学位論文審査の要旨
主 査 ´ 教 授 川 上 義 和 副 査 教 授 古 館 正 從
副査 教授 西 信三 学 位 論 文 題 名
慢性肝疾 患における肝細胞の鉄沈着と 赤血球 フェリ チンとの関係に関する研究
《緒言》
フェ リチ ン は鉄 貯蔵 蛋白 であ り 血清フェリチン値の 測定は非侵襲的な鉄貯蔵量 の指標として有用で あ るが 、悪 性 腫癌 ・感 染・ 炎症 ・ 輸血などのほかに年 令・性差などの影響を受け る。特に肝障害では 肝 がフ ェリ チ ンを もっ とも 多く 含 む臓器であるため肝 組織崩壊に伴う逸脱なども 加味され、血清フェ リ チン 量の 解 釈が 複雑 とな って く る。本研究ではこの ような組織フェリチン逸脱 の影響を受け難い赤 血 球内 のフ ェ リチ ン量 を各 種慢 性 肝疾患について測定 し、それら疾患における肝 組織の鉄沈着とその 局在を検 索して両者の関係を検討した 。
《実験方 法》
( 対象 症例 ) 当科 にて 経験 した 慢 性肝 疾患131例を 対象 とし 、 さら にア ルコ ー ル性 肝硬変3例を検討 に加えた 。対照には健常人29例を選び 、比較検討した。
(検討方 法)
@ 赤血 球フ ェ リチ ン量 はBeutlerら の方 法 にて 分離 した 赤血 球を、Weydenらの方 法に準じて浸透圧法 によ って 溶血液を作製し 、Radioimnunoassay (RIA) 法のSpac Ferritin、Kit( 第一ラジオアイソ卜 一プ 社; 東 京: 抗体 はヒ ト肝 フ ェリ チン )を 使 用し て測 定した。単位は赤血球1個当たりの濃度を ag/cell (ag=10‑lag)と して 表わ した 。 放射 性ヨ ―ド125Iはガンマーカウンタ −ARC‐600(ア口カ 株式会 社;東京)で測定した。
@ 病理 組織 学 的診 断はHE (Hematoxylin‑ Eosin)染 色の 他にMasson染色.Gitter染色にて、さらに肝 組織 にお け る鉄 沈着 の有 無はBerlin blue染 色を 施行 して 診 断し た。 その 評 価はScheuerの分類に 従い、gradel以上を陽性とした。
◎ 赤 血 球 フ ェ リ チ ン の 不 均 一 性(heterogeneity)は 等 電点 電気 泳動 (Isoelectric focusing;以 下 IEF) を 用 い て 検 討 し た 。 赤 血 球 溶 血 液 は 熱 処 理 ・ 透 析 な ど の 処 理 後 、 泳 動 し た 。
@赤血球 フェリチンの糖鎖の有無は3種類のレクチン(Concanavalin‐A;Can‐A,Wheat germ aggluー tinin;WGA,Lens culinalis agglutinin;LCA)を使用して、そ の結合性をカラムクロマ卜グラフィ―
にて検 討した。
◎ 赤 血 球 内 の鉄 量 を溶 血液 にて 日 立製 原子 吸光 光度 計180−60(日 立製 作所 ;東 京 )で 測定 した 。
《結果》
@健常人 男性20.7土9.7 ag/cell,女 性11.1土5.5ag/cell、慢性肝炎男性47.5土34. lag/cell、同女性 23.3土14.2ag/ce11で、肝硬変男性71.0土52.2ag/cell、同女性41.6土35.0ag/cellと慢性肝疾患、
特に 肝硬 変 患者 にお いて 赤血 球 内のフェリチンが高 値であり、女性より男性で 高値であった(平均 値土標 準偏差;W土lSD)。
@ 病理 組織 学 検査 で肝 細胞 に鉄 沈 着の 見ら れた 症 例で は、 赤血球フェリチン量が20ag/cell以上を示 す傾向 が認められた。
