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共感性および文脈理解の程度が社会的スキルの遂行に及ぼす影響

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― 69 ―  社会的スキルとは,「他者との関係や相互作用のた めに使われる技能」(相川,1996)のことを指す。と くに,行動理論の観点からは他者からの強化量を最大 にする行動(坂野,2014)として定義される。すなわ ち,他者からの反応によって自然にその行動が強化さ れ,維持されるような行動が社会的スキルであると理 解することができる。社会的スキルが十分に獲得され ていない者においては,幼児期から児童期,青年期,

そして成人期に至るまでの各発達段階において,さま ざまな適応上の問題を呈することが報告されており,

これはひいては慢性的なストレス反応,大うつ病性障 害や対人不安などにつながる可能性があることも指摘 されている(相川,1996)。

 当然のことながら,このような社会的スキルの遂行

には個人差が想定される。このような個人差の1つと して,共感性を挙げることができる。共感性という概 念にはさまざまな定義が存在しているが,もっとも一 般的に用いられている定義として,Barker(2003)の

「他者の情動状態や思考を知覚し,理解し,経験し,

反応する営み」という記述がある。そして,これらの 共感性を構成する要素の中でも,社会的スキルの遂行 に密接に関連すると考えられる要素として視点取得が 挙げられる。登張(2000)によると,視点取得は,「他 者の感情を想像したり認知したりすること」であり,

視点取得の程度が高い者は制御性,対人認知能力が高 く,攻撃的行動が少なく,社会的関係促進機能が総じ て高い,とされている。このように,視点取得は,対 人コミュニケーションを円滑にするために重要な役割 を担っており,実証的データも蓄積されている。

 その一方で,近年の理論的検討を行なっている研究

共感性および文脈理解の程度が社会的スキルの遂行に及ぼす影響

山岡  恒佑早稲田大学 森田  典子深谷市教育研究所 尾棹  万純STEP こども発達相談室

野中  俊介1 前田  駿太1 嶋田 洋徳早稲田大学

The Infl uence of Empathy and Contextual Understanding on the Performance of Social Skills

Kosuke YAMAOKA(Waseda University), Noriko MORITA(Fukaya-shi Kyoiku Kenkyusho), Masumi OSAO(STEP Child Developmental Disorder Counseling Room),

Shunsuke NONAKA1, Shunta MAEDA1, Hironori SHIMADAWaseda University

 The present study examined the infl uence of empathy and contextual understanding on the performance of social skills in university students. Seventy-one university students (33 female, 38 male, mean age = 22.0 [2.7]) completed questionnaires measuring levels of empathy and contextual understanding. They also watched video clips in which potential meanings of the characters’ remarks suggested from the context were dissociated from the semantic content and guessed the intentions of the characters. Contrary to the hypothesis, empathy directly predicted individual social skill levels while contextual understanding did not.

These fi ndings suggest that learning probable intentions of others in interpersonal situations as knowledge can facilitate social adjustment, even in those with low capacity for contextual understanding.

Key words: social skills, empathy, contextual understanding

Waseda Journal of Clinical Psychology 2017, Vol. 17, No. 1, pp. 69 ‑ 75

1日 本 学 術 振 興 会 特 別 研 究 員(Research  Fellow  of  Japan  Society for the Promotion of Science)

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― 70 ― においては,共感性が高いのみでは必ずしも適切な対 人関係の形成を行なうことはできないことが示唆され ている。たとえば,Singer  & Lamm(2009)は,個人 の対人的共感能力は文脈の正確な評価ができないと制 限されることを指摘している。すなわち,他者の感情 を想像したり,認知したりする「知覚的な」素地があ る(直接的に目視している)場合においても,他者が おかれている状況を勘案することができなければ適切 な対人関係を形成することはできないと考えられる。

このことについて,Segal(2011)は,他者が手に針 を刺されているのを見たときの情動的,認知的反応 は,「その人は鍼師の施術を受けている」という情報 を与えるか否かによって大きく異なるという例を挙げ て説明している。このような背景から,Segal(2011)

