論文内容要旨
孤立性胃静脈瘤に対するバルーン閉塞下逆行性静脈瘤塞栓術(B-RTO)が 食道静脈瘤形態に及ぼす影響
日本門脈圧亢進症学会雑誌 24 巻 1 号 42-49 頁
内科系内科学(消化器内科学分野)杉浦育也
孤立性胃静脈瘤に対するバルーン閉塞下逆行性静脈瘤塞栓術
(balloon-occluded retrograde transvenous obliteration:B-RTO)が 食道静脈瘤形態に及ぼす影響について検討した.2000 年 1 月から 2016 年 6 月までに,昭和大学病院および昭和大学横浜市北部病院において孤 立性胃静脈瘤に対する B-RTO を施行した肝硬変患者 89 例を対象とした.
89 例中 77 例において初回治療により完全塞栓が得られた.不完全塞栓 12 例中 5 例は再治療により完全塞栓が得られ,B-RTO 成功率は 89 例中 82 例(91.1%),完全塞栓率は 82 例中 82 例(100.0%)であった.完全塞 栓が得られた 82 例では再発は認められなかった.完全塞栓が得られなか った 7 例の経過は,外科的治療:4 例,経皮経肝的静脈瘤塞栓術:1 例,
経過観察:2 例であった.完全塞栓が得られた 82 例の累積生存率は 1 年:96.4%,3 年:78.7%,5 年:53.9%であった.
82 例中 73 例において B-RTO 施行後に上部消化管内視鏡検査による経 過観察が可能であった.73 例中 6 例に対し B-RTO 施行後に引き続き内視 鏡的治療が行われ,これらを除外した 67 例を対象とした.B-RTO 施行後 の食道静脈瘤悪化は 67 例中 15 例(22.4%)に認められ,累積悪化率は 6 か月:15.3%,1 年:22.9%,3 年:29.3%,5 年:36.4%であった.食道静 脈瘤形態の変化は静脈瘤なし→F1:4 例および F2:2 例(17.6%),
F1→F2:6 例(27.3%), F2→F3:3 例(27.3%)であった.また食道静脈 瘤出血は 67 例中 5 例(7.5%)に認められ,3 か月以内の食道静脈瘤出血 は 5 例中 2 例(40.0%)であった.
B-RTO 施行後の食道静脈瘤悪化に寄与する因子として,患者背景:年 齢,性別,病因,Child-Pugh 分類,血清アルブミン値(Alb),プロトロ ンビン時間(PT),血清総ビリルビン値(T-bil),食道静脈瘤:形態,発 赤所見,胃静脈瘤:形態,Sarin’s 分類,治療時期,副排血路:下横隔 静脈,心膜静脈,そして肝細胞癌(観察終了時)について検討した.単 変量解析では血清アルブミン値<3.2mg/dl(p=0.0107),下横隔静脈なし
(p=0.0437)が悪化に寄与する因子であった.これらの因子について多 変量解析を行ったところ,血清アルブミン値<3.2mg/dl(ハザード比:
3.1912,95%信頼区間:1.1261-9.0431,p=0.0290)が悪化に寄与する唯 一の因子であった.食道静脈瘤累積悪化率(1,3,5 年)は,Alb≧
3.2mg/dl では 13.4%,18.8%,18.8%に対し,Alb<3.2mg/ml では 43.2%,
51.3%,63.5%と有意に高かった.
門脈圧亢進症には肝内血管抵抗,側副血行路の血管抵抗,門脈系への 流入血流量などの要因が相互に関連している.B-RTO による門脈系への 流入血流の増大に対し,肝内血管および側副血行路による緩衝作用がな ければ門脈圧は上昇し,食道静脈瘤が出現または悪化する可能性があ る.血清アルブミン値の低下を伴う進行した肝硬変では,肝予備能の低 下とともに線維化の進展により肝硬度は上昇し,食道静脈瘤悪化に影響 すると推測される.
孤立性胃静脈瘤に対する B-RTO 施行後には施行前の食道静脈瘤形態に 関わらず食道静脈瘤悪化が認められることがあり,特に血清アルブミン 値<3.2mg/dl の肝硬変では B-RTO 施行後早期から定期的な上部消化管内 視鏡検査を行うことが望ましい.