電析法で作製した
Pd-Ni-P
金属ガラスに関する研究
山 梨 大 学 大 学 院
医 学 工 学 総 合 教 育 部
博 士 課 程 学 位 論 文
2 0 1 5 年 3 月
望 月
千 裕
目次
目次
目次
目次
第
第
第
第 1 章
章
章
章 緒言
緒言
緒言
緒言
1
1.1 アモルファスと金属ガラス...1 1.1.1 アモルファスの特徴...1 1.1.2 バルク金属ガラスの特徴...4 1.2 論文の目的...8 1.3 論文の構成と概要...9第
第
第
第 2 章
章
章
章
パラジウム
パラジウム
パラジウム,
パラジウム
,
,
,ニッケル
ニッケル,
ニッケル
ニッケル
,
,
,リン
リン
リン
リンの電析挙動
の電析挙動
の電析挙動
の電析挙動 14
2.1 緒言...14 2.2 実験方法...17 2.2.1 リニアスイープボルタンメトリー法...17 2.3 結果および考察...19 2.3.1 1 元系金属溶液の電析挙動...19 2.3.1.1 塩化パラジウム溶液におけるパラジウム濃度の影響...19 2.3.1.2 塩化パラジウム溶液におけるエチレンジアミン濃度の影響...22 2.3.1.3 硫酸ニッケル溶液におけるニッケル濃度の影響...24 2.3.1.4 ニッケル錯体溶液におけるニッケル濃度の影響...27 2.3.1.5 ニッケル溶液におけるエチレンジアミン濃度の影響...31 2.3.1.6 ホスホン酸濃度の影響...34 2.3.2 2 元系金属溶液の電析挙動...35 2.3.2.1 パラジウム-ホスホン酸溶液におけるホスホン酸濃度の影響...35 2.3.2.2 パラジウム-ホスホン酸溶液におけるパラジウム濃度の影響...39 2.3.2.3 ニッケル-ホスホン酸溶液におけるホスホン酸濃度の影響...43 2.3.2.4 ニッケル-ホスホン酸溶液におけるニッケル濃度の影響...46 2.3.3 Pd-Ni-P 合金めっき電析条件の検討...49 2.4 結言...52第
第
第
第 3 章
章
章
章
電析
電析
電析 Pd-Ni-P 金属ガラスの作製
電析
金属ガラスの作製
金属ガラスの作製 55
金属ガラスの作製
3.1 緒言...55 3.2 実験方法...563.2.1 電析条件...56 3.2.2 蛍光 X 線分析法...56 3.2.3 X 線回折法...57 3.2.4 透過型電子顕微鏡観察...57 3.2.5 示差走査熱量計...57 3.3 結果および考察...58 3.3.1 電析条件による電析膜組成への影響...58 3.3.2 Pd-Ni-P 合金膜の構造解析...60 3.3.3 Pd-Ni-P 合金膜のガラス転移温度...61 3.3.4 めっき溶液組成による電析膜組成への影響...62 3.3.5 Pd-Ni-P 合金膜の構造解析...65 3.3.6 Pd-Ni-P 合金膜のガラス転移温度...67 3.3.7 電析 Pd-Ni-P 金属ガラス膜の組成範囲...68 3.3.8 ガラス転移温度および結晶化温度... 69 3.3.9 電析 Pd-Ni-P 金属ガラス膜のガラス形成能...71 3.4 結言...73
第
第
第
第 4 章
章
章
章
電析
電析
電析 Pd-Ni-P 金属ガラスの熱挙動
電析
金属ガラスの熱挙動
金属ガラスの熱挙動 75
金属ガラスの熱挙動
4.1 緒言...75 4.2 実験方法...76 4.2.1 電析条件...76 4.2.2 過冷却液体領域における等温保持...76 4.3 結果および考察...78 4.3.1 パラジウム組成に着目した電析 Pd-Ni-P 金属ガラスの熱分析...78 4.3.2 パラジウム組成に着目した電析 Pd-Ni-P 金属ガラスの等温保持...80 4.3.3 リン組成に着目した電析 Pd-Ni-P 金属ガラスの熱分析...84 4.3.4 リン組成に着目した電析 Pd-Ni-P 金属ガラスの等温保持...86 4.3.5 等温保持を施した電析 Pd-Ni-P 金属ガラスの熱分析...87 4.3.6 等温保持を施した電析 Pd-Ni-P 金属ガラスの微細構造解析...88 4.3.7 金属ガラスと微結晶の共存...89 4.4 結言...90第
第
第
第 5 総括
総括
総括
総括
93
- 1 -
第
第
第
第 1 章
章
章
章
緒言
緒言
緒言
緒言
1.1
アモルファスと金属ガラス
アモルファスと金属ガラス
アモルファスと金属ガラス
アモルファスと金属ガラス
1.1.1
アモルファス
アモルファス
アモルファス
アモルファスの
の
の特徴
の
特徴
特徴
特徴
工業材料として利用されている金属材料には,結晶金属と非晶質固体であるアモルファスが ある。結晶金属は原子が長範囲にわたり規則的な周期構造を持つため,原子間隔と同程度の波 長を持つX線が入射すると,原子核の周りをまわっている電子により散乱現象がおこる。また, X線は電磁波の一種であるため,干渉作用により特定の方向でX線が強めあう回折現象を起こし, X線回折パターンから物質を特定することができる。結晶金属は,自由電子が移動することで, 電気や熱を効率的に伝導することができ,また外力が加わっても,自由電子が動くことで,原 子間の結合が切れることがなく,展性,延性を持ち,加工がしやすいという特徴を持っている。 一方,アモルファスは原子が無秩序に配列しており,長範囲における規則性を持たないため, X線を照射すると,回折パターンはブロードなピークとなり,X線回折パターンから結晶金属と アモルファスを判別することができる。上記したように,アモルファスは,原子が無秩序に配 列しているため,結晶金属特有の結晶欠陥がなく,外力が加わった際に変形がおこり難く,強 度が高いという特徴を持つ。また,結晶粒界がなく,均一な不動態皮膜が形成されるため,耐 食性が良好である。さらに,結晶粒界が存在せず,優れた軟磁気特性を示し,テープレコーダ ーのヘッドや変圧器用材料として利用されてきた[1]。 アモルファスを形成するためには,合金同士の組合せが重要であり,Ni-P,Co-P,Fe-B,Pd-Si などの金属元素と非金属元素を組合せた合金での報告例が多いが,原子半径の小さな非金属元 素と,原子半径の大きな遷移金属とが稠密無秩序充填することによると考えられている[2][3] [4]。また,共晶反応を示す合金系の共晶点付近において,アモルファスが形成されやすい。 アモルファスの作製方法には,気体状態の原子や分子を基板上に成膜させる真空蒸着法やス パッタ法,液体状態のまま凍結させる液体急冷法,結晶固体にイオン注入を行い,表面の原子 配列を壊してアモルファスにする方法などが挙げられる[5]。。代表的なアモルファス作製方法 である液体急冷法は,合金融体を100万℃/sというオーダーで超急冷することで,溶融液体状態 での構造を凍結させる方法である[6]。。1960年,Duwezらによりガン法でAu-Si共晶のアモルフ- 2 - ァス合金が得られることが報告されたが,超急冷が必要なため,厚みが数十µm程度の小片しか 得ることができなかった[7]。その後,遠心急冷法,双ロール液体急冷法,単ロール液体急冷法 が考案され,テープ状の試験片を得ることができるようになったことで,機械的強度試験など の基礎評価を行えるようになった。アモルファス合金薄膜の大量生産を可能とした単ロール液 体急冷法とは,ノズルのある容器内に合金を入れ,高周波加熱により溶融させた液体金属を, 容器内部のガス圧を高めながら,回転している金属製ロール上にノズルを介して噴き付けるこ とで,アモルファス薄帯を作製する方法である。