149
問題解決過程における概念の機能
一一 揄ネの場合一
理科教育研究室高野恒雄
F腿鵬意量⑱醜 ⑫藍 ¢mpsu e e getl最魏 恥⑪¢㊧総 ⑰建 憂ヤ⑪睡㊧麗豊一§⑬盤Ψ量醜奮
響騒腿麗鯉⑪ 翌AKA蟹⑪ A儀sgrea¢危
The contribution of the concept to the problem−solving is investigated wieh emphasis on the role ofconcept in the grasrv
ping the key of prob1em一 solviRg.
The processes of solving of・ three problem related to the concept of buoyancy and coRservation of weight of xnatter are analyzed,and the difficulty of application of concept is confima
rmed.
These processes of problem−solving are schematized by the aid of idea about the cognitive cycle by U. Neisser and the impor−
tance of schema as to the problem−situation based on the material analysis connected to the problem−solving is confirmed
§i 研究の意味
問題解決能力は,教科教育の広範な領域において重視され,その育成を強く企図されている。問題解 決に必要な能力は総合的なものであり,いくたの側面を持っている。その一つの側面として既に学習し
てある概念が有効に機能しなければならない瘍面がある。
筆者が小・中学校の理科授業研究を行うたびに考えさせられる問題の一つに,この既習概念が問題解
決において働らく場合と働らかない場合との差異の原因に関する問題がある。筆者は,児童生徒の問題解
決過程を観察していて,既に学習している概念が問題解決における問題状況に結びつくことは意外にむずかしいという実感を持つことが多い。
そこで,この問題を少しでも明らかにしょうと考え,問題解決についての具体的な調査を行ない,そ
の結果を分析し,問題解決過程における概念の機能の態様を図式的にとらえてみた。
はじめに全国の調査結果を利用し,その分析を試み,ついで筆者の調査結果二種を分析し,相関連さ
せて考察することにする。
§2 全国小・中学校児童生徒学力水準調査の場合
筆者の調査結果を検討する前に,国立教育研究所が昭和27年から29年の3年にわたって行なつ
調査の中で澗題内容の性格上,本テー郊こ特に縁のある問騨例について検討する9)昭和28年に行なった調査問題〔6〕はつぎのようである。
イ図のように,水槽に水を入れて目方をはかったら7Kgありました。次のA, B, Cの場合,そ れぞれ目方は何Kffになりますカ㌔一番下の[=コの中の答のうち正しいと思うものを一つずつえら
んで その番号をそれぞれの( )の中に書き入れなさい。
A.重さ2Kgの石を水の申に沈めたら,はかりのめもりは何Kgを示しますか。
イ図
星一
C一w轄 一一
Q9◎
w図
こたえ( )
B。重さ1助の木片を水面に浮べたら,はかりのめもりは何Kgを示しますか。
こたえ( )
C。同じ水槽で,ロ図のようにばねばかりでつるした重さ5鞠・体積1,000
c透の物体を水の中に入れたら,上と下との両:方のはかりのめもりはそれ ぞれ何Kgを示しますか。
(1)上のはかり こたえ {
(2}下のはかり.
1. 2Kチ 6. 9Kg
4 7
晦
鞠2 51←
&&
鞠1
412.7︒ s. 8Kg
正答 A……6 B……5 C(1)……2 (2)……5
C6) C (1)
反応数 %
解答の内容(申学3年生)
k6〕 A 〔6〕 B
② 670
11.13 741
12.37 107
1.8反応数 % 反応数 %
6.8 1,028 17.0
3 185
a14 345
5.7 N237
ag4 276 46 ⑤ 竃783
46.1計 2,783
⑥ 3,304
54.7 1.2.3.U.7.8 146
241. .
V.8 1,328 21.9
N30
0.5〔6〕C(2}
N
947
15.7計 亀304 反応数 %
計 6,040 100.0 4 662 11.0
⑤ 236 ag
8 849 14.1
1.2 .
U7
761 1a6
N
275 45
計 爲783
高野:問題解決過程における概念の機能
151
§3 浮力と重さの保存の概念の機能
上の解答内容について解釈を加えてみよう。
(6) A
正解は,水を入れた水槽の重さ7Kgに沈めた石の重さ2騒を加えた9晦(⑥)であるが,正答率が 54.7%であるのは,余り高くないというよりはむしろ低いというべきであろう。最も多い誤りは,
石を沈めても重さは変らず,はじめの7Kgのままであるとするものである。石の重さが水中では消失し てしまっていると考えるわけである。この理由は,おそらく,水中では浮力を受けるあで軽くなるとい
う考えが漢然と支配し,問題状況を誤まってとらえているためではないかと思われる。水中で石に働ら.
