か ら ざ る も の で あ る 。 正 紐 と は 一 紐 の 字 に つ い て 日 ふ 、 一 紐 と は 秘 府 論 正 紐 の 下 に 記 さ れ た る 如 く 、 壬衽 任 入 の 如 き が そ れ で あ る 、 即 ち 一 音 で 平 上 去 入 に 通 す る も の で あ る 。 傍 紐 と 正 紐と の 意 味 は 已 上 の 如 く で あ る 、 さ て 今 の 第 七 、 傍 紐 の 犯 と は 、 前 記 の 如 く 五 言 詩 に 於 て 此 の 傍 系 の 雙 聲 を 一 字 用 ふ れ ば 他 に 用 ふ ベ か ら ず 、 此 れ を 用 ふ れ ば 傍 紐 の 病 を 犯 す と 日 ふ 規 則 で あ る 而 し て 之 れ を 五 字 の 中 に 用 ふ れ ば 大 紐 と 日 ひ 、 十 字 の 中 に 用 ふ れ ば 小 紐 と 日 ふ 十 字 中 は 稍 寛 な る も 五 宇 中 は 最 も 巨 病 で あ る 、 但 し 二 字 一 處 に 用 ふ る 時 は 病 と は な ら な い 。 例 へ ば 、 魚 遊 見 風 月 獸 走 畏 傷 蹄 魚 と 月 は 五 字 中 に 於 て 、 字 を 隔 て 、 共 に 傍 紐 の 雙 聲 で あ る 、 故 に 病 と な る 、 獸 と 傷 と も 同 様 で あ る 、

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又 、 雲 生 遮 麗 月 波 動 亂 遊 魚 の 魚 と 月 は 十 字 中 に 於 て 犯 せ る も の で あ る 。 ( 八 ) 正 紐 正 紐 は 前 述 の 如 く 五 言 詩 中 に 於 て 、 一 紐 の 字 一 字 を 用 ふ れ ば 、 他 に 同 一 紐 の 他 の 字 を 用 ふ る 事 を 得 す 、 此 れ を 用 ふ れ ば 正 紐 の 病 を 犯 す と 日 ふ 規 則 で あ る 。 例 へ ば 、 心 中 肝 如 割 傷 裏 氣 便 樵 の 詩 の 肝 と 割 と は 同 一 紐 で あ つ て 正 紐 の 病 を 犯 す 。 我 本 漢 家 子 來 嫁 單于 庭 此 の 十 字 中 家 と 嫁 と は 同 音 の 雙 聲 で あ る 、 故 に 又 正 紐 の 病 を 犯 す 。 而 し て 元 氏 の 説 に 、 正 紐 者 一 韻 之 内 、 有 剛 字 四 聲 分 爲 兩 處 是 也 。 と 日 つ て ゐ る が 兩 處 と な さ す 、 連 用 し て も 病 と な る 例 を 擧 げ て ゐ る 、 例 へ ば 、 停 軒 未 忍 去 白 日 小 踟 厨 の 詩 の 踟 厨 は 同 音 雙 聲 の 字 で 、 連 用 し て 病 を 犯 す と 日 つ て ゐ る 。 文 鏡 秘 府 論 概 説 五 九

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文 鏡 秘 府 論 概 説 六 〇 已 上 入 病 を 通 覧 す る に 平 頭 上 尾 は 句 頭 句 尾 に 於 て 同 聲 の 字 を 避 け る 規 則 で あ り 、 蜂 腰 鶴 膝 は 同 句 又 は 隔 句 に つ い て 同 聲 を 避 け る 規 則 で あ り 、 大 韻 小 韻 は兩 句 中 に 於 て 韻 脚 と 同 韻 、 又 は 韻 脚 と 別 の 他 の 同 韻 の 字 を 二 つ 用 ふ る 事 を 避 け る 規 則 で あ り 、 傍 紐 正 紐 は 一 般 又 は 特 殊 の 雙 聲 を 避 け る 規 則 で あ る 、 總 て 皆讀 ん で 脣 吻 流 易 な る を 旨 と し て 作 ら れ た 規 則 で あ る 。 已 上 入 病 の 大 體 で あ る 。 此 の 入 病 は 前 述 の 如 く 沈 約 等 の 作 つ た も の で あ ら う が 、 此 の 名稱 此 の 規 則 悉 く 沈 約 に 依 て 創 説 せ ら れ た も の かど う か 、 或 は 當 時 既 に あ つ た 説 を 沈 約 が 一 層 組 織 的 に し た も の か も 知 れ な い 。 元 競 、 劉 滔 (滔 の 傳 南 史 七 十 二 に 出 す ) は 別 と し て 王 斌 の 説 は 沈 約 も 此 れ を 引 き て 批 議 せ る を 見 れ ば そ の 説 盍 し 沈 約 の 前 に あ つ た も の で あ ら う 、 (秘 府 論 巻 五 鶴 膝 の 下 参 照 ) 王 斌 は 何 れ の 時 代 の 人 な る か 明 な ら ざ る も 秘 府 論 四 聲 論 の 中 に は 、 洛 陽 王 斌 撰 五 格 四 聲 論 。 と あ り 南 史 陸 厥 傳 に も 、 時 有 王 斌 者 、 不 知 何 許 人 、 著 四 聲 論 行 子 世 、 斌 初 爲 道 人 、 博 渉經 籍 , 雅 有 才 辨 、 善 屬 文 、 後 還 俗 。 と あ れ ば 沈 約 と 略 同 時 代 の 人 で あ つ セ で あ ら う 、 故 に 此 の 入 病 の 説 も 當 時 既 に そ の 説 あ り し も の を 、 沈 約 が 一 層 規 則 的 に 作 つ た も の で あ ら う 、 然 し 沈 約 に 至 つ て 確 定 し た と 日 ふ 上 か ら は 、 此 れ を 約 の 説

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