単ロール液体急冷法など液体急冷法の改善に より,テープ状のアモルファス合金薄膜を作製することができるようになったが,その形状ゆ えに,適用できる分野は磁性分野などに限られていた[8]。 その後,材料表面にアモルファス合金をコーティングすることで,製品表面にアモルファス の優れた特性を付与することが検討されてきた。材料表面をアモルファスで被覆する方法には, 真空中で行う金属成膜法であるスパッタ法や[9],水溶液中からの金属析出であるめっき法など が挙げられる[10]。スパッタ法とは,アルゴンなどの不活性物質をターゲット金属に高速で衝 突させることで,ターゲットを構成する原子を弾き飛ばし,試料表面に付着することで成膜さ れる方法であるが,真空中での成膜形成のため高価な真空装置が必要であり,また,成膜速度 が遅いため,生産性は劣るという課題がある。一方,めっき法では,比較的低温で大面積や複 雑な材料表面への成膜が可能であり,さらに高価な真空装置を必要とせず,比較的安価な装置 でアモルファス薄膜を作製することができるため,製品の低コスト化を図ることができる。 めっき法には,外部電源を用いて水溶液中の金属イオンを被めっき材料表面に析出させる電 析法と,外部電源を用いずに,水溶液中に添加した還元剤が酸化する際に遊離する電子により, 被めっき材料表面に金属を析出させる無電解めっき法がある。無電解めっき法では,上記した 析出機構のため,導電性のない素材表面にもアモルファス薄膜を形成することが可能であり, 電流密度の影響を受けることなく,厚みの均一なアモルファス薄膜を得ることが可能である アモルファス合金めっきは,Brennerらが次亜リン酸を用いた無電解Ni-P合金めっきを報告し たことを発端として,Co-P,Pd-P,Ni-W,Fe-Mo,Ni-B合金めっき等の研究が行われてきた[11]。 アモルファス合金めっきには,金属元素とWやMoなどの金属元素を合金化させる「金属-金属」 と,金属元素とPやBなどの非金属元素とを合金化させる「金属-非金属」の組合せがある。金 属元素であるW,Mo,非金属元素であるP,Bは,遷移金属元素が析出する際に誘起共析するこ
- 3 - とが知られており,合金めっきの構造が結晶構造をとるかアモルファス構造となるかは,構成 元素の組成比による。「金属-金属」の組合せであるFe-Wアモルファス合金めっきは,耐摩耗 性,耐食性が良好で,W組成が26at%以上になるとアモルファス構造となる[12]。また,「金属 -非金属」の組合せであるNi-Pアモルファス合金めっきは,アモルファス合金の中でも特に優 れた耐食性を持ち,P組成が10at%以上になるとアモルファス構造をとる。P組成の高いNi-Pアモ ルファス合金めっきは,酸性溶液下においてNiの溶出が進行し,めっき表面にPが濃縮すること で不動態皮膜が形成されることで,耐食性が向上すると報告されており[13],合金めっきにお けるP組成を増加させるには,P供給源である亜リン酸濃度を増加させることが有効である。こ のように,非金属元素との組成割合を制御することで,耐食性や硬度など物性の異なる皮膜を 容易に形成することができる。また,電子機器接点部への適用が進んでおり,大塚らは,電子 部品用基板パッドへのめっきとして,低応力の無電解Pd-Pめっきを検討し,ボンディング特性 およびはんだ濡れ性の評価を行い,良好なめっき皮膜が得られることを報告している[14]。 上記したように,めっき法は,様々なサイズ,形態の製品表面に,アモルファス合金の優れ た特性を容易に付与することができるため,自動車,電子機器,半導体など様々な分野への製 品適用が行われてきた。
- 4 -
1.1.2
バルク金属ガラス
バルク金属ガラス
バルク金属ガラス
バルク金属ガラスの特徴
の特徴
の特徴
の特徴
1.1.1節で述べたように,アモルファスを作製するためには,超急冷が必要なため,バルクサ イズのアモルファスを作製することは難しかった。また,アモルファス合金は,熱力学的に準 安定な状態であるため,結晶化温度以下であっても,長時間高温で保持することで,原子の配 列がより安定な配列に変位するような構造緩和を起こし,長距離の原子移動が始まることで, 最も安定な結晶状態に移行する。このように,アモルファスはバルクサイズの材料作製が難し く,また,熱により結晶化しやすいという課題があった。 1990年,井上らにより,アモルファス合金の一種である金属ガラスという新材料が発表され た[15]。金属ガラスは,過冷却液体領域が非常に安定であるため,加熱した際にはガラス転移 を起こし,過冷却液体領域を経てから結晶化する[16]。また,安定な過冷却液体領域を持つた め,アモルファス合金のような超急冷を必要とせずに,数100℃/s程度の冷却速度で作製するこ とができるので,バルクサイズの試料を作製することが可能となった。一方,一般的なアモル ファス合金は,金属ガラスのような安定な過冷却液体領域を持たないため,加熱した際にはガ ラ ス 転 移 を 起 こ す 前 に 結 晶 化 す る 。 こ の た め , 示 差 走 査 熱 量 分 析 (Differential Scanning Calorimetry)により,ガラス転移温度(Tg)の有無を確認することで,一般的なアモルファス合金 か,金属ガラスかを判別することができる。 金属ガラスの生成については,井上らによる経験則があり「3成分以上の多元系であること」 「3成分の原子半径が互いに約12%以上異なっていること」「3成分が互いに負の混合熱を有して いること」であることが提唱されている[17]。金属ガラスは,アモルファスよりも局所原子配 列が非常に緻密に充填されており,また原子間の化学的相互作用が強いために,局所構造の崩 壊と大幅な原子の再配列を必要とする核生成・成長を抑制することで,結晶化に対して大きな 抵抗力をもつと考えられている。一例を挙げると,金属ガラスの中でも高いガラス形成能を持 つPd-Cu-Ni-P金属ガラスの局所原子配列は,Pを中心とした三角プリズムと変形正方十二面体の 2つの異なるクラスターが存在し,互いの原子の再配列を阻害することで,高いガラス形成能を 持つと報告されている[18]。 バルク金属ガラスの代表的な作製方法には,「水焼入れ法」,「銅鋳型鋳造法」などがある。「水 焼入れ法」とは,石英管に入れた母合金を真空引きしながら加熱し,Arガスの導入後に封入し- 5 - た試料容器ごと水溶液中に投入する方法である。「銅鋳型鋳造法」とは,液体金属を銅鋳型に注 入し,型と同じ形状の金属ガラスを作製する方法であり,数十ミリメートルサイズの金属ガラ スが作製できることが報告されている。 さらに,一般的なアモルファス合金には無い,金属ガラス特有の優れた特性として,過冷却 液体領域における粘性流動性が挙げられる。過冷却液体領域とは,結晶化温度からガラス転移 温度を引いた温度範囲であり,この過冷却液体領域が広いほど,ガラスとして熱的に安定であ ることが知られている。金属ガラスは,過冷却液体領域において,粘性が低下するため,低応 力であっても均一な成型加工を行うことが可能である。また,金属ガラスは,結晶のような凝 固収縮がなく,結晶粒界を持たないため,成型加工した表面はナノレベルでの平滑性が実現可 能であり,さらに結晶化による不連続収縮がなく,転写性が良好であることから,成長分野で あるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)への応用が期待されている[19]。