く力に視点が向くと,その部分的な事情だけで考え,全体的にはかりにかかる重さが結局はどうなるか
に考えが至らなかったといえよう。
C6] B
Aで正答した者54.7%の中でBでは誤答する者がいたので正答率が46.1%に落ちている。この差
は余り大きなものではないといえよう。正答は7Kgに木片のlKgを加えた8晦(⑤)であるが,最も多い 誤答は1Kgの木片を浮べても重さは変らず,はじめの7 Kgのままだとするものである。この場合は石でなく木片なので沈まずに浮くわけで,Aの場合以上に重さは変わらないとする考えが出やすいといえよ
う。
A,B合せて考えてみると,重さの保存についての認識の不十分さを感じさせられるわけである。
C6) C(1)
正答率は11.1%で,Bに比べて4分の1以下に落ちている。5晦の物体が夏鳶に吊り下げられたと き,体積1,0◎Oc撮に見合った浮力1助が働らき,差し引き4晦(②)が正答である。最:も多い誤まりは
物体は水申に吊り下げられても,手にかかる重さつまり上のはかりの目盛は変らず5晦のままだとするものである。このことはA,Bで正答した者でも,木片のように浮んでいる物体でもなく石のように沈 んでいる物体でもなく,水申に申吊りになっている場合にも,浮力が働らいているということを正確に は認識していないことを物語ろう。浮力についての認識の不徹底さ,あいまいさを感じさせられる場合
である。
誤答者は極めて好意的になれば,A, Bにおいて重さの保存性について一応正しいという云方をした 者が,重さの保存というよりは重さの不変ということにこだわってしまい,誤まってしまったとも考え
られよう。
C6) C(2)
正答率はわずかに3.9%でC(1)のときよりさらに減少する。水の入った水槽の重さ7晦に物体を吊っ ている手にとって軽くなった分の1晦を加えたS Kgが正答である。最も多い誤まりは,手にとって軽く
なった分の1Kgでなく物体の重さ5 Kgが丸々下のはかりにかかると考え,7 Kgに5Kgを加えて12Kgだ とするものである。物体は手で吊り下げており,手に力がかかっていることを忘れ,ともかく何んでも 重さが消失してしまう考え方に対しで,棲んでもかんでも重さを加算していき上方で吊っていることも
度外視してしまう考え:方である。共に誤まりの典型的な方向を示しているものといえよう。
以上の解釈のもとに,この問題解決,とりわけ正答率の最も低い〔6〕C(2}の場合の探究的思考の過程
を図式的に示すとつぎのようになる。
第1図
新たに加わった状況の分析
ぐ灘劣堰〜紮ζ驚経国)
第1図の図式的な表現は,第2図に示すナイサー
(U.Neisser)の知覚循環の図式を参考にし ながら,筆者流の表現をとってみたものである。
図〜 能ノ 聖鵬脚 一 禾 ︵\
ノ、
r一一一nt一一一一ww7 一
この知覚循環についてナイサーはつぎのようにのべている。
「私の考えでは,視覚にとって最も重要な認知構造は,予期図式とでもよばれるもので,それは,他 の情報に比べてある特定の情報を選択的に受け入れ,それによって見る活動をコントU一ルする,いわ ば準備状態を意味している。われわれは探し方を知っているものしか見ることができないので,何が知
覚されるかを規定するのは, (現に利用し得る有効な情報とともに)このような図式である。知覚は確
かに構成化の過程であるが,しかし構成されるものは,心の中の小人が感心するような心象ではない。その時々に知覚者はある種の情報を受け入れる予期状態を構成している。そしてこのような予期状態は 情報が利用し得るようになった時に,それを受け入れることを可能にする。知覚者はしばしば,眼や頭,
そして身体を動かすことによって,このような情報を有効なものにするために,積極的に光学的配列を 探索する必要がある。このような探索は,知覚活動プランであり,かっ特定の光学的構造に対する準備 状態である予期図式によって方向づけられる。この探索の結eg 一抽出された図式は,さらに次の探索 を方向づけ,さらに多くの情報を取り入れる準備を整える。このような,図式一探索一一対象一図
式一…と続く循環が示されている。」
ナイサーが指摘するように,知覚循環の図の左下に示されている「図式」が対象の認知を進めさせる。
したがってこの「図式」をどう掴ませるかが最大の問題である。問題状況を検討する中で次第に「図式」
が掴まれていくことが期待されるのであるが,事はさほどに容易なものではない。
〔6〕C(21の場合においては,水の入った水槽の重さの外に上のはかりに吊り下げられている物体が水
中にあるときの下向きの影響を総合的にとらえる視点が大切になる。この場合問題の一つの焦点は吊り下げられている物体である・浮力の分だけ上のはかりは軽くなるが,.その軽くなる分だけ下向きの力が
働らき,下のはかりに加算されるというとらえ方が必要になる。重さの保存性がここで大切な概念となる。
高野:問題解決過程における概念の機能
