キーワード フィルダム,老朽化, 固化改良土, 堤体改修,ゾーニング
連絡先 〒151-8570 東京都渋谷区千駄ヶ谷
4−25−2 (株)フジタ
建設本部TEL03−3796−2299
EL302.00 EL307.07 6,500
2,700
FWL302.72 EL294.30
EL279.70
H=27.37m
EL282.89
35,756 66,810
既設堤体 ランダムゾーンI ランダムゾーンII
コアゾーンIII
EL282.58 EL289.08 1:2.5 1:
2.0
ランダムゾーンIV 4,500
フィルターゾーン 4,000
2,000
キーブロック Tsc:段丘砂・粘性土層
1:2.8 1:2.8 1:3.0
EL299.00
Tsc Gr Tg
Tg
Tsc
Gr 1:2.3 34,230 3,000
12,760
15,907 8,932 3,190
1: 1.0
Tg:段丘砂礫層 Gr:粗粒花崗岩
図‑1 大原ダムの改修前・後の標準断面
砕・転圧盛土工法によるフィルダム堤体改修におけるゾーニングパターン
株式会社 フ ジ タ ○福島伸二・北島 明 (独)農研機構 フェロー 谷 茂
§1.まえがき
砕・転圧盛土工法 1), 2)は,老朽化したフィルダムやため池の堤体改修が築堤土の入手難や,除去処分が必要な池 内の底泥土の土捨場の確保難のために計画的にできない問題を解決すべく開発され,底泥土をセメント系固化材に より固化改良して築堤土に活用して堤体改修と底泥土の除去処分を両立した堤体改修技術で,これまでに
12
事例 の堤体改修に適用されている 3)。砕・転圧盛工法は所要の強度と遮水性を有する築堤土を人工的に準備できるため 急勾配法面,すなわち少ない築堤土量による堤体改修ができる利点がある。本稿では砕・転圧盛土工法により堤体 改修を実施したフィルダムの 3 事例を紹介し,そこで採用された堤体ゾーニングの特徴について述べる。§2.フィルダム堤体の改修事例
1)大原ダムの事例(滋賀県):大原ダムは
1953
年に築造された堤高H=27.4m,
堤長L=191.7m,
堤体積
V=23.6
万m
3,貯水量Q=192
万m
3の中 央コア型フィルダムである。本ダムは堤体が 築造後55
年以上の経過により老朽化して断面 不足や堤頂部の漏水により地震時の安定性が 不足していたため,堤体の耐震補強と漏水防 止対策が砕・転圧盛土工法により行われた。改修後の堤体ゾーニングは新堤体が既設堤体範囲に 入るように,さらに漏水が確認された堤頂部を掘削除去 して砕・転圧土により再築堤することにした。また、工 事により発生した掘削土は覆土や仮設工事に使用した 残りのすべてを底泥土に加えて砕・転圧盛土工法の原料 土に使用して工事内で処分した。
堤体上流側は,図‑1に示すように,砕・転圧土により ランダムゾーン I・II を腹付けて補強し,砕・転圧土の 強度レベルを砕・転圧土ゾーンと既設堤体との間に極端 な強度差が生じないように小段面を境にして変え,堤体 安 定 上 重 要 な 役 割 を す る 下 層 部 の ゾ ー ン
I
を(c’)
CC≒150kN/m2に,堤体安定に寄与しない上層部のゾ ーンII
・III
を築堤時の転圧機械のトラフィカビリティー が確保できる最低強度に近い(c’)CC=55kN/m
2に設定した。堤体下流側の補強は法先部にせん断抵抗を付加する ために(c’)CC≒150kN/m2の砕・転圧土によるランダムゾ ーン
IV
を押え盛土とし,さらに浸潤面を低下させるた めに既設堤体部との間にフィルターゾーンを配置した。ランダムゾーン IV の位置は浸潤面を確実に捉えること
ができる堤高の 1/3 を目安に決定した。また,弱面層 Tg を通る局部的なすべり面が生じないように,ランダムゾ ーン
IV
の基礎を幅4m
にわたり基盤層Gr
までの約2m
をセメント改良してキーブロックを設けることにした。2)西大谷ダムの事例(静岡県):西大谷ダムは
1959
年 に築造されたH=14.6m, L=209.0m, V=7.7
万m
3,Q=28.9
万m
3 の洪水調節用防災ダムである(ダム便覧 3)にはH=15.1m
のフィルダムとして登録)。本ダムは堤体が老朽化して漏水等により地震時の安定性が不足し,また池内に 堤体付近の底泥土から河川流入部付近の礫質土までの 約
41,000m
3(底泥土約25,000m
3)が堆積して,貯水容量 不足により効率的な洪水調節が不可能になっていた。し かし,ダム付近では改修に必要な築堤土が入手できない だけでなく池内の底泥土の処分地がな確保できなかっ たため砕・転圧盛土工法が採用されることになった。堤体の改修ゾーニングは新堤が貯水容量の減少がな いように既設堤体範囲に入るように,かつ池内の底泥土 や工事に伴う掘削発生土を場内処分できるように決め た。堤体上流側は,図‑2に示すように,コアゾーンを止 土木学会第66回年次学術講演会(平成23年度)
‑701‑
Ⅲ‑351
水性のある基礎地盤
OC
層まで掘り下げて,砕・転圧土 によりコアトレンチI
とコアゾーンII
を,その外側を既 設堤体からの掘削土をランダムゾーンIII
として築造し た。また,堤体下流側は表層部を掘削除去してランダム ゾーンIV
として既設堤体からの掘削土により築造し,さらに法先にドレーン工を設けた。
3)谷田大池の事例(静岡県):谷田大池は
1895
年に築 造のH=16.0m,L=136.0m,V=7.1
万m
3,Q=13.2万m