MEMSのよう に超微細部の成型加工が必要な場合,「射出成型法」が有効な方法として挙げられる[20] [21]。 「射出成型法」とは,高寸法精度を要求される部品の作製に使用されており,ダイカスト法と 同様,油圧プランジャ駆動で溶融させた金属ガラス合金を製品キャビティに高圧で射出充填さ せる方法であり[8],金属ガラスで作製した超精密歯車は,耐摩耗性が優れており,炭素工具鋼 で作製した超精密歯車の寿命は10時間程度であったのに対し,Ni基金属ガラスで作製した超精 密歯車は,1000時間後もその形状を保つ事が報告されている[22]。金属ガラスを用いることに より,アモルファス合金では困難であった3次元形状の成型加工が可能となり,様々な分野での 応用研究が行なわれている。 図1 金属ガラスの加熱時における相変化イメージ アモルファス固体 アモルファス固体 アモルファス固体 アモルファス固体 過冷却液体過冷却液体過冷却液体過冷却液体 結晶結晶結晶結晶 溶融溶融溶融溶融 ガラス転移温度 ガラス転移温度 ガラス転移温度 ガラス転移温度 結晶化温度結晶化温度結晶化温度結晶化温度 昇温 昇温昇温 昇温
- 6 - バルク金属ガラスの発見により,従来のアモルファス合金と比較して試料の大型化が可能と なったが,最もサイズの大きい Pd-Ni-Cu-P 金属ガラスでも,そのサイズは数十 mm であること から,工業材料として応用するためには,さらなる大型化が望まれている。そのため,アモル ファス合金薄膜と同様,材料表面のみに,金属ガラス薄膜をコーティングして,表面に金属ガ ラスの特性を付与させることで,金属ガラスの適用分野を広げることが検討されている。 金属ガラス薄膜を使用した研究には,粘性流動特性を利用したものが多く報告されており, 秦らは,リフトオフ法を利用した,Zr 金属ガラス薄膜による微細はり作製について検討を行い, 3 次元形状を持つ金属ガラス構造物が形成可能であると報告している[23]-[27]。また,早乙女ら は,ナノインプリント技術を利用した,金属ガラス薄膜による転写加工技術について報告して いる[28] ]-[30]。ナノインプリントとは,基板上に樹脂を塗布し,加熱しながら微細パターンを 形成した金型を押付け,離型することで,ナノレベルの微細パターンを転写加工する技術であ り,簡便な装置で,スループットが高く,広い面積の基板上に一括でパターン形成を行うこと が可能なため,光学,電子工業,医療など様々な分野への適用が検討されている。樹脂材料の 代わりに金属ガラス薄膜を使用することで,金属ガラスの過冷却液体領域における粘性流動性 を利用した微細加工を容易に施すことができるため,金属ガラス製品を低コストで生産するこ とができる加工技術である。 図 2 ナノインプリントによる金属ガラスの成型加工例 ナノ金型 ナノ金型ナノ金型 ナノ金型 (2) ナノ金型を準備ナノ金型を準備ナノ金型を準備ナノ金型を準備 基板 基板 基板 基板 金属ガラス薄膜 金属ガラス薄膜金属ガラス薄膜 金属ガラス薄膜 (1) 基板上に金属ガラス薄膜を形成基板上に金属ガラス薄膜を形成基板上に金属ガラス薄膜を形成基板上に金属ガラス薄膜を形成 (3) ナノインプリントナノインプリントナノインプリントナノインプリント 加熱 加熱 加熱 加熱((((過冷却液体領域の温度過冷却液体領域の温度過冷却液体領域の温度過冷却液体領域の温度)・押付け押付け押付け 押付け (4) 金属ガラスへのナノパターン形成金属ガラスへのナノパターン形成金属ガラスへのナノパターン形成金属ガラスへのナノパターン形成 冷却・離型 冷却・離型 冷却・離型 冷却・離型
- 7 - 金属ガラス薄膜の作製方法の 1 つとして,スパッタ法による報告例があるが,既に述べたよ うに,生産性,コスト面の課題を考えた場合,めっき法は,良好な薄膜形成方法であると言え る。アモルファス合金めっきでの実績が多い無電解めっきは,めっき溶液中の還元剤の酸化反 応に伴う電子により,金属薄膜を形成することができるため,導電性のない素材表面にも金属 薄膜を形成することが可能であり,外部電源を用いないため,電流密度の影響を受けることな く,厚みの均一な金属薄膜を得ることができる。一方,無電解めっき溶液を構成する試薬は高 価なものが多い。また,還元剤の酸化反応に伴い,副生成物が生じることで浴の寿命が短く, 浴管理が難しい。さらに,析出速度が遅いため,生産性が劣るなどの課題がある。 金属ガラスの工業製品への適用を広げるためには,高価な設備を必要とせず,低コストで生 産でき,析出速度が速く,めっき浴の管理が容易な電析法が有効な方法と言える。但し,電析 法によるアモルファス合金薄膜の作製例は多いが,金属ガラスを形成するためには 3 成分以上 の多元系であることが必要と言われており,電析条件が複雑であることから電析法による金属 ガラスの形成に関する報告は見られなかった。 金属ガラスの粘性流動特性を利用して精密加工を行うには,熱的に安定な過冷却液体領域の 広い金属ガラスを選択することが重要である。過冷却液体領域の広い金属ガラスとしては,Zr 基金属ガラスとPd基金属ガラスが挙げられる。3元系Zr基金属ガラスであるZr-Cu-Alは,ガラス 転移温度701℃,結晶化温度773℃,過冷却液体領域72℃であり[31],Pd基金属ガラスである Pd-Ni-Pは,ガラス転移温度576℃,結晶化温度678℃,過冷却液体領域102℃である[32]。過冷却 液体領域で精密加工を行う場合,装置環境ができるだけ低温であるほうが扱いやすいため,ガ ラス転移温度が低く,かつ過冷却液体領域の広いPd-Ni-P金属ガラスは,過冷却液体領域の粘性 流動特性を利用する際に,有効な金属ガラス材料である。 また,バルクPd-Ni-P金属ガラスは,高い熱安定性の発現機構や,基礎物性など数多くの研究 報告例があり,Pd-Ni-P組成によって結晶化温度および,過冷却液体領域の温度幅が異なり,最 も広い過冷却液体領域を持つのはPd40Ni40P20組成の金属ガラスであることが報告されている。尚, アモルファス合金の一種である金属ガラスは,結晶化温度以下の過冷却液体領域であっても, 長時間保持すると結晶化が進行する可能性があるため,過冷却液体領域における熱的安定性を 把握することが重要である。
- 8 -
1.2
論文の目的
論文の目的
論文の目的
論文の目的
以上のことを受けて,本論文では,バルク金属ガラスの中でも過冷却液体領域が広く,熱安 定性が高い Pd-Ni-P 金属ガラスを電析法で作製することを試みた。また,作製した Pd-Ni-P 金属 ガラスの熱安定性について,検討した。 電析 Pd-Ni-P 金属ガラスを作製するにあたり,溶液成分として用いられる,塩化パラジウム, 硫酸ニッケル,ホスホン酸,および錯化剤であるエチレンジアミン,それぞれの濃度における 電流-電位曲線を評価し,パラジウム,ニッケル,リンそれぞれの電析に関する基礎特性を明ら かにした。これらの結果を受けて,電析 Pd40Ni40P20金属ガラスを作製するための電析条件の指 針を決定した。次に,得られた電析条件を基に,電流密度,めっき溶液における金属塩濃度を 変化させ,電析膜組成との関係を明らかにした。また,得られた電析膜が金属ガラスであるか 否かを判別し,電析 Pd-Ni-P 金属ガラスを作製可能な電析条件,電析膜組成の範囲を明らかに した。 Pd-Ni-P 金属ガラスの熱安定性の評価については,2 つの観点で検討を行なった。1 つ目は過 冷却液体領域の広さ,2 つ目は過冷却液体領域での等温保持に対する熱安定性についてである。 種々の電析膜組成と,上記熱安定性の関係を整理することで,Pd-Ni-P 金属ガラスの熱安定性を 明らかにした。 以上のことについて検討を行い,電析 Pd-Ni-P 金属ガラスの作製と,それらの熱安定性を明 らかにすることを試みた。- 9 -
