卒業生の近況報告 卒業を振り返って
著者 川副 暢子
雑誌名 東京家政大学附属臨床相談センター紀要
巻 17
ページ 93‑95
発行年 2017‑03
出版者 東京家政大学附属臨床相談センター
URL http://id.nii.ac.jp/1653/00010112/
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東京家政大学附属 臨床相談センター紀要 第17集
私が東京家政大学大学院を修了して早いもの で4年が過ぎました。振り返ってみるとあっと いう間の4年間でした。私は、修了してすぐに 岐阜県岐阜市にあります医療法人社団総文会ク リニック足立に就職しました。クリニック足立 のある岐阜市は、名古屋駅から電車で 20 分ほ どでアクセスでき、岐阜城のそびえたつ豊かな 自然に恵まれた土地です。クリニック足立は、
単科の精神科で院長と奥様で切り盛りされてい るアットホームな病院です。正社員は私1人で すが、事務さんや看護師さんが2名ずつ、ワー カーさんが1名パートで勤務しています。また、
非常勤の臨床心理士の先生が6名勤務していま す。単科の精神科でこれだけの人数の心理士が 勤務しているのは珍しいと思いますが、院長が 心理士によるカウンセリングの役割を理解して くださって、力を入れておられるからだと思い ます。また、カウンセリングを希望して受診さ れる患者さんも多いため、現在はカウンセリン グの予約が数週間待ちの状態です。
私が勤め始めたころは、臨床心理士の資格を 持っていないこともあって、主な業務は受付と 事務でした。土地勘がない中、電話でクリニッ クの場所を案内するにも一苦労でした。また、
「体がえらい」といった方言にも悩まされまし た。この「えらい」というのは、しんどい、辛
いという意味があるそうです。慣れない土地で の勤務と、心理士として就職したはずなのに受 付と事務の業務で不満を感じたこともありまし たが、そのような時は、在学中に伺った福井至 先生の「高い給料をもらうのだから、何でもや らないとだめだ」というお言葉を思い出して取 り組んでいました。ある時、強迫症の患者さん から「私が帰ったあと事故は起きていませんか」
と電話が入ったことがありました。この方の病 状と治療方針は聞いていたため、「A さん、こ のような時はどう対処するように言われていま すか」とお聞きしました。後日担当の心理士か ら「あの時、Aさんに電話であのように言って もらえたことで A さんもハッとされたようで す。ありがとうございました」と言われました。
受付や事務も、病院の業務の一環として重要性 を感じたエピソードでした。これも福井先生の
「何でもやる」の教えから、コツコツ取り組ん でいた成果だと実感しています。
就職して2年目からは、カウンセリングと精 神科デイケアの業務、そして集団療法のサブ ファシリテーターも任されるようになりまし た。カウンセリングをしたいとずっと思ってい ましたが、いざ取り組んでみると躓くことが多 く、改めて難しさを感じました。カウンセリン グの時間枠を守ることはもちろん、話を聞きな がら記録を取ったり、設定したアジェンダを進 めようとしてもその通りにならなかったり、自 卒業生の近況報告
卒業を振り返って
川副 暢子
医療法人社団総文会 クリニック足立
卒業を振り返って
分が予想していなかったことを語られると途端 に頭が真っ白になってしまったり、思うように いかない歯がゆさを感じることも多くありまし た。そのような時には、先輩の心理の先生に相 談したり、週に1度設けられている院長との勉 強会で意見を伺ったりしました。そこで、何よ り大切なのは傾聴し、ラポールを形成すること だとご指導をいただきました。私は話を聴いて いるつもりでも傾聴ができておらず、聴くこと よりも「患者さんに対して役に立つこと、気の 利いたことを言うこと」に必死になっていたの だと改めて気付かされました。それからは、頭 が真っ白になってしまうことがあっても、自分 の動揺をそれはそれとして受け止め、傾聴を心 がけるようにしました。すると、患者さんから
「話を聞いてもらってよかった」と言われるこ とが増えたり、話の中から患者さんが抱える問 題の背景を共有することが出来たりしました。
在学中も臨床相談センターでケースを持たせて もらい、傾聴も行なっていたつもりでしたが、
