日本小児循環器学会雑誌 7巻4号 585〜587頁(1992年)
第16回北海道小児循環器学会研究会
日時平成3年4月20日
場所札幌市山之内製薬大通りビル9F会議室
1.先天性心疾患と体重増加 天使病院小児科
太田八千雄,佐々木真樹,坂井多恵子 服部 哲夫,沢田 博行,南部 春生
平成1年1月1日〜平成2年12月31日(2年間)に
出生し,当科心臓外来を受診した患者は175名で,先天 性心疾患がみとめられたのは90名であった.90名中生 後1ヵ月以内に死亡あるいは手術をした13名をのぞい た77名について体重増加を検討した.心不全(一),チアノーゼ(一)群は48名で母乳栄養 児は28名(58%),生後1ヵ月時の体重増加は1,044±
237gであった,心不全(+)orチアノーゼ(+)群は 29名で母乳栄養児10名(34%),1ヵ月時の体重増加 618±297gと軽症例に比し有意に少なかった.心不全
(+)orチアノーゼ(+)の重症例の体重増加は,生後 2〜3ヵ月以降不良となる傾向があり,肺血管抵抗の 低下による心不全増悪が1つの要因と考えられた.
2.心肺機能検査としてのHRT(Heart Rate
Threshold)の意義付け市立小樽病院小児科
岡嶋 覚,松本 隆任,外岡 立人 心肺機能の指標として運動負荷試験などで臨床的に
も重要なATと密接な関係があると思われるHRT
(Heart Rate Threshold)という新しい概念について 報告する.これは一定運動負荷テスト分析において心 拍数定常性が遅れ始める運動強度である.実際の測定 値も特に呼気ガス分析によるVTの値ときわめて近 い運動強度であることが示唆され,従来から一般に行 われてきたAT測定法よりも簡便であることから臨 床的応用が可能と考える.
3.髄膜炎の経過中に心タンポナーデを合併したウ イルス性心筋炎の新生児例
北海道立小児総合保健セソター小児科 末岡 裕文,新飯田裕一,池田 和男 津田 哲哉,梅津 征夫,本谷 尚 われわれは,日齢6で発熱を主訴に入所し,ウイル
ス性髄膜炎・心筋炎を合併した新生児例を経験した.
心筋炎の診断は,臨床症状,胸部X−Pにての心拡大,
心電図変化(低電位・STの低下),心エコーにての心 嚢液の貯留,および逸脱酵素の上昇等より行った.ウ
イルス学的には,血清抗体価の上昇及び心嚢液のPCR 法からコクサッキーB2ウイルスによる周産期の母児 感染と推定された.心タンポナーデに対しては心嚢穿 刺などにより,急性期を脱したが,現在心エコー上,
左室の収縮能の低下と心室中隔と左室後壁の肥厚など の心筋症様の変化を残し,今後も厳重な経過観察が必 要と思われた.
4.川崎病の急性期に心筋梗塞を合併し,19歳で死 亡した1例
市立旭川病院小児科
三浦 正次,佐々木 聡,和田 敬仁 南雲 淳,佐竹 良夫
同 病理 神田 誠 最近,川崎病の急性期死亡は,診断及び治療の向上 により減少の傾向を示している.しかし,今後は遠隔 期の死亡が重要な問題になってくると予想される.本 症例は,生後11ヵ月に川崎病に罹感し,急性期に心筋 梗塞による左心不全を生じ,その後拡張型心筋症様と なり19歳で不整脈によると考えられる突然死を生じ た.9歳時のCAGでは左冠動脈前下行枝に動脈瘤は なく,血栓で閉塞し,再疎通の血管が見られた.剖検 では,中隔,前側壁の広範な陳旧性梗塞像が見られた.
前下行枝の1cmより末梢は,正常な内腔はなかった.
5.Subclavian Flap Aortoplasty後の大動脈縮穿 再狭穿に対するBalloon Angioplastyの経験
手稲渓仁会病院小児科
信太 知,渡辺 同 心臓血管外科
湊屋 洋一,松波 北海道大学医学部小児科
衣川 佳数,小西 貴幸,清水 症例は2歳の男児.