1.3
論文の
論文の
論文の構成と概要
論文の
構成と概要
構成と概要
構成と概要
第 1 章では,緒言として本研究を行うにあたり,本論文の目的,構成と概要について述べた。 第 2 章では,Pd-Ni-P 金属ガラス作製にあたり,基礎評価として,塩化パラジウム溶液,硫酸 ニッケル溶液,リン供給源であるホスホン酸溶液,それぞれの電流-電位曲線を評価することで, 電析挙動を明らかにした。また,パラジウムとニッケルの析出電位を近づけるために,パラジ ウムに優位に働く錯化剤としてエチレンジアミンを使用した。そのため,エチレンジアミンの 影響についても合わせて検討を行った。さらに,電析挙動を明らかにすることで,電析 Pd-Ni-P 金属ガラスを作製する条件について,指針を得るための検討を行った。 1.パラジウム,ニッケル,リンの電析挙動 (1)塩化パラジウム溶液におけるパラジウム濃度の増加により,電流-電位曲線の電流密度は 増加,金属析出量は増加した。 (2)塩化パラジウム溶液におけるエチレンジアミン濃度の増加により,電流-電位曲線の電流 密度は増加した。但し,電流密度の増加は,金属析出以外の副反応による影響が大きいことを 明らかにした。 (3)硫酸ニッケル溶液におけるニッケル濃度の増加により,電流-電位曲線の電流密度は増加, 金属析出量は増加した。 (4)硫酸ニッケル溶液におけるエチレンジアミン濃度の増加により,電流-電位曲線の電流密 度は増加した。但し,電流密度の増加は,金属析出以外の反応による影響が大きいことを明ら かにした。 (5)塩化パラジウム-ホスホン酸混合溶液におけるホスホン酸濃度の増加により,電流-電位 曲線の電流密度は一旦減少したが,ホスホン酸濃度のさらなる増加により電流密度は増加した。 (6)硫酸ニッケル-ホスホン酸混合溶液におけるホスホン酸濃度の影響により,電流-電位曲 線の電流密度は増加した。 2.電析 Pd-Ni-P 金属ガラス作製条件の検討バルク Pd-Ni-P 金属ガラスを形成できる組成範囲は,Pd 25~60 at%,Ni 20~57 at%,P 16~22 at% の範囲であり,この中でも過冷却液体領域が最も広い組成は Pd40Ni40P20であることが知られて
- 10 - いる。Pd-P の電流-電位曲線と Ni-P の電流-電位曲線が近接する条件を検討することで,電析 Pd-Ni-P 金属ガラス作製のための指針を検討した。 第 3 章では,第 2 章で実施した Pd-P および,Ni-P の電流-電位曲線の評価結果を基に,電析 Pd-Ni-P 金属ガラスを作製する条件について検討を行った。また,電析 Pd-Ni-P 金属ガラスの組 成とガラス転移温度,結晶化温度,ガラス形成能との関係について明らかにした。 1.電析 Pd-Ni-P 金属ガラスを作製する条件については,電析時の電流密度を変化させるこ とで,電析 Pd-Ni-P の組成が変化することを明らかにした。さらに,めっき溶液中の塩化パラ ジウム,硫酸ニッケル,ホスホン酸,それぞれの金属塩濃度を変化させることで,電析 Pd-Ni-P の組成が変化することを明らかにした。作製した電析 Pd-Ni-P は,X 線回折による構造解析結 果より,アモルファスであることが確認できた。さらに,示差走査熱量測定結果より,ある組 成範囲の電析 Pd-Ni-P には,金属ガラス特有のガラス転移温度が見られたことから,電析法で Pd-Ni-P 金属ガラスを作製することができた。 2.電析 Pd-Ni-P 金属ガラスが形成可能な組成範囲を明らかにした。これは,液体急冷法で 作製したバルク Pd-Ni-P 金属ガラスと同様な組成範囲であることが確認できた。また,電析 Pd-Ni-P 金属ガラスのガラス転移温度,結晶化温度,ガラス形成能を明らかにしたが,Pd-Ni-P 組成により,その値は異なることを明らかにした。これも,液体急冷法で作製したバルク金属 ガラスと同様の傾向であった。一方,電析 Pd-Ni-P 金属ガラスは,バルク Pd-Ni-P 金属ガラスと 比較して,相対的にガラス転移温度,結晶化温度,ガラス形成能が低いことが明らかになった。 第 4 章では,電析 Pd-Ni-P 金属ガラスの過冷却液体領域における熱安定性の関係を明らかに した。尚,過冷却液体領域における熱安定性は,過冷却液体領域の温度で保持した際に,アモ ルファス構造を維持できた時間で判断した。 1.電析 Pd-Ni-P 金属ガラスは,パラジウム組成によりアモルファス状態を維持できる時間 が異なることを明らかにした。また,過冷却液体領域が広いほど,アモルファス状態を維持で きる時間は長いことを明らかにした。 2.電析 Pd-Ni-P 金属ガラス形成範囲の下限に近い Pd-Ni-P 金属ガラスでは,DSC 測定結果 より,過冷却液体領域に結晶化に伴う発熱ピークが見られることから,2 段階の結晶化挙動を
- 11 - 示すことを明らかにした。この Pd-Ni-P 金属ガラスを過冷却液体領域で保持すると,XRD 測定 結果より,アモルファス特有のブロードなピーク上に結晶ピークが見られた。また,DSC 測定 結果より,ガラス転移温度が確認できたことから,金属ガラス状態を維持していることを明ら かにした。以上をまとめると,金属ガラス形成範囲の下限に近い Pd-Ni-P 金属ガラスでは,過 冷却液体領域における等温保持により,金属ガラス中に結晶が混在している可能が推測された。 第 5 章では,総括として,第 2 章から第 4 章で得られた結果についてまとめた。
- 12 -
参考文献
参考文献
参考文献
参考文献
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[20] 石田 央, 清水 幸春, 西山 信行, 早乙女 康典, 井上 明久 ,まてりあ, 45, 138 (2006). [21] M. Ishida, H. Takeda, D. Watanabe, K. Amiya, N. Nishiyama, K. Kita, Y. Saotome, A. Inoue ; Mater. Trans., 45, 1239 (2004). [22] 石田 央, 竹田 英樹, 山口 正志, 喜多 和彦 , まてりあ, 42, 585 (2003). [23] 奏 誠一, 後藤潤, 佐藤海二, 下河辺 明, 精密工学会誌, 66, 96 (2000). [24] 奏 誠一, 劉永東, 長嶺靖之, 下河辺 明, 日本金属学会論文集(C 編), 67, 2707 (2001). [25] 奏 誠一, 山田典弘, 早乙女康典, 井上 明久, 下河辺 明, 日本金属学会論文集(C 編), 65, 2080 (1999).
- 13 -
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[31] A. Inoue, W. Zhang , Mater. Trans., 43, 2921 (2002).