は,「普段は優勢な,一般的な知識に基づく反応を抑 制し,他者がおかれている状況をより正確に理解する こと」を「文脈理解」として位置づけ,これを共感性 の概念とは区別して説明している。そして,この文脈 理解の能力こそが適切な対人関係の形成において本質 的に重要な変数として位置づけられている。

 これらの理論的前提をふまえると,社会的スキルの 遂行においては,共感性が文脈理解を媒介して影響を 及ぼしている可能性があると考えられる。しかしなが ら,文脈理解と共感性が社会的スキルの遂行に及ぼす 影響に関する包括的な研究は十分に行なわれていな い。そこで本研究では,文脈理解および共感性が社会 的スキルの遂行に及ぼす影響について検討することを 目的とした。

仮説

 社会的スキルには,視点取得得点が文脈理解得点を 媒介して影響を与えるだろう。

方  法

実験参加者

 早稲田大学に所属する成人大学生・大学院生71名

(女性33名,男性38名,平均年齢22.0±2.7歳)に 対して実験を行ない,すべてのデータを分析対象とし た。実験前に(a)病気やけががないこと,(b)服薬 をしていないこと,(c)極度の疲労や睡眠不足がない こと,(d)心理療法やカウンセリング経験がないこと,

(e)トラウマティックな体験がないこと,(f)複数日

にわたる他の実験への参加をしていないこと,を確認 した。

調査材料

 社会的スキル尺度 成人用ソーシャルスキル自己評 定尺度(相川・藤田,2005)を用いて測定した。本尺 度は,計35項目についてそれぞれ4件法で回答を求 める尺度であり,得点が高いほど社会的スキルが高い ことを示すものである。また,下位尺度としては,初 対面の相手との関係を作る「関係開始スキル」,相手 の意図や感情を読み取る「解読スキル」,相手を尊重 しながらも自分の意思を伝える「主張性スキル」,自 分の感情をコントロールする「感情統制スキル」,既 に形成された人間関係の維持をするのに必要な「関係 維持スキル」,自分の気持ちを正確に伝える「記号化 スキル」,から構成されていた。本研究においてもこ の下位尺度ごとに得点化を行なった。

 共感性尺度 多次元共感性尺度(櫻井,1988)を用 いて測定した。本尺度は,Davis(1983)が作成した 尺度の日本語版であり,共感性を認知的側面と情動的 側面から多次元的に測定できる尺度である。本尺度は 計28項目について4件法から回答を求める尺度であ り,得点が高いほど共感性が高いことを示すもので あった。下位因子としては,空想(7項目),視点取 得(7項目),個人的苦悩(7項目),共感的配慮(7 項目)の合計4つの下位尺度から構成されていたが,

本研究では,社会的スキルの遂行に密接に関連すると 考えられる「視点取得」の下位因子のみを分析に用い た。

 文脈理解の程度 文脈理解の程度は,大学生が一般 的に経験しうる生活場面における他者の発言に対する 反応によって測定した。具体的な手続きとして,ま ず,大学生が一般的に経験しうる対人的なストレス場 面を抽出するために,久田・丹羽(1987)が作成した 大学生用生活体験尺度に基づき,9つの生活領域(「個 人生活」,「家族関係」,「友人関係」,「異性(恋人)関 係」,「勉強・研究」,「仕事・アルバイト」,「クラブ・

サークル活動」,「地域生活」,「個人の内的世界」)を ストレス場面として選定した。そして,これらの場面 について,臨床心理学を専攻する大学生1名,大学院 生3名が合議を行ない,大学生がより高頻度に経験し やすいことが想定される「友人関係」,「異性(恋人)

関係」,「勉強・研究」,「仕事・アルバイト」,「クラブ・

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― 71 ― サークル活動」の5つの領域を抽出した。抽出した5 つの領域について,大学生1名が,他者の発言内容の 字義的意味と文脈情報から推測される意味の乖離を含 むシナリオを5つの領域ごとに複数作成し,そのうち 大学生にとってより経験する可能性が高いシナリオを 再度合議によって選出する手続きをとり,最終的に領 域ごとに2種類以上のシナリオを含む,11種類のシ ナリオを作成した。そして,これらのシナリオの内容 に対応する映像刺激を作成した。