◎ 健常 人の 赤 血球 溶血 液のIEFパタ ーン で はフ ェリ チン はpI(isoelectricpoint;以下pI.等電点)
5.1付 近 か ら 出 現 し 始 めp15.7ま で 続 い て い る 。 .peakはp15,2と5.5に 認 め ら れ た 。
@ 肝硬 変患 者 の赤 血球 溶血 液のIEFでは 、p16.0前 後ま での より塩基性に広がる 幅広いアイソフェリ チン が存 在 する こと と、peakがp15.3と5.6と健常 人に比較して塩基性に偏位 していることが特徴 的であ った。
◎ 肝硬 変にHCC(原 発 性肝 細胞 癌) を合 併 した 症例 のIEFで 検出 され た 赤血 球フ ェリ チンの幅は肝硬 変 の そ れ と 類 似 す る が 、p飽 kは さ ら に 塩 基 性 に 偏 位 す る 傾 向 が 認 め ら れ た 。
◎ アル コ― ル 性肝 硬変 の2症例 ではp17.0付近 まで の極 めて 塩基性の強いアイソ フェリチンが認めら
れ、peakも著明に塩基性を示した。
◎ 3種 類 の レ ク チ ン と 赤 血 球 フ ェ リ チ ン と の 結 合 性 は 認 め ら れ な か っ た 。
◎赤血球内の鉄濃度の測定の結果、健常人では男女共にほぼ同じ値であったが慢性肝疾患患者は明ら か に 高値 であ っ た。 鉄量 とへ モグ ロビ ンの 比は 肝疾 患に おい て高 い傾 向 が認 めら れた 。
《考案》
慢性肝疾患で肝細胞の鉄沈着の有無を赤血球フェリチンの測定にて、非侵襲的に推定でき得ると考 えられた。慢性肝疾患、特に肝硬変患者での赤血球寿命の短縮や骨髄と肝脾の鉄分布の解離現象、溶 血の存在、その結果としての潜在的および顕性貧血・鉄利用障害などのため、フェリチン量の多い幼 若赤血球が末梢血中に流出した結果が赤血球フェリチン値高値になると考えられた。一方、骨髄での 鉄利用障害は網内系組織である肝臓への鉄沈着を促進する。さらに鉄利用障害により赤血球内のHb合 成に用いられなかった鉄によって赤血球フェリチンの産生は増加し、そのフェリチンのpIは塩基性に 偏位すると考えられた。
《結語〉〉慢性肝疾患の赤血球についてフェリチン量を測定し、その不均一性をIEFにて検討し以下の 結果を得た。
1.赤 血 球フ ェリ チン が2 0ag/cell以上 で肝 細胞 に鉄 沈着 の認 め られ る傾向が示された。
2.赤血球溶血液のIEFパタ―ンでは肝硬変患者で塩基性のフェリチンが認められ、peakも健常人 に比較して塩基性に偏位し、肝硬変患者における慢性の鉄過剰状態を示唆する所見と考えられた 3.アルコール性肝疾患ではさらに強く塩基性に傾いており、肝細胞の鉄沈着との関連が示唆され た。
4.赤血球フェリチンと各種レクチンとの結合性は健常人および慢性肝疾患ともに認められず、pI の変動に糖鎖の影響のないことが示唆された。
以上の結果から、慢性肝疾患における肝細胞の鉄沈着を窺う上で赤血球フェリチンの質・量的検索 は非侵襲的にその診断を可能にし、その有用性が示された。
以 上 よ り 、 本 研 究 は 博 士 ( 医 学 ) の 学 位 論 文 と し て 妥 当 な も の と 判 断 さ れ る 。
‑ 93―
博 士 ( 医 学 ) 宮崎 知保 子
′ 学 位 論 文 題 名
Intra‑ arterial Infusion of N‑isopropyl‑p [123 I ] Iodoamphetamine for assessing Effective Blood Supply to Pulmonary and Hepatic Neoplasms
(N ーisopropyl ―p [123 |]lodoamphetamine の動脈内投与による
