理科授業則の研究(2)
附属小学校 久賀谷 泉
§1 理科授業則の意義
理科授業のよしあしの決め手となる理科授業則の確立と改良改善のために,理科授業の研究会 で発表もすれば参加もするのであろう。
そこで,理科授業のよしあしのポイントとなる授業の要素というものをとりだすと,結局は,
次の6つにまとまる。これを6授業要素(計画・評 理理理科授業の6要素
価・教材・過程・技術・施設)とする。この6授業
「一①緬
A評価
@ \一 ⑥施設/
要素のどれかに,理科授業をしていて,たしかに生 ォてはたらいたと考えられることを分類・整理・保 理科授業 存し法則化して,理科授業則を確立していく立場を
③教材/ \⑤技術 とる。しかも,これは,あくまでも現時点のもので,
L_④過程_」 たえず変わるもので,いくらでも完全なものに近づ くことはできるが,完全なものはできにくいという 立場に立つ。そして,教育のシステム化をはかる。
§2 理科授業要素の研究
q)計画研究
授業についての計画は目標(教育の理想・理念・
計画研究 目的),評価・教材・過程・技術・施設についてたて
「② Tフ目標] なければならない。この具体的まとめが,学習指導 トに表現される。この作成の基準は,学習指導要領
③教材一・計画研究一⑥施設
1
④過程/\⑤技! ・教科書・自己の教育の方向観であろう。
メに計画研究においては,教育の理念・理想・目的を
いかに実現するかの目標を明確にすることが大切。
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(2)
評価研究
評価研究
(集団内評価)
①相対評価
(抽象的基準)
(個人内評価)
②絶対評価 評価研究一→⑤相互評価
(客観的基準)
③自己評価 ④教師の評価
評価は目的・ 目標がどれだけ実現したかどうか考察吟味することで, 子どもの概念の質と量・
変容の様子・変容の加速効果がどれだけ変わったかどうかみるものである。従って・単なる教育 の事後処理的立場にならないようにする。そして,評価と評定をはっきり区別する。
(3)評価・教材・過程・技術・施設研究について
評価・教材・過程・技術・施設の条件 目標の明確化が大切
○よくわかり,よくおぼえられ,いつでも生かしてつかえる。
O評価・教材・過程・技術・施設は,探究の過程を通して,科学の方法と科学の概念を得られ るものであること。
○評価・教材・過程・技術・施設は,科学的関係・定性定量・統一のみ方・考え方を得させる ことができること。。
そして,これらの改善原則としては次のことが考えられよう。
改 善 原 則
① いらないものをはぶく
②
↑組み合せを考える
改善原則 ④入れかえをする
③協力する
そこで,次に,具体的授業事実から,理科授業則として生きて働らいているものを述べてみた
いo
§3 授業の実際と理科授業則
第6学年3組 理科学習指導案 (197砿9.29)
指導者 久賀谷 泉 単 元 水溶液の性質
O違う種類の水溶液を混ぜ合わせたり,水溶液に金属を入れたりしたときに起こる変化 を理解させる。
指導の計画 第1次 水溶液の混ぜ合わせ………5時間
(11時間) 第2次 金属と水溶液一……・…・・…4時間(本時は第1時)
第3次 まとめ……・……・……・……2時間
関 連 隣接学年 5年「水溶液の性質」 中学3年「物質と電気」
学年内 6年「金属とさび」「もののもえ方」
本時の指導
(1)目 標 0塩酸に亜鉛を入れると,水素が出ることを理解させる。
○亜鉛は塩酸に溶けることを理解させる。
○水素の発生のようすを正しく観察できるようにする。
②準備資料塩酸,トタン板,試験管,試験管立,石灰石,二酸化マンガン,過酸化水素水,亜鉛,
マッチ,せんこうなど。
(3)展 開
ね ら い 学 習 内 容 と 活 動 留 意 事 項
OHClにZnを 1.HClにZnを入れると,どんなこと ・さびないトタンはZnを見てい 入れるとH、がで がみられるか調べる。 るわけで,日常トタンとしてみ ることがわかる。 ・どんなことがみられるか。 ているZnを金属の代表として
・予想する。
とり出し,水溶液としてはHC 1
