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日本金属学会誌第 78 巻第 9 号 (2014) 鋼および銅合金のスパッタエッチングによって形成した微細突起物の可視光線および赤外線吸収特性 中佐啓治郎 1 久保隆 1 山本旭宏 2 李木経孝 1 1 広島国際学院大学工学部生産工学科 2 旭サーフェステック合同会社 J. Japan

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鋼および銅合金のスパッタエッチングによって形成した

微細突起物の可視光線および赤外線吸収特性

中佐啓治郎

1

久 保   隆

1

山 本 旭 宏

2

李 木 経 孝

1

1広島国際学院大学工学部生産工学科

2旭サーフェステック合同会社

J. Japan Inst. Met. Mater. Vol. 78, No. 9(2014), pp. 350358  2014 The Japan Institute of Metals and Materials

Visible Light and Infrared Ray Absorbance of Fine Protrusions Formed by Sputter Etching of Steels and Copper Alloys

Keijiro Nakasa1, Takashi Kubo1, Akihiro Yamamoto2and Tsunetaka Sumomogi1

1Department of Manufacturing Engineering, Faculty of Engineering, Hiroshima Kokusai Gakuin University, Hiroshima 7390321 2Asahi Surface Tec. LLC, HigashiHiroshima 7390024

Argon ion sputter etching was applied to steels and copper alloys at a radio frequency power of 150 or 250 W for 0.9 to 10.8 ks. Coneor ridgeshaped protrusions with many secondary fine protrusions were formed on the surface. The sizes of the protru-sions were typically comparable to the wavelength range of visible light, i.e. 400 nm to 700 nm, and that of nearinfrared ray, i.e. 700 nm to 2.5 mm. Their absorbance of visible light and nearinfrared ray was more than 90, and the absorbance decreased with increasing wave length. These characteristics of the protrusions along with the high heatresistance of stainless steels and the high heatconductivity of copper alloys are suitable for the solar selective materials. The exposure of the protrusions formed on the copper alloys to oxygen gas or air just after the sputter etching increased the absorbance of visible light as well as infrared ray with an appearance of the spectrum of Cu2O near the wavelength of 16 mm. [doi:10.2320/jinstmet.J2014012]

(Received March 4, 2014; Accepted June 2, 2014; Published September 1, 2014)

Keywords: sputter etching, fine protrusion, stainless steel, tool steel, tough pitch copper, phosphor bronze, absorbance, visible light, infrared ray 1. 緒 言 金属をスパッタエッチングすると,表面に微細な突起物が 形成されることは,古くから知られていた1).著者らも,鉄 鋼材料について一連の研究を行い213),各種のステンレス 鋼,低合金鋼および工具鋼を,アルゴンイオンを用いて高い スパッタ電力によりスパッタエッチングすると,ステンレス 鋼では表面に直径が数 mm の円錐状突起物が,工具鋼および 一部のステンレス鋼では寸法が 1 mm 以下の微細な円錐状あ るいは円柱状の突起物が高密度で形成されることを示した. これらの突起物は,鋼特有の強度とじん性を持ち6,7,9),鋼種 に よっては 熱処理に よって硬 化できる ので13),摩擦 搬送 ロール,高分子膜に孔をあける転造ロール・型などの機械的 用途に利用できる.また,突起物の大きなアンカー効果を利 用して,はく離の起こりにくい厚膜コーティング材を製造で きる8).また,スパッタエッチング直後の微細突起物は超親 水性を示すが,突起物の上に撥水性物質を蒸着すると,超撥 水性が現れる11).これらの突起物は,細い線材や薄板にも 形成できるので12),触媒あるいはその担体として利用でき る可能性もある.これらの突起物の製造上の利点は,人工 的なマスクを準備するプロセスが不要である,マスクを用 いたスパッタエッチングでは不可能な複雑な形状の突起物を 作り出すことができ,機能性が発揮されやすい場合がある, 金属の種類(化学成分)や組織を変えることにより突起物の 寸法・形状・分布を制御できる,高価で有毒なエッチング ガスを用いなくてもよい,製造コストが低く,大面積化も 比較的容易である,などである. ところで,前報10)において,スパッタエッチングで形成 される微細な突起物を持つ工具鋼表面は,可視光線に対する 絶 対 反 射 率 が 0.4  ( 吸 収 率 が 99.6  ) で あ り , 入 射 角 が 60°までは,反射率の入射角依存性がほとんどないことを明 らかした.また,前報10)で,マスクを用いたスパッタエッ チングで微細突起物を得る方法や陽極酸化アルミニウムの細 孔を型として反射防止膜を製造する方法など,他の研究者に よる微細突起物形成法も紹介したが,スパッタエッチングの みにより自然発生的に形成される突起物は,マスクや型によ り突起物の形状・寸法が拘束されないため,寸法範囲が広く て高さも一定ではなく,突起物表面にさらに微細な突起や穴 がある.このように,突起物に寸法・形態の多重性があるこ とが,可視光線の吸収特性に優れている理由であると思われ る. そこで,本研究では,突起物の機能性探索研究の一環とし て,太陽光エネルギを熱として利用するための太陽熱温水器