- 14 -
第
第
第
第 2 章
章
章
章
パラジウム
パラジウム
パラジウム
パラジウム,
,
,
,ニッケル
ニッケル,
ニッケル
ニッケル
,
,
,リン
リン
リン
リンの電析挙動
の電析挙動
の電析挙動
の電析挙動
2.1
緒言
緒言
緒言
緒言
合金めっきとは,めっき液中に存在する複数の金属イオンをカソード上で同時に還元析出さ せる方法であり,めっき皮膜の合金組成が成分金属の平衡電位から予想できる「正常共析」と, 平衡電位からは予想できない「異常共析」がある。正常共析の場合,成分金属同士の電位-pH 図を重ね合わせることで,合金めっきの可能性を考察することが可能であり,合金めっき皮膜 を得るためには,成分金属の平衡電位よりもカソード電位を卑な電位に保持することが必要で ある。Brennerによると,経験的に成分金属の平衡電位差が0.25V以下の場合,合金電析の可能 性が高いことを指摘している[1]。 一方,標準電極電位が0.92Vであるパラジウムと,-0.23Vであるニッケルのように,標準電極 電位が1.0V以上離れているパラジウムとニッケルの合金めっきを得るためには,貴な金属であ るパラジウムイオンの活量を低下させるために,パラジウムイオンに配位する錯化剤を利用す ることで電極電位を卑に移行させることが有効である[2]。パラジウムイオンに対して安定に働 く錯化剤には,アンミン錯体,エチレンジアミン錯体などが挙げられ,定電位電解法や交流電 解法による,エチレンジアミン浴からのPd-Ni合金めっきについて研究されており,パラジウム に対して錯体の安定度定数が大きいエチレンジアミンの有効性について報告されている[3] [4]。 また,水本らは,エチレンジアミンを錯化剤に用いた電析Pd-Ni-P合金の皮膜特性に及ぼすリン 共析の影響について検討を行い,結晶構造,内部応力,耐食性などの皮膜特性について報告し ている[5]。 一方,報告されている電析Pd-Ni-P合金のリン含有率は10mol%以下であり,バルクPd-Ni-P金 属ガラスが形成されると報告されているリン含有率の範囲外であるため,Pd-Ni-P金属ガラスを 作製するためには,リン含有率を増加させる電析条件を検討する必要がある。中野らは,Fe-Ni 合金の電析挙動を明らかにするために,FeおよびNi単独浴の部分分極曲線から析出機構の検討 を行い,Ni単独浴とFe-Ni合金浴の分極曲線の比較を行い,Fe-Ni合金浴のほうが大きく分極す ることを明らかにした。Fe-Ni合金の共析機構は,Feとの共析によってNiの電析が抑制されるこ とにより,卑なFeが貴なNiよりも優先析出する変則型共析という電析挙動を示すことを報告し- 15 - ている[6][7][8]。 Pd-Ni-Pの電析挙動を検討する際においても,パラジウム,ニッケル,リンそれぞれの電析挙 動を明らかにし,合金の電析挙動を検討することが重要である。前記したが,パラジウムとニ ッケルの合金化を実現するためには,パラジウムの電極電位をニッケルの電極電位に近づける ことが必要であり,エチレンジアミンのようなパラジウムに対する錯イオン生成定数の大きい 錯化剤を用いることが有効である。 錯イオンの形成による電極電位の変化については,以下のように考えることができる。 水溶液中の金属イオン Mn+が,配位子 Xm-と結合して錯イオンを形成する場合,その反応式およ び,錯イオン生成定数 K は次のように表される。 m n m n++++ −−−− −−−− ↔ ↔↔ ↔ + ++ +X MX M ··· (A)
[[[[
]]]]
[[[[
++++]]]][[[[
−−−−]]]]
− − − − = = = = m m n K X M MX n ··· (B) 配位子の錯イオン形成能力が大きい,つまり K が大きいほど,(A)式の平衡は右側に傾き,金属 イオン濃度が減少する。電極電位の形成に関係する金属イオン濃度が減少するため,金属 M の 電極電位は,標準電極電位(E0 )よりも大きく卑にシフトする。 このような溶液中において,錯イオンと平衡状態にある金属 M の電極電位は,ネルンストの 式を用いて,次式のように表される。[[[[
]]]]
[[[[
]]]]
[[[[
[[[[
−−−−]]]]
]]]]
− −− − − − − − − − − − + ++ + − − − − = == = + + + + = = = = m m n m m n nF RT K nF RT E K nF RT E E X MX ln ln X MX ln 0 0 ··· (C) ここで,配位子が十分に存在し,錯イオン濃度[MXn-m]と遊離の配位子濃度[Xm-]がほぼ等しい 場合には,(C)式の第 3 項はゼロとなり,次式が得られる。 K nF RT E E 0 ln − − − − = = = = ··· (D) 気体定数 R, ファラデー定数 F, 温度 T=313K(40℃)を(D)式に代入すると, K n E K n E e K nF RT E E 0.062log 4343 . 0 log ) mol C ( 10 9.648 ) K ( 313 ) mol K J ( 31 . 8 log log 0 1 4 1 1 0 0 − − − − = == = × × × × − − − − = == = − − − − = = = = −−−− − − − − − − − − ··· (E) を得ることができる。 以上の式をもとにして,配位子にエチレンジアミンを選択した場合のパラジウムとニッケル の電極電位を求めた。 パラジウムの陽イオン価数(n)は 2,標準電極電位(E0 )は 0.915V,エチレンジアミンのパラジ ウムに対する錯生成定数は logK2=26.9 である。これらを代入すると,E2(NHE)=0.081V が得られ- 16 -
る。これは Ag/AgCl 電極換算で E2(SSCE)=-0.118V となる。
ニッケルの陽イオン価数(n)は 2,標準電極電位(E0
)は-0.228V,エチレンジアミンのニッケル に対する錯生成定数は logK1=7.32,logK2=13.50,logK3=17.61 である。これらを代入すると, E1(NHE)=-0.455V,E2(NHE)=-0.646V,E3(NHE)=-0.774V が得られる。これは Ag/AgCl 電極換算で E1(SSCE)=-0.654V,E2(SSCE)=-0.845V,E3(SSCE)=-0.973V となる。
上記したように,パラジウムおよびニッケルはエチレンジアミンによる錯体化により電極電 位が大きく変化する。また,リンはニッケルなどの金属に誘起共析するために,合金の電析挙 動を把握することが重要である[9][10]。
本章では,Pd-Ni-P合金めっきを検討するにあたり,基礎評価としてパラジウム,ニッケル, リンそれぞれの電析挙動について検討を行った。
- 17 -
2.2
実験方法
実験方法
実験方法
実験方法
2.2.1
リニアスイープボルタンメトリー法
リニアスイープボルタンメトリー法
リニアスイープボルタンメトリー法
リニアスイープボルタンメトリー法
