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副査   教授   有賀 副査   教授   清水

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Academic year: 2021

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博 士 ( 医 学 ) 乃 村 俊 史

学 位 論 文 題 名

日本人における尋常性魚鱗癖とァトピー性皮膚炎患者に おけるフイラグリン遺伝子変異に関する研究

学位論文内容の要旨

【背景と目的】

  尋常性魚鱗癬は、四肢伸側を中心とした白色粃糠様、褐色鱗状の鱗屑とドライスキン、そ して掌蹠の皮膚紋理増強を特徴とする、最も頻度の高い遺伝性魚鱗癬である。その病因は長 らく不明であったが、2006年、欧州人家 系の解析を通じ、同疾患がフイラグリン遺伝子変 異により発症することが報告された。フィラグリンは、表皮顆粒層に豊富に存在するケラト ヒアリン顆粒の主要構成成分であるプ口フイラグリンを前駆夕ンパクとし、プロフィラグリ ンが脱リン酸化とプ口テアーゼ処理を受けることで、フィラグリンが生成される。フィラグ リンは、角化に際して、ケラチン線維を凝集させることで角層の形成に働くほか、その分解 産物が天然保湿因子として働くため、皮膚パルア機能の維持と保湿に重要なタンバク質であ る。

  従って、フイラグリン遺伝子の変異によルフイラグリンの産生が減少すると皮膚パリア機 能 の 破 綻 と ド ラ イ ス キ ン を き た す よ う に な り 、 尋 常 性 魚 鱗 癬 を 発 症 す る 。   フィラグリン遺伝子は、1番染色体、lq21上のepidermal differentiation complexと呼ばれ る、角化に関わる多くの遺伝子がコードされている領域に存在する。フイラグリン遺伝子は、

3つのエクソ ンから成っており、プ口フイラグリンはすべてエクソン3にコードされている。

  このエクソンは、12.7‑14.7kbととても大きいェクソンであることに加え、filaggrin repeat と呼ぱれるほぼ100%相同な972bpの繰り 返し配列(プロフイラグリンが分解されてフイラ グリンになる部分に相当する)を10〜12個含んでいる。そのため、フイラグリン遺伝子の、

あるrepeatを 増幅しようとPCRをしても、 別のrepeatも増幅されてしまうことになり、理 論上シークエンシングが非常に困難であった。そこで、フイラグルン遺伝子のほぽ相同な繰 り返し配列の中に含まれる、数少ないrepeat固有の塩基配列を見出し、プライマーを作成す ることで、現在ではフイラグリン遺伝子の全長をシークエンシングすることが可能になった。

  この手法を用い、欧州人ではこれまで に13種類のフィラグリン遺伝子変異が同定され、

さらに興味深いことに、アトピー性皮膚炎の欧州人患者の約半数がこれらのフイラグリン遺 伝子変異を有することも報告された。

  しかしながら、これまでのところ、欧州人以外でのフィラグリン遺伝子変異解析はなされ ておらず、本研究では、まず、尋常性魚鱗癬の日本人患者家系についてフイラグリン遺伝子 変異の同定を試み、さらにその後、そこで得られた遺伝子変異を、アトピー性皮膚炎患者群 とコント口ール群の両群についてスクリーニングし、フイラグリン遺伝子変異が日本人にお いてもアトピー性皮膚炎の重要な発症因 子であるのかどうか検討することを目的とした。

【対象と方法】

  日本人尋常性魚鱗癬患者の11家系からDNAを採取し、ダ イレクトシークエンス法にて、

フイラグルン遺伝子変異検索 を行った。次に、102人の日本人アトピー性皮膚炎患者と133 人の一般コントロールからDNAを採取し、尋常性魚鱗癬患 者で同定された変異について、

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ダイレクトシークエンス法と制限酵素処理法を用いてスクリーニングし、X二乗検定を用い て、統計学的な検討を加えた。

【結果】

  尋常性魚 鱗癬家 系の解析 を通じ 、3321delA、S2554X、S2889X、S3296Xという、欧州人 とは異なる、日本人に固有の4つの新規フイラグリン遺伝子変異を同定した。また、日本人 のアトピー性皮膚炎患者を、これら4つのフィラグリン遺伝子変異についてスクリーニング したところ、患者の約20%が変異を有し、一般人口(変異の保有率は約3%)と比ベアトピ ー患者群では統計学的に有意に変異の保有率が高いことが示された(X2p=8.4X10‑6;オッズ 比7.57,95%信頼区間〓2.84‑23.03)。  `

【考察】

  今回我々は、4つの新規フィラグリン遺伝子変異を同定することに成功し、それら4つの 変異が、欧州人の場合と同様に、アトピー性皮膚炎の重要な発症因子であることを示した。

これらの結果は、従来、免疫学的な異常をもとに論じられることの多かったアトピー性皮膚 炎の多くが、実は皮膚パリア機能の破綻を発端に発症している可能性を強く示唆するもので あり、また同時に、アトピー性皮膚炎の病因が従来から言われていたようにheterogeneous であることを強く示唆している。なお、日本人アトピー性皮膚炎患者におけるフィラグリン 遺伝子変異の保有率は約20%であり、欧州人のそれ(約50%)と比ベ、やや低率であった。