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あるいは太陽熱発電装置で用いられる「選択吸収材」(後述) の開発を念頭に,まず,前報10)で用いたと類似の高速度鋼 SKH2 お よ び 突 起 物 寸 法 の 小 さ い SUS316 ス テ ン レ ス 鋼11,12)について,突起物の可視光線および赤外線吸収特性を 調べた. 次に,銅および銅合金は,熱伝導性に優れ,耐熱性・耐酸 化性があるため,熱交換器配管などに多用されている.すな わち,銅の熱伝導率は 403 W・m-1・K-1であり,炭素鋼の 8 倍,ステンレス鋼(SUS304)の 24 倍であるから,もしスパ ッタエッチングにより,表面に微細な突起物が形成され,そ れらが可視光線のみならず近赤外線を効率よく吸収するなら ば,銅および銅合金を,選択吸収性を併せ持つ熱交換器用材 料として利用できる.一方,スパッタエッチングによって, 寸法・形態の多重性を持ち,しかも平均寸法が大きい突起物 が形成されるならば,それを,高温物体から放射される可視 光線・赤外線の吸収体として利用できる可能性がある.実用 銅合金の種類は多岐にわたるが,本研究では,まず比較的単 純な成分を持つタフピッチ銅およびりん青銅(簡単のため, 両者をまとめて銅合金と呼ぶことがある)のスパッタエッチ ングを行った.また,銅酸化物は赤外線をよく吸収するの で,本研究では,銅合金のスパッタエッチングののちに表面 を酸化させ,可視光線・赤外線の吸収率がどの程度増加する かも調べた. 2. 実 験 方 法 2.1 試料および試験片 実験材料は,市販の高速度鋼 SKH2(化学成分(質量)は, C: 0.80(以下を省略),Si: 0.32, Mn: 0.30, P: 0.021, S: 0.001, Cr: 3.88, Ni: 0.04, Cu: 0.04, W: 17.44, V: 0.84, Fe: Bal.),オーステナイト系ステンレス鋼 SUS316(C: 0.05, Si: 0.4, Mn: 0.82, P: 0.027, S: 0.001, Ni: 10.24, Cr: 17.33, Mo: 2.1, Fe: Bal.),タフピッチ銅 C1100(Cu: 99.96)および りん青銅 C5191(Pb: tr, Fe: tr, Sn: 6.1, Zn: tr, P: 0.15, Cu+ Sn+P: 99.9)である.高速度鋼は,直径 25 mm の丸棒から 厚さ 3 mm の円板試験片を切り出し,1473 K で 1.2 ks 保持 して焼入れした.その他の材料については,厚さ 1 mm の板 から幅が 30 mm の正方形試験片を切り出した.SKH2 の表 面はエメリー紙で#600 まで研磨したが,その他の材料の板 の表面は平坦であるので,研磨は行わなかった.これらの試 料を,高周波マグネトロンスパッタ装置(株サンパック製 SP300-M)内にある水冷カソード電極(直径 100 mm)上の SUS304 ステンレス鋼円板(厚さ約 2 mm)に載せ,真空槽内 の 真 空 度 を 約 6 × 10-3Paに し た の ち , Ar ガ ス ( 純 度 99.999)を導入して約 0.67 Pa に保持し,高 周波電源出 力150 W または 250 W,プレート電流最大 0.2 A とし て,スパッタエッチングを行った.突起物の形状は,走査型 電子顕微鏡(SEM)(株日立製作所,S3000H または S3000N) を用いて観察し,突起物表面の成分分析には,エネルギ分散 型 X 線(EDX)分析装置を備えた SEM(日本電子株 ,JSM-6510A)を用いた. 2.2 突起物表面の酸化処理 可視光線および赤外線の吸収率を増加させる目的で,タフ ピッチ銅およびりん青銅の突起物試料表面の酸化を行った. その方法は,スパッタエッチング終了後真空容器の排気バル ブを閉め,ただちに,ニードルバルブを通して酸素ガス (純度99.9,流量10 ccm)を導入する方法,および, リークバルブを開けて真空容器内に大気を導入する方法, である.スパッタエッチング中の試料の表面温度は非常に高 いので(鋼およびアルミニウム板の実験から,スパッタ電力 250 W では,表面温度は 923 K 以上に達していると推定さ れる),突起物試料の冷却速度が大きくても,突起物表面に 薄い酸化層が形成されると思われる. 2.3 可視光線および赤外線の吸収率の測定 可視光線の吸収(反射)率は,標準試料を用いた簡易型分光 色差計(日本電色工業株製,NF333)を用いて測定した.こ の装置は,2°入射角,45°円周受光方式であり,波長 400~ 700 nm で反射率が平均 87.8の白色板および反射率 0と した黒色標準試料を用いて実測値を校正する.なお,これら の標準試料の表面は比較的平滑であり,2°方向からの入射光 量に対する 45°方向の拡散反射光量の比を用いて,上記の反 射率を決めている(積分球による測定値ではない).したがっ て,もし,この標準試料よりもさらに平滑な鏡面仕上げをし た試料を測定すると,正反射により 45°方向の反射光量が減 少して反射率は見かけ上低下し,一方表面粗さが大きい試料 では拡散反射により反射率が見かけ上増加する(吸収率が減 少する).前報10)の測定結果によると,たとえば絶対吸収率 99.6の工具鋼突起物試料は,この簡易装置では 95.5と 測定される.したがって,突起物の真の吸収率は,この簡易 装置によって測定した吸収率よりも大きい.