Pd-Ni-P 合金めっき溶液の電析条件を検討するにあたり,リニアスイープボルタンメトリー (北斗電工製電気化学測定システム HZ-5000)を用いて,パラジウム,ニッケル,リンの電流-電 位曲線の測定を実施し,それぞれの電析挙動を調査した。 ボルタンメトリーとは,初期電位から正または負電位方向に電極電位を一定速度で掃引し, その際の電流-電位曲線を測定する電位走査測定である。ボルタンメトリーには,電位走査方法 の違いにより,本章で計測に使用したリニアスイープボルタンメトリーや,サイクリックボル タンメトリーなどがある[11][12]。リニアスイープボルタンメトリーは,一定方向に電位走査を するが,サイクリックボルタンメトリーは,ある電位で電位走査方向を反転させ,初期電位に 戻る電位走査方法である。 本章では,リニアスイープボルタンメトリー法により,表 1~5 に示す基本溶液に対して電流 -電位曲線の測定を行った。なお,各溶液ともに硫酸水溶液を用いて pH4.0 に調整した。電位走 査速度は 1mV/s,作用極には被めっき皮膜の電極を用意し,対極はニッケル板を使用した。ま た,参照極には飽和 KCl の Ag/AgCl 電極を使用し,浴温 40℃,攪拌速度 400rpm とした。以下, 特に断らない限り,電位は Ag/AgCl 電極基準とする。 表 1 はパラジウム電析挙動を把握するための塩化パラジウム溶液の組成である。電位走査範 囲は,自然電位から開始し,Ag/AgCl 電極基準で-1.0V までの範囲とした。表 2 はニッケル電析 挙動を把握するための硫酸ニッケル溶液の組成である。電位走査範囲は,自然電位から開始し, Ag/AgCl 電極基準で-1.2V までの範囲とした。表 3 はホスホン酸の電析挙動を把握するためのホ スホン酸浴の組成である。作用極は銅基板上にパラジウムめっきを施した電極を用い,電位走 査範囲は,自然電位から開始し,Ag/AgCl 電極基準で-1.0V までの範囲とした。表 4 はパラジウ ム-リン電析挙動を把握するための塩化パラジウム-ホスホン酸浴の組成である。電位走査範囲 は,自然電位から開始し,Ag/AgCl 電極基準で-1.0V までの範囲とした。表 5 はニッケル-リン 電析挙動を把握するための硫酸ニッケル-ホスホン酸浴の組成である。電位走査範囲は,自然電 位から開始し,Ag/AgCl 電極基準で-1.2V までの範囲とした。- 18 - Table.2-1 塩化パラジウム溶液塩化パラジウム溶液塩化パラジウム溶液塩化パラジウム溶液 PdCl2 0.0075~0.05 mol/dm 3 NH2CH2CH2NH2 0.2~0.8 mol/dm 3 H3BO3 0.75 mol/dm 3 NaCl 0.06 mol/dm3 pH 4.0 Table.2-3 ホスホン酸溶液ホスホン酸溶液ホスホン酸溶液ホスホン酸溶液 H2PHO3 0.0005~0.25 mol/dm 3 NH2CH2CH2NH2 0.4 mol/dm 3 H3BO3 0.75 mol/dm 3 NaCl 0.06 mol/dm3 pH 4.0 Table.2-4 塩化パラジウム塩化パラジウム塩化パラジウム塩化パラジウム-ホスホン酸溶液ホスホン酸溶液ホスホン酸溶液 ホスホン酸溶液 PdCl2 0.015~0.05 mol/dm 3 NH2CH2CH2NH2 0.4 mol/dm 3 H2PHO3 0.0005~0.25 mol/dm 3 H3BO3 0.75 mol/dm 3 NaCl 0.06 mol/dm3 pH 4.0 Table.2-2 硫酸ニッケル溶液硫酸ニッケル溶液硫酸ニッケル溶液 硫酸ニッケル溶液 NiSO4·6H2O 0.00625~0.2 mol/dm 3 NH2CH2CH2NH2 0~0.8 mol/dm 3 H3BO3 0.75 mol/dm 3 NaCl 0.06 mol/dm3 pH 4.0 Table.2-5 硫酸ニッ硫酸ニッ硫酸ニッケル硫酸ニッケルケルケル-ホスホン酸溶液ホスホン酸溶液ホスホン酸溶液 ホスホン酸溶液 NiSO4·6H2O 0.015~0.05 mol/dm 3 NH2CH2CH2NH2 0.4 mol/dm 3 H2PHO3 0.0005~0.25 mol/dm 3 H3BO3 0.75 mol/dm 3 NaCl 0.06 mol/dm3 pH 4.0
19
2.3
結果および考察
結果および考察
結果および考察
結果および考察
2.3.1 1 元系金属溶液の電析挙動
元系金属溶液の電析挙動
元系金属溶液の電析挙動
元系金属溶液の電析挙動
本節では,Pd-Ni-P 合金めっき作製において溶液成分として用いられる,塩化パラジウム,硫 酸ニッケル,ホスホン酸,および錯化剤として使用したエチレンジアミン,それぞれの濃度に おける電流-電位曲線の評価結果から,パラジウム,ニッケル,リンの電析挙動を明らかにする 事を目的とした。2.3.1.1
塩化パラジウム溶液におけるパラジウム濃度の影響
塩化パラジウム溶液におけるパラジウム濃度の影響
塩化パラジウム溶液におけるパラジウム濃度の影響
塩化パラジウム溶液におけるパラジウム濃度の影響
パラジウムの電析挙動を明らかにするために,表 1 のエチレンジアミン濃度を 0.4mol/dm3と し,塩化パラジウム濃度を変化させた溶液に対する電流-電位曲線を図 1 に示す。塩化パラジウ ム濃度は (a) 0.0075 mol/dm3 ,(b) 0.015 mol/dm3 ,(c) 0.03 mol/dm3 ,(d) 0.05 mol/dm3 の 4 種類とし た。緒言で述べたように,エチレンジアミンのパラジウムに対する錯生成定数は logK2=26.9 と 大きく,ネルンスト式より求めたパラジウムの電極電位は,-0.118V である。図 1 の結果より, パラジウムの自然電位は-0.09V であり,理論値とよい一致を得た。 塩化パラジウム濃度(a) 0.0075~(d) 0.05 mol/dm3いずれの電流-電位曲線も,-0.4V 付近から塩 化パラジウム濃度の増加に伴い,電流密度の上昇が見られた。塩化パラジウム濃度が低い(a) 0.0075 mol/dm3, (b) 0.015 mol/dm3は,-0.4V から-0.8V 付近まで緩やかな電流密度の増加傾向を示 したが,-0.8V 付近より卑な電位になると,電流密度の増加傾向がより顕著となった。一方,塩 化パラジウム濃度が最も高い(d) 0.05 mol/dm3では,ほぼ直線的な電流密度の増加が見られた。図 2 は,塩化パラジウム濃度 0.015mol/dm3,0.03mol/dm3,0.05mol/dm3の溶液を定電位-0.7V
で 60 分間電析した時の電流効率から,金属析出に消費された電気量を見積もった結果である。 塩化パラジウム濃度の増加に伴い,金属析出に消費される電気量は単調に増加するが,金属析 出以外に消費される電気量は,塩化パラジウム濃度の影響を受けにくい事が分かる。 図 3 には,-0.7V 及び-1.0V における塩化パラジウム濃度と電流密度の関係を示した。線形近 似結果より,塩化パラジウム濃度 0 mol/dm3の電流密度は,-0.7V の時に-5mA/cm2,-1.0V の時 に-20.1mA/cm2と予想されるが,これは金属析出以外に消費される電気量だと推測される。図 2 に示したように,金属析出以外に消費される電気量は塩化パラジウム濃度の影響を受けにくい
- 20 - ため,塩化パラジウム濃度によらずにほぼ一定と考えられる。従って,線形近似より得られた 塩化パラジウム濃度 0mol/dm3 の時に予想される電流密度をそれぞれの塩化パラジウム濃度に おける電流密度から引いたものは,金属析出に消費される電気量だと考えられる。これらの事 から,塩化パラジウム濃度の増加による電流密度の増加分は,金属析出,つまりパラジウム析 出量の増加によるものと考えられる。-0.7V および,-1.0V いずれの電位においても,塩化パラ ジウム濃度の増加に伴い,電流密度は単調に増加することから,塩化パラジウム濃度および電 位により,パラジウム電析量を制御することが可能であると考えられる。
0.0
-0.1 -0.2 -0.3 -0.4 -0.5 -0.6 -0.7 -0.8 -0.9 -1.0
0
-10
-20
-30
-40
-50
-60
C
u
rr
en
t
d
en
si
ty
(
m
A
/c
m
2)
Potential (V vs. Ag/AgCl)
(d)
(c)
(b)
(a)
Fig.2-1 種々の塩化パラジウム濃度における電流種々の塩化パラジウム濃度における電流種々の塩化パラジウム濃度における電流種々の塩化パラジウム濃度における電流-電位曲線電位曲線電位曲線電位曲線 NH2CH2CH2NH2 : 0.4 mol/dm 3 PdCl2 : (a) 0.0075 mol/dm 3- 21 - 0 10 20 30 0.015 0.03 0.05 PdCl2 concentration (mol/dm3) C u r r e n t d e n si ty ( m A /c m 2 ) by-product metal Fig.2-2 塩化パラジウム濃度と塩化パラジウム濃度と塩化パラジウム濃度と塩化パラジウム濃度と-0.7V で電析した際の電流密度の内訳で電析した際の電流密度の内訳で電析した際の電流密度の内訳 で電析した際の電流密度の内訳 PdCl2 : (a) 0.015 mol/dm 3 , (b) 0.03mol/dm3, (c) 0.05mol/dm3
