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コーピングの柔軟性が精神的健康に及ぼす影響

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Academic year: 2021

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日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-78 452

-コーピングの柔軟性が精神的健康に及ぼす影響

○西村 咲音1)、高橋 史2) 1 )信州大学大学院教育学研究科、 2 )信州大学学術研究院教育学系 問題と目的 現代では,日常生活で生じる多様なストレッサーに 対して個人がどう適応的に対処し,精神健康を保つか は大きな課題と言われている(廣田,2009)。そこで, コーピングは重要なスキルの一つと考えられている。 しかし,人が様々なストレス場面に遭遇した際に,一種 類のコーピングを一度だけ採用することでストレスが 解消されるケースは稀である(三野・金光,2004)。そ のため,一度に採用されたコーピングの数やコーピン グの種類など,複数のコーピングのストレス低減効果 を検証する必要がある。 複数のコーピングの効果を検討するアプローチの一 つにコーピングの柔軟性(flexibility of coping)に 関する研究がある。コーピングの柔軟性とは “コーピ ングが機能しなかった場合にそのコーピングを断念し て新たなコーピングを用いる能力”と定義されている (加藤, 2001)。しかし,コーピングの柔軟性の研究に おいては,質問紙を用いた場面想定法や実験室におけ るストレス負荷課題を用いた実験的観察法が主な研究 手法で,現実場面でのコーピングの在り方を必ずしも 反映しておらず(廣田, 2009),その研究手法の生態学 的妥当性の低さが課題となっている。 そこで本研究では,実際に経験され,一定のストレス 負荷がかかる現実場面を用いて,コーピングの柔軟性 が高いほど精神的健康状態が良いという仮説を検証し た。仮説の検証にあたって,教育実習における実習生 同士の対人場面を用いた。坂田ら(1999)は,教育実 習生は他の実習生や教員,児童・生徒との関わりか ら,抑うつや怒りといった心理的反応が生起すると述 べている。以上の点より,教育実習における実習生同 士の対人場面は,本研究の仮説を検証するための場面 として妥当であるといえる。 方法 調査対象者  4 年制大学の学生109名(女性72名,男 性36名,不明 1 名,平均年齢20.64歳,SD =2.34)を対 象として,2回にわたる質問紙調査を行った。回答に不 備がなかった有効回答者68名(女性42名,男性26名,平 均年齢20.37歳,年齢範囲20-22歳,SD =0.64,有効回答率 62.38%)を分析対象とした。 調査材料  1 )デモグラフィックデータ:学年,年 齢,性別について回答を求めた。 2 )コーピング: 3 次元モデルにもとづく対処法略尺度(神村ら,1995: TAC-24)を用いた。24項目が表すコーピングそれぞれ の使用頻度および効果の程度について,5件法で評定を 求めた。 3 )抑うつ:Patient Health Questionnaire 日本語版 (村松,2014:PHQ-9)を用いた。PHQ-9は 9 項目から構成され,4件法で評定を求めた。 倫理的配慮 本研究は,信州大学「ヒトを対象とし た研究に関する倫理委員会」の承諾を受けた。また調 査では,回答は強制でないこと,成績とは無関係である こと,個人情報は保護されることを説明した後で回答 を求めた。 解析計画 コーピングのデータ処理では,コーピン グの相対量 (Vitaliano et al., 1987;加藤,2001)を 用いてデータ処理を行った。Time1とTime2における TAC-24を用いて各調査対象者のコーピング相対量を算 出し,その値が一定以上となるコーピングを各調査対 象者のコーピング方略とした。その際の判断基準は, 5% ,10% ,15% ,20% ,25% ,30%の中から “コーピ ングの柔軟性の検討”で分散分析が可能となる割合を 探索的に求め,決定された。また,相対量がコーピング 総量の一定以上を占めるコーピングをもたない調査対 象者のコーピング方略は「マルチタイプ」と定義する。 本研究方法ではTime1でマルチタイプであった調査対 象者の柔軟性が測定できないため,Time1においてマル チタイプに分類された調査対象者11名は分析から除外 された。研究参加者のコーピングの柔軟性は,コーピ ングの柔軟性の定義に含まれる失敗対処断念(うまく いかなかったコーピングを断念したこと)と新対処導 入(新しいコーピングを使うこと)の有無をもとに測 定した。 結果 コーピングタイプの分類 分析の結果,コーピング の柔軟性の検討における分散分析が可能となる群分け は判断基準15%の場合のみであったためコーピング方 略 の 使 用 の 判 断 基 準 は15 % と し た。 調 査 対 象 者 は Time1とTime2の各測定時において,肯定的解釈コーピ ング方略(33名,39名),カタルシスコーピング方略(22 名,37名),回避的思考コーピング方略(17名,16名),気 晴らしコーピング方略( 6 名,13名),計画立案コーピ ング方略(16名,16名),情報収集コーピング方略( 8 名,7名),放棄・諦めコーピング方略( 6 名,12名),責 任転嫁コーピング方略( 1 名,5名),マルチタイプ(11 名,5名)が抽出された。

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日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-78 453 -コーピングタイプの柔軟性の検討 分析の結果,失 敗対処断念を満たし,新対処導入を満たす群は26名 (PHQ-9:M = 5.88,SD = 4.81),失敗対処断念を満たす が,新対処導入を満たさない群は 9 名(M = 2.78,SD = 3.60),失敗対処断念は満たさないが,新対処導入を満 たす群は17名(M = 5.82,SD = 4.94),失敗対処断念, 新対処導入ともに満たさない群は 5 名(M = 3.60,SD = 3.58)であった。 コーピングの柔軟性と抑うつに対する本研究仮説を 検証するため, コーピングの柔軟性の失敗対処断念お よび新対処導入を独立変数,PHQ-9の合計得点を従属変 数とする 2 要因分散分析を行った(Figure1)。その結 果,新対処導入の主効果が有意傾向であり(F [1,53] = 3.281, p = .076, effect size = .04),新たなコー ピングを導入しなかった群は導入した群よりも抑うつ 得点が低くなる傾向があることが確認された。 考察 本研究の結果から,教育実習という状況下では,仮説 に反して, “新たなコーピングの導入”をしない方が, 後の抑うつが低くなる傾向が示された。この結果は, コーピングの柔軟性が高い人は抑うつ傾向が低く精神 的に健康であるという知見(加藤, 2001)と矛盾する ものとなった。 先行研究と矛盾する結果が示された理由として,研 究対象となるストレッサーの時間的性質の違いが関係 していると考えられる。加藤(2001)では“友人関係 で生じた対人ストレスイベント”を想定させており, 対象とするストレッサーは長期的なものである。一 方,本研究では“ 4 週間の教育実習における実習生同 士の対人ストレス”と比較的短期であった。すなわ ち,コーピングの柔軟性は,中・長期的に持続するスト レッサーへの対処では効果があるが,短期的なスト レッサーへの対処にはあまり効果を示さない可能性が 示唆された。現時点ではこの説明は推論の域を出ない が,コーピングの柔軟性の限界を示唆する足掛かりと なると考えられる。 今後は,対人関係の時間的性質を考慮し,夫婦間や職 場の同僚間などのより持続性のある対人関係を対象と してコーピングの柔軟性の効果を検討する必要があ る。また,交際中のパートナーや同一の団体に所属す る友人などのより親密度の高い対人関係など関係性の 質によってコーピングの柔軟性と精神的健康の関連が 変化する可能性も考えられる。

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