次に,赤外線の吸収率は,FT-IR 装置(Perkin Elmer 社製, System 2000 FT-IR)のビームポートに積分球(Labsphere 社 製,RSA-PE-200-ID)を取り付けて測定した(測定は,財フ ァインセラミックスセンターに依頼した). 3. 実 験 結 果 3.1 突起物の電子顕微鏡観察 高速度鋼 SKH2 試料を 250 W で 3.6 ks スパッタエッチン グしたのち,走査型電子顕微鏡(SEM)で表面を観察した結 果を Fig. 1 に示す.この図で,(a)は試料の真上から観察し た像,(b)は試料を 45°傾けて観察した像である.前報10) 示した工具鋼 SKD5 および SKH51 と同様,微細な多重リン グ状(突起物を真上から見たとき)または円柱状(45°傾けて見 たとき)の突起物ができており,多重リングの外径は 3~5 mm,リングの壁あるいは柱の厚さは 100 nm 程度である. なお,SUS316 試料で形成された突起物の SEM 写真は前 報12)で示したので省略するが,SKH2 と同様の微細な突起 物が形成されている. Fig. 2 に,タフピッチ銅試料を 250 W で 3.6 ks スパッタ エッチングしたのちの SEM 像を示す.この図によると,底

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Fig. 1 SEM images of protrusions observed for SKH2 high speed steel sputteretched at 250 W for 3.6 ks. The images are top view (a) and side view from a 45°inclined direction (b).

Fig. 2 SEM images of protrusions observed for toughpitch copper sputteretched at 250 W for 3.6 ks. The images are top view (a) and side view from a 45°inclined direction (b).

Fig. 3 SEM images of protrusions observed for toughpitch copper sputteretched at 250 W for 3.6 ks and exposed to oxyg-en gas. The images are top view (a), (c) and side view from a 45°inclined direction (b), (d). Small protrusions (b) and large protrusions (c), (d) are mixed.

Fig. 4 SEM images of protrusions observed for phosphor bronze sputteretched at 150 W for 7.2 ks. The images are top view (a) and side view from a 45°inclined direction (b).

面直径が 1~4 mm で細長くて円錐形に近い突起物が高密度 で形成されており,突起物の表面には多数の 2 次的な微細 突起や空洞がある(突起物の形は円錐形ではないが,本研究 ではこれを円錐状突起物と呼ぶ).また,円錐状突起物の大 きさは,結晶粒ごとに異なり,他の場所ではこれらより大き い突起物も観察される.このように,突起物の形は多重構造 になっており,突起物(2 次的な突起物を含む)の寸法は,可 視光線(200~700 nm),近赤外線(700 nm~2.5 mm)および それ以上の赤外線の波長に相当する範囲にまで広がってい る.なお,150 W で 3.6 ks スパッタエッチングした場合の 突起物の形態も 250 W の場合と同様であるが,突起物の寸 法はやや小さく,突起物の密度も高い. 次に,Fig. 3 は,タフピッチ銅試料を 250 W で 3.6 ks ス パッタエッチングしたのち,ただちに酸素ガスに接触させた 表面の観察結果である(以下,この試料を「酸素酸化試料」 と呼び,大気に接触させた試料を「大気酸化試料」と呼ぶこ とがある).Fig. 3(a)は,それぞれ寸法の異なる突起物を持 つ隣り合う結晶粒を真上から観察した SEM 像であり,(b) は小さな突起物の 45°傾斜像,(c)および(d)は大きい突起物 の真上からの拡大観察像および 45°傾斜像である.これらに よると,突起物を酸素ガスで酸化させても,それらの形態自

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Fig. 5 Relationship between wavelength and absorbance of visible light for the steels sputteretched at 250 W for 7.2 ks (SKH2) or 3.6 ks(SUS316).

Fig. 6 Relationship between wavelength and absorbance of infrared ray for the steels sputteretched at 250 W for 7.2 ks (SKH2) or 3.6 ks(SUS316).

Fig. 7 Relationships between wavelength and absorbance of visible light for tough pitch copper and phosphor bronze sput-teretched at 150 W or 250 W for 3.6 ks.