3 の潅漑用ため池で,1944
年(S19)の東南海地震(M7.9)による被災以降に何回かの改修を施されていた(ダム便 覧3)には堤高
H=16.0m
のフィルダムとして登録)。本池 は大井川用水農業水利事業により大井川用水網が整備 されたため役割を終えていたが,同事業において調整池 として活用することになり耐震補強と漏水防止のため の堤体改修を行うことになった。しかし,本池では堤体 改修に必要な築堤土をダム付近で入手しにくく,かつ工 事により発生する掘削土の処分地がなかったため砕・転 圧盛土工法が採用された。堤体ゾーニングは堤頂部が道 路として利用されており堤体軸を移動できないこと,既 設の洪水吐や取水トンネルをそのまま活用するために 改修後の堤体が既設堤体範囲に入るように決定された。また、工事発生の掘削土はランダムゾーン
III・ V
や仮設 工事に使用した残りのすべてを底泥土に加えて砕・転圧 盛土工法の原料土に使用して工事内で処分した。堤体上流側は図‑3に示すように砕・転圧土によりコア ゾーン
II
を築造し,その外側のランダムゾーンIII
を既 設堤体からの掘削土により築造した。堤頂部は地震時に 局部的なすべり破壊が生じやすいためと下流側の堤体 安定化のために約3m
まで掘削除去して砕・転圧土によ り築造しなおした。コアトレンチ幅は基礎地盤にせん断 抵抗を付加するためにコアゾーン底面幅より大きく8m
とした。堤体下流側は,既設堤体の外側に掘削土により ランダムゾーンを押え盛土的に腹付けし,すべり面が軟 弱層WMcs
を通らないようにその下層まで掘削して砕・転圧土によるキーブロックトレンチ
IV
を配置した。§3.あとがき
砕・転圧盛土工法による
3
事例の堤体改修ゾーニング の特徴は大きく分けて二つある。第一は貯水量の減少を 無くすために改修後の堤体が既設堤体範囲に入るよう にゾーニングされていることである。第二は工事に伴っ て発生する掘削土をランダムゾーンの築造に(西大谷ダ ム,谷田大池),あるいは砕・転圧土の原料土として底EL95.00 5.00
21.25 14.25 2.00
4.00
12.00 2.00 16.26
EL84.50 EL88.50
EL101.00 EL100.50
FWL98.00 EL92.50
EL84.20 4.50
9.60 EL86.80
H=14.2m
1:2.3 1:2.0
1:2.0 1:2.5 1:2.5
コアトレンチI
(砕・転圧土)
コアゾーンII
(砕・転圧土)
ランダム
ゾーンIII ランダム
ゾーンIV 張ブロック
C1 既設堤体
C2
B B
OG
OC OC
OG
OG :小笠層(風化礫混り泥岩層)
OC:小笠層(泥岩層)
OC
OG 1.003.00
法先ドレーン 1.00
1:0.5 1:1.8
1:2.4
図‑2 西大谷ダムの改修前・後の標準断面
FWL=32.00
14.00 4.00 22.51
40.50 6.00 45.21
25.00 6.00
EL34.60
EL24.60
4.02
3.02 1.00 15.98
10.005.98 4.90
9.005.60
3.32〜4.45 H=14.60
8.00 1:2.50
1:2.50
1:1.90 1:2.30
1:1.90
1:2.50 1:2.50
14.21
11.50 法先ドレーン
キーブロックゾーンIV (砕・転圧土) ランダムゾーンVI (砕・転圧土)
コアゾーンII (砕・転圧土) コアトレンチI
(砕・転圧土)
ランダムゾーンIII
ランダムゾーンV
泥岩Mcs (泥・砂岩互層) 強風化泥岩WMcs 既設堤体Eb EL25.60
EL20.00 EL15.55〜16.68
EL13.72 1:0.5
1:
0.5 1: EL18.62
0.5 1:0.5
図‑3 谷田大池の改修後堤体の標準断面
基礎地盤 コアゾーン(遮水)
コアトレンチ
(遮水) 既設堤体
フィルター ランダムゾーン ランダムゾーン(安定)
砕・転圧盛土工法 従 来 法
ランダムゾーン(砕・転圧土)
基礎地盤 コアゾーン(砕・転圧土)
コアトレンチ
(砕・転圧土) 既設堤体
フィルター
図‑4 砕・転圧盛土工法によるゾーニングの効果
泥土に加えて流用処分している(大原ダム,谷田大池)
ことである。砕・転圧土は固化材添加量の加減により強 度を任意に設定できるので急勾配での改修が可能で,堤 体規模の大きい大原ダムでも上・下流側ともに既設堤体 範囲でゾーニングし,図‑4に示すように通常土による改 修に比較して小断面による改修を達成している。
上流側は既設堤体を掘削して,砕・転圧土による堤体 補強と漏水防止のためのコアゾーン(西大谷ダム,谷田 大池)を腹付けるか,堤体補強のためのランダムゾーン
(大原ダム)を腹付けている。堤体下流側では法先ドレ ーン工を配置して浸潤面を確実に低下させて安定性を 確保しているが,さらに一部を砕・転圧土で補強してい る事例が大原ダム,谷田大池である。
【参考文献】
1) (社)農業農村整備情報総合センター:ため池改修工
事の効率化, −砕・転圧盛土工法によるため池堤体改修−, 設計・施工・積算指針(案), 2006. 2) (社)農業農村整備情報総合センター:砕・転圧 盛土工法によるフィルダム堤体改修, −堆積土・発生土を有効利用し たフィルダムのリニューアル技術−, 設計・施工・積算指針(案), 2009.
3) (財)日本ダム協会ホームページ:ダム便覧 2010.
土木学会第66回年次学術講演会(平成23年度)