原 著 〔東女医大誌 第62巻 第3号頁181∼185平成4年3月〕
超音波検査による副腎腫瘍の鑑別診断
東京女子医科大学 内分泌外科(指導:藤本吉秀教授) *同 放射線医学教室 カナヂ ヨシハル イトウユキオ オバラ タカオ金地 嘉春・伊藤悠基夫・小原 孝男
フジモト ヨシヒデ ハラサワ ァリミ 藤本 吉秀・原沢 有美* (受付 平成3年10月31日) 1)iagnostic Value of Ultrasomd Scanning、in Patients with Adrenal Tumor Yoshiharu KANAJI, Yukio ITO, Takao OBARA, Yoshillide FUJIMOTO and Arimi HARASAWA* Department of Endocrine Surgery, Tokyo Women’s Medical College *Department of Radiology, Tokyo Wo皿en’s Medical College The diagnostic value of ultrasonography was retrospectively evaluated in 73 patients with adrenal tumors which were histologically verified during a 9・year period from Apri11981 through March 1990. Tumors resected include 24 aldosteronomas,21 Cushing’s adenomas,23 pheochromo− cytomas and 5 nonfunctioning benign tumors. The size of tumors, ultrasonographic characteristics and a detectab孟1ity of adrenal tumors by ultrasonography were as follows:1.2−4.O cm(mean 2.0), a round, hypoechoic nodule, and 67%in aldosteronomas;1.8−9,0 cm(meah 3,5), a round, homogeneously echogenic mass in 140f all cases, and 76%in Cushing’s adenomas;and 2.5−12.O cm(mean 6.9), a homogeneously echogenic mass in 5 and an 玉nhomogenously echogenic tumor in the others, and 100%in pheochromocytomas. The difference of the size of tumors is statistically significant between every two kinds of the three varied tumors including aldosteronoma, Cushing’s adenoma and phe㏄hrom㏄ytoma. In summary, preoperative ultrasonography can provide useful informations in making suspicion of the diagnosis of aldosteronoma, Cushing’s adenoma and pheochronocytoma by the size and ultrasonographic characteristics of the tumor. はじめに 近年,定期健康診断に腹部超音波検査が導入さ れ,偶然副腎腫瘤が発見される機会が増えてき た1)2).そこで発見される副腎腫瘤について,性質 鑑別診断は治療上極めて重要である.われわれが 経験した副腎腫瘍の超音波検査所見をもとに,超 音波検査でどこまで鑑別診断が可能であるかを retorospectiveに検:討した. 対 象 1981年4月から1990年3月までに東京女子医科 大学病院内分泌外科において手術を行った153例 の副腎腫瘤性疾患患者のうちで,術前超音波検査 の行われていた73例を対象とした.その内訳をみ ると,アルドステロン産生腫瘍50例中の24例,クッ シソグ症候群44例中の21例,褐色細胞腫53例中の 23例,ホルモン非産生腫瘍6例中5例である. 使用した超音波装置は,日立EUB25M,340,450,515,アロカSSD・630を用いた. 症 例 それぞれの疾患別に代表的な症例について記 す. 症例1:原発性アルドステロン症 48歳,男性 12年前,高血圧を指摘された.最近低K血症が 認められるようになり,当疾患を疑われ紹介受診 となる. 超音波検査を行ったところ,懇懇上灘に接して 1.9×1,5cm大で切縁やや不整の低エコー腫瘤像 を認めた(図1).ホルモン学的検査より原発性ア ルドステロン症と診断した. 症例2:クッシング症候群 72歳,女性 20年前に高血圧,糖尿病のあることを指摘され た.最近血清生化学検査で肝機能異常が認められ たため肝の超音波検査を行ったところ,偶然右腎 上極の頭側に2.9×2.8cm大の辺縁平滑で内部エ コーの均一な肝実質とほぼ同じエコーレベルの腫 瘤を認めた(図2).これがきっかけでホルモン学 的検査を行い,クッシング症候群と診断した. 症例3:褐色細胞腫 36歳,女性 4年前妊娠中に高血圧を指摘され,精査にて腎 性高血圧症と診断された.今回突然高血圧性脳症, 図1症例1,術前超音波所見 右副腎腫瘍 原発性ア ルドステロン症 矢印:腫瘍,K:腎. 左側腹部痛出現し,近医院に緊急入院となる.精 査の結果褐色細胞腫が疑われ当科受診となり,超 音波検査を行った.膵尾部および脾静脈の背側と 左腎に囲まれた位置に,6.6×5.2cm大の境界や や鮮明な内部エコーの不均一な腫瘤を確認した (図3).ホルモン学的検査より褐色細胞腫と診断 した. 図2症例2,術前超音波所見 右副腎腫瘍 クッシン グ症候群 矢印:腫瘍,L:肝. 図3症例3,術前超音波所見 左副腎腫瘍 褐色細胞 腫 矢印:腫瘍,K:腎.