・HClにZnを入れる。 をえらび,この関係を調べさせ
OZnはHClに 。あわがH2であることがわかる。
る。溶けることがわ 2.ZnはHClに溶けることを調べる。 ・CO2と02でないことから,H2
かる。
・ZnはHC1に溶けるか。 であることを知らせる。
・予想する。
・1ではZnをやや多め(5粒),
・HC1に少量のZnを入れる。 2の実験では小さいZn1粒を O正しい観察がで ・Znのかたちがみえなくなることなど 入れ,すぐとけるようにする。
きるようにする。 からHC1に溶けることがわかる。 ・H2の発生のようすをできるだ
3,本時のまとめと次時について知る。 けくわしく観察もさせる。
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(1)課題設定・問題把握について
子どもが,問題rHCIにZnを入れるとどんなことがみられるか」ということを解決しようと するため,教師の課題設定条件として,次のような発問と提示をする。まず,新しいトタン板を 提示し,観察させ,
「これは何ですか。」
と発問する。子どもたちは,
「ブリキです。」
と答える。トタンという子が少い。そこで,教師が,
「これはトタン板というのですが,みたことがありますか。」
と発問すると,
「あります。やねとかへいに使われています。」
そこで教師が,
「このトタン板は,何という金属をみていますか。」
と発問すると,困った顔をする。やがて,数人の子が手をあげる。
「Snです。」
と答える。教師が,
「これはZnという金属をみているのです。これは,鉄板にZnをメッキしたものです。」
と教え,そして,
「このZnを,このHClに入れたとしたら,どんなことがみられるか。」
というように課題を与える。子どもたちは,「さて,どんなことがみられるか」という問題解決の 意欲をもつ。ここで,教師は,先行経験をもとにし,事実から判断・推理し,行動化し,創造活 動をうながすものとしたい。そして,課題設定の条件としては,次のことをおさえたい。
①
②むずかしくもやさしくもない一一一課 題一→④事実の観察実験等から
③子どもの生活・先行経験から
(2)
予想・実証・答え(結論)等について 問 題
OHClにZnを入れたらどんなことがみられるか。
について,子どもたちは,「H2がみられる」と答える子が多い。また,「あわがみられる」とも答 える。そこで,教師が,「では,あわとかH2とかどんなことからそう予想したのか」と発問する。
〆
生活の中や・本とか教科書等の読書からも得て答えている。ここで,教師が,rH,は気体でしょ う。気体としてのH2はみえるの?」
と発問する。
「あっ,そうか,やっぱりあわがみられます。」
と予想は,「あわがみられる」ということにまとまる。そこであわであるかどうか,Znを入れてみ る。やっぱりあわがみられる。
ここで,操作的定義として,
OHClにZnを入れるとあわがみられる(でる)。
ことがわかる。そして,観察事実として「あわがでる」と解釈してよいわけであるが,「水溶液の 中で,あわという現象が観察できるなら,この物質は気体である。もし,気体であるなら,今ま で学習した中にも02もあればCO2もあるはず。だとすれば,この気体は何という物質の気体だろ
うかと,推論し,データの解釈をする能力を育てる必要があろう。そこで,
Oもし,02であれば,せんこうなどはげしくもえるはず。
○もし,CO2であるなら,石灰水を白くにごらせるはず。
という仮説のもとに実験し,02でもCO2でもないことがわかる。ここをとらえて,科学の概念
として,
OHClにZnを入れたときにみられる「あわ」は,H2である。
ことを教えるのであるが,02とかCO2という物質にも特性として,「02の中ではげしくもえる」
「CO2の石灰水を白くにごらせる」ということなどがあったように, H2にもあることを知らせ,
「H2はこのようにポンという音をたてもえる」ことをモデルとしてとらえさせる。そして,他の 物質から分類できるよう指導する。
以上のような授業の実際の背景となっているのは,次のようなことであろう。
科学の方法と概念の習得法