Fig. 8 Relationship between sputteretching time and absor-bance of visible light for tough pitch copper and phosphor bronze sputteretched at 250 W. 体には明瞭な変化は生じていないようである.なお,大気酸 化試料の突起物の形態も酸素酸化試料のそれらと同様である. Fig. 4 は,りん青銅を 150 W で 7.2 ks スパッタエッチン グしたときに形成される突起物の例である.250 W でスパ ッタエッチングした場合も同様であり,低倍率の SEM 像に よると,円錐状突起物の寸法は 1~10 mm と広い範囲に分布 している.また,突起物の形態もタフピッチ銅の場合(Fig. 2および Fig. 3)と類似である. 3.2 SKH2工具鋼および SUS316 ステンレス鋼の可視光線 および赤外線吸収特性 まず,高速度鋼 SKH2 およびオーステナイト系ステンレ ス鋼 SUS316 について,突起物の可視光線の吸収率を測定 した結果を Fig. 5 に示す.これによると,SKH2 の吸収率 は非常に高く,前報10)の SKD5,SKD61 および SKH51 で 得 ら れ て い る 値 ( 95 ~ 97  ) と ほ ぼ 同 じ で あ る . ま た , SUS316でも可視光線の吸収率は 92以上である. 次に,SKH2 および SUS316 突起物試料について,赤外 線吸収率を測定した結果を Fig. 6 に示す.この図には,研 磨したままの SKH2 試料の吸収率も示してある.これらの 鋼の突起物は,2.5 mm 以下の近赤外線も 90以上吸収す る.それ以上の波長では吸収率が急速に減少するが,波長が 20mm 以上でも 20の吸収率を示し,突起物のない SKH2 試料の吸収率(約 10)よりも大きい. なお,波長が 700 nm から 1.7 mm の間の吸収率の測定値 はないが,その間で吸収率が大きく低下することはないと思 われるので,Fig. 5 に示した可視光線吸収曲線を長波長側に 延長した曲線が Fig. 6 の赤外線吸収曲線につながると考え られる. 3.3 タフピッチ銅およびりん青銅の可視光線および赤外線 吸収特性 タフピッチ銅およびりん青銅を 250 W または 150 W で 3.6 ks スパッタエッチングし,形成された突起物の可視光線 の吸収特性を調べた結果を Fig. 7 に示す.いずれの銅合 金・スパッタ電力でも,波長が 550 nm 以上で吸収率が減少 しているが,平均の吸収率は 92を超えている.また,タ フピッチ銅の吸収率は,スパッタエッチング電力が 250 W のときよりも 150 W のときのほうが大きい.次に,Fig. 8 は,スパッタ電力を 250 W とし,スパッタエッチング時間 を 0.9~10.8 ks と変化させて可視光線の吸収率(波長 400~ 700 nm の平均値)を求めた図である.タフピッチ銅および りん青銅ともに,スパッタエッチング時間 1.8 ks で吸収率

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Fig. 9 Relationships between wavelength and absorbance of infrared ray for tough pitch copper and phosphor bronze sput-teretched for 3.6 ks.

Fig. 10 Relationship between wavelength and absorbance of visible light for tough pitch copper sputteretched at 250 W for 3.6 ks and exposed to oxygen gas or air.

Fig. 11 Relationship between wavelength and absorbance of visible light for phosphor bronze sputteretched at 250 W for 3.6 ks and exposed to oxygen gas or air.

Fig. 12 Relationship between wavelength and absorbance of infrared ray for tough pitch copper sputteretched at 250 W for 3.6 ks and exposed to oxygen gas or air.

は極大値(それぞれ 97.2および 96.8)を示し,スパッタ エッチング時間がそれ以上増加すると吸収率はやや低下す る.これは,スパッタエッチング時間 1.8 ks では突起物が 高密度で形成され,すべての波長の可視光線が効率よく吸収 されるが,エッチング時間がそれよりも長くなると,突起物 の一部が消失し,平坦な素地(赤色)が現れて長波長側の可視 光線が吸収されにくくなることに対応している.Fig. 7 の結 果と合わせ考えると,スパッタエッチング時間が長いほど, またスパッタ電力が大きいほど可視光線の吸収率(突起物の 形成密度)が大きくなるということはなく,最適なスパッタ エッチング電力と時間の組み合わせがあることが分かる. 次に,タフピッチ銅およびりん青銅の赤外線吸収率を測定 した結果を Fig. 9 に示す.この図には,突起物のない受け 入れ材表面(研磨せず)の赤外線吸収率も合わせて示してある. 150 W でスパッタエッチングしたタフピッチ銅および 250 Wでスパッタエッチングしたりん青銅突起物試料の赤外線 吸収率は,近赤外線の波長に相当する 2.5 mm 以下の範囲で は 90程度であるが,それ以上の波長では吸収率が低下 し,その低下の割合は Fig. 6 に示した鋼の低下の割合より も緩やかである.なお,250 W でスパッタエッチングした タフピッチ銅の近赤外線の吸収率は 80と低いが,それよ り長い波長に対する吸収率の低下の割合は,150 W でスパ ッタエッチングした場合のそれよりもかなり小さい. 3.4 表面を酸化させた銅合金の可視光線および赤外線吸収 特性 250 W で 3.6 ks スパッタエッチングしたのち,真空容器 内にただちに酸素あるいは大気を導入して表面を酸化させた 試料について,可視光線の吸収率を測定した.それらの結果 を,Fig. 10(タフピッチ銅)および Fig. 11(りん青銅)に示 す.これらの図には,スパッタエッチングしたままの試料の 吸収曲線も示してある.いずれの酸化試料でも,すべての波 長で吸収率が大きく増加すると同時に波長依存性が殆どなく なり,平均の吸収率は 98以上に達する.また,酸素酸化 試料のほうが大気酸化試料よりも吸収率がやや大きい. 次に,タフピッチ銅およびりん青銅の酸化試料について, 赤外線の吸収特性を調べた結果をそれぞれ Fig. 12 および Fig. 13に示す.酸化試料の赤外線吸収率は,スパッタエッ チングのままの試料よりも大きく,波長 14~17 mm で吸収 曲線にスペクトルが現れている.また,吸収率の増加は,大 気酸化試料のほうが大きく,可視光線吸収率の場合と逆にな っている.

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Fig. 13 Relationships between wavelength and absorbance of infrared rays for phosphor bronze sputteretched at 250 W for 3.6 ks and exposed to oxygen gas or air.