0.00
0.01
0.02
0.03
0.04
0.05
0
-10
-20
-30
-40
-50
-60
C
u
rr
en
t
d
en
si
ty
(
m
A
/c
m
2)
PdCl
2concentration (mol/dm
3)
-1.0V
-0.7V
Fig2-3 塩化パラジウム濃度と電流密度の関係塩化パラジウム濃度と電流密度の関係塩化パラジウム濃度と電流密度の関係 塩化パラジウム濃度と電流密度の関係 Potential : (a) -0.7V (vs. Ag/AgCl), (b)-1.0V (vs. Ag/AgCl)- 22 -
2.3. 1.2
塩化パラジウム溶液におけるエチレンジアミンの影響
塩化パラジウム溶液におけるエチレンジアミンの影響
塩化パラジウム溶液におけるエチレンジアミンの影響
塩化パラジウム溶液におけるエチレンジアミンの影響
塩化パラジウム溶液における錯化剤の影響を明らかにするために,表 1 の塩化パラジウム濃 度を 0.015mol/dm3とし,エチレンジアミン濃度を変化させた溶液に対する電流-電位曲線を図 4
に示す。エチレンジアミン濃度(a) 0.2 mol/dm3,(b) 0.4 mol/dm3,(c) 0.8 mol/dm3いずれの溶液に
おいても,-0.65V までは電流-電位曲線に相違なく,エチレンジアミン濃度による電流密度への 影響は見られなかった。一方,-0.65V より卑な電位では,エチレンジアミン濃度が高いほど, 電流密度は増加した。目視ではあるが,エチレンジアミン濃度が高いほど,水素発生量の増加 が確認されており,卑な電位における電流密度の増加は,エチレンジアミンに起因する水素発 生が関係していると考えられる。葛原らは,エチレンジアミンに金属リチウムを加えた際の反 応として以下を挙げている[13]。 Li → Li ++ e- ··· (2.1) e- + H2NCH2CH2NH2 → H2NCH2CH2NH-+ 1/2H2(g) ··· (2.2) エチレンジアミンの反応により水素ガスの発生が報告されており,本研究においても,エチレ ンジアミン濃度増加に伴い,水素ガス発生量が増加することで電流密度が増加したと考えられ る。
図 5 は,塩化パラジウム 0.015mol/dm3の溶液に,エチレンジアミン 0.2mol/dm3,0.8mol/dm3
を添加した溶液を定電位-0.9V で 60 分間電析した時の電流効率から,金属析出に消費された電 気量を見積もった結果である。エチレンジアミン濃度の増加に伴い,金属析出以外に消費され る電気量は増加しており,(2.2)式で示した水素発生量の増加などの影響が考えられる。逆に金 属析出に消費される電気量は減少している。2 座配位子であるエチレンジアミン(en)とパラジウ ムとの反応は, Pd + 2(en) → Pd(en)2 2+ + 2e- ··· (2.3) であり,パラジウムとエチレンジアミンは 1:2 で作用する。塩化パラジウム 0.015 mol/dm3に対 して,エチレンジアミン濃度が最も少ない(a) 0.2 mol/dm3の場合でも,エチレンジアミンは飽和 状態であり,これ以上エチレンジアミン濃度を増加させてもパラジウムに対する錯体効果は見 込めないと思われたが,エチレンジアミン濃度が高い程,エチレンジアミンから外れたパラジ ウムイオンがカソードに到着する前に,他のエチレンジアミンに捕獲される確率が高くなるた め,エチレンジアミン濃度の増加に伴い,金属析出が抑制されたと推測した。
- 23 -
0.0
-0.1 -0.2 -0.3 -0.4 -0.5 -0.6 -0.7 -0.8 -0.9 -1.0
0
-10
-20
-30
-40
-50
C
u
rr
en
t
d
en
si
ty
(
m
A
/c
m
2)
Potential (V vs. Ag/AgCl)
(c)
(b)
(a)
Fig.2-4 種々のエチレンジアミン濃度におけ種々のエチレンジアミン濃度におけ種々のエチレンジアミン濃度におけ種々のエチレンジアミン濃度におけるパラジウム溶液の電流るパラジウム溶液の電流るパラジウム溶液の電流-電位曲線るパラジウム溶液の電流電位曲線電位曲線 電位曲線 PdCl2 : 0.015 mol/dm 3 NH2CH2CH2NH2 : (a) 0.2 mol/dm 3 , (b) 0.4 mol/dm3, (c) 0.8 mol/dm3 0 10 20 30 40 0.2 0.8 NH2CH2CH2NH2 concentration (mol/dm3) C u r r e n t d e n si ty ( m A /c m 2 ) by-product metal Fig.2-5 パラジウム溶液におけるパラジウム溶液におけるパラジウム溶液におけるパラジウム溶液におけるエチレンジアミン濃度とエチレンジアミン濃度とエチレンジアミン濃度とエチレンジアミン濃度と -0.9V で電析した際の電流密度の内訳で電析した際の電流密度の内訳で電析した際の電流密度の内訳で電析した際の電流密度の内訳 NH2CH2CH2NH2 : (a) 0.2 mol/dm 3 , (c) 0.8 mol/dm3- 24 -
2.3. 1.3
硫酸
硫酸
硫酸
硫酸ニッケル溶液におけるニッケル濃度の影響
ニッケル溶液におけるニッケル濃度の影響
ニッケル溶液におけるニッケル濃度の影響
ニッケル溶液におけるニッケル濃度の影響
硫酸ニッケル溶液におけるニッケル濃度の影響を明らかにするために,表 2 のエチレンジア ミン濃度を 0mol/dm3 とし,硫酸ニッケル濃度を変化させた溶液に対する電流-電位曲線を図 6
に示す。硫酸ニッケル濃度(a) 0.00625 mol/dm3,(b) 0.0125 mol/dm3,(c) 0.05 mol/dm3,(d) 0.1
mol/dm3,(e) 0.2 mol/dm3ともに,-0.7V までは,いずれの電流-電位曲線にも相違は見られなか
ったが,これより卑な電位では,硫酸ニッケル濃度が高い溶液ほど,電流密度は増加した。 図 7 は,硫酸ニッケル 0.0125mol/dm3 ,0.05mol/dm3 の溶液を-1.2V,60 分間電析した時の電流 効率から,金属析出に消費された電気量を見積もった結果である。硫酸ニッケル濃度の増加に 伴い,金属析出に消費される電気量は増加するが,金属析出以外に消費される電気量は,硫酸 ニッケル濃度の影響を受けにくい事が分かる。 図 8 には,-1.0V と-1.2V における硫酸ニッケル濃度と電流密度の関係を示した。線形近似結 果より,硫酸ニッケル濃度 0 mol/dm3の電流密度は,-1.0V の時に-4.4mA/cm2,-1.2V の時に -7.8mA/cm2と予想されるが,これは金属析出以外に消費される電気量だと推測される。図 7 に 示したように,金属析出以外に消費される電気量は硫酸ニッケル濃度の影響を受けにくいため, 硫酸ニッケル濃度によらずにほぼ一定と考えられる。従って,線形近似より得られた硫酸ニッ ケル濃度 0mol/dm3 の時に予想される電流密度をそれぞれの硫酸ニッケル濃度における電流密 度から引いたものは,金属析出に消費される電気量だと考えられる。 これらの事から,硫酸ニッケル濃度の増加による電流密度の増加分は,金属析出,つまりニ ッケル析出量の増加によるものと考えられる。-1.0V 及び-1.2V ともに,硫酸ニッケル濃度の増 加に伴い電流密度は単調に増加することから,硫酸ニッケル濃度および電位によりニッケル電 析量を制御することが可能であると考えられる。
- 25 -
0.0 -0.1 -0.2 -0.3 -0.4 -0.5 -0.6 -0.7 -0.8 -0.9 -1.0 -1.1 -1.2
0
-10
-20
-30
-40
-50
C
u
rr
en
t
d
en
si
ty
(
m
A
/c
m
2)
Potential (V vs. Ag/AgCl)
(e)
(d)
(c)
(b)
(a)
