著者 西 敏行
発行年 1998‑09‑30
URL http://hdl.handle.net/2297/30587
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博 士 論 文
架空絶縁電線表面における 沿面放電現象に関する研究
金沢大学大学院自然科学研究科
西 敏 行
目 次
第1章 序論 …………・……… ………・・………・・
!.1 研究の背景 ・・…・…・・……・ ・ .. .. .. .. .. . 1.1.1 配電系統の雷災害 ・……… ・.. . ... . . .
1.1.2 誘導雷の発生機構 ・……… ……・………
1.1.3 絶縁電線の溶断過程 …・・…… ……・・. .. . ... .
1.2 沿面放電に関する従来の研究概要 …………・……・・…・
1.2.1沿面放電 …………・…・・… ・.. ....... ... .. ..
1.2.2 気中沿面放電 …・・… …… ・ . ... . .. . ..
1.3 本研究の目的 ……… …・………… ・ .
1.4 本論文の構成 …・…・・…….・.. . . .. . ..
1 1 1 5 8 13 13 14 18 20
第2章 架空絶縁電線表面における沿面放電路内部の電位降下 ・…・・…
2.1 緒言 ・… … ・ .. . . . .... . .. . ...
2.2 実験回路および実験方法 ・・・・・・・・・… …・・・… …………
2.2.1実験回路 ………・ . . .. .... . . .. . . . .
2.2.2 沿面放電路内部の電位降下測定 ・…・………・…・ ・・ .
2.3 実験結果および考察 …・………・…・・… ………・…・・
2.4 緒言 ・・・・・・・… . .. .. . ... .. . . . . . .
22 22 23 23 25 27 32
第3章 架空絶縁電線表面における乾燥状態での沿面放電現象 ………
3.1 緒言 ・・・・… ... . . .. . . . .. . . . . . . ...
3.2 実験回路および実験方法 …・………・・…………
3.3 実験結果および考察 ……… …・……… ……・…・.・.
3.3.1 印加電圧波高値と沿面放電進展長の関係 ・…… ……・・…
3.3.2 沿面放電の進展様相 …・・………. ・ .... .....
3.4 緒言 …・.・・. . . .. .. .. ... . .. . . . . . ..
34 34 35 35 35 37 48
第4章 架空絶縁電線表面における湿潤状態での沿面放電現象 …・・…・ 50
4.1 緒言 ・… .・. .. ..
4.2 実験回路および実験方法 4.3 実験結果および考察 …・
4.3.1沿面放電の進展長 ・…・
4.3.2 沿面放電の進展様相 … 4.4 緒言 ・…・・… . .....
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… @ 50
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… @ 51
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… @ 52
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…@ 52
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… @ 53
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… @ 56
第5章 架空絶縁電線表面の沿面放電に及ぼす電線表面電界の影響 …・・ 59 5.1 緒言 ・………・・…・・・・・・・・・・… ……・…・… ……… 59
5.2 実験回路および実験方法 ………・・……・ 60 5.3 実験結果および考察 ・……・・………・……… 64
5.3.1 印加電圧波高値と沿面放電進展長の関係 ……… …・・…・ 64 5.3.2 沿面放電の進展様相 ……・・………・・… ………・…・ 66 5.3.3 負極性沿面放電(実験1:心線に電圧印加、
先端ジャンプ型)先端における放電様相の推移 ・……・ 72 5.3.4 沿面放電進展長に及ぼす
電線一下部電極問の距離(h)の影響 ……・・ 75 5.3.5沿面放電の進展様相に及ぼす
電線一下部電極間の距離(h)の影響 ……・・ 78
5.3.6 電線表面電界と沿面放電進展長、進展様相の関係 …・・…・・ 82
5.4 実系統に対する検討 ………・……… 86
5.5 緒言 ・・… …・……・・・・・… ………・・……・・ 87
第6章 結論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… @ 90
謝辞 ………・…… …・………・………・ 94
参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・… @ 95
付録 表面電荷法と電界解析プログラムの概略 ...................・…@ 104
策1章 序論
1I1 研究の背景
1.1.1 配電系統の雷災害