  この差が単純に人種差を反映している可能性も否定はできないが、日本人ではさらなる新 規変異が隠れている可能性が考えられ、この点を明らかにするために、今後のさらなる症例 の集積とフィラグリン遺伝子変異検索が必要である。

  今回我々は、日本人尋常性魚鱗癖患者の11家系について検討したが、興味深いことに同 じ家系内でも、変異のhomozygoteやcompound heterozygoteの患者はheterozygoteの患者と 比べ、明らかにより重症の臨床症状を呈しており、欧州からの報告と同様、その遺伝形式が autosomal semidominantであることが示唆された。また、前述の通り、今回の研究にて4つ のフイラグリン遺伝子変異を同定したが、それらの変異間での臨床症状の差は特に認めなか った。これら4つの早期終止コドンはいずれもフイラグリン遺伝子の最後のエクソンに存在 するため、nonsense‑mediatedmRNAdecりは起きず、患者の変異アレルからは不完全なプロ フイラグリンが生成される。理論上、フィラグリン遺伝子の最も3 側に変異(S3296X)を 持つアレルから最も大きなプロフィラグリンが生成され、最も多くのフィラグリンが生成さ れるはずであるが、今回の研究では変異間での臨床症状の差は特に認められなかった。過去 の報告で は、プ ロフィラグリンからフィラグリンヘの分解にプ口フィラグリンのC末部分 が重要である可能性が示唆されているものの、現時点ではその詳細は不明であり、今後の解 明が待たれる。

  また、興 味深い ことに、欧州人で同定された13種類の変異は、日本人では1例も同定さ れず、変異のスベクトラムに大きな人種差があることも併せて示唆された。現在、先進国で は小児の約15−20%がアトピー性皮膚炎に罹患しているとされており、アトピー性皮膚炎は 世界的に大きな社会問題のーつになっている。欧州人や日本人以外の人種については、未だ その詳細は明らかになっておらず、それらの人種についても今後の早急なフィラグリン遺伝 子解析が望まれる。

【結諭】

  尋常性魚鱗癬の日本人患者には、欧州人とは異なる、日本人固有のフィラグリン遺伝子変 異が存在することが示された。また、欧州と同様、本邦においても、アトピー性皮膚炎患者 群では、コントロール群と比べ、フィラグリン遺伝子変異を有意に高率に有していることが 示され、フイラグリン遺伝子変異による皮膚バリア機能の破綻がアトピー性皮膚炎発症にお いて重要な役割を果たしている可能性が強く示唆された。

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学位論文審査の要旨

主 査   教 授   西 村 正 治

副査   教授   有賀 副査   教授   清水

学 位 論 文 題 名

正 宏

日本人における尋常性魚鱗癖とァトピー性皮膚炎患者に おけるフイラグリン遺伝子変異に関する研究

  本 申 請 者 は 、 尋 常 性 魚 鱗 癬 の 病 因 と し て 、 ま た 、 ア トピ ー 性皮 膚炎 の重 要な 発 症因 子と し て 注 目 を 集 め て い る フ イ ラ グ リ ン 遺 伝 子 変 異 に つ い て、 日 本人 患者 の検 体を 用 いて 解析 を 行 い 、3321delA、S2554X、S2889X、S3296Xと し ゝ う4つ の 新 規 フ イ ラ グ リ ン 遺 伝子 変異 を 同 定 し た 。 ま た 、 日 本 人 の ア ト ピ ー 性 皮 膚 炎 患 者 を 、 こ れ ら4つ の フ イ ラ グ リ ン遺 伝子 変 異 に つ い て ス ク リ ー ニ ン グ し 、 患 者 の 約20% が 変 異 を有 し 、一 般人 コン トロ ー ル群 (変 異 の 保 有 率 は 約3% ) と 比 ベア トピ ー患 者群 で は統 計学 的に 有 意に 変異 の保 有率 が 高い こと を示 した(X2p〓8.41 10‑6;オ ッズ 比7.57,95%信 頼区 間 =2.84‑23.03)。また、さらに興味深 い こ と に 、 本 申 請 者 が 今 回 報 告 し た 変 異 は 、 欧 州 人 に も シ ン ガ ポ ー ル 人 に も1例 も見 つか っ て お ら ず 、 人 種 に よ っ て 変 異 の ス ベ ク ト ラ ム が 異 な る こ と も 示 さ れ た 。   本 発表 に対 し ては 、フ ィラ グリ ン 遺伝 子変 異と 臨床 症 状と の相 関関 係(genotype‑phenotype correlation)に つい ての 質 問が 複数 なさ れ、 @ 尋常 性魚 鱗癖 と アト ピー 性皮 膚炎 の 臨床 的な 違 い 、 ◎ フ イ ラ グ ル ン 遺 伝 子 変 異 保 有 患 者 に 見 ら れ や すい 臨 床的 特徴 、◎ 各フ イ ラグ リン 遺 伝 子 変 異 の 翻 訳 停 止 部 位 の 違 い に よ る 臨 床 症 状 の 差 異、 @ フイ ラグ リン 遺伝 子 変異 と気 管 支 喘 息 と の 関 係 、 ◎ 日 常 診 療 で の ド ラ イ ス キ ン の 重 症度 の 評価 法、 ◎変 異に 人 種間 で大 き な 差 異 が あ る 理 由 、 ◎ フ イ ラ グ リ ン の 外 用 に よ る 尋 常性 魚 鱗癬 の治 療の 実現 性 、な どが 主 な 質 問 で あ っ た 。 質 問 @ に 対 し て は 、 尋 常 性 魚 鱗 癬 もア ト ピー 性皮 膚炎 もド ラ イス キン を 生 じ 、 両 者 が 合 併 す る こ と も 多 い が 、 前 者 単 独 で は 皮膚 炎 を起 こさ ず、 尋常 性 魚鱗 癬患 者 で は 掌 紋 増 強 が 見 ら れ や す い と の 回 答 で あ っ た 。 質 問◎ に 対し ては 、フ ィラ グ リン 遺伝 子 変 異 を 有 す る ア ト ピ ー 性 皮膚 炎 患者 は、2才 未満 での 発症 が 多く 、ま た成 人型 ア トピ ーへ の移 行が 多い こ と、 血清IgEが高 値に なり や すい こと 、ア トピ ー マー チに移行しやすいこと、