4. 考 察 4.1 鋼および銅合金における突起物形成機構 人工的なマスクを用いないスパッタエッチングでも微細突 起物が形成されることはすでに知られており1),その主な機 構は「seed(種)モデル」と呼ばれるものである.その一つは, 表面に現れていた析出物・介在物がマスクの役割を果たし, 周辺の素地がスパッタされて突起物が形成される1416)とい う機構で,「表面欠陥モデル」と呼ばれることもある.ただ し,もとの析出物・介在物の存在密度が小さいので,突起物 形成密度も小さい.著者ら12,13)は,SUS304,SUS420J2 お よび SKD61 のような各種のステンレス鋼および工具鋼を高 い投入電力でスパッタエッチングすると,スパッタ初期に高 い空孔濃度・温度勾配のもとで粒界のみでなく粒内表面に炭 化物が析出し,これらが内部に向かってピラー状に成長し, このピラーが一種のマスクの役割をはたして高密度の円錐状 突起物の形成と成長が起こることを報告した(著者らは,こ れを「ピラー効果」と名付けた).これは,先在析出物・介 在物の助けを必要としない突起物形成機構であるので,上記 の「表面欠陥モデル」とは,やや異なる.本研究で観察した SUS316 および SKH2 の突起物は多重リング状あるいは円 柱状であり,円錐状ではないが,この突起物形状は,ピラー を起点として成長した円錐状突起物がさらにスパッタされて 崩壊過程にあることに対応すると考えられる12,13).また,材 料中の不純物原子や,プラズマから付着した汚染粒子が表面 拡散により集合してクラスタを形成し,それらのマスキング 作用により突起物が形成されるという機構も報告されてお り1721),この機構を「表面不純物モデル」と呼ぶことがあ る. 一方,不純物原子が非常に少ない純金属でも突起物が形成 され21),その一般的な特徴として,規則的あるいは結晶学

的な特徴を持つ突起物が形成されやすい,Cu, Au, Ag, Al, Pbなどスパッタ率の高い金属で形成されやすい,形成密度 は必ずしも高くない,形成が不安定で最初のスパッタで形成 された突起物は 2 度目のスパッタで消失する,などが報告 されている. ところで,前報5,13)で述べたように,EDX 分析による突 起物表面の化学成分はスパッタエッチング前の素材の成分あ るいは突起物の周りの素地の成分と異なり,SUS304 鋼では Cr の増加および Ni の減少5)が,また,SUS420J2 鋼でも Cr の増加13)が起こる.本研究で用いた SKH2 および SUS316 の突起物は非常に微細であり,突起物ごとの分析はできない が,微細突起物を含む表面(たとえば 0.8 mm×0.5 mm の領 域)の分析結果の平均値によると,SKH2 については W お よび Cr の増加が,SUS316 試料については Cr および Mo の増加および Ni の減少が生じている.一方,タフピッチ銅 およびりん青銅で形成される比較的粗大な突起物の側表面で は,素材にほとんど含まれていない Cr や Fe の不純物が 10以上検出される.したがって,プラズマ中の不純物が 表面に付着し,上記の「表面不純物モデル」により突起物の 形成が起こったことも考えられるが,Cu のスパッタ率が他 の金属に比べて高いとはいえ,このように高い濃度の不純物 が突起物表面に存在する理由およびこれらの不純物が複雑な 形状を持つ突起物の形成にどのように関与したかについての 詳細は未解明である.これらについては,さらに分析・検討 を進める予定である. 4.2 突起物による可視光線および赤外線吸収の機構 突起物のない平坦な表面を持つ材料が可視光線および赤外 線を吸収する理由は,光の持つエネルギが,可視光線の場合 には電子遷移により,赤外線の場合には格子振動遷移(共鳴) によって失われるためである22,23).一方,表面の微細突起物 によって可視光線が吸収される理由は,前報10)で述べたよ うに,突起物に照射された光が回折により曲がるとともに, 高さの高い突起物の間で繰返し反射されて閉じ込められるこ とにある.ただし,特定の寸法を持つ突起物の単なる集合体 では,突起物群がその寸法に対応する光を吸収する(スペク トルが現れる)だけで24,25),広い波長範囲にわたる吸収率は 高くない.赤外線についても,突起物の直径と高さが赤外線 の波長と同程度の寸法であれば,可視光線と同様な吸収が起 こる.本研究で得られた突起物試料では,Fig. 14 に模式的 に示すように,表面に直径が数 mm 以上(高さはその 1.5~2 倍以上)の円錐状突起物があり,それらの側表面にさらにナ ノメータ・オーダの微細な突起物が存在する.このような 「寸法・形態の多重性」を持つ突起物が高密度で存在してい ることが,可視光線,近赤外線,低波長側の赤外線に対する 高い吸収率を示す原因と思われる. 4.3 銅合金の可視光線および赤外線の吸収率に及ぼす酸化 処理の影響 Fig. 10および Fig. 11 によると,スパッタエッチングし たままの銅合金では,とくに波長 550~700 nm の可視光線 に対する吸収率が小さい.これらの試料を肉眼で見ると,突 起物集合体の黒く見える部分のすき間に赤い色が残ってい る.一方,酸化試料では全面がほぼ黒く見えるので,酸化皮 膜が 550~700 nm の可視光線をとくに大きく吸収したこと が分かる.すなわち,Fig. 10 および Fig. 11 において,酸 素酸化あるいは大気酸化により可視光線の吸収率が広い波長 範囲にわたって増加した理由は,突起物表面および突起物間

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Fig. 14 Schematic model of a group of multilevel protru-sions. The sizes are corresponding to the wave lengths of visible light and infrared ray.