それでも、就職してから実践できなくなってい ました。このような時、すぐに相談・質問でき る場が身近にあるのも非常にありがたい職場だ と思っています。
また、デイケアの業務では、カウンセリング とは違う難しさを感じていました。例えば、参 加されている患者さん全員に目を配り、表情や しぐさ、身なりなどからその人のコンディショ ンを探ることや、患者さんとの何気ない会話も 目的をもって意図的に行なうことを同時にやら なければならないことなどです。小規模のデイ ケアとはいえ、10 人前後の参加者を全員均等 に把握するのは難しく、最初は名前を覚えるの に必死でした。デイケアの参加者は、通院が 10 年以上という患者さんが多く、私よりもク リニックのことを知っていて、プログラムに対
しても、以前に聞いたことがある、見たことが あると言って、取り組みへの興味が薄いことも ありました。そんな時は、一緒に関わってくだ さっていた看護師さんの対応から勉強をさせて もらいました。看護師さんは、看護の知識と観 点から不調に対するアドバイスや、時には生活 指導や栄養指導も行なっていました。専門家と しての知識を生かしながら、それぞれの患者さ んに必要なことを考えて実践されている姿に、
心理士として出来ることを考えるようになりま した。そこで、一人ひとりの何気ない話も丁寧 に聴くことを心がけるとともに、日常で困って いることのアンケートを取って、SSTプログラ ムで話し合うテーマとして扱ったりしました。
具体的には、訪問販売の断り方や友人への遊び の誘いなどがありました。身近な問題を取り上 げてロールプレイを行なったことによって、作 業所への通所など社会参加を果たした患者さん から「あの時心理のプログラムをやってもらっ てよかった、役に立った」と声をかけていただ いた時は本当にうれしかったです。
さらに、集団療法のサブファシリテーターで は、当初、資料準備や会場案内などを行なって いましたが、徐々にプログラムの一部の実践や フィードバックをやらせてもらうようになりま した。集団で行なう治療は、個人カウンセリン グと異なり、全員に目を配ると同時に個々人に 対して意図的にフィードバックする点で、デイ ケアと似ていると感じました。個人カウンセリ ングだけでなく、精神科デイケアや集団療法の サブファシリテーターもやらせていただけたこ とは、とても貴重な経験だったと思います。
私の現在の業務を通じて、修了してからのこ とを振り返ってきましたが、思えば「何でもや る」といわれた福井先生のお言葉が一貫して私 を突き動かしていたように思います。同時に、
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川副 暢子
何でもやらせていただける環境も大きかったと 思います。くじけたり躓いたり、この仕事は向 いてないのかと悩んだりもしましたが、ここま でやってこられたのは、在学中よりご指導いた だいた先生方や職場の先生、同僚、そして、同 期の存在があったからだと思います。特に、同 期との勉強会は、大切な時間となりました。あ る時はお互いの近況を報告し合い、ある時は知 識を深め、ある時は事例検討をしてモチベー ションを高め、互いに研鑽できる場になってい ると思います。それぞれ就職して会う時間が 減っても、気を遣うことなく様々な意見を言い 合える仲間に出会えたことに感謝しています。
同様に、勤務先の心理の先生と話をする機会を もてたことも勉強になっています。どんなにベ テランの先生でも、あのように言ってよかった か、自分以外の心理士だったらもっとうまくや れるのではないかと考えると話を聞いて、自分 と同じなのだと共感しました。そして、「ベテ ランの先生でもそう思うのだから新米の自分が そう思って当たり前。とにかく、やれることを やろう」と前向きにとらえることができるよう になりました。
私は大学院修了以来1か所で勤務してきまし た。周囲の心理士からは、任期や、結婚・出産 など環境の変化で勤務地を変えたという話をよ く聞きます。勤務地が変わるとクライアントの その後の様子が分からない、最後まで見届けら れないことが多いようです。その点現在の職場 で、患者さん一人ひとりに最後までカウンセリ ングをさせてもらえる環境は、心理士として恵 まれていると感じています。在学中に先生方に 教えていただいた言葉、同期の仲間、職場の同 僚、さまざまな人に助けられて今につながって いるのだということを忘れずに、今後も邁進し ていきたいと思います。