 その後,これらの映像刺激の中から本調査において 用いる映像刺激を選定するために,大学生・大学院生 25名に対して予備調査を行なった。そして,これら の映像刺激に対する回答をふまえて,特に登場人物の 意図・心情を問う項目の回答の分散が各領域において 最も大きかった5つの映像を本実験で使用することと した。本調査では,この5つの対人関係場面に関する 映像刺激を視聴させた後,映像刺激について,(a)映 像を視聴していたかどうかを確認するための質問(ア

〜ウの3択),(b)当該場面における他者の予想され る感情に関する質問(ア〜ウの3択),(c)当該場面 における他者の発言の意図に関する質問(ア〜ウの3 択),(d)同様の場面を経験したことがある程度に関 する質問(0〜100のVisual Analogue Scaleによって 回答),(e)(b)および(c)の回答に至った理由を回 答する自由記述,について回答を求めた。

 これらの手続きによって得られた回答の得点化にあ たっては,文脈理解の「普段は優勢な,一般的な知識 に基づく反応を抑制し,他者がおかれている状況をよ り正確に理解すること」という概念的定義をふまえ,

「他者の発言の字義的な意味と,その文脈において想 定される他者の意図が乖離している場面において,想 定される意図を回答できる程度」として文脈理解の程 度を操作的に定義することとした。具体的には,上述 の(c)の質問に対して想定される意図を回答した数 の合計値を各個人の文脈理解の程度とした。各場面に おいて想定される意図は,臨床心理学を専攻する大学 生1名,大学院生3名が合議して決定した。なお,こ の合議の結果として得られた回答は,予備調査におけ る各場面における回答の最頻値と合致していたことか ら,合議結果は適切であったと判断した。最終的に用 いた場面と,それぞれの場面において想定される他者 の意図をTable 1に示す。

手続き

 実験参加者には,上記の3つの質問紙およびフェイ スシートから構成される調査用紙を配布した。社会的 スキル尺度,共感性尺度の順で質問紙に回答を求め,

最後に映像刺激の視聴をさせた後に,文脈理解測定尺 度への回答を求めた。

Table 1 映像刺激の内容

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― 72 ― データ解析 

  分析にはSPSS Statistics 24およびAmos 24を使用し た。

倫理的配慮

 本研究は早稲田大学「人を対象とする研究に関する 倫理審査委員会」の承認を得て実施された(申請番

号:2015 139)。対象者には,実験参加は自由意思に

よるものであり,不参加や中断によって一切の不利益 な対応を受けることがないことについて十分な説明を 行なった。そして,実験の実施に際しては書面による インフォームドコンセントを得た。

結  果

実験参加者に関する記述的特徴

 参加者の記述データをTable 2に示す。相関分析の 結果,視点取得と社会的スキルの関係について,視点 取得と解読スキルの間には,弱い正の相関(r =  .28,

p = .02)が認められた。また,視点取得と関係維持ス キルの間には,中程度の正の相関(r  =  .55,p  <  .01) が認められた。文脈理解と社会的スキルの関係につい ては,文脈理解と関係維持スキルの間に弱い正の相関

r =  .25,p  =  .03)が認められた一方で,他のスキル との関係は見受けられなかった。視点取得と文脈理解 の間には有意な相関は見受けられず,ごく弱い正の相 関を示すにとどまった(r = .17, p = .17)。

仮説の検討

 仮説の検討にあたって,視点取得得点が文脈理解得

点を媒介して社会的スキル得点に影響を与えるのかを 検討するために,媒介分析を行なった。具体的には,

視点取得との相関が有意であった社会的スキルであ る,「解読」と「関係維持」を従属変数とする2つの 媒介モデルを検討した。ブートストラップ標本数は 2,000とした。

