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博 士 論 文 概 要

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Academic year: 2022

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早稲田大学大学院 先進理工学研究科

博 士 論 文 概 要

論 文 題 目

グラフェンフレークの剥離性を利用した ナノ薄膜状フレキシブルデバイスの開発 Development of nanosheet flexible devices

using exfoliation of graphene flakes

申 請 者

鉄 祐磨

Yuma TETSU

生命医科学専攻 生体分子集合科学研究

2020 年 12 月

(2)

No. 1

高分子薄膜を基材としたフレキシブルエレクトロニクスは、柔軟な材料の表面に対する高い密着性 を有するデバイスとして、生体やソフトロボティクスへの応用に向けた研究開発がなされている。温 度、pH、ひずみなどを測定するフレキシブルデバイスには、情報を読み出したり電源を確保したりす るための導線が必要であり、導線の存在がデバイスの応用の制約となっていた。そのため、リソグラ フィーなどの回路作製技術によりアンテナコイルをフレキシブル基板上に搭載した無線給電式のフレ キシブルデバイスが注目されている。一方で、ヒトやモノに関する情報の収集・管理を目指し、トリ リオンセンサ構想を伴う IoT 化が進められている現代社会では、今後無数のセンサがあらゆる場所に 実装されるであろう。この際、フレキシブルデバイスの基材に用いられるプラスチックスは、マイク ロプラスチックスを含む環境問題の原因ともされており、使用済みの無数のセンサが環境中に廃棄さ れるとなると、生分解性のプラスチックス基板の開発は極めて重要である。ところが、ポリ乳酸を始 めとした多くの生分解性高分子は、生体・環境に適した材料でありながら、耐熱性や耐薬品性が低い といった欠点がある。そのため、高温(250 ℃以上)でのアニーリングや、レジストを利用する従来 のエレクトロニクスに、生分解性高分子を基材として用いるのは困難であった。

このような背景の下、申請者は、ガラス基板上に印刷した配線を高温で熱処理(アニーリング)し て低抵抗にし、その後に常温で生分解性高分子の基板に転写することができれば、高分子薄膜を基盤 としたエレクトロニクスを実現できると着想した。配線を確実に転写するため、剥離性と導電性を示 すグラフェンを剥離材に用いることで、剥離面にも導電性を担保した状態で転写できると考えた。そ こで、これまで所属研究室が開発してきた高分子ナノ薄膜に、グラフェンの剥離性を利用して印刷ア ンテナコイルを転写することで、生分解性高分子を基材とした高い柔軟性と密着性を有する無線給電 式デバイスの開発を目的とした。

本論文は、4章構成である。第1章は、序論として本研究の背景と目的をまとめている。第2章では、

申請者が本研究で新規に開発したグラフェン印刷配線の転写技術およびその物性評価について記述し ている。第 3 章では、薄膜状アンテナコイルの周波数特性評価、さらに電子素子(青色 LED)を搭載し たフレキシブルデバイスへの無線給電を実証した。第 4 章は、終章として本研究の結論と意義、将来 展望を論じている。各章の概要を以下に記す。

第1章では、IoT社会を見据えたトリリオンセンサ構想の現状と、薄膜型デバイスを含むフレキシブ ルデバイスの研究動向に関して記述した。加えて、導電配線の形成技術・転写技術、無線給電デバイ スの原理、電波法など、無線給電式の薄膜型デバイスを実現するために必要な知見をまとめた。さら に、本論文の位置づけを明確にするために、高分子ナノ薄膜の基本概念とこれまでの応用例について 概説した後、無線給電式の薄膜デバイスの基礎から応用までを簡潔にまとめた。

第 2 章では、ガラス基板上に印刷した導電配線を高温処理で低抵抗にした後に、耐熱性の乏しい高 分子薄膜に転写することで、低抵抗な導電配線を高分子薄膜に搭載する手法を記述した。まず、ガラ

(3)