の素地に,突起物の寸法・形状に大きな変化を生じない程度 の厚さの酸化皮膜が形成され,銅酸化物の電子遷移22,23)によ り可視光線が吸収されたためであり,これが突起物による閉 じ込め効果に加わって 98以上の大きな吸収率が達成され たと考えられる. 次に,Fig. 12 および Fig. 13 に示すように,大気酸化ま たは酸素酸化により,タフピッチ銅試料の赤外線吸収率はか なり広い波長範囲にわたって増加し,14~17 mm の範囲に 吸収スペクトルが現れる.このスペクトルは Cu2O の格子振 動遷移(共鳴)による吸収スペクトルに対応し,それより長い 波長領域の広範囲の吸収率の増加も CuO の多数の吸収スペ クトルの重なりに対応する26,27) ところで,Fig. 12 および Fig. 13 によると,スパッタエ ッチングしたままの突起物試料でも,波長が 10 mm を超え ると,赤外線吸収率が急速に減少するが,長波長領域の吸収 率も突起物のない試料のそれよりもなお大きい.突起物の中 で,直径が 10 mm を超えるものは少ないので(Fig. 3 および Fig. 4),少なくとも波長 15mm 以上で赤外線吸収率が大き い原因を,突起物による赤外線の閉じ込めで説明することは できない.一方,スパッタエッチングしたままの突起物試料 表面にも,真空容器から試料を取り出すとき(常温まで温度 が低下していない)あるいは試料を保管している間に形成さ れた酸化皮膜が存在するが,酸化皮膜の面積は突起物試料の 表面積に等しく,突起物のない試料のそれに比べて非常に広 い.したがって,酸化物の総体積をスパッタエッチング前の 試料の表面積で割った酸化皮膜の有効厚さは,突起物のない 平滑試料の酸化皮膜の厚さよりかなり厚い.酸素酸化および 大気酸化突起物試料でも同様であるが,表面の酸化物の厚さ はより厚く,吸収効果も大きく現れる.これらのことから, 酸素酸化および大気酸化試料の赤外線吸収曲線には,突起物 による赤外線の閉じ込めによる吸収に加えて表面の酸化皮膜 (CuO および Cu2O)による吸収が大きく現れているが,波長 が 15 mm 程度よりも長い領域では酸化皮膜による吸収効果 のみが現れていると思われる. 突起物の赤外線吸収率を増加させるもう一つの理由とし て,大気中に存在する浮遊物,ガス,水分などが,微細構造 を持つ突起物表面に多く吸着することが挙げられる.これ は,酸化処理の有無に無関係に起こる.前報11)で述べたよ うに,X 線光電子分光分析法(XPS)によると,SUS316 鋼の 突起物表面には,C-C,C-O,C=O 結合を示す高分子化合 物が検出される.この吸着層は非常に薄いが,とくに銅合金 の突起物表面は複雑な形状をしているので,上述の酸化皮膜 の有効厚さと同様,吸着層の有効厚さも平坦表面の吸着層厚 さよりもはるかに大きい.上記の高分子化合物の赤外線吸収 波長領域は,4~8 mm であるが,単結合によるそれ以上の 波長領域(指紋領域)を含めて,これらの吸着層が,突起物に よる赤外線吸収率の増加に寄与している可能性がある. なお,実用的観点から,銅合金で形成される大小の突起物 を利用して,高温物体から放射される可視光線・赤外線を効 率よく吸収する表面を作製するためには,表面の予備加工に よりあらかじめ幅が 10 mm(本研究で観察された突起物の最 大寸法)以上で,深さの深い溝を付けてからスパッタエッチ ングし,その後酸化処理を行うことが考えられる. 4.4 突起物の太陽光選択吸収体としての利用 エネルギ・環境問題の解決策の一つとしてクリーンで無限 に近い太陽光エネルギを熱として利用する意義,太陽光の集 光・受光方式,太陽熱温水器や太陽熱発電装置の構造などの 詳しい説明は省略するが2831),最終的には,太陽光を熱と して吸収し熱媒体(水,水蒸気,溶融塩など)に伝えるための 受光体の性能が,装置の効率と寿命に大きく影響する. 太陽光が放出するエネルギの約 95は,可視光線(波長が 400~700 nm)および近赤外線(700~2.5mm)を含む波長範 囲に分布していて,紫外線領域(400 nm 以下)および 4 mm 以上の赤外線の波長範囲には,それぞれ 1が分布している に過ぎない30).したがって,太陽光を熱として有効に利用 するには,2.5 mm(カットオフ波長)以下の波長の光のみを 効率よく吸収する「選択吸収材料」2831)が必要である.つま り,2.5 mm 以上の遠赤外線も吸収してしまう材料では,太 陽光を吸収して材料の温度が上がると,その材料が 2.5 mm 近辺の波長を含む赤外線を放出してしまうので,熱変換効率 が低下する.また,受光材料の温度が高くなるほど,赤外線 放射のピークが低波長側に移動するので,赤外線放射による エネルギ損失が大きくなる.このため,選択吸収材料として は,理想的には,2.5 mm 以下の波長の光を 100吸収し, その波長以上の赤外線を全く吸収しない材料が望ましいが, そのような材料は存在しない.受光体の温度は,太陽熱温水 器などに用いられる低温用(373 K 以下),太陽熱発電装置に 用いられる中温用(373~673 K)および高温用(673 K 以上) に分類されている29)が,選択吸収材料の使用限界温度は, 材料が真空封入されているかどうかにも大きく依存する.す でに開発されている選択吸収材料には,古くから利用されて いる黒色塗膜や,化成処理により得られる黒色クロム,黒色 ニッケル,黒色銅32)などのほかに,近年,さまざまな選択 吸収材料が開発されており,それらは以下の 6 つに分類さ れている28,29).(a)もともと選択吸収性を持つ材料W(単

