博 士 論 文 概 要
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(2) 近年,人間の視覚や聴覚機構の巧みな情報処理に学び,これらを利用した信号処理が着目 されている。身近な例としては,動画を対象とした MPEG(Moving Picture Encoding Expert Group),音を対象とした MPEG Audio としてデジタル放送やパッケージメディアに既に導 入されている。また,人間の聴覚機構に類似した信号処理手法として一般化調和解析がある。 1933 年に N.Wiener により提案された一般化調和解析は,着目する区間の残差を最小とする 正弦波成分を逐次抽出するという,単純明快な分析手法である。一般化調和解析は音響信号 分析の有力な手法と期待されるが,FFT や DCT などの調和解析と比較して膨大な演算時間 を要する故,実際の信号処理に使われたものとしては,1998 年の東山,平田らによる楽器音 の分析,2000 年の大内,及川らによる雑音と信号の分離など,ごく限られた報告があるのみ である。 人間が音響信号を認識する場合,その過程ではその空間に存在する大きな成分から順に処 理を行っており,低域側や高域側での周波数に対する鋭敏さには差があるが一般化調和解析 はその処理過程を実現する。ただし,人間を含む多くの生物のように,リアルタイムに分析 する機能では劣る。また,人間が音響信号を認識する際に過去に得た知識をもとに音響信号 における周波数の偏りなどの特徴を予測するという処理も行っている。 本論文では音響信号自身のもつ特徴と聴覚の性質を利用した手法を提案しており,一般化 調和解析の効率化と高精度化を目的としている。目的を達する方法として,音響信号の発生 要因によって周波数に偏りが現れるという特徴を利用する。偏った周波数に対して分析を限 定することにより一般化調和解析の効率化と高精度化が実現できると考えられる。つまり人 間が巨視的に音響信号を分類するように音響信号それぞれの特徴を予測しそれぞれの分析過 程に振り分ける過程を導入し,微視的に解析する過程を限定した周波数での一般化調和解析 として実現を行う。結果として人間が行っている分析過程に近い処理が可能となり,効率化 という面でもその有効性を確認する事ができた。. 本論文は,以下の章によって構成される。 第1章「序論」では昨今の音環境に対する信号処理に関して,本研究の位置付け,目的を 述べ,本研究の必要性を述べた。即ち,音響信号にはその音が発生する要因が必ずあり,音 響信号の発生に至る経緯が音響信号の特徴を作りだしている点に着目した。人間は,過去の 経験や記憶によって,音響信号が何であるかを予測している。以上のことから音響信号の特 徴を巨視的に把握することの重要さを論じ,その必要性を示した。 第2章「人間の聴覚と一般化調和解析」では,人間の聴覚の性質を整理し,本論文が「一 般化調和解析」と名付ける正弦波モデルの逐次解法を,従来の代数学的手法との比較を含め て解析的に論じた。即ち,本論文で用いる一般化調和解析について,処理過程を含め詳細に.
(3) 分析し論じた。 第3章「音響信号の特徴」では,本論文で取り上げる音響信号の性質と分析手法が詳細に 述べられている。分析の対象を音楽,音声・環境音,音場応答として,楽音の特徴に着目し た分析,基音に基づく分析および室内固有振動などに着目して,解析に用いる周波数成分を 限定して演算量を大幅に削減する手法を提案した。即ち,本章では,次の章から続く各分析 手法に必要となる音響信号の特徴について,音響信号がその発生要因を含む特徴を有してお り,特に周波数に偏りが発生することを論じた。 第4章「楽音の特徴に着目した分析」ではまず音楽の 1/12N オクターブ分析に基づく調律 音階を特定し,その音階の倍音成分に限定した正弦波により分析する手法を提案している。 即ち,本処理過程では固定された調律音階と各音階の倍音成分を分析周波数とし,限定した 周波数の分析を行う。バイオリンや各種音響信号を使って従来の一般化調和解析の 1/200 の 演算で分析が可能なことを明らかにした。 第5章「基音に基づく音声等の分析」では,基音とその倍音構造に着目した正弦波候補選 択による音声・環境音の効率的分析を提案している。音声等の基音を推定しその倍音成分の 周波数に限定した成分を分析する手法,さらに複数の気温の存在する複数話者や,環境,騒 音といった信号にも適用する手法を提案している。即ち,本処理過程では変動する基音に対 し常に追従して分析するという点で「楽音の特徴に着目した分析手法」とは異なる。環境音 を対象に分析を行った結果,およそ 1/23 の演算回数で分析可能なことを明らかにした。 第6章「音場の特徴を利用した分析」は特に本論文の特徴となる部分である。非定常であ っても持続的である音楽,音声,環境音に対して,音場のインパルス応答のような過渡的信 号の分析に言及する。特に固有振動に対応する周波数候補による一般化調和解析を,近接4 点法による仮想音源分布推定に応用することを提案している。我々を取り巻く音環境は,い かなる音源であっても最終的には音場の特徴による影響を受けている。そのうえでも,音場 の特徴について言及し,その特徴を利用した分析を行う必要がある。結果としては,幾何音 響学的概念である仮想音源分布を,波動的性質である音場の固有振動から分析する新たな方 法と可能性を明示した。コンサートホールの近接 4 点法の分析においては演算回数を 1/90 に 削減可能なことを明らかにした。 第7章「総括」は終章であり,本論文で得られた成果を総括する。. 本論文は,N.Wiener により提案された一般化調和解析を音響信号のもつ特徴と聴覚の性質 を利用し分析周波数を限定する過程を導入することを論じ,一般化調和解析を実用域にまで 高速化する手法を確立した。 最小二乗誤差規範と正弦波モデルによる波形分析・表現においては,正弦波成分候補の選.