近年、コンピュータの発達とともに情報産業が世界的規模で益々盛ん になり、インターネットなどにより世界中の情報が居ながら瞬時に得ら れるようになってきている。このような情報産業の進歩と並行して、電 力分野における設備の大容量、小型軽量化は今後さらに緊迫した問題と なることが予想される。このような情勢の中で、電力流通設備の末端に 位置し、需要家に直結する配電系統は、電力供給の真価が問われる重要 な部門であり、良質にして安定な電力供給の鍵を握る設備でもある。こ の設備は各家庭のように分散した需要負荷に電力を供給するものである ため、種々の供給地域の環境条件に適合した設計が行われ、供給力の確 保、並びに高信頼度性を有する技術開発が進められてきた(1〜川。しか しながら、配電系統における事故は、皆無になったわけではない。図1
−1は、配電設備における事故停電件数の推移(5)を示す。高圧配電線の 事故は、徐々に減少する傾向にある。しかし、雪害による事故件数はほ ぼ横ばいで、事故全体に占める割合は漸増傾向を示し原因別のトップで ある。図1−2は、雪害事故における物品別割合(5〕を示す。事故割合の
うち、電線事故が最も多く、柱上変圧器と避雷器の事故を加えると、全 体の8割を占めている。特に比率の高い電線事故は、溶断による断線事 故である(これについては、1.1.3節で詳述する)。
配電線における雪害事故は、直撃雷によるものと誘導雷によるものと
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1000
無
比500
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全体
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85 9091
[年度]
図1−1 配電設備における事故停電件数の推移
その他10%
開閉器11%
避雷器17%
電線37%
柱上変圧器25%
図1−2 雪害事故における物品別割合(1988〜1991年)
に大別される。直撃雷に対する雪害対策としては、避雷器、並びに架空 地線の設置が推進され、誘導雷によって発生する配電線の雷サージ現象 についても過去から幾多の研究がなされてきた(1〜8)。その結果、雷によ る配電線事故も年々減少してきたが、反面、配電線の絶縁化に伴い、雷 サージに起因して流れる続流アークによる電線溶断事故などが注目され ている(1 4)。このため、自然雷サージ現象の究明、酸化亜鉛形避雷器な
どの技術を踏まえた絶縁協調のあり方などの研究が重要視され、系統運 用方法など実用面に即した雪害対策の検討が必要となっている。
高圧架空配電線において、6.6kV用電線の絶縁設計は、雷インパルス 耐電圧規格値として、内部異常電圧を考慮し、60kVが一般に採用され ている。しかし、これは雷電圧の大きさから見れば、非常に小さな絶縁 強度である。従って、雪害の対策として、避雷器、架空地線の取り付け などにより、電線を防護するという考え方が進められてきた。それでも なお、襲雷時に発生する雪害事故は、ある程度避けられないものであり、
その際の停電範囲の縮小、早期復旧、保安対策に万全を期すことを目標 に諸対策が講じられてきた。
現在では、保安ならびに信頼性向上のため裸電線に替わって絶縁電線 が全面的に採用されている。一般に、電線の相間に供給されている商用 電圧は、雷サージによるフラッシオーバ時に短絡状態となり、その短絡 電流によって地絡時アークの持続(続流アーク)が生じる。電線が絶縁 電線の場合、そのアークが絶縁被覆の1点に固定されるので、雷による 断線比率は裸電線の約6倍も大きい。すなわち、表面せん絡に伴って発 生する続流アークの足が絶縁電線表面上の1点に集中して移動しないた め、断線に至る時間がO.1秒以下と極めて短いのが一般的である。さらに、
断線に至らなくても使用に耐えない損傷を被る場合も含めると、この時
誘導電サージ
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絶縁電線
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電柱
嚇、
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図1−3 配電線近傍への落雷
間はもっと短くなる。
以上のことから、従来の断線防止対策として裸電線で行われていた高 速度遮断による方法は、技術上不可能となった。このため、アーク断線 についての対策は、雷電圧による電線表面のせん絡防止のみに絞られる こととなり、架空絶縁電線の耐電性能の強化が必要となった。
配電系統では、送電線に比べて機器の絶縁耐力が低くとられることか ら、直撃雷に対する配電系統の保護は非常に困難である。配電線雪害の 原因は直撃雷、一反ぴ誘導雷の両者であり、各地域の雷雨日数と襲雷の強 弱、線路経過地の状況などで異なるが、強雷地域では全事故の主要割合
を占める。このうち誘導雷に起因するものが80〜95%である。従って、
線路近傍における誘導雷の解明とこれによる事故防止の研究が主眼とな る。配電線の近傍に落雷が発生した場合、図1−3に示されるように誘 導電サージ電圧が配電線に侵入する。このとき、誘導電サージ電圧によ
る絶縁電線支持点の近傍における沿面放電現象は以下のようである。