○科学の方法の習得と,科学の概念は,相互に助け合い強化し合うものである。
ここで,大切なことは,「科学の方法」の研究と同時に,基本的な「科学の概念」として理解さ
せるものは何かを明確にすることである。しかも,「科学の方法」と「科学の概念」を組み合わせ
て教えるには,「探究する」「調べる」という過程を吟味することであり,子どもの主体牲を問題と
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しなくてはならない。子どもの「考え」と「エネルギー」をどこへもっていくか。この「子ども の考えとエネルギー」が,人間の正義・権利の方向へもっていく努力をさせるようにしなくては ならないであろう。
そうすると,背景となることとしては,次のことがいえよう。
○探究の過程を通して,科学の方法と科学の概念を得る。(理科の目的)
O子どもの主体性が尊重され,人間の正義へ考えとエネルギーがむけられる。(教育の理念)
(3)科学の方法について 問 題
OZnはHClに溶けるか。
HCIにZnを入れると, H、がでることがわかった。ということは,「水溶液に金属を入れたとき 気体がでるモデル」として,HC1とZnを認知したことになる。そこで,この子らに・さらに・
目にはっきりみえたあわとしての気体にだけとらわれることなく,さらに,現象そのものとして はHClには変化がないようにみえても, HClの水溶液には, Znがみえなくなり,形がなくなっ てきているが,食塩が水に溶けたように,溶けこんだかどうか,時間空間に関連づけ推論し・
問題を把握させる必要がある。そこで,「Znは, HC1に溶けるか」という課題設定をしたわけで
ある。
すると,子どもたちは,この問題解決に意欲をもやす。
予
OZnはHClに溶けると思う。
と問題rZnはHCIに溶けるか」について予想する。どんなことから,そう推論するのかと質問
すると,Znの形がみえなくなってきたこと, Znが小さくなったことの観察から・ZnはHCIに 溶けると思うのだという。
そこで,教師が,
「食塩のときは,たしかに形がみえなくなったことから溶けたといった。しかし,この場合は・
H,という気体がでているよ。もしかしたら,ZnがH2にかわってしまって・外に出たかも知れ
ないよ。」
というと,子どもたちは,
「Znという物質がH2という物質に変わるはずがない。」
という物質不滅の法則的考えをしてくる。そこで,教師が,「なるほど,その考えは正しいとして
も,形ばかりでなく,HC1にZnがとけているとしたら,こういう事実から,確かに溶けている
という方法はないか」と発問する。と,子どもたちは,食塩のときの先行経験をもとに・
「食塩のときは・熱してみると,水だけ蒸発して,あとに食塩だけ残った。もし,ZnがHC1に 溶けているなら・熱して蒸発させると,Znらしいものが残っているはずです。」
「とにかく・HCIだけ熱したときはあとに何も残らないのだから, Z・備1ナているとす楓 Znらしいものが残るはずです。」
と答える。そこで,「なるほど」とうなずき,5年生で㌧HC1を熱したように, HC丑の中にZnを 入れた水溶液をスライドガラスの上に一滴とり,Znらしいものが残るかどうか調べさせる。食 塩水や塩酸をスライドガラスの上に一滴たらして,加熱したときのように,、HC 1にZnを入れた 液を一滴たらして加熱したときも残る。
そこで,子どもたちは,次の事実から,
ZnはHC1に溶けるという事実
OHCIにZnを入れておくと, Znの形が小さくなり,やがて, Znを入れない前のHC1の ようになってしまう事実。
O食塩水のときのように,HCIにZnを入れた液は,加熱すると,あとにZnらしいもの が残るという事実。
OHCIにZnを入れておくと,すきとおってしまう事実。
データの解釈をして,ZnはHCIに溶けることがわかる。
答え(結論)一科学の概念 OZnはHClに溶ける。
っまり,この答えとしての「ZnはHC1に溶ける」という科学の概念は,次のような探究の過程
(問題解決溌見学習)を経て,結果として習得した知識である。科学の方法が充分育てられながら,