153
こう考えると,浮力という概念,重さという概念,保存という概念は,ただ言葉だけ知っているので は余り機能しないといえよう。一応の意味を理解しているつもりでも実際には働らかない概念に止まる
ことも多いであろう。
大切なのは浮力というものが働らくときの諸相を比較しながら総合的に理解することである。水中に 沈んで底に接している状態で浮力はどう働らくか,水上に浮んでいる物体の場合は浮力はどこに働らき どう違ってくるか,上から水中に物体を吊り下げた場合は浮力のはたらきが吊り下げる手やばねばかり にどう影響するかといった状況の中でとらえられているとき,浮力という概念は豊かなイメージを伴っ て,多様な問題状況の中で働らくものとなり得るものと考えられる。つまり浮力という普遍的に広く適 合する力を認識するとともに,それが働らく状況の申でとらえる経験が重要な意味を持つのである。こ のような経験は,問題解決過程を踏む学習の中で有効に積み重ね得るものであり,応用場面において真
に生きて働らく力となるといえる。
重さや保存という概念についても同様なことがいえるように思われる。
§4 重さの保存に関連ずる問題に対する学生の反応
上の問題が余りにも正答率が低かったので,重さの保存に関連するつぎのような問題を大学3年生80
名に与えてみた。
O
問題「右図のように天秤の両方の㎜に水を入れたビーカーをのせ,
つり合わせてある。今,金属のおもりにひもをっ1ち左側のビーカ ーの水の中に静かに申吊りにすると天秤の左側の皿はどうなるでし
ょうか,つぎの申から選んで下さい。
①下がる, ②そのまま, ③上がる」
理科系の学生であったにもかかわらず,①下がると正答した者は55%に止まった。大学生でも,
重さの保存を全体的にとらえることは意外に不十分であった。
金属のおもりに浮力が働らくことは全員十分に解っていることである。したがって,手にかかるおも りの重さは軽くなることは当然である。その軽くなった分だけ重さが消失してしまうという考えはない
はずなのに,結果的にはそう思われても仕方のない学生が意外に多いわけである。
筆者が「おもりの上にばねばかりをつけてぶら下げてみると,おもりが水中に入るときは,はかりの 目盛はどうなるだろう。」とごく平凡なヒントを与えると正答率が71%に達した。おもりを水申に入 れるとばねばかりの目盛が小さくなり軽くなることは誰もが知っていることである。ただ,この簡単な ヒントで視点が上方の手にかかる重さに行き,学生がそればかりしか考えていなかった下方の皿にかか
る重さと関係ついてくることになるのであろう。
浮力という概念を全員知っているとはいっても,その知り方は様々である。その理解の深さはいろい ろである。概念は,問題状況の中でとらえられ,それを適用し,考察していく経験によって認識を深め
ていかない限り,意外に浅い理解に終るということを覚らされるのである。
この問題の解決過程で「図式」として働らく概念の機能は,前述した〔6〕C(2}の場合によく似ている
ので第1図で解釈できるわけである。
§5 浮力を使って合金成分測定法を考案する問題の場合
これは昔ガリレオが考案した測定法を変化させて作った問題である。大学2年生(教材研究受講の学 生のため文科系理科系混合の83名)に考えてもらった。
問題「今,はんだ(鉛とスズの合金)1晦があるとする。このはんだの成分である鉛とスズの割合 を知りたい。使ってよい材料と道具はつぎの通りであり,それ以外の物は使ってはいけない。」
おもり !○
腕に目盛のついた
天秤
晦
⊥﹈舳
は
⊥﹈脳 1﹇馬 鉛 びさ 頭重 こ︵
ロを腕モい 既のヒよ 秤るて 天れし 一をら乙 津け無 金つば
左の三種の金属を入れることのでき るビーカーと水
ヒント「つぎのような操作を行えば,はんだの成分の割合を求めることができる。」
まず,おもりと鉛1Kgを左右にぶら下げてつり合わせる。つぎに鉛 の下方から水の入ったビーカーを手に持って近づけ,鉛が水中に中
吊りになるようにする。
左右がつり合うようにおもりを移動させ,その位置を確認する。っ ぎに鉛を外して,その代りにスズをぶらさげて同じ操作を行ない,
最后にはんだでも同様の操作を行なう。以上3回の実験により,は んだの成分を求めることができる。その求め方をのべよ。」
正解
「ヒントに示した操作を行なうことによって,鉛・スズ・はんだの各1Kgの塊に水中で働らく浮力の大 きさはそれぞれ違うことを利用し,天秤の腕にそれぞれの場合に左右つり合った位置のしるしを図のよ
うにつけることができる。
は そうすると,図のように三つのしるしの問の距離に比例
鉛糸委 した害拾を計算すればはんだの成分としての鍬スズの割
[コ==[工====二二=合を求めることができる・」
評価
ス 鉛
ズ の 「学生の解答を評価して,つぎの3種に分けた,
窒健 合瀦_礁のように躁作と天秤の腕の上の睡から
繕雪 計難藤出でき罐.