配電線の近くに落雷すると、急峻で大きな雷サージ電圧が配電線上を 伝搬する。これががいし付近に達し、がいしの絶縁耐力を越えるとがい
し表面に火花せん絡が生じる。続いてバインド線先端から沿面放電が絶 縁電線上を進展し、被覆層の弱点部に達して貫通破壊を生じ、ここにア ーク放電の足が定着して断線に至る。
雪害様相の特徴として、線路の末端や分岐点の近傍に落雷した時の誘 導雷電圧は特に大きくなる。そのため、雷被害地点は、線路形状の影響
を受け、引留柱や分岐柱とその近傍に多く見られる傾向がある(4)。特に、
機器、及びがいしの破損は引留柱に多く見られる。また、線路近傍の落 雷時には、付近に存在する複数の配電系統に被害が及び、避雷器が設置 された電柱でも被害が発生する場合のあることが特徴である。この他、
高圧ヒューズ切れの原因として、落雷時に生じる誘導雷が柱上変圧器で フラッシオーバし、同一柱における相間短絡、または近接する柱上変圧 器間で第2種接地を通した異相地絡回路の形成によって発生する場合が 大部分であることも判明している。
上記のような誘導雷による雪害様相の特徴を踏まえて、絶縁電線の断 線対策を含めた霜害防止方法を検討することは、信頼性のある電力供給 の観点から極めて重要である。
1.1.2 誘導雷の発生機構
誘導雷による雪害頻度は極めて大きいため、雪害対策を検討する上で、
誘導雷の性質やこれによる放電現象を十分把握する必要がある。誘導雷 電圧の発生原因として、以下の三つの場合が考えられる(4)。
①雷雲の電荷と大地間に形成される電界によって配電線上に電荷が拘
束される。雷放電が起こると、雷雲の電荷は消滅し、同時に電線上 の電荷も拘束を解かれる。このとき、移動する電荷によって発生す
る電圧。
②雷放電過程における先行放電段階(階段状先駆)で発生する電圧。
③雷放電過程の主放電段階(帰還雷撃)で発生する電圧。
図1−4(a)、 (b)は、上記①を模擬的に示している。誘導雷が 発生する範囲は、雷雲に覆われている電線上と大地上すべてにわたり、
次のような現象が生じる。雷雲が生じると、静電誘導によって雲底と反 対極性の正電荷が電線上と大地上に発生する(図1−4(a))。この 誘導電荷は、金属、絶縁物を間わず地上高の高いものほど多く集中し、
雲の移動とともにその方向に移動する。このとき、どこかに落雷が発生 すると、雲の電荷と地上側の誘導電荷が中和しようとする。そのとき、
図1−4(b)のように雷雲の電荷に拘束されていた電線上の誘導電荷 は、無拘束電荷となるため、電線上を伝わって流れることになる。この 進行波は雷撃点に近い所から両方に分かれて二分の一の勢力で伝搬して いき、変圧器などの機器や引き込み線から侵入し、家屋内の電気機器に
損傷を与える。
また、前記項目の②は、対地雷放電の過程における先行放電段階(階 段状先駆)で誘導雷が発生するという場合である。図1−5は大地放電 の進展過程を示す。先行放電の段階では、等価的な電荷の進展速度はそ れほど速くない。それ故、線路が短く、避雷器が全くない場合を除いて、
誘導雷電圧の発生が絶縁を脅かすことは少ないものと考えられる。
さらに、前記項目③の主放電段階で発生する誘導雷電圧が、配電線の 絶縁を脅かすものと考えられる。主放電段階とは、先行放電段階で雪道 上に蓄積された電荷が、雷雲に向かう主放電の電荷の流れ(先行放電と
①①
①①
①①雷雲①
①① 、
○○○○○○一一一○○
ウ①①①①①①)
@ 絶縁電線 電柱
①①、、ぐニボ
大地① ① ① ①
(a)雷雲による静電誘導で発生した電線上の電荷
①①
①①
① ①
①伊雷雲唱
落雷 進行波○ ①
\
○ 無拘束電荷
/
①ノ
○絶縁電線 電柱
大地 ①①
(b)落雷での電荷中和と無拘東電荷の進行波
図1−4 雷雲による拘束電荷と誘導電サージ
雷雲
落雷
/
大地
矢形 矢形
先駆 先駆
階段状 先駆
帰還 帰還 帰玉
雷撃 雷撃 雷ま
帰還 雷撃
図1−5 大地放電の進展過程
反対極性)によって中和される段階である。もし、雷雲が負極性であれ ば、今まで大地に対して上向き(正)であった電界が主放電段階におい て急激に減少し、さらに主放電電流による電磁界の変化によって配電線 路に正の誘導雷電圧が生じる。この誘導雷電圧は主放電電流の大きさや 波形、進行速度、配電線路と落雷地点との距離などによっても異なるが、
配電線路の最大破壊電圧を超過する程大きな電圧となり得る。
1.1.3 絶縁電線の溶断過程
前述したように、雷による絶縁電線の断線事故は、配電線の絶縁化に より多くなってきている(4)。この原因は、冒せん緒の発生によって、裸 線では、続流アーク点が電磁力等により移動するのに対し、絶縁電線で は、被覆があるためアーク点が固定されるからである。図1−6は、絶 縁電線のがいし支持点付近の放電現象を模擬的に示したものである。が
いし、バインド線、及び絶縁電線からなる高圧架空配電線路において、電線 の心線に誘導電サージ電圧が侵入すると、この電圧は、電線の心線と大
/
バインド線 絶縁電線
がいし誘導電サージー
(
/、 ム{
←
心線 絶縁電線 被覆
図1−6 がいし支持点付近での放電現象
地(アース)間に加わった状態で進行する。サージ電圧が、絶縁電線と がいしを組み合わせた絶縁構成部分(がいし支持点)に到達すると、そ こでは、がいしと絶縁電線の被覆によって分圧される。このとき、がい しに加わる電圧が、がいしの絶縁破壊電圧よりも大きければ、がいし貫 通破壊、またはがいし表面のフラッシオーバが発生する。この放電現象