しかも一貫した①「問題をもつ」一一→②「予想をたてる」一→③「実証する」一→④「答えを出 す」という探究の過程を経ていて,答えとして得られるものは,科学の概念が得られる立場をとる。
次にこの科学の方法と科学の概念と探究の過程の関係を表示してみる。
探究の過程と科学の方法・概念の関係
探究の過程 科学の方法 科学の概念
①問題をもつ。(問題)
↓②予想する。 (構想) 科学の概念を先行経験と
↓③実証する。 (考察)
科学の方法を習得する。
して使う。
一…ォ一…一……一…一…一一…一……一 一冒雪
層一一冒9 一一曹一ロ}一一圏9一冒響゜一幽一A一一畠゜一゜ ,響一■一辱一}騨o騨響.,層ロー一帰b■一一一ロ冒.一■一■o._畠・曽o,ロー
④答えをだす。(吟味)
}新しい科学の概念を得る・
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科学の概念については,学年ごと内容が決まっていて,比較的目標がとらえやすい。しかし,
科学の方法については,目標の具体化は決めにくい。
科学の概念については,問題解決の結果でる答えとしてのものを,新しい科学の概念とし・問 題を解く過程でぽ先行経験としてたくみに今まで学んだ科学の概念をっかう。そして,この学んだ科 学の概念を利用することを通して,わかった知識のお・ぼえているものを思い出させ・いつでも生 かすことのできる能力をつけているわけである。
科学の方法としては,・今のところ小学校でも,はっきりした系統はできていないので・いつで も先行経験としてつかう立場と,新しく教えるか,定性化と定量化への立場をとっている。そし て,科学の方法としては,昭和45年5月文部省発行の中学校指導書(理科)から次のようにとら えることができよう。
科 字 の 方 法
、、①観 察 ⑬実 験
癖響 ⑦推〆論\⑧_望卸
(4)科学の概念について この単位時間の科学の概念
OHClにZnを入れるとH2ができる。
OHClにZnは溶ける。
この時間では新しく何という科学の概念を理解させるのか,はっきりさせることが大切である。
このことをはっきりさせ,しかも,子どもの探究心の実態把握から課題設定をする。そして・課 題から,子どもが主体的に問題把握するように条件設定をする。この課題から問題の把握までの 過程を大切にしたい。
この問題は解決しないと「しかられるから」というような欲求不満的ものでなく,どうしても 解決したいという価値志向性の高い問題把握となるようにしたい。このためには,観察゜予測 推論等々の科学の方法をたくみにつかって,質の高い問題把握とする工夫をしていきたい。
そして,科学の概念は,子どもがことばとして,はっきり表現でき,次の新しい科学の概念を
得るとき利用できるようにしておきたい。この利用のためには科学の方法とだき合わせて理解し
ておくことが大切であることも納得できるような授業としたいものである。こうすることによっ
て,探究し調べる能力も育てることができよう。
(5)
探究の過程について
● ①問題 ●HCIにZnを入れるとどんなことがみられるか。 (問題)
●ま
順
と ↓ 序
ま
性
り ②予想 ●あわがみられると思う。 (構想)1 ↓
@③実証 ●HCIにZnを入れる。 (考察)
曾とまり1
↓ か
④答え ●あわがでる。推論・データの解釈・実験からH,がでること
らま
↓ がわかる。 (吟味)
とまり
多多揚 i多孝
艮…ご
①問題 ●HCIにZnは溶けるか。 (問題)
@ ↓
A予想 ●溶けると思う。 (構想)
@ ↓
③実証 ●HCIにZnを入れZnがみえなくなった液体を加熱し, Znらしいもの
↓ を観察する。 (考察)
④答え ●HCIにZnは溶けることカこわかる。
↓ (吟味)
●まと
多髪i笏性 勿多多髪
まり
3この単位時間では上図のように,「まとまり1」「まとまり2」という2っの「まとまり」にし,
1と2のように「順序性」をとり,「関連性」は前述のようにとった。つまり,探究の過程が子ど もの主体性と教師の指導性の接点としていくように,単位時間の「まとまり・順序性・関連性・
方向性」を考えたわけである。
(注)