当
不完全合格者……正解は出せないが,操作を合っていて,
高野:問題解決過程における概念の機能
155
浮力の違いを利用して天秤の腕にしるしをつけるところまではできているが最後の計
算までは説明できない者。
不合格者……上の水準に達しない解答をなした者。
測定法考案の合格率 (%)
回数
ャ績 1 回 目
2回目(ヒント後)
合 格 者
3.626.5
不完全合格者 15.7 25.3
不合格者 80.7 48.2
碓合格者 ュ集重合灘。,%
融く;灘1貌・%
第3図
提示された用具の含意の吟味
(天秤,水の入ったビーカー)
s,ggsgygee$/
ジ
( 概念法則の活用一一
wヘ→天秤にかかる重
ウの変化→目盛の違い)饗この問題解決過程でまず問題となるのは
問題解決への 探究思考
,与えられた教材では,鉛,スズ,はんだのいずれもが,
Kgの量で等しいので,何んとかそれぞれ違う量でとらえられるように運ばなければならないことである。
そこで水の入ったビーカーの存在に気づき,浮力の利用を考えつくことが期待されるのである。
天秤のつり合いを利用しながら,浮力による差を量的にとらえていく手順を構想することが大切であ る。この間の筋道は図に示した通りであるが,与えられた材料と道具を問題状況としてとらえ,その分 析をし,つぎにそれを総合的にとらえた「図式」的なものができ,解決過程をリードするという過程を
考えることができるのである。
そして,いったんつくられた「図式」的なものは,それが不完全であいまいさを含んでいればいるほ ど,もう一度問題の文脈を読みとり,材料や道具を点検し,何が利用できるかを探し,問題状況を図式
的にとらえる努力がくり返され,「循環」が展開されるといえる。
今度の問題は仲々むずかしい。1回目に合 格した者は僅かに3.6%しかない。不完全合 格者までいれても20%弱である。
ヒントを与えると,ピン5の内容がごくて いねいに書かれてあるので,大巾な上昇を見
せるが,それでもなお不合格者は48. 2%と
半数近くいる。不完全合格者も不合格者もピントによってもなお変らない者がともに約 60%もいる。相当むずかしい問題とはいえ
よう。
この場合の問題解決における探究思考を図
で示すと左の第3図のようになる。
1
§6 結 論
問題解決過程において,解決の見通しを掴んだり,解決の構想を立てたりする場合に,既習の概念が 対象把握の枠組として有効に働らく必要がある。この問題解決過程における概念の機能を少しでも明ら かにするために,浮力と重さの保存の概念を働かせて解決する問題について調査し,その結果を考察し
た。
(1)国立教育研究所で行なった調査問題の一つを分析し,浮力と重さの保存に関する問題場面を探究 する過程に,ナイサーの知覚循環説を対応させ,問題解決における図式の必要性とその循環的認識過程
を提示した。
(2)上の問題のむずかしさにかんがみて浮力と重さの保存の概念に関連する問題を,大学生に与えて 調べた結果,大学理科系の学生でも既習の浮力概念を問題状況に有効に結びつけ,問題解決への見通し
をつけるための図式として役立たせることは相当にむずかしいことが解った。また探究思考の過程は(1)
の場合と同様である。
(3)浮力概念を使って,天秤ではんだの成分の鉛とスズの割合を測定する方法を案出するというやや 困難な問題についてその解答を分析した結果,与えられている問題状況の分析とりわけ材料分析を浮力 概念に結びつけて操作を案出する過程のむずかしさと探究思考の過程について知覚循環の立場から考察
した。
注
1)小島繁男 2) Ulric
二現代理科教育大系,5巻,笈,第2章 理科教育における調査
Neisser : Cognition and Reality 一Pyinciples and Implication of Cognitive Psychology,
1976,古崎・村瀬訳「認知の構図」 (サイエンス社,1978年)