No. 2

ス基板上に導電配線をグラフェンフレークインク、金ナノインクの順に重ねてインクジェット印刷し た。この時、ガラス基板上に導電配線を印刷することで、平滑な面上での安定した配線の構築と高温 での熱処理が可能となった。印刷した導電配線は、熱処理(250℃, 20 分)を行うことで全抵抗を熱処理 前の100分の1以下に低下させた。この導電配線の抵抗率(4.30×10-5 Ωcm)は純金の抵抗率の約20倍に 相当する。金配線の表面形状を原子間力顕微鏡にて観察したところ、配線を構成する各ナノ粒子が熱 処理後に結合している様子が認められた。このナノ粒子の形状変化が印刷配線の抵抗値を低減させた ものと考察される。低抵抗となった導電配線をガラス基板から高分子薄膜に転写するため、スピンコ ート法にて導電配線上にポリ乳酸ナノ薄膜(182 nm)を直接製膜した。さらに、ポリ乳酸ナノ薄膜と導電 配線を安定に取り出すために、ポリビニルアルコール水溶液からなる支持膜(膜厚 5 μm)をキャスト法 にて重ねて製膜した。以上のプロセスを通じて、ガラス基板上に剥離層となるグラフェンフレーク層、

低抵抗な導電層となる金層からなる印刷配線層、転写後の基板となるポリ乳酸ナノ薄膜層、ナノ薄膜 を安定に剥離するための支持層となるポリビニルアルコール層の 4 層構造を構築した。グラフェン層 の層内で剥離が起こることで、金配線とポリ乳酸ナノ薄膜をポリビニルアルコール支持膜側に取り出 すことに成功した。この時、剥離した導電配線表面およびガラス基板に残存した印刷配線表面は共に グラフェン層の黒色を示しており、両面のラマンスペクトルからグラフェンの存在を示すG, D ,2Dピ ークが確認された。これより、層状化されたグラフェンフレークの層内剥離により、印刷配線が基板 から剥離されたことが裏付けられた。次に、安定な剥離方法を検討するため、剥離前のグラフェン層 のうち、高分子支持膜側に転写されるグラフェン層の割合(転写率)を各剥離条件について調べた。印刷 配線に対して平行、垂直、斜めの3方向で剥離したとき、斜め方向に剥離したときのばらつきが最も 小さかったことから、斜め方向の剥離が最も安定した剥離であるとして以降の実験に採用した。続い て、配線層の構成に対する剥離前後の抵抗値変化を評価した。剥離層であるグラフェン配線の重ね刷 り回数は、1回、3回、5回のうち、3回刷りが最も剥離による抵抗値の増加が少ないことが示された。

これは、1回刷りでは配線の印刷が不十分であり、5回刷りでは配線を重ね刷りした際に印刷ムラの影 響を大きく受けるからであると考えられる。これらの結果から、グラフェン配線を 3 回刷りし、斜め 方向に剥離する方法が最適であることを見出した。また、この手法による印刷配線の抵抗値は剥離前 後で 44 Ωから 53 Ωに増加した。これより、高温処理にて数kΩから 44Ωとなった低抵抗配線を、9 Ωの増加でポリ乳酸ナノ薄膜へ転写することに成功した。以上より、グラフェンの剥離を利用した印 刷配線の転写技術を構築し、ガラス基板上で高温処理(250˚C)を施した低抵抗印刷配線を耐熱性の乏し いポリ乳酸ナノ薄膜(Tg: 56˚C)上に搭載することを可能にした。

第 3 章は、前章で構築した転写技術を利用して、薄膜状アンテナコイルを開発し、さらに、印刷ア ンテナコイルの力学物性・電磁気特性を評価し、無線給電デバイスとしての応用に踏み込んだ内容の 記述である。まず、第 2 章と同様の方法にて作製した導電配線の力学電気特性を曲げ試験にて評価し

(4)