(4) 択が課題となる。従来から利用されてきた正弦波成分の候補選択手法としては,FFT 分析結 果を内挿して候補を選択する方法,パワースペクトルのピークの中から選択する方法などが 行われている。本論文は分析対象とする信号の性質に基づいて正弦波候補を合理的に選択す る方法を提案し, 「一般化調和解析」を用い,正弦波モデルによる信号の分析過程の効率化と 高精度化を実現した。.
(5) 研. 類 別 ①論文. 究. 業. 績. 題名、. 発表・発行掲載誌名、. 発表・発行年月日、. 連名者. ○ 1/12N オクターブ分析を用いた音の符号化, GITI 紀要 2002‑2003,81‑85,(2003), 中沢誠,山﨑芳男.. 大型平面スピーカによる均一で明瞭な拡声, 音響技術 125,vol.33,No.04,pp.12-18, (2004).服部永雄,中沢誠,山﨑芳男.. サタケメモリアルホールの音響設計 Acoustical design of Satake Memorial Hall, 音響 技術 125,vol.33,No.04,pp.61-65,(2004).中沢誠,山﨑芳男,増田潔.. ○ 信号の特徴を利用した一般化調和解析, 日本音響学会誌.中沢誠,服部永雄,大内 康裕,山﨑芳男. (掲載決定,2004.4.22). 国際会議. ○ Description of sound field using generalized harmonic analysis and cluster analysis, The 18th International Congress on Acoustics ICA 2004,(2004.4),Makoto NAKAZAWA, Yousuke KIMURA, Taro BANDO, Yoshio YAMASAKI, Koji OISHI.. ○ Description of sound field and Sound source separation by closely located four point microphone method , International symposium on Audio and Culture (2003.12),Makoto Nakazawa,Yoshio Yamasaki. GPS Navigation System for Islam, International symposium on Islam and IT, Tashkent Islamic University(Tashkent)(2003.3)Yusuke Ikeda,Makoto Nakazawa and Yasuhiro Oikawa.. ②講演. ○ 音響クラスター分析を用いた音の特徴抽出, 日本音響学会講演論文集,661‑662, (2003.3),中沢誠,武岡成人,山﨑芳男.. 一般化調和解析を用いた受音点数より多い音源の分離, 日本音響学会講演論文集, 671‑672,(2003.3),木村洋介,武岡成人,中沢誠,山﨑芳男.. 帯域雑音発声による合唱表現−人間の多様な声に対応した音響管−,画像電子学会& GITS/GITI 合同セッション,175-176,(2002.6),池畑 光浩,中沢誠,山﨑 芳男..
(6) クラスター分析による音響信号の分離, 画像電子学会&GITS/GITI 合同セッション, 177-178,(2002.6),赤坂 昌英,中沢誠,山﨑 芳男.. 帯域雑音を用いた合唱表現, 日本音響学会講演論文集,697‑698,(2002.3),池畑光浩, 中沢誠,山﨑芳男.. クラスター分析による混合音の分離, 日本音響学会講演論文集,565‑566,(2002.3), 赤坂昌英,中沢誠,山﨑芳男.. 電力の供給を必要としない高能率伝声器の構成, 日本音響学会講演論文集,553‑554, (2002.3),須田誠,中沢誠,山﨑芳男.. 音階に着目した一般化調和解析による楽器音分析と音源分離, 日本音響学会講演論文 集,515‑516,(2000.3),西山ひろみ,中沢誠,山﨑芳男.. ○ 一般化調和解析を用いた自動採譜−パワースペクトルの時間変化に着目した標準拍 の検出−, 日本音響学会講演論文集,511‑512,(1999.9‑10),中沢誠,山﨑芳男.. ○ 音階および聴覚特性に着目した高能率符号化, 日本音響学会講演論文集,435‑436, (1999.3),中沢誠,山﨑芳男.. 空間的マスキングを用いた高能率符号化, (1998.9),與子田未踏,中沢誠,山﨑芳男.. ④その他 (作品). 日本音響学会講演論文集, 367‑368,. 三次元音空間シミュレーションソフトウェアの開発, 8 情高第 342 号,IPA(情報 処理振興事業協会)創造的ソフトウェア育成事業,(担当) 空間的に他の位置に信号 があることにより聴こえない成分を除去する空間的マスキングサブプログラム 構造仕 様書 7 章 24-46.. ’’LIVE’’ à l’UNESCO , Concert exceptionnel euro-nippon , au profit de la restauration de l’Acadèmie arabe de musique à Bagdad , UNESCO , Paris , (2003.11)..
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