Fig.2-6 種々の硫酸ニッケル濃度における電流種々の硫酸ニッケル濃度における電流種々の硫酸ニッケル濃度における電流種々の硫酸ニッケル濃度における電流-電位曲線電位曲線電位曲線 電位曲線 NiSO4·6H2O : (a) 0.00625 mol/dm3
, (b) 0.0125 mol/dm3, (c) 0.05mol/dm3, (d) 0.1mol/dm3, (e) 0.2mol/dm3
0 5 10 15 20 25 30 0.0125 0.05
NiSO4・・・・6H2O conce ntration (mol/dm
3 ) C u r r e n t d e n si ty ( m A /c m 2 ) by-product me tal Fig.2-7 硫酸硫酸硫酸硫酸ニッケル濃度とニッケル濃度とニッケル濃度とニッケル濃度と-1.2V で電析した際の電流密度の内訳で電析した際の電流密度の内訳で電析した際の電流密度の内訳で電析した際の電流密度の内訳 NiSO4·6H2O : (a) 0.0125 mol/dm
3
- 26 -
0.00
0.05
0.10
0.15
0.20
0
-10
-20
-30
-40
-50
-60
C
u
rr
en
t
d
en
si
ty
(
m
A
/c
m
2)
NiSO
4・
・
・
・
6H
2O concentration (mol/dm
3)
-1.2V
-1.0V
Fig2-8 硫酸ニッケル濃度と電流密度の関係硫酸ニッケル濃度と電流密度の関係硫酸ニッケル濃度と電流密度の関係 硫酸ニッケル濃度と電流密度の関係 Potential : (a) -1.0V (vs. Ag/AgCl), (b)-1.2V (vs. Ag/AgCl)- 27 -
2.3. 1.4
ニッケル錯体溶液におけるニッケル濃度の影響
ニッケル錯体溶液におけるニッケル濃度の影響
ニッケル錯体溶液におけるニッケル濃度の影響
ニッケル錯体溶液におけるニッケル濃度の影響
Pd-Ni-P 合金電析を行う際には,パラジウムを錯体化させるために,エチレンジアミンが溶液 成分として必要となるため,ニッケルに対するエチレンジアミンの影響について検討すること が重要である。そのため,表 2 のエチレンジアミン濃度を 0.4 mol/dm3とし,硫酸ニッケル濃度 を変化させた溶液に対する電流-電位曲線を図 9 に示す。硫酸ニッケル濃度は(a) 0.00625 mol/dm3, (b) 0.0125 mol/dm3,(c) 0.05mol/dm3 ,(d) 0.1 mol/dm3 ,(e) 0.2 mol/dm3 の 5 種類を用意した。尚, エチレンジアミンによるニッケル錯体効果を比較するために,エチレンジアミンが添加されて いないニッケル溶液をそれぞれ(f) 0.00625 mol/dm3,(g) 0.2 mol/dm3として合わせて示した。 図 9 から,エチレンジアミンが添加されていない(f) 0.00625 mol/dm3,(g) 0.2 mol/dm3と比較して,エチレンジアミンを添加した(a) 0.00625 mol/dm3~(e) 0.2 mol/dm3では,電流密度が全体
的に増加していた。これは,(2.2)式に示したように,エチレンジアミンによる水素の発生に起 因するものと考えられる。
次に,エチレンジアミンによるニッケル析出電位のシフトについて検討した。硫酸ニッケル 濃度の増加に伴って電流密度が増加し始める電位を,ニッケル析出量が増加し支配的になる電 位とすると,エチレンジアミンが添加されていない(f) 0.00625 mol/dm3, (g) 0.2 mol/dm3では
-0.70V 付近であるのに対し,エチレンジアミンを添加した(a) 0.00625 mol/dm3 ~ (e) 0.2 mol/dm3 では-0.95V 付近である。これは,ニッケル析出が増加する電位が卑な方向にシフトしているこ とを示しており,エチレンジアミンによる錯体化の影響であると考えられる。 一方,-0.70~-0.95V 付近の範囲では,硫酸ニッケル濃度の増加に伴って,電流密度の減少が 見られた。これは,(2.2)式で示した,水素発生に寄与するエチレンジアミンの実効的な量の違 いによるものと考えられる。硫酸ニッケル濃度が最も少ない(a) 0.00625 mol/dm3の場合,ニッケ ル錯体化に寄与するエチレンジアミンの量は極わずかであるのに対し,硫酸ニッケル濃度が最 も多い(e) 0.2 mol/dm3では,ニッケル錯体化に寄与するエチレンジアミンの量も多い。ニッケル 錯体化に寄与しない遊離エチレンジアミンの量は,硫酸ニッケル濃度が高いほど少なくなるた め,(2.2)式に従って発生する水素量が減少すると考えられる。以上のように,硫酸ニッケル溶 液にエチレンジアミンを添加することで,電流密度の減少と増加の 2 つの効果が同時に起こる と考えられる。
図 10 は,硫酸ニッケル濃度 0.05mol/dm3の溶液に,エチレンジアミンを 0mol/dm3,0.4mol/dm3
- 28 - もった結果である。エチレンジアミンの添加により,金属析出に消費される電気量は若干減少 していることが分かる。これはニッケルイオンに対するエチレンジアミンの錯体効果だと考え られる。一方,金属析出以外に消費される電気量は,エチレンジアミンの添加により大きく増 加しており,(2.2)式による水素発生の影響と考えられる。 図 11 には,図 9 で示した電流-電位曲線の-1.2V における硫酸ニッケル濃度と電流密度の関係 を示した。ニッケル濃度が最も低い 0.00625 mol/dm3の場合,エチレンジアミンを添加していな いニッケル溶液の電流密度は-6.8mA/cm2 であったが,エチレンジアミンを添加したニッケル溶 液の電流密度は-27.8mA/cm2であり,エチレンジアミンを添加することで,電流密度は約 4 倍増 加した。これは,エチレンジアミン添加による影響で水素発生量が増加したことが原因と推測 される。一方,ニッケル濃度が最も高い 0.2 mol/dm3の場合,エチレンジアミンを添加していな いニッケル溶液の電流密度は-30.5mA/cm2,エチレンジアミンを添加したニッケル溶液の電流密 度は-38.3mA/cm2であり,エチレンジアミン添加による電流密度の増加は約 1.3 倍であり,前記 したニッケル濃度 0.00625 mol/dm3 の場合と比較して,エチレンジアミン添加による電流密度の 増加率は減少している。これは,硫酸ニッケル濃度が高い場合には,水素発生に寄与するエチ レンジアミンの量が少ないため,電流密度の上昇は抑えられたためだと推測する。実際,エチ レンジアミンはニッケルに対して,1 配位,2 配位,3 配位を取ることが知られており,錯生成 定数から 2 配位,3 配位が支配的であることから,硫酸ニッケル 0.2mol/dm3に対して 0.4mol/dm3 のエチレンジアミンは,ほぼ全てが錯体化に消費されており,水素発生に寄与するエチレンジ アミンは僅かであると考えられるため,エチレンジアミン添加による電流密度の増加率が約 1.3 倍と,比較的小さい結果と一致するといえる。
- 29 -
0.0 -0.1 -0.2 -0.3 -0.4 -0.5 -0.6 -0.7 -0.8 -0.9 -1.0 -1.1 -1.2
0
-10
-20
-30
-40
-50
-60
C
u
rr
en
t
d
en
si
ty
(
m
A
/c
m
2)
Potential (V vs. Ag/AgCl)
(g)
(f)
(e)
(d)
(c)
(b)
(a)
Fig.2-9 種々の硫酸ニッケル濃度における電流種々の硫酸ニッケル濃度における電流種々の硫酸ニッケル濃度における電流種々の硫酸ニッケル濃度における電流-電位曲線電位曲線電位曲線 電位曲線 NH2CH2CH2NH2 : 0.4 mol/dm 3, NiSO4·6H2O : (a) 0.00625 mol/dm 3
, (b) 0.0125 mol/dm3, (c) 0.05mol/dm3, (d) 0.1mol/dm3, (e) 0.2mol/dm3
NH2CH2CH2NH2 : 0mol/dm 3
NiSO4·6H2O : (f) 0.00625 mol/dm 3