(8)

物を赤外線の反射率が大きい銅やアルミニウムなど金属基材 の上にコーティングしたもの,(b)半導体バンドギャップ に応じ 1.0~2.5 mm の光を吸収する半導体を金属の上にコー ティングしたもの(その上に反射防止膜をコーティング), (c)多層材料3336)Al 2O3, SiO2, CeO2, ZnS などの誘電体層と

Mo, Ag, Cu, Ni などの金属層を交互に積層して吸収と反射を 制御したもの,(d)誘電体と金属の複合体陽極酸化アルミ ニウムの柱状の穴に Ni, Cr, Co, Cu, Ag などの金属を埋め込 んだもの37),誘電体に金属微粒子を均一あるいは傾斜機能 的に分散させた複合体(ナノコンポジット)38,39),分散割合の 異なるコンポジットを多層にしたもの,(e)表面の凹凸(テク スチャー)の利用細い溝をつけた表面,スパッタ膜の凹 凸40), 陽 極 酸 化41,42), 一 方 向 凝 固 組 織 , ウ イ ス カ ー の 利 用43),(f)黒体特性を持つ材料に,太陽光のみを選択透過す る膜(たとえば SnO2に F または Sb を高濃度でドーピング したもの)をコーティングする,などである. 本研究で得られた微細突起物を利用する方法は,上記(f) の分類に属し,すでに,Si の反応性スパッタエッチングに より形成した微細突起物についての研究44)や,本研究と同 じ Cu お よ び ス テ ン レ ス 鋼 , Ni, Al に つ い て の Harding, Curmi, Lakeらの研究4547)がある.Curmi および Harding45)

は,マスクを用いないで Cu のスパッタエッチングを行うと 本研究と同様な粗大な突起物が形成されるが,Ti 薄膜をマ スクとして用いると突起物が微細化して選択吸収特性が改善 されることを示し,太陽光吸収率 a=0.93,赤外線放射率 e =0.22 を得ている.また,マスクを用いてスパッタエッチ ングしたステンレス鋼(材質は不明)46)の微細突起物寸法は 本研究の SUS316 の突起物と同程度であり,選択吸収特性 も同等である.しかし,SKH2 のような微細突起物を持つ 工具鋼の選択吸収特性は調べられていない. 本研究の目的は,「選択吸収体」を具体的に開発すること ではないが,本研究で作製した微細突起物が,そのままある いは何らかの改良により,どの温度水準の選択吸収体として 利用できるかを以下に検討する.まず,本研究で作製した SUS316 および SKH2 突起物試料の選択吸収特性は,黒色 クロム28)のそれと同程度であるが,上記分類(d)の陽極酸化 アルミニウムを利用した吸収体37)や,複雑な過程で製造さ れている(c)の多層材料33,34,36)よりは劣る.SUS304 および SKH2 で形成された突起物の 2.5mm 近傍の赤外線吸収率は 大きいが,上記のように,突起物による低波長側の赤外線吸 収機構は,突起物の間に入った赤外線が閉じ込められる(反 射が起こらない)ことによるものであるから,材料の温度が 上昇しても,突起物の存在に起因する赤外線の放射は起こら ない28).上述の,Cu の突起物の実測によると46),赤外線吸 収率 0.24 の突起物表面の放射率は 0.18 である. 選択吸収材料の性能を評価する手段として,材料の太陽光 吸収率 a と赤外線放射率 e の比 a/e が用いられており,さま ざまな選択吸収材のa と e が文献 28),29)にまとめられてい る.しかし,波長の短い可視光線の持つエネルギのほうが, 赤外線の持つエネルギよりも大きいので,a/e がそのまま吸 収体の性能を定量的に表すものではない.そこで,本研究で 得られた SUS316 突起物試料の高温選択吸収材料としての 性能を評価するため,試みに,次式48)により,973 K におけ る単位面積あたりの受光エネルギ FOM(W/cm2)を計算した. FOM=60asolar- 5(e353K+e2400nm) 2 ( 1 )