によって、バインド線は大地と接続されアース電位となるため、全サー ジ電圧が電線の被覆部分に加わると同時に、バインド線先端の電界が強 まり、周囲の空気を電離して電線表面を沿面放電が進展する。もし、電 線の被覆にピンホールなどの弱点部が存在すると、そこで全路破壊とな
り、続流アーク(p.11の(3)項参照)により断線に至る。
図1−7(a)〜(c)は、電線溶断過程を示す。以下にその概略を
述べる。
(1)がいしの絶縁破壊
がいし\
.〆絶縁破壊
一
.∠イ地絡電流
=
絶縁電線
(a)がいしの絶縁破壊 (b)地絡電流
短絡電流・4/一 ○・ ○
、I一■一一■□・・{ 。□・・□.■
○
地絡電流
●∀
(C)電線間の短絡電流
図1−7 雷による電線溶断過程
配電線に侵入した誘導電サージ電圧が電線の支持点に到達すると、が いし表面の絶縁が破壊(がいし表面せん絡)される(図1−7(a))。せん 絡時には大きな電流が流れるが、時間が非常に短い(1μs〜1ms)ため、
電線被覆に小さな穴(ピンホール)ができても断線には至らない。
(2)地絡電流
がいし表面せん絡によって電線被覆にピンホールが生じた場合、上記
(1)のせん絡経路には、配電線の大地間電圧(約4kV)がかかるた
め地絡電流が流れる(図1−7(b))。しかし、電流値が比較的小さ い(数A)ため、断線に至ることは少ない。これは、1線地絡の状態で あり、致命的な事故の発生はまれである。
(3)電線間の短絡電流(続流アーク)
前記(1)のせん絡が2相以上(同一柱とは限らない)で同時発生(図 1−7(c))すると、 (2)で示した地絡と線間短絡とが同時に起こ る状態となるため大電流(数千A)が流れる。この電流は変電所の遮断 器で遮断するまで持続(一般に0.2〜O.3秒)する。この状態では、電線 の流入、流出口が電線被覆のピンホールに固定されるため、アーク熱に
より電線は溶断する。
実状では、架設された3相の電線(図1−7(c))に同時に同じレ ベルの誘導電サージ電圧が侵入し、3相が同時に破壊(地絡)する場合が 最も多い。また、これらの同時地絡は同一電柱上のみで生じるとは限ら ず、隣接の電柱部でも起こり得る。
図1−8は、襲雷によって架空絶縁電線が断線事故に至る過程を示す。
続流アークが持続している問、電線被覆の破壊部付近にある導体には大 きなエネルギーが注入され、この部分の導体はジュール熱による高温化 のため電線の溶断(アーク溶断)に至る。アーク電流による電線溶断ま での時間(溶断時間)を絶縁電線と裸電線の両者で比較すると、一般に 絶縁電線の方が裸電線よりも短い。この特性の違いはアークによる熱エ ネルギー集中度の相違によるものと考えられる。すなわち、裸電線の場 合、導体上のアークスポットがアーク自身の持つ電磁力によって導体上 を移動し、アークエネルギーの集中が緩和されるため、比較的長い溶断 時間となる。これに対し、絶縁電線の場合は、前述したようにアークの 足(アークスポット)が被覆の破壊点(直径1mm程度)に限られ、ア
高圧架空配電線
雷(線路周辺での落雷)誘導電サージ電圧の進行
がいしせん絡及び絶縁電線被覆層の絶縁破壊
異相同時地絡
(2相または3相)
1線地絡
相間地絡短絡
アーク持続 アーク消滅
アークスポット固定
絶縁電線溶断(断線)
図1−8 高圧架空配電線路の誘導電サージ電圧による 断線事故発生過程
一クエネルギーが1点に集中するため、導体の非常な高温化(数千℃)
を招き、短時間(0.1秒以内)で溶断する。このようなことから、配電線 の絶縁化に伴って、雷による溶断事故が頻発し、この種の事故がクロー
ズアップされている。
以上のように、襲雷から絶縁電線の断線事故に至る過程は、種々の現 象の連鎖を含むが、これらは極めて短時間で起こる現象である。このた め、従来、裸電線の配電系統で適用されてきた高速遮断による断線防止 対策をそのまま適用することが不可能となった。このような背景から、
絶縁電線のアーク溶断への対策は、雷サージ電圧によるせん絡防止に絞 られることとなった。これを検討する上で、絶縁電線の心線に誘導電サ ージ電圧が侵入したときに電線支持点で発生する沿面放電現象の特性解
明が重要となる。
襲雷時に発生する電線表面の沿面放電現象は震災害に大きく関連して いるため、この沿面放電の特性を解明することは極めて重要である。本 節では、過去に行われた気中の沿面放電に関する一般的な研究例を調査
し、本研究との対応性について述べる。
1.2.1 沿面放電
固体誘電体が二つの電極間に密着して挿入された電極系に電圧を印加 して上昇させてゆくと、多くの場合はその誘電体の境界面に沿って放電
(沿面放電)が生じ、ついにはフラッシオーバ(沿面放電が進展して導 電性の大きい放電路で電極間を橘絡した状態)が生じる。一般に、沿面
放電は、気体中の固体表面、液体中の固体表面、及び気体と液体との境 界面に生じる三つの場合に大別される。固体表面に生じる沿面放電のう
ち、その表面の変質を伴わないものがフラッシオーバであり、表面の変 質、または破壊を伴うものをトラッキングと呼んで区別している。本論 文で取り扱う絶縁電線表面における沿面放電現象は気体中の固体表面に 発生する沿面放電に対応し、本質的には気体の絶縁破壊である。液相一 気相の沿面放電(川は、がいし類の汚損フラッシオーバと関連して、電 解液面上における沿面放電の研究から検討されている。また、沿面放電 現象は、背後電極が存在する場合と存在しない場合の両者についても研
