論文内容要旨
論文題名
The impact of aging on the course of the azygos vein (加齢が奇静脈の走行に与える影響についての検討)
掲載雑誌名
Okajimas Folia Anatomica Japonica Vol.92 No.1 2015 年 掲載予定
医学研究科 生理系 解剖学 肉眼解剖学専攻 斎藤 祥
内容要旨
【目的】
食道や後縦隔の手術において、奇静脈の走行についての正確な知識は手 術を安全に施行する上で必要である。人間の奇静脈は多くの解剖書で描か れているように、一般的に胸郭内で椎体の右側を走行すると考えられてき た。そのような中で、奇静脈を椎体の中央付近に描く文献も散見し、奇静 脈の左側変位についての検討もされており、その原因として奇静脈と半奇 静脈の共通管による牽引、椎体の骨棘形成、また、加齢による影響につい て言及している。しかしながら、年齢と奇静脈の左側変位距離について明 らかな関係を示した文献は認めない。そこで、本研究では奇静脈の走行に 影響を与える要因を様々な観点から統計学的に検討する。
【対象と方法】
医学部献体 28 体の成人屍体の奇静脈(AV)、半奇静脈(HV)、副半奇 静脈(AHV)の走行を観察し、以下のように分類した(Type 1 ; AV, HV, AHV全て存在。Type 2 ; AV, HVのみ存在。Type 3 ; AV, HAVのみ存在。
Type 4 ; AVのみ存在。)。また、医学部献体、歯学部献体合計 47体の成人 屍体(68歳~98歳、平均84.7歳)を対象とし、屍体を仰臥位の状態で腹 側正面から垂直にデジタルカメラで撮影し奇静脈の走行を記録した。奇静 脈が椎体上で最も左側の部位で、奇静脈の右側縁が椎体の長軸方向の正中 線より左側に位置する場合を左側変位、奇静脈の左側縁が椎体の長軸方向
の正中線より右側に位置する場合を右側定位と定義し、その両方に当ては まらない場合を正中変位と定義した。奇静脈の左側変位を認める場合は長 軸方向の変位距離をその屍体の椎体数で表記し測定した。さらに、奇静脈 と半奇静脈の共通管が、奇静脈の最も左側変位をしている部位に存在する か否か、また、椎体に沿って骨棘形成を認めるか否か、を観察した。
【結果】
AV,HV,AHV の分類については、Type 1 は18体、Type 2は6体、
Type 3は3体、Type 4は0体であり、胸膜肥厚のため 1体は分類不能で あった。奇静脈の変位については、44 体(94%)の屍体で奇静脈の左側 変位を認め、3 体(6%)が正中変位であり、右側定位は認めなかった。
また、年齢と奇静脈の左側変位距離との間に正の相関を認めた(r = 0.3061, P = 0.0364)。さらに、30例(64%)で奇静脈の最左側変位部に共通管を 認め、24 例(51%)で椎体に沿って骨棘形成を認めたが、奇静脈の左側 変位距離と共通管の存在、また、骨棘形成との間に有意な関連性は認めな かった。
【結語】
今回の検討において年齢と奇静脈の左側変位距離との間に正の相関を 認めたことから、加齢が奇静脈の左側変位の一つの要因となる可能性が示 唆された。