 「 解 読 」 ス キ ル を 従 属 変 数 と し た 分 析 の 結 果 を

Figure 1に示した。まず,媒介変数である文脈理解を

投入する前のモデルにおいて,視点取得が「解読」ス キルに及ぼす直接効果は有意であった(β  =  .28, p  =  .02)。しかしながら,文脈理解を媒介変数として投入 した後のモデルにおいても視点取得の直接効果は有意 であった(β  =  .27, p  =  .02)。加えて,視点取得から 文脈理解に対しては,一定の正の影響が認められたも のの,有意ではなく(β = .17, p = .16),文脈理解から 解読スキルへの効果も有意ではなかった(β  =  .03, p 

=  .82)。文脈理解を介した間接効果も有意ではなかっ た(95% CI: [-.04, .08],p = .52)。

 次に,「解読」スキルを従属変数とする分析の結果

をFigure 2に示した。まず,媒介変数である文脈理解

を投入する前のモデルにおいて,視点取得が「解読」

スキルに及ぼす直接効果は有意であった(β  =  .55, p 

=  .01)。しかしながら,文脈理解を媒介変数として投 入した後のモデルにおいても視点取得の直接効果は有 意であった(β = .27, p = .01)。加えて,視点取得から 文脈理解に対しては,一定の正の影響が認められたも のの有意ではなく(β  =  .17, p  =  .16),文脈理解から 解読スキルに対しても一定の正の影響が認められたも のの有意ではなかった(β = .17, p = .09)。文脈理解を 介した間接効果も有意ではなかった(95% CI: [-.02, 

Table 2

共感性,文脈理解および社会的スキルの記述統計量および相関分析の結果

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― 73 ― .13], p = .19)。

考  察

 本研究の目的は,文脈理解および共感性が社会的ス キルの遂行に及ぼす影響について検討することであっ た。データ分析の結果,共感性の基礎をなす能力であ る視点取得は,社会的スキルである「解読」スキルと

「関係維持」スキルの程度を予測したが,文脈理解を

介しての影響は見受けられなかった。すなわち,共感 性は直接的に個人の社会的スキルの程度を予測し,文 脈理解の程度と社会的スキルの程度の間には明確な関 係が見受けられなかった。以上の結果から,本研究の 仮説的モデルは棄却され,仮説自体も不支持となっ た。

 本研究における仮説が不支持となった背景として,

視点取得と文脈理解の間に想定していた正の相関関係 が見受けられなかったことが挙げられる。すなわち,

Note. カッコ内は媒介変数統制前の直接効果の値を示す。

Figure 1 「解読」スキルを従属変数とした媒介分析の結果

Note. カッコ内は媒介変数統制前の直接効果の値を示す。

Figure 2 「関係維持」スキルを従属変数とした媒介分析の結果

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― 74 ― 他者の情動状態や思考を知覚する能力そのものと,他 者がおかれている状況的な要因を統合して他者の状態 を把握する能力は独立であるという知見が本研究の結 果から示唆される。この背景として,他者の視点を取 得して他者の情動状態を知覚する能力が必ずしも十分 でなくとも,実際には特定の状況下における他者の想 定される意図は,一定程度は知識として保有できるこ とが考えられる。たとえば,部活動場面における「だ らだらやってるんだったら切り上げても一緒じゃない の」に類する発言の意図は叱咤激励であるということ そのものは,ある程度一般的な「社会的通念」として 共有されていると考えることができ,このような場面 において他者の意図を推測するためにはより高次な知 覚的能力は必ずしも必要とされないことが予測され る。このような背景から,視点取得と文脈理解の間に は明確な関係が見受けられなかったことが予測され る。この点に関しては,視点取得の程度は,社会的ス キルである解読スキルと関係維持スキルの双方と相関 を示した(それぞれ,r=  .28,  .55)一方で,文脈理解 は関係維持スキルと相関を示しつつも(r  =  .25),解 読スキルとはほとんど相関を示さなかった(r  =  .17) という知見とも整合的に理解することができるものと 考えられる。その一方で,本研究における文脈理解の 測定は,社会的通念の理解の程度と明確に区別するこ とができないという方法論上の限界も同時に示唆され る。実際に,文脈理解の程度と社会的スキルの間に有 意な関係は見受けられていないものの一定の関係が見 受けられることからは,本来文脈理解と社会的スキル の間に存在している関係が,社会的通念の理解の影響 で検出できなくなっている可能性も否定できない。今 後は文脈理解をこのような社会的通念の理解とより明 確に区別できる手続きを用いて,再検討を行なうこと が望ましいと考えられる。