No. 3

た。曲率半径5、9、14 mmの曲げを100回繰り返した結果、初期値に対する抵抗値変化は20%以下で あった。また、曲率半径1 mmの曲げを10回繰り返した後の抵抗値増加は約40%であり、曲率半径1 mm の屈伸に対しても配線は断線することなく機能することが示された。次に、第 2 章と同様の方法にて 薄膜状アンテナコイル(スパイラル5.5巻、外寸16 mm×16 mm)を作製し、ネットワークアナライザに接 続した測定用コイルにて、平面状態または各曲げ状態(1, 5, 9, 14 mm)における薄膜状アンテナコイル の周波数特性を測定した。その結果、5-14 mmの異なる曲率でも20 MHz前後の領域で安定した周波数 特性が得られた。これは、印刷アンテナコイルが従来の金属線コイル(10 Ω 以下)と比較して抵抗値が 高いため、Q値が低くブロードな周波数特性を持つためである。一方、曲率半径1 mmの曲げに対して の周波数特性は、高周波側へ3 MHz程度遷移した。これらの結果から、本デバイスは平面だけでなく、

5 mm以上の曲面に対しても安定に適用できることが示された。次に、薄膜状アンテナコイルに青色チ ップLEDとジャンパー配線を積層することで無線給電式の薄膜デバイス(基材:ポリ乳酸, 基材の膜厚:

182 nm, 総膜厚< 2 μm)を作製した。薄膜デバイスは、折り曲げた状態でも無線給電(20 Vp-p, 30 MHz)

にて青色LEDを点灯させた(放射照度0.2 μW/cm2, 給電距離 9.7 mm)。このデバイスは、カプセル(φ: 8.6

mm)に格納した状態でも外部からの無線給電によって青色LEDを点灯させた。さらに、デバイスは粘

着剤なしでブタ小腸表面に貼付された状態においても青色LEDの作動が確認された。これにより、配 線を搭載しても182 nmのポリ乳酸ナノ薄膜基材の柔軟性と密着性を維持してたことが示された。以上 より、生分解性高分子基材からなる薄膜型無線給電デバイスとしての応用を実証した。

第4章では、本論文の総括として、フレキシブルデバイス開発における本論文の意義とIoT、ソフト ロボッティクスへの応用展開について論じた。申請者は、積層するグラフェンの構造特性に着目する ことで、耐熱性に乏しい生分解性高分子薄膜と低抵抗な印刷配線をつなぐ転写技術を提案し、薄膜状 アンテナコイルへの無線給電を実証した。これにより、従来のフレキシブルエレクトロニクスでは避 けられてきた生分解性の高分子材料を薄膜デバイスの基材に使用することを可能にし、自然環境およ び生体環境に共存できる次世代のフレキシブルデバイスへの道を拓いた。本研究では、生分解性高分 子を基材に用いたエレクトロニクスの一つとして、無線給電用薄膜状アンテナコイルを示したが、今 後社会で実装するためには、センサ素子の開発とそれを薄膜状アンテナコイルに搭載する技術が求め られる。薄膜上の回路に複数素子を搭載することができれば、無線型のセンサの実現だけでなく、電 子工学、電磁気学の知見を用いて電力効率や給電効率を向上させることが十分可能となる。薄膜状ア ンテナコイルに回路素子を搭載したデバイスは、一つの素子に対して複数の配線が必要となるソフト ロボットなどから電源や通信配線を取り払うことで、柔軟な材料の特性を活かした複雑な動きを可能 にし、ソフトロボットの発展を加速させると期待される。さらに、生分解性の特性を活かすことで、

社会のあらゆる場所に設置して情報を取得し、使用後は自然に還るデバイスとして、農業用 IoT の発 展や環境に共存したIoT社会の実現にも貢献するであろう。

(5)

No.1

早稲田大学 博士(工学) 学位申請 研究業績書

氏 名 鉄 祐磨

(2020 年 12月 現在)

種 類 別 題名、 発表・発行掲載誌名、 発表・発行年月、 連名者(申請者含む)

論文 〇

総説

講演

[1] Yuma Tetsu, Yusuke Kido, Meiting Hao, Shinji Takeoka, Takeshi Maruyama, and Toshinori Fujie. “Graphene/Au Hybrid Antenna Coil Exfoliated with Multi-Stacked Graphene Flakes for Ultra-Thin Biomedical Devices” Adv. Electron. Mater. 6, 1901143 (2020.2).

[2] Yuma Tetsu, Kento Yamagishi, Akira Kato, Yuya Matsumoto, Mariko Tsukune, Yo Kobayashi, Masakatsu G. Fujie, Shinji Takeoka, and Toshinori Fujie. “Ultrathin epidermal strain sensor based on an elastomer nanosheet with an inkjet-printed conductive polymer”

Applied Physics Express 10, 087201 (2017.7).