究されている。
1.2.2 気中沿面放電
従来、気中の固体表面に発生する沿面放電現象の研究には、誘電体板 上の沿面放電現象を観察し、その進展メカニズムを検討した例(14〜51)が 多い。この場合、一般に用いられる電極系は、図1−9(a)、 (b)
に示されるような構成となっている。すなわち、接地した銅板を背後電 極として配置し、その上に誘電体板を密着させて置いた後、誘電体板の 中央に針電極を垂直に立てた構成である。この場合、針の先端は誘電体 板表面に軽く接触するように置かれる。このような電極系の針電極に正 極性インパルス電圧を印加すると、針電極を中心として正極性沿面放電 が針先端から誘電体板上を放射状に進展する(図1−9(a))。また、
負極性インパルス電圧を印加すると、負極性沿面放電が同様に進展する
(図1−9(b))。これらの沿面放電は、一般に印加電圧の極性によ
正極性インパルス電圧
負極性インパルス電圧 針電極誘電体板
兜二\/イ
=一正極性 背後電極
沿面放電
(a)正極性沿面放電
= 負極性
沿面放電
(b)負極性沿面放電
図1−9 誘電体板上での沿面放電
って異なる様相を呈する。
このような放電の観測手法として、スチールカメラによる撮影から放 電進展長を観測したり、スチールカメラに暗視装置を装着し、放電の微 弱な発光の撮影を行い、放電様相を細部にわたって観測する方法(44)が ある。また、沿面放電進展後に残留している誘電体板上の電荷を利用し、
放電の電荷分布を調べる方法(川がある。この方法では、まず、イオウ と光明丹(Pb.O。)をよくかき混ぜた粉末を作る。この粉末は、混合 時の摩擦帯電によって、イオウは負極性に、光明丹は正極性にそれぞれ 帯電している。この混合粉末を沿面放電進展後の誘電体板上に振りかけ る。その後、余分な粉末を誘電体板から取り除くと、誘電体板上に残留 している電荷の正極性部分にイオウ(黄色)が、負極性部分に光明丹(赤 色)が付着する。これによって、沿面放電の電荷分布を調べることがで
きる。これは電荷図形として知られている。
誘電体が円筒状である場合の沿面放電(52〜川についても、基本的な電 極構成は前述した誘電体板上の場合と同じである。この場合、円筒内部
に、誘電体と密着して導体を挿入すれば、この導体が背後電極として作 用する。絶縁電線表面の沿面放電は、円筒誘電体表面の沿面放電に相当 するので、電線の心線が背後電極となる。このような電極構成の沿面放 電は、円筒の半径が十分小さいとき、円筒表面上をほとんど枝分かれす ることなく直線的に進展するため観測が容易である。また、放電の枝分 かれが少ないので、放電の細部を詳細に観測することも可能となる。し かし、円筒の半径が小さいことから、誘電体板上の沿面放電において観 測できるような電荷図形を明確に得ることは困難である。
これまでに行われた沿面放電に関する研究は、その基本的な特性を理 解する目的で、主に各種の誘電体板上で行われたものが多く、絶縁電線の
ような円筒誘電体表面の沿面放電を詳細に研究した例(56 58 59 71 72)
は比較的少ない。
背後電極が存在する円筒誘電体表面の沿面放電現象は、電圧を印加す る電極、及びその極性によって異なり、それらを観測するための電極構
成として、図1−10と図1−11の二通りがある。図1−10(a)
は、背後電極を接地し、円筒誘電体表面に針電極を軽く接触させ、それ に正極性インパルス電圧を印加した場合である。この場合、正極性沿面 放電が針電極先端から進展する。また、同図(b)は負極性インパルス 電圧を印加した場合であり、沿面放電の極性は負極性である。これらは いずれも、背後電極が接地されている(常にその電位は零電位である)
ため、沿面放電は背後電極の電位によって影響されることはない・
一方、図1−11(a)、 (b)は、背後電極にインパルス電圧を印
正極性インパルス電圧
正極性/沿面放電
一 円筒誘電体
負極性インパルス電圧
針電極 、 負極性
^沿面放電
/ 、=
/沿面放電
背後電極
背後電極接地
(a)正極性沿面放電 (b)負極性沿面放電
図1−10 円筒誘電体表面での沿面放電1
(背後電極接地)
= 正極性
^沿面放・
円筒誘電体
/沿面放電
負極性
インパルス電圧
\
一=一
針電極 負極性
^沿面放電
背後電極
/沿面放電
正極性
インパルス電圧 背後電極に電圧印加
/(a)正極性沿面放電 (b)負極性沿面放電
図1−11 円筒誘電体表面での沿面放電2
(背後電極に電圧印加)
加し、針電極を接地した場合であり、本研究で対象とする電線に誘導電 サージが侵入した場合に相当する。負極性インパルス電圧を印加すると、
誘電体表面には正極性沿面放電が進展する(同図(a))。また、正極
性インパルス電圧を印加すると、負極性沿面放電が進展する(同図(b))。
これらはいずれも、背後電極の電位がインパルス電圧の時間変化に伴っ て変動するため、それに対応して電線表面電界も変動する。沿面放電は その変動電界中を進展するため、放電は電線表面電界によって影響を受 ける。この場合の沿面放電は、架空絶縁電線の心線に誘導電サージ電圧 が侵入し、がいしの絶縁破壊が生じて、バインド線先端から電線表面に 沿って沿面放電が進展する場合に相当した現象となる。背後電極の電位 上昇に伴って電線表面電界が変化する場合の沿面放電現象は、これまで にほとんど研究されておらず、その特性には未解明の部分が多い。