徹
己
大動脈縮窄複合の診断で,
5ヵ月の時に当院でSubclavian Flap Aortoplastyと 動脈管結紮術を施行した.外来で経過観察中に,上下
肢の血圧差が20mmHgから40mmHgに増大した.術
後の大動脈縮穿の再狭窄と判断し,2歳の時に当院で,歳 隆
1
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586−(84)
Balloon Angioplastyを施行.その後心室中隔欠損閉 鎖術を施行し,良好な結果を得た.術後の大動脈縮窄 の再狭窄は(特に,限局性のものは)Balloon Angio−
plastyの良い適応があると思われた.
6.Blalock短絡と末梢肺動脈狭窄に対するバルー ン血管拡張術の1例
札幌医科大学小児科
富田 英,沢田 陽子,長田 伸夫 経皮的バルーン血管形成術により,Blalock短絡と,
末梢肺動脈の狭窄を拡大し,良好な結果を得た症例を 報告する.症例は1歳5ヵ月の男児で,Asplenia, Situs Ambiguus, D・loop, Lmalposition, CAVC, DORV,
PA, PDAの診断で2ヵ月時右Blalock手術をうけ
た.チアノーゼの増強と連続性雑音の減弱を認めたた め心臓カテーテル検査をおこない,短絡の肺動脈への 吻合部にlmm,左肺動脈分岐部に2mmの狭窄を認め た.狭窄部はバルーン血管形成によりそれぞれ,4mm,7mmに拡大し,大動脈酸素分圧は,37.3mmHgから 44.5mmHgに改善した.合併症は認めなかった.本症 例はFontan型の手術待機中である.
7.極型ファロー四徴症根治術後再建肺動脈狭窄に 対するバルーンによる経皮的血管拡張術
国立札幌病院小児科 村上 智明 国立札幌病院心臓血管外科
宮崎 直樹,岸本 充,渡辺 環 奥出 潤,俣野 順,明神 一宏 天使病院小児科 太田八千雄 近年,先天性心疾患に対しても様々なカテーテルを 利用した治療法が試みられている.我々は1歳の極型
ファロー四徴症根治術後の患児の再建肺動脈における 吻合部狭窄にたいしてバルーソによる血管拡張術を施 行して,カテコールアミン使用より離脱並びに再手 術までの期間を延長することが出来た症例を経験した ので報告する.
8.当科における不完全型心内膜床欠損症の経験 国立札幌病院心臓血管外科
渡邊 環,宮嵜 直樹,岸本 充 奥出 潤,俣野 順,明神 一宏 北海道大学第2外科
酒井 圭輔,田辺 達三 1984年以来,当科において不完全型心内膜症欠損症
の手術症例を3例経験した.
一次孔欠損の修復に際して,マットレス縫合を僧帽 弁寄りにかけることによって刺激伝導系の損傷を避け
日小循誌 7(4),1992
るように工夫した.
僧帽弁前尖のクレフトの修復は全例施行したが,不 変〜やや改善であり,悪化した例はなかった.
術後一過性の不整脈の出現をみたものの,永続的な 不整脈はどの例にも認められず,良好な手術成績で
あった.
9.純型肺動脈閉鎖症に対する二期的根治術 札幌医科大学第2外科
馬渡 徹,伊藤 真義,大川 洋平 森川 雅之,菊地 誠哉,安喰 弘 小松 作蔵
純型肺動脈閉鎖(PPA)に対する手術方法は施設に より多様であり,確立されていない.今回,我々は過 去に経右室的肺動脈弁切開術,右室流出路拡大術を 行ったが,右室及び三尖弁輪の発育が悪いPPAの女 児に対し,三尖弁輪径を目安として根治術を行い,良 好な成績を得た.即ちiricuspid value percent of nor−
mal(TV%N)100〜65では, ASD閉鎖術,65〜35で はBidirectional Glenn術+ASD閉鎖術,35以下では Fontan型手術の適応と考え,今回の女児に対しては TV%Nが57であったため, Bidirectional Glenn術+
ASD閉鎖術を行い,良好な術後経過を得た.
10.MAPCAを伴うVSD, PAに対する外科治療
経験
北海道大学循環器外科
郷 一知,佐々木重幸,吉田 秀明 松居 喜郎,合田 俊宏,佐久間まこと 酒井 圭輔,安田 慶秀
北海道大学第2外科 田辺 達三
MAPCAを伴うVSD, PAの一症例に対し,
Unifocalizationを行なった後,根治術を施行した.