肺および肝腫瘍への有効血流の評価)
学位論文内容の要旨
1.はじめに
悪 性腫 瘍に 対す る 動注 癌化 学療 法 は、 現在 重要な役割を果 しているが、標的とした腫 瘍に 対す る治 療効 果 を高 める 為に は 、投 与量 、薬剤動態、薬 剤分布、投与経路などの十 分な検討が必要である。99血Tcーmacroaggregated albumin(99mTc―MAA)は、初回 循環時 の毛細管塞栓物質として腫 瘍組織の血流分布の評価に通常用いられている。Nーisopropyl− p [123I]Iodoamphetamine(123I−IMP)はH旨肪親和性カ滴く、内頚 tjj脈より脳実質内に直 接投 与さ れた 時、 脳 血流 関門 を通 過 し、 初回 循環 にお い て投 与量 の90X以上が細胞内に 分布 する こと から 、 局所 脳血 流測 定 用卜 レ― サーとして現在 広く臨床応用されている薬 剤である。気管支動脈や肝 動脈内に投与された ̄2°I‑IMPの初回循環分布も、脳組 織と同 様 に 、 腫 瘍 を 含 め た 肺 や 肝 組 織 の 血 流 を 反 映 す る こ と が 期 待 さ れ る 。 この論文では、腫瘍血流 を評価する目的で、肺又は肝に悪性腫瘍を有する患者に ̄2°I― IMPを 動 脈内 投与 し、12°I−IMPの初回血流分布、腫瘍集積、 肺や肝組織での時間変化を 研究 した 。さ らに 従 来の血管造影 法による腫瘍染および99 Tc―MAAを用いた腫瘍描画と 比 較 し 、12 3I−IMPの 腫 瘍 血 流 評 価 薬 と し て の 有 用 性 に つ い て 検 討 し た 。 2.対象と方法
対 象は 、贓 纏io症 例、 肝腫 瘍28症 例で ある 。肺癌患者10症 例、転移性肝腫瘍12症例と 原発 性肝 癌2症例 にお いて は 血管 造影 と動 注療 法がなされた 直後に、原発性肝癌5症例に おいては肝動脈塞栓術の前 に、12°トIMP 37MBq/2 mlを 徐々に註ニ入後、シンチグ ラフイ を 施 行 し た。 皮下 リ ザ― パ― が装 着さ れ た転 移性 肝腫 瘍9症例 にお い ては 、123I―IMP 37MBq/2 ml投与後、1週間以 内に°9°Tc―MAA 185MBq/2mlを投与し、シンチグラフ ィを施 行した。検査は全て施行前 に被験者の同意を得た。シン チグラフイは仰臥位にて施 行し、
低工 ネル ギ− ・平 行 型コ リメ ー夕 ― を装 着し た大視野型ガン マカメラを用いた。放射性 薬剤 投与 後、3分 毎の 経時 的 イメ ージ ング と、30秒毎60分 間の デ 一夕 一収集を行った。
動 注前 後に 放射 性 薬剤 が充 填さ れた シ リン ジを 、ガ ン マカ メラ からl.Ocmの 距離 に て1分 間 計測 した 。全 肺 、全 肝、 肺も しく は 肝の 局所 的集 積 亢進 部位 に不 定型 の 関心 領域 を設 定した。12°I−IMPの投与 量に対する全:肺・肺腫瘍・全肝の%uptakeは、[投与1−2分後の 全 肺・ 肺腫 瘍・ 全 肝の カウ ント /全 投 与カ ウン ト]x 100%とと して 算出 し た。 肝腫 瘍に お い て は 腫 瘍 / 肝 実 質比(T/L ratio)を算 出 した 。腫 瘍と 正常 組 織か らの30分 と60分 に お ける 投与 後1―2分に 対す るwashout rateにつ いて も 算出 した。Student st―testによ り有意差を検定し、p<0.05を有意と判定した。
3.結果
く肺 腫瘍 冫気 管 支動 脈内 に投 与さ れた12 3I−IMPは、肺腫瘍やりンパ節ばか りでなく、