1.3 本研究の目的
高圧配電線の雷事故は、30年前の1/3程度に減少した。しかし、全事故 に占める雷事故の割合は、平均的に30〜40%を占め、原因別トップとな っている。高度情報化社会における電力供給の信頼性向上に応えるため、
さらなる雷事故率の低減が必要である。一方、近年の電気事業には、コ ストダウンの要求がさらに強まっており、雪害対策の合理的な設計指針 の確立を目指した研究が重要視されている。さらに、配電線の雪害に関 連する器材の絶縁・サージ特性を解明し、よりよい雪害対策手法を確立 することが望まれている。これを成すためには、放電特性を基礎的な面 から明らかにすることが最も重要である。近年、電力設備の絶縁特性や サージ特性に関する研究は、高電圧の送変電系統を対象にしたものが多
く、配電機材について詳しく検討したものは非常に少ない。特に、柱上 変圧器、絶縁電線など、配電線の雪害対策にとって対象となる重要機材 についての検討は、今もって組織的になされてはいない。
配電線の最適な雪害対策として、設備形態ごとにフラッシオーバの有 無が計算機により明確化でき、同一信頼性を持つ最も低コストの設備が 選択できるようになることが求められる。このような高性能システムを 構築するためには、各機材のモデリングが正確になされ、各部で生じる 放電現象の解明とともにシミュレーションが可能でなければならない。
この第一歩として、配電線に使用される、がいし、絶縁電線、柱上変 圧器などの各種インパルス波形に対する絶縁特性を明らかにすることは 必要不可欠である。また、柱上変圧器や、コンクリート柱、接地引下げ 線等のサージ特性を明らかにすることも必要である。この成果を総合的 に適用することによって、配電線の高精度な雷応答特性解析のためのモ デル化が可能となり、よりよい配電線雷事故率予測手法の確立に接近す
ることができる。
このような観点から、絶縁電線のインパルス波形に対する絶縁特性の 解明は重要な課題の一つである。これらの研究成果は、高圧配電線の雪 害対策を厳密かつ一般的に算定する手法の確立に直結するのみならず、
架空地線や避雷素子付機器などの耐電対策を検討する上で重要な示唆を 与える。さらに、電力会社の耐雷設備の合理化とコストダウンにも貢献
できる。
本研究は、襲雷時に発生する絶縁電線表面の沿面放電現象に着目して、
様々な条件下での放電特性を詳細に測定し検討することによって、架空 配電系統の落雷時に対応できる絶縁強化対策の構築に寄与しようとする
ものである。
1.4 本論文の構成
本論文は、絶縁電線表面における沿面放電現象について研究した内容 をまとめ、6章からなる論文として構成した。
第1章は序論であり、配電線における雪害事故の現状、現在の問題点 について述べ、沿面放電に対する過去の研究を調査し、本研究の意義、
目的、並びに本論文の構成を記述した。
第2章では、電線表面を進展する沿面放電路内部に電位降下が存在す ることについて述べる。電線の心線に標準雷インパルス電圧を印加する と、バインド線先端から沿面放電が進展する(前掲図1−6参照)。従 来、放電路内部の導電率は極めて大きいと考えられ、その内部の電位降 下は考慮外として扱われてきた。しかし、放電路内部には、電位降下が 生じることを、電位プローブ法による測定から明らかにした。さらに、
放電の進展停止時に、放電先端の電位降下が急増することも明らかにし、
この電位降下が放電の進展メカニズムに重要な役割を持つことを示した。
第3章では、沿面放電の進展長特性と進展様相について述べる。心線 に印加するインパルス電圧の波高値を変化させ、放電の進展長と進展様 相を詳細に観測した。その結果、放電の極性により進展長特性、進展様 相が異なり、また、進展長と進展様相が密接に関係していることを明確 にした。さらに、放電の進展メカニズムをモデルを用いて考察し、これ によって実験結果が説明できることを示した。
第4章では、電線表面が湿潤状態にある場合の沿面放電について、そ の進展長特性と進展様相に関する実験結果を示すとともに、定性的な考 察を加えている。屋外に架設されている絶縁電線は雨などの自然条件に さらされる。そのため、雨上がりの状態を想定して、電線表面に水滴を
付着させ、湿潤状態の沿面放電現象を観測した。特に、負極性沿面放電 の進展長、進展様相が乾燥状態とは異なることを明らかにした。さらに、
これらの結果に基づいて、実際の架空絶縁電線に生じる沿面放電特性に 関する新しい知見を得た。
第5章では、心線電位によって電線表面に生じる電界強度が沿面放電 に及ぼす影響について述べる。誘導電サージが電線の心線に侵入すると、
心線の電位が変化し、それに対応して電線表面に電界が形成される。沿 面放電はこの電界の中を進展するため、電界による影響が現れる。電線 表面に電界が生じない場合と電線表面電界を増減させた場合の両者につ いて、沿面放電の進展長、進展様相を詳細に調べ比較、検討した。特に、
負極性沿面放電が電線表面電界の影響を著しく受けることを明らかにし た。また、放電が影響を受ける電線表面電界を計算によって導出した。