MAPCAは,左下葉の一部,右上葉の一部,左上葉の 一部を灌流する中心肺動脈と交通を持たないもので あった.中心肺動脈による肺灌流は約60%と推定され た.PA index,左室容量は充分であったが,肺動脈に よる肺灌流を最大とするためUnifocalizationを行っ た.Unifocalization後の造影ではMAPCAを閉鎖し た結果となった.しかし,根治術は,弁付きグラフト を用いて,行いえた.今後,症例選択,手技,グラフ
ト選択に考慮しUnifocalizationを行いたい.
11.共通房室弁を伴う単心室に対するtotal
cavopUlmonary connectionの1例札幌医科大学第2外科
森川 雅之,伊藤 真i義,大川 洋平
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平成4年1月1日 587−(85)
菊地 誠哉,安喰 弘,小松 作蔵 単心室は比較的希な重症先天性心疾患であるが,近 年の重症心疾患に対する診断治療の進歩により,その 外科治療の機会は増加してきている.その心内修復術 としては,Fontan型手術と心室中隔形成術(Septa−
tion)が,現在試みられている.今回我々は,生後7カ 月時に肺動脈絞拒術を施行された,平均肺動脈圧14 mmHg,肺血管抵抗2.89単位, PA index 294,心室駆 出率68%,対正常心室容積比143%の左上大静脈遺残,
共通房室弁を伴う単心房,単心室の8歳の女児に対し,
両側上大静脈肺動脈端側吻合及び心房内conduitを interposeした下大静脈主肺動脈吻合によるtotal cavopulmonary connectionによるFontan型手術を 施行し,良好な結果をえたので報告した.
12.最近当科で経験した総肺静脈還流異常症の4手 術例
市立旭川病院胸部外科
浅田 秀典,青木 秀俊,村上 忠司 旭川医科大学小児科
岡 隆治,土田 晃,斉藤 隆 1990年1月より1991年3月まで当科で経験した総肺 静脈還流異常症(以下TAPVC)は4例であった.症 例1は8ヵ月女児.Darling分類la型で, Gersony−
Malm法を施行した.術後経過は順調であった.症例 2は生後9日目の女児.III型で強い肺静脈口狭窄が認 められ,後方到達法を用いて肺静脈一左房吻合をおこ なったが術後LOSにおちいり失った.症例3は生後 20日目の女児.Ib型であり後方到達法により手術を施 行した.術後経過は順調であった.症例4は4ヵ月男 児.III型で後方到達法を施行した.術後肺高血圧が残 存したが術中・術後右室圧を連続モニターし,これを 指標とし術後管理を行い救命した.
13.大動脈縮窄症の術後経過について 旭川医科大学小児科
境野 環樹,岡 隆治 白井 勝,梶野 浩樹 市立旭川病院胸部外科 青木 秀俊 最近12年間に経験した大動脈縮窄症29例のうち,1 年以上術後経過を観察しえた14例について検討した.
単純大動脈縮窄症は2例で,他は心内奇形を合併して いた.術式は,端々吻合法(E法)を4例に,subclavian flap aortoplasty法(S法)を10例に行い,心内奇形を 有した9例に肺動脈絞拓術を加えた.E法中1例, S法 中4例に再狭窄をみとめたが,その発生に一定の傾向 はなかった.また,1例に対麻痺の合併を,1例に心 室中隔欠損の自然閉鎖をみた.再狭窄を来たした2例 にバルーン血管形成術を行い良好な結果を得た.7例 に心内修復術を行い経過は良好である.治療法の選択 には,側副血行や合併奇形など,注意深い検討が必要
と思われた.
14.Jatene手術例の臨床経過 北海道大学付属病院小児科
衣川 佳数,山岡 貢二 小西 貴幸,清水 隆 Jatene手術施行例10例〔d−TGA(1)7例, d−TGA
(II)2例, Taussig・Bing 1例〕の経過を検討した.
d−TGA(1)の6例は2期的手術がなされた.左室壁
厚はPAB&BT後の退院時すでに3.5±0.5から
4.5±0.6mmに増加し, Jatene手術前の値と差を認め ず,順応はおよそ3週間以内に完了していると推測さ れた.左室右室圧比は術中計測で0.47±0.09から 0.91±0.16に上昇し,Jatene手術前までほぼ維持され ていた.Jatene術前の左室右室圧比,左室壁厚は O.93±0.08,4.4±0.4mmであった.肺血管抵抗が5 U・m2以上の症例が3例認められ,肺血管障害早期進 行例に対する配慮,検討の重要性が示唆された.術後 1.7±0.8年経過観察し,軽度の大動脈弁逆流を認めるものの進行例はなく,左室機能も良好であった.
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