掌 紋 増 強 が 見 ら れ や す い こ と な ど が 知 ら れ て い る と の 回答 で あっ た。 質問 ◎に 対 して は、

患者 皮膚 のウ ェ スタ ンプ ロッ ト法 を 用し ゝた 評価 では 、 より3 側の 変異を有するアレルから はより5 側の変異を有す るアレルと比べて大きなtnユncated profilaggrinが合成 されるが、プ 口 フ イ ラ グ リ ン の 分 解 産 物 で あ る フ イ ラ グ リ ン は い ず れの 場 合も 検出 され ず、 お そら くフ ィ ラ グ リ ン 遺 伝 子 の3 側 の塩 基配 列が 、プ 口 フイ ラグ リン か らフ イラ グリ ンヘ の 分解 に必 要 な 脱 ル ン 酸 化 に 影 響 し て い る の で は な い か と の 回 答 であ っ た。 質問 @に 対し て は、 アト ピ ー 性 皮 膚 炎 を 有 す る 気 管 支 喘 息 患 者 で は フ イ ラ グ リ ン遺 伝 子変 異の 保有 率が 有 意に 高い との 報 告が あり 、気 道粘 膜 には フィ ラグ リン が 存在 しな レゝ と いう 事実 と合 わせ る と: その よ う な 患 者 で は 皮 膚 で の 感 作 が 気 管 支 喘 息 発 症 に 重 要 な働 き をし てい るも のと 推 察さ れる と の 回 答 で あ っ た 。 さ ら に 、 申 請 者 は 、 気 管 支 喘 息 に つい て のス タデ ィー の数 自 体が 少な く 、 フ イ ラ グ リ ン 遺 伝 子 変 異 と 気 管 支 喘 息 が 本 当 に 有 意に 相 関す るの かど うか に つい ては

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今後さらに詳細 に検討する必要があるとコメントを加えた。質問◎に対しては、ドライス キ ンの客観的な評価法としてはTEWL(経皮的 水分喪失量)の測定が代表的であるが、や や煩雑な手順を 必要とするため、日常診療でルーテイーンに行うのは難しいとの回答であ った。質問◎に 対しては、これまで変異が報告されている欧州人、日本人、シンガポール 人はいずれも異なる変異を持ち、未発表ではあるが、アフ1」力人、中東人でもそれぞれ異 なる変異が存在 することがわかっていることから、それらが比較的最近生じた変異である ことは推測でき るものの、各人種にそれぞれ異なった固有のフィラグリン遺伝子変異が存 在する理由の詳 細はわかっていない、との回答であった。質問◎に対しては、すでにフイ ラグリン含有ク リームが市販されているが、その有効性の証明は十分にはなされていない との回答であっ た。このように、本申請者は、主査、副査の質問に対し、これまでに得ら れた知見に基づ いて、適切に応答していた。

  この論文は、 日本人固有のフィラグリン遺伝子変異を明らかにした点、フイラグリン遺 伝子変異に伴う 皮膚パリア機能異常が欧州人だけではなく日本人においてもアトピー性皮 膚炎の重要な発 症因子であることを示した点、そして、これまで免疫学的な観点から語ら れることの多か ったアトピー性皮膚炎の少なくとも一部が皮膚パリア機能異常を背景に発 症している可能 性を示した点で高く評価され、今後の研究のさらなる発展が期待される。

  審査員一同は 、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や取得単位なども 併 せ申 請者 が博 士( 医学 )の 学 位を 受け るの に充 分な 資格を有するものと判定した。

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参照

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