ここで,asolarは太陽光の吸収率,e353Kおよびe2400nmは,そ

れぞれ 353 K(80°C)および波長 2.4mm における赤外線放射 率である.また,右辺の係数 60(W/cm2)は,太陽光集光装 置中心のエネルギ密度,係数 5(W/cm2)は 973 K における 黒体からの放射赤外線のエネルギ密度に相当する.実際にタ ワー式発電装置で用いられている高温用黒色塗料で FOM= 53.3(W/cm2)(a solar=0.964,e353K=0.862,e2400nm=0.960 と して計算されている)であり,赤外線放射率よりも耐熱性を 重視して検討されているサーメット WC-9Co で 40 W/cm2 Ni-25 黒鉛で 45 W/cm2,(NiFe)Co 2O5スピネルで 51 W/ cm2である.これに対し,本研究で作製した SUS316 鋼の 突起物試料について,asolar=0.92,e353K=0.36(赤外線放射率 の 298 K に お け る 平 均 値 0.32 を 353 K に 換 算 ) お よ び e2400nm=0.91 とすると,FOM=52.0 W/cm2となる.ただ し,上述のように,突起物試料の赤外線放射率e は吸収率 a よりも小さいが,本研究では e を実測していないので,e=a と放射率を大きく見積もって計算した.なお,SUS316 より も耐熱性は低いが,高温でも使用できると思われる SKH2 に つ い て 同 様 な 計 算 を 行 う と , FOM = 54.9 W / cm2と な る.上式右辺のとりうる最大値(理想的な選択吸収材料の値) は 60 W/cm2であるから,微細突起物を持つ SUS316 およ び SKH2 試料は,黒色塗料やサーメット類と同程度の性能 を持ち,はく離が起こらない,作製方法が容易で安価という 利点を含めて,高温あるいは中温選択吸収体の候補にはなり うると思われる.突起物により高温での選択吸収特性をさら に向上させるためには,耐熱材料について突起物のさらなる 微細化をはかる,微細突起物に赤外線を反射する別の物質を 粒子状にスパッタコーティングする(可視光線の吸収特性は 維持する),などが考えられる. また,低温で用いる太陽熱温水器受光体などの効率は,赤 外線放射率e よりも太陽光の吸収率 a に大きく影響されるの で,このような用途には,マスクを用いないでスパッタエッ チングした鋼はもちろん,銅合金も利用できる.銅合金を中 温での優れた選択吸収材料として用いるには,実用銅合金を スパッタエッチングすることが考えられる.ある種の銅合金 では,工具鋼と同様,析出物などが種(マスク)の役割をはた し,突起物が微細化する可能性がある. な お , 本 研 究 で 作 製 し た 鋼 の 突 起 物 の 強 度 は 大 き い が6,7,9),タフピッチ銅およびりん青銅の突起物は変形しやす い.しかし,実際の太陽熱温水器では,受光体はガラス板 で,また太陽熱発電装置では真空のガラスパイプなどで保護 されているので,突起物の強度が小さくても問題はない. 5. 結 論 高 速 度 鋼 SKH2 , オ ー ス テ ナ イ ト 系 ス テ ン レ ス 鋼 SUS316,タフピッチ銅およびりん青銅板状試料の表面を, アルゴンイオンを用いてスパッタエッチングし,表面に微細

(9)

な突起物を形成させた.これらの突起物を持つ試料の可視光 線および赤外線の吸収率を調べ,以下の結果を得た.  スパッタエッチングにより,試料表面に寸法が数 mm 以下の微細で高さの高い突起物が高密度で形成される.その 突起物の表面にはさらに微細な 2 次的な突起物が多数存在 する.このように,突起物は多重寸法・多重構造になってい る.  微細突起物を持つ表面の可視光線の吸収率は,SKH2 で 96以上であり,SUS316,タフピッチ銅およびりん青銅 で 92以上である.これらの試料の近赤外線の吸収率は 90程度であるが,赤外線の波長が 3mm 以上になると,吸 収率は次第に低下する.  タフピッチ銅およびりん青銅をスパッタエッチングし たのち,突起物を酸素ガスあるいは大気に曝露して表面を酸 化させると,可視光線の吸収率は 98以上に大きく増加 し,吸収率の波長依存性も少なくなる.突起物の酸化によ り,赤外線の吸収率も増加し,波長 16 mm 付近に Cu2Oに よる吸収スペクトルが現れる.  本研究で製造した微細突起物は,その寸法・形態を制 御すれば,太陽熱温水器および太陽熱発電のための選択吸収 体あるいは赤外線吸収体として利用できる可能性がある. 本研究は「平成 21 年度科学研究費補助金(基盤研究(C), 課題番号 21560729」および平成 24 年度の日本銅学会研究 助成金を受けて行った.ここに記して謝意を表します.ま た,銅合金の光吸収に関する研究を始める契機を与えていた だいた,広島県立総合技術研究所西部工業技術センターの 塚村慶子研究員に感謝します. 文 献

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Fig. 4 SEM images of protrusions observed for phosphor bronze sputteretched at 150 W for 7.2 ks
Fig. 6 Relationship between wavelength and absorbance of infrared ray for the steels sputteretched at 250 W for 7.2 ks (SKH2) or 3.6 ks(SUS316).
Fig. 12 Relationship between wavelength and absorbance of infrared ray for tough pitch copper sputteretched at 250 W for 3.6 ks and exposed to oxygen gas or air.
Fig. 13 Relationships between wavelength and absorbance of infrared rays for phosphor bronze sputteretched at 250 W for 3.6 ks and exposed to oxygen gas or air.
+2

参照

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