 一方で,このような解釈にしたがうと,いわゆる

「一対一対応」で,対人的な不適応が生じうる場面に おいて想定される他者の意図を知識として学ぶことが できれば,十分に高い共感性を有していなくとも,社 会生活における適応,とくに,対人的な関係の維持を 促進することができると考えられる。とくに,本研究 の結果は,文脈理解の程度よりも視点取得の程度が高 い方がより社会的スキルの遂行に寄与することを示唆 するものであるが,視点取得を中心とした,共感性を 後天的に向上させることは,一般に必ずしも容易では

ないと考えられることからも,当該知見には意義があ るものと考えられる。

 本研究の限界として,文脈理解測定尺度の問題点が あげられる。映像刺激の作成の際には,信頼性の検討 のために予備調査を行なった。しかし,質問の内容お よび映像刺激のストーリーが,18歳以上の大学生お よび大学院生に対しては平易すぎたであった可能性が 考えられる。実際に,文脈理解測定尺度は5点満点で 平均点が4.62点(SD  = 0.59)となっており,天井効 果が示された。このような理由によって,視点取得と 文脈理解の関係をはじめとして,本来文脈理解と他の 変数の間に存在している相関関係を検出できていない 可能性が多分に存在し,本研究の知見の解釈には慎重 になる必要がある。今後の研究においては,大学生お よび大学院生を対象にする場合は,より分散が大きく なるような文脈が複雑な日常場面を想定した映像刺激 を作成し,追試を行なうことが望ましいと考えられ る。また,本研究では,対人的な不適応状態を来す者 が大学生および大学院生において多くみられる(谷 島,2005)ことに鑑み,大学生および大学院生を対象 とした。したがって,大学生にとって多く経験されう る対人ストレス場面についての回答を求めたため,本 研究の知見の一般化可能性には課題が残ると考えられ る。今後は対人的な不適応状態が多く見受けられる他 のサンプルや,共感性の低さによる問題が生じうるサ ンプル(たとえば,自閉症スペクトラム症を有する者)

などを対象として同様の検討を行なうことが有意義で あると考えられる。

 以上のような限界はありつつも,これまでの研究に おいて必ずしも十分に考慮されてこなかった文脈理解 という変数を定量的に評価し,その社会的スキルとの 関係を明らかにした点において,本研究は一定の意義 を有するものと考えられる。

引用文献

相川 充(1996).社会的スキルという概念 相川 充・

津村  俊充(編) 社会的スキルと対人関係:自己 表現を援助する 誠信書房

相川  充・藤田  正美(2005).成人用ソーシャルスキ ル自己評定尺度の構成 東京学芸大学紀要,56, 87 93.

Barker, R. L. (2003).The social work dictionary. 

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(7)

― 75 ― Washington, DC: NASW Press. 

Davis, M.H. (1983).Measuring individual differences in  empathy: Evidence for multidimensional approach. 

Journal of Personality and Social Psychology, 44,  113 126.

久田 満・丹羽 郁夫(1987).大学生活の生活ストレッ サー測定に関する研究:大学生用生活体験尺度の 作成 慶応義塾大学大学院社会学研究科紀要,

27, 45 55.

坂野  雄二(2014).臨床心理学キーワード[補訂版]

有斐閣双書

桜井  茂男(1988).大学生における共感と援助行動の 関係 ―多次元共感測定尺度を用いて― 奈良教 育大学紀要,37,149 154.

Segal, E.A. (2011).Social empathy: A model built on  empathy, contextual understanding, and social  responsibility that promotes social justice. Journal of Social Service Research, 37, 266 277.

Singer, T., & Lamm, C. (2009).The social neuroscience  of empathy. Annals of the New York Academy of Sciences, 1156, 81‒96. 

登張  真稲(2000).多次元視点に基づく共感性研究の 展望 性格心理学研究,9, 36 51.

矢島  弘仁(2005).大学生における大学への適応に関 する検討 人間科学研究,27, 19 27.

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参照

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