症例4:シップル症候群 59歳,女性 10年前より狭心症様発作をたびたび起こしてい た.突然強い狭心症発作を起こし緊急入院となる. 精査中,甲状腺腫を指摘され当科受診.検査の結 果,甲状腺は髄様癌,狭心症発作は褐色細胞腫の ためと診断し,腹部超音波検査を行った.左腎上 灘に接して7.9×7.2cm大の内部エコーは不均一 で多くの低エコー領域のある腫瘤を認めた.また この腫瘤に接するように6.2x4.9cm大と直径 図4症例4,術前超音波所見 シップル症候群 上段:右副腎腫瘍,下段:左副腎腫瘍.矢印:腫瘍 群,L:肝. 図5症例5,術前超音波所見 左副腎腫瘍 ホルモン 非産生腫瘍 矢印:腫瘍,K:腎, S:脾. 3.2cmの腫瘤が認められ,内部に嚢胞性変化が認 められた.さらに右副腎部にも,4.9×4.6cm大の 内部エコーの不均一な腫瘤を認め,この腫瘤に接 して直後2.Ocmの腫瘤を認めた(図4).両側性の 多発性褐色細胞腫と診断した.甲状腺髄様癌と両 側性褐色細胞腫を伴っていたため,シップル症候 群と診断した. 症例5:ホルモン非産生副腎腺腫 48歳,女性 3ヵ月前健診の胃透視のさい噴門部の圧排像を 認め,そのため腹部超音波検査を行った.左腎上 極に接して6.2×5.5cm大の境界鮮明な石灰化を 伴う充実性腫瘤を認めた.内部エコーは一部不均 一で小さな低エコー領域が数ヵ所認められた(図 5).ホルモン学的検査を行ったが何も異常所見が 得られないことより,ホルモン非産生副腎腺腫と 診断した. 結 果 術前に超音波検査が行われていた73例につき, 疾患別にそれぞれ超音波検査所見をまとめてみる と次のようになる. 1.アルドステロン産生腫瘍24例中16例で副腎 腫瘍が超音波検査で確認され,残り8例では検出 されなかった.すなわち腫瘍検出率は67%である.
超音波検査で検出された副腎腫瘍の大きさは,1.2 cmから4.Ocm,平均2.Ocmである.全例で円形の 低エコー領域として描出された. 2.クッシソグ症候群21例中16例で超音波検査 による腫瘍が検出され,検出率は76%である.腫 瘍の大きさは1.8cmから9.Ocmまで,平均3.5cm である.肝臓と同じかやや低エコーの類円形の腫 瘤で,内部エコーの均一なものが14例,石灰化を 伴っていたものが2例見られた. 3.褐色細胞腫23例では,全例が超音波検査で副 腎腫瘍が検出され,腫瘍検出率は100%.大きさは 3.5cmから12.Ocmまで分布し,平均6.9cm.肝臓 と同じかやや低エコーの腫瘤で,内部エコーの均 一なものが5例,他は不均一で多彩な内部エコー を示した. 4.ホルモン非産生腫瘍5例の超音波による腫 瘍検出率は100%.大きさは1.5cmから7.Ocmま でで平均5.Ocm,腎臓と同じかやや低エコーの類 円形の腫瘤として描出された.2例に石灰化が見 られた. 考 察 副腎のホルモン産生腫瘍の診断は,従来患者の 臨床症状から,疑わしいホルモンについて血中, 尿中の濃度ないし排泄量を調べて先ず存在診断を つけ,次いでそのホルモン産生腫瘍が体内のどこ にあるかを調べる部位診断検査,およびホルモン 産生腫瘍が良性,悪性,過形成,異形成かを調べ る性質診断検査を行うのが通常であった3)4).しか し最近では,超音波診断装置の普及により健康診 断に腹部超音波検査が導入され,偶然副腎腫瘍が 発見される機会が増えてきている.そこで見つ かった副腎腫瘍の鑑別診断が超音波検査でどこま で可能か,自験手術患者につきretrospectiveに 検討してみた. 今回の調査で超音波検査による副腎腫瘍検出率 は,全体としてみると73例中60例で83%である. 検出されなかったものをみると,右側5例,左側 8例であった.解剖学的に左副腎は,右副腎より 頭側にあり,腸管ガスの影響を受け易く描出がむ ずかしい.検出されなかった13例の大きさを手術 時摘出標本についての測定値からみると,1cm台
が16例中5例,2cm台が14例中4例,3cm台が14
例中3例,6cm台が4例中1例あった.小さいも
のの検出率がよくないことが言える. 表に,腫瘍の大きさと腫瘍内部エコー所見の特 徴から6つの群に分け,それぞれで各疾患の症例 数を示した.3cm未満の充実性腫瘍で内部エコー が均一なものはアルドステロン産生腫瘍,3∼4cm の充実性腫瘍で内部エコーが均一なものはクッシ ング症候群,4cm以上で内部エコーの不均一で多 彩な変化を示すものは褐色細胞腫をまず最初に 疑ってよいという成績である. 副腎原発腫瘍は,各種類別にほぼ大きさに特徴 があることが一般に認められている.今回検索対 象とした副腎腫瘍患者73例の摘除標本すべてにつ いて,各腫瘍別に測定した副腎腫瘍の大きさの分 布を図6に示した.アルドステロン産生腫瘍,クッ シング症候群,褐色細胞腫それぞれの大きさは, 相互に統計学的に有意な差(pく0.0006)が認めら れた.ホルモン非産生腫瘍は,アルドステロン産 生腫瘍以外のどれに対しても,大きさで有意差は 認められなかった.さらに赤池の情報量基準5)∼7) 表エコーによる副腎腫瘍の大きさと内部所見 大きさ 腫瘍内部エコー所見 総数 アルドステロンY生腫瘍16例 クッシング ヌ候群16例 褐色細胞腫 @23例 非産生腺腫@5例
均一 20 14 5 0 1 3cm未満 不均一 1 0 1 0 0 均一 9 2 7 0 0 3∼4cm 不均一 4 0 2 2 0 均一 7 0 1 4 2 4cm以上 不均一 19 0 0 17 2cm 12 10 8 6 4 2 0 コ マ 義・ ■