これに基づいて、実験から得られた結果が、実系統の架空絶縁電線に適 用可能であることを示した。
第6章は結論であり、本研究で得られた成果をまとめるとともに、今 後の研究指針について言及している。
策2章 架空絶縁電線表面における
沿面放電路内部の電位降下(60〜62)
2,1 緒 言
架空酉己電系統に落雷が生じ、絶縁電線の心線に誘導電サージ電圧が侵 入すると、電線支持点においてがいし表面にフラッシオーバが生じる。
このとき、電線表面に沿面放電が発生し、これが電線溶断や通信障害な どの災害の原因となる。震災害防止の観点から電線表面の沿面放電現象 を明確に把握し、そのメカニズムを解明することは極めて重要である。
しかし、現象そのものが複雑であり、未解明な部分が多い上、実系統で の実験も困難を極める。そこで、本研究では、模擬誘導雷を用いて実験 室内で放電現象を再現させ、沿面放電特性の解明を試みた。
本章では、沿面放電路内部に電位降下が存在すること及び放電の進展 速度を明確にしたことについて述べる。電位降下測定用のプローブは、
独自に設計、試作し、これを用いて放電路内部の電位降下を調べた。そ の結果、電位降下は、放電路内部の距離の増加とともに線形的に増加す ることがわかった。また、放電が進展を停止する時点で、放電先端のわ ずかな領域における電位降下が急激に増大し、進展速度も減少すること が判明した。これらの電位降下は、放電の進展と停止のメカニズムに重 要な役割を持つことが示唆された。
静止カメラ
銅製1∵1㌧∴カメラ
パラフィン充填
@十タ放電
100Ω 心線
I G
10kΩ 電圧測定
絶縁電線 1kΩ 電流測定
50Ω 50Ω 500pF
I.I.:イメージインテンシフアイヤ L :沿面放電進展長
図2−1 実験回路
2.2 実験回路および実験方法
2.2.1 実験回路
実験回路を図2−1に示す。インパルス電圧発生器(IG)により標準雷 インパルス電圧(±1.2/50μs)を発生させ、この電圧を電線の心線に1 回だけ印加して誘導電サージ電圧を模擬した。心線の終端は電圧波形の 反射を防ぐため、抵抗とコンデンサの直列接続によってマッチングを行 った。また、実験室の広一面に銅板を敷き、接地してアース電位に固定 した。実際の架空絶縁電線は、バインド線によりがいしに支持されてい るが、本実験では、がいしがせん給した状態を想定してがいしを実験回 路から取り除き、バインド線を放電電流観測用の抵抗(50Ω)を通して 接地した。図2−2は、バインド線付近の構成概略図を示す。沿面放電 は、通常、バインド線の両端から進展するが、観測を容易にするため、
◎岨 科
パラフィン
充填\\
心線
バインド線
20.、 20二
r一一三、
的
∴ふ電よ
銅製ホーン φ5.5
40
図2−2 バインド線付近の構成
表2−1 絶縁電線の仕様
導 体
絶 縁 物仕上が
全長公 称 構 成
外径絶縁物
主材質 比誘り外径
断面積
の厚さ 電率(m) (皿) (㎜2) (本/mm) (㎜皿) (㎜)
10.O 5 22.O 7/2.O 6.0 2.0 ホOリエチレン 2.3
片側からのみ進展させるようにした。すなわち、バインド線の片側に銅 製ホーンを取り付け、電線との間にパラフィンを充填してシールドした・
バインド線は、その先端が垂直に切断された直径5.5mmの合金線(鉛97
%、アンチモン.3%)であり、電線上部の表面に軽く接している・表2■
1は実験に使用した絶縁電線の仕様を示す。電線は6・6kV用の屋外用
ポリエチレン電線である。その全長は5mで、地上75cmの高さに架設 されている。また、沿面放電消滅後は、電線表面をアースするとともに、
アルコールで拭き残留電荷を除去した。さらに、実験室内は空調を行い、
気温約20oC、湿度約40%に保ち実験条件を統一して進展長測定データの ばらつきが最小限に抑えられるよう極力注意を払った。沿面放電の進展 長Lは、図2−!に示されるようにバインド線先端から沿面放電先端ま での長さとして定義した。Lは静止カメラによる撮影写真から求めた。
なお、電線の心線に印加したインパルス電圧の極性と、バインド線先 端から進展する沿面放電の極性は、逆になることを念頭におく必要があ
る。
2.2.2 沿面放電路内部の電位降下測定
図2−3は、電位プローブの回路図を示す。Clは直径80mmのステン レス製半球を2個対向させ、約10cmの間隔で保持された半球状空気コ ンデンサであり、その容量は約1pFに調整されている。C。は2000pF のマイカコンデンサである。Rl,R。、C。はマッチング用の抵抗とコン デンサである。また、C1に接続されている探針は直径1mmのタングス テン線から成り、沿面放電路上のバインド線先端から任意な距離Dに設
定できる。
バインド線先端から沿面放電が進展し、これが電線上に設定した探針 の位置まで到達したとき、プローブの出力には、電位の変化が現れる。
この電位出力波形と印加電圧波形の両者を対応させることによって、放 電路内部の電位降下を導出することができる。印加電圧波形とプローブ 出力波形は、ディジタルメモリに一旦記憶させ、オシロスコープで再現 して記録した。図2−4は、この方法から得られた電位波形のモデル図
バインド線 D 沿面放電
[ /
s
探針 絶縁電線
■ 一一・一P
1電位プローブ
・、:/
1 同軸ケーブル Rll
R。
C I 2 ・
R。
電位 測定
C。