気 管 支 動 脈 や 肋 間 動 脈 に そ っ た 正 常 組 織 や 縦 隔 にも 分布 した 。 全肺 及び 肺腫 瘍 の平 均 X uptakeは 、そ れ ぞれ40.6土9.2%及 び14.7土5.鴨 であ った 。10腫瘍.8リン パ節.8正常 肺 実質 の30分における 平均washout rateは、各々39.6土10.8、45.1士11.0、29.4土11.鴎、
60分に おけ る平 均washout rateは、 各 々55.6土14.2、62.8土11.0、41.4土10.6'Xで あっ た 。30分と60分 で のり ンパ 節と 正常 組織、60分で の腫磨と正常組織間のwashout rateに、
統計学的に有意差がみられ た。
く肝 腫瘍 冫肝 動 脈内 投与 後の123エ−IMPは肝 実質 、 胆嚢 およ ぴ肝 腫瘍 に 集積 した 。右 肝 動脈 にカ テー テ ル先 端が 置か れた7例 の平 均 全肝X uptakeは、40.2士18.鶴で あっ た。
原 発性 肝癌5症 例に おけ る 、123I・IMP投与2分 後の 平均T/L ratioは 、2.11土0.69、 転移 性 肝 腫 瘍6症 例 の 平 均T/L ratioは1.37土0.70で あっ た。12 3IーIMP投与 後30分 の平 均 washout rateは 、9例の 正 常肝 実質 で0.7土6. 儷、5例 の肝 硬変 で15.2土11.6X、5例 の原 発 性肝 癌で23.2土7.8%、6例の 転移 性肝 腫瘍 で12.2土7.6Xで あった。60分での 平均wash− out rateは、各々4.2土8.3X、21.6土15 .3%、37.6土11.弼、17.7土9.3%であった。30分、
60分 で の 平 均washout rateは 肝 硬 変 は 正 常 肝 実 質よ りも 早く 、 原発 性肝 癌は 転 移性 肝 腫瘍よりも早かった。12 3I―IMPと99 Tc−MAAシンチ グラフィが施行された6症例では、そ の 集積 程度 と分 布 に相 違が 観察 され た 。123I―IMPの肝 腫瘍 集積と血管造影に おける腫瘍 染 の比 較で は、19症例 中2症例 にお いて12 3I―IMPは陽 性所 見を示したが、血 管造影では 陰性所見を示した。
4.考察
12 3I―IMPの 全 肺 お よび 全肝 の全 投 与量 に対 する 平 均Xuptakeは 、お およ そ50% かそ れ を 下ま わる もの で あっ た。12 3IーIMPの動注後の 臓器内分布に関しては、脳組 織以外の報 告 はな いが 、X uptakeが予 想さ れた 値 より も低 かっ た 原因 とし ては 、正 常 肺の 気管 支壁 周 囲に 存在 する 毛 細血 管床 を介 した 気 管支 動脈 ・肺 動 脈吻 合、 腫瘍 周囲 で の前 毛細 管レ ベ ルで の気 管支 動 脈・ 肺動 脈短 絡路 、また肝動・ 静脈や肝動脈・門脈短絡路な どに加え、
組 織吸 収補 正の 未 施行 が考 えら れる 。 123I―IMPを静注した場合、初回循環で 高率に肺に 集 積す るこ とが 知 られ てお り、 その 後 徐々 に集 積は 低 下す るものの、3時間後 でも30驚以 上カ胡市に分布する。正常 肺組織のwashout rateの遅 延は、12 3I―IMP再循環後の正常肺組 織 へ の 集 積 調 鶏 与 し てい るこ とカ 囃 麓さ れる 。肝 臓 にお ける 硬変 肝と 正 常肝 のwashout rateの 差は 、静 脈 内投 与さ れた123I−IMPで は 、肺 とは 逆に 緩徐に肝に集積す ることが報
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