[1] 武岡真司、鉄祐磨、山岸健人 『有機材料(薄膜型生体デバイス)』、人工臓器 最 近の進捗、2017年12月.

[2] 藤枝俊宣、鉄祐磨 『ソフトロボットのしなやかな動きを支えるナノ薄膜型デバイ ス』 高分子 高分子科学とロボット工学、2020年5月.

(国際学会)

[1] 鉄 祐磨, 武岡 真司,藤枝 俊宣、”Au/Graphene hybrid antenna coils for the flexible wireless electronics” 1st GLowing Polymer Symposium in KANTO (2018年、東京、ポ スター).

(国内学会)

[1] 鉄 祐磨,山岸 健人,加藤 陽,小林 洋,藤江 正克,武岡 真司,藤枝 俊宣 “皮 膚表面形状変化の計測に向けた超薄膜ひずみセンサの開発” 第 65 回高分子討論会

(2016年、横浜、ポスター)

[2] 鉄 祐磨,山岸 健人,加藤 陽,小林洋,菅野重樹,武岡 真司,藤枝 俊宣 "皮膚の 微細な変形の測定に向けた超薄膜ひずみセンサの開発" 第 64 回応用物理学会春季 学術講演会(2017年、横浜、口頭)

[3] 鉄 祐磨,山岸 健人,加藤 陽,小林洋,菅野重樹,武岡 真司,藤枝 俊宣、"皮膚の 微細な変形を測定可能な導電性高分子からなる超薄膜ひずみセンサの開発" 第78回 応用物理学会秋季学術講演会(2017年、福岡、口頭)

[4] 鉄 祐磨,武岡 真司,藤枝 俊宣、“グラフェンフレークを利用したインクジェット 印刷からなる薄膜状アンテナコイルの開発” 第 65 回応用物理学会春季学術講演会

(2018年、東京、口頭)

[5] 鉄 祐磨, 武岡 真司,藤枝 俊宣、“多層グラフェンフレークの剥離を利用した有機高 分子基材からなる薄膜状アンテナコイルの開発” 第 66 回応用物理学会春季学術講 演会、(2019年、東京、口頭)

(6)

No.2

早稲田大学 博士(工学) 学位申請 研究業績書

種 類 別 題名、 発表・発行掲載誌名、 発表・発行年月、 連名者(申請者含む)

特許

受賞

[6] 鉄 祐磨, 武岡 真司,藤枝 俊宣、“インクジェット印刷からなる高分子超薄膜を基材 としたアンテナコイルの開発” 第68回高分子学会年次大会、(2019年、東京、口頭) [1] " FLEXIBLE ELECTRONIC DEVICE" (PCT/JP2018/042301)2017年11月、藤枝 俊宣、

鉄 祐磨、小久保 奈々、武岡 真司

[2] "生体用電極および生体用電極の製造方法" (特願 2017-168271) 、2017年9月、藤枝 俊宣、小久保 奈々、鉄 祐磨、武岡 真司

[3] "物体マーキング用高分子薄膜およびその製造方法、物体測定キット、物体測定方法"

(特願 2017-127228) 、2017年6 月、藤枝 俊宣、山岸 健人、鉄 祐磨、武岡 真

[4] "筋収縮による皮膚表面の筋隆起位置情報とひずみ情報を組み合わせた動作推定によ

るロボット制御技術"、 (特願 2015-234149)、 2015年10月、藤江 正克、小林 洋、

加藤 陽、松本 侑也、築根 まり子、武岡 真司、藤枝 俊宣、山岸 健人、鉄 祐磨

[1] 優秀ポスター賞、○鉄 祐磨,山岸 健人,加藤 陽,小林 洋,藤江 正克,武岡 真 司,藤枝 俊宣 “皮膚表面形状変化の計測に向けた超薄膜ひずみセンサの開発” 第 65回高分子討論会 (2016年、横浜、ポスター)

[2] 吉田育英会ドクター21奨学金 (2018年3月)

参照

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