Cl:約1pF. C2,C3:2000pF
R R R :75Ω1, 2, 3
図2−3 電位プローブ回路
を示す。同図(a)に示されるような標準雷インパルス電圧が、電線の 心線に印加されると、バインド線先端から沿面放電が進展する。この放 電の先端が放電発生からtp秒後に電位プローブの探針に到達すると、プ
ローブの電位は、同図(b)に示されるように沿面放電先端の電位V、ま で変化する。従って、V、を測定すれば、これが放電路の電位降下を表す。
なお、この電位プローブの人カインピーダンスは、測定対象である沿面 放電の内部インピーダンスより十分高いため、放電路内部の電位を正確 に測定できる。また、電位プローブの探針の位置Dと放電先端が探針に 到達した時刻t、より沿面放電の進展速度が求められる。
0
Vm
印加電圧波形
(a)標準雷インパルス電圧
t
O P
VP 電位プローブの
出力波形
(b)電位プローブ出力波形の電位変化
図2−4 印加電圧波形と電位プローブの出力波形(モデル図)
2.3 実験結果および考察
図2−5は放電路上のプローブ探針位置Dと電位降下の代表的な関係 を示す。印加電圧波高値は一80kVであり、沿面放電の極性は正極性で ある。各点は10回の測定の平均値を示し、そのばらつきは約±10%であ る。同図は、沿面放電路内部の電位降下が、内部距離の増加に対して線 形的に増加することを示し、電位降下率は約O.4kV/cmである。また、
沿面放電の進展停止直前になると、電位降下は急激に増大する。この領 域での平均電位降下率は約7.1kV/cmである。
沿面放電に対する従来の研究は、平板上での放電(第1章、図1−9 参照)を対象とすることが多く、このような電極系における沿面放電の
治面放電進展長 L
>
{50
>40 電位降下の急激なρ
上昇領域
←
鐘30単 鯉Q20
韓K
鯉10嵩 幅
0 10 20 30 40 50窯
バインド線先端からプローブ探針までの距離 D(c m)
図2−5 探針の位置Dと電位降下の代 表的な関係 (正極性沿面放電、印加電圧波高値:一80kV)
進展長は、通常、数Cm程度であり、放電内部では導電率が十分高いと して電位降下は無視して扱われる。また、進展長が短いため、放電内部 の電位降下を測定することも技術的に困難である。しかし、放電内部で 電位降下が生じなければ、放電の進展停止は説明不能であり、電線表面 の沿面放電のように進展長が数十Cmともなれば、その内部での電位降 下を無視して考えることはできない。今回の電位プローブによる実測に より、沿面放電内部で電位降下が存在することが明確になった。
図2−6は、沿面放電の進展距離と放電先端の対地電位(V・及ぴV・)
との関係を模式的に示したものである。同図(a)に示すように、心線 にインパルス電圧Vを印加すると絶縁被覆問に電圧V1、被覆表面と大地 との間に電圧V。(V。=V−V1)がそれぞれ分配される。バインド線は
二 バインド線
Vd
B沿面放電 絶縁電線
心線 箋1 A議11111111
V Vb
V1
V Vd 絶縁被覆 V2
大地
大地 Vd+Vb=V =
V1+V2=V
(a)沿面放電進展途中の時点
= バインド線
VL C
A 沿面放電
/
心線 .≡≡…≡≡……11111111111111111蟻111111
V V。
V1
V 絶縁被覆 絶縁電線 VL
V2
大地 大地
図2−6
VL+Vc=V 二
V1+V2=V
(b)沿面放電進展停止の時点
沿面放電の進展と対地、及び対心線電位の配分
接地されているので、A点では、絶縁被覆間にVが直接加わる。心線電 位Vの上昇とともに、バインド線先端の電界が上昇し、周囲の空気を電 離して、バインド線先端から沿面放電が進展する。放電内部は、電子と 正イオンが混在した導電率の高いプラズマ状態を形成する。しかし、プ ラズマ内部は完全導体ではないため、放電の進展方向に沿って電位降下 が生じる。そのため、進展途中のB点では、被覆層の電圧はA点のVよ り小さいV。になる。このとき、放電先端(B点)の電界もA点より弱ま り、放電先端における衝突電離が減少し、電子と正イオンの発生も減少 する。これにより、放電先端に飛び込む電子、電線表面に吸着される正 イオンの数が減少し、放電先端における電荷密度が小さくなるため、さ らに電位降下が進む。このようにして、沿面放電は、その進展とともに 内部で電位降下が生じ、放電先端の電界も減少していく。放電先端の電 界減少は、衝突電離の減少を助長し、放電先端で発生する電子と正イオ ンの数が急激に減少する。その結果、放電先端部分において、電位降下 は急増する。以上の経過を経て、V。は放電の進展とともに小さくなり、
同図(b)のように、V・=V。となったとき、放電は進展を停止する。
V、は、放電先端において電離不可能となる電位を表す。図2−5におい て、放電進展停止時の放電路内の電位降下は約50kVである。また、観 測の結果、放電は印加電圧のほぼ波高値付近で進展を停止することが判 明した。図2−5において、印加電圧波高値は一80kVであるため、V・
は、V。≒80−50:30(kV)となる。これは、後述する図3−1(第3 章)で示すように、沿面放電がバインド線先端から進展を開始する電圧
に一致する。
図2−7は、正極性沿面放電における探針の位置Dと沿面放電到達時 刻t、の代表的な関係を示す。探針の位